沈みかけている太陽からの赤い光が建物を幻想的な世界へと変えている。
数刻後。相変わらず山の様にダンボール箱が積まれている黒崎ルームで、
夕食後。内職の作業が再開される。
やがて、空が白み始める頃。
<おしまい>
余談:一緒に学校に行こうと梢を探していた珠美により、各自遅刻はなんとか免れたそうである。
『しゅらば』
鳴滝荘に夕暮れがやってきたのだ。
小鳥がさえずる気持ちのいい朝とはまた違うが、それでも情緒はたっぷりである。
そんな中、白鳥隆士は心地よい眠りを楽しんでいる最中であった。
課題のおかげで昨日はほとんど徹夜状態であった為である。
頑張りが功を奏したのか銀先生の折檻もなんとか免れてほっと一息。
専門学校から鳴滝荘に帰ってくるなり、部屋でばたんきゅーと横になったということだ。
深いまどろみの中で彼が見るのは、穏やかな時を過ごす自分。
せめて夢の中くらい安らぎを感じていたいのだ……。
しかしそんな時間の終わりは突如やってきた。
がたがたがた
「……ん?」
夢か幻か、と思えるほどの妙な物音が近くから聞こえてきた。
あえて喩えるなら地震のように何かが揺れている音。
一体何事だという意識から、彼はぼんやりと目を開ける。
すると、今まさに首を吊ろうとしている女性の姿が視界に入った。
テーブルを踏み台代わりに、先が輪になったロープを彼女は手に持っていた。
「なんだ、黒崎さんか……」
泥棒でもいたらどうしようかと内心思っていたが、見知った顔であることに安心して目を閉じる……。
「って、わわぁーっ!!黒崎さん人の部屋で何しようとしてるんですかー!!」
とてつもない眠気があったはずの彼だが、それは一気に吹き飛んだ。
叫ぶと同時に布団をはねのけて体を起こす。
「止めないで……。内職が終わらないの……。
このままじゃ親方に怒られる……。怒られるのはイヤ……」
ちらっと顔を向けると、沙夜子は涙ながらに事情を語る。
「怒られるくらいなら死んだ方がましよ」
自殺の動機は以前も聞いたものと同じ内容であった。
それだけ言うと気が済んだのか、手に持ったロープの輪に首を通す。
「ちょ、ちょっとー!だからってなんで僕の部屋でー!」
「この部屋から自殺者が出た、なんて箔がつくでしょ?」
非常にはた迷惑な箔である。
“何を言ってんだこの人は”と隆士は思うばかりであった。
と、沙夜子は意外にもにこっと微笑んだ。
「この前内職を手伝ってくれたお礼よ」
「そんなお礼要りませんー!」
「遺産が少ない私ができるのはこれくらい……」
「だからしなくていいですってばー!!」
“ちなみに鳴滝荘は大家さんが管理しているから僕へのお礼にはならないんじゃ…”
とかいうことを頭のどこかで考えながら、隆士はがばっと止めに行く。
しかし一歩遅かった。
彼が手を伸ばすも、それは宙をからぶるだけ。
沙夜子はテーブルから“えいっ”と飛び降りていた。
ばきっ
「ばきっ?」
直後に何かが割れるような音がする。
そして床にどすんと、沙夜子が尻餅をついた。
「イタイ……」
唖然としてる彼女と隆士の頭上からバラバラと木屑が降り注いできた。
上を見ると天井の一部が破損している。
どうやら、ロープを支えていたはずの天井の板が壊れてしまったようだ。
「ロープを釘で打ちつけてたんですか……。いつのまにこんな事を……」
驚くと同時に呆れてしまう隆士。
たびたび開かれる宴会といい、勝手に侵入されてしまうことといい、
本当にここは自分の部屋なんだろうかと疑問を抱かずにはいられない。
「うう、また死ねなかった。このままじゃ怒られる。どうしよう……」
床では沙夜子が首にロープをたらしたまま涙を流している。
死ぬことを考えるヒマがあったら内職を終わらせようという気にならないんだろうか?
