いつも通りの七梨家の朝。今日は日曜日なのでのんびりとしたものである。
シャオが作ったあったかい味噌汁、そして色とりどりのおかず・・・。
それらを平和そうに食している太助、那奈、キリュウであった。
「ルーアンさん起こさなくて良いんでしょうか・・・。」
あっさりと始まってしまった食事にシャオは少し戸惑い気味。
以前ルーアンから“日曜日は昼食が朝食なのよ!”と言われたものの、やはり不安なのである。
「平気平気。どうせぐーすかいって寝てんだからさ。」
「食い気より眠気なんだよ。」
「・・・試練だ。」
三人は落ち着いた反応である。
仕方なく、シャオも自分の席に座って食べ始めようとしたその時!
バン!!
と、勢い良くキッチンの扉が開く。
何事かと皆が注目すると、そこにはばっちりと着替えたルーアンが立っていた。
「おはよう!!」
「「「お、おはよう・・・。」」」
元気のいい声に太助達三人が圧倒されつつ挨拶を返す。
つかつかと歩く彼女に、シャオは慌てて立ち上がった。
「ルーアンさん、おはようございます。」
「おはよう、シャオリン。早速御飯ついでちょうだい。」
「はい、分かりましたわ。」
にこりと笑って、お茶碗に御飯をつぎ始めるシャオ。
ゆっくりと席に座るルーアンにそれを素早く手渡すのだった。
「どうぞ、ルーアンさん。」
「ありがと。ふふん、ちゃんとあたしの分のおかずも作ってあるじゃない。
偉いわねえ、シャオリン。」
「いいえぇ。」
そう。なんだかんだ太助達に言われながらも、シャオはしっかりとルーアンの分を作っていたのだ。
ルーアンが起きてこない場合は皆で食べ切る、という方針で。
(もちろん、食べ切れずに残った物は昼に回すという事になるが)
「それじゃあいただきまーす!」
挨拶したかと思うと、ルーアンはいつもの様にがつがつと食事を始めた。
相変わらずの様子に皆はそれぞれ食事に戻る。
その途中で、ふと太助は手を止めた。
「なあルーアン、今日はどこかへ出かけるのか?」
「んん?どうしてそんな事聞くの?たー様。」
「だって休みの日だってのに早起きして朝食とってるし・・・。」
「確かに出かけるつもりよ。あ、シャオリンお代わり!!」
「はい。」
話の途中ですっとお茶碗を差し出すルーアン。
シャオは快くそれを受け取って電子ジャーに残っている御飯をつぐ。
まだまだ炊き立てに見えるつや、そしてそこから立ち上る湯気が、白い米の美味しさを引き出していた。
「どうぞ、ルーアンさん。」
「ありがとう。うーん、見た目もほんと美味しそう〜。がつがつがつ・・・。」
この際ルーアンにとってはどうでも良いんじゃないのか?などと思いながら、那奈も炊き立てのご飯を見る。
確かに美味しそうに見えるが、毎朝食べている物と同じだからそうそうは変わらないはずだ。
「なあルーアン、どこに出かけるんだ?」
「どこだっていいでしょ。がつがつがつ・・・お代わり!」
質問に戻った太助をあっさり流し、三杯目へと突入。
シャオはお茶碗を素早く受け取って、素早くついで返すのだった。
「どうぞ。」
「ありがと。この味噌汁も美味しいわあ。ずずずずずぅ・・・。」
「ほう、ルーアン殿もそう思われるか。今日の味噌汁は斑入り。つまり・・・」
「お代わり!!恐怖のみそしるって訳ね、洒落てる〜!」
「・・・・・・。」
珍しく喋り出したキリュウをこれまたあっさりと受け流してお代わりを申し出るルーアン。
悔しそうに味噌汁をすすり出すキリュウを唖然と見る太助。
那奈は那奈で“珍しい物が見えたな〜”と思っていた。
そんなこんなで、結局ルーアンは何杯も味噌汁だのご飯だのをお代わり。
食事が終わった頃には、すっからかんとなっていた。
「ご馳走様〜!!ふう、食べた食べた。」
これまたいつもと変わらない、流れるような終わり方である。
しかし、珍しく五杯でルーアンはおかわりを止めた様だ。
「さてと、じゃあ出掛けてくるから!」
彼女はいきなりは立ち上がると皆に宣言する様に告げた。
