『AIR偽小説第二百十七弾』

懲りずに第二百十七弾です。
分厚い小説の同人誌であるquiってのを最近読み終えました。
1ページの文章量がハンパじゃない上に、分厚さもあって読むのに相当時間がかかりましたが……
や、まぁ値段相当の価値はあったんじゃないかな、とは思いました。
それなりに良作が……いやでも、イマイチ、ちゃんと描ききれてないような、
設定はかなり上手いとか食いつきがいいように思ったのですが、
まとめが流れっぱなしというか後は読者に任せて終わりでいいよみたいな、
なんだか納得いかない話が大半だったように思います。
悪くはないのですがイマイチ垢抜けない……なんて気分になってしまい、ちょっと残念に思いました。


『4行小説』

★佳乃
「さあて、今回は特別ゲストさんを招くとりあえず最後の回だよぉ〜」
「そしてアシスタントは、神奈ちゃんに裏葉ちんに柳也くんなのだぁ」
「テーマは特に無し! というのも、今回はゲストさんが三人なのでぇ……」
「それぞれ三人と四行で競い合ってほしいからだよぉ」

神奈「最後にいきなり呼ばれたと思うたらそういう魂胆であったか」
柳也「競い合う、ねえ……」
裏葉「けれども、進行役としてこういう権限もありという事にございますね」
裏葉「何も、四行のお題を決めて四行をさせるというのみにあらず」
神奈「なるほど……侮れぬな、佳乃殿」
佳乃「えへへぇ、そんなに褒めてもらっちゃ恐悦至極にぞんじまするだよぉ」
柳也「っていうか、競い合う要素として四行ってことだろ?」
佳乃「甘いよぉ、柳也くん。四行だけで競うとは限らないからねぇ」
柳也「なるほど……?」
神奈「しかし、余達とわざわざ競うという事は……」
神奈「そのこたびの三人というのは余達と似たような者達なのかの」
佳乃「神奈ちゃん鋭いっ!」
裏葉「ああ神奈さま、しばらく見ないうちに立派になられて……裏葉はうれしゅうございまする……」
ぎゅぎゅぎゅっ
神奈「こ、これっ、ひっつくでない! 息が、いきが苦しい……やめい、やめいというに!」
佳乃「むむむっ、裏葉ちんにばかり譲ってられないよぉ。あたしも参加だぁ〜」
ぎゅぎゅぎゅっ
神奈「む〜〜〜〜!!」
柳也「いらんことしてないでとっととその客人を呼べって。話が進まんだろうが」
ぱぱっ
裏葉「それもそうにございますね。では佳乃さま」
佳乃「うんっ、しょうがないねぇ」
神奈「ぜえ、ぜえ……何故のっけから斯様な目に……」
柳也「お前も大変だな」
神奈「柳也どのが他人事でいるのもおかしな話ではないか!?」
佳乃「さあて、ゲストさんまとめていらっしゃーい!」
ゲンジマル「お初にお目にかかりまする。某、ゲンジマルと申します」
サクヤ「あ、あの、サクヤといいます。よろしくお願いします」
クーヤ「うむ。余がクンネカムンの皇、アムルリネウルカ・クーヤだ。クーヤでよいぞ」
佳乃「うんうん、皆礼儀正しくて何よりだねぇ」
柳也「これは……たしかに似ているが……」
裏葉「柳也さま、まずは自己紹介をするべきでございます」
柳也「そ、そうだな。俺は柳也だ、よろしくな」
裏葉「裏葉にございまする」
神奈「そして余が神奈であるぞ」
佳乃「というわけでぇ、お互いがお互いをわかったところで早速三本勝負をしてもらうよぉ」
クーヤ「先にも其方はそんなことを申しておったな」
神奈「わかったぞ佳乃殿。勝負の内容はまだわからぬが、競い合うのはまずクーヤと余であるな?」
クーヤ「まぁこの布陣を見ればおのずと組み合わせは見えてくるな」
クーヤ「残るは、ゲンジマルと柳也、サクヤと裏葉といったところであろう」
神奈「何とも分かりやすい組み合わせよの。して、勝負方法は何であるかの」
神奈「もっとも、どのようなものであっても余達の勝ちは確実であるがな」
クーヤ「ふっ、これだから下賎な輩は困る。相手の力量も知らずにすぐ勝ちを宣言するのだからな」
神奈「口だけならなんとでも申せるからの。お主は一国の主であったか、口も達者でなくてはならぬな」
ゲンジマル「そこまで。聖上、皇たるもの安き言動を軽々しく口にしてはなりませぬ」
クーヤ「む……わかった」
柳也「神奈もだ。いつからそんな減らず口を叩くようになったんだ。母君に叱られてもしらんぞ」
神奈「むぅ……まぁ、この辺で勘弁してやろうぞ」
柳也「やれやれ、だな」
サクヤ「あ、あはははは」
裏葉「うふふふふ」
佳乃「いきなりぶつかった主君! 熱い戦いが今火蓋を切ったよぉ」
