★「一もニも無い」
これは!あれこれと反対や文句を言うまでも無い!要は無条件で同意するってことです。
端的に意味の解説はこれでおしまいっ!文句無いですね?さて、使い方としては…
“彼女のためならあたしは…。な・の・で、彼女の申し出は一もニも無く引き受けます!”
です!以上!
★「一蓮托生」
これはですね、結果が良くても悪くてもどうだろうと、最後まで運命を共にする!という事です。
えーっと、すべての人間は死後、極楽の同じ蓮台の上に身を托すという仏教の教え…へえ〜…
あ、そうそう、とにかくその教えからきてるってことです。さて、使い方は…
“今日からあなたと私は一蓮托生。力いっぱいこの町の謎を解明していきましょう”
…ですかね。…なんか自分でやなたとえ出しちゃってるような。
★「一獲千金」
世間で無意味によく聞く言葉では無いでしょうか。一度に大金を手に入れることとか、
大した苦労も無しに大もうけをすることに使います。一掴みで大金を手に入れる、ってとこからですね。
なかなか無い機会なんですよね…。さて、使い方は…
“一獲千金を夢見てばかりいないで、地道にいこうよ”
なんてところで。味を一度しめると後戻りできないです、はい。
★「一喜一憂」
見かけそのものが示してますが、状況に応じて喜んだり憂えたりするってことです。
人生というものはそういうものですよね…なんて。あ、これは受け売りですからね。
さて、使い方は…
“カードが来るたびに一喜一憂してるとすぐに分かりますよ”
というところで。…うーん、ちょっと偏った使い方かも…。
★「一掬の涙」
両方の手ですくう涙、っていうことなんですよ。というわけでこれは、たくさんの涙という意味です。
ところが…現実としては指の間からこぼれてしまうので…ほんの少しの涙という意味もあります。
後者の意味で使うことが多いですね。さて、使い方は…
“感動的な彼の話に、いつもは決して涙を見せない彼女が一掬の涙をこぼしていた”
といったところで。一という漢字がは、少ない方の意味に使われがちなんでしょうね。
★「一国一城の主」
これはですね、他からの援助や干渉なんか受けないで、独立して生計を立てていることを言います。
会社などを経営してる事なんかも指します。その字の示すとおり、国や城の主…大名さんですね。
そういった方々の意味からです。さて使い方は…
“小さい所ながらも、一国一城の主となりました”
といったところで。これを為してる人は凄いと思いますね…あたしにはとてもとても。
…駄菓子屋は元々あたしのものじゃありませんし。商店街の人たちにはいつも助けてもらってるし…。
★「一刻千金」
楽しい時間や貴重な時間を惜しんでこう表現します。短い時間も、それは千金、つまり多額のお金に相当する、という意味ですね。
本当にお金で買えても…有意義に使える人はほとんど居ないとは思いますけど。えっと使い方は…
“わずかな余生ではあるが…その日その時その一瞬が…私にとっては一刻千金”
といったところで。えと、皆さん時間は大切に使いましょう。
★「いつしか」
くー…………………………。はっ!え、えっと、解説ですね?えっとこれは…いつの間にか、
気付かない間に物事が過ぎ去った事を強調して言うんです。…ま、まだ過ぎてませんよね?解説時間。
えっとえっと、それから、いつになったらくるんだろう、早くくればいいのに、っていう希望を述べる時にも使います。
さて使い方は…
“いつしか夕暮れが舞い降りてきていた”
といったところで。…ふう、そろそろ方針変えたいな…。
★「一糸乱れず」
少しの乱れもなく整然としているさま、ですね。さて、早速。使い方としては…
“彼ら野球部員は、一糸乱れず練習に励んでいた。”
…です!以上。
★「一笑に付す」
笑いに紛らせてとりあわないとか、馬鹿にして相手にしないっていう意味です。
“ふっ…”とかいうのがありますよね。これです。これね…やられるとすっごく腹立たしいですね、あたしは…。
でも商店街にいそうなんだよなー。“ふっ…”としか言わない、なんていう変な人とか…。
あ、えっと、使い方いきますね…
“あたしが精魂込めて創り上げた芸術作品を、彼は一笑に付した”
…と、いうところで。…それにしても本当にやられたら嫌過ぎるな…。
★「一矢を報いる」
これはですねえ、相手の攻撃に対して反撃を加えるってことです。相手に矢を射返す意からいうんですけどね。
要は仕返しですよ、し・か・え・し。決まると気持ちいいんですよね〜。
さ、さて、使い方としては…
“勉強でもスポーツでも馬鹿にされたあの人に一矢報いるにはこれしかない”
…ということで。え?これって何かって?これ、ってのはですねぇ…心!心ですよ!…ね?
★「一炊の夢」
これは、人の世の栄華が儚いことのたとえです。
えーっと昔、唐の盧生って人が邯鄲ってとこの宿で長い長い栄華の夢を見たんですが、
それは吹きかけの泡…じゃなかった、アワ、粟でしょうね。これが吹き上がっても無いほど
短時間のことであった、とまあこういう故事からきた言葉ですね。
さて、使い方としては…
“一つの商品でどんなに金持ちになっても、それは一炊の夢です”
…でしょうか。あ、いえなんとなく、ですけどね…。
★「一席設ける」
宴会や会合を開く、だとか酒の席を設けるってことです。さて、使い方としては…
“あなたのために一席設けました。さあさ奥へ奥へ!”
…というところで…って、こんなのでいいのかしら…。
★「一線を画す」
一線とは書いて字の如く、一本の線です。まっすぐな一本線を引いて、
境界をはっきりさせる、ということなんです。または態度をきちんと示すってことですね。
さて、使い方としては…
“専業と副業と、一線を画さないといけませんよ”
…少々違うかもしれませんがまあいいんじゃないでしょうか。だって…だって…!!
でも、一線を画していかないと解説にならないんですよね…。
★「出立」
旅行に出発することやその準備、ということです。または装いや身なりの事で、
世間に出ることとか、立身出世とか…そんな場合に使われるようですね。さて、使い方としては…
“彼の唐突な出立に、誰もが度肝を抜かれた”
というところでしょうかね。
★「幼けない」
そのままですね。“いとけない”と読みますが、幼いとかあどけないっていう意味です。
更にそれはどういう事だって言われれば…すみません、他所で調べてください。
…ああ、自分で言っててなんて無責任なんでしょ…。えっと、使い方としては…
“幼けない少女の笑顔を見て、思わず心が和んでしまった”
なんてところで。…少年でもいいんですけどね、ここはこれで。
★「いとど」
これは、いっそう、ますます、ということで、程度が甚だしいことを言います。
えっと、“いと”っていう言葉の強調である“いといと”というのが転じた言葉だそうですね。
ただでさえ○○なのに…という使い方をします。そんなわけで使い方としては…
“ついさっき厄介な事件を解決したばかりだというのに、終わってみれば複雑な人間関係にいとど頭がこんがらがってきた”
…ですかね?うーん、そういえばあまり使ったことないんですよねぇ。
★「鯔背」
威勢が良くてさっぱりとした気風の人を言います。由来ですが、江戸時代…ですね。
江戸日本橋の魚河岸の若者が、魚のイナの背に似たいなせ銀杏っていうまげを結っていたことからだそうです。
魚の鯔ってのは、ボラの幼魚のことで、出世魚でもあります。だから将来有望っていう意味も含んでますね。
さて、使い方としては…
“いよっ、いなせだね!”
…ということで。…ダメですか?ところでこの言葉って女性に対しては使わないでしょうね。
★「古」
往にし方(いにしかた)という意味でして、過ぎ去った日々や過去、昔のことを表します。
また、“古人”というのは昔の人とか昔ながらの古風なことを言います。
いにしえ、なんてのは結構使われてますが、何故いにしえなのかというのはあまり触れることはないかと。
さて、使い方としては…
“古より伝わる書物”
…で、いいですかね?
