知ってるといいかも?言葉集


その1『表現の幅が広がるかも言葉集』

★「恋の鞘当」
智子「恋敵同士が争うこと。または、その争いっていう事だよ」
悟「どういうこと?」
智子「だからぁ、一人の好きな人をめぐって複数の人が争うんだよ。うーん、熾烈だねぇ」
悟「ふーん…?」
智子「さて使い方は“恋の鞘当を持ってくるなら、容赦はしない”とかかな〜」
悟「うーん…ねえお姉ちゃん」
智子「何?」
悟「睦月のおねーちゃんって結婚しないのかなぁ?」
智子「はあ?なんでそんな話題になるのかなぁ?」
悟「え、あ、ううん、なんでもない」
智子「どうしてかなぁ?悟くぅん?」
悟「お、お姉ちゃん目がこわいよっ」

★「甲乙つけがたい」
智子「これはねどちらが優れているか決めることができないっていうことだよ」
悟「なんで甲乙っていうの?」
智子「昔、通知簿を甲乙丙丁でつけたからだよ」
悟「成績の付け方なんだ?」
智子「うん。で、使い方は“二人の選手としての実力は甲乙つけがたい”とか」
悟「お姉ちゃんの成績って甲?」
智子「いやぁ、そこまでも」
悟「じゃあ乙?」
智子「うーん、それくら…」
悟「ひょっとして丙?」
智子「へ?」
悟「あ、わかった、丁なんだね?お姉ちゃん、もっと勉強しなきゃ」
智子「悟君…わざと?」

★「好事魔多し」
智子「楽しい事や嬉しい事にはじゃまが入りやすい…という事だよ」
悟「たとえばどんなときかなあ?」
智子「使い方は“好事魔多しだから、浮かれてばかりはいられない…”
悟「ねえねえ、どんな時?」
智子「…この前、ある方とクラシックコンサートに行けるはずだったの」
悟「うん」
智子「ところがね、鍋の蓋が落ちたなんていう事件が発生してね、おじゃんになっちゃってね…」
悟「なにそれ…どういう事件?」
智子「あたしが聞きたいよ!ったくぅ、絶対に許すまじ…」
悟「え、えっと、落ち着いてお姉ちゃん、ね?」

★「後塵を拝する」
智子「地位や権力のある人に媚びる。先輩などの優れた人の後に従うという事だよ」
悟「要するに上級生のおにいさんおねえさんの言うことはちゃんと聞きなさいってことだよね」
智子「そ、そう?えーと、人に先んじられ、遅れをとるという事でもあるんだよ」
悟「要するに同級生の子にトップをとられてくやしーいってことだよね」
智子「う、うーん…。えーと使い方は“ぐずぐずしている間に彼の後塵を拝してしまった”とか」
悟「お姉ちゃんの場合ライバルは誰なの?やっぱり電気屋のおじさん?」
智子「どこがどうしてそういう話に…」
悟「だって探偵業のライバルでしょ?」
智子「いや、違うから」

★「功成り名遂げる」
智子「これは、何かを立派に成し遂げて、同時に名誉も得るという事だよ」
悟「凄い凄い立派なことなんだね」
智子「そうだよ。栄華を極めることでもあり、『名を遂げる』とも言うんだよ
悟「うわぁ、本当に凄い凄いんだね」
智子「えっと、使い方は“彼はあの時の成功で、功成り名を遂げた”ってな具合かな」
悟「たとえばおねえちゃんの場合は…世界駄菓子屋選手権に参加して…」
智子「いや、そんなのないから」

★「子飼い」
智子「これは子供や動物を小さい頃から育てるという事だよ」
悟「文字通り、子供を飼うってこと?うーん…」
智子「あと商家の雇い人やその職人の内弟子を言う事が多いんだよ
悟「へええ。でも、なんで飼うなの?育てるじゃないの?」
智子「そうだねぇ。また一人前に育て上げるという意味もあるんだよ
悟「…使い方は?」
智子「えーと“あの人は社長の子飼いの部下だから信用できない”とか」
悟「そっか、飼い慣らされたっていう意味なんだね。あんまりいい印象じゃないんだ。なーんだぁ」
智子「えと…あー、うん、やっぱそんな印象になっちゃうかな」

★「黒白を争う」
智子「これはね、二つの物事の是非、善悪をはっきりとさせるという事だよ」
悟「くろしろ?」
智子「ううん、これは“こくびゃく”って読むの」
悟「へええ…で、使い方は?」
智子「“彼女の行動について、黒白を争うため会議が行われた”とか?」
悟「…なんで僕に聞くの?」
智子「ふふーん、悟君に正しいかどうか黒白を争ってもらおうと思って」
悟「それって使い方間違ってない?」
智子「どうしてそう思うの…」
悟「お姉ちゃんよくそういう失敗してるし」
智子「………」

★「虚仮威し」
智子「うわべだけで実質が伴わないおどし、外見だけを立派に見せ、内容がないという事だよ」
悟「これ、なんて読むの」
智子「さあて、何て読むと思う?」
悟「うーん…」
智子「さて使い方は、“そのような虚仮威しは彼には通用しない”とかかな」
悟「ああ、こけおどし、なんだね」
智子「そうそう、そういう事」
悟「へええ、そうだったんだぁ、ふーん…」
智子「ど、どうしたの?」
悟「ううん、納得しただけだから。気にしないで」

★「虚仮の一念」
智子「何事も熱心にやれば成し遂げられるものだという事だよ」
悟「どんなことでも?」
智子「そ、どんなことでも。虚仮っていうのは愚か者のことで、虚仮の一心とも言うんだよ
悟「たとえば……お姉ちゃんの年を僕が追い越すとか?」
智子「それはさすがに……。さて使い方は“虚仮の一念で自分の店を持つに至った”とか」
悟「じゃあ……お姉ちゃんに成り代わって駄菓子屋の店長を……ううん、やっぱり僕じゃ無理だよね」
智子「さっきから何言ってるの悟君」
悟「さすがに僕は探偵にうつつぬかせられないしね」
智子「ってこら! それはなんかの当てつけ!?」

★「苔の衣」
智子「僧侶や隠居者なんかが着る着物だよ」
悟「えっ?苔を着る…の?」
智子「苔を衣服にみなしているってことだね」
悟「へええ…使い方は?」
智子「えっとね、歌語として用いられる事が多いそうだよ」
悟「使い方は?」
智子「うっ、くっ…」
悟「泣き真似してもだめだよお姉ちゃん。使い方は?」
智子「うわぁ、何で今回はそうつっかかるかな…悪いけど今回はパス!」
悟「しょうがないなぁ…えっと、“白露に苔の衣はしぼるとも月の光はぬれむものかは”とか」
智子「…なんで悟君がそんなの知ってるの?」
悟「僕文学少年だから。えへ」
智子「そういうもんなのかなぁ…」

★「柿落とし」
智子「新築の劇場で初めて行われる興行。または、公的な施設が開業することだよ」
悟「こけらおとし、って読むんだよね。僕聞いたことあるよ」
智子「こけらっていうのはかんなのことで…家が完成した時にかんなくずを屋根から払い落とす事から転じた言葉だよ」
悟「へええ。ねえねえ、使い方は?」
智子「“さる劇場の柿落としでは、伝説にいわれた劇を復活させた事が話題を呼んだ”とかかな」
悟「へえ、それってどこの劇場?」
智子「いや、たとえだから…」
悟「なぁんだ。どこかのお話からもってきたんじゃないの?」
智子「なんでそう思うの…」
悟「僕にはわかるんだよ。…なんてね、ちょっと言ってみたかったんだ」
智子「へえ…?」

★「心当て」
智子「心の内で当てにしていたこと、心構えという事だよ」
悟「凄い言葉だなあと思ってたけど、こっちが当てにしてるんだね」
智子「また、当て推量という場合にも使うんだよ。って、どう思ってたの?」
悟「相手の心を当てるってことかなぁ、って」
智子「それはさすがにそのまんまじゃないかなぁ?」
悟「うー」
智子「え、えっと使い方は…“心当てにしていた彼が来なくなった”とか」
悟「わかった。お姉ちゃん分かったよ」
智子「何が?」
悟「お姉ちゃんは多分ね、心当てにしていた砂糖が入手できなくて、僕に甘くないんだ?」
智子「いや、ごめん。何言いたいのか全然わかんない…」