ということが、隆士にとってはやはり不思議でしょうがない。
起き抜けに(本当は睡眠を妨害されたも同然だが)とんでもないものを見せられるわ、
自分の部屋の一部を壊されるわで、つくづく頭が痛くなる彼であった。
トントン
どうしたらよいかわからずにいると部屋をノックされた。
“ハッ”となったもののおろおろしている間に今度は扉ごしに声が聞こえてくる。
「あの、青葉です」
「お、大家さん?」
「はい。大きな物音がしたので心配になりまして……」
次に扉が開きかける。そこで隆士はおろおろを通り越して慌てふためき出した。
沙夜子に加えて、天井が崩れてとてつもなく散らかった状態のこの部屋。
とてもじゃないが人を堂々と招き入れられるものではない。
「わああ、ちょっと待ってくださいー!」
叫ぶがそれは遅かった。
扉を開けた青葉梢が顔を覗かせる。
「まあ……」
彼女がまず見たのはもちろん部屋の惨劇。
床にぺたんと座り込んで首にロープを引っかけた沙夜子、そして辺りに散らばっている天井の木屑。
上を見れば、悲惨な状況となっている天井がすぐに確認できた。
「何が、あったんですか?」
誰が見ても、まずはこう尋ねずにはいられなかっただろう。
「あ、いやー、それはその……」
しかし質問されても隆士は戸惑うばかり。
まさか起きたら沙夜子が自殺をはかろうとしてたなんて正直に答えられるわけもない。
更に、梢に“部屋で自殺”なんて過激な言葉を聞かせようものなら、とんでもない事が起こりそうだった。
「え、絵の新しい課題を仕上げるために、て、天井にロープを張って、
課題が終わったんで、そのロープを外そうと思って、
た、たまたま手が空いてた、黒崎さんに手伝ってもらって、その……」
とっさに嘘を並べ立てる。
どぎまぎした様子は傍目からは凄く怪しいものであったが……。
「そうだったんですか。大変でしたね……」
「あ、はは……」
あっさりと梢は信用した。
のほほんと見せる笑顔が隆士にはこの上なく眩しく感じられる。
ロープを取り外そうとしていた沙夜子と一緒に、ロープと天井の一部が落ちて音がした、
というような光景を彼女は頭の中で思い浮かべているのだろうか。
ともかく不慮の事故が起きたということで片付いたみたいだ。
(隆士にとっては不慮の事故の騒ぎどころではないが)
ひとまずその場が和んだ空気に包まれる……
ちょいちょい
浸っている隆士の服を誰かが引っ張る。それは沙夜子であった。
「このままじゃ、怒られるの……」
目の幅涙を流して訴えながら、首にかけているロープをくいくいと動かしている。
内職を手伝ってくれという事に間違い無かった。
人の部屋で自殺を図っておきながらずいぶんな態度だなあと思いつつ、隆士はやれやれとため息を吐いた。
「……わかりましたよ、手伝います。もう課題は終わりましたし」
今日までの課題が終わったのはあながち事実であった。
寝不足ではありながらも、彼は協力する事にしたのだ。
つまりは沙夜子の押し掛けに観念したということだが……。
「内職ですか?」
「ええ、そうです」
くりっとした梢の目は、沙夜子に加えて隆士をも心配そうに見つめていた。
しばしの沈黙。そして彼女は“よし”と自分で軽く頷いた。
「では今日は私もお手伝いします。白鳥さんの部屋をお掃除し終えたらすぐに向かいますから。」
ここで隆士は耳を疑った。
「そ、そんな。大家さんにまで手伝ってもらうわけには……って部屋の掃除!?」
「はい」
「い、いや、大家さんがわざわざ掃除しなくても、僕がしますって!」
「でも、天井も修理しないといけませんし……。
白鳥さんは先にお手伝いに行っててくださいな」
隆士がほんわか〜な梢の微笑みに顔を赤くしていると、くいっと服を引っ張られた。
先を急ごうとせんばかりに、沙夜子がすたすたと歩いて行こうとしている。
「わっ、わっ、ちょっと黒崎さん!」
「…………」
ずるずると引く彼女の力はかなりのものであった。
結局は梢に掃除を任せざるをえなくなり、両手を合わせて“すいません”と懸命に頭を下げつつ、
隆士は引きずられながら自分の部屋を後にするのであった。
沙夜子と隆士がせっせと内職をしていた。
二人が行っているそれとはDMの宛名書き。
それぞれ机として利用しているのは……もちろんダンボールだ。
かりかりかり
部屋に響いている音はただ、ペンを走らせている音のみ。
