翔子と紀柳のパラレルワールド日記(?編)

『ここはなんだ?』

「なんだ、別に普通の町並みだなあ。ま、町の人の中に知ってる人はいないけど。」
「・・・同じように見えるが、やはり違う世界だということだな。」
今、あたし達2人は人通りの多い町中を歩いている。もちろん目的地なんてないけど、
一応いろいろ見て回るのがこの世界に来た理由だから。だけど・・・、
「なんだよー、何がちがうってんだよー。別にあたし達の近所と違うとこなんてないじゃんか!
あーあ、もうかえろっかなー。」
「翔子殿、ここに来てまだ3時間と経ってないぞ。もう少し見て回らなくてはここに来た意味がない。」
「へいへい。でもさー、普通だったら何らしかのイベントがすぐに起こるようにされてるもんだぜ。
いくら見て回るったってなあ。
風景や人が違いますってのは、旅行なんかでも当たり前だし・・・。」
そう、この世界に来て2時間ほど経ったかなあ。ひたすら歩いてるばっかりなんだ。
何かその世界特有の出来事を思わせるものなんて見つかっちゃいない。
あたしは歩くために来たわけじゃないのに・・・。
「やっぱもういやだー!あたしはもう帰るからな!」
「翔子殿、それではただ歩くためだけにここに来たと言うことになるぞ。
せめて何か試練の材料になるようなものを見つけてから・・・」
「あたしは退屈なのは我慢できないの!!試練ならまた今度、別の世界で探してくれよ!!」
扉の選択ミスだ。あたしはおもいっきり後悔していた。
選んだ扉にかかれていた文字はもすごくかすれてて、EとCOLORを読むことが精一杯だった。
珍しく英語で書かれていたから、きっと面白いことがあると思って行ったのに。
2時間もあるいてて結局何もないなんて・・・。
「さ、帰るぞキリュウ。一緒に念じて。」
「う、うむ・・・。」
きのりしないキリュウを説得し、帰ろうと念じかけた瞬間、
『ドンッ!!!』
いきなり誰かがぶつかってきた。
不意の攻撃にあたしはこけそうになったが、キリュウが素早く支えてくれた。
「危ない危ない、サンキューな、キリュウ。」
キリュウに一言礼を言うと、あたしはぶつかってきたやつのほうを素早く振り向いた。
見ると、小学生ぐらいの5人組が走って行く。
「こらー!!人にぶつかったんならちゃんと謝って・・・」
怒鳴りつけようとしたあたしはびっくりした。5人のうちの一人がただならぬかっこうをしている。
近頃の流行の戦隊ものの衣装なのか?全身真っ赤と言う点で目立っていたが、なんともダサい。
いったい誰のセンスなんだ?ありゃ。でも・・・。
「キリュウ、追いかけるぞ!」
「しかし翔子殿、今さっき帰ると・・・。」
「気が変わったんだよ!あんな面白そうなのをほうっておくなんてもったいないぜ!何かあるぞこりゃ。」
言うなりキリュウを引っ張って、5人組を走って追いかけ出した。
直感てやつかな。あいつらを追いかけると絶対なんかある!
やっぱ扉の選択は間違っていなかったようだ。

5人組はどんどん人気のない場所へと走って行く。ま、あの目立つかっこうじゃな。
しっかし走る速さが普通じゃない。さすがのあたしも疲れが出てきた。
「ちくしょー、運動に自信のあるあたしが、小学生に、お、追いつけない、なんて。
・・・無駄に、歩いてた、せい、だーー・・。」
5人組がどんどん遠くなる。このままじゃ見失っちまう。と、そのとき、
「翔子殿!」
突然キリュウがあたしの手を引っ張ってストップをかける。
「なんだよー、見失っちゃうじゃ・・・」
振り向くと、キリュウは大きくなった短天扇仁乗っていた。
「走っていたのでは追いつかん。空から追いかけよう。」
「だ、大丈夫かよ。誰かに見られでもしたら・・・。」
「心配無用だ。人影などとっくになくなっている。」
周りを見ると、家もほとんど見当たらない、山のふもとのあたりにいるのがわかった。
いつの間にこんなへんぴなところへ来たんだろう?
