『穏やかな交流』


<二日目(その2)>

ぱくぱくぱくぱく
…う〜ん、幸せだよ〜。
お弁当は美味しいしたくさんあるし美味しいしたくさんあるし…。
「なんだかゴキゲンだね、みさきちゃん」
「にはは、頑張って作ってよかった」
「…喜んで食べてくれる人がいるのは、いいことです…」
卵焼きにウインナーにハンバーグにサラダに…
バリエーションに富んだお弁当を、私は幸せいっぱいに感じて食していた。
お腹が空いていたこともあるだろう。気持ちのいい場所で食べていることもあるだろう。
しかし何より、こうやってしっかりお弁当を用意してくれてた、
観鈴ちゃんと美凪ちゃんの気持ちが一番嬉しかった。
「ありがとうね。観鈴ちゃん、美凪ちゃん」
食べる合間に笑顔でお礼を告げておく。本当はいくら言っても言い足りないくらい。
それだけ私は、喜びを感じていた。
「にはは、たっぷり食べてね」
「…まだまだ、お代わりはたくさんありますから…」
まだまだ?お代わり?もしかしてこれ第一弾なのかな…。
嬉しいよ、今日は調子がいいからたっぷり食べられそうだよ。
「遠慮なく戴くね♪」
「うぐぅ、食べる速度がなんか速くなったよ…」
ぱくぱくぱくぱくぱくぱく…


小一時間ほど経った頃…。
「…残念。もうお弁当はお終いです」
本当に残念そうな声の美凪ちゃんにより、昼食会は幕を閉じた。
これでもかと言わんばかりにあったお弁当の山は、私によってほとんど片づけられた。
数にすると、重箱5つらしい。そして、他の三人が食べた合計は重箱2つ。
「…もっとたくさん用意しておくべきでした。みさきちんは大食漢」
いつのまにか呼び名が変わっていた。
「うーん、でもよくそんなに入るよね。わたしもうお腹いっぱいなのに」
観鈴ちゃんが苦しそうに息をつく。
きっと、私の食べっぷりを見ていて更に満腹感を味わってしまったのだろう。
「大丈夫?観鈴ちゃん」
「う、うん…」
「うぐぅ、ボクはあんまり大丈夫じゃない…」
更に苦しそうなのはあゆちゃんだった。
一番早くに食べる事を放棄してじっと傍で見ていたのだとか。
たい焼きだといくらでも食べられそうだけど、こういうのは別物なのだろう。
「…次回には、もっと箱を用意しておきます。さゆりんからもコツを学んでおきましょう」
「さゆりん?」
新たな名前が出てきた。もしかして美凪ちゃんのお弁当の師匠だろうか。
「…そうです。さゆりんは…お弁当のプロ、です」
「へえ〜…」
「…そして…月宮さんは食い逃げのプロ…」
「えっ…」
呼び方がまた変わった気がする…。
それはそれとして犯罪的な言葉を耳にした。
と思ったら、横になっていたであろうあゆちゃんががばっと身体を起こす。
「うぐぅ!!ボクは食い逃げのプロじゃないよっ!!」
「…では…」
間を置いて美凪ちゃんは言い直そうとする。
「…試食のプロ?」
それもそれで何か違うんだと思うけど…。
「うぐぅ、試食のプロって何…」
私もそれは非常に気になる。
「…試食だけして…はいさようなら…」
それは結局食い逃げじゃないの?
「うぐぅ!ひどいよ!」
「うんうん、ひどいひどい」
横で観鈴ちゃんが頷いている。
何に対して酷いのかちゃんとわかってるんだろうか、という頷きだけど。
「話がそれちゃったけど、さゆりんってどんな人なの?」
「…それは…」
「うぐぅ、ボクの話をそのままにしておかないでぇ〜」
後ろからあゆちゃんが悲痛な声をあげるけど、とりあえず構わない。
食い逃げなんて言ったって、多分やむを得ない事情とか誤解の類だと思うからね。
「とても明るい人。いつもあははーっって笑ってるの」
「そういう人は気持ちいいね」
「でもって、遠野さんと同じようにこの人も成績学年トップなの。羨ましいな」
「へえ〜…」
学年トップなんて言葉がよもやこう頻繁に出てくるとは思わなかったよ。
少なくとも並大抵の努力でこういうのは得られるものじゃない。
それに美凪ちゃんをみてると、勉強の虫って感じは全然しないし…
そのさゆりんも頭がいいんだろうね。
「…って、さゆりんって名前なの?」
「あ、違う。え〜っと…」
ふと気になったことを聞くと、説明をしてくれてた観鈴ちゃんが少し悩みだした。
あまりにずっと愛称で呼んでいると実の名前を時に忘れかけたりするからかな。
「…倉田佐祐理ですーっ。…あはははーっ。…です」
ゆらゆらと美凪ちゃんが告げてくれた。
そ、そう、倉田佐祐理ちゃんなんだ…。
「あ、ありがと、遠野さん」
「…いえ」
「うぐぅ、一瞬誰だか分からなかったよ…」
あゆちゃん、それは言ってはダメだよ。
美凪ちゃんは多分一生懸命佐祐理ちゃんのモノマネをやってくれたんだから。
でももうちょっと元気よく言って欲しかったよ。特に笑い声のところとか…。

