知ってるといいかも?言葉集


その1『表現の幅が広がるかも言葉集』

★「水魚の交わり」
智子「水があってこそ魚が生きられるように、切っても切れない間柄という事だよ」
悟「へええ。なんだか深そうだね」
智子「また、離れがたい友人との交際や、夫婦の仲睦まじさを言うんだよ
悟「ふうん。じゃあ使い方は?」
智子「“あの二人は水魚の交わりの仲だね”とかかな」
悟「お姉ちゃんにとっては誰?」
智子「あたしより、悟君にとって誰なのかを知りたいな」
悟「僕は多分お姉ちゃんだよ」
智子「おっ、嬉しいこと言ってくれるじゃない」
悟「だって、お姉ちゃんと一緒じゃないとこうやって言葉解説できないしね」
智子「そういう意味……」
悟「そうだ。お姉ちゃんにとってはあの電気屋のおじさんじゃないかなって僕は」
智子「違うから」
悟「え、でも……」
智子「あたしにとっては是非睦月さんを推薦するからね!」
悟「すいせん……できるの?」

★「推参」
智子「相手の所に押しかけること。また、人を突然に訪問することを謙遜して言うってことだよ
悟「つまり遠慮してるんだね」
智子「まぁそういうことかな……。無礼なことやさしでがましいことなどにも使うんだよ
悟「たとえば?」
智子「“お忙しい中自宅にまで推参して、まことに申し訳ございませんでした”とかね」
悟「えーっと、僕がお姉ちゃんのお店に行く時も推参って言わなきゃ」
智子「悟君の場合はお客さんだからそうかしこまらなくてもいいんだよ?」
悟「でも、お姉ちゃんが逆に僕の家に来るときとか……」
智子「そういう事言ってたら友達の家に行くのにも遠慮しないといけなくなるでしょ?」
悟「あ、うん、そうだね。えへへ」

★「水泡に帰する」
智子「今までの努力がまったく無駄になってしまうことだよ
悟「みずあわにきする?」
智子「“すいほうにきする”って読むの。そうそう『水の泡になる』とも言うね」
悟「なあんだ。えーっと、じゃあ使い方は……」
智子「“こつこつと貯めたお金だったのに、額縁ごと盗まれて水泡に帰してしまった”とか」
悟「額縁?」
智子「ほら、へそくりとかね」
悟「お姉ちゃんそんなところにお金貯めてるの?」
智子「いやほら、もののたとえでね」
悟「じゃらじゃらいって重くならない? 飾ってある絵も落ちちゃうよ?」
智子「いやだから……。それ以前に、額縁の裏に隠すとしたらお札でしょ?」

★「末つ方」
智子「これは“すえつかた”って読んで、終わりの方、または季節や月の終わり頃
悟「という事なんだね」
智子「そういう事」
悟「使い方は……」
智子「“春の末つ方に家を出るつもりなんだ”とかね」
悟「えっ……お姉ちゃんどこへ行くの?」
智子「いやいや、これは実話じゃなくて例文だから」
悟「やっぱり……一人暮らしは大変なのかな。そりゃそうだよね、お姉ちゃんじゃあ無理だよね、色々」
智子「おーい。ってか、なんか諦めっていうか棘が入ってるような……」

★「好き物」
智子「色好みの人。または、単に物好きの人。っていう事だよ」
悟「色……何の色?」
智子「悟君にはまだ早いんじゃないかな」
悟「えー?」
智子「使い方は“あの人が好き物だという噂を聞いて付き合うのをやめた”とか」
悟「お姉ちゃん、色が早いってどういう事?」
智子「噂だけで判断するっていうのもどうかと思うけど、実際は大変だよねぇうんうん」
悟「お姉ちゃんってばー」

★「少なからず」
智子「これは、程度や数が少なくないっていうことだから……」
悟「ことだから?」
智子「たくさん、はなはだしいって時に使うんだよ。あと、しばしばって時とか
悟「具体的にはどんな時?」
智子「“彼は少なからずこの店に出入りしているようですね”とかね」
悟「その彼は誰なのかな?」
智子「それは悟君、あなたです」
悟「わーい、僕なんだぁ」
智子「そりゃあまぁ、毎日のように駄菓子を求める子はなかなかね」
悟「そうなの?」
智子「休日の時くらいは遠慮してほしいなって思うんだけど……」
悟「えへへへ、僕子供だから」
智子「そういう認識はこまーる!」