「なるほど、これなら大丈夫そうだな。でもあんまり高く飛ぶなよ。」
そう言って、あたしも短天扇の上に飛び乗った。
「心得た。では行くぞ!」
低空飛行で、すべるように移動する短天扇。まったくシャオといいルーアン先生といい、
空飛ぶ乗り物ってのは精霊の必需品みたいだな。一度は見失った5人組をほどなくして発見した。
「まだ走ってんなあ。あいつら一体どこまでいくつもりだ?」
「この先は山か・・・。翔子殿、しばらくしたら地上に降りよう。」
「えー、もう少し乗っていたいな。」
「山の上を飛ぶと誰かに見られる可能性が高い。残念だがここまでだ。」
「ちぇっ、しょうがないな。」
山のふもとであたし達は地上に降りた。目の前には深い林が見える。
「あの5人組はとっくに林の奥に行っちゃったみたいだな。なるほど、いつもここに来てるんだ。
あいつらが使ってる道なんてわかんないし、さて、これからどう追いかけるようか?キリュウ。」
「静かに・・・。」
見るとキリュウが地面に広げた短天扇と手をあてて目をつぶっている。なにやってんだろう。
「・・・ふむ、動きが止まったようだな。それでは・・・。」
キリュウが目を開けた。何をするつもりだ?
「大地の樹々よ、地の精霊たる我に力を!」
すると遠くに大きな1本の木が生えた!いや、木が大きくなったのか?
「翔子殿、森の樹々達が教えてくれた。あの5人組はあそこの大きな木のそばに・・・」
「ちょっとキリュウ!だからそういう目立つことしちゃだめなんだって!
・・・はあ、まあやっちゃったもんはしょうがない。
あの木のそばにいこうか。」
「・・・・」
キリュウは無言のままうつむいてしまった。
「あ、あんまり落ち込むなよな、一応キリュウのおかげで分かったんだしさ。
・・・ごめん、ちょっときつく言い過ぎたな。」
「・・・いや、私がうかつだったのがいけないのだ。これからは気をつける。すまんな翔子殿。」
「よし、それじゃ行こうか。」
気をとりなおして巨大化した木のもとへ走って行く。
しかしひどい道だ。獣道ってのはこういう道のことを言うんだろうな、きっと。
「翔子殿、そろそろゆっくり近づいて様子を見よう。いきなり姿を見せるのはまずい。」
「ああ、そうだな。」
いつのまにか林の出口の近くまで来ていたようだ。
しばらく先に広場のようなもの、そして巨大な木が見える。
なるほど、ここなら誰にも見つからないな。
ゆっくりと広場に近づいて行くと、5人組の姿をとらえることができた。
予想通り、いきなり巨大化した木に驚いているようだ・・と思ったら、何か様子が変だ。
真剣な目つきであたりを見回し、何かを探しているようだ。
それによく見てみると、5人とも戦隊ものの衣装を着ている。
それぞれ、赤、青、白、黒、黄の5色だ。なんなんだ、一体?
「・・・なるほど、五行則の色か。」
「五行則?」
キリュウの納得したようなつぶやきにあたしはすぐさま聞き返した。
「そうだ、翔子殿。中国には五行思想というものがあってな、4つの方向と、中央の色。すなわち
赤は南方の朱雀、青は東方の青龍、白は西方の白虎、黒は北方の玄武、
黄は中央の黄龍を表しているわけだ。」
「へえー、なるほどねえ。でもなんだってそんなご大層なもんをあいつらが?」
「さあな、とにかく翔子殿のにらんだとおり、あの5人には何かありそうだな。
ま、しばらく様子を見てみよう。」
「でもなあ、ただ見てるだけってのもなあ・・・。」
「翔子殿、さっきのこともあるから私が言える立場ではないが、慎重に行動したほうが良いぞ。
もしあの5人が、五行なんかの力を持っているなら、私などではとうてい勝てん。」
「・・・それって、敵だったらかなりやばいってこと?