佳乃「でもね、ちゃんと順番があるからそれに従ってね〜」
柳也「お前は実況をやりたいのか進行役をやりたいのかどっちだ」
佳乃「一人複数役だよぉ。今回のかのりんは忙しいのだぁ」
クーヤ「余は構わんぞ。いちいち口出しをするとは、其方の家臣もまだまだだな」
神奈「ふふん、甘いぞクーヤ。柳也どのが言わぬと誰もつっこみを入れぬのだ」
神奈「仕方なく余がするところを、率先して柳也どのが入れる。立派な忠臣であるぞ!」
クーヤ「む……」
柳也「あまり褒められてる気がしないんだが……っていうかそんな事はどうでもいいから早く始めてくれ」
佳乃「了解したよぉ」
佳乃「勝負内容は、折角二人とも剣を腰に据えているから試合でどうかなぁ?」
柳也「……本気か?」
佳乃「柳也くん、今まで機会があったのにずっとやってこなかったから最後の最後で腕をふるってもらうよぉ」
柳也「まじか」
佳乃「マジだよぉ」
柳也「……」
ゲンジマル「……」
柳也「…………」
ゲンジマル「…………」
柳也「………………」
ゲンジマル「………………」
柳也「すまん、俺の負けにしてくれ」
神奈「なっ!?」
クーヤ「おお、さすがゲンジマル戦わずして勝ったな」
ゲンジマル「恐れ入りまする」
神奈「情け無いぞ柳也どの」
柳也「っていうか、今までの中で一番強いぞ。勝てるわけないだろうが!」
神奈「……そうなのか?」
裏葉「柳也さまが言うからにはそうなのでございましょう」
サクヤ「おじいちゃん……じゃなくって大老。から見た柳也さんはどう?」
ゲンジマル「……危険を察知する力には長けておられる様子」
ゲンジマル「そして、戦わずして対処する法を数多く身に付けておられますな」
柳也「あー、やっぱそう見えるか。そうだろうな……」
柳也「昔はそうでもなかったはずなんだが……」
裏葉「うふふふ。周りにはお強い方ばかりにございますものね」
柳也「まったく、立つ瀬が無いっていうか……」
佳乃「うおっほん。とにかく第一の勝負はゲンジマルさんの勝利っ!」
佳乃「折角だからぁ、ゲンジマルさんには勝利の印としてお米券をあげるよぉ」
ゲンジマル「……なんですかな、これは?」
佳乃「これがあるとねぇ、沢山のお米と交換してもらえるんだよぉ」
ゲンジマル「…………」
柳也「こんなところにまで持ってきているとは……」
佳乃「なぎーから預かってきたんだよぉ」
裏葉「しかしゲンジマルさまにお使いいただけるのでございましょうか?」
サクヤ「と、言いますと?」
裏葉「早速戸惑っておられるようですが……」
ゲンジマル「…………」
サクヤ「あわわっ、おじい、ちゃん?」
佳乃「大丈夫っ、後でなぎーがしっかり教えにくるよぉ」
佳乃「題して、お米券講座〜」
クーヤ「ほほう、それは少し興味深いな」
佳乃「クーヤさんもちゃんと受けてもらうよぉ。特別ゲストさん全員が受講対象だからねぇ」
神奈「全員……」
柳也「ただの口実のような……」
佳乃「さてとっ。次は裏葉ちんとサクヤちゃんの勝負だよぉ」
柳也「待て。ところで、四行は今回やらなくてよかったのか?」
佳乃「あっ、そうだねぇ。いいところに気がついたよ柳也くん」
神奈「今日の柳也どのは冴えておるの」
柳也「今日だけみたいな言い方はやめろ」
佳乃「おほん。それじゃあ早速、ゲンジマルさんと柳也くんに四行をやってもらうよぉ」
佳乃「さっきの勝負についてとか試合についてとか」
佳乃「既に柳也くんが負けを認めちゃってるから勝敗の対象にはならないけどねぇ」
神奈「なっ……柳也どの! 何故早々に負けを認めるようなまねを!」
柳也「そういや冒頭でそんな事言ってたっけな……まぁいいじゃないか神奈」
神奈「よくないっ!」
クーヤ「そうやって家臣に当り散らすのは全体が見えておらぬ証拠」
クーヤ「其方、皇としての自覚が足りぬな」
神奈「余は皇などではない」
クーヤ「何?」
神奈「余は……そういえば余はどういう立場になるのだ?」
裏葉「大食の姫君、にあらせられまする」
柳也「もしくは、神様かもな。おおぐらいの神様だ」
神奈「半分馬鹿にされておる気がするのだが……まぁそういうことだな」
クーヤ「……いまいちわからぬが、家臣に遊ばれておるのはよくわかった」
クーヤ「其方は大変であるな……」
神奈「ええいっ! 勝手に同情の視線を向けるでないっ!」
佳乃「話がそれたけど、四行をお願いするねぇ。まずは柳也くんだよぉ」
神奈「柳也どのっ! 汚名挽回するのだぞ!」
柳也「何の汚名だ……つか、挽回してどうする。するのは返上だ」