★「犬の遠吠え」
智子「さて、今回から解説方式が変わります。なんと悟君が加わります!」
悟「お姉ちゃん一人じゃ辛かったんだね…」
智子「そ、そんな哀れんだような声はやめて〜」
悟「あ、ごめんんさい。えーと初めまして、秋月悟です。これからよろしくお願いします(ぺこり)」
智子「うんうん」
悟「ところでお姉ちゃん、歯切れ悪いよ?すぐ上に別方式の解説が混じってるのは…」
智子「いいのよ。このコーナーの名物になるわ」
悟「本当かなあ…。ただ怠けたように見られると僕思うんだけど…」
智子「…と、とにかく意味をいきましょ」
悟「誤魔化したね…いいよ、うん。お姉ちゃん苦労してるし」
智子「………」
悟「お姉ちゃん?ほうけてる場合じゃないよ。早く解説しなきゃ」
智子「…はいはい、わかりました。えっと、『犬の遠吠え』だったわね」
悟「小心者が陰でいばったり悪口を言ったりすること…あんまりいい意味じゃないね」
智子「まあねえ。ところで、よくお話なんかで使われてたりするじゃない?」
悟「そうだね。お侍さんとか兵隊さんとか、あと腕利きのガンマンとか」
智子「そ、そうね…(何の話を見てるんだろ悟君…)」
悟「覚えてやがれ、今度会った時はただじゃおかねえぞ!みたいな」
智子「そうそうそう、そんな感じ。」
悟「で、お姉ちゃん。使い方は?」
智子「えっとぉ…“犬の遠吠えばっかやってないで面と向かって言いなさい!”かな」
悟「あ、それだと今僕が言ったのってちょっと違うよね…ごめんなさい」
智子「わざわざ謝らなくても…。そんなに気にしなくていいから」
悟「ううん。解説助士というからにはもっとしっかりしなくちゃ!」
智子「解説助士…」
悟「どうしたの?お姉ちゃん」
智子「な、なんでもない」
★「犬も食わない」
智子「えっと…非常に嫌がられる、相手にされない、まったく好かれない…なんて意味ね」
悟「犬は何でも食うから、という事でこの言葉があるんだよね。…そうなの?」
智子「一応犬は雑食だから」
悟「そうかなあ。好みはあると思うんだけど…」
智子「その辺は人間と同じかもしれないね」
悟「ふんふん。あ、使い方は?」
智子「“夫婦喧嘩は犬も食わない”これに決まりね」
悟「あ、これなら聞いたことある。葉月さんの家もそうだったよね」
智子「何がそうなのかはよく分からないけど…ま、聞いたことがあるのなら話は早いわね」
★「命の洗濯」
悟「あ、この言葉僕よく知ってるよ」
智子「へえ〜、どうして?」
悟「だって時たまお姉ちゃんが漏らしてるじゃない。睦月さんに会うたびに命の洗濯だわ〜♪って」
智子「そ、そうだったかしら」
悟「うん。お姉ちゃんよほど毎日苦労が耐えないんだね、って僕しみじみ思うよ」
智子「………」
悟「お姉ちゃん?」
智子「そうね…この言葉って日頃の生活の煩わしさや苦労から解法されてすっきりするってことだものね」
悟「また、思い切り気晴らしをしたり保養するって意味だよね」
智子「あたしってそんなに苦労を表に出してるのかなあ…」
悟「お姉ちゃんだってまだ子供だもん。素直に顔に出るのは仕方ないと思うよ」
智子「そうね…。あ、使い方は“憧れの人にあって命の洗濯をする”ということでね」
悟「その使い方って合ってるの?」
智子「いいのよ。あたしにはこれで十分なの。うふふふ…」
悟「………」
★「命の綱」
智子「これはなかなかに重要な言葉よ」
悟「えっと、生きていくのに頼りとなるもの、糧となるもの。また生きがいとして何より大切なものだね」
智子「そうそう。つまりはその人にとってかけがえの無いものね」
悟「お姉ちゃんにはそういうものあるの?」
智子「あるといえばあるけど…まだナイショ」
悟「ええ〜?」
智子「まあまあ、いずれ話してあげるから」
悟「うん。ところで、この言葉の使い方は?」
智子「“あの人は、あたしの命の綱。だから生涯大切にします”というところかな」
悟「…なるほどぉ」
智子「よくわかった?」
悟「うん、とっても」
★「命を棒に振る」
智子「これは嫌な言葉ね…。無意味なことのために命を落とすという事よ」
悟「たとえば?」
智子「“会社のために命を棒に振る”ってとこかしらね」
悟「そっかあ…会社勤めの人って大変だよね…」
智子「そうね…ちゃんと対偶を考えてくれるところならいいけど…」
悟「やれ働け働けと言うばっかりでちっとも賞与とか出してくれないところなんて最悪だよね」
智子「そうよね…って、悟君やけに詳しくない?」
悟「何が?」
智子「いやほら、その、賞与とかって言葉に」
悟「だって…嫌でも聞こえてくるんだもの…」
智子「そ、そう…」
★「井の中の蛙」
智子「こういう人ってたくさんいるから困ったものなのよね…」
悟「これはつまりどんな人?」
智子「自分だけの世界に閉じこもって、広い世界があることを知らないという事なのよ」
悟「それだけじゃないでしょ?」
智子「もちろん自分だけの知識や見方にこだわって、物事を大局的に見られない人を軽蔑して言うって事ね」
悟「へええ。大人の人にそういう人が多いんだよね?」
智子「そういうわけでも無いと思うけど…。経験がある程度の所で、新たな物事を…」
悟「新たな物事として見ようとしない、という事なんだね」
智子「そういう事。悟君は多分大丈夫だろうけどね」
悟「そんな事無いよ。それを言うならお姉ちゃんがまさにそうじゃないかな。物事を大局的に見られる」
智子「そうかな?ちなみに使い方としては…“あんな進歩した都会に井の中の蛙がいるなんて驚きだ”ってとこかしら」
悟「じゃあ、この商店街じゃたとえば誰がそうなるかな?」
智子「いやあ、ここじゃあたとえられないと思うけど…」
悟「そうなの?」
智子「ええ。色んな理由でね」
★「位牌を汚す」
智子「あたし達にはまだ縁はなさそうな言葉だね」
悟「そうなんだ?」
智子「まだまだ子供だから…。あ、でも大人達から言われる事もあるかもしれないわよ」
悟「へえええ?」
智子「祖先の名前や名誉を傷つけるようなことをする、という事なの」
悟「なるほどぉ。たしかに僕らじゃどうしようもないよね」
智子「でもね、これは要は悪いことはしちゃいけませんよって戒めだから」
悟「そっか、じゃああながち関係ないこともないんだよね」
智子「そうなるわね。さて使い方は“詐欺師になるなんて位牌を汚すような事はしないでちょうだい”ってなとこ」
悟「詐欺師…おねえちゃんは大丈夫?」
智子「何が」
悟「その年で店長やってる、とかって言いがかり付けられたりとか」
智子「いやぁ、あたしの家に言いがかりつけてもあまり得はしないでしょ…」
★「息吹」
智子「これは単純。すぐ分かるでしょ?」
悟「えっと息を吐く、呼吸をすることだよね?」
智子「そうその通り。何かが活動する前の気配や兆しを表すことが多いわね」
悟「“春の息吹が聞こえる”なんて使ったりするもんね」
智子「たとえば悟君はどんな時に春の息吹を感じる?」
悟「つくしかなあ」
智子「うんうん、そうよねえ」
悟「お姉ちゃんは…花粉症?」
智子「ありゃま、なんでそういう事知ってるかなあ…」
悟「だてに常連客やってないよ」
智子「あははは、なるほど」
悟「でも…商店街の皆誰でも知ってると思うよ」
智子「それもそうね…」
★「忌々しい」
智子「これは、憎らしい…腹立たしい…っていう意味ではあるんだけど…」
悟「だけど?」
智子「昔は違った意味だったんだよ」
悟「へええ…どんな意味なの?」
智子「不吉だ、縁起が悪い、陰気である…という意味ね」
悟「あれっ、結構違うんだね?」
智子「まあ、そうね。なんでも、中世以降から転じてこの意味になったそうよ」
悟「ふうん…。ねえねえ、どうして転じたの?」
智子「うーん、ちょっとそこまでは…。さて肝心の使い方だけど…」
悟「ふんふん」
智子「“あんな人に利用されてしまうなんて…忌々しいったらありゃしない”ってとこかな」
悟「…ねえお姉ちゃん」
智子「何?」
悟「何か嫌な事でもあったの?」
智子「どうして?あたしは笑顔でしょ?」
悟「使い方の例を出す時顔が全然笑って無かったよ…」
智子「演技よ、演技」
悟「そ、そうだよね、うん」
★「いまだかつて」
智子「今までに一度も、という場合に用います。下に打ち消しの語が伴うのが一番多いかしら」
悟「いまだかつてない、なんてよく耳にするよね」
智子「うんそうそう。…って、先に使い方言われちゃったわね…」
悟「でも僕が言ったのはほんの一部分だし…。第一、何がいまだかつてないのかわからないよ」
智子「ああそれもそうね」
悟「だからお姉ちゃん。お姉ちゃんが例を出さないと」
智子「了解。“あたしはいまだかつて、このようなおお喋りな人を見たことが無い”ってとこかな」
悟「…如月さんのこと?」
智子「そうそう、よく分かってるじゃない」
悟「この商店街内の人なら誰だってそう思うよ」
智子「まあそうなんだけどね…」
★「今は是まで」