あちゃ−、こりゃ事件に巻き込まれないうちに帰ったほうがいいかもなあ・・・。」
難しそうな表情を見せるキリュウにあたしが悩んでいると、
「翔子殿、やはり帰ろう。せっかくここまで来たが、ただの気楽な旅で終わるような気がしない。
『君子あやうきに近寄らず』というしな。」
「それもそうか。大怪我でもしたらつまんないもんな。よし、帰ろう。」
2人の意見が合った。これでもとの世界に帰れるはずなんだけど・・・。
「・・・だめだ、帰れない。ひょっとしてもう何かの事件に巻き込まれてるってこと?」
「うーむ、やはり木を大きくしたのがいけなかったのか。申し訳ない翔子殿。」
「ま、しょうがないよ。過ぎたことを言っても始まらないからさ、これからどうするか考えようぜ。
一応、もし何かあったらそんときは頼りにしてるな、キリュウ。」
「うむ、あまり役には立てないかもしれぬが、努力はしてみる。翔子殿を守らなければな。」
とりあえずどうすればいいか考えなければならないな。いきなり話し掛けるのも変だし、
何よりもかっこうのわりにそんなすごい力を持っているとなったら、うかつに近づくわけにはいかない。
かといって戻ってしまうと、こいつらを今度いつ見つけられるのか分からなくなってしまう。
戻れないのは、こいつらが関係しているとみて間違いなさそうだし・・・。
「うーん、どうすりゃいいのかなあ。」
頭の中が行き詰まってきた。
(あーもう、やっぱり扉の選択ミスか。そう言えば、COLORってのはこの色のことだったのか。
ん?Eってアルファベットの5番目だよな。なるほど、五行則ってのは当たりだな、やっぱ。)
別のことが頭の中で動いてゆく。だめだこりゃ。
深く考え込んでいると、キリュウがいきなりあたしの服をつかんで引っ張った。
「な、なんだ!?」
「翔子殿!見つかったようだ、逃げるぞ!」
そう言ってキリュウが林の奥へ行こうとしたその瞬間、
「フレアボム!」
訳の分からない呪文のような言葉とともに辺りが爆発した。
間一髪であたしはキリュウを逆方向へと引っ張り、広場へと転がり込んだ。
けむりがもうもうとたちこめている。なるほど、やばいなこりゃ。
「キリュウ、しっかりしろって。はやくにげるぞ!」
「・・・う・・・う・ん・・」
頭を強く打ったのだろうか、意識がはっきりしていないみたいだ。
「しかたない。」
キリュウを背負って走り出そうとしたそのとき、
「動くな!」
いつのまにか、前に3人回り込んでいる。黄色と白と黒のやつだ。
黄色のやつは5人の中で一番体格がいい。対術派っぽいな。
白のやつは少しキザったらしい顔をしている。小技とかもってそうなやつだ。
黒のやつは一番小さかったが、頭はよさそうだ。知将タイプだな。
とりあえず戦力分析をしていると、黄色のやつが口を開いた。
「おい、あんた一体なにもんだ?」
次に白のやつが口を開く。
「結構なねーちゃんに上手く化けてるな。しかし俺達は油断しないぜ。」
そして黒のやつが口を開く。
「おとなしくして下さい。敵対するような行動をとった場合には、
こちらにもそれなりの考えがありますからね。」
・・・なんかますますやばそうだな。完全に警戒されてるよ。
無言のまま突っ立っていると、後ろから新たな声がした。
「そのねーちゃん達は宇宙人じゃねー。普通の地球人だ。」
振り返ると青色のやつが妙なゴーグルをつけてこちらを見ている。隣に赤いやつもいる。
さっきの爆発はあの赤の仕業だな。にしても宇宙人?わけわかんねーな。
「・・・う・ん、翔子殿、ここは?」
キリュウがようやく話し掛ける。なんだ気絶してたのか。ま、無理もないか、あの状況じゃ。
キリュウを背中からおろして突っ立っていると、青色のやつが話し掛けてきた。
「おねーさん達だれなんだい?なんで俺達のあとを追っかけてきたのさ。
そりゃぶつかって謝らなかったのは悪かったけどさ。」
一番しっかりしてそうなやつだ。リーダーはこいつに違いない。
「いやー、その赤いやつの衣装が気になったもんだからさ。
ってあんた達、あたし達を殺そうとしてたわけじゃないんだよね・・・。」
すると青のやつがきょとんとして言った。
「殺すぅー?なんでまた。あっそうか、てめー赤の戦士!