「…では、しゃぼん玉大会、開催。ぱちぱちぱち」
食事の後かたづけも全て終わり、さて何をしようかというところで美凪ちゃんからの提案。
既にセットを受け取っていたのでそれも悪くないと思った。
それに、途中で言いかけてた美凪ちゃんのあの言葉も気になるし…。
「がお、わたし道具持ってない…」
「…じゃん」
困った観鈴ちゃんの声に美凪ちゃんは即座に反応。
手品師よろしのスピードで必要な道具を手渡したみたいだ。
「うーん…」
「どうしたのみさきちゃん」
唸っていると、隣で準備してるあゆちゃんが話しかけてきた。
「美凪ちゃんがどこに隠し持ってたのかとっても気になるよ」
「…たしかにそうだね。でも四次元ポケットっぽいのを持つ人は他にもいるよ」
「へえ〜、そうなんだ」
四次元ポケット。ぴったりの表現を受けて納得。でも…
「他にいる、って?」
「うん。栞ちゃんとかがそうかな。…あ、栞ちゃんってのは…ボクの知り合いだよ」
「栞ちゃん…」
また新たな女の子の名前が出てきた。
どうやら、まだまだまだまだたくさんの不思議な女の子が居るみたいだよ。
「ちなみにその栞ちゃんはどんな子?」
「えっとね、とても可愛くて、バニラアイスが大好きなんだ」
「へえ〜、バニラアイス」
「真冬でもとっても美味しそうに食べるんだよ」
「ふ、ふーん…。ねえ、その子も食べるの好きなの?」
「うーん、どうかな。でも人に振る舞うのは好きだと思うよ。
たくさんのお弁当を張り切って作っちゃって、祐一君はそれで困ってたり」
「祐一君?」
「あっ。えっと、祐一君ってのは…」
今度新たに出てきたのは男の子の名前。
このままどんどん語っていると、キリがなくなりそうだったので、そこでストップしてもらう。
「…もういいよ、あゆちゃん。また今度聞かせてね」
「うぐぅ、ごめんね。とりとめもない話をしちゃって」
「ううん、そんなことないよ。ありがとう」
「う、うん」
次にどんな話をするかっていう楽しみが出来たしね。
私としてはいくらでも話をしたいし…。
「…あの」
「あっ」
気が付けば、美凪ちゃんが待ちかねた様な声を発していた。
「…話はまとまったでしょうか?」
「えっとえっと、ごめんね。ちょっと雑談してただけだったから」
「…なるほど」
何かを納得している。
うー、美凪ちゃんのこういう言葉ってなんだか非常に気になるよ。
「…では、しゃぼん玉大会、開催…」
構わずに開始が告げられる。
もっとも、特に何かを競うわけでもない。ただしゃぼん玉を飛ばすだけ。
四人並んで、片手にコップと、もう片手にストローを持ち、開始する…。
ふぅ〜っというしゃぼん玉を膨らませる音。
パチンとそれがはじける音。そしてふわんと漂う空気が…辺りを埋め尽くしていった。
いい案配に、今は心地よい風が吹いている。
きっと、一つでも膨らませればそれは空高く飛んでいくところだろう。
手を伸ばしても決して届かない、高みへ…。
「…心を、か…」
脇ではしゃいでるあゆちゃん達の声を聞きながら、私はしゃぼん玉を膨らませる。
美凪ちゃんが告げた言葉を思い出しながら、自分の心を込めてみる…
ふう〜〜〜っ…
ぱちん
「わぷっ!」
一つ目。不覚にもそれを割ってしまった。
「うー…」
ごしごし
顔が石けん水にまみれて気持ち悪い。
めげずにもう一度…
ふう〜〜〜っ…
ふわん
今度は上手くいった。膨らんだ一つは私の口元をゆっくりと離れる。
「…寂しいよ〜」