太助、那奈、キリュウの三人は無言でこくりと反応。
シャオはにこりとしてルーアンに言葉を返す。
「いってらっしゃいませ、ルーアンさん。御昼には帰るんですか?」
「そうよ。だから美味しい料理お願いねっ!」
「ハイ、わかりましたわ。」
シャオのハッキリとした返事に快く頷くルーアン。
そして“ふんふん♪”と鼻歌を歌いながら七梨家を出て行った。
玄関のドアがバタンと閉まる。
相変わらずにこにことしていたシャオとは対照的に、固まって居た太助達。
いつもとは違ったルーアンの様子を見て圧倒されていた様である。
しかし、しばらくすると元に戻って、途中である食事を再び始めるのだった。
「さてと、とりあえず・・・学校にでも行ってみましょうか。」
外へと出掛けたルーアン。黒天筒をしっかり持っているものの、陽天心を使うことなく歩いている。
伸びをしたり、ちらっと見かけたものに見取れたりと自由奔放だ。
と、道端で座りこんでいる老婆がいる。何やら苦しそうなその姿を見て、ルーアンは声をかけた。
「どうしたの?お婆さん。」
「ちょいと荷物が重すぎて・・・。それで運べずに難儀しておるのですじゃ。」
老婆の言う通り、その横には大きな荷物が。
ルーアンが軽くそれを持とうとすると、がくんと成るくらいの重さである。
「あたしが運んであげるわ。」
「いやいや、見ず知らずの人に頼むわけには・・・」
「いいからあたしに任せなさいっ!陽天心召来!!」
老婆に有無を言わさず黒天筒を使って陽天心を使うルーアン。
手足の生えた荷物がすっくと立ち上がると、老婆は座りこんだままあんぐりと口をあける。
「さ、これで楽々と行けるわよ。目的地は何処かしら?」
淡々と告げるルーアンだったが、老婆はそれどころではない。
いきなり現れた女性が物に命を吹き込んだのだ。誰だって驚くはずである。
「ちょっと、まさか歩く事も出来ないっての?・・・じゃないわねえ。
おほん!あたしは太陽の精霊で・・・って面倒だわね。とにかく荷物を不思議な力で運んであげるんだから!
何にも気にせずにちゃっかり便乗すればいいのよ!幸福が降って沸いたって思って!!」
老婆に詰め寄りながら強引に説得。と、彼女は開いていた口をパクっと閉じる。
いまだ驚きを隠せないままこくこくと頷くと、ルーアンに引っ張られて立ち上がった。
よしよし、と頷くルーアンは、老婆と陽天心荷物と共に歩き出す。
そして十数分後・・・。
「ありがとう、おかげで助かったよ。」
「いえいえ、このくらいちょろいもんよ。おっと、陽天心を解かないとね。」
無事に目的地に着いた老婆の前で陽天心を解くルーアン。
「じゃあね。」
一言だけ告げる。そしてくるっと背を向けた。
御礼をしようと思っていた老婆は声をかけたものの、ルーアンは知らんぷり。
すたすたと目的地へと歩いて行くのだった。
学校が見えてきた。しかし、校門は閉まっている。
「日曜はやっぱり開いてないか。・・・あれ?」
何気なく門に手をかけたルーアン、だがその門がずずっと動いたのだ。
「閉め忘れ・・・かしらね。」
ところが、それも途中まで。今度はがくんと止まったのである。
「たくもう・・・しっかりしてくれないと困るじゃないのお。陽天心召来!」
素早く黒天筒を回して門に陽天心をかけるルーアン。
と、意志を持った門がいきなり涙目で訴えてきた。ルーアンはそれをじっと聞く。
「・・・ふんふん、足元がさびてるから思う様に動けないという訳ね。オッケイ、ちょっと待ってなさいよ。」
言うなりだだだっと校舎へと駆け出して行くルーアン。
その早さはものすごく、あっというまに辿り着く。
行く手を遮る扉という扉に陽天心をかけて開いてゆき、そして一目散に宿直室へ。
ガラッと開かれた扉、しかしそこには誰もいなかった。
「えーと、確か前に宿直してた時にジャージの奴が持ってきたのが・・・。」
ごそごそと辺りを引っ掻き回すルーアン。しばらくして目的の物を見つけた様だ。
「あった!“壊れた個所があったらこれで直してくださいよ”セット!」