★柳也
「最近試合がどうとかいう機会が多いが……」
「いわばこれは鍛錬の一環だろうな。相手にもよるが」
「いついかなる時に何が起ころうとも、決して油断せず対処せよとの戒めにもなる」
「そう思えるようになったのは最近かもしれんがな」

神奈「どういう事だ?」
柳也「神奈と裏葉には過去を話しただろう。俺は元々鍛錬によって今の地位を得たわけではない」
柳也「常に戦いの日々と言っても過言ではない。その中で手柄を立て……今に至るわけだ」
裏葉「つまりは、柳也さまは試合はなさっていないと」
柳也「ああ。こうして試合により鍛錬が行えるのは、もしかしたら平和な証拠かもしれんな」
クーヤ「おかしなことを申すな。皆戦に備えて試合を行ったりしているのだろう?」
柳也「試合なんてする暇も無いほどに比べれば平和ってことさ」
ゲンジマル「なるほど。貴方は数多くの修羅場をくぐりぬけた武人のようですな」
柳也「それでも、あんたには適わないがな。だから試合も辞退した」
ゲンジマル「しかし、なかなかの心意気。さぞや姫君も安心でありましょう」
神奈「そ、そうかの? そこまで褒められると照れるではないか」
ゲンジマル「…………」
柳也「……ま、そんな世間知らずな姫だ」
ゲンジマル「…………」
クーヤ「む? ゲンジマル、今余の方を見なんだか」
ゲンジマル「滅相もござりませぬ」
クーヤ「いいや、視線がこうちらりと……」
神奈「それだけ自覚しておるのだな、クーヤは」
クーヤ「其方と一緒にするな。余のは濡れ衣だ」
神奈「なんだと……」
クーヤ「むむむ……」
サクヤ「わあああ、クーヤ様おやめくださいってば」
佳乃「こらこら、二人の勝負はまだなんだからね。次はゲンジマルさんの四行だよぉ」
ゲンジマル「む、では某参りまする」

★ゲンジマル
「試合とは別に、戦に赴く自身の心得というのがございまする」
「誰が為に戦うか、という事は忘れてはならぬこと」
「戦とはただの手段。決してのまれてはなりませぬ」
「軽々しく試合をなさらなかった柳也殿も、それを重々承知おられるもよう、何よりにございます」