しゃぼん玉は、すぐに私にはわからなくなった。
今どこを飛んでいるのかも、割れちゃったのかもわからない。
うーん、心を込めて飛ばすって言われても…
ぱちん
「うぐぅっ!」
隣からうぐぅが聞こえてきた。あゆちゃんだ。
「うぐぅ…みさきちゃんのしゃぼん玉が見計らったようにボクの目の前で割れたよぅ」
うー、それは聞き捨てならないよ。
「あゆちゃん、それだと私が悪いみたいに聞こえるよ」
「うぐぅ、ゴメン。でも不意を付かれちゃったんだ…」
そう言われても…あゆちゃんだって、自分の飛ばしたしゃぼん玉に責任は持てないよね?
それと同じで私だって…。
「が、がお…わたし全然とばせない…」
更に向こうでは、観鈴ちゃんが落ち込んでいた。
言われてみれば、ぱちんぱちんと何度も聞こえてきた気がする。
そんなに難しいのかな。
「…神尾さん。…ガッツ」
「う、うん…」
隣で美凪ちゃんが励ましている。
でも、やっぱりもうちょっと元気のある声で言って欲しいよ。
「さてと…」
ストローを握り直し、もう一度飛ばしにかかる。
ふう〜〜〜っ…
ふわん
あっという間に私の元を離れてゆくしゃぼん玉。
そしてすぐに手の届かないところへ行ってしまう…。
「…寂しいよ〜」
再度私は呟いた。
それと同時に、悲しみが自分の中を覆ってゆく。
「…私、なんでこんなことしてるんだろ…」
自虐的になって思わず呟く。だって、どうせ飛ばせても私には…
すっ
「え?」
誰かが私の手を背後からとった。まるで二人羽織の様。
それをしたのは…この大会の主催者(だよね?)美凪ちゃんだった。
「…川名さん」
「なに?」
「…一緒に、飛ばしてみましょう」
「でも…」
「…ものは試し。…きっと、何かが変わります」
「うん…」
美凪ちゃんにつかまれて、なすがままにストローを石鹸水につける。
そして口にくわえ、ゆっくりと息を吹き込む。
ふう〜〜〜っ……
………
何故だろう、少しだけ時間を長く感じた。そして…
ふわん
しゃぼん玉は、ストローを離れて飛び立った。
「…あれ?」
「…どうされました」
「なかなか飛んでいかないんだね…」
「…ええ。今しゃぼん玉は…」
「私の…目の前…」
「…はい、そうです…」
不思議だった。見えないはずなのに、私はしゃぼん玉をそこに感じる事が出来た。
…いや、違う。私がしゃぼん玉を感じてるんじゃない。
しゃぼん玉が私を見てる…美凪ちゃんに後ろから抱かれている私を…
ぱちん
「あっ!」
「…残念、風に乗る前に割れてしまいました」
一瞬世界が真っ白にはじけた。そして…静寂を取り戻した。
気が付くと私は…やはり美凪ちゃんに後ろから抱かれていた。
「今のは…」
「…もう一度、どうぞ」
「うん、もう一度飛ばしてみるよ」
「ボクも見てる」
「わたしも」
「あゆちゃん…観鈴ちゃん…」
いつの間にか、しゃぼん玉大会は私の独壇場となっていたみたいだった。
一瞬戸惑いの感。それでも…私は、美凪ちゃんに手を取られたままに、
しゃぼん玉に息を吹き込んだ…。
ふう〜〜〜〜っ………
………
ふわん
「あっ!」
今度は、口元を離れた途端に空に昇りだした。
「…風に…乗りました」
ぐんぐん上がっていく透明の球体。
ふよふよとおぼつかないままに形を変えながら…私たちを見下ろしている。
…いや、下に私たちが見える。驚きの顔で見ている私たちが。
同時に、目指す天に輝く太陽も見える。白い雲も、青空も。そして風も…