★「心変わり」
智子「心が他のものに変わることだよ」
悟「そのままだよね」
智子「えーとね、男女間の愛情や好みが変わる場合に用いられる事が多いんだよ
悟「ふーん…。使い方は?」
智子「“彼女の突然の心変わりに、僕はどうしようもなくなった”とか」
悟「お姉ちゃんは心変わりは?」
智子「ないない、絶対ないから。何がどう間違っても無いから。絶対にね」
悟「凄い強調の仕方だね…」

★「心尽くし」
智子「人のためにこまごまと心を砕くっていうことだよ」
悟「砕けるの?なんだか可哀想…」
智子「えっと、悪い意味じゃなくってね。えーとそれから、様々に思い悩む心の状態って事だよ」
悟「悩んでるんだ…。悩んで砕けるなんて…深刻そうだね」
智子「う、うーん…。えっと使い方は、“彼から心尽くしの手料理を振舞われた”とか」
悟「手料理を振舞われて…多分美味しくないって言いうんだね…。だって砕けるんだもん」
智子「いやいやいや、違うから。そもそも、砕けるって悪い砕けるじゃなくて」
悟「じゃあなに?お姉ちゃんは砕けてもいいっていうの?」
智子「直球で言われると困るけど…。あのね、細かいところまで気を配るっていうのかな…」
悟「かな?」
智子「かな?かな?そう、かなかなかな…だめ?」
悟「何言ってるのお姉ちゃん」
智子「…ごめんなさい」

★「心無い」
智子「他人に対する思いやりの心が無いという事だよ」
悟「その通りの意味なんだね」
智子「あと、思慮分別が無い、物の風情が分からないという事だよ」
悟「とんでもなくどうしようも無い人っぽいね…」
智子「そうだね。使い方は“心無い彼にも、この自然の壮大さを感じられるだろうか”とか」
悟「…そういやお姉ちゃん」
智子「何?」
悟「お姉ちゃんは、作ってるものにも心ってあると思う?」
智子「それは難しい質問だね。心を込めて作るっていうことはできるけど…」
悟「けど?」
智子「あとは、自分とその物達次第なんじゃないかなー」
悟「…ぷっ、あははは」
智子「どうしたの?」
悟「だって、お姉ちゃんのその言い方だと、やっぱり物に心があるみたいじゃない。おかしいの」
智子「あっ…ああ、そっ…か」

★「心の鬼」
智子「自分のやましい心をとがめる。良心の呵責に苦しめられる…という事だよ」
悟「心の中に鬼がいるっていうこと?こわいなぁ」
智子「ああ、いや、そうじゃなくてね。あと、煩悩や嫉妬の心でもあるんだよ」
悟「やっぱり鬼なんじゃないの?煩悩の鬼とか」
智子「そういうやましい方向の鬼じゃないと思うよ。あ、使い方は“心の鬼にさいなまれ、彼女はついに自白した”とか」
悟「もしかして、自分の心を諌める鬼?」
智子「ああそうそう、そういう事。…って、よく知ってるね、そんな言葉」
悟「お姉ちゃんがたまに使ってるでしょ。おじさんを諌めたんだーとか」
智子「…え?」

★「心ばえ」
智子「人の性質、心のありようっていうことで、特に、いい心構えのことを言うんだよ
悟「うむ、おぬしは心ばえがよいのう。だねっ?」
智子「だねっ、って言われても困るけど…。えっと、風情を表す場合にも用いるんだよ
悟「風情?」
智子「春の心ばえ、とかね。さて使い方は、“なんと心ばえのよい方であろう”とかかなぁ」
悟「ところでお姉ちゃん、最初の僕の発言無視したでしょ」
智子「無視はしてないよ。返答に困っただけ」
悟「嘘だ。僕の心ばえに嫉妬してるんだ」
智子「何それ…」

★「腰折れ文」
智子「これはねぇ、年老いて腰が折れ曲がっているような文章という事なんだよ」
悟「どういう事?」
智子「要するにね、下手な文章なの。自分の文章を謙遜して言う時にも使うけどね」
悟「へえ…。たとえば?」
智子「たとえば“腰折れ文ではございますが、なにとぞお読みください”とか」
悟「お姉ちゃんは?」
智子「あたし?あたしは国語の成績抜群だよ。任せといて」
悟「じゃあ僕の代わりに書いてよ。隣町の工場に関する苦情文なんだけど…」
智子「なんで悟君がそんなの書いてるの…」

★「来し方行く末」
智子「これはね、過ぎ去った日々とこれからの日々という事だよ」
悟「来る、のに過ぎた日なんだ?」
智子「そう、そうなんだよぉ。あと、やってきた方向とこれから進んでゆく方向という事でもあるんだよ」
悟「うん、それなら、来るっていうのは納得できるんだけど、なんで過ぎたのが、来る、なの?」
智子「さあて使い方は“あの人の来し方行く末を思うと涙が止まらない”とか」
悟「お姉ちゃん、どうして?どうして?」
智子「さあ、今日はここでおしまいだよ。また明日ね〜」
悟「別にこれは一日一回じゃないでしょ。ねえお姉ちゃんってば」

★「去年」
智子「過ぎ去った年の事で、年のはじめに振り返ってみて、と使うことが多いんだよ
悟「ふうん」
智子「古くは、昨夜という意味にも使ったんだって
悟「去年、ってそういう意味もあるんだね」
智子「おっ…。まあいいや、さて使い方は“去年、めでたき事の盛りであった”なーんてね」
悟「お姉ちゃん、さっきの"おっ"って何?」
智子「悟君、きょねん、って読んだでしょ。実はこれ、こぞ、って読むんだよ」
悟「あっ、そうなんだ?」
智子「そう。こぞ、あたしの華が芽を開いた、とかとか」
悟「…お姉ちゃん、さっきからどうしたの?」
智子「何が?」
悟「調子に乗ってるのはいつものことだけど、わざと古臭そうな言葉を使ってるあたりらしくないなって」
智子「ほっといてよ…」

★「言問う」
智子「物を言う、話をする、訪れる、男女が言い交わす…と、そんなところかな」
悟「そういう意味なんだ?」
智子「うん。で、使い方は、“言問う人もいないかの地に、彼は姿を消した”とか」
悟「えーっと…この商店街は沢山の人が言問う、ということだよね?」
智子「そうそう、そうだね」
悟「なんか、あっさりしすぎてる気がするんだけど…」

★「子は鎹」
智子「夫婦の間に危機が訪れても、子供への愛情で辛抱して長い縁が保たれるという事だよ」
悟「そっかあ。じゃあお姉ちゃんのお父さんお母さんも…」
智子「あたしの、は関係ないでしょ。別格だとは思うけどね」
悟「そうなんだ?」
智子「届いてる手紙見る限りだと物凄く仲がいいんだよね…さて、それはそれとして」
悟「ん?」
智子「使い方は“子は鎹と申しましても、あの二人はもう…”とか」
悟「もう…なに?」
智子「子供は知らなくていいの」
悟「お姉ちゃんだって子供のくせに…それに、そんな言い方よくないよ?」
智子「…すみません」
悟「うんうん、わかればいいんだよ」
智子「って、なんであたしがこんなこと言われてるんだろ」

★「ごまめの歯ぎしり」
智子「無力なものが怒っても、後悔しても、どうにもならないという事だよ」
悟「ごまめってなあに?」
智子「ごまめはね、カタクチイワシの幼魚を干したもの。ごまめは小さいから歯ぎしりしても音はでないという事だね」
悟「へええ、そうなんだ。じゃあつかい方は?」
智子「“たとえごまめの歯ぎしりだとしても、俺は行動せずにいられない”とか」
悟「ところでなんで歯ぎしりなの?」
智子「さあ、なんでだろうねえ」
悟「そもそも魚って歯ぎしりするの?たとえばサメとかってどんな音がするのかなあ?」
智子「いや、それは…自分で調べて? うん」
悟「えーっ」

★「逆さ別れ」
智子「年の順で死に別れるのではないという事で、親より先に子供が死ぬという事だよ」
悟「これって…」
智子「そう。“逆さ別れは親不孝の見本である”ってことだね」
悟「お姉ちゃん…先に死んじゃ嫌だからね?」
智子「あたしは大丈夫だって」
悟「でも、お姉ちゃんって毎日働きすぎだし、過労死するんじゃないかって…」
智子「いや、そこまで働いてないから」

★「賢しら」
智子「これはね、利口ぶっていかにも分かっているという態度をするという事だよ」
悟「なんか心当たりがある気がするんだけど…」
智子「気のせいだよ。あとでしゃばることでもあるんだよ。ちなみに…」
悟「ちなみに?」
智子「“賢しら人”っていうのは、利口ぶった人、という事だね」
悟「ふうーん…」
智子「使い方は、“いかにも、というように、彼らは賢しらげに頷いた”とか」
悟「ぼ、僕は賢しら人じゃないからね」
智子「分かってるよ。悟君は普通に賢いからね。うんうん、いい子いい子」
なでなで 悟「お、おだてても何もでないからね」
智子「…なんでそんなに警戒してるの?」
悟「おどおどしてれば疑われないかな、って」
智子「いや、そういう問題じゃない、っていうかむしろ…」
悟「え?」

