ある日名雪が目を覚ますと、見た事のないような場所にいるのがわかった。
それはそれは薄暗い部屋であった。わずかな光に照らされて・・・誰かが立ってた。
??「ようこそ!いらっしゃいませだよぉ」
名雪「あなたは?」
??「あたしはこの部屋の謎の主さんだよぉ。」
名雪「な、謎の主?」
??「そうだよ。よろしく〜。」
名雪「よ、よろしく。」
戸惑いつつも名雪は謎の主と握手を交わした。
??「で、今からあなたにつづら選びをしてもらうよぉ。」
名雪「つづら選び?」
??「うんとね・・・じゃ〜ん!ここに三つのつづらが・・・あれ?」
謎の主が指した場所には何もなかった。
名雪「つづらなんて無いよ?」
??「おっかしいなぁ、たしかに昨日置いて・・・あーっ!」
名雪「え?え?」
??「うっかりしてたよぉ。こっちじゃなくてあっちだったよぉ。」
頭をかきながら謎の主が、別方向を手探る。
そして、ぎいい〜っと音を立てて扉が開いた。
名雪「わ、眩しい・・・。」
??「今度こそ三つのつづら、ごとうば〜!」
名雪「ごとうば?」
名雪にはわからなかったが、とにかく三つのつづらがその姿を見せた。
大中小と大きさもばらばらで、中からは何やら声がする。
??「さあ、この中から二つを選んでもらうよ〜。」
名雪「何が入ってるの?」
??「それは声を聞いて考えてね。
ちなみに残った一つはあたしのお姉ちゃんに運命が委ねられるよぉ。」
名雪「うう〜ん。」
悩みながら名雪がそれぞれのつづらのそばに寄る。
小さなつづらから聞こえてきたのは・・・
?「にゃーにゃー」
名雪「こ、この声は!!」
?「にゃーにゃー」
名雪「う〜。一つはもう決定!」
そして中くらいのつづらから聞こえてきたのは・・・
?「ぴこぴこっ」
名雪「な、なんの音だろ・・・。」
??「音じゃなくて声だよぉ。」
名雪「声?」
??「そう!かのりんのお友達のポテトの声だよぉ。」
名雪「・・・・・・。」
??「ああっ!ばれちゃった!!ばれたからには覚悟を決めて正体を明かすよぉ。」
名雪「つづらの正体?」
??「じゃなくって、あたしの正体。あたしはかのりんだよぉ。よろしくね。」
名雪「う、うん、よろしく・・・。で、ポテトって、じゃがいも?」
佳乃りん「違うよぉ。ポテトってふわふわっとした毛玉みたいな犬なんだよぉ。」
名雪「い、犬さんなの?」
佳乃りん「うん。とっても可愛いよぉ。天然記念物で国立指定公園並だよぉ。」
名雪「どんなだろ・・・。」
意外な中身に名雪は興味津々。
ポテト「ぴこ?」
つづらの中からは相変わらずの声が聞こえてきていた。
名雪「う〜、これは非常に気になるね。」
佳乃りん「見てみたい?」
名雪「見てみたい!」
佳乃りん「じゃあつづらを選ばないとだめだよぉ。」
名雪「うーん・・・とりあえず残り一つも見てみる。」
そして、大きなつづらから聞こえてきたのは・・・。
??「名雪、俺はお前を・・・」
名雪「祐一!?」
祐一「そっこーばらすな。」
名雪「わたしがばらすでもなくばれると思うよ。」
祐一「それもそうか・・・。」
名雪「で、こんなとこで何やってんの?」
祐一「それは俺のセリフだ。なんで俺はこんなところに閉じ込められてるんだ。」
佳乃りん「えへへ。ちょっとした魔法だよ〜。」
名雪「わ、びっくり。魔法なんだ。」
祐一「魔法なんて言葉で片づけられてたまるか。」
佳乃りん「まあまあ祐一くん。選ばれたら無事に帰られるから。」
祐一「そ、そうだったな。」
佳乃りん「そこで!つづらバンザイ予想くいず〜。」
名雪「わかった!わたしが選んだ後どのつづらが残るかだね!!」
佳乃りん「さすがするどいね。あたしが見込んだだけのことはあるよぉ〜。
というわけで、被験者の祐一くん。予想を立てて見事当ててみよー!」
立場的に当たっているが、嫌な表現であった。
祐一「そりゃあ、俺の予想では中くらいのやつだな。」
名雪「ねこーねこー。」
祐一「な?名雪、そうだろ?」
名雪「ぴこーぴこー。」
祐一「おいっ!」
名雪「祐一、残念だよ。」
祐一「待てー!!」
佳乃りん「それでは、なゆりんが選んだつづらおーぷーん!」
佳乃は自分と同じつもりで呼んだのだが、名雪はここで首をひねった。
(つーか実際これってシャレになってないんだよぉ<爆)
名雪「・・・うーん、なゆちゃんて呼んで欲しいな。」
佳乃りん「わかった。なゆちゃんて呼ぶね〜。改めておーぷーん!」
つづらがぱかっと開かれてゆく。
小さなつづらから姿を現したのは、猫。深く言うと、ぴろであった。
中くらいのつづらから姿を現したのは、犬。深く言うと、ポテトであった。
なゆちゃん「わ、これほんとに犬なの?毛玉じゃないの?」
かのりん「うん。正真正銘有名無実自画自賛で犬だよぉ〜。」
なゆちゃん「かわいい・・・。わたしこんな犬さん初めて見たよ。」
かのりん「よぉ〜し。じゃあこれから向こうへ行って一緒にあそぼう〜。」
なゆちゃん「ねこさんにいぬさん・・・。わたしなんだかしあわせ〜。」
