小説「魔法でおまかせっ!ポップンまりね」(キャロルの仮面)


かりかりかりかり……
ある日曜日の昼下がり。
自分の部屋の机に向かって、まりねはある物を書いてたの。
こつこつこつこつと何日も前から、千里の道も一歩から!ってね。
そしてとうとう……。
「できたあ!!」
「うわぁっ!」
やっとこさ出来あがって思わず叫んじゃったらキャロルがびっくりしてこけちゃった。
あはははー、ヘンなカッコー。
「いきなりなんだよまりね、びっくりするじゃないか」
「ああああー、ゴメンゴメン。やっと脚本が書けたもんだから」
「脚本?」
目をぱちくりさせてこちらを見るキャロルに、まりねは得意げに答えた。
「そ、脚本!まりねとキャロルでやる劇の脚本だよっ!」
「…………」
ふふっ、キャロルったら驚いてるみたい。そりゃそうだよね、サラの力も借りずにまりねが一人で……
「驚いたな、いつサラに変身したんだ?全然眠たそうじゃ無かったし……」
「ああああー、ちがうよっ!これはまりねが一人で書いたの! 一週間もかけて書いたんだよ!!」
「……なるほど、人は見かけによらないもんだな」
キャロルったら何気に馬鹿にしてない?能ある鷹は爪を隠すってくらい言ってよぉ。
「もういいよ。とにかくまりねが脚本を書いたんだから! だからキャロル、劇やろうね」
「なんだか唐突だな……まあいいや。で、どういう話なんだ?」
「えへへー、聞いて驚いてよ。なんと、ことわざの解説なの!」
「ことわざ!?こりゃ驚きだ……」
ああああー、すっごい驚いてる顔!
「でね、これが話の筋なんだけど……」
「ふむふむ」
興味津々とまりねの書いた脚本を覗きこむキャロル。
よしっ、ばっちりだ。とりあえずキャロルが興味を持ってくれないとね。
「ある所に、とっても働き者の農夫、まりねがいました」
「ふむふむ」
「まりねはだいすきなお野菜、カボチャにレタス、きゅうりにキャベツを……」
「それ余計な部分じゃないか?」
もうっ。演出ってのが分かってないな〜、キャロルは。
「いいの!……でもとりあえずは話の筋を知ってもらう為に次の場面へ行くね」
ぱらぱらとノートをめくると、なんかキャロルが呆れた顔になったみたい。
「野菜の名前がびっしりだな……」
「もう、そんなことないもん!で、ある日の事、いつものようにまりねが畑を耕していると……」
「ふむふむ」
「近くの茂みから“ガサッ”って音がしたと思ったら一匹の兎が飛び出して来ました」
「その兎がおいらって訳だな」
「そうだよ。そしてその兎、キャロルは目の前にあった切り株に
“ゴツーン!!”とぶつかって倒れてしまいました」
「なにぃ!?おいらがそんな間抜けな事するかよ!!」
「もう、これは劇なんだってば。で、その光景を目にしたまりねは大喜び。
なんといっても、思いがけないえもの。兎料理の御馳走の材料が手に入ったからです」
「ちょっと待て!まりねがおいらを食うのか!?」
「ああああー、これは劇だって言ってるじゃないの!!」
もうっ、キャロルったら。おとなしく聞いててよ。
「……もう途中の話はいい。結局どういうオチだ?」
早くも終わりを要求してくるなんて、随分な態度じゃない!
まあ細かい部分は後でちょこちょこすればいいかな。
「この劇で言ってることわざは、『株を守ってうさぎを待つ』、
≪偶然に経験したよい事がまたあるのを期待して同じ事を繰り返す、
古い習慣にこだわって意味の無い事を大事に守りつづける例え≫
という事だよ」
「……ことわざの意味はわかった。最後にまりねはどうなったんだ?」
「ああああー、その事ね。再び兎がぶつかるのを待って、畑仕事をせずに切り株を見守っていたまりね。
けれど兎は二度と飛び出さず、おかげで畑は荒れ放題。
待ちぼうけのまりねはみんなの笑い者となってしまいました」
「体はってるな」
「でしょう?キャロルにばっかり悪い思いさせられないもんね」
「それとはまた話が違う気がするんだが……。まあしょうがないからやってやるよ。
でもさあ、切り株に当たると痛いんじゃないか?」
キャロルったら予想通りの質問を!ちゃんと考えといて良かった。
「心配しなくていいよ。紙で作った切り株を置くから」
「それだと、切り株に頭を突っ込んじゃうって事にならないか?
それで笑われるのは嫌なんだけど……」
ああああー、鋭い。
でも大丈夫。第二段の説得方法を考えているんだもん。
「切り株の中ににんじんを入れておくから、
しばらくまりねが喋っている間にキャロルはそれを食べててよ」
ここでぴくっとキャロルが反応する。
しきりに悩んじゃってるみたいだけど、やがてやれやれといった感じで頷いた。
「ふっ、しょうがないな。おいらが一肌ぬいでやろう」
なんかエラソー。でもまあこれで決定したようなものだよね。
「よろしくお願いね、キャロル」
「ああ、張り切っていい劇をつくろーぜ!」
お互いにがっちりと握手。よーし、頑張らなくっちゃ!
「ああああー、いずみちゃんに電話しなきゃ」
握手をといてまりねがすっと立ち上がるとキャロルが不思議そうな顔をした。
「へっ?何でそんな必要があるんだ?」
「だってクラスの出し物の実行委員長だもの。決まったから知らせないと」
「なにー!!?」
キャロルがぴょーんと大ジャンプした!
ああああー、びっくりしたあ。
「く、クラスの出し物って……どういう事だ!?」
「今度のクラス会で一人ひとつずつ出し物をする事になったの。
みんなに見せるからには凄いものを!って事で、だからまりね一生懸命に考えたんだよ」
「ちょっと待て〜!!おいらはそんな大勢の前でやるなんて聞いて無いぞ〜!!」
「いいじゃない。これでキャロル有名になれるよ」
「そ、そうか。おいらのかっこいい所が……って切り株に突っ込んでる姿なんて
全然カッコ良くないじゃないか〜!!」
「……さーて、電話しにいこ〜っと」
「待てー!!!」

≪おしまい≫