おめーがあんな手加減なしの攻撃をぶっ放すからいけねーんだ!!」
言うなり青のやつは赤の戦士とやらをけり始めた。いつのまにか黄のやつもそれに加わっている。
「うわーやめてくれってー。」
情けない声で赤のやつが叫ぶ。なんだ?なんか思ってたのと少し状況が違うような・・・。
黒のやつが話し掛けてきた。
「驚かせてすみません。てっきり僕らを追っかけてきた宇宙人かと思ったもんで。」
「傷を治すから怪我したところ見せてみてよ。」
わけもわからず、あたしとキリュウは白のやつに傷を見せた。
すると、それをあっという間に治してくれた。
「あ、あのさ、あの赤いやつは大丈夫なの?」
「ああ、いつものことだから。」
「それよりあの大きくなった木はあなた方の仕業なのですか?
とても地球人にできるようなこととは思えないのですが・・・。」
「うーん、とりあえず細かい事情をあんたらに話すよ。別にいいよな?キリュウ。」
「うむ、敵というわけではなさそうだし、大丈夫だろう。」
それを聞いた白と黒のやつが、赤をぼこぼこにしている青と黄を止めに行く。
赤のやつは予想通り怪我したみたいだけど、それを治すようなことはしない。
なんだこいつら、仲でも悪いのかなあ。
「ねーちゃん達ゴメン、しばらくそこで待ってて。」
青のやつがそう叫ぶと、5人は林の奥へと姿を消しに行った。それを見てキリュウがつぶやく。
「ひょっとすると油断させてそのスキにということか?」
「あのさあ、さっき自分で大丈夫だろうとか言っといて、それは無いんじゃないの?」
「軽い冗談だ。」
「・・・それ笑えないよ。」
「す、すまぬ。まあ心配はいらない。
あの少年達に邪悪な念は感じられなかった。信用して大丈夫だろう。」
「・・・それは冗談じゃないな?」
「そうだ。シャオ殿やルーアン殿と同じように、私も清い心の持ち主によって呼び出される。
邪悪な人間はよく見れば分かるからな。」
「そっか、そういえばそうだったよな。
それじゃそこらへんにでも座って、安心して待つことにしようぜ。」
人が座れそうな折れて横たわっている木の上に、キリュウと並んで座る。
10分ぐらい経ったろうか。ようやく5人が姿を見せた。
見ると普段着に戻っている。まさか着替えたのか?