妙な名前がついたその道具一式を取り出すと、それを手に抱えて急いで校門前へと戻って行った。
今だ涙を流している門の前で止まると、ルーアンは再び黒天筒を回し始めた。
「もうすぐだからね。陽天心召来!」
意志を持った道具達が次々と道具箱から飛び出す。
「さあ、その陽天心門が訴えてる痛みを全部治してあげるのよー!」
ルーアンに言われて、“おーっ”と一斉に門へと群がる道具達。
てきぱきと作業をこなしてゆく。しかし、多少時間がかかりそうだ。
「ふーむ、出来あがるまで学校でも見てまわろっかしらね。
・・・いや、こっちの方が早いわ、陽天心召来!」
勢い良く黒天筒を回したかと思うと、校舎、そして校庭内のもの全てに陽天心をかけた。
そして、校舎から一冊の陽天心ノートと一本の陽天心鉛筆が飛んでくる。
「そんじゃあメモお願いね。ほらほら、なんでも訴えたい事があったらいいなさいよっ!」
ルーアンの声を皮きりに、次々と彼女に不調な個所を訴え出す陽天心達。
ふんふんと頷きつつ、それらがどんどんノートに書かれてゆく。
もちろん、その場で対応出来る事柄は素早く別の物に陽天心をかけて行動。
そうしているうちに門の修理もとっくに終わり、しばらく学校全体が騒いでいるのだった。
やがて、ノートに字がいっぱいうまると、ルーアンは陽天心達にストップをかけた。
「はいここまで!とりあえずあらかたは聞き終えたわね。
今回対処できなかった分は、また別の日に改めて専門家に頼んだげるから。」
ノートをぱしっと手に抱えると陽天心達に呼びかけるルーアン。それに頷く陽天心達。
そしてルーアンはそれぞれが元の個所に戻った事を確認すると全ての陽天心を解いた。
「さってと、明日にでも教頭か校長にでも見せればいっか。」
ぱらぱらとノートをめくり終えてパタンとそれを閉じ、くるっと校舎に背を向けた。
すっかり調子のよくなった校門を閉じて、ルーアンは歩き出した。
「大通りまで出てみようかしらね・・・。」
人々と車が沢山行き交う大通り。
誰もかれもが忙しそうに動き回っている。
「うっわあ・・・。たく、この時代って平和でものんびりじゃあないのね。」
周囲の様子を見て、ルーアンが何気なく口にした言葉。
普段からそういう事は感じていたはずなのだが、自らこういう場に出た事によって再認識する。
いつもは太助達と自然に溶け込んでいたりする所為だろうか。
「あんなにせかせか歩いちゃってまあ・・・」
ドンッ!
「気をつけろい!」
不意にスーツを着た男性とぶつかる。よろめきながらもなんとか倒れずに済んだルーアン。
キッとその男性を見やると、彼は人にどんどんぶつかりながら進んで行っているところだった。
「なんなのあれ・・・。むかつくから陽天心召来!」
しゅるっと黒天筒が回転。ぴかっと男性のスーツが光ったかと思うと、それは宙にふわっと浮いた。
その場に居た人々が驚き、ざわめき、そこで立ち止まり注目する。
「う、うわっ、なんなんだ〜!?」
空中でじたばたする男性。しかし、ただもがいているだけにしか過ぎなかった。
騒ぎが大きくなって行く中、ルーアンは陽天心スーツにビシッと告げる。
「そいつをとっとと目的地まで運んでやって!運び終えたらあたしのとこに戻ってらっしゃい!」
それを聞いて了解したのか、陽天心スーツはくるっと向きを変えてぴゅーっと飛んで行った。
唖然と皆がそれを見守る中、ルーアンは独り人ごみを離れて行くのだった。
大通りを歩くルーアン。先ほどの騒動にも関わらず人ごみは相変わらずだ。
「こんなに人が多いとやんなっちゃうわねえ。何処行こうかしら・・・。」
ぶつぶつ呟いて、ふと山の方へ行ってみようと思い立ち、向きを変える。
その場所は交差点。信号を待たなければならなかった。
陽天心を使ってとっとと行こうかと思ったが、無理にパニックは起こすまいと、とどまる。
信号が変わるのをのんびり待ち、ようやく別の信号が赤に変わりかけた其の時。
キキーッ!!ドカン!!!!