智子「さてこれはね、もはやこれが最後である。もう何もかも終わってしまった…っていう状況ね」
悟「僕はあまり聞いたことがないよ」
智子「そうかもしれないね。実はあたしもそう何度も聞いたわけじゃないのよ」
悟「ふうん…」
智子「さて、使い方だけど…“切り札の武器を失い、今は是までと奴は観念したようだ”ってとこかな」
悟「要は危機的状況ってことだね」
智子「まあね」
★「今際の際」
智子「今がこの世の最期であるっていうことで、死に際、臨終のことを表します」
悟「………」
智子「どうしたの?」
悟「ちょっと…ううん、とっても悲しい言葉だなあって思って」
智子「ああ、まぁ…死、っていう意味を含んでるもんねえ」
悟「でも僕にはまだ深くは分かってないんだ。お姉ちゃんは?」
智子「あたしもまだねぇ…なんせ両親ともあんなだし…」
悟「…そういや、お姉ちゃんのおじいちゃんやおばあちゃんは?」
智子「あたしが生まれる前に死んだって言ってたっけかな…」
悟「そっかあ」
智子「で…“親父、つまりお前のおじいちゃんが今際の際に残した言葉があったんだ”とかって」
悟「…ふうん?」
智子「それがなんだったのか…結局詳しく教えてもらう前に二人とも行方不明だもんねえ」
悟「そうなんだ…」
智子「時々余裕たっぷりの手紙が届いてるから元気してると思うけどね」
悟「余裕たっぷり、って?」
智子「“今回は紙飛行機にして届けてみた”とかね。本当に飛ばしたかどうかしらないけど折り目ついてるし…」
悟「それって…余裕なの?」
★「今を時めく」
智子「こ、これは…!」
悟「どうしたの?」
智子「…おほん。この言葉はいい時勢にめぐりあって今が最高に栄えている!っていう事よ」
悟「ふんふん」
智子「でもって、人の寵愛を受けて栄えている場合にも使うんだって」
悟「へええ…うん、やっぱり他の人あっての人だよね」
智子「そうよう、そうなのよう」
悟「…どうしたの?」
智子「何が?」
悟「なんだか今回はおねえちゃんの様子が違うから…」
智子「気のせいでしょ。さて使い方は…“あの憧れの人は、今を時めく大大大スター!”ってとこかな」
悟「凄く強調してるよね」
智子「そりゃあ、今を時めくんだから」
悟「しかも他と違ってどっきりまーくつけてるし…」
★「いみじくも」
智子「ちょっと古文っぽいかもしれないわね」
悟「古文ってなあに?」
智子「古い文…すなわち昔の言葉ね」
悟「お姉ちゃん、古い文って…」
智子「いいの!さってと、“いみ”っていうのはそもそもとんでもないこと、非常に望ましくない事の意味なんだけど…」
悟「だけど?」
智子「これは転じて、まこと適切に、巧みに、なーんて肯定的な意味に使われるの」
悟「へええ…どうして転じたの?」
智子「さあねえ…色々事情があったんだと思うわ」
悟「………」
智子「さて、使い方は…“いみじくも悟くんがあたしの解説の締めをくくってくれた”とかかな」
悟「お姉ちゃん、いいかげんだよ?」
智子「そうね…反省。というわけで締めてね?」
悟「お姉ちゃんがすでに締めちゃってると思うんだけど…」
★「いやしくも」
智子「これは、本来は身分不相応な、っていう意味なんだけど…」
悟「だけど?」
智子「仮にも、少なくとも、っていう意味ね」
悟「へええ」
智子「また、打消しの語を伴って、おろそかにも〜しないという風にも使われるけどね」
悟「それじゃあ、使い方は?」
智子「“いやしくも学生の身分であることを忘れない”ってとこかしら」
悟「そっか…僕達って学生だよね?」
智子「そうなのよねえ…全然触れられてないけど…」
悟「それは言っちゃだめだよ、お姉ちゃん」
智子「そうなんだけどね…」
★「いよいよもって」
智子「雰囲気で分かると思うんだけど…どう?」
悟「うん、なんとなく」
智子「前よりもいっそう、っていう意味なの。物事が進展する様子とか、不確定要素が確実になっていく様を強調して言うの」
悟「ふうん…。ところでお姉ちゃん、一度に意味を入れすぎじゃないの?」
智子「そういう意見はあまりしてほしくないなあ」
悟「でも…」
智子「さ、使い方に移りましょ」
悟「うん…」
智子「“物語はいよいよもって佳境となってきました”かな」
悟「…そう?」
智子「…悟君。いよいよもって突っ込みがなってきたね?」
悟「指摘と言ってほしいな」
智子「そうね…」
★「甍」
智子「さて、悟君は多分聞いたことがあるよね」
悟「うん。五月の端午の節句に歌ったよ。こいのぼりの歌だったかな…」
智子「そうね。これは、瓦。または瓦葺きの屋根の事を言います。特に、屋根の一番高い所にある棟瓦を言う場合もあります」
悟「へええ…一番高いところ?」
智子「えっとね…“甍を争う”っていう言葉があって、高さを競うように大小の家が立ち並んでいる様を言うのよ」
悟「そうだったんだ…。物知りだね、お姉ちゃん」
智子「なんのなんの」
悟「物知りだからこそこのコーナーやってけるんだよね」
智子「…っていうかね、ちゃんと調べてるんだよ?そこらへん悟君は分かってよね?」
悟「う、うん…」
★「入相の鐘」
智子「鐘…近くにお寺なんてあったっけ?」
悟「この商店街の近くには無いよね」
智子「だよねえ…でも、隣町まで行ったりするのも面倒だから意味だけね」
悟「いつも意味だけじゃないかな…」
智子「…えっとね、夕暮れにつく鐘、またはその音という事。略して、入相とも言うみたいね」
悟「そういえば僕聞いたことないよ。ねえお姉ちゃん?」
智子「使い方は“入相の鐘が鳴る頃、子供たちはそれぞれの家に帰ってゆく…”かな」
悟「…お姉ちゃん、無視しないで」
智子「ごめんごめん、意味だけさっさとやっておきたかったから。鐘の音の話だっけ?」
悟「そう。ねえお姉ちゃん、聞きに行こうよ」
智子「もう、いいじゃない。年末になると聞こえてくるでしょ?」
悟「あれは入相の鐘って言わないと思うけど…」
智子「でも鐘の音だよ?」
悟「だから違うって…」
★「色好み」
智子「色、というのは男女間の恋愛を意味していて、恋愛を好むこと、好色な人を表します」
悟「恋愛?」
智子「そ。また、洗練された恋愛ができる人や風流の道を極めている人をいう場合もあります」
悟「洗練…風流?」
智子「そ。たとえば…誰かそういう人いたっけ?」
悟「先に使い方を言ってよ」
智子「そうね…。“色好みと言えば…光源氏”…だってさ」
悟「だってさ?って僕に言われても…」
智子「さて悟君、話を戻しましょ。商店街内では誰がいるかしら?」
悟「お姉ちゃん自身が恋愛に疎いだろうからわかんないよ」
智子「………」
悟「どうしたの?」
智子「悟君、いつからさらりと余計な事を言うようになったの?」
悟「僕余計な事言ったかなあ…」
智子「いい!?あたしはね、睦月さんイチオシなの!」
悟「う、うん。えっと、それで?」
智子「わかんないかなあ…これこそ恋愛の欠片でしょ?」
悟「そう言われても…」
★「色めき立つ」
智子「ここは一丁大きく変わってみましょう」
悟「何が?」
智子「やっぱね、こういう言葉を解説するからには実践しないと!」
悟「へえ〜…で、どういう意味なの?」
智子「これは、急に活気付く様。ある行為や事柄から、緊張や興奮が引き起こされた状態ね」
悟「だからお姉ちゃん変わるって?」
智子「そう。ある事柄が起きて、驚き動揺する場合にも使うの」
悟「えっと…じゃあ早速お姉ちゃん、変わってみてよ…と思ったけど、無理に実践しなくていいかも」
智子「え?なんで?」
悟「たとえばね…」
智子「たとえば?」
悟「“ある店長さんの登場により、その少女は色めき立った”という事じゃないかな」
智子「あれっ、悟君が使い方やっちゃった…。ふむふむ、少女ってのはあたしね。…ある店長さんって?」
悟「えっと…睦月さん」
智子「…さて、今回はこれにておしまいね。お疲れ様」
悟「お姉ちゃん、別に誤魔化さなくても…」
★「色を失う」
智子「悟くーん。ほぉら、へびー!!」
悟「!!!」
智子「とまあ、恐怖とか驚きで、平素の顔色を失って青ざめる様をいいます」
悟「うわわわっ、お、お姉ちゃんそれ!!」
智子「また慌てふためいて、どうしたらいいかわからなくる、ってことね」
悟「それ生きてるよ!!」
智子「またまたぁ〜」
悟「だってほら!!動いてるってば!!」
智子「そんなわけな…ええええええっ!!?」
悟「で、使い方は“あまりの衝撃にお姉ちゃんは色を失った”ってとこかな」
智子「な、なに落ち着いてるの悟くん!早く取ってー!!」
悟「お姉ちゃん、それ動くおもちゃだからさ」
智子「…あらほんと」
悟「よかったね、お姉ちゃん」
智子「………」
★「色を付ける」
智子「これはあたしたちに馴染み深い言葉ね…」
悟「そうなんだ?」
智子「商店街の中の一店長としてはね…。品物の値段を引いたり景品をつけることだから…」
悟「そっかあ、なるほどぉ」
智子「また、融通をきかせて物事を運ぶ時にも使用するの」