ひゅうううう…

横風が吹く。しゃぼん玉は、駅を飛び越えはじめた。
屋根の上。線路の上。そして…どこまでも広がる草原を…。

草木が波のようにうねる。ざわざわと音を立てる。
背の高い木々も同じだ。葉っぱを風になびかせる。
髪の毛を風に任せる様に、気持ちいい。

無限に続くと思われた草原の奥に、青い光を見た。
時折凹凸を持ちながら動いている。そこに浮かぶ鉄の塊もある。
…海だ。あの輝く平原は海…。

“あそこまで、行けるかな?”
などと思ったその時だった。

ぱちん!

「うわわっ!!」
突如しゃぼん玉は割れた。
そして私は…やはり美凪ちゃんに抱かれて立っていた。
「…いかがでしたか、旅は」
「ねえ、美凪ちゃん…」
「…はい?」
「これって…もしかして魔法のしゃぼん玉?」
思わずこんな事を尋ねてしまう。
だって不思議だもの。目が見えない私が、あんな世界を見ることが出来たなんて。
記憶の世界なんかじゃない。これは紛れもなく、自らで今見た風景…。
「…いえ。…ただの…しゃぼん玉です」
「ええっ?でも、あんなにはっきりと景色が見えたよ?」
「…仕組みは、ナイショ」
「ええっ!?」
気になる言葉を残して、美凪ちゃんはすっと手を離した。
慌てて後ろを振り返って追求してみる。
でも…美凪ちゃんはただ無言で返すだけだった。
代わりにあゆちゃんや観鈴ちゃんにも真相を追求してみる。
けれども、二人とも“わからない”と答えるだけ。
今度は三人で美凪ちゃんに追求してみる。
すると…
「…ひとときの夢、という事にしておきましょう」
やさしくそう言ってきた。
もちろん納得は出来ない。でも…
なんとなく、これ以上聞くのはためらわれた。
それに、仕組みがどうとかはどうでもよくなっていた。
あんなに素晴らしい体験ができたのだから…。