★「逆捩じ」
智子「相手に詰寄られたり批難された時、逆にやり返すっていう事だよ」
悟「ふうん」
智子「あと“逆捩じを食う”っていうのは、逆になじられたり追い詰められたりするっていう事だよ」
悟「へええ」
智子「使い方は“些細な頼み事を聞いてくれと詰寄ったら、
   ぶっきらぼうに普段の自分の姿を突きつけられ逆捩じを食った”
とか」
悟「…よくわかんないよ」
智子「あ、そ、そうだね。ちょっと抽象的過ぎたかな」
悟「お姉ちゃん、もっとしっかりと…あ、う、ううん、なんでもない」
智子「どうしたの?」
悟「下手に逆らうと絶対お姉ちゃんから逆捩じを食うから」
智子「おおっ、早速使えてるね。…って、それってどういう意味?」
悟「気にしない気にしない」
智子「悟君!」

★「先立つ」
智子「人の先頭に立つ、物事が行われる前にする、何よりもまず必要になる…と、こんなとこかな」
悟「なんかかっこいいね。我なくしてここは通せぬ!って」
智子「どういう事?あと、先に死ぬ事だよ」
悟「先立つ俺に代わって、この世界を守ってくれ…だね!」
智子「う、うん…。えーと、使い方は“先立つ資金が無いために、あの建設計画を断念した”とかかな」
悟「先立つことはすばらすぃ〜♪」
智子「さ、悟君?何か変な番組でも見たの?」
悟「ふっふっふ、先立つ情報がほしければこのクイズに答えよ!」
智子「だめだこりゃ…」
悟「それでは第一問!」
智子「だああ、もうおしまいっ!」

★「細れ」
智子「字の通りだけど、細かい、小さなという事だよ」
悟「お姉ちゃん、これ何て読むの?」
智子「これは、さざれ、って読むんだよ」
悟「うー、こんなの読めないよ」
智子「使い方としてはね、名詞の上に引っ付けて…“細れ石”とかね」
悟「ん?なんか聞いたことあるような…」
智子「さ〜ざ〜れ〜〜〜い〜し〜の〜♪っていう歌があるよね」
悟「あ、うんそれそれ!先に言おうと思ったのにお姉ちゃんずるいや」

★「差し金」
智子「陰から人をそそのかして操る事だよ」
悟「なんでそれを差し金っていうの?操り人形とかって糸だと思うし…」
智子「棒の先の針金に蝶をつけて操る小道具が歌舞伎にあるんだよ。それを「差し金」って言ってねそこから転じたの
悟「へええ、そうだったんだぁ。使い方は?」
智子「“一体誰の差し金でこんなことを…!”って感じかな」
悟「お姉ちゃんは誰の差し金で解説なんてやってるの?」
智子「心外だなぁ…あたしは率先してやってるんだからね?」
悟「あ、そうだったんだ。てっきり電気屋のおじさんから…」
智子「おじさんから?」
悟「『探偵やるからには知識も豊富じゃないとね。まずは言葉解説からだよ!』って」
智子「うーん…それありそう…。理にかなってるし…」

★「差しつ差されつ」
智子「相手の杯に酒をついだりつがれたり…と、酒を酌み交わす様だよ
悟「差すっていうのは、お酒を差すってことなのかな?」
智子「だろうね。さて使い方は“あの方と差しつ差されつとは…人生悔い無しってことですかな?”とか」
悟「よくわかんないけど、それって大げさじゃないの?なんでお酒ついでつがれてで悔いがなくなるの?」
智子「いや、ただのたとえだから…」
悟「それよりお姉ちゃん、酒屋のおじさん呼ぼうよ。きっといい酌み交わしをやってくれるよ」
智子「悟君、酌み交わしっていうのは一人じゃできないんだよ?」
悟「え?お姉ちゃんが相手するんじゃないの?」
智子「しないよっ!それにあたしは未成年!」

★「さして」
智子「それほど、たしてい、という風に、それが大した程度のものでないという事を表すんだよ
悟「どう使うの?」
智子「打消しの言葉を伴ってね、“凄いと聞いてきたこの絵画も、さして感動を与えない”とかかな」
悟「ふーん…さしてよくないんだね」
智子「は?何が?」
悟「えーっとね…あ、そうそうお姉ちゃん、この間ね…」
智子「ちょっと悟くん、どうして話をそらすの?今、な・に・を・い・お・う・と・し・た・の?」
悟「う、あ…ご、ごめんなさいーっ!」
ダッ 智子「ああっ!な、なんで逃げるの!?ちょっと悟くんってばー!!」

★「匙を投げる」
智子「治る見込みが無い、と医者が患者を見放してしまったり、取り組んでいた物事の途中で見切りをつける事だよ
悟「あ、これ、“さじをなげる”だね。何て読むかと思ったよ」
智子「ああ、ちょっと難しかったかな。ちなみにこの匙は、薬の調合に使う「匙」の事だよ
悟「ふうーん。で、使い方は?」
智子「“その問題のあまりの難解さに、彼は結局さじを投げた”ってな感じだね」
悟「お姉ちゃんもさじをなげることがあるよね?」
智子「あたしは何でもそう簡単に諦めないよっ。どうして?」
悟「だって、お花屋のおねーちゃんが…」
智子「…如月さんが?」
悟「“智子ちゃんはいっつもお話を途中でなげだすのー。若いのに根気が足りないわー”って」
智子「いや、悟君、あの人の話は別でしょ…」
悟「でもお姉ちゃん、さじをなげるくらいなら最初から取り組まない方がいいよ」
智子「いや、だからね…」

★「さすが」
智子「そうは言うもののやっぱり…という事で、前のものと矛盾することを言う時に用いるんだよ
悟「これ、よく聞く言葉だよね」
智子「そうだね。また、予想通りに、あれほどの、っていう意味にも使うんだよ
悟「僕はそっちの意味で聞くことが多いなぁ」
智子「さて使い方は“確かに冷夏とは言うけど、さすが台風がくると暑い”とか?」
悟「なんで疑問系なの?」
智子「いや、ほんの少し自信がなくてね…」
悟「さすがお姉ちゃんだね」
智子「…その使い方はどうかと思うよ?」

★「誘い水」
智子「他の物事の誘因となるものだよ
悟「ゆういん?しかもなんで?」
智子「井戸の水が出なくなった時に、ポンプ内に水を入れて水を誘い出したことから言うんだよ
悟「あ、ふうん、へええ…」
智子「使い方は“学内でも有名な彼を招けば、誘い水となって他の生徒達も参加してくれるかもしれない”とか」
悟「じゃあさ、こういう言葉解説をしていれば、誘い水となって、僕の友達も連れてこられるかもね」
智子「ああ、それはいいねえ。是非連れておいでよ」
悟「そうだね。1000回超えたらね」
智子「何それ…」

★「定めなき世」
智子「いつどうなるかわからないこの世、いつ死ぬかわからないこの世…という事だよ
悟「な、なんか恐いね…」
智子「無言ではかない現世をたとえて言う言葉なんだよ
悟「う、うん…えーっと、使い方は?」
智子「“定めなき世だからこそ、一日一日を悔いのないよう生きるべきだ”かな」
悟「お姉ちゃんは悔いないように生きられてる?」
智子「うーん…あたしには無理だなぁ」
悟「そ、そっか、そうなんだ。じゃあ僕も無理だね」
智子「いや悟君、そうじゃなくって…」

★「さておき」
智子「こっ、これはっっっ!!」
悟「どうしたの?」
智子「(思い出すは忌まわしい記憶。そう、幼い頃母への誕生日プレゼントにと、ルビーの綺麗なスリッパを贈ってしまったがために、母は天井を突き破ってびゅ――んと……うわああああああ!!) っていう他所からの妄想はさておき、と、こう使うんだよ」
悟「…お姉ちゃん、意味がわかんないよ」
智子「ああ、ごめんごめん。そのままにしておく、さしあたりの話題から外すと、そんな事だよ」
悟「えっと、つまり…」
智子「前に述べた事柄を一旦保留状態にして、別の話題に続けるとか替える場合に用いるんだよ
悟「ところで…っていうこと?」
智子「聞かなくても普段使ってるんじゃないの?“天気の話はさておき、今日呼び出したのは何故ですか?”とかさ」
悟「そういや、お姉ちゃんがよく使ってる気がするよ」
智子「それはさておき、悟君。今日はいい天気だよね〜」
悟「ほら、そんな感じに」