ここまでしている最中でも、隆士はどうも腑に落ちないままであった。
「ひょっとして僕に手伝わせるためにわざわざ部屋に侵入したんじゃ……」
今の状況に陥ったことがどうも策略めいたものに思える。
只の自殺なら、中庭の木でやる方が明らかに手軽だ。
それを天井にロープを張ってまでしたという事は、そういった理由があるに違いなかった。
“自分の部屋で自殺なんかされかけたら、たしかに効果は抜群だよなあ……”
なるほど、自殺意識が強い中でもそれなりに沙夜子は考えているようである。。
この先、あの手この手を使って内職に引きずり込まれかねないのは明白だった。
“もしかして僕って狙われてるのか……”と思いながらふと顔を上げる隆士。
そんな彼の目に写ったのは、相変わらずの沙夜子の姿であった。
懸命にペンを紙に走らせている。しかし途中で腕がかっくん。
慌てて書き直そうとするが、ペン先がぐにゃっ。
どうにもならない状態になってえぐえぐと涙を流す。
めげずに再挑戦。出だしは順調に書いているものの……
ずるっとペン先がすべる。当然台無しになる宛名。
ダンボールの上からはずして、光に透かしてみたりする。
もちろんそれでも奇麗になるはずもなく……
「うう……。」
結局涙を流してしまう。
隆士に比べれば、ペースが遅いのは誰の目にも明らかであった。
“こりゃあ僕が頑張らないといつまで経っても終わらないな……”
と思い、気を奮い立たせる。
しかし“なんで手伝いに引き込む頭を内職に使えないんだろう”とも思うのであった。
そのまま時間が過ぎて……
ガチャ
「ただいまー。お母さん、内職の調子はどう……?」
黒崎家の長女である朝美が帰ってきた。
相変わらずの制服姿ではあるものの、手に買い物袋を持っている。
どうやら学校帰りに買い物(食料の調達)を済ましてきたようだ。
あちこち服が汚れているところを見ると、なかなかに苦労した様である。
「あれっ、お兄ちゃん!?また手伝いに来てくれたんだ!」
意外な来客に驚きを隠せない様子。
ぱたぱたと駆け寄ってきて、隆士の前にちょこんと座るのであった。
「お兄ちゃんからわざわざ手伝いに来てくれるなんて……ほんとありがとう!」
「いやあ、あはは……」
厳密には違うのだが、朝美から笑顔でお礼を言われて隆士も笑顔で答える。
そして作業人数は三人へと増えた。
かりかりかりかり
ペンが走る音も心なしか大きくなる。
もともと、ほとんど一人分の音しかしてなかったのだから、単純計算でも2倍以上だ。
なんにせよ人数が増えるとペースも速くなる。
しょっちゅうくじけそうになる沙夜子を懸命に手助けする朝美の姿を見て、
隆士はとても微笑ましく思うのだった。
順調に作業が進む中……
トントン
扉をノックする音が聞こえてきた。朝美が“誰だろう?”と思いながら、
「どうぞ?」
と答える。開いた扉から姿を現したのは梢であった。
「やっとお掃除が終わりました。天井も元通りになりましたよ」
笑顔で告げるその姿からは微塵も疲れを感じさせない。
心の中で凄いと思いつつ、隆士は慌てて立ち上がった。
「すいません大家さん、どうもありがとうございます」
成り行き上とはいえ、後片付けをすべて任せてしまっていた事に罪悪感を感じてのことだ。
「いえいえ。さて、それじゃあ私もお手伝いを。お邪魔しますね」
「あ、はい……」
自然に部屋に上がる梢。
ついつい流されるままに返事をしてしまった朝美だが、直後に目を丸くした。
「えっ!?もしかしてお姉ちゃんも手伝ってくれるの!?」
「うん、そうだよ」
「……あ、ありがとう!!私すっごく嬉しいよー!!」
よほど感激したのか、朝美は涙を流し始めた。
傍に寄って彼女の頭を撫でる梢に、隆士はやはり笑顔になる。
微笑ましいことこの上ない光景にひたすら和んでいるのだ。
「良かったわね朝美」
微かな笑みを浮かべてそっと呟く沙夜子。その声は隆士にも聞こえていた。
彼は苦笑しながら“黒崎さんが発端でしょうが……”と心の中で呟くのであった。
「じゃあ丁度いい時間だから、お母さんとお姉ちゃんとお兄ちゃんと一緒にお夕飯にしようっ!」
いつもにも増した笑顔で朝美は俄然張り切っている。
こうして大人数で居られることが相当嬉しいのであろう。
「今日はね、沢山収穫があったんだよ」
ごそごそと買い物袋を探り……
じゃん!