裏葉「……私が申すのもなんですが、随分と固いお方にございますね」
柳也「固い? 裏葉の口調とそう大差ないぞ」
裏葉「いえ、その信念とでも申しましょうか……内に限りない強さを秘めております」
サクヤ「おじいちゃんは、皆から一目おかれてますから」
クーヤ「余にとっても自慢の家臣だ。神奈にとってのそれは柳也か?」
神奈「裏葉も柳也どのも甲乙つけがたい。というより、二人ともなくてはならぬ存在であるぞ」
神奈「一番などと無理につけるなどおこがましい」
クーヤ「何……」
サクヤ「あ、あの、クーヤ様。あたしは二番でも三番でも……」
クーヤ「考えてみれば、サクヤもゲンジマルと同じく余のそばにずっと居たのには変わりない」
クーヤ「ふっ、神奈。二人とも余にとってはなくてならぬ存在だ」
神奈「ならば余と同じであるという事かの」
クーヤ「そのようだな」
佳乃「なんか二人とも偉そうにしてるけど……ゲンジマルさんの四行はちゃんとわかったのかなぁ?」
ゲンジマル「佳乃さま。お次に進んでくだされ」
佳乃「うんっ、了解したよぉ。というわけで次の勝負は裏葉ちんとサクヤちゃんだよぉ」
サクヤ「へ?」
裏葉「うふふふ」
柳也「……既に勝負見えてないか?」
クーヤ「む、柳也とやら。失礼ではないか!?」
クーヤ「サクヤを甘くみるでないぞ。歌は上手いし手先も器用」
クーヤ「そして何と言っても床上手。これほどの器量よしは他におらぬぞ」
サクヤ「クーヤさまぁ、だからその床上手は違う意味だって……」
裏葉「うふふふ、床上手ならば私も負けませぬ」
サクヤ「ふええっ!? ほ、ほんものの床上手……」
神奈「床上手とは何だ?」
クーヤ「そのような事も知らぬのか、相変わらず世間知らずであるな」
神奈「むっ、ならばクーヤは知っておるのか」
クーヤ「当たり前だ。サクヤの作った寝床は実によく眠れる」
柳也「いや、それは床上手でも意味が違うぞ……」
サクヤ「はあああ、クーヤ様まだ勘違いされてますぅ」
クーヤ「ん? 違うのか?」
クーヤ「ならば本当の意味はなんだ、ゲンジマル」
ゲンジマル「…………」
クーヤ「黙っていてはわからぬ。説明せよ」
ゲンジマル「某に説明を求めまするか」
クーヤ「さっきからそう申しておる」
ゲンジマル「む……」
裏葉「うふふふ、床上手とは、夜の営みの上手を意味するのですよ」
クーヤ「夜の営み……?」
神奈「そうか、寝相か?」
クーヤ「なっ……ええい、余が先に申そうとしておったのに!」
神奈「ふふん、早いもの勝ちであるぞ」
クーヤ「くっ……」
サクヤ「あ、あははは……」
佳乃「裏葉ちんもサクヤちゃんも大変だねぇ、かのりんはしみじみと同情するよぉ」
柳也「面白がってるとしか思えんが……いや、そうでもないかな」
佳乃「まぁそんな主君に仕えている二人は、主君についてを語る事で競ってもらう事にするよぉ」
佳乃「題して、“どっちがスゴイ?これが私のご主人様”だよぉ」
柳也「……微妙に何かに抵触してないか?」
佳乃「してないよぉ。ね、ゲンジマルさん」
ゲンジマル「…………」
佳乃「してない、だって」
柳也「いや、黙ってる奴の言葉からこられても……」
神奈「だがたしかに勝負の方法としてはいい案であるの」
神奈「申し訳ないが裏葉と技を競いあっても先が見えておる」
クーヤ「それは聞き捨てならんな。サクヤのどこが劣っておるというのだ!」
クーヤ「ひとたび声を上げれば皆が従い、ひとたび腕を振るえば百人分の食事を仕上げるサクヤの!」
サクヤ「く、クーヤさまクーヤさま、話が大きくなり過ぎてますしあたしはそんなに凄くありませんてば」
佳乃「さあてと、それじゃあ早速開始してねぇ。語りもいいけど、間に四行を織り交ぜること!」
裏葉「うふふふ、それでは参りましょうかサクヤさま」
サクヤ「えっ、ああっ、はいっ!」
裏葉「まず神奈さまですが……」
裏葉「見てのとおり、どこの誰よりも可愛いらしゅう、そして愛おしい存在にございまする」
裏葉「それはもう、四六時中抱きしめて眺めていたいほどに……ああ、神奈さま……」
サクヤ「へ……」
柳也「おい、裏葉。裏葉。話が脱線してる上にお前の欲望が混じってるぞ」
裏葉「あらあら?」
神奈「まったく、気を抜くとすぐにこれであるからな……」
クーヤ「いや、神奈。達観してないで、少しは厳しく申した方がいいのではないか?」
神奈「既に慣れておる。……いや、まぁ、毎回きつくは申しておるのだが一向に直らぬのだ」
クーヤ「そうであったか。苦労しておるのだな……」
神奈「おお、わかってくれるか」
クーヤ「四六時中抱きつかれて眺められるなど、余は耐えられんぞ」
神奈「そうであるの、そうであるの。実は冒頭の方でもな……」
ぎゅぎゅ〜
神奈「ぬわわっ!?」
裏葉「こうして抱きついておりましたのですよ」
神奈「や、やめいっ、裏葉!」
裏葉「うふふふ」
クーヤ「……むぅ、ああはなりたくないものだな」
ぎゅぎゅ〜
クーヤ「うわあっ!? さ、サクヤか!?」
サクヤ「い、いえ、あたしじゃなくて……」
佳乃「えへへへぇ、裏葉ちんに対抗してみたよぉ」
クーヤ「か、佳乃か? やめよ、やめよというに!」
佳乃「大丈夫大丈夫、嬉しいスキンシップだよぉ。クーヤちゃん可愛いもんねぇ」
クーヤ「み、見てないで助けよ、サクヤ、ゲンジマル〜!」
サクヤ「は、はいいっ!」
ゲンジマル「…………」
柳也「いいのか、助けなくて。呼んでるぞ」
ゲンジマル「口ぶりとは裏腹に、聖上は随分と楽しそうにございますゆえ」
柳也「まぁ……たしかに佳乃は無茶はやるが、傷つけるような事はしないからなぁ」
佳乃「えへへへぇ」
ぎゅ〜
サクヤ「はれれっ? あ、あたしも捕まっちゃってる?」
クーヤ「えええいっ何をしているのだサクヤ!」
裏葉「なかなかやりますね、佳乃さま。ならばこちらも……」
ぎゅ〜
神奈「こ、こら、力を入れるな。柳也どのぉ〜!」
ゲンジマル「……柳也殿、呼ばれておりまするぞ」
柳也「心配ない、いつもの事だ。ついでに言うと、ああなったら俺には止めることはできん」
ゲンジマル「貴方こそ達観しておられますな」
柳也「余裕ではなくて諦めだがな……」