…風が冷たくなってきた。
あんなに暑かった日差しも、今はそうきつくない。
きっと今は綺麗な夕焼けが拝めるほどの時間帯なんだろう。
「わあ、凄く綺麗な夕焼けだね」
思っていると、観鈴ちゃんが声を上げていた。
西の方へ私も顔を向けてみる。
「ねえ観鈴ちゃん、ちなみに何点くらいかな?」
「え?うん、えっと…95点」
随分と好評の様だ。
「なんで95点?満点じゃないの?」
「うん。別れの時を感じさせるから…」
「えっ…」
そっか、そうだよね…。
でも観鈴ちゃん、そんな事言ってたらいつまで経っても夕焼けは満点にはならないよ。
くすっと笑いながら、私はほとんど空になった紙コップにストローをこつんと置いた。
結局あれからずっと、しゃぼん玉を夢中になって飛ばし続けていたのだ。
でも、なかなかあの時の様な一体感は味わえず。
たまになったりするも、それも一瞬で終わってしまったりとしたのだった。
途中でコツがあるのかと何度も美凪ちゃんに聞いたのだけど、何も教えてくれなかった。
やっぱり美凪ちゃんは手強いよ。そうつくづく思った。
それにしても…もうお終いなんだね、今日は…。
「お別れ、か…」
「うぐぅ、佳乃さんがちゃんと帰してくれればいいけど…」
意識したくなくて呟いたのに、それがどかどかと崩れるような発言をあゆちゃんがする。
「佳乃ちゃんが帰してくれないってどういう事?」
「うぐぅ、実はボク何日もこの街に居るんだよ」
「え…」
一瞬私は耳を疑った。
「一応その日に帰してくれるんだけど…次の日に目覚めるとまたこの街に居るの。
佳乃さんの部屋で目を覚ますんだ。だからへろへろだよ…」
「あ、あはは、そうなんだね…」
乾いた笑いを起こす。
困ったな。もしかしたら私もそんな立場になっちゃうかもしれない。
だとしたらどうしよう?もうお母さん達には会えないのかな…。
さっきまでとは別の不安がもうもうと胸を覆い尽くす。
なんという事だろう。早くもさっさと帰りたくなったよ。
「にはは、大丈夫だよ。ちゃんとかのりんは家に送ってくれるよ…多分…」
「う〜、観鈴ちゃん。もうちょっと自信ありげに言ってよ…」
「が、がお…。ごめん。でもわたしには保証できない」
「それは困るよ…」
こんな事を言っても観鈴ちゃんを困らせるだけだったけど、言わずには居られなかった。
だって、だって…。
「…あ」
美凪ちゃんが小さく声を上げる。
「…噂をすれば…なんとやら」
と、遠くからぱたぱたと元気のいい足音が近づいてきた。
「おーい、遅くなってごめんねぇ〜」
この声は佳乃ちゃんだ、間違いない。
でも私はまだ、安心出来なかった。
だから、佳乃ちゃんが完全にこちらにやって来ると同時に聞いてみる。
「えっとね、ちゃんと私を帰してくれるよね?」
不安の入り交じった複雑な声だ。もしかしたら私は泣きそうになっていたかもしれない。
けれど意外にも、佳乃ちゃんは明るく返してきた。
「うんっ、もちろんだよぉ。それより十分堪能した?」
「う、うん、堪能したよ…」
「そう。それならよかったぁ!」
屈託のない声。なんてことはない、取り越し苦労だった。
まったく、あゆちゃんのおかげで冷や冷やさせられちゃったよ。
ほっとしている私の後ろから、おずおずとあゆちゃんが声を出した。
「…あの、佳乃さん」
「ん?なあに、うぐぅちゃん」
うぐぅちゃん…えらく直球な呼び方だなぁ…。
「うぐぅ、ボクはうぐぅじゃなくて…」
「ええっ?うぐぅちゃんはうぐぅちゃんだよぉ」
何者をも譲らない佳乃ちゃんの声はやけに強く思えた。
自信満々だ。なんだか私は少し見習いたい気がした。
「うぐぅ…えっと…ボクはいつになったら帰れるの…」
「大丈夫だよぉ。今日みさきちゃんと一緒に送ってあげるからぁ」
「ええっ、ホント?」
「うんっ」
「よかったぁ…」
心底嬉しそうなあゆちゃんの声。
うーん、よくよく考えれば由々しき事態だよね、これって。
それに私ってば堂々と自然に居るんだよね…。
「でもってすぐに明日迎えに行くからね」
「うぐぅ!そんなのやめてよ!」
「あの、私もそういうのはやめて欲しいよ…」
あゆちゃんの後に続く。
「冗談だよ、冗談。誘拐はしすぎると身体に良くないからねぇ」
「「………」」
二人して無言。
うー、これって誘拐だったの?
「あ、あの、かのりん。話がこじれるから後はもう遠慮しよ?」
「…そろそろ私達も帰らないといけませんし」
横から観鈴ちゃんと美凪ちゃんの呼びかけ。
なかなかの好判断だよ。これ以上聞いてると混乱が混乱を呼びそうだよ…。
「わかった。これから送っていくねぇ。
じゃあね、観鈴ちゃんになぎー。ありがとうだよぉ〜」
「う、うん、ばいばい」
「…さようなら。またいつか」
あゆちゃんと一緒になって引っ張られる。
ええ〜、こんないきなりな別れってありなの?
「ば、ばいばいっ」
「二人ともまたねぇ〜」
慌ててさよならの挨拶。そして…
「でっぱーつ!!」
佳乃ちゃんの元気な声。
そして私は、この世界から別れを告げた。