激しい音が辺りに響く。そこらにいた皆が一斉に音がした方を振り向くと、
そこにはかなりの大型トラックが壁にぶつかっていた。
なんらかの理由で運転を誤ったのだろう。そして積まれてあった荷物が道に散らばっていた。
荷物といっても、軽い物ではない。何トンはあろうかという大きな鉄骨材だ。
「あらあら、派手にやっちゃってまあ・・・。」
一斉に駆け出して行く野次馬達と違って特に騒ぎ立てるでもなく呟くルーアン。
しかし、人の流れに押されて、ゆっくりとではあるが自分も現場へと向かうのだった。
「うわあ、こりゃひでえ・・・。」
「なんでも、飛び出してきた人を避けようとしたんですって。」
口々に見物客が言葉を発するという、事故現場の御約束な事が行われていた。
そこの道路一面には鉄骨材が散らばっていた。
それは反対車線までにも及び、一時的な完全通行止め状態となっていた。
「だれか!!早くあれをどけて!!私の息子が下敷きになってるのよ!!」
ある女性が突如群集に向かって叫ぶ。
大事にも関わらず今更叫んだのは、咄嗟の事に頭が混乱していた所為だろうか。
「早く、早く!!!」
「お、奥さん落ち付いて下さいっ!」
鉄骨材へと駆け寄ろうとする女性を、見物客の中の男性が止める。
そして、別の者は急いで救急車を呼びに行き、またある者は事故を起こした運転手を見に行く。
当然ながら全員がそういう作業に当たれるわけでもなく、ほとんどは見ているしか出来なかった。
人を押しのけながら、ようやくルーアンが最前列に出た時には、警察等に連絡を終えた者が戻って来た所だった。
「駄目です!クレーン車がここに到着するまで一時間以上かかるそうです!
さらに、救急車もこの渋滞に影響されて到着がかなり遅れるとか!」
「そんな!それじゃあ下敷きになっている子供が手遅れになってしまうぞ!」
「何とか動かさないと・・・。」
報告を聞いた女性がへなへなと、力なくその場に崩れ落ちた。
「お、奥さんしっかり!」
「だって・・・。」
励ましの声にもほとんど絶望の表情だ。
ちなみにトラックの運転手も大怪我を負っており、早く救急車が来ないとまずいという状況である。
暗い雰囲気で沈んでいる中、ルーアンは無言のまま黒天筒を回し始めた。
「陽天心召来!」
ぴかあっと鉄骨材全てが光る。その次の瞬間にはそれらがさささ〜っとそこからどくかたちとなった。
そして無事な姿の少年が姿を現した。どうやら、上手い具合に難を免れていたのか無傷である。
幸運にも、鉄骨材が一つの空間を形作っていたのであった。
「ほら、ぼさっとしてないでさっさと助ける!交通整理の方もちゃっちゃかやってよ!」
ルーアンが急かす様に周りに告げると、慌てて何人かが行動を始めた。
放心状態の少年を母親の傍へ。込み合っていた道路の交通整理を、何人かが共同作業で行い始めた。
無事に事が進み出した事を確認すると、ルーアンは陽天心鉄骨に指示して邪魔にならない場所に積み重ねさせる。
そして陽天心を解くと、すたすたと事故現場から歩き去って行った。
突然の事に何が起きたやら解らない面々であったが、助け出された少年だけは大きく叫んだ。
「不思議なおねえちゃん、ありがとう!」
その声にチラッと振り返ったルーアン。
だが、にこりと微笑み返しただけですぐに顔の向きを変えて歩き出した。
大通りから横道にそれ、山へと向かう路地へ入ったルーアン。
歩いている途中で彼女の目にとまったのは・・・粗大ごみ置き場である。
「・・・もったいないわねえ、まだ新品同然なのもあるじゃない。