★「すくよか」
智子「すくすくと成長する。体が丈夫でがっちりしているという事だよ」
悟「ひらがな四文字だけど、そんな意味があるんだね」
智子「心がしっかりしているさまを表しているんだよ
悟「使い方は?」
智子「“幼少の頃は病気がちだったが、すくよかな彼女の姿を見て安心した”とか」
悟「お姉ちゃんはすくよか?」
智子「多分……」
悟「じゃあ僕は?」
智子「多分……」
悟「お姉ちゃん、そういう自信の無い返答は困るよ」
智子「いやぁ、なんというか、色々考えてたらちょっと」

★「素気無い」
智子「すげない、と読んでね。人に対する同情や思いやりの心が無いってことだよ
悟「すげない?」
智子「別の言い方をすると、薄情である、無関心で愛想が無いというとこかな」
悟「えーと、そっけない、ってことだよね」
智子「さて使い方は“あの人からは、素気無い顔でいつもあしらわれる”
悟「……お姉ちゃん、なんかすげないよ?」
智子「そうそう、そんな感じ。うんうん、悟君も使い方よくわかってきたじゃない」
悟「使い方っていうか、それはお姉ちゃんの方が……」

★「すこぶる」
智子「非常に、大変、または、少し、っていう事だよ
悟「結局どっちなの?」
智子「どっちも。すこぶる付きの美女、っていうのはずばぬけた美女のことだよ」
悟「どっちも……」
智子「使い方は“彼はすこぶる元気ですよ、ご心配なく”とかね」
悟「お姉ちゃんはすこぶる元気?」
智子「……」
悟「なんでそこで黙るの?」

★「筋金入り」
智子「身体や思想が、少しの事では揺るがない強さを持っていることだね
悟「なんでこう言うの?」
智子「えっと、ものの強度をを増すために、内部に針金などを入れることから……だって
悟「へええ〜」
智子「“彼の事件マニアは筋金入りだ”とかってね」
悟「お姉ちゃんのことじゃないの?」
智子「あたしは事件マニアじゃないでしょ、ふふん」
悟「う、うん……」

★「すずろ」
智子「なんとなく心がひかれるさま。はしたなくふるまうさま。理由がなかったり無関係なことという事だよ」
悟「お姉ちゃん、一度にたくさん言いすぎ……」
智子「予想だにしなかった?予期しない様子という事でもあるんだよ」
悟「……えっと、使い方は?」
智子「“すずろ心”
悟「……ねえ、どういう意味?」
智子「浮ついた心」
悟「うう〜……」

★「集く」
智子「これは“すだく”って読むんだよ」
悟「そんなの読めないよ……。知って無いと」
智子「まぁそうだね。群がり集まる。虫なんかがたくさん集まって鳴いている様という事だよ」
悟「どう使うの?」
智子「“秋の野に集く虫達が、一斉に鳴き出した”とかね」
悟「合唱大会みたいで楽しそうだね」
智子「おっ、うんそうだね」
悟「お姉ちゃんは参加したりしないの?」
智子「なんであたしが?」
悟「鳴き声で犯人を当てるの。ゆっくり片手を挙げて指差して、犯人はお前だ! って」
智子「何の犯人……」

★「即ち」
智子「すなわち、って読むんだよ」
悟「すなわちこれはどういう意味?」
智子「言い換えれば、つまり、という接続詞。また、すぐに、という副詞だよ」
悟「接続詞、副詞ってどういう意味?」
智子「“あたしは駄菓子を扱ってて、即ち駄菓子屋を営んでいるのですが……”とかね」
悟「使い方じゃなくて、接続詞と副詞って……」
智子「即ちこれにてお終い!」
悟「お姉ちゃん誤魔化した……」

★「術が無い」
智子「すべがない、って読むんだよ」
悟「うん。どういう意味なの?」
智子「なすべき手段がない、どうしようもないということだね」
悟「解説の術が無い、とか」
智子「“先に使い方言われてあたしはなす術が無い”とかね」
悟「あ、ごめんなさい」
智子「そう謝られてもあたしはなす術が無い〜」
悟「お姉ちゃん、楽しんでる?」

★「すべからく」
智子「これはね、当然、本来ならば、という意味でね……」
悟「で?」
智子「下に「べし」っていう助動詞……を伴っているんだよ
悟「じょどうし?」
智子「えー使い方は“分からない言葉を聞いたら、すべからく辞書をひいて調べましょう”とか」
悟「お姉ちゃんが教えてくれないの?」
智子「ちょっと待ってね、辞書取りに帰るから」
悟「うん」
智子「じゃあね〜」
悟「ばいばい、お姉ちゃん〜。……あれ?」