…………

閑話休題

…………

佳乃「さあてと、改めて勝負を開始してもらうよぉ」
サクヤ「ふぅ、ふぅ……な、何の勝負でしたっけ?」
裏葉「うふふふ、私と語りで勝負するのですよ。神奈さまについて、クーヤさまについて」
クーヤ「ふう、ふう、まったく……余はもう疲れた」
神奈「ふう、ふう、余はまだまだ平気であるぞ」
クーヤ「息が上がっておきながらまだそういう台詞をはくか」
神奈「これが余裕というものよ」
柳也「いや、違うから」
ゲンジマル「…………」
裏葉「とりあえず、四行をなさいますね」

★裏葉
「神奈さまとは……ああ、再び神奈さまについて四行をできよう日がこようとは……」
「神奈さまという存在は、私にとって夢のような大きな存在」
「神奈さまは、星の記憶を一身に受け……私はそこから生まれでた傷を癒すため……」
「神奈さまは、旅立たれます。けれども、その麗しいお姿に、誰もが注目するでしょう……」

柳也「なんだこの支離滅裂なのは」
サクヤ「す、凄いですね……」
神奈「そこは感心するところではないっ!」
クーヤ「余は別の意味で感心したぞ。よくもこうも並べ立てられるものだな……」
裏葉「しかし、すべて事実にございまする」
柳也「まぁ……半分くらいな」
佳乃「半分どころじゃないよぉ。もうばりばりに神奈ちんの立場を危うくする四行だよぉ」
神奈「どういう事だ?」
佳乃「つまり、この四行によって色んな虫さんがついちゃう可能性が高まるってことだよぉ」
神奈「虫?」
佳乃「そ。ほらぁ、そこのゲンジマルさんみたいに!」
ゲンジマル「…………」
柳也「無反応だぞ」
佳乃「と、こんな風に(キンキンキン!)が増えるわけだよぉ」
クーヤ「な、なんだ今の剣戟音は?」
神奈「佳乃どの、一体何を言った?」
佳乃「さあてと、裏葉ちんは覚悟しないといけないよぉ」
裏葉「うふふふ、私が万全の体制でお守りしますゆえ、心配には及びませぬ」
柳也「あっさり流しやがったな」
サクヤ「ほええええ……」
佳乃「じゃあ次はサクヤちゃんの四行だねぇ」
サクヤ「え、えええっ、わ、私ですか?」
佳乃「一人称がころころ変わってる場合じゃないよぉ。さあ頑張ってねぇ」
サクヤ「は、はいぃ」
柳也「すっかりこいつのペースだな。四行のみならず語りをするんじゃなかったのか?」
裏葉「うふふふ、私は四行で十分なのですよ」