悟「ふんふん」
智子「簡潔にいくね。使い方は“これ以上色を付けると商売あがったりよー!”ってね」
悟「たとえばどんな風に色を付けるのかな?お姉ちゃんだったら」
智子「そうねえ…当たりくじをつけたりとか…」
悟「おみくじ?」
智子「おみくじとはまた違うけど…」
悟「極月さんの占いを入れるの?」
智子「そ、それはちょっと…。そういや以前新製品を開発しようとしたっけ…」
悟「へえええ…」
智子「でも結局、水無月さんのおまけ折り紙がずっと長く続いたっけかな…」
悟「そうだったんだ…どんな折り紙?」
智子「冷蔵庫とか」
悟「え?」
智子「だから、冷蔵庫。あと掃除機とか」
悟「…折り紙、だよね?」
智子「そうよ」
悟「………」
★「言わずと知れた」
智子「これはよく聞く言葉だよね」
悟「そうなんだ?」
智子「わざわざ言わなくても分かっている。分かりきっている物事を強調して言うってことよ」
悟「…えっと、つまりどういう事?」
智子「“その事は、言わずと知れたことです”ってなとこね」
悟「なるほど、うん、よくわかったよ」
智子「そう、よかった」
悟「…ってお姉ちゃん。普通は今のじゃわからないと思うよ?」
智子「そんなフェイントはかけなくていいの…」
★「言わずもがな」
智子「ありゃりゃ、同じような言葉がニ連続ね」
悟「どうするの?」
智子「言うまでもない、っていう事ね。物事の状態がわかりきってて特に言う必要もない…」
悟「あ、結局解説するんだね」
智子「“言わずもがな、ここは言葉解説の場だからね”」
悟「しかも一度に使い方も絡めるなんて、さすが面倒ごとを片付けるのが上手いねお姉ちゃん」
智子「…悟くん?ちょっと今のは失言じゃないかなぁ〜?」
悟「ご、ごめんなさい…」
智子「でね、言葉に出して言わない方がいいのに、っていう気持ちを表す時にも使うのよ」
悟「そうなんだ?」
智子「そ。というわけでここでおしまいね」
悟「うん…」
★「言わぬが花」
智子「世の中には、わざわざ口に出して言わない方がいいって時もあるの」
悟「ふうーん」
智子「というわけで、あからさまに言わない方が趣があっていいとか…」
悟「うんうん」
智子「はっきり言わないほうが差しさわりがないという事かな」
悟「へえー。で、使い方は?」
智子「“あの風景については言わぬが花”ってとこかしら…」
悟「…えっとね、お姉ちゃん」
智子「なに?」
悟「…ううん、なんでもない。言わぬが花だもんね」
智子「あからさまにそう言われると気になるんだけど…」
★「引導を渡す」
智子「ついに出たのねこの言葉が…」
悟「そんなに緊張するものなの?」
智子「当然よ。最終的な宣告をして諦めさせるってことだからね」
悟「どうしてそういう意味なの?」
智子「それはね、死者が迷わず悟りの境地に入れるように僧が説くことからきてるのよ」
悟「へええ〜」
智子「使い方は“あの人物にとうとう引導を渡すときがきた”ってとこかしらね」
悟「…ねえお姉ちゃん。誰かにそんなことをされる恐れがあるの?」
智子「ううん、別に無いけど」
悟「だったらどうして最初っから緊張とかしてたの?」
智子「雰囲気くらいは出そうと思って」
悟「出しても意味ないと思うけどなぁ」
智子「そんな、引導渡さなくてもいいじゃない」
悟「お姉ちゃん、それは使い方違うよ…」
★「上には上がある」
智子「これはよく聞く言葉じゃないかな。ねえ悟くん?」
悟「たしかテストの成績がどうとかって…」
智子「そんな嫌なたとえは出さなくていいの。ある状態や物事が最高だと思っていても更に優れたものがあるという事ね」
悟「ええっ?テストのたとえは一番身近だと思うけどなぁ…」
智子「…悟君の歳でそんなテストなんて気にしてるのはどうかと思うけど?」
悟「僕が受けてるんじゃなくって、僕がよく聞く話ってことだよ。お姉ちゃんもそうでしょ?」
智子「そ、それはまあそうなんだけどね…」
悟「だよね」
智子「…まあそれはそれとして、驚きの気持ちやうぬぼれてはいけないと覚める時に用いるわね」
悟「じゃあ使い方は?」
智子「“上には上があるから、もっと勉強しましょう”」
悟「あ、やっぱりお姉ちゃんもそういうたとえじゃない」
智子「はっ!い、いやこれは悟君につられただけで…」
悟「でも…まだ話の中にはテストのことなんて一回も出てきてないよね?学校もだけど」
智子「そういう事言わないの…」
★「魚心あれば水心」
智子「悟殿、おぬしもわるよのう…とかね」
悟「…なんのこと?僕わるじゃないもん」
智子「通じなかったか…。えっと、相手が自分に好意をもっていれば、こちらも好意を示す用意があるってことね」
悟「へええ、そういうこと?」
智子「あと、相手の態度いかんでどのようにも応対するっていうことね」
悟「あ、そうか、魚と水でたとえてるってことなんだね。なるほどぉ」
智子「なんでここで納得するかな…。さて使い方は“魚心あれば水心と、賄賂を要求する”」
悟「…あ、だから最初にわるがどうとかって言ってたんだね」
智子「ええそうよ」
悟「でも僕賄賂なんて要求してないよ?お姉ちゃん要求してるの?」
智子「いや、そういうことじゃなくってね…」
★「うかうか」
智子「この言葉は結構聞いたことあるんじゃないかな」
悟「うん、“うかうかしてると先を越されちゃうよ”、とかね」
智子「そうそう。これはね浮ついて気持ちが落ち着かない様をいうのよ」
悟「…そうなんだ?うーんそれだと…」
智子「または心がゆるんでぼんやりしてる状態ね」
悟「あ、そかそか、なるほどね」
★「浮き名」
智子「これはねぇ、憂き名、とも書くんだよ」
悟「へええ、どういう意味なのかなあ?」
智子「憂鬱で嫌な評判、悪い評判のことね。主に男女間の恋愛についての、世間の評判を言うの」
悟「ということは…」
智子「ということは?」
悟「僕達の身近にはたとえに挙げられる人がいないよね」
智子「それがねぇ、実はそうでもないのよ」
悟「そうなんだ?」
智子「ここだけの話、如月さんと神無月さんが…という噂を聞いたっけなあ」
悟「あのお姉さんとお兄さんがどうかしたの?」
智子「“あなたとなら浮き名を流してもいいわよ〜”って如月さんが…」
悟「言ったの?」
智子「…よく考えたら、言ったかもしれないけど多分別のことだろうねえ。出所は如月さんだし…」
悟「………」
★「浮き世」
智子「これは“憂き世”とも書いてね…」
悟「手前の言葉と同じだね。とういことは…嫌な世の中ってこと?」
智子「察しがいいわね。けれどもそうじゃなくて…」
悟「そうじゃなくて?」
智子「はかなく辛い世の中、現世のことを言うのよ」
悟「微妙に違うんだね」
智子「そうよ。また、情事を意味することから、かつては色街のこともいったそうね」
悟「色街って?」
智子「ちょっと待って。えーと…遊郭や料亭・待合・芸者屋などが集まっている所、だそうよ。色町とも書くの」
悟「なんで色って言うの?」
智子「そこまでは…。で、使い方は…」
悟「使い方は?」
智子「“人は…浮き世の波にもまれて大人になってゆく…”」
悟「…色町ってとこに行かないと大人になれないの?」
智子「そういうことでもないと思うけど…」
悟「ねえねえお姉ちゃん、それってどこにあるのかなあ?」
智子「さあ…」
★「浮き世の習い」
智子「さて、前回の意味を参照してどんな言葉か予想してみて」
悟「現実にある習いごと…っていう意味かな?」
智子「うーん、そうなんだけどね」
悟「違うの?」
智子「この世の中で避けることの出来ない習慣。または起こりがちな事柄という事ね」
悟「浮き世っていうのが現世だから?」
智子「まあそういう事かな」
悟「ふーん…。たとえばどういう事?」
智子「たとえば…“子供より親が先に死んでゆくのは浮き世の習い”とかね」
悟「へえ…」
★「有卦に入る」
智子「有卦ってのはギャグを言ってウケようとかのウケじゃないからね」
悟「ふーん。それで?」
智子「………」
悟「お姉ちゃん?」
智子「あ、ああ、ごめんね(うー、ウケなかったな…)えっと有卦っていうのは陰陽道で…」
悟「人の一生で幸運な時、だね」
智子「あ、ああそう。…なんだ、知ってるんじゃない」
悟「当たるも八卦とかいうものの種類かなーとか思って」
智子「へえ…。まあそういう事から、幸運の年回りに入って、やることなすこと万事が調子よく、いい方向に向かうという事ね」
悟「いい事尽くしでやったー、ってわけだね」
智子「そうそう。“探し物は見つかるし宝クジには当たるしいい職は見つかるし、どうやら有卦に入ったみたい”ってね」
悟「職?」
智子「いいじゃないの。あたしのことじゃないもん。たとえだもん」
悟「う、うん…」
★「雨後の筍」
智子「これはね、似たような物事が次々と起こる現象を言うのよ」
悟「どうして?それになんで筍なの?」
智子「雨が降った後は筍が続々と生えるから…だね」
悟「そうだったんだ…。じゃあ葉月さんところも雨が降った後は筍たくさんだね」