「ゴメンよー、待たせちゃって。」
「あのさあ、別に着替えなくてもよかったのに。
わざわざ着替えたってことは相当恥ずかしいのか?それ。」
「いや、そういうわけじゃなくて、・・」
すると、答え始めたリーダーっぽいやつを無視してめがねのやつ
(確か赤のやつだったな)が走ってきた。
「恥ずかしいもんか!カラーレンジャーは強いしカッコいいんだからな!」
いきなりあたしにすごい剣幕で迫ってくる。
「わ、わかったからそう興奮するなって。・・・か、カラーレンジャー?」
するとリーダーらしいやつが。
「そのとーり。頭のおかしな宇宙人にさらわれて、
こんな変なものをつけられたってわけ。」
そう言って腕にはまっているリングを見せた。なんかなげやりっぽいな。
それにしてもさっきから宇宙人ていってるけど・・・。
とりあえず詳しい話をゆっくりと聞くことにした。

一通り話を聞いてみたのだが、なんとも不思議な内容だった。
その5人はある宇宙人にさらわれ、そいつからヒーローへ変身できるおもちゃをつけられる。
変身すると、宇宙人の正体を見破ったり、色によっていろんな力を使えるようだ。
また、そのひとさらいによって、宇宙人である先生と戦わされそうになったり、
そいつが作った、RPGの世界へととばされたり、ろくな目にはあっていないようだ。
一応そのスーツの力で、悪い宇宙人から良い宇宙人を助け出したりと、それなりにがんばっている。
気になる部分をもう一度聞き返してみた。
「そのひとさらいの宇宙人てなにものなんだ?」
「宇宙一頭のいい、他人を苦しませるのが趣味ないやなやつだよ。
あれ以来見かけてないからいいようなものの。」
「何であんた達5人が選ばれたのさ?」
「さっきも言ったけど、たまたま先生が宇宙人だったかららしいぜ。
しかもたいくつしのぎっていうからたまんないよ。」
「・・・それにしてもすげー深刻そうだな。運が悪いっつーかついてないっつーか。」
「ふむ。ま、それもそなたたちに与えられた試練だろう。頑張って耐えられよ。」
「・・・あの、さっきから気になってたんですけど、そっちのおねーさんて一体何歳なんですか?
随分しゃべり方が古いんですけど。」
「そうそう、俺も気になってたんだ。」
「試練だ、自分達で考えられよ。」
「・・・・・・」
めがねのやつと、きざなやつの問いをあっさりはねかえしたキリュウに5人は黙り込む。
「あのさ、キリュウ。もうちょっと別の話しかたってもんが・・・。」
慌ててキリュウをさとす。ホントいっつもクールなんだから。
「そういや自己紹介まだだったよね。俺の名前は・・・」
「待った、別にいいよ、あんたらの名前なんて。赤、青、黄色、白、黒、の戦士でいいだろ。」
「それもそうだな、そのほうが分かり易い。」
「あのねえ・・・、まあ別にそれでもいいけどさ。あ、一応赤の戦士がリーダーだから。」
一応納得したみたいだ。そうだよな、別に名前なんて・・・、
「何ー!?その眼鏡をかけた赤がリーダーだってー!?」
思わずすっとんきょうな声をあげてしまった。まさかあんな情けなさそうなやつがリーダーとは・・・。
「ああそうとも!僕がリーダーさ!何しろ僕は・・・」
「うるせーな!リーダーは少し黙ってろよ!」
隣の黄色ににらまれて、赤が小さくなる。リーダーねえ・・・。
「でもさ、一応あたし達の名前は言っとくぜ、呼ぶときに困るしな。あたしは山野辺翔子。
そんでもってこっちの無愛想なのがキリュウ。あらためてよろしくな。」
「翔子殿・・・。」
「あはは、なるほど。こっちもあらためてよろしくな。」
少しふてくされるキリュウと、それを見て笑っている5人組。
見る限りは別に普通の光景なんだけどなあ・・・。
「あ、そうだ。変身して能力使うところを見せてよ。」
「ふふ、リーダーが見せてやろう。レッドチャージャあ!!」
リーダーがそう叫ぶとぴかっと光り、
赤いスーツに身を包んだリーダーが立っていた。はあ、なるほど。
「それでは力を見せよう。あの石を見ていてくれよ。」
キリュウと一緒に振り向くと、なるほど、石がある。
大きさは握りこぶし10個分ぐらいかな?すると、
「バスガス爆発!」
早口言葉!?しかしそれと同時に石が粉々に吹っ飛んだ。こりゃすげーや。
「ふむ、なかなかの破壊力だな。」
「どうだ、すごいだろう。リーダーの俺は炎の力。青の戦士は水の力。黄色の戦士は光の力。
白の戦士は癒しの力。黒の戦士は闇の力。というわけさ。」
なるほどねえ。あれ?五行の力じゃなかったのか?まあいいや。五つの力ってのは同じだ。
感心していると青の戦士が話し掛けてきた。
「さっき木が大きくなったのってどうやったの?山野辺さんやって見せてよ。」
「あれはあたしじゃないんだけど。キリュウ、ちょっと見せてやってよ。」
「よいのか?翔子殿。」
「これだけ非常識なもん見せられりゃ大丈夫だろ。」
「それもそうだな。」
キリュウはすっくと立ちあがると、短天扇をひろげた。
そういや何を大きくするつもりなんだろう?
