「突然だが!今から野村たかしクイズを開催する!」
それが、この日の始まりの言葉であった。
いや、既に時は夕暮れ、学校での授業はすべて終了した放課後となってしまっているため、
これから終わろうと思っていた者達にとっては非常にいい迷惑であった。
場所は2年1組の教室。昼間は授業に休み時間に、鶴ヶ丘中学でも1、2を争うまでに騒がしいクラスである。
「正解者には素敵なプレゼントが用意されている!かもしれない!」
ダン!とワンテンポ遅れてたたかれる教卓。
熱のこもった、燃え滾った目からほとばしるオーラは、辺りを紅く染めるほどであった。
…いや、ただ夕暮れだから染まっているだけのことであった。
カァーカァー
遠くでからすが鳴いている。
窓のそばに座っているキリュウは一人、ぼんやりとその風景を眺めていた。
山に七つの子が待っているというが…烏はそこまで子沢山であっただろうか。
いいや、自然は厳しい。きっと七つの子のうち、生き残れるのは一人くらいなのかもしれない。
もしくは、あえて一人しか残さないのかもしれない。獅子の様に、千尋の谷へ突き落として…。
「いいか、一度しか言わないからよく聞いてくれ。これ一度っきりだ!
もう一度といわれても俺は言わないからそのつもりで!!」
キリュウが空想にふける中、教室では相変わらず熱弁を振るっていた。
なかなか本題に入らない。入ろうとしない。
単にもったいぶっているのかそれともたかし流なのか、いずれにせよ参加者達はいらついていた。
一部を除いて…。
「あの、たかしさん…」
熱演がなされる中、シャオはおそるおそる挙手をした。
か細い彼女の手では、熱きオーラによってあっという間にとかされそうであったが、
そこはそれ、たかしはあっという間にその声を聞き取った。さすがシャオである、たかしである。
「ん?なにかな、シャオちゃん」
「私、そろそろお夕飯のお買い物に行かないと…」
「うっ!」
せつなげな瞳でシャオはたかしを見つめていた。
そして彼女の視線は容赦なくたかしに突き刺さる。
ああダメだシャオちゃん、俺をそんな目で見ないでくれ。そんな目で見つめられると、俺は、俺は、俺はああああ!
のけぞりながらたかしは心の中で陶酔していた。
いい具合に背中が曲がっている。その身体はかなりやわらかいのが見てわかる。さすがたかしである。
「あのさー、どうでもいいからさっさと本題入ろうぜ?な?」
進行をうながしたのは那奈であった。
何故かここに居た。何故か呼ばれていた。本人は単に学校へちらりと寄っただけのはずだった。
しかしたかしに引きずり込まれたのであろう。そこはかとなく見えない力によって…。
「よーし分かった。そこまで言われちゃしょうがない!この俺がどーんと本題に入る!」
「だからさっさとしろよ…」
話がかみ合っているようでかみ合っていない。
一体たかしは何がしたいのか、誰にもまるでわからないのであった。
「よーしそれじゃあ言うな。俺から出すクイズとは…」
「あれ?あなたはどちら様でしたっけ?」
話が遮られた。その張本人は、女性メンバーの中で唯一メガネをかけているヨウメイである。
間が悪いというかなんというか、もしかしたらわざとなのかもしれない。
そんなヨウメイが疑問に思った女性とは、身体の小さな、半目開きのぼーっとした女の子であった。
「ああ、この子はフェイだよ。ほら新たな家族の一員になった…」
横から太助が説明を入れる。フェイの自己紹介を待っていたのでは時間がまた無駄に過ぎると思ってのことだろう。
「フェイさん?…ああ、ああ、再逢に登場された方でしたっけ」
素早く納得する楊明にこくり、とフェイが頷く。
どちらも素直ないい反応である。
「自己紹介が遅れましたが、私は知教空天楊明といいます。
主様に知識を教えることが役目です。どうぞよろしくお願いします」
ふかぶか、と楊明がお辞儀をする。と、フェイもぺこりと頭をさげた。
非常に純な挨拶が交わされているといってもいいだろう。
「………」
「ああ、いずれお会いする予定なんですけどね。
まだ主様の告白イベントも済んでませんし。」
「…?」
「ええ、一応今後あなたも登場予定なんですよ。
果たしてどういう交流になるかはその先のお楽しみということで。
けれどもね、先にも申しましたとおり、告白イベントが済んでないんですよ。
その他にもこなさなければならないイベントは盛りだくさんでしてね。
登場されるのは結構先になりそうですねえ…。それまでに連載が終わったりするかもしれませんねえ」
「…そういうのは困る」
「ですよね。頑張ってはっぱをかけましょう」
「うん」
こくこく、うんうんと互いが互いにうなずきあう。
二人の会話がなされている間、誰もツッコミを入れることができずにいたが…
「ってこらそこ!妙に別次元的な話をしてるんじゃない!」
司会進行役のたかしはばっちりツッコんだ。さすが司会である、たかしである。
びしっと二人にマイクが、ピカデオンが向けられる。
ふうーっ、っとため息がつかれる。マイクによりその音が拡大されるのだが、
マイク自身にとってはこういう行為は非常によろしくないらしい。
何気なくやっている人がいるなら、今後は控えるようにするべきであろう。
「ったく…いいか!今日は一体何の日か!?ってことを俺は問う!」