智子「そういうもんかなあ…」
悟「違うの?」
智子「毎日雨が降ったからって毎日筍は売りに出さないでしょ?」
悟「あ、そうだよね。…えっと、じゃあ使い方は?」
智子「“探偵ブームでこの商店街に次々と探偵事務所が出来ていった”とかかな」
悟「お姉ちゃん、探偵ブームってなに…」
智子「師走さんが町会長さんになった暁に起こりうる現象よ」
悟「………」
★「牛の歩み」
智子「もしかしたら馴染み深い言葉かもしれないね」
悟「うん。国会やゲームなんかで登場したよね」
智子「そうそう。牛がのろのろと歩くことで、行動なんかがゆっくりしていて、進み具合が遅いことのたとえよ」
悟「牛歩とも言うんだよね。歩くとそんなに遅いのかなあ?」
智子「スペインの牛追い祭り…だったかな。そこでは速いんだろうけどね」
悟「へええ…」
智子「で、使い方は“たとえ牛の歩みでも、毎日こつこつと続ける事が大切です”ってね」
悟「何が?」
智子「日々の勉強とかね」
悟「探偵業の?」
智子「それはまた違うと思うけど…」
悟「ううん、僕分かるよ。お姉ちゃん努力家だもん。毎日小さな事件を解決してるに違いないよ」
智子「それはまた更に違うと思うけど…たとえばどんな事件?」
悟「眼鏡をなくしたー、とか。目が悪いと深刻だしね」
智子「………」
★「後ろめたい」
智子「これはよく使われる言葉よね」
悟「あまり使われたくないけどね…」
智子「後ろが気がかりで落ち着かない…」
悟「………」
智子「何か悪いことを隠してる…」
悟「………」
智子「後先のことが不安、っていうとこかな」
悟「…やっぱり後って文字が語源なの?」
智子「えっとねえ、後ろ目痛し、が転じたものなんだって」
悟「へえええ」
智子「使い方は“彼は彼女に対して後ろめたい所があるようです”とかかな」
悟「お姉ちゃんは何かあるの?」
智子「あたし?あたしはいっつも前向きだから大丈夫よ」
悟「でも苦労人さんって、大抵不安がってるような…」
智子「あのね…」
★「薄紙を剥ぐよう」
智子「うーん、言葉だけでなんとなくわかりそうよねえ」
悟「でもなんか痛そう…」
智子「おっとっと、その逆でね、病気が快方に向かうっていう意味で使うことが多いのよ」
悟「そうなんだ?」
智子「物事が少しずつだけど変化していくさまなんだけどね」
悟「へええ…」
智子「使い方はねえ…“あの方が見舞いに来て以来、彼女は薄紙を剥ぐように良くなっていった”ってとこかな」
悟「ふうん。あ、きっとあの方ってのはその彼女の恋人さんなんだろうね」
智子「ふふーん、そうじゃないんだなー」
悟「違うの?」
智子「あの方とは…そう、まさに憧れのあの方。あの方が傍にいるなら、あたしはどんどん…」
悟「………」
智子「ちょっと悟君、何か反応してよ。あー、あの方ってあの人なんだね!とか」
悟「お姉ちゃん最近変だよ…」
★「堆い」
悟「ねえねえお姉ちゃん、これって何て読むの?」
智子「これはね、うずたかい、って読むのよ」
悟「へえ〜。っていうことは、高い、の仲間?」
智子「いいとこ言ってるじゃない。物が積み重なって高くなっている状態。また、高貴、高慢である。っていう意味よ」
悟「なるほどね。えっと、使い方は?」
智子「“彼の部屋は、既に足の踏み場も無いくらい堆く本が積まれている”ってとこね」
悟「あ、それってあの人?イカすーっていう」
智子「あははは、そうね」
悟「別名でヨーグルトっていうのを聞いたんだけど」
智子「は?」
悟「違ったかな…」
智子「ねえ悟君。それって何のネタなの…」
悟「知らないけど」
智子「そう…」
★「うそぶく」
智子「これはなんとなく分かると思うけど…」
悟「嘘をつくってこと?」
智子「あからまにそうじゃないのよ。大きな事をいうとか、とぼけて知らない顔をするとかね」
悟「それって嘘をついてるってことなんじゃないの?」
智子「結果的にはそうなんだけどね。それと詩歌を口ずさむとか口笛を吹くっていう意味もあるのよ」
悟「へええ…ただ嘘をつくだけじゃないんだね」
智子「あー、まぁそういうことよね、うんうん」
悟「ねえねえ、それじゃあ使い方は?」
智子「えっとねえ…“彼は大事件だと言っているけど真相はどうだかわかりゃしない”かな」
悟「ねえお姉ちゃん…言ってる本人が嘘だと思ってない場合も当てはまるの?」
智子「…当てはまらないよねえ、やっぱり。うーん…」
悟「そこまで気にしなくていいとも思うけど」
★「泡沫」
智子「水面にできる泡のことで、あっという間に消えるはかないものをたとえる時に用いるのよ」
悟「おねえちゃん、これなんて読むの?」
智子「うたかた、って読むの。聞いたことない?」
悟「あ、そういえば宝くじがどうのこうのって聞いたことあるよ。そうか、これだったんだね!」
智子「そうよ。“一獲千金は泡沫の夢と消えた”とかってね」
悟「なるほどー」
智子「…でも、これで使い方あってんのかな…」
悟「おねえちゃんの解説は泡沫、ってこと?」
智子「ちがーう!」
★「宴」
智子「これはつまり…」
悟「要は宴会ってことだよね?」
智子「ええ、そういう事ね。宴会のことを雅語的に表現したものなのよ」
悟「へええ。じゃあ使い方は?」
智子「“今宵の宴は朝まで続くことであろう…”かな?」
悟「わ、すごいすごい。お姉ちゃん昔の人みたい」
智子「それって褒められてるのかな…」
★「うたた」
智子「さあ、とうとうやってまいりました!」
悟「何が?」
智子「…素で返さないの。うたたっていうのはいよいよ、ますますっていう意味で、状態が進行するさまなんだから」
悟「それとお姉ちゃんの気合と関係があるの?」
智子「あのね…。まあいいや。また、はなはだしく、特別にという場合でも用いるのよ」
悟「どういう場合に用いるの?」
智子「たとえば"うたた寝"っていうのは、眠るつもりじゃなかったのにどんどん眠くなってしまった…ってことね」
悟「あ、うたた寝ってそういうことだったんだ?」
智子「そうそう、そうなのよ。」
悟「へえ…。えっと、使い方は?」
智子「“うたた変転する社会を見守る…”なんつって」
悟「…お姉ちゃん?途中までカッコいいと思ってたのに…」
智子「………」
★「うだつが上がらない」
智子「これは棟上げができない、つまり地位や境遇がよくならない、そしてお金に恵まれない!という事ね」
悟「なんだか強調してるけど…なんでそういう意味なの?」
智子「家を建てることをうだつが上がるっていったことからくるのよ」
悟「へええ…」
智子「また、金持ちじゃないとうだつが作れないと言った事からもね」
悟「へええ…」
智子「徳島県は脇町という所にその町並みがあるから今度つれてってあげるね」
悟「へええ…って、お姉ちゃんなんでそんな所しってるの?」
智子「おほん。さて使い方は“彼はまったくもってうだつがあがらない…”ってとこね」
悟「ねえねえ、なんで知ってるの?」
智子「楽屋的事情というやつよ」
悟「ふうーん?」
★「現身」
智子「これは"うつせみ"って読むのよ。間違えないでね」
悟「現(うつつ)と身(み)だからかな…。ねえねえ、空蝉とは違うの?」
智子「いいところに気が付いたわね。人間が生きているこの世、現世のことなの」
悟「うんうん」
智子「また空蝉と書いて蝉の抜け殻をいう場合もあるのよ」
悟「つまりは同じ言葉なの?」
智子「そういう事ね。漢字は違うけど」
悟「ふーん?」
智子「ちなみにうつせみのってのは枕詞で、空しくはかないってことから“うつせみの人”っていう風に使うの」
悟「えっと、人、にかかる言葉ってことだよね」
智子「うん、そうそう」
悟「で、お姉ちゃん。枕詞ってなに?」
智子「…知ってることにしといて。ね?」
悟「………」
★「現を抜かす」
智子「これはね、一つの事に夢中になって正気を奪われてしまうような様をいうのよ」
悟「ああ、そういうことなんだね。僕これでよく怒られたんだよ」
智子「へええ、ゲームとか?」
悟「ううん、推理小説。お姉ちゃんを少しでも助けてあげられたらって夢中になってたら…」
智子「そ、そう…(また悟君てば難しいのを…)」
悟「でも難しい字ばっかりでなかなか読めないからお母さんに読んでもらってるんだけどね」
智子「そう…(こりゃお母さんが大変だわ)」
悟「ところで、うつつ、っていうのは現実って意味なんだよね?」
智子「あー、それはそうなんだけど、現っていうのは目がさめている状態で、現実、正気っていう意味なの」
悟「へええ…」
智子「さて、使い方は…“探偵行に現を抜かしていると、いつか自分の手におえない本当の大事件に巻き込まれますよ”かな」
悟「…それお姉ちゃんのこと?」
智子「あたしは現をぬかしていないもん」
悟「………」
★「移り香」
智子「これはほかのものから移ったにおいってことね」
悟「そのまんまなんだね」
智子「そういうことね。ちなみに“残り香”ってのは、その人がいなくなった後まで残っているにおいの事よ」
