小説「まもって守護月天!」
(虎賁の大きくなろう大作戦「その後」)


『夕食編』

ここは七梨家のリビング。
わいのわいのと皆が騒ぐ中、夕食の準備が進められていた。
シャオ、離珠、太助、虎賁、ルーアン、乎一郎、翔子、キリュウ、
たかし、花織、出雲の総勢十一人。
かなりな大人数の為、多少部屋と家具が大きくされている。
もちろんそれはキリュウの万象大乱によるものである。
「それにしても・・・今日の夕食はえらく大勢だな。」
「おいらと離珠が大きくなっている所為じゃねーのか。」
「なかなかいいねえ、普段と違う食事ってのは。」
「ちょっとそこの三人、なんで寝っ転がってるのよ。」
忙しなく皆が動く中、たかしと花織と出雲の三人はソファーにぐてっとしているのであった。
理由はもちろん空腹。なんといっても昨日の晩から何も食べていない状態なのだ。
「許可は取ってるんだからゆっくりさせてくれよ。うう、腹減ったあ・・・。」
「それにしてもこんな状態でよくあの階段を上れましたよねえ。」
「あの時は元に戻ろうと必死だったからじゃないでしょうか。
とにかく今はおとなしく待ちます。」
そう。三人はキリュウの万象大乱で小さくなってすっかり忘れられていた。
大きくなったのは夕飯の準備が始まる手前、ついさっきの事だった。
「申し訳無い、三人とも・・・。」
「キリュウちゃんが気にする事じゃ無いよ。僕も忘れてたし。」
原因となったキリュウを少しかばう乎一郎。
彼自身は既に大きさを元に戻してもらっていた。
背が高く、なんてのは意味が無いと悟ったからだ。
リビングでは、こんな風な面々で用意が行われていた。
キッチンではシャオと離珠が肝心の料理の仕度を行っている。
(シャオしゃま、まだ出来ないでしかねえ?)
「もうそろそろいいと思うんだけど・・・。」
ぐつぐつぐつぐつ
かなり煮えている鍋を見て、シャオは少し味見をする。
一口含み、それを転がしてにこっとした。出来あがったようだ。
「もういいみたいね。みなさーん!出来あがりましたから運んでくださーい!!」
リビングに向かって呼びかけると、そこへ太助と虎賁がやって来た。
他の者はリビングにて待機中という訳である。
「さてと、虎賁と二人で運ぶよ。」
「大丈夫ですか?」
「平気ですよ、月天様。というわけで、自分たちも食べる用意をしていてください。」
「分かったわ。」
(分かったでし)
鍋掴みを手にはめ、太助と虎賁の二人がかりで大きな鍋を持つ。
ゆっくりとゆっくりとリビングに運んでいき、それをテーブルの鍋敷きの上にどんと置いた。
「わあお、待ってましたー!!」
鍋が置かれるなりルーアンが素早く箸を取り出す。
しかしそんな彼女を太助が一喝で押さえた。
「こらっ、ルーアン。皆がそろってからだろ!それに・・・。」
ちらっと太助がキリュウを見ると、それに彼女は頷いた。そして短天扇をすっとひろげる。
「万象大乱。」
シュイーン、と鍋が巨大化。一緒に中の具も巨大化。
テーブルをうめつくすほどに大きなおでん鍋の出来あがりだ。
「これくらいで大丈夫だろう。あまりに大きくしすぎると台がもたないしな。」
「さっすがキリュウ。いやあ、実験の成果だな。」
「それは違う・・・。」
ぱちぱちと拍手する翔子の言葉に少しげんなりとするキリュウ。
万象大乱を用いた翔子提案の様々な実験には、かなり精神的に参っている様だ。
ところが、そんな状況でもルーアンは少し不満そうだ。
「もーう、もっと大きくしてくれてもいいのに。」
「ルーアン先生、いくらなんでもそれは無理ですって。」
「なによ。それでもあたしは沢山食べるんですからね!」
なだめる乎一郎にもがんとして自分の主張を訴えていた。
それに呆れながらも、太助と虎賁、翔子、キリュウが自分の席に腰を下ろす。
そして丁度シャオと離珠もそこへやって来た。
ちなみに、たかし、花織、出雲の三人はとっくに自分の位置についている。
今か今かと皆が待ち焦がれる中、代表という感じにシャオが告げた。
「それでは皆さん、いただきます!」
≪いただきます!!≫
一斉にいただきますが告げられ、そしてそれぞれおもいっきり食べ出した。
メニューはおでん、そして少しばかりの野菜サラダ。後は白いごはんだ。
大きな鍋を囲んで、シャオ、離珠、虎賁、太助、乎一郎、ルーアン、
たかし、花織、出雲、キリュウ、翔子、という位置付けである。
もっとも、勢い良く食べ出したのはルーアン、たかし、花織、出雲の四人。
つまり、一部の地域だけはものすごい勢いで箸が動いているという訳だ。
その反対側ではのんびりしたもの。ゆっくりとおでんをつついている。
「凄い勢いだな。ルーアンはともかくとして、たかし達まで。」
「しょうがないよな、昨日の晩から何にも食べてなかったんだし。」
「そうですよね。私の所為で・・・。」
「シャオ殿の責任ではない。私がウッカリしていたんだ。」
途端に落ち込み出すシャオとキリュウ。
沈んだ雰囲気を持ち上げる為に、慌てて乎一郎が言った。
「そ、そんなに落ち込まないでよ!僕がいけないんだ。
ずうっとリビングに居たのに、たかし君達のことを忘れていて・・・。」
と、結局は乎一郎も落ち込んでしまった。更には離珠も一緒になって落ち込んでいる。
「過ぎたことは仕方ないだろ。いつまでもくよくよすんなって。」
「不良ねーちゃん、あんたもその時居たんじゃ・・・。」
「瓠瓜ももちろんいたけど、忘れてたもんは仕方ないって。なあ瓠瓜。」
「ぐ、ぐえっ・・・。」
アッサリとしている翔子の態度に太助も虎賁も呆れ顔。
と、食事に熱中しているはずのたかしがバッと顔をそちらへ向けた。
「そうだ!!山野辺が悪い!!」
ぶはっとたかしの口から食べ物が飛び散る。
それを被った者は慌ててそれを払いのけるのだった。
「もの食いながらしゃべんな!!」
「黙れ太助、俺は山野辺に言いたい事がある!」
「なんだよ野村。」
ぎんと向かれた彼の眼に対し、翔子は気にするでもなくそれに対峙した。
余裕で居るのか、片手はおでんをつかむのに忙しい。それを瓠瓜はパクパクと食べていた。
「なんで俺達を小さくしたんだ?普通にリビングに寝かせろよ!!」
「二階の廊下で倒れた奴をわざわざ運べるかっつーの。
第一、お前らは七梨の部屋に攻撃を仕掛けたから罠を食らったんじゃないか。」
「そ、それはそうだけど・・・けどなあ!!」
「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえって言葉があるだろ。
それを改良して、七梨とシャオの邪魔する奴