★「さても」
智子「これはほんとうにまあっていう感嘆詞で、物事に感じ入った時に使うんだよ
悟「かんたんし?かんじいったとき? さてもとんとわからぬなぁ」
智子「分かってんじゃない…。さて、ところで、と話題を変える時の接続詞としても使うんだよ
悟「さても、景気のほどはどうかな、だよねお姉ちゃん」
智子「やれやれ…。えーと使い方は“さてもすばらしい表現だ”とかね」
悟「さても、さっても〜」
智子「さっきから随分ごきげんみたいだけど、何かあったの?」
悟「えへへ、事前に勉強したんだよ。やったね♪」
智子「ああそれで…。えらいね、悟君。でも、それやるとあたしの立場が…」

★「里心が付く」
智子「生まれた家や故郷が恋しくて、帰りたいという気持ちになるさま。という事だよ
悟「お姉ちゃんは寂しくないの?」
智子「いや、この街であたしは生まれたわけだし」
悟「でも、お母さんとかお父さんとか…」
智子「そこは大丈夫だよ。さて使い方は“あの家を出て半年が過ぎ、里心が付く頃に手紙が届いた”とか?」
悟「聞いていたら帰りたくなっちゃった。お姉ちゃん、またね!」
智子「えっ! あ、さ、悟君、このあとどうするの?」
悟「おやつ食べたらまた戻ってくるから!」
智子「あ、そ…」

★「さながら」
智子「あたかも、ちょうど、と二つの状態が似ている事だよ
悟「そっくりさんなんだ?」
智子「そうだね。また、残らず皆、っていう意味もあるんだよ
悟「よくばりさんなんだ?」
智子「そ、そうかな…。えー、使い方は“さながら機械のように正確な言動だ”とか」
悟「さながらお姉ちゃんは…歩く国語辞典?」
智子「いやぁ、辞典まではいかないよ」
悟「わかった。通訳さんだ」
智子「それも違うけど…」

★「然のみ」
智子「これは“さのみ”って読んでね、それほど、これといって特にっていう意味なんだよ
悟「どう使うの?」
智子「打消しの語を下に伴って使う場合が多くて“そのような事例は然のみ騒ぐものでもない”とか?」
悟「ふうん。でも僕は多分使わないや」
智子「どうして?」
悟「だって、湯呑みと似てるじゃない」
智子「あははは、そ、そう…」

★「鯖を読む」
智子「数を誤魔化して自分の利益になるようにする。物事を実際以上に見せかけて相手を騙すという事だよ」
悟「さあ、お姉ちゃんはいったいいくつなんでしょう!」
智子「え?あたしは13歳だけど?」
悟「ちょっと、お姉ちゃんそんな正直に…」
智子「おほん。でね、鯖はいたみやすいから数える時に急ぐから数を誤魔化す事が多いことから言うんだって
悟「もういいもん。ねえねえ使い方は?」
智子「あーはいはい。“彼女はすぐ鯖を読むから、全然信用できない”とかかな」
悟「お姉ちゃんって全然鯖を読まないよね?」
智子「まさかぁ、あたしだって鯖を読むよ?今日の駄菓子屋ポイントは何ポイントー!って」
悟「何それ?」
智子「えっ、と、今てきとうに作ってみたんだけど…だめ、かな?」
悟「お姉ちゃん…」

★「さもないと」
智子「もしそうでなかったら…。前述の事柄に反するといい結果にならない、って仮定する時に用いる言葉だよ
悟「さもないとさもないと…じっと見てると別の言葉に見えてくるね」
智子「そうだねぇ。さもなければ、とも言うんだよ
悟「で、使い方は?」
智子「“この道は使わないこと。さもないと大怪我をするから”とかね」
悟「お姉ちゃんには逆らわないこと。さもないと…」
智子「さもないと…何かな?(にっこり)」
悟「う、な、なんでもないよっ」

★「さやか」
智子「見た目にはっきりしている事。明るいさま、という事だよ
悟「さわやか?」
智子「とは違うんだよ。あと、音が澄んで聞こえるさま、という事でもあるんだよ
悟「ふうん…使い方は?」
智子「“さやかな笛の音に導かれて、私はここにやってきたのです”かな」
悟「お姉ちゃんってとってもさやかだね、という使い方はしないの?」
智子「あ、なんかいいかも。あと悟君。あたしの名前はさやかじゃなくて、さとこ、だからね?」
悟「それはわかってるよ…」

★「さらさら」
智子「ますます、一層、という事。また、下に打ち消しの語を伴うと、決して、少しも、という意味になるんだよ
悟「笹の葉さ〜らさら〜♪とは違うんだよね?」
智子「そうだねー。それは擬音だしねー」
悟「使い方は?」
智子「“この像を盗もうなど、そんな気はさらさら無い”とかね」
悟「お姉ちゃんの血はさらさら無い、なんてどうかな」
智子「どうかなって言われても…っていうか何その危なそうなたとえは」
悟「ちゃんと水分とらないと血がどろどろになるから、お姉ちゃん気をつけようねってことだよ」
智子「なんであたしがそんな事…しかも悟君に言われなきゃならないんだろ…」

★「然らぬ体」
智子「これは“さらぬてい”と読んでね、大したことではない、なんでもない、という顔つきをするという事だよ」
悟「さもしらぬ…ってことに近いの?」
智子「あ、いいねそれ。でね、物事の内実をよく知っているのにしらぬ振りをする時に使うんだよ
悟「たとえば?」
智子「“彼女は然らぬ体を装っていたが、本当は事件の黒幕である”とか」
悟「わかった!それはお姉ちゃんだね?」
智子「え?」
悟「商店街の皆に混じって店長なんてやってるけど、本当は町長さんなんでしょ!」
智子「いやあのね、町長さんはもっと年上じゃないとなれないから」
悟「お姉ちゃん本当はいくつなの?誤魔化してるんでしょ?」
智子「失礼な!あたしは13歳!」

★「避らぬ別れ」
智子「“さらぬわかれ”って読んでね、避けられない別れという意味だよ。つまりは死別なんだ
悟「そっかあ…。あ、そういえばこの前ひいおじいちゃんのお葬式に参加したよ」
智子「ひいおじいちゃん!何歳だったの?」
悟「よくわかんないや。95歳くらいだったとかって聞いたと思うけど…」
智子「へえ、長生きしたんだねぇ。さて使い方は“彼との避らぬ別れに、彼女は涙した”とかね」
悟「あ、うん。ひいおばあちゃんが物凄く泣いてた」
智子「へええ、悟君ってひいおばあちゃんもいるんだね。まだまだお元気?」
悟「よくわかんないや。だって、呼んでも返事してくれないんだよ?」
智子「そうなんだ…」
悟「しかも、夜にお仏壇に立ってたりするんだよ。あんな狭いところにおばあちゃん器用だなあ」
智子「悟君、それってもしかして…」

★「さりとて」
智子「そうだからといって、だが…という事で、先の事柄に対して後の事柄が反対であることを示すんだよ
悟「さりとて、さりとてってもっと違う意味もあったりしない?」
智子「いや、その使い方わかりにくいから」
悟「えー」
智子「使い方は“この作品は大好きだ。さりとて、グッズをすべて揃えるほどでもない”とかね」
悟「そりゃあお姉ちゃんの作る駄菓子は好きだよ?さりとて、お姉ちゃんの作る料理はいただけないよね」
智子「ちょっと、それどういう意味!?」
悟「だって、つまみ食いした猫が盆踊りを踊り出すほど奇妙な味なんでしょ!?」

智子「そんないかがわしい噂信じてるんじゃありません!」
悟「じゃあ、本当は料理上手なの?」
智子「…さりとて、店の繁盛に繋がるわけではありません、と」
悟「お姉ちゃん…」

★「然る程に」
智子「ところで、話は変わって、という風に話題を変える場合に用いるんだよ
悟「どう読むの?」
智子「“さるほどに”って読むんだよ。あと、そうこうしているうちに、やがて、という時にも用いるんだよ
悟「たとえば?」
智子「“然る程に、近頃の商売はどうですか”とかね」
悟「然る程に、お姉ちゃんも十四歳になっちゃうんだよねぇ」
智子「ならないよ」
悟「え?」
智子「永遠の十三歳…それがあたしの目標なんだ」
悟「永遠に子供?」
智子「訂正。永遠に心は十三歳!…も、ダメかな?」
悟「僕に聞かれても…」