★「住めば都」
智子「これはよく聞くんじゃないかな」
悟「うんっ」
智子「どんな所でも、慣れてしまえばそこが一番住みやすい! という事だね
悟「お姉ちゃん、使い方は?」
智子「“狭くて汚いアパートだが、一月も暮らしていれば住めば都だ”
悟「お姉ちゃんは将来そうなるの?」
智子「いやぁ、無理でしょ。駄菓子屋あるし」
悟「お姉ちゃんが外に出ていったら寂しいよ。ずっとここにいてね」
智子「あはは、まぁ多分ずっとここにいるから」
悟「約束だよ?」
智子「はいはい。……って、やけに真剣だね」

★「既の事」
智子「すんでのこと、だよこれは」
悟「どういう意味?」
智子「今にも、もう少しのところで、という事だね
悟「たとえば?」
智子「“危うく車に接触しそうになったが、既の事で無事だった”とかね」
悟「ずいぶんと際どいんだね」
智子「まぁだいたいそういう感じで使うかな。……どうしたの?」
悟「お姉ちゃんの駄菓子って、既の事で買えなかったってのがあまり無いから助かるなーって」
智子「そう、ね……」

★「赤心」
智子「赤っていうのは明らかという意味でね、偽りの無い心、真心のことだよ
悟「これ、あかごころ、って読むの?」
智子「せきしん、だよ」
悟「ふ〜ん。使い方は?」
智子「“私の赤心が、彼に通じ、変わってくれることを願ってやまない”とかね」
悟「お姉ちゃんの……どんな心だろ……」
智子「それは企業秘密ってことにしといてね」
悟「……」

★「世間の口」
智子「世間の人々がたてる噂だね」
悟「うわさって人がたてるからだよね」
智子「よく、世間の口に戸は立てられぬっていうけど、世間の噂は防ぎようがないってことだね」
悟「それ以外はどういう使い方するの?」
智子「“世間の口はちょっとしたことでもうるさいから、気をつけて行動なさい”とかね」
悟「お姉ちゃんがすっかり少女探偵さんになってることとか?」
智子「いやあ……って言っても、あたしのを堂々と探偵とか言ってたら本物さんに怒られるから」
悟「そうなの?」
智子「ま、趣味ならなんとでも言えるでしょ。というわけで悟くん、あたしのはあくまでも趣味、だからね」
悟「趣味だけどいろんな人からお礼いわれてるよね。お姉ちゃんすごいや」
智子「すごい、って思ってていいのかな……」

★「節句働き」
智子「人が休むのはだいたい節句。そんな時に働いている人は……」
悟「すっごく働くのが好きなんだね」
智子「そうじゃなくてね……普段怠けている人がわざと忙しそうに働いている様なんだよ」
悟「怠けているけど働くの?」
智子「要は、怠けていたツケを払っているようなもんじゃないかな。あーでもこれはフリに近いか」
悟「ふーん?」
智子「“こんな、皆が寝静まっている時にわざわざ忙しそうにするなんて、なまけものの節句働きに違いない”とか」
悟「本当に年中働いている人は?」
智子「その人は怠けてないでしょ? そういう事」
悟「うん」

★「是非も無い」
智子「いいも悪いもないっていう意味でね……」
悟「うん」
智子「仕方が無い、やむをえないという状態を表すんだよ
悟「どう使うの?」
智子「“ご両親の不幸があったのなら、是非もなく帰ってあげなさい”とかね」
悟「お姉ちゃんの場合は……」
智子「悟君含め、商店街の皆よ」
悟「うん、ありがとう」

★「せめてもの」
智子「不十分ではあるが、できる限りの、最小限のという事だよ」
悟「どういうときにつかうの?」
智子「納得はできないけどやむをえないっていう気持ちを強調してね、言うんだよ」
悟「たとえば?」
智子「“彼が欠けた原因を作ってしまったが、せめてもの償いとしてこれを使ってくれ”とか」
悟「これ?」
智子「ああ、いや、これはたとえだからたとえ、ね?」
悟「しょうがないなぁ。せめてもの納得してあげるよ」
智子「それ、そういう使い方じゃないから」

★「忙しい」
智子「多忙でゆったりした気持ちになれない。精神的に気がせくとかそんな感じ」
悟「いそがしい?」
智子「せわしい、って読むの。他人を落ち着かない気持ちにさせる時にも使うんだよ
悟「どんな使い方?」
智子「“彼が忙しく、私はちっとも落ち着けない”とか」
悟「早く、早く、新しいお菓子を作って億万長者になってよ」
智子「そうそう、忙しいってそんな感じで……って、そんな簡単に億万長者になれるわけないっての!」
悟「冗談なのに……」