かのりん「はやくはやく〜。おいてくよなゆちゃん〜。」
なゆちゃん「わ、待って〜。」
ぴろ「にゃーにゃー。」
ポテト「ぴこぴこー。」
笑いながら二人と二匹はその場から去って行った。
後に残されたのは大きなつづらだけ。
祐一「・・・・・・。」
祐一「・・・俺はこれからどうなるんだろう。」
どうにもできずにじっとしている祐一。
すっとつづらに差した人影にももちろん気付かなかった。
???「ふむ。これが佳乃が言ってたつづらだな。」
???「あいつも無茶をするようになったなあ・・・。」
???「そういうな。国崎君も嬉しいだろう?後輩が出来るのだからな。」
???「というかこれって誘拐じゃなかろうか・・・。」
???「バレなければ大丈夫だ。さて、快く迎えようではないか。」
???「アシスタント二号か。」
???「それを言うならバイト君二号だろう。」
???「いつ給料がもらえるともわからないバイト君二号・・・。」
???「一つだけ心配だったのが、犬や猫が残っていないかということだ。」
???「犬や猫!?」
???「ああ。佳乃は3つのうち2つは犬と猫にすると言っていた。」
???「そんなんでよくもまあ・・・。」
???「しかしこうして見事人間が残っているだろう?」
???「なんで人間だとわかる。」
???「先ほどの声が聞こえなかったのか?心配無用だ。」
???「可哀相に。こいつはこれからどんな人生を送るんだろうな。」
???「・・・・・・。」
キラン
???「・・・と思ったのは冗談だ。ああ、こいつはこれから素敵な人生を送るに違いない!」
???「うむそうだ。さて、連れてかえるとしよう。」
???「じゃあつづらを開けるぞ・・・。」
ぱかっ
既に警戒心たっぷりの目つきに変わった祐一がつづらの中にいた。
???「やけに反抗的な目つきだな。国崎君よりはましかもしれないが・・・。」
???「余計な事を言うな。おい、とりあえず自己紹介してやる。」
聖「私は霧島聖だ。」
往人「そして俺は国崎往人だ。で、お前は?」
祐一「・・・相沢祐一。っていうか、あんたたちさっき話してたことは本当か?」
聖「ああ、本当だ。」
祐一「俺がバイト君二号になるって?」
聖「掃除の極意が身につくぞ。」
祐一「・・・・・・。」
こうして、霧島家に新たな居候が加わったのであった。
めでたしめでたし。
名雪「ねえねえ香里、昨日とっても面白い夢を見たんだよ〜。」
香里「面白い夢?」
名雪「そう!女の子が出てきて三つのつづらが出てきて二つを選ぶの。」
香里「状況はわかったけど、それのどこが面白いの?」
名雪「一つは猫さん!一つは犬さん!そしてもう一つは祐一だったんだよ〜。」
香里「へえ・・・。で、名雪はどの二つを選んだの?」
名雪「猫さんと犬さん。」
香里「・・・それでいじけて相沢君学校に来てないってわけね。」
名雪「あれ?祐一居なかったんだ。」
香里「あんた気付かなかったの?」
名雪「うん。・・・あれ?そういえば今朝も見てない気がする。」
香里「ひょっとして家出したんじゃないの。」
名雪「まさか。そういえばね、夢から覚めたら猫さんを抱いてたんだよ。」
香里「あらあら。それは大変だったでしょうね。」
名雪「うん。でも犬さんと女の子は居なくなってた。不思議だよ。」
香里「・・・ねえ名雪。」
名雪「なに?」
香里「選ばれなかった相沢君はどうなったの?」
名雪「うーん・・・女の子のお姉ちゃんに運命を委ねられるんだって。」
香里「・・・そう。」
名雪「でも心配ないよ祐一だったら。きっとどこかで道草食ってるんだと思うよ。」
香里「だといいけどね・・・。」
ごしごしごしごし
祐一「・・・ぐああー!俺はなんでこんな診療所で働いてるんだー!」
往人「うるさい、叫ぶな。ちゃんとモップを動かせ。」
祐一「い、家に帰してくれー!」
往人「諦めろ、相手が悪い。」
祐一「そんな馬鹿なー!!」
聖「・・・この家もにぎやかになってきたな。」
佳乃「お姉ちゃん。今度は女の子をつれてくるよっ。」
聖「なんだと?」
佳乃「実はね、祐一くんを連れてきた時に目をつけておいた子がいるんだよぉ。」
聖「そ、そうか・・・(いつのまに・・・)」
佳乃「たい焼きが大好きで可愛い羽が生えたリュックを背負ってるの。」
聖「ほ、ほう?」
佳乃「それでね、それでね、“うぐぅ”なんだよぉ。」
聖「うぐぅ?」
佳乃「そう!あたしこの“うぐぅ”にべたぼれしちゃって据膳食わないと女の恥じになっちゃうよぉ。」
聖「・・・・・・・。」
数日後。霧島診療所に新たな人物がやってきた。
佳乃「紹介するよぉ。今日から一緒にくらすうぐぅちゃんだよぉ!」
うぐぅ「うぐぅ、ボクあゆ・・・。」
佳乃「みんな、うぐぅちゃんと仲良くしてあげてね!」
うぐぅ「うぐぅ・・・祐一君!助けてー!!」
祐一「あゆまで連れてくるとはおそるべし・・・。」
聖「にぎやかになりすぎではないだろうか・・・。」
往人「おい聖、そろそろ佳乃を止めた方が・・・。」
<煮え切らないままEND>