★「去る者は日々に疎し」
智子「親しかった者も、会わないでいると親密さが薄れるという事だよ」
悟「ふうん、そうなんだ?」
智子「あと、死んだ人は月日が経つうちに忘れられてしまうという事だよ」
悟「ふうーん…使い方は?」
智子「“去る者は日々に疎しというか、三年前に大学で知り合った友人との交流はもう無いんだ”とかね」
悟「お姉ちゃん、これってどんな感じなの?」
智子「そっか。悟君はまだあんまり経験ないかな」
悟「お姉ちゃんはあるの?」
智子「…ない。っていうかね、そう離れた人ってのが居ないから…」
悟「お父さんとお母さんは?」
智子「ああ。でも、あの二人だけは別じゃないかな?いっつも変な手紙よこすし」
悟「あ、うん。そうだね」

★「然ればと言って」
智子「そうはいってもという事だよ」
悟「然ればと言って、わからないよ」
智子「…わかってんじゃないの?」
悟「ねえねえ、使い方は?」
智子「はいはい。“この材料ではとても完成できない。然ればと言って、時間がもうない”という所かな」
悟「うん、これならよくわかったよ。さればといって〜」
智子「なんだかなぁ…」

★「障り」
智子「障害になること、都合の悪いこと。また、病気になることだよ
悟「ようするに、あんまりよくないことなんだね」
智子「そうだね。ちなみに、“月の障り”っていうのは生理になることだよ」
悟「生理?」
智子「あ、えっと…つ、使い方は“研究の障りになるような本は片付けてください”とかね」
悟「ねえお姉ちゃん、生理って何?」
智子「さ、悟君には関係ないの!さ、おしまいおしまい」
悟「ええーっ?」

★「山海の珍味」
智子「文字通り山や海でとれた食べ物のことだよ
悟「珍味って食べ物?」
智子「そんな感じだね。また、珍しい食事や豪華なご馳走の事も言うんだよ
悟「へええ。ねえねえ、使い方は?」
智子「“知人の結婚式にて、山海の珍味でもてなしを受けた”とかね」
悟「たとえばどこで食べられるのかなぁ」
智子「この界隈じゃあ難しいかもね。料理店ってあまり無いし」
悟「わかった、お姉ちゃんが作ってみれば?駄菓子で山海の珍味」
智子「いや、駄菓子ではちょっと…」

★「三羽烏」
智子「ある分野や集団で、特に優れた三人の人物っていう事だよ
悟「なんでからすなんだろう……」
智子「ちなみに、二人の時は双璧、四人の時は四天王、って言うんだよ
悟「それぞれに違った言い方があって面白いね」
智子「使い方は“彼らは数多く居る指揮者の中での三羽烏と呼ばれているんだよ”とかね」
悟「いまいちぴんとこないんだけど、全員をやっぱり比べるのかなぁ?」
智子「そうなんじゃないかな……」
悟「じゃあ、駄菓子屋業界の中で、お姉ちゃんは多分三羽烏の一人なんだね」
智子「……その根拠は?」
悟「僕、お姉ちゃんしか駄菓子屋さん知らないもん」
智子「そうなるとまた違うんじゃないかな……」

★「三拍子揃う」
智子「大切な条件が揃っている。または、よくない条件が揃っている。というとこかな。」
悟「たとえばお姉ちゃんの場合、駄菓子屋、探偵、若い、の三拍子なんだね?」
智子「な、なんかやな三拍子だね…」
悟「というところで、使い方は?」
智子「“彼女は、お喋りで我侭で乱暴と、三拍子揃ってるから付き合わない方がいい”とか?」
悟「お姉ちゃん、今の誰に対しての悪口なの?」
智子「たとえだよ、たとえ」
悟「ふうん?」
智子「いや、疑いのまなざしを向けられても…」

★「しかじか」
智子「これこれ、っていう意味で、長い文句の繰り返しをしたりする必要がない時に使うの
悟「しかじか?」
智子「そ、しかじか」
悟「鹿?」
智子「じゃなくてね…“しかじかというわけだから、早くその服に着替えてくれたまえ”という風に使うの」
悟「鹿の着ぐるみ?」
智子「いや、だから…」
悟「わかった、鹿の剥製なんだ?」
智子「悟君、わざとやってるでしょ…」

★「しかと」
智子「しっかり、固く。確かであるさま。っていうことだね
悟「シカト?」
智子「悟君、それとは違うからね」
悟「うー。じゃあ、使い方は?」
智子「“貴方の言ったことは、しかと間違いないであろうな?”とか」
悟「あろうな?」
智子「ほら、時代劇とかで…」
悟「なんでそういうわかりにくい使い方するの。しかと説明してよ」
智子「ごめん…って、言ってるそばからちゃんと使ってない?」

★「然も」
智子「更に、その上…という風に前の事柄に後の事柄を付け加える場合に使うんだよ
悟「なんて読むの?」
智子「ああ、ごめんね。“しかも”って読むんだよ」
悟「鹿も?」
智子「違うから。えと、使い方はね、“車をぶつけて、然も人に怪我をさせてしまった”とか」
悟「歯科も?」
智子「悟君…わざと?」
悟「僕子供だからわかんないなー」
智子「わざとなんだね…」

★「柵」
智子「これは“しがらみ”って読むんだよ」
悟「しがらみ…シラミ?」
智子「はいはい、違うからね。水の勢いを弱めるために、水の中に杭を打って木の枝や竹を絡ませたものだよ
悟「むう…。それじゃあ、さく、じゃないの」
智子「そうだね。それが転じて“身にまとわりついて離れないもの、断つことができないもの、という事だよ”
悟「へええ、じゃあ使い方は?」
智子「“貴族の生まれという柵を彼は断つことはできない”とかね」
悟「なんか難しそうだね」
智子「だねぇ、なかなか…」
悟「ところで、なんでお姉ちゃんって駄菓子屋やってるの?何かの柵?」
智子「そんなわけ…う、ある意味そうかもしんない…。でもね、人は大概そういうものだよ、うん」
悟「そんな悟りきった顔で言われても…」

★「然るに」
智子「ところが、さて、そうであるのにという事だよ」
悟「しかし、ってこと?」
智子「よく似てるけどそうでもないんだなーこれが」
悟「使い方は?」
智子「“社員のおかげで多大な利益を挙げている会社。然るに、その社員に還元がされていない”とかね」
悟「使う時は、あんまりよくないことなのかな」
智子「そうかもしれないね」
悟「然るに、僕は幸せをつかみたい、なんてね」
智子「…どゆこと?」

★「然るべき」
智子「そうするのが当然である。ふさわしい、適当なという事だよ」
悟「使い方は?」
智子「“この状況には然るべき処置をとるべきだ”とか」
悟「お姉ちゃんはどんな処置をとるの?」
智子「何に対して?」
悟「ずっと名前間違えてるお姉ちゃんとか」
智子「…別の話題にして」
悟「……」

★「如くは無し」
智子「及ぶものは無い、という意味から、比較するものがないという事だよ」
悟「お姉ちゃんの探偵ぶりに如くは無し?」
智子「いや、そんな事言ったら世の探偵さん達に失礼だから」
悟「…じゃあ、使い方は?」
智子「“人の絆に如くは無し…”とか?」
悟「わかった、僕も如くは無しを目指すよ」
智子「悟君、それは使い方間違ってない?」
悟「まずはラジオ体操のスタンプをすべて押してもらうところから始めないと」
智子「どういう事?」

★「地獄で仏」
智子「非常に危険な目に遭ったり大変に苦しい時に思わぬ助けにあった喜びをたとえていうんだよ
悟「たとえば…どんな時かなあ」
智子「これは“地獄で仏にあったよう”の略なんだよ
悟「ねえお姉ちゃん」
智子「たとえば“難問を突きつけられて苦しんでいたら、地獄で仏、友人が窮地を救ってくれた”とか」
悟「どんな難問?」
智子「それはねえ、大きな問題なんだけど、とてもじゃないけど一人では無理…っていう難問」
悟「うーん?」

★「獅子身中の虫」
智子「内部で災いを起こすものや、味方を裏切るような者。恩を仇で返す者という事だよ」
悟「なんだか物騒だね」
智子「仏教徒でありながら仏の教えに背く者、という意味からだね
悟「へええ、使い方は?」
智子「“彼は獅子身中の虫であるから、早く処分したほうがいい”とか」
悟「処分……何するの?指つめるの?コンクリート詰めにして海に沈めるの?」
智子「ちょ、悟君どこでそんな事覚えたの?」
悟「この前漫画で読んだもん。恐いよね、任侠の世界って」
智子「何かそれは間違ってるような……」