「万象大乱。」
すると、5人とあたし達の間にあった小さな石がみるみるうちに巨大化した。
「うおっ!?」
「うがっ、いてー!」
あたしはとっさに避けたが、何人かは直撃をくらったらしい。
「試練だ、耐えられよ。」
おいおい、いきなり試練を与えるなって。
しばらくしてキリュウが石を元の大きさに戻す。
「な、なるほどお。」
5人のうちの何人かが痛いところをさすっていると、
「こういうことも可能だぞ。万象大乱。」
次に5人が座っていた木が急に米粒ほどに小さくなった。
たまらず5人はひっくり返る。
「試練だ、起き上がられよ。」
無言のまま5人が起き上がる。なんか目がうつろだ。
まあ気持ちはわかるけどな。
「・・・あのさあ、俺達になんか恨みでもあるわけ?」
「いきなりなんなんだよ。」
「・・・やはりそなたらに試練を与えるのはまだ早いようだな。」
「キリュウ、いきなり試練なんか与えたら怒るって。
あ、みんな、あんまり気にしないでくれよ。キリュウはこういうやつだから。
とりあえず分かっただろ?なんで木が大きくなったか。」
「たしかにわかったよ、でもなあ。」
「なんか釈然としないものがありますけど、まあ良いでしょう。」
「能力見せてくれてありがとな。」
不満そうだけど納得してもらえたみたいだ。やれやれ。
「キミ達、そんな事でいいのか!正義のカラーレンジャーがここまで馬鹿にされていいのか!」
いきなり赤の戦士が叫んだ。まったく、熱血してやがるなあ。
「キリュウさん、僕はあなたに決闘を申し込む。そして試練など必要ないと証明して見せる!」
「ばかやろう、キリュウさんの能力みなかったのか?リーダーはすっこんでろよ。」
「そうそう、さわらぬ神にたたりなしだぜ。」
こいつらのいうことはもっともだ。あたしだってキリュウにケンカなんか売りたくない。
「ふっふっふ。まあリーダーにまかせたまえ。」
笑うところを見ると、こいつよっぽど自信があるみたいだ。なんか作戦でもあるのかなあ。
「本気か?赤の戦士殿。私はそんなにあまくないぞ。」
「本気できてくれよ。油断してると君は大怪我をすることになる。」
なんちゅー自信ありありのせりふだ。余裕たっぷりだな。
「やれやれ。まあいい、戦いなど何千年ぶりだな。久しぶりに力を使ってみるのも悪くあるまい。」
そういや、昔の主に仕えていたときに戦争なんかあったんだろうなあ。
キリュウが戦争に参加するとなると、キリュウ側は余裕だろうなあ。
敵軍全部を小っちゃくしたりして・・・。
「翔子殿、合図を頼んだぞ。」
「ん?ああ。」
「それじゃ戦ってくるよ。リーダ−のすごさを味わってくれ。」
「おまえなあ、頭でもおかしくなったのか?あんなのに勝てるわきゃねーだろー?」
「彼女に勝つのはあの王子の力を借りても難しいと思いますよ。」
「しらねーぞ、ああいう人は怒ると絶対怖いんだから。」
「今ならまだ間に合う、謝れよリーダー。」
「キミ達、安心したまえ。この戦いを見ればリーダーの見方も変わってくるよ。ハッハッハ。」
心配そうな4人の顔をまえにリーダーは笑ってやがる。あたしはしーらないっと。

2人が離れた位置に向かい合って立つ。
安全そうな場所に4人と一緒に隠れて合図を出すことにした。
「それじゃ、決闘開始!」
「東京特許許可局!」
また早口言葉だ。なるほど、これが呪文になってるわけか。感心すると同時に辺りが吹っ飛ぶ。
さっきとは比べ物にならない威力だ。これが作戦か。開始とともに超巨大な爆発で相手もろとも。
でもこの程度でやられるキリュウじゃないと思うけどな。
「すげえ。リーダ−のやついつの間にこんなの使えるようになってたんだ?」
「あれじゃああのおねーちゃんひとたまりも・・・ってまさか!」
「殺しちゃったってことですか?そう言えば彼はキレると何するかわかりませんでしたねえ。」
「落ち着いてる場合じゃねーって。山野辺さんにどういやいいんだよ!」
「リーダー、あとでフクロどころじゃすまねーな。」
あたしの横で4人が口々にしゃべる。さすがのあたしも不安になってきた。
よく考えたら、最初の爆発でキリュウのやつ気絶してたよな。・・・ってことは!