悟「ふうん」
智子「使い方は…“この部屋には、彼の移り香が感じられる”かな」
悟「彼って?」
智子「…なんでここでそういうこと尋ねるの」
悟「僕知りたいな」
智子「…却下」
悟「ええ〜?」
智子「如月さんに聞けばいいんじゃない?色々教えてくれるよ」
悟「ううー、お姉ちゃんのいじわる…」
★「独活の大木」
智子「独活って言うのは茎が長くのびるけど柔らかくて使い道が無いんだって」
悟「へええ…。そういう植物なんだね」
智子「そうそう。で、身体ばかりが大きくて役に立たないっていうことね」
悟「使い方は?」
智子「“この部に居るのはどいつもこいつも独活の大木で、優勝はとても無理だ”とかかな」
悟「部って?」
智子「ちょっと出してみただけだからそんなに深い意味はないよ」
悟「ふうん」
智子「それよりも、独活については葉月おばさんに聞いたのよ。後で確かめてね」
悟「あっ、そうだったんだ。おばさんって物知りなんだね」
智子「なんと言っても八百屋だし」
悟「あ、そういうことかあ」
★「鵜の目鷹の目」
智子「熱心になりすぎると大体こんなになっちゃうかな…」
悟「そういう事なの?」
智子「ええ。だって、物を探して一所懸命になっている目つきや態度だからね」
悟「血眼ってのとは違うんだ?」
智子「うーん、そういう必死じゃなくって…」
悟「なくて?」
智子「獲物を追い求めるウやタカの目ってことだから」
悟「へええ…ふーん…」
智子「納得したかな?使い方は“何か事件のネタは無いかと鵜の目鷹の目で毎日を暮らす”とかね」
悟「それって…」
智子「言わずもがな、だね」
悟「お姉ちゃん…凄いんだね」
智子「ちっがーう!あたしじゃないー!」
★「諾う」
智子「さて、今回のこれは…」
悟「あ、あの、お姉ちゃん」
智子「ん?何?」
悟「これって何て読むの?」
智子「ああごめんね。これは“うべなう”って読むのよ。承諾の諾ね」
悟「へええ…。っていうことは…相手の言った事に賛同するってこと?」
智子「うん、そうそう。もっともな事であると同意する。または、人に服従する、謝罪するってとこね」
悟「へええ…」
智子「そんなわけで使い方は、“あたしの意見に諾う人が最も多かった”かな」
悟「意見…駄菓子屋を世界に広めよう、ってこと?」
智子「あたしの意見ってこと?うんそうね、そうなるわねえ〜…って、駄菓子屋はさすがに世界進出は…」
悟「無理?」
智子「だと思うけど…」
★「宜なるかな」
智子「これは手前に解説した言葉とちょっと似てるかもしれないね」
悟「どういう意味?」
智子「まったくもっともである、っていう意味で、人に同意することを強調して言うのよ」
悟「同意って辺りが同じなんだね」
智子「まあそういう事ね」
悟「でも、どうやって使うの?」
智子「“あたしの意見は宜なるかなであったと後から聞かされた”ってとこかな」
悟「…ほんとに使うの?」
智子「うーん、もしかしたらあんまり聞かないかもね」
悟「死語ってこと?」
智子「そういうものじゃないけど…」
★「味酒」
智子「あんまりあたし達には縁の無い言葉かもね」
悟「酒屋の長月さんのところへお使いに行った時に使うよ」
智子「へ〜え、悟君お使いしてるんだね」
悟「うんっ。その帰りにいっつもお姉ちゃんの所へ寄ってるしね」
智子「あれっ、そうなんだ?」
悟「お駄賃で駄菓子を買うんだよ」
智子「ああ、うんうん、そうだよねえ。えらいえらい」
悟「えへへへ」
智子「さてと、肝心のこの言葉は“うまさけ”って読むんだけどね…」
悟「うん」
智子「美味しい酒、上等の酒っていう意味で、酒の事を称えて言う時に用いるのよ」
悟「美酒っていうのとは違うの?」
智子「そっちもおいしい酒って意味だけどね。表現方法の違いかな」
悟「へえ〜」
智子「さて使い方は…“斯様な味酒をありがとうございました”ってとこかな」
悟「普通だね…」
智子「普通でいいの」
★「海千山千」
智子「これは世間の表も裏も知り尽くしたしたたかな人という事でもあるし…」
悟「うんうん」
智子「あらゆる経験を積んだずる賢い人という事でもあるのよ」
悟「要するに、逆らっちゃまずい人とか敵にしたくない人ってこと?」
智子「どういう表現なのそれ…」
悟「そんな感じがするんだけど」
智子「ま、まあいいわ。ちなみにこれはね、海にも山にも千年ずつ住んだ蛇は…」
悟「うんうん」
智子「なんと龍になる、っていう言い伝えからきた言葉なの」
悟「そんな蛇がいたんだね…」
智子「言い伝えだから真相はどうか知らないけど…」
悟「使い方はどうなの?この商店街にいるかな?」
智子「うーん…“あのおばあさんは海千山千だから気をつけるように”ってとこかな」
悟「おばあさん…あ、占い師のおばあさん?」
智子「あたしとしてはそう思うんだけど…どうかな?」
悟「僕もそう思う…」
★「産みの苦しみ」
智子「うーん…女性にとって感慨深い言葉よねえ…」
悟「お母さんは大変だってことだよね」
智子「そうそう。物を作り出したり新しいことを始める時に出てくる苦労の事ね」
悟「そうそう、ってお姉ちゃん言ったけどなんか違うじゃない…」
智子「いやいやこれはね、子供を産む時の非常な苦しみから言うんだから合ってるんだよ」
悟「あ、へええ…」
智子「使い方は…“産みの苦しみが大きいほど、完成の喜びもひときわ大きくなる”ってとこかな」
悟「そうだよね。工作してる時なんか大変だよ。僕不器用だもん」
智子「またまたあ。夏休みの宿題で悟君の作品が入選してるの見たよ?」
悟「あれはお父さんが作ったんだもん」
智子「あ、そ、そうなの…」
★「埋もれ木」
智子「長い間…土の中や水の中に埋もれてうち捨てられた木のことね」
悟「なんか可哀想だね…」
智子「そう、そういうことよ。世間から見捨てられ、かえりみられない境遇を言うの」
悟「へえええ…」
智子「使い方として…“埋もれ木に花が咲く”っていうのがあってね…」
悟「あっ、不運な境遇に突然幸福が舞い降りてきた、っていう意味?」
智子「そうそう、そんな感じ。というわけで今回はばっちりだね」
悟「う、うんそうだね…」
★「うやむや」
智子「あるのかないのかはっきりしないとか物事がどっちつかずで曖昧な状態の事を言うのよ」
悟「ぼんやりさんな状態ってこと?」
智子「うーん…まあそんなとこかな。または胸がもやもやしてすっきりしないさまも言うの」
悟「“お姉ちゃんのその返答うやむやになってるよ”」
智子「そうそう、そういう風に使うの」
悟「ちょっとお姉ちゃん…」
智子「今回はこれにておしまいね」
悟「…ごまかした」
★「烏有に帰す」
智子「古語っぽいね、これ…」
悟「ね、ねえお姉ちゃん、これって何て読むの?」
智子「ん〜、これは“うゆうにきす”って読むの」
悟「うゆう?鵜…とは違うんだよね?」
智子「えっとね、これは烏有ってのが“いずくんぞあらんや”って読んでね」
悟「う、うん…」
智子「まったく何も無い。つまり、すべてがなくなってしまうことを言うの」
悟「へええ…そうなんだ…」
智子「使い方としては“長年かけて書いてきた物語の大作が、火災で鳥有に帰してしまった”かな」
悟「ふうーん…なんで火災なの?」
智子「火災なんかでなくなる、っていう意味合いで使われるからじゃないかな」
悟「へええ…」
★「うら寂しい」
智子「これはねなんとなく寂しい気持ちがするっていう事なの」
悟「気持ち、なんだね」
智子「そうよ。「うら」っていうのは心のことを言うからね」
悟「へええ…。」
智子「使い方は…“両親が一緒に居ないあたしにとって毎日うら寂しいものでしたが…今は元気です”ってね」
悟「お姉ちゃん…」
智子「大丈夫よ。今は商店街のみんながいるから」
悟「うん…」
★「英気を養う」
智子「これはね、いざという時に十分な活動ができるように体力を蓄えるってことなの」
悟「要するに準備ってことだね。何の準備かはわかんないけど」
智子「まあそういうことね。物事に立ち向かおうとする気力、元気を備えるという事」
悟「だから、準備なんだよね。英気ってそういうことなんだ」
智子「英気っていうのは“すぐれた才気”ってことなの」
悟「へええ…才気ってなあに?」
智子「えっと…すばらしい頭の動き、ってことかな」
悟「うーんと…つまりは、絶好調!っていうことなんだね」
智子「ああ、まあ、感覚的にはそういう事ね。つまりは、万全の状態を保持する、みたいな」
悟「ねえねえ、使い方は?」
智子「“明日の大仕事に備えて英気を養うため、今日は早めに休んでおこう”ってとこかな」
悟「お姉ちゃんの場合の大仕事って?」
智子「それはもちろん探偵業ね。ふふん、こいつは結構頭使うんだから」
悟「でも、頭使わない探偵業なんてあるの?」
智子「…言われてみれば、そんなのあったら楽でいいわよね…はあ…」
★「似非」
智子「これは似てはいるけれども本物ではない、見かけだけの偽物ってことね」