気付いた時には、私は自分の部屋で上半身を起こしている状態だった。
けど服は学生服だった。帰る寸前で返してくれたのだ。
「…夢?じゃないよねえ…」
ごそごそと懐を探ってみるとその証拠を見つける。
三枚の封筒が出てきた。紛れもない、美凪ちゃんからもらったお米券だ。
記念の品が…お米券、かあ…。
もう一つ更に証拠のものが、すぐ傍にあった。
「包帯…」
起き抜けにあゆちゃんに噛まれた部分だ。
これはこれで記念だけど、少し嫌な記念だよ…。
クスリと笑う。やっぱりあれは夢じゃないのは確実の様だった。
それにしても…なんだか複雑な気持ちだよ。
更に複雑なのは、別れ際に聞いた…
“また誘拐しにくるからねぇ”という佳乃ちゃんの台詞。
「いくらなんでもシャレになってないよ…」
苦笑混じりに呟く。
でも…また行きたいな。
そういう気持ちが、たしかに私の中にあった。
驚くほど自然に居られた別の世界。
決してここでは味わえない体験。
何もかもが新鮮で嬉しかった。
そして何より…
「皆とってもいい人達だったしね」
是非ともまた会いたい。
そんな事を考えながら、私はうーんと伸びをした。
すぐにまた会う機会がやってくるとも思わずに…。

<二日目(その2)終わり>


最後の後書き:とりとめもないですが、これにて終わりです。
はてさて、これって表にだすのかなあ?とか思いつつ、これ書いてます。
どっちでもいいんですけどね。
ただ、批判だけは言って欲しくないと思ってます。
だって最初に書いてあるもの。嫌気を感じたなら読まないようにって。
不快感を感じたりしたって、それは私の責任じゃありません。
…とまあ自虐的になる前に。私的にはこういう話がやっぱり好きです。
要は、こういう状況でどういう反応が見られるか、の拡大版ですよ。
絶対に顔を合わす事のない人物同士のそういうのは…楽しいのです。
だから結局のところ好きな様に書いてるのです。
ネタが分からない、意図が分からない…そんなのはどうでもいいんです。
読み手に分かってもらうために書いてるわけじゃありませんから。
ただ、こういう話があった。それでいいじゃないですか。
何も細かい事にこだわらなくていいと思います。
変な話だ、馬鹿な話だ、それでもいいんです。
二次小説という位置付けですが、大元の話とは別物、
として捉えて書いてるので。(なんてのは言い訳かもしれませんが)
なんにせよ…この話は、結局はパラレルワールド日記の類です。
後書きもとりとめもなくなってきたので、この辺で(苦笑)
2001・11・4

ふえ?これの続き?
…偽小説でも探してみて(爆)