★サクヤ
「えっと、クーヤさまは、えっと……」
「とっても気高く、皇としての気質を備えた、立派な方です!」
「皆をまとめ先導する力、そして民を愛する心……」
「クーヤさまにお仕えできて、私はとても幸せです!」

クーヤ「うむ。よいまとめ方であるな。少々物足りぬが……」
クーヤ「それはすなわち、四行足らずで余を語れるものかという物言いの表れ」
クーヤ「サクヤ、よくやったぞ」
サクヤ「は、はいっ」
神奈「ふむ、敵ながらあっぱれというものだな」
裏葉「ああ、神奈さまも寛大になられて……立派でございます。うう……」
柳也「まるく収まってるようだからとっととそのまま先に進んでくれ」
佳乃「もぉ、柳也くんせっかちだよぉ。サクヤちゃんの四行についてコメントが欲しいよ」
佳乃「ね、ゲンジマルさん」
ゲンジマル「…………」
柳也「物言いは無しだそうだ」
佳乃「いやいや、言葉を選んでるんだよぉ。さ、どうぞゲンジマルさん」
ゲンジマル「…………」
サクヤ「おじいちゃん?」
ゲンジマル「…………」
クーヤ「ゲンジマル、黙っていないで何か喋れ」
クーヤ「サクヤの晴れ舞台。無言で済ますなどこの余が許さんぞ」
ゲンジマル「では……」
ゲンジマル「よくやったな、サクヤ」
サクヤ「おじいちゃん……うん!」
裏葉「うふふふ」
神奈「何を笑っておる」
裏葉「いえいえ、これで大団円にございますね」
柳也「なんだこの雰囲気……もう早く終わってくれ」
佳乃「ちょっとぉ、柳也くんは本当にせっかちすぎるよぉ」
佳乃「ここはこれで区切って、最後の戦いが待ってるんだからね」
佳乃「あ、ちなみに今のは裏葉ちんの勝利にするからね」
サクヤ「ええっ?」
クーヤ「何故だ。サクヤは十分頑張ったのだぞ」
佳乃「裏葉ちんは自分の語りをやって、更に対戦相手を賞賛しそうな勢い」
佳乃「この余裕は見事だよぉ」
裏葉「うふふふ、恐れ入ります」
神奈「ふふん、やはり裏葉は凄いのだな」
柳也「っていうか要するに最終戦に持ち越してそこで決めたいだけだろうが……」
ゲンジマル「…………」
佳乃「というわけでっ! 最後は神奈ちゃんとクーヤちゃんの対決だよぉ」
佳乃「思いっきり自己アピールをしてねぇ〜。もちろん四行が決め手だよぉ」
サクヤ「クーヤさま、頑張ってください」
クーヤ「切り替えが早いなサクヤは。……仕方ない、圧倒的な力の差を見せ付けてやろうぞ」
裏葉「神奈さま怖気づいてはなりませぬ。今こそ人物紹介の経験を活かす時にございます」
神奈「ふむ、のぞむところであるな」
柳也「一体何がなんだか。大体語りでそんな力入れることじゃあないだろうが……」
ゲンジマル「…………」
柳也「っていうかあんたもつっこめ。俺ばっかり反論してるからやりこめられるんだ」
ゲンジマル「……ここは静観するのが得策にございましょう」
柳也「いや、まぁ……ふぅ、それもそうだな。やれやれ……」
佳乃「よぉーし、準備はいいかな〜。まずはクーヤちゃんからだよぉ」
クーヤ「よしっ」