と本日の特選素材を取り出した。
「ほら!こんな珍しい草が生えてたの!!」
一瞬引いた隆士ではあったが、梢と沙夜子は問題無く拍手している。
彼女らの表情を見ると、それは相当に貴重なものであるとわかった彼であった。
が、やはり雑草をむしりとってきた事実に少し抵抗を感じていたのには違いなかったが。
「今から料理するから待っててね」
「あ、私も手伝うよ」
朝美に続いて梢が立ち上がりかけるが、朝美はそれを押し留めた。
「お姉ちゃんは座って待ってて。折角こうして内職手伝ってもらってるんだから!」
「でも、どうせだったら一緒に作った方が早くできるだろうし。
それに追加材料を部屋から持ってこないと……このままじゃ足りそうにないでしょ?」
「うっ……」
鋭いところをつく梢に朝美は一歩後ずさった。
たしかに朝美自身は、今日も2人分だと思って買い物してきたはずだから、
ここで4人分などつくっていては後日に差し支えるのは明白。
と、困った様子の彼女を見かねてか、すっと隆士が立ちあがった。
「僕も材料持ってくるよ」
「えっ、でも……」
「困ったときはお互い様」
彼自身もよくわからなかった説得の言葉をはいて、隆士は部屋を出た。
「というわけで私も。少し待っててね」
「う、うん……ごめんね、お兄ちゃん、お姉ちゃん……」
済まなさそうな朝美の顔に見送られながら梢も部屋を後にする。
二人が抱えてきた材料によって(越してきたばかりの隆士はほとんど持ってこられなかったが)
この晩は野菜炒めをメインディッシュとした非常に豪華な食事となった。
ちなみに調理を行ったのはもちろん朝美、そして梢である。
ダンボールのお膳に並べられる料理。湯気が立ち上るそれらは、見た目にも非常に美味しそうであった。
そして4人そろって“いただきます”が告げられる。
しばらくして出てくる“美味しい”という感想に、
「やっぱりこの瞬間が料理の醍醐味だねっ♪」
と、朝美は顔を輝かせていた。
それは梢も同じで、作った甲斐というものを感じているのだろう。
もちろんそれと同時に皆が、美味しいものを食べられる嬉しさを感じているのも間違いなかった。
やはりというかDMの宛名書き。
かりかりかりかりかりというペンが走る音は4人分になっていた。
手慣れているのか、梢が書くスピードは朝美のそれと同等。
もちろん隆士も負けてはいなかった。さすが絵の専門学校に通っているだけのことはあるほどだ。
しかしながら、それでも沙夜子のスピードはとてつもなくのんびりである。
というよりは失敗が非常に多いだけのことなのだが。
「ほら、お母さん。こういう順番で書くと書きやすいよ」
懸命になって母親に書き方を教授している朝美。
健気なその姿にほっと一部の場も和んだりしながら、作業は進んでゆく。
分担作業ではあるものの、全員が同じ事をしているため、効率的にはそう大きく変化しない。
だが、自分の量という物が少なく見えれば、それなりにはかどりも違うというものである。
ところが……夜も相当更けた頃。それぞれに疲れが見え始めてきた。
「……随分たくさんあるね」
いつまで経っても終わりを見せない様相に、思わず隆士は呟いた。
集中して書きすぎたのか、普段は見ないようなペンだこが出来あがっている。
伸びをしている彼に、朝美は書き物を続けながら答えた。
「うーん、全部で5000通だから」
「ご、5000!?」
「そうなんだよ。でも大丈夫、4人で手分けして1人1250通でおさまるから!」
実際にはそんなきっちり四分割されるはずもなかったのだが、それに関してあえて隆士は突っ込まなかった。
もちろん、1250といえど相当大きな数であることには間違いない。
いやそれよりも、本来ならこれを二人でやろうとしていたことに彼はただただ驚いていた。
いずれにせよやはり今日は修羅場、つまり徹夜になってしまいそうであった。
と、既にどこかから寝息が聞こえてくる。
“早速黒崎さんが……”と思いつつ隆士が音のする方を見やると……
「……すーすー」
こっくりこっくりとふねをこいでる梢の姿が目に入った。
「お、大家さん……」
「……ん、ふわ……すいません、寝てしまってました……」