悟「似て非なるもの。…なんて言うでしょ。だからだね」
智子「うん、そういうことね。なんだ、悟君良く知ってるじゃない」
悟「うちに物を売りにくる宝石商のおじさんがいるんだ。その時僕のお母さんがよく使ってるから」
智子「それって…」
悟「どうしたの?」
智子「う、ううん…。でね、価値がなく卑しいという事でもあるのよ」
悟「そっかぁ、だからいっつもお母さん怒ってるんだね。価値がないものばっかりだから」
智子「は、ははは…。え、えーと使い方は、“彼はまともな小説も書けない似非作家だ”とか」
悟「あ…そっかぁ、似非ってその人を否定しちゃうことになるんだよね」
智子「まぁけなし言葉でもあったりするけど、大抵はその人が本当に似非だから使われたり…」
悟「僕も気をつけなくちゃ。似非にならないように」
智子「そ、そうね…」
★「絵に描いた餅」
智子「絵に描いた餅はどうやっても食べられないよね」
悟「山羊さんなら食べるかもしれないよ」
智子「そういう事は除いて…。こほん、これは計画だけで実現できる見込みがないことを言うの」
悟「実物とは違うってこと?」
智子「そういうことね。また、手に入れたくてもまったくその可能性がないことでもあるのよ」
悟「餅が欲しくっても、餅の絵が欲しいわけじゃないもんね」
智子「そうそう。で、これは“画餅に帰す”とも言うんだって」
悟「へええ…。使い方は?」
智子「“そのような激しいトレーニング計画を立てても絵に描いた餅だ”とかかな」
悟「トレーニング?あ、探偵業専用のだね!」
智子「そんなのあるわけ無いけど…」
悟「ないんだ?ちぇーっ、壁ごえとか気配隠しとか手裏剣投げとかあると思ったのに…」
智子「それって違うでしょ?っていうか、探偵業に手裏剣は関係ない!」
★「縁」
智子「これは“えにし”って読んで、関係やゆかり。特に男女の関係のことを言うのよ」
悟「なんで“えん”って読まないの?」
智子「そういう言葉だから。ちなみに『縁の糸』は、人と人との出会いや別離なんかにおける縁の不思議さのことなの」
悟「ねえねえ、そういう言葉だからっていうのは?」
智子「使い方は、“あたしとあの方とは、前世から縁で結ばれていたに違いありません”かな」
悟「ねえねえ、お姉ちゃんってば」
智子「じゃあここでおしまいね」
悟「ちょっと待ってよー!」
★「海老で鯛を釣る」
智子「これはわずかな物や労力で大きな利益をえるということなの」
悟「でもね、お姉ちゃん…」
智子「ちなみにこれを“海老鯛”とも言って…何?悟君」
悟「海老って高級じゃないの?僕漁師料理なんてやってる店で食べたことあるけどすんごく高かったよ?」
智子「…さて使い方は、“たまたま拾った宝くじで一等があたったなんて、海老で鯛を釣ったようだ”とかかな」
悟「ねえねえ、お姉ちゃんってば」
智子「うー…そりゃああたしだって海老くらい…海老くらい!…とりあえず霜月さんに聞いてみて?」
悟「う、うん、そうしてみる…(何かあったのかな…)」
★「縁の下の力持ち」
智子「これは色んな場面でよく聞く言葉だよね」
悟「そうなの?」
智子「聞かれるべき、とでも言うかな…。他人のために陰で骨を折ることなの」
悟「えっと、ボランティアってことなの?」
智子「多くは、表面で活躍してる人に対し、陰でそれを支える力となっている人のことをいうの」
悟「そっか。陰で苦労してる人がいるのに、それを思わないのはひどいってことだよね」
智子「そうそう。上に立ってる人は特に、下で支えてくれる人にねぎらいをね」
悟「どんな風に?」
智子「“今のこの私の地位があるのも、あなたが縁の下の力持ちとなって陰で支えてくれたおかげです”かな」
悟「お姉ちゃんはこの町内の縁の下の力持ちだよね」
智子「ええ〜?あたしは特に何もしてないよ?」
悟「この町内の駄菓子生産量を100%担ってるとかって、この前町内会長のおじさんが言ってたよ」
智子「それはあたしのとこしか駄菓子屋が無いからでしょ…」
★「煙幕を張る」
智子「悟君、今日もいい天気だね」
悟「雨降ってるよ?お姉ちゃん雨好きなんだ」
智子「そりゃあ、飴屋本舗だから」
悟「僕はお外であそべなくなるから晴れがいいな」
智子「と、解説とは関係ない話題だったけど…」
悟「うんうん」
智子「これは別な事を言うなど言葉巧みに誤魔化して、本当の事を相手に知られないようにするって意味だよ」
悟「それはいいけど、今の会話ってごまかしになってたの?」
智子「戦闘の時に敵の目をくらませるために煙幕を張ることから言うのよ」
悟「ねえお姉ちゃん」
智子「使い方は、“事件の真相を問い詰めると、彼女は煙幕を張って誤魔化した”かな」
悟「お姉ちゃんは、誤魔化してるんじゃなくって聞かない振りしてるだけでしょ?」
智子「…分かってるんならもう言わない。分かった?」
悟「う、うん…」
★「遠慮会釈なく」
智子「多分、遠慮と会釈と聞いたことあるだろうから、大体の意味は予想つくんじゃないかな」
悟「遠慮が無いってのはわかるけど、会釈が無いっていうのは…えっと、無礼者ってこと?」
智子「まあそんな感じかなあ。相手に対して手心を加えたり思いやることもなく、自分の思った通りの事をする様ね」
悟「えっと…つまり、自分勝手ってことなの?」
智子「そういうことでしょうね。ちなみに“会釈”っていうのは、“あれこれと気を配ること”なの」
悟「そうなんだあ…。てっきり、お辞儀のことかと思ったんだけど。」
智子「たしかに、挨拶として頭を軽く下げることでもあるけどね」
悟「使い方は?」
智子「“彼女は遠慮会釈なく人を自分の話に巻き込む”かなあ…」
悟「お姉ちゃんってそういう人に関わられてそうだよね」
智子「え…」
★「生い先」
智子「これはまさに、あたしや悟君にぴったりな言葉なんだよ」
悟「そうなの?老後とかそんなんじゃないんだ?」
智子「ああ、それは“老い先”って書いて、年をとっていく行く末や年をとってからの余生ってことになるから」
悟「あ、違うんだ?」
智子「うん。成長していく先や将来、行く末ってことね」
悟「へえええ」
智子「逆に“生い先なし”ってのは、将来に何の見込みもないってことなの」
悟「うーん、たしかに生い先って僕たちにぴったりだよね」
智子「そうそう。使い方は“今からこんなに頭が回る子ならば、生い先が楽しみだ”ってな感じかな」
悟「それってお姉ちゃんのことだよね」
智子「まさかあ。悟君のことだよ」
悟「ええっ!?ぼ、僕なの?」
智子「うん。だってこのコーナーで含みのある相槌何回もうってるしね」
悟「ええ〜、そんな含みなんて持ってないのに…」
智子「悟君の将来が楽しみだわー」
悟「…なんだかお姉ちゃん年寄りくさいよ」
智子「え…」
★「老いさらばえる」
智子「えっと、これはだいたい言うまでもないかな…」
悟「前回を踏まえるとお姉ちゃんのことなのかな…」
智子「ちがーう!年をとってみすぼらしくなる。老衰してよぼよぼしてる様なんだからね!」
悟「あ、そうなんだ。お姉ちゃんみたいに年寄りくさいとは違うんだね」
智子「…悟君、あとでたっぷりお話しようね」
悟「ご、ごめんなさい…」
智子「謝ったって許さないから。女の子になんちゅーことを言うの!」
悟「………」
智子「さて使い方は、“彼はすっかり老いさらばえて、見る影も無い”ってな感じかな」
悟「う、うう、僕後で何されるんだろ…」
智子「そんなにおびえなくても…」
悟「物置に閉じ込められるのかな…」
智子「どういう発想なのそれ…」
★「老いの坂」
智子「こ、これはなかなか苦しい言葉だね…」
悟「苦しいの?なんで?」
智子「坂を上っていく苦しみを人生そのものにしたたとえだからだよ」
悟「あ、坂を上っていくごとに歳をとっていっちゃう、っていうイメージなんだね」
智子「そうそう、そういう事ね」
悟「歳をとるのと坂を上るのと…そんなに辛いんだ…」
智子「ま、若いあたし達にはまだわからないかもね。“老いの坂を苦しみながら上り死んでしまうなんて辛い…”って」
悟「あれ?苦しみながら上るっていう微妙な区切りもあるんだ?」
智子「あんまり細かいことは気にしないの」
悟「はーい」
★「老いらく」
智子「うう、なんか年寄りじみた言葉が続くなあ…」
悟「大丈夫だよお姉ちゃんなら」
智子「ありがとう…って、今のどういう意味?」
悟「う、ううん、別に…」
智子「ふーん…。あ、えっとこの言葉は老いること、老年って意味よ」
悟「普通に、老い、ってことなんだね」
智子「まあそういうことね。あと、老楽と書いて、老後の安楽な生活を言う場合もあるのよ」
悟「へええ…なんかいい言葉だね」
智子「そうねぇ。使い方としては、“老いらくは静かな海辺で暮したい”とかかな」
悟「ちなみにおねえちゃんは?」
智子「そうねえ、あたしは…って!あたしはまだ13歳でそんなもん考えてくないっての!!」
悟「う、ご、ごめんなさい…」