★「詮方無い」
智子「打つべき方法が無い、どうしようもない、仕方が無い……そんな感じかな」
悟「要するにピンチなんだね」
智子「あと、非常に哀しくてがまんできない、といった場合にも使うかな
悟「たとえば?」
智子「“どう頑張っても彼女をまもれなかったのは詮方無いことではある”とか」
悟「なんて哀しいんだろ……お姉ちゃん、どうしよう?」
智子「いや、これはたとえだし」
悟「だって、お姉ちゃんが、お姉ちゃんが……」
智子「なんであたしなわけ?」

★「千秋の恨み」
智子「これはね、悟君……」
悟「う、うん」
智子「長年忘れる事のできない恨み事や残念事だよ……」
悟「お姉ちゃん、なんか恐い」
智子「“彼女に陥れられた出来事が、千秋の恨みとしてこの胸に残る……”とかね」
悟「何かあったの?」
智子「雰囲気だよ、雰囲気」
悟「お姉ちゃん演技派なんだね」
智子「いやー、そこまで言われると」
悟「あ、それとも経験者は語る?」
智子「それは違うから」

★「千秋の思い」
智子「千年も待ち続けている気がするほど非常に待ち遠しい思いの事だね」
悟「あ、聞いた事あるよ。いちじつせんしゅうのおもい、ってやつだね」
智子「うんそうだよ。“彼の帰省を一日千秋の思いで待つ”とかね」
悟「お姉ちゃんはそんな人いないの?」
智子「今は居ないなぁ」
悟「僕がその相手だったら嬉しい?」
智子「うーん、毎日のように会ってるし……」
悟「じゃあ僕引っ越すよ!」
智子「へ?」
悟「僕の家新築にするんだって」
智子「そ、それは急な話だね……いつ? どこに?」
悟「今の隣の家だって。増築分のを仮住まいにするんだって」
智子「あ、そ……」
悟「ねえねえ、千秋の思いは?」
智子「いや、隣の家だったら今までとほとんど変わらないし……」

★「詮ずる所」
智子「あれこれ考えてみたところ、つまり、結局、要するにという事だよ」
悟「詮ずる所、どうなの?」
智子「“詮ずる所、解説者の言葉をとっちゃう悟くんはあまりよろしくないと思います”
悟「……ごめんなさい」
智子「いいよ、そういう素直な悟君は好きだからね」
悟「本当にごめんなさい。お姉ちゃんのする所はそこが半分なのに」
智子「……やっぱり許してあげない」
悟「え、え、え?」

★「先達」
智子「案内者、指導者、ある方面で立派な業績を上げて後輩を導く人という事かな」
悟「お姉ちゃんにとっては誰?」
智子「おばさん、かなぁ……。あ、八百屋のおばさんのことね」
悟「何の先達?」
智子「“あたしが今の商売を続けられているのも、先達のおかげなのです”かな」
悟「そっかー、そうだよね。でもお姉ちゃん器用だから何でも一人でできそう」
智子「いやいやいや、それはないよ。色んな人に助けられて自分があるからね」

★「先手を打つ」
智子「相手よりも先に物事を行って優位に立つことだね」
悟「たとえば?」
智子「“おしゃべりの先手を打って、先に話題を切るのもあり”とかね」
悟「よーしっ、じゃあこの解説はここでおしまいだね」
智子「ちょっと悟君、あたしはおしゃべりじゃないんだから!」
悟「……」
智子「おーいっ」

★「千里も一里」
智子「千里のような道もわずか一理ほどにしか感じられないという事だよ
悟「凄いね。どんな人なんだろう」
智子「“貴方に会うためならば、どんなに遠くても千里も一里です”とかだね」
悟「そっか。お姉ちゃんの駄菓子を食べるためならば千里も一理、だね」
智子「いやー、それはそれで光栄だけどね。無理はしないでね」
悟「うん。ご飯もあるしね」
智子「……そう、だよね」
悟「なんで落ち込んでるの?」
智子「いや、気にしないで」

★「千両役者」
智子「千両もの高級がとれるような格式が高く優れた役者。また技量がずばぬけている人だよ」
悟「お姉ちゃんにとっては誰なの?」
智子「技量っていうならこの商店街の人は誰もそうかなぁって思うよ」
悟「へええ、凄いんだね。使い方はどうなんの?」
智子「“彼のような千両役者こそ、もっと評価されてしかるべきである”とか、かなー」
悟「そうなんだ、凄いねー」
智子「さっきから悟君、凄いってしか言ってなくない?」
悟「そんなことないよー」


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