「大丈夫ですか?」
「ええ、なんとか。私、徹夜ってあまりしたことないものですから……」
すぐに気が付いたものの、大きなあくびをする彼女は相当に眠そうであった。
よくよく考えれば朝早くに起き出して荘の管理を行い、更には学校にまで通っている彼女。
日頃の疲れからして、徹夜にあまり耐えられそうにないのは予想が付くことであった。
と、ここで隆士の頭の中にある案が浮かぶ。
“別の人格ならば話は別かもしれない……”
しかし、“いくらなんでもそこまでして手伝ってもらえないよな”と、隆士はすぐに首を横に振った。
内職を手伝うと申し出たのはあくまでも蒼葉梢である。
赤坂早紀だとかに変わってもらっても、
たしかに徹夜には耐えられそうだが内職の手伝いなんざしてくれそうにもない。
「なんか、あれね……」
沙夜子がふと、眠そうな顔を上げた。
「こうして4人で書き物していると、締め切りに追われてる同人誌作家みたいね」
シャレにならないことを彼女はぽつりと呟く。
他の面々はずーんと落ち込むのは当然であり、隆士にいたっては、
「その締め切りに僕達も追われてるんですけど……」
と呟かずにいられなかった。
へろへろかつハイテンションになりながら、彼女達はなんとかすべてを書き終えたのだった。
「や、やった……これで、5000……」
最後の一通を書き終えたことを隆士が宣言する。
「いえ〜い」
「いえ〜い」
既にダンボールに突っ伏している梢と沙夜子の傍で、隆士と朝美は“パン!”と手を合わせた。
途中睡魔におそわれたり、睡魔におそわれている者を助けたり、
崩れてきたダンボールの下敷きになったり、などと苦労はあったものの、
無事に内職を達成できたことに喜びを感じていた。
「すっごく疲れたけど……」
「ほんとお疲れ様、お兄ちゃん……」
朝日を心地よく拝みに飛び出すなどという元気は既になかった。
徹夜明けで気分はハイテンション。しかし体がついていかない。
動かしつづけていた箇所は手だけのはずなのに、ここまで疲労がたまったのが不思議なほどである。
それでも、ふらふらとなりながらも立ち上がって、隆士は自室に戻ろうとした。
だが、ここである事にハッと気付く。
思い出したのだ。以前造花の内職を手伝ったときに襲われた最悪なオチを。
「く、黒崎さん……」
寝ている彼女を慌てて揺り起こす。
みみずのはった様な字が書かれたDMを額にはっつけて、沙夜子は目を覚ました。
「まさかまだ仕上がってないのは残ってませんよね?」
呼びかけながら隆士は、彼女の体からバラバラと未完成の造花が出てきたことを思い出していた。
あれのおかげで結局徹夜でも仕上がらず。そして見事専門学校にも遅刻してしまったのだ。
「……大丈夫よ」
「一応バンザイしてみてください」
彼女を立ち上がらせ、バンザイしてもらう。
落ちてきたものは何もなかった。本当にすべてが完成していたようである。
「大丈夫だよお兄ちゃん。みんな頑張ったもの。本当にありがとう」
朝日に輝く朝美の笑顔。
それに隆士は救われた気がした。ほっと息を付いてへなへなとその場に座り込む。
その光景を見て、朝美もぺたっとそこに座り込んだ。
「本当に終わったんだ……」
「うん、そう。終わったんだよ……」
「やったー……」
「やったー……」
脱力し、結局二人ともばたりと眠り込んでしまった。
つい先ほど起こされて立っていた沙夜子も自然と眠りに入る。
4人の寝息が聞こえる、黒崎ルームは静かな空間となった……。
あとがき:初のまほらば小説です。
…………むっちゃくちゃ苦労した!!の一言です。
雰囲気がまだつかめてない。キャラもまだ……ってな状況でしたから。
それでも、本を読みつつ、なんとか書き上げました。
本当は漫画の方が味があるとわかってるんですけどね(特に沙夜子さんとか<笑)
読めば分かることですが、基本的に第五話「ネガポジ」と同じ筋です。
違うのは梢ちゃんも一緒に手伝うって事。意味があったのかどうかはわかりかねますが。
最後は、特に大事も無く静かに終わってもらいました。
単に私が力尽きただけですけどね(爆)
次回作を書ける時が果たしてくるんだろうか……。
2001・6・19