★「獅子の子落とし」
智子「自分の子供に試験を与えて才能を引き出す、厳格に育てるという事だよ」
悟「獅子ってライオンのことだよね。絞め上げて落とすの?」
智子「いや、そうじゃなくってね…って、どっから悟君はそういう言葉覚えてくるんだか」
悟「違うの?」
智子「獅子は産んだ子をすぐ谷に落として、這い上がってきた子だけを育てるという俗説からきた語なんだよ
悟「そっちの方が大変そうじゃない?絞めて落とすんなら気絶ですむし」
智子「もういい。えーと使い方は“獅子の子落としのような育て方を、一度試みては”とか」
悟「お姉ちゃんってもしかしてそうかも。だって小さい時から駄菓子屋の店長さんをやってきたんでしょ?」
智子「店長って言っても別に大した事してないけどね。やり方はちゃんと教わったし」
悟「僕もそれくらい苦労しなきゃいけないのかな。少なくとも落とし穴に落ちても這い上がれるくらいじゃないとね」
智子「何の話?」

★「したたか」
智子「強く、大いに、しっかりしている、手強くて一筋縄ではいかないという事だよ」
悟「強かって書いて“したたか”って読むんだよね」
智子「そうそう。でね、一見そう見えないがっていう意味で使うんだよ
悟「じゃあ使い方は?」
智子「“この状況で利潤を得ようとは、なんてしたたかな奴だ”とか」
悟「お姉ちゃんはしたたか?」
智子「まっさか。あたしは全然強くないしね」
悟「でも、大人なおじさんやお姉さんたちとお話しても絶対に言い負かされたりしないよね?」
智子「いや、それはどうかなぁ……」
悟「僕だったら絶対負けちゃうもん。だから、いつも勝ってるお姉ちゃんはいっぱいしたたかだなぁって」
智子「ちょっと、あのね、悟君?」

★「認める」
智子「これは“したためる”って読んでね」
悟「みとめるじゃないんだ…どういう意味なの?」
智子「文章を書く、整える、処置する、食事をするという事だよ」
悟「文章をどうこうってのはわかるけど、食事もそうなの?」
智子「そうみたいだね。さて使い方は“手紙を認めるので少し待ってください”とかね」
悟「お姉ちゃんはよく手紙書く?」
智子「まあね。特にお父さんお母さんに…あー、でも…」
悟「ん?」
智子「最近の若い子って電子メールとかが主なんだってね。なんだか寂しいなぁ」
悟「お姉ちゃんも若い子じゃないの…?」

★「十把一からげ」
智子「色々な種類のものをひとまとめにして、価値のないものとして扱うことだよ」
悟「価値のないもの?」
智子「そ。有象無象荒唐無稽烏合の衆!」
悟「お姉ちゃん、言ってることよくわかんない」
智子「ご、ごめん。えーと“あんな人たちと十把一からげに見られるなんて屈辱だ!”とかね」
悟「えーと、商店街の店長さん達を集めて、変わり者十把一からげですね、とかって話?」
智子「む、う…痛いとこつくなぁ…たしかにあたしも変わってるっちゃ変わってるんだよねぇ…」
悟「そんな風なところが多分素直なんだよ、多分ね」
智子「なんか引っかかる言い方だけど?」

★「しっぽり濡れる」
智子「全体的にしっとりと濡れることで、雨が静かに振るさまだよ」
悟「しっとりなのにしっぽりなんだ?」
智子「そうなんだよねぇ。また、男女間の愛情が細やかである事でもあるんだよ」
悟「男女間…うーん、使い方は?」
智子「え、えっとね、“たまには静かな部屋で、しっぽり濡れるデートもいいわね”とかね」
悟「お姉ちゃんはそういうのどうなの?」
智子「あたしの事はいいとして、悟君はどう? 学校でモテてるんじゃないの」
悟「僕子供だからわかんないよ」
智子「あたしだって子供なんだけど…」

★「しどけない」
智子「服装が乱れている、きちんとしてない、だらしない。ま、そんなとこかな」
悟「お姉ちゃん、怒ってない?」
智子「気分が出るかと思ってね。あと、規律がなく雑然とした状態の事でもあるんだよ」
悟「ふうん…使い方は?」
智子「えっとね、“なんたる侮辱。彼はしどけない姿で、この会合に出席していたのだ!”とか」
悟「うー、やっぱり怒ってない?」
智子「気分だってば。…実はね、卯月さんによそ行き用のお洋服を見立ててもらったんだけど」
悟「えーと…馬子にも衣装ってこと?」
智子「どうしてそんな言葉がそこででてくるわけ!?」
悟「うわぁ、やっぱりお姉ちゃん怒ってるよぉ」
智子「悟君が変な事言うから!」

★「しとどに」
智子「雨や露などでひどく濡れるさま。涙がひどく、ぐっしょりと濡れている様子という事だよ」
悟「しとどにしとどにしとどにしとどにしとどにしとどに…言葉だけ繰り返すと、変な感じだね」
智子「あはは。さて使い方は、“不意の天気雨により、しとどに濡れてしまったわ”とかね」
悟「うーん、やっぱりしっくりこないんだけど」
智子「日頃使っていれば自然と慣れるよ」
悟「お姉ちゃんはしとどに枕を濡らすのでした…とか」
智子「…もうちょっと違う使い方してくれない?」

★「しどろもどろ」
智子「話し方などのしまりがなく、ひどく混乱した状態という事だよ」
悟「変わった言葉だよね。なんかむちゃむちゃ〜って」
智子「あはは。“しどろ”っていうのは秩序が保たれていないさまで、もどろはそれを強調する言葉なんだよ
悟「へええ、そうだったんだぁ」
智子「さて使い方は、“彼女を前にして、私は緊張のあまりしどろもどろになってしまった”
悟「お姉ちゃんって誰の前でしどろもどろになるの?」
智子「そりゃあ睦…って、いきなりどうしたの?」
悟「だって、お姉ちゃんっていつもきっちりスマートぴしっとスーツを着込んだみたいだし」
智子「いや、そう言われてもよくわかんないんだけど…」

★「品定め」
智子「品物の価値や優劣を批評して定めることだよ
悟「お姉ちゃん、難しいこと並べて僕を品定めするつもりだね?」
智子「いや、そんなつもりは……。ちなみに、人に対して使う場合もあるんだよ
悟「やっぱりそうなんだ。僕を子牛のように荷馬車で連れて行くんだ」
智子「あのねぇ……。えーっと、使い方は、“PCをゆっくり品定めして購入しよう”とか」
悟「で、お姉ちゃんの目的は何?僕は負けないからね」
智子「あのねぇ、いいかげんに……」

★「死に花を咲かせる」
智子「死んだ後に評価が高まる、名を残す。華々しく最後を飾るって事だよ」
悟「どんな人がいるのかなぁ、こういう人って」
智子「有名な画家とか……でもむなしいだろうね」
悟「ねえねえ、使い方は?」
智子「“もはや、この映画に死に花を咲かせられれば本望だ”とか」
悟「それっていいことなの?」
智子「あたしはやだけどね。生きているうちにちゃんと認めてもらいたいな」
悟「どうして?」
智子「だって、少なくとも今自分が分かるっていう事が、分かりきってるじゃない?」
悟「?」
智子「うーん、わかんないかなぁ、つまり……ま、いっか。生きているうちが華だからね!」
悟「う、うん……」

★「死人に口無し」
智子「死んだ人間からは証言を得られないという事だよ」
悟「たしかに、死んじゃうと喋れないもんね」
智子「あと死んだ人間に罪をかぶせてしまおうとするという事でもあるんだよ」
悟「何もできないからって、ひどいことだよね」
智子「使い方として“真実を知る彼が事故で亡くなり、死人に口無しと事件の真相は闇に葬られた”とか?」
悟「もしお姉ちゃんが死んだら……あの事件も闇に葬られるんだ……」
智子「あの事件って?」
悟「そうならないよう、お姉ちゃんは僕が守ってあげるからね。出来る限り」
智子「気持ちは嬉しいけど、あの事件って何なのか教えてほしいんだけど……」

★「しのに」
智子「しっとりと、しんみりと、しみじみとという事だよ」
悟「しっとり?」
智子「そ。草葉が露で濡れる状態をいうんだよ
悟「へええ、使い方は?」
智子「“昔のことをしのに思い出されてしまうのは、年をとった証拠だろうか”
悟「お姉ちゃんも、しのに思い出したりするの?」
智子「悟君。あ・た・し・は・ま・だ・13歳だよ!」
悟「そっかぁ、お姉ちゃん若いもんね」
智子「あのね……」