★クーヤ
「余はクンネカムンの皇、アムルリネウルカ・クーヤだ」
「余達シャクコポル族は他の種族に虐げられているが……」
「余が先頭に立ち、その不遇な現状を改革する」
「余はそのために、努力を惜しまぬ」

裏葉「あらあらまぁまぁ、とても素晴らしい公言にございます」
柳也「いきなり神奈を通り越して褒めちぎってるな」
裏葉「柳也さま、努力という言葉はかくも説得力があるのでございますよ」
柳也「ああ……なるほどな」
神奈「な、無礼者! 余は断じて努力を怠ってなどおらぬぞ!」
柳也「実際にクーヤと比べるとその程度はどんなもんだろうな」
神奈「なんだと……ならば次の余の四行で証明してくれるわ!」
サクヤ「あ、あのぅ、私達のコメントがまだなんですけど……」
ゲンジマル「聖上、立派なお心がけにございまする。今後とも期待しておりますぞ」
クーヤ「うむ。……して神奈、其方はどのような努力を重ねておるのだ?」
神奈「黙って聞いておるがよい。これまで余が培ってきた内容をな」
裏葉「うふふふ、神奈さまがやる気になられました」
柳也「仕組んだか? けど元々負けず嫌いだし……」
佳乃「じゃあ最後に神奈ちゃんだねぇ」

★神奈
「余はこれまで、人物語りというのを成してきた」
「余とこの場ですべての人物と関わった、という証としてな」
「余は皇とやらではないが、上に立つ者として皆を知る事は大切である」
「余は今後も、皆を語る中心人物として努力してゆくぞ」

裏葉「立派に……立派にございます神奈さまぁ」
ぎゅぎゅっ
神奈「う、裏葉! ひっつくでない、離せというに!」
サクヤ「人物語りって何ですか?」
柳也「こちらにはいろんな奴がこいつに連れてこられてきていてな、それで……」
佳乃「神奈ちゃんは一人一人としっかりつながりを得るために、いろんな人について会話してるんだよぉ」
佳乃「みんなもちゃんと神奈ちゃんを知る事ができて、より一層仲が深まるという事だねっ」
クーヤ「ふむ、なるほど……」
佳乃「いずれは改めてクーヤちゃん達もやると思うよぉ」
クーヤ「そうか……。これは余も……立ち会ってみたくなったぞ」
ゲンジマル「聖上?」
クーヤ「おい神奈。次からは余も混ぜよ、これは命令であるぞ」
神奈「ぐ、ぐる、じぃ……」
裏葉「あらあら、神奈さまはお疲れの様子。ささ、裏葉が添い寝して差し上げます」
神奈「いいかげんはなさぬかぁ〜」
佳乃「うーん、それどころじゃないみたいだねぇ」
クーヤ「まったく……。だがあれがゲンジマルだと思うと既に命はないかもしれぬな」
サクヤ「はわわわわっ、く、クーヤさまぁ」
ゲンジマル「…………」
クーヤ「じょ、冗談だからな、ゲンジマル。軽い冗談だ、そ、そう睨むでない!」
柳也「……まぁ、神奈に好意を持ってくれたならありがたいことだ。またの機会にでも相手してやってくれ」
クーヤ「其方は神奈の家臣であろう? なのに何故そこまで偉そうなのだ」
柳也「俺が従いまくってると歯止めがきかなくなる」
クーヤ「…………」
サクヤ「えっ、と……」
佳乃「おほんっ。それじゃあ、最後の勝負は多分引き分けってことで、大団円とするよぉ」
クーヤ「うむ、賢明な判断だな」
柳也「ちょっと待て、それじゃあ俺は負け損か?」
クーヤ「不服か? ならばもう一度ゲンジマルと勝負するがよい」
ゲンジマル「……聖上のご命令とあらば」
柳也「い、いや、いい! ……はぁ、もう終わってくれ」
サクヤ「なんだかすっごく疲れてますね、柳也さん」
柳也「察してくれ」
サクヤ「あははは……」
佳乃「それじゃあこれにてお終いだよぉ。じゃっあね〜」
裏葉「ああ、じたばたされる神奈さまも可愛いらしゅうございます……」
神奈「離せ、離さぬかぁー! 柳也どのぉ〜、助けてくれー!」

<まだやっておるのか……>


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