何気にクイズが告げられた。この企画も結構いいかげんなものかもしれない。
「しつもーん」
ほいっと手を挙げたのは、熱美であった。
愛原花織を筆頭に騒がしいことで有名であるクラスの中の一員。
しこうしてその実態は、いつもヨウメイの相手をさせられている悲劇の少女でもあったりする。
「今日って何月何日ですかー?」
「しょうがないな…12月7日だ!」
しぶっているそぶりを見せたたかしだが、あっさり日付を答えた。
もしかしたら、彼自身もとっととこの企画を終わりにしたいのかもしれない。
「わかりました!」
がたっとゆかりんが立ち上がった。
熱美と同じく花織のクラスメートである。本名は実は語られていないが、
実は“ゆかり”であろうという予想が立ち、目下のところそれが有力説だ。
「某所のア●メ●トでポイント2倍デーです!」
「誰がそんなローカルネタわかるんだよ…」
「え?この話の作者さんはわかりますよ?」
「だから!そんな楽屋的な話をするなって!」
楽屋的というのは、実質この場以外の場であるとか別世界であるとかで語られている事項のことだ。
そして、この話の作者というのは言うまでも無いだろう。というわけで省略する。
たかしに怒鳴られてゆかりんは大人しく座った。
こういう場面では、大抵順番に一人ずつ出番が廻ってゆく。
もちろん無い者もいるだろうが…ニ度ある者もそういない。
というわけで、司会を除き、現時点までで発言した者は既に出番を失ったことであろう。
「仕方がありませんね、ここは野村君より数段大人である私が…」
ふぁさぁと髪をかきあげつつ、ゆらりと立ち上がった長身の男性、それは宮内出雲であった。
神主の格好で購買部の売り子をしているという、他には見られない名物おにーさんと言ってしかるべき存在であろう。
女子からの人気が特に高く、無料でパンを配るなどということでも有名だ。
外見の特徴はなんと言ってもその前髪。派手さもさながら、目立ち度はぴか一だ。
「出雲は却下だ」
「は!?」
折角立ち上がった好青年を、一瞥のまなざしを向けつつたかしはにべもなく答えた。
「ちょっと待ってくださいよ野村君、私はまだ答えて…」
「ええーいうるさーい!出雲に発言権はないー!」
地団駄をふみ、子供のように(実際子供だが)たかしは出雲を退けた。
仕方がありませんね…と、出雲はため息をつきつつ、哀れみの視線を密かに投げつつ着席する。
何を意図しているのかはよくわからないが、これでクイズがお流れになってしまったらとことん自爆だということを
野村たかし本人は果たしてわかっているのだろうか?いいや、おそらく分かっていないだろう。
「あのう、たかし君…」
おそるおそる乎一郎が手を挙げた。
「なんだよ乎一郎」
「クイズはいいんだけど…答えさせてどうしようっていうの?」
流れが変わった。
ただ答えるだけではなく、何か別のものをひきだそうという魂胆だ。
そしてそれにより、このクイズ会を亡き者にできるかもしれないのだ。
…などという大胆な考えはおそらく乎一郎にないだろうが。
と、たかしはパンパンと大きく手を叩いた。
「さあ!他に答えは!?」
「たかしくん…」
乎一郎の問いを無視ったたかしであった。
しかしそれもいつもの事であろう。このくらいで彼らの友情は崩れないのだ。
「わかったわ!」
「おっ!ルーアン先生!」
「野村君がたらふくご馳走してくれる日ね!そうよ、それに違いないわ!」
「い、いえ、違います…」
「何よー、ケチねえ…。ま、いいわ。たまには社会教師らしいとこ見せてあげるわ」
あっさり座るかと思われたルーアンは不敵な笑みを浮かべながら立ち上がった。
「まず!星座は射手座!誕生月の石はトルコ石にジルコン!
誕生月の花はスイセンにセイヨウヒイラギにポインセチア!
誕生日の星はへびつかい座のイオタ・オピウーキ!その星言葉は“利用上手と内の不安”!
誕生日の花はいのもと草で花ことばは“信頼”!
ふふん、どんなもんよ」
今度は得意げな笑みを浮かべながらルーアンは座った。
横では乎一郎が大きな拍手を送っている。
「…社会教師、らしい?」
「どっちかって言ったら花織の専売特許だよねえ」
熱美とゆかりんがひそひそと話を交わす。
そして、辺りはしーんと静まる。一部ではフィーバーしているが。
だれてきた証拠である。
これ以上続けるのも、雰囲気的に酷となってきた、みたいである。
正確には書く側の都合でしかないのだが。
「愛原、愛原知ってるんじゃないのか?」
もはや限界か、翔子が場をしめる発言を行いながら、花織をつついた。
「はいはい、知ってますよ」
同じ気持ちだったのか、花織はそれに応えるように立ち上がった。
顔はかなりだれている。早く終わりたい気持ちでいっぱいのようだった。
「そ、それじゃあ花織ちゃん、答えは?」
「野村先輩の誕生日です!…一度インタビュー行った身としてはね…」
諦め気分で花織は告げた。
「正解だー!!」
上機嫌でたかしは叫ぶ。
周りが踊る、跳ねる、飛ぶ、回る。
負けじとたかしも動き…
「…あれ?」
気が付くとそこは自室であった。
たかしの部屋であった。彼は布団にくるまって手を挙げていた。
寝ながらでも元気である。
「…夢オチ?」
そのとおりである。
「おい…誰か祝ってくれよおおおお!!!」
残念ながら、それは他の話に期待しよう。
<おわりじゃああああ!>
2003・1・4