★「死馬の骨」
智子「昔は優れていたけど、今は何の価値も無いことのたとえだよ
悟「どんな風に使うの?」
智子「“バリバリの営業マンであった彼も、退職してからは死馬の骨のように怠惰な毎日を過ごしている”とかかな」
悟「お姉ちゃんもいずれはそうなっちゃうの?」
智子「歳をとると仕方ないかなって。あ、でも駄菓子屋は続けられるんじゃないかな」
悟「そっか。この道一筋90年って、かっこいいね」
智子「90……百歳超えまで駄菓子屋やるの?」
悟「やらないの?」
智子「うーん……」

★「死命を制す」
智子「これはちょっと難しいかもね」
悟「大変そうなイメージがあるんだけど、どんな意味なの?」
智子「相手の生死に関わるような急所を押さえ、運命を制すという事だよ」
悟「分かった、決闘するんだね?」
智子「それもあるだろうけどね」
悟「ねえねえ、どんな使い方?」
智子「“私は彼の死命を制しているため、彼をある程度思い通りに動かせるはずだ”とかかな」
悟「すごいなぁ。僕もお姉ちゃんの死命を制したら、毎日駄菓子をいっぱい作ってもらうんだ」
智子「あははは……」
悟「けどお姉ちゃん、毎日僕にお貸しくれてるから別なことにするよ」
智子「そ、そう……(もしそんな事になったら何するんだろ)」

★「示し合わせる」
智子「事前に相談して、段取りなどを決めておく。互いに合図をして知らせあうという事だよ」
悟「あ、これ知ってる。あいこんたくと、ってやつだよね」
智子「それに限らないけど、まあそんな感じだね」
悟「……(ねえねえ、使い方は?)」
智子「どうしたの悟君。早速アイコンタクト実行?」
悟「もーう、言ってないで使い方を言ってよ。僕合図したのに」
智子「い、いや、そう言われても……。えっと、“サイレンが鳴り響くと、まるで示し合わせたように彼らは家を飛び出した”とか」
悟「……(こういうの、映画なんかで見たことあるよ僕)」
智子「……いくらなんでも、あたしはそんなに察しがいいわけじゃないからね?」

★「仕舞屋」
智子「以前は商売をしていたが、やめてしまった家。転じて、商売をしていない一般の家をいうんだよ
悟「し、し……」
智子「木造の一戸建てで、マンションなんかには使わないんだって
悟「し、ま……うー、これなんて読むの?」
智子「“商店街の中に混じっているあの仕舞屋にはいわくがあるらしい”とかってね」
悟「しもたや?」
智子「そ。しもたやって読むんだよ、これは。」
悟「店しもたでよー、っていうこと?」
智子「悟君、どこの出身だっけ?」
悟「僕はこの商店街の一角の生まれだけど」
智子「いや、そういうことじゃなくてね……」

★「社会の木鐸」
智子「これは“しゃかいのぼくたく”て読んでね。世間の人を目覚めさせ、教導する人だよ
悟「ぼくたく……って、何?」
智子「また、ジャーナリズムの重要性を指摘した語でもあるんだよ
悟「お姉ちゃんお姉ちゃん」
智子「ああ、木鐸っていうのは舌のある鈴のことでね、中国では作った法律を国民に示す時に鳴らしたんだって」
悟「えっと、そこからきてる……っていうこと?」
智子「そうそう。えらいね悟君」
悟「う、うーん」
智子「さて使い方は“世の新聞社は社会の木鐸となるべき存在であるのに……!”とかね」
悟「じゃあお姉ちゃんがなろうよ。僕ちゃんとついていくよ」
智子「あたしはそんな大それた人じゃないから」
悟「連合つくろうよ、連合。文秋連合とか」
智子「はぁ?」

★「蛇の道は蛇」
智子「同類の者は互いにその道に通じているという事だよ」
悟「へびのみちはへび?」
智子「じゃのみちはへび、だよ。蛇の通る道筋は蛇が一番よく知っているって事だね
悟「なんで蛇なんだろ……」
智子「さあて使い方は“蛇の道は蛇、彼女のやる事は私にはすべてわかる”とかね」
悟「ねえねえお姉ちゃん、なんで蛇なの?」
智子「うーん、それはわからないなぁ」
悟「お姉ちゃん何年?」
智子「なんねん?」
悟「なにどし、って言ったけど……」
智子「ああ、ごめんごめん。巳年だよ」
悟「じゃあ、蛇のことわかるんじゃない? ねえ、なんで蛇の道は蛇っていうの?」
智子「いや、そう言われても……」

★「三味線を弾く」
悟「ん……? どういう事?」
智子「相手の言う事に適当に相槌を打つことだよ
悟「へええ……?」
智子「または、見当はずれな事を言って相手を誤魔化したり惑わせたりするってことだね
悟「なんで三味線を弾くとそうなるの?」
智子「さて使い方は“時間に気をとられすぎて、ついつい三味線を弾いてしまった”かな」
悟「ねえねえ、どうしてどうして」
智子「三味線は三味線だからだよ。よかったね」
悟「む〜、お姉ちゃん三味線弾かないでよ」

★「十年一昔」
智子「世の中の移り変わりが激しいことのたとえだよ
悟「ふーん?」
智子「また、十年を一区切りとしてみた時、その間に著しい変化がある事だよ
悟「使い方は?」
智子「“十年一昔というが、この辺りも随分と家が建ち並んだものだ”とかね」
悟「お姉ちゃんは十年前と比べてどう?」
智子「まぁ……色々と変わるもんだよね、色々とね……」
悟「(聞いちゃいけなかったかな……)」

★「秋波を送る」
智子「女性が相手の気を引こうとして媚を含んだ目つきをするっていう事だよ」
悟「秋波って何?」
智子「秋波っていうのは美人の涼しげな目元の事で、流し目を送るとも言うんだよ
悟「ふーん。使い方は?」
智子「“彼女が秋波を送ると、いかなる男性もかなわない”ってとこかなぁ」
悟「どんな感じなのかなぁ、秋波を送るっていうの」
智子「そうだねぇ、多分弥生さんがにこっと笑うとか」
悟「弥生さんって、たしかケーキ屋のおねーさんだっけ。そうなの?」
智子「えーっと、悟君には難しいかもね」
悟「じゃあお姉ちゃんやってよ」
智子「待ってました。じゃあ早速やるよ……」
悟「やっぱりいい」
智子「がくっ。言ったそばからなんなの?」
悟「怖かったらいやだもん」
智子「怖……って悟君なんてこと言うの!」

★「数珠繋ぎ」
悟「数珠って、念仏さんを唱える時に使ったりするやつ?」
智子「うん、そう。人や物が長く繋がっているさまという事だよ」
悟「たしかに、たくさんの珠がつながってるよね」
智子「使い方は“数が少ない個室のせいで、あっという間に待ち人が数珠繋ぎになってしまった”
悟「それ何の話?」
智子「お手洗いだよ。まったく、なんで女子トイレの数をもっと増やしてくれないのかなぁ」
悟「何が?」
智子「男子と違って、女の子はお手洗いを済ますのに時間がかかるの! それなのに同じ面積はひどくない?」
悟「僕に言われても……」

★「修羅場」
智子「これはしゅらばと言ってね、阿修羅が帝釈天と戦った場所。転じて、悲惨な戦場ってことだよ」
悟「阿修羅の修羅をとってるんだね。なんで帝釈天の方は字がついてないの?」
智子「または、芝居などでの激しい争いの場面。生存競争の激しい現実世界をたとえて言うんだよ
悟「ねえねえお姉ちゃん……」
智子「使い方は“かの者の蹂躙……すなわち、この修羅場をくぐりぬけねば明日は無いと思え!”
悟「お姉ちゃんってば」
智子「これにてお終い!」
悟「なんでお姉ちゃんそんなに修羅場なの……」

★「小人の勇」
智子「つまらない人間の無鉄砲で意味の無い元気という事だよ」
悟「よいことじゃあないんだね」
智子「そ。思慮が浅い人の血気はやる元気だね」
悟「使い方は?」
智子「“たった一人で敵地に向かうなんて小人の勇ですね”とか」
悟「お姉ちゃんなら何をすればそれになるかな?」
智子「マフィアのアジトとかかな」
悟「うわっ、なんかすごそう。お姉ちゃん、やるの?」
智子「いや、そもそも場所知らないし」
悟「なんだぁ、つまんない」
智子「あのね……」