よーし、陽天心召来!」
置かれてあった粗大ごみ全てが意志を持つ。そして綺麗に整列した。
「この中で“まだまだ使えるんだから使ってくれ”って奴は手を挙げて!」
並んだ陽天心達にルーアンが指示すると、それらは生えた手を使って挙手。
もちろん全員ではなかったものの、ほとんどの陽天心がそれを行っていた。
「うっわあ・・・。とりあえず挙手しなかったのは一ヶ所にかたまってね、陽天心解くから。」
再びルーアンが指示。挙手したものとしなかったものとに二ヶ所に別れた。
挙手しなかったものには目で促すと陽天心を解くルーアン。そして残りのものに向き直った。
「さあて、どうしようかしらね。とりあえず家にいらっしゃいな。
数が多いけどキリュウにちっちゃくしてもらえば大丈夫でしょうから。
置いといてまた別の機会に市でもひらいてみる事にするわ。
・・・そろそろお昼ね、頃合だから家に帰りましょ。陽天心ソファー、乗っけてね。」
てきぱきと陽天心達に説明すると、ルーアンは陽天心ソファーに腰掛ける。
そして陽天心達は七梨家に向かって歩き出した。
数が多いので、いわば粗大ごみの大行進といったところだ。
もちろん、未知行く人達の注目の的と成ったのは言うまでもない。
そろそろ七梨家に到着しようかという頃、ルーアンは見慣れた人影が五人ほど集まっているのを目にした。
自分達と同じ目的地であろう五人、たかし、乎一郎、花織、出雲、翔子だ。
「これまたいつものメンバーじゃない。もしかして、またお昼御飯タカリに来たのかしら・・・。
まあいっか。朝食べた分はまだまだやって無いから少ない方が・・・じゃ無い!
まだまだ、もっともっと食べないといけないわ!」
ぶつぶつ呟いたルーアンの声が五人のうちの乎一郎の耳にしっかり届いた様だ。
歩いている中でただ一人ぴたっと止まる。
「?どうしたんだ、乎一郎。」
「今ルーアン先生の声が・・・あっ、あんな所に!ルーアンせんせ〜い!!」
後ろを振り返ってだだだっと駆けて行く乎一郎。
それで皆も、ルーアンの粗大ごみ行進に気付いた様である。
「なんだありゃ・・・。」
「ルーアン先生、また妙な事やってるんじゃないですかあ?」
「よくもまあ大騒ぎにならずにここまで来れたものですねえ。しかし一体何故?」
驚きつつ、首を傾げる四人であった。
「ルーアン先生っ、こんにちは!」
「遠藤君、こんにちは。今からたー様の家に来るの?」
「はいっ。ルーアン先生はどうしてこんなに沢山の家具と一緒に?」
粗大ごみと言わずに家具と言った乎一郎。
それが気に入ったのか、ルーアンはにこっと笑って彼に隣に座るように促せる。
乎一郎は当然ながらに遠慮したのだが、半ば強引に座らせられるかたちとなった。
「そ、それでどうしてこんな事を?」
「粗大ごみ置き場でね、まだまだ使えそうなのがいっぱいあったから持って帰ってるわけよ。」
「へええ、なるほどお・・・。でも、こんなに沢山置き場所はあるんですか?」
「キリュウに小さくしてもらえばいいでしょ。たまには役に立ってもらわないと。」
「たまにって・・・。いっつもルーアン先生は御饅頭を大きくしてもらっていたりするじゃないですか。」
呆れたような乎一郎の声にぴくっと反応したルーアン。
だが、別に誤魔化したそぶりを見せる訳でもなく、ふふっと笑う。
「あれは確かに役に立ってるけど、あたしの為に、だもの。
これは・・・ちょっと待ってね、遠藤君。」
「はい?」
説明の途中でルーアンがストップする。と、遥か空の彼方から一着のスーツが飛んで来た。