「キリュウ!」
広場に向かって叫ぶ。返事はない。
姿を見ようにも、煙が立ちこめていて赤の戦士の姿以外は何も見えない。
「無駄だよ、山野辺さん。キリュウさんは僕の力を甘く見すぎたんだ。
まったく、油断しないでと言ったのに・・・。」
平然と答える赤の戦士に腹が立ってきた。
あんな不意打ちを油断なしでどう対処するってんだ。でも、キリュウがまさか?
呆然と立ち尽くしていると煙がなくなってきた。しかし人影は見えない。
「キ、キリュウ・・・。」
あたしのせいだ。あたしがこんなやつらを追っかけようなんて言わなければ。
「どうやら僕の勝ちのようだね。」
こんな状況でそんなセリフをはきやがって・・・。
今まさにそいつを殴りに行こうとした瞬間、
「まだ勝負はついておらぬぞ。」
突然上から声がした。
あわてて上を見上げると、短天扇に乗ったキリュウが下を見下ろしていた。
「キリュウ!よかった、生きていたんだ!」
思わずキリュウに向かって叫んだ。
生きているどころか、傷1つ負っていないようだ。
「当然だ。油断するなと言われたしな。」
その様子を見て4人がしゃべる。
「あの扇つかって飛べたんだな。やっぱすげーや。」
「リーダー、フクロはまぬがれたが、フクロになったほうがよかったかもな。」
「ああ。キリュウさん絶対怒ってるぜ。」
「いえ、結構冷静ですよ。それにしても、
あの一瞬でどうやってあんなところまでいったんでしょうかねえ。」
そういやそうだ。キリュウってあんなにすばやかったっけ?
少し考えていると、キリュウが赤の戦士に向かって言う。
「どうだ?降参するのか?今ならまだ許してやっても良いぞ。」
「な、なにおう。勝負はまだ始まったばかりだぞ。バスガス爆発!」
とたんに空中で爆発が起こった。よーしゃないな、あいつ。
と思って下を見ると、いつのまにかキリュウがいる。
なんつーはやさだ。それに気づいた赤の戦士が再び呪文を唱えようとする。
「東京都・・・」
「万象大乱!」
今度はキリュウが早く言ったようだ。と、赤の戦士が一瞬で見えなくなった。
あいつまさか万象大乱を避けたのか?そんな馬鹿な・・・。
しばらくして軽く『ぽん』という音がした。
「お、おい、あれリーダーじゃねーのか?」
「本当だ、あんなに小さく・・・。あーあ、だからやめとけっていったのに。」
なんだ、あいつをキリュウが小さくしただけか。これで勝負あったようなもんだな。
「さて、赤の戦士殿。まだ戦うのか?戦うと言うのなら容赦はせぬぞ。」
「・・・ま、まいりましたあー。僕が悪かったです、ごめんなさいー。」
するとキリュウは赤の戦士の前に座りこんで言った。
「・・・油断はするなということだったからな。ではこれから本番ゆくぞ!」
「ひ、ひええ!ごめんなさい、すいません僕の負けです。いえ、負けにしてくださいお願いします。
僕達は確かに試練がもっと必要です。だからもう許してー!」
なおも不敵な笑顔で赤の戦士を見ているキリュウを、4人と一緒にあわてて止めに行く。
「なあキリュウ、そのへんで許してやれって。」
「お願いだよ、こんなやつでも一応リーダーなんだからさ。」
「かなり腹立たしいとは思いますが、広い心でみてやってください。」
「キリュウさんが怒る気持ちわかるよ。俺だってあんなこと言われたらこいつ殴ってるもん。」
「ゆるしてやってくれよ。」