★「如才が無い」
智子「要領がよく抜け目が無い。気転が利く。愛想が良いというところだね」
悟「如才って何?」
智子「如才っていうのは、手抜かりの意味なんだよ。で、“如才無い”とも言ったりするわけ」
悟「へええ。使い方は?」
智子「“彼女はどんな仕事を押し付けられても、常に如才無くこなす”とかかな」
悟「なんだかカッコイイね。僕もそんな風になりたいな」
智子「なれるよ、悟君なら」
悟「ホント?」
智子「努力次第だけどね」
悟「そういうお姉ちゃんは如才無くなんでもできるんだ?」
智子「いやあ、そういうわけでもないこともなかったりしちゃったりなんかだったりして」
悟「…………」

★「白波」
智子「“しらなみ”って読んで、泡立って白く見える波。または、盗賊という事だよ」
悟「とうぞく?」
智子「えっと、中国・黄巾の賊が西河の白波谷にこもった白波城の白波を訓読みしたものなんだよ
悟「ふーん???」
智子「あと、白波物っていうのは、盗賊を主人公とする歌舞伎・講談の総称なんだって
悟「うーん……使い方は?」
智子「“おお、あれが風に現れ風に消える白波か!”とかどうかな」
悟「…………」
智子「だ、だめ?」
悟「よくわかんない」

★「知らぬが仏」
智子「知っているから腹が立ったり動揺したりするけど、知らなければ仏のように平穏な心でいられるという事だね
悟「じゃあ知らない幸せなのかな?」
智子「転じて、渦中にいるのに知らない人が平気でいる様子をあざけって言う言葉なんだよ
悟「うわあ、そうなんだ」
智子「“最高得点を取ったと彼は自慢しているが、更に上を取った者いるのに知らぬが仏とはこの事”とかかなぁ……」
悟「……あ、そうだ」
智子「ん?どうしたの?」
悟「あ、ううん、なんでもないよ。知らぬが仏、知らぬが仏」
智子「ちょ、悟君?それ、どういう事なのかなぁ?」
悟「なんでもないよ。知らぬが仏、知らぬが仏」
智子「それ、絶対あたしに関わる何かを隠してるんでしょ!?白状しなさいっ!」
悟「な、なんでもないってば、知らぬが仏だよー」
智子「気になるっての!悟君んんんんっ!!」

★「白羽の矢が立つ」
智子「多勢の人の中から特に選ばれる、または、犠牲者として選らばれる
悟「ぎ、ぎせいしゃって?」
智子「昔、神様が人身御供を求めた時に、目当ての家の屋根に鳥の白い羽の矢を立てたことから言うんだよ
悟「うわあ、いやだいやだいやだ、怖いよお姉ちゃん」
智子「まぁ、今はそんなものないから、落ち着いて。ね?」
悟「う、うん。……えっと、使い方は?」
智子「“店長候補として、彼女に白羽の矢が立った”とかね」
悟「それってお姉ちゃん?」
智子「あー、まぁそうかもね。でもあたしの場合成り行きというか仕方なくというか……」
悟「じゃあ、名探偵の白羽の矢だね!」
智子「いい響きだね……響きは、いいね……」
悟「お、お姉ちゃん?」

★「白む」
智子「興ざめがする、衰弱する、力が無くなる状態……だね
悟「なんだか辛そうな状態だね」
智子「そうだね。また、空が明るくなって夜が明けてくるさまだよ
悟「こっちはわくわくなってきそうだね。えっと、使い方は?」
智子「“ついついゲームに夢中になってふと外を見ると、空が白み始めていた”
悟「わ、すごいねお姉ちゃん。僕そんなに起きてられないよ」
智子「い、いや、あたしだって前はそんなにね?」
悟「前? じゃあ今はそうなんだよね」
智子「う……時代が、時代が悪いの……」
悟「……」

★「尻馬に乗る」
智子「他人のいう事に同調する、節操無く従うという事だよ」
悟「なんで?」
智子「人が乗っている馬の後に相乗りすることからだね
悟「ついでに乗っけてーって感じかなあ?」
智子「そうそう。“尻馬に乗って抗議に加わった”とか」
悟「なんだか頭悪そうに書かれてる気がするんだけど」
智子「考え無し、って捉えるとそうかもね。でも、便乗してってことなら効率いいかなーって」
悟「お姉ちゃんならどんな尻馬に乗るの?」
智子「今乗りたいのは特にないけど」
悟「ぷう、誤魔化した」
智子「そういうわけじゃ……」

★「尻切れ蜻蛉」
智子「はじめがあっておわりがない。物事が長続きせず中途半端で終わる。という事だね。」
悟「……なんでトンボなの?」
智子「さあて、使い方いくよー」
悟「お姉ちゃんってば」
智子「“彼女は色んな習い事に手を出しているが、いずれも尻切れ蜻蛉である”だね」
悟「ねえお姉ちゃん。ど・う・し・て、蜻蛉なの?」
智子「さあこれにて解説はおしまいだよー」
悟「うー、それこそ尻切れ蜻蛉なんじゃ……」

★「印ばかり」
智子「印となるという程度で、形だけの、ほんのわずか、心ばかりという事だね」
悟「本当に印だけなんだね」
智子「まぁそんな感じだね」
悟「どう使うの?」
智子「“印ばかりではありますが、お礼をお送りした”とか」
悟「じゃあ僕も印ばかりのプレゼント。はい、お姉ちゃん」
智子「え、あたしに? ……何、これ」
悟「印だよ」
智子「……って、シール?」
悟「うん。年賀状にね、貼って送る干支シールセットの一つだよ」
智子「……これ、去年の干支じゃない?」
悟「うん。次使えるの11年後? だからはい」
智子「そんなものもらっても……」

★「導」
智子「道の案内をすること、案内をする人、助け導くこと、手引き、案内……こんなとこかな」
悟「随分たくさんの意味があるんだね」
智子「『導顔』は案内するような顔つき、『知る辺』って書くと知り合い・縁のある人という事になるんだよ」
悟「ふうん。ねえねえ、使い方は?」
智子「“あの人がくれた地図を導に、この町を抜ける”とか」
悟「僕もおねえちゃんを導に毎日を過ごすよ」
智子「へ?」
悟「色んな事件を避けるためのコツを覚えてね」
智子「いや、そういう……」

★「痴れ者」
智子「この痴れ者がぁぁぁ! とかって言ったりするよね」
悟「お姉ちゃんそんな事言ったりするの?」
智子「ドラマの話だよ……。愚か者、乱暴者、一つの物事に夢中になっている人、風流人という事だよ」
悟「使い方は?」
智子「“この痴れ者があああ! 恥を知れ!”
悟「……お姉ちゃん、恐いよ。僕逃げなきゃ」
智子「だからこれはドラマの台詞だって……」

★「咳き」
智子「咳をすること、またその咳。人の注意をひくためにするわざと咳の事もいうね
悟「これ、何て読むの? せきき?」
智子「“しわぶき”って読むんだよ」
悟「うわあ、こんなの読めないや。ねえねえ、使い方は?」
智子「“その話をしようとした私を、彼女は咳きによって止めた”とか」
悟「“うおっほん。チミ、その話はご法度だよ”って感じ?」
智子「誰それ……?」

★「寝食を忘れる」
智子「これは実は経験あるなぁ」
悟「どういうこと?」
智子「寝る事も食べることも忘れるほど物事に熱中するってことだね」
悟「使い方は?」
智子「“寝食を忘れて研究に没頭した”
悟「お姉ちゃんは何に夢中になったの?」
智子「お菓子作り」
悟「和菓子?」
智子「ウェディングケーキって奥が深いんだよー」
悟「うぇでぃんぐけーきって、駄菓子?」
智子「洋菓子だよ。もうね、弥生さんに聞いてからハマっちゃった時はやばかったなぁ」
悟「どれくらい?」
智子「一週間お泊まりしちゃったよ。学校がなかったらよかったのになぁって思ったくらい」
悟「えっと……よくいつもの生活に戻れたよね?」
智子「残念ながらね」
悟「……」

★「身代」
智子「所有しているすべての財産、暮らし向きってことだよ」
悟「何て読むの?」
智子「しんだい、だね。ちなみに『身代限り』っていうのは破産のことなんだよ
悟「はさん……」
智子「使い方は“彼女は類稀なる才能でその身代を築いた”とか」
悟「はさん、ってなあに?」
智子「破産は財産が全部なくなることだね」
悟「うわあ……。お姉ちゃん、破産しないでね?」
智子「なんであたしにそういうこと言うかな……」


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