★「往生際」
智子「これは死ぬ間際のことを言うの」
悟「往生っていうのが死ぬって辺りを指してるのかな…」
智子「そうそう。往生っていうのは死ぬこと。仏教で、極楽に生まれることね」
悟「ふーん…」
智子「また、物事が終わりに近づいてきた時にとる態度のことも言うの」
悟「そうなんだあ。じゃあ、使い方は?」
智子「“生きている人間誰しも、往生際が大切です”かな」
悟「あれ?往生際が悪い、とかってのは?」
智子「ああ、そうだね。ちなみにそれはいつまでも未練がましくしている様をいうのよ」
悟「うーん、それはそうだとわかるんだけど…」
智子「何?そっちをたとえにしてほしかった?」
悟「うん」
智子「甘いよ悟君。あたしは微妙に裏をかいちゃうのだ」
悟「うーん…」
★「大鉈を振るう」
智子「さてこれは、思い切った処理をする。予算や人員などを大幅に削って大整理するってことよ」
悟「ねえお姉ちゃん…これ、何て読むの?」
智子「また、“鉈を振るう”とも言うの」
悟「お姉ちゃんってばぁ…」
智子「ああごめんごめん。おおなたをふるう、って読むのよ」
悟「ふう、ありがとう。実際に喋ってると分からないはずはないのにね」
智子「…悟君、そういう事は言わないの」
悟「う、うん」
智子「さて、使い方は“会社経営が行き詰まったため、大鉈を振るう羽目になった”かな」
悟「あんまり僕達にはなじみがないよね」
智子「そうね。会社経営してるわけじゃないし…」
★「大風呂敷を広げる」
智子「大袈裟なことを言うとか、実際には無理と思われるような計画を言いふらすってことよ」
悟「なんで風呂敷なの?」
智子「それは…多分…風呂敷広げて大袈裟に物を売る人…のこと、かな?」
悟「お姉ちゃん、どうしてそんなに自身なさそうなの?」
智子「堂々と言って間違ってたら、悟君が後で恥かいちゃうでしょ?」
悟「そっかあ…って、お姉ちゃんそれ言い訳になってないよ」
智子「そ、そうよねえ…」
悟「まあいいや、使い方は?」
智子「う、うん。“大風呂敷を広げるような社長さんは信用できません”かな」
悟「お姉ちゃん含めて他の皆もそうだよね。店長さんだし」
智子「うーん、そういうものとはまた違うかも…」
★「おおわらわ」
智子「これはねえ…」
悟「わかった。大慌て!ってことでしょ?」
智子「そうね。大人がおかっぱの子供のように髪を乱して慌てている様を言うの」
悟「へーえ。見た目の表現なんだね」
智子「そうそう。また、ある物事に夢中になったり一所懸命になっている状態でもあるのよ」
悟「一所懸命…って、何?一生懸命、じゃあないの?」
智子「一所懸命ってのは…まぁ、一生懸命と思ってもいいけど、ここでは解説しないからね」
悟「ええ〜?でも…一生懸命と同じなんだね?」
智子「そうそう。ほんとは、一所懸命をより強調したのが一生懸命、なんだって」
悟「へえ〜」
智子「さて使い方は、“急な出立告知により、参加者は皆準備におおわらわであった”かな」
悟「お姉ちゃんはおおわらわになるの?」
智子「なるよ。時と場合によってだけどね…どんな時かは秘密だけど」
悟「う、うん(どんな時かは大体わかりそうだなあ)」
★「陸へ上がった河童」
智子「水中に住んでるカッパが陸に上がると元気がなくなるように…」
悟「うんうん」
智子「今まで能力のあった人が、環境の変化などによって無力になってしまう様をいうの」
悟「でも、カッパって想像上の生き物なんだよね?」
智子「そうだよ。それでも言葉として残るくらい根付いたものなの」
悟「へええ」
智子「でもって、妖怪の伝承としてあちらこちらに登場してるしね。実在するかも?なんて」
悟「ふうん…あ、使い方は?」
智子「“普段は誰もが注目する程てきぱきと働く彼も、店が変われば陸に上がった河童の様におどおどしてしまう”かな」
悟「多分お姉ちゃんが工事現場行くようなもんだね…」
智子「何それ…。あ、ちなみに“陸”と書いて“おか”って読むからね」
★「起き伏し」
智子「起きたり寝たりって事で、要するに日常生活のことなの」
悟「そのまんまだね…」
智子「また、寝ても覚めても、いつもっていう風に副詞的に使われたりもするの」
悟「使い方は…“重い病にかかり、起き伏しに一苦労の毎日だ”とか?」
智子「そうね。また、“起き伏し思い浮かぶのは、この前解けなかった事件の謎だ…”とかね」
悟「…そうだ、お姉ちゃん」
智子「何?」
悟「今更だけど、この町で一番のお医者さんってどこかなあ?」
智子「えらく突然ね…。そうね…あたしには決めかねるなあ…」
悟「やっぱり、そう言うと思った」
★「奥の手」
智子「最後の手段、極意ね。また、左手や二の腕をいうこともあるんですって」
悟「切り札とはまた違うんだね」
智子「まあね。奥の手は本当に最後の最後で出されるものなんでしょうね」
悟「使い方は?」
智子「“とうとうあたしも、奥の手を出す時がきてしまったのね…”とかかな」
悟「お姉ちゃんの奥の手って?」
智子「秘密!だって、ばらすと奥の手じゃなくなっちゃうしね♪」
悟「へええ…。でも、何の奥の手なの?」
智子「さあ…っていうか、先に聞いたの悟君でしょ?」
悟「あ、そっか。でも考えてなかったよ」
智子「あのね…」
★「おくびにも出さない」
智子「本当は“おくび”を書く漢字があるんだけど…書けないからやめとくね」
悟「そ、そんなに難しい漢字なの?」
智子「難しいっていうよりは、都合でちょっと書けないの」
悟「そうなんだ…」
智子「心に秘めて口に出さない。または、そぶりにも表さないっていうことね」
悟「書けないんだ…」
智子「げっぷを外に出さないことからいうそうなんだよ」
悟「お姉ちゃんが書けないなんて言い出すなんて、どんな字なんだろ…」
智子「もういいでしょ。で、使い方は“経営が辛いなど、彼はおくびにも出さない”かな」
悟「ねえねえ、どんな字なの?」
智子「口へんに愛って字かな…」
悟「へえ〜…」
★「奥床しい」
智子「これは奥にあるものに心がひかれて、もっと知りたいと思うことなの」
悟「あれっ?てっきり弥生おねーちゃんのような人のことかなーって思ったんだけど…」
智子「…また、上品で深い心遣いが感じられて、強くひきつけられる気持ちってことね」
悟「気持ち…その人のことをさすわけじゃないんだ?」
智子「えっとね、使い方としては…“奥床しい女性が少なくなった、と嘆く”かな」
悟「…やっぱりその人のことを指すのでいいんだよね?」
智子「そう捉えると微妙に違うかも…。ところで悟君って奥床しい人が好きなの?」
悟「そうじゃないけど…。僕は元気な人がいいな。僕があんまり元気じゃないから」
智子「元気ってどういう基準…あ、悟君って病気してたっけ?」
悟「ううん、そうじゃなくって、活発な子がいいってこと」
智子「あ、するとあたしみたいな?」
悟「お姉ちゃんは好みのタイプじゃないけど」
智子「…えーえー、どうせそうなんだと思ったけどね」
悟「そんな拗ねなくても…」
★「螻蛄になる」
智子「これは本当に昆虫のオケラになるって事とは違うからね」
悟「大丈夫だよお姉ちゃん。お姉ちゃんならオケラにならないし」
智子「どういう意味…。えーっと、賭け事なんかに負けて無一文になるって事ね」
悟「どうしてそんな意味なの?」
智子「オケラは前足二本が大きくて、人が手を挙げてる姿に似てるからね。要するにお手上げ」
悟「グリコグリコー、だね」
智子「そ。…って、悟君何歳?」
悟「お父さんがよくたとえで使ってるよ」
智子「そ、そう。えーと使い方は、“あの人はしょっちゅうパチンコで螻蛄になっている”かな」
悟「この町ってそういう場所あるのかな」
智子「あっても誰も行きそうにないけどね。いや、あんまり賑わってほしくないな」
悟「そうだよね…」
★「おこがましい」
智子「先に言っておくけど、おこげとは関係ないからね」
悟「おこげ?」
智子「…えっと、気を取り直して。まったく愚かなこと、馬鹿がているってことなの」
悟「お姉ちゃん、おこげって?」
智子「転じてさしでがましい、とか、出すぎた事だ、というのを遠慮して言う場合に使うの」
悟「お姉ちゃんってば」
智子「“おこがましいかもしれないけど、あたしは意見を言いたい”かな…」
悟「お姉ちゃ〜ん。おこげってごはんの焦げたやつのこと〜?」
智子「…分かってるんなら尋ねないの!」
悟「う、うん…」
★「おしなべて」
智子「皆同じようである、普通である、世間並みであるって時に使うのよ」
悟「普通ってどんなのかな?」
智子「また、大方の傾向としてはという意味にも使われるの」
悟「お姉ちゃん、普通ってどんなの?」
智子「“今年の売り上げは、どの店もおしなべて芳しくなかった”とか」
悟「…平均ってこと?」
智子「残念ながら悟君、これって感覚でいくしかないのよ」
悟「そうなんだ」
智子「おおよそ、多数の意見がそれに当たる…んだろうなあ、きっと…」
悟「なんか深刻そう…」