目を丸くする乎一郎。スーツはふわりとルーアンの傍へ舞い降りた。
「ごくろーさん。後でちゃんと届けたげるからね。」
スーツが頷いたと同時に陽天心を解くルーアン。
これは、今日の午前中に出来あがった陽天心スーツである。
「さてと、続き言うわね。これはいつもキリュウにやってもらってる事と違って、
あたし以外の為にもなるからね。そういう事よ。」
「ルーアン先生・・・。」
乎一郎が驚きの表情に変わる。普段彼が目にしているルーアンとはまた別人に見えたからだ。
色んな事が彼の頭の中を巡ったが、余計な考えを全て打ち消して一つだけ尋ねた。
「ルーアン先生、どうしてそういう事をしようと思ったんですか?」
なんともまっすぐな瞳に、ルーアンはこれまたふふっと笑った。
前を見やって他の四人が聞こえない位置で歩いているのを確認すると、乎一郎にそっと告げた。
「遠藤君にだけ教えてあげる。」
「は、はい。」
「実はね、今日は朝御飯を五杯食べたの。だから五つくらいの善行みたいな事をしようと思ってね。」
「へえ?」
「今やってるこれがそのうちの一つって訳よ。でもなかなか善行ってのが難しくてねえ。
もうすぐお昼でしょ?けど全然足りなくってねえ・・・。
それにまた食べた分頑張らないと。
そんなに沢山出来ないけど、沢山食べたいし。ああー、困っちゃうわあ。」
「は、はあ・・・。」
説明を聞いたものの、どうもわからなかった乎一郎。
しばらくの間頭の中を整理。ようやくまとまった所で彼は告げた。
「つまり、一日一善とかけてるわけですか?」
「あらっ!鋭いわねえ、遠藤君。そういう事よ。
御飯をお代わりして食べた数だけ善行をしようと。だから一日○善ね。」
くすくすと笑うルーアン。なんともしょうもないかけかただったのだが、
乎一郎はそんな事よりも気になる事があった。
「ルーアン先生、どうしてそういう事をやろうと思ったんですか?」
「ああ、気まぐれよ。あたしがやりたくなったから。」
「そ、そうなんですか・・・。」
「そうよ。」
あっさりと答えたルーアン。彼女らしいと言えばらしい答えである。
慶幸日天である事から、本当は行為自体は違和感がないはずなのだが・・・。
「ルーアン先生!」
「なあに?」
「僕も手伝います!何でも言ってください!」
「そう?じゃあお願いしちゃおうかしら。
その代わり、ちゃんとお代わりした数だけ善行するのよ。」
「はいっ!」
元気に答えた乎一郎。結局は、彼はルーアンと一緒に居られれば嬉しいのであるから。
“よろしい”と告げた彼女とルンルン気分でそこに座っているのであった。
その頃の七梨家では、街で起きた事故のニュースでルーアンの活躍を知り、四人が騒いでいた。
「ルーアンの仕業だな・・・。」
「ルーアンさん、人助けをするなんてさすがです。」
「慶幸日天の本領発揮というところか。」
「それにしても御礼もなにも受け取らずに、皆の知らないうちに去って行ったなんて・・・。
カッコつけちゃってまあ。」
「お昼御飯は腕によりをかけて作らないといけませんね。」
この日のお昼御飯はにぎやかそのもの。
そして、結局は皆に事情を聞き出されてしまったルーアン。
彼女達は、昼食後に全員総出で山、川の掃除へと出掛けて行くのだった。
ちなみに七梨家にやって来た沢山の家具達は、いくつかは七梨家にとどまり、
残りのものは次の週の日曜に売り出される予定である。
その時は、ルーアンの学校改善案提出により、更に人数が増えそうだ。
<おしまい>