するとキリュウはきょとんとした顔で言った。
「怒る?この私がなぜ怒るのだ。
赤の戦士殿に少し試練を与えようと思っただけだ。怒ってなどおらん。」
「じゃあさキリュウ、とりあえず元に戻してやれって。試練なんて与えなくていいからさ。」
キリュウは納得のいかない表情で赤の戦士を元に戻す。
試練を与えるって・・・、そんなふうに見えなかったけどなあ。
すると5人が土下座して謝ってきた。
「すみません。この馬鹿リーダーには後でオレらがちゃんと言っとくから。」
「まことに迷惑をおかけしました。」
「迷惑?私は結構楽しかったがな。まあ試練が不要などと言うのは許せぬが。
これからも試練を頑張って受けられよ。」
「は、はい!」
なんかキリュウのすごさを知ったって気分だな。
あんまりキリュウには逆らわないようにしようっと。
「あのー、そろそろおれ達家に帰ります。」
「ああそっか。小学生は早く家に帰らなきゃな。
ということはさよならだな。またいつか機会があれば会おうぜ。」
「そのときにでも名前を教えてくれ。
そうそう、赤の戦士殿以外の4人とはまたそのときにでも戦うとしようか。」
「いえいえ、戦わなくて結構ですぅ!」
放心状態の赤をのぞいた4人がぶんぶんと首を横にふる。ま、あんな後じゃな。
「それじゃあな、頑張って正義の味方しろよ。」
「うん、おねーちゃんたちも頑張ってね。」
何を頑張るんだか。手を振って5人にさよならをする。
しばらくして、5人とも林の奥へ消えていった。
「なあ、翔子殿。」
「うん?なんだ、キリュウ。」
「ひょっとして事件とはこのことではなかったのか?」
「かもな。それにしてもわけわかんねーとこだな、ここ。」
やはりいまだに信じられない。宇宙人とやらにこれから会いに行くべきかな、
なんて、今回はもう帰ろうっと。
「キリュウ、もう帰ろっか。いいかげん帰れるはずだし。」
「さっきのがその事件とやらな。とりあえず念じてみるとしよう。」
「そういやさ、さっきの決闘だけど、どうやってあんなに早く移動できたんだ?」
「それは秘密だ。少し裏技を使っていたからな。」
「裏技?うーんわかんないなあ。でもまあいいや、さーて念じようぜ。」
キリュウと一緒に念じる。気がつくと大広間にあたし達はいた。
「ふうー、今度はなんと帰れたみたいだな。」
「ふむ、やはりあの決闘が事件だったのか。あっ!」
「ど、どうしたキリュウ!?」
「主殿に与える試練を見つけてくるのを忘れていた!もう一度行かねば!」
「もういいだろ・・・なんかあの世界って疲れるよ。」
すると扉の文字が変わった。COLORの文字が消え、ポルターガイストという文字が浮かび上がる。
「・・・イベント形式か?今度はポルターがイストが見られるってわけ?」
「何なんだ?ポルターガイストとは。」
「家の中の物とかが勝手に動いたりする現象だよ。」
「ルーアン殿が出てくるということか?」
「いや、そうじゃなくて・・・、まあ詳しい説明はまた今度な。
次に気が向いたらここに来るってことにしといてさ。」
「翔子殿、せっかくだから今から行ってみては・・・」
「さーて!次はどの扉に行こっかなー!」
「翔子殿、待ってくれー。」
キリュウをほっぽり出して別の扉へと歩き出す。
確かに気になるけどやっぱあんなに疲れんのはゴメンだ。
今度は慎重に扉を選ばなきゃな。
さて、次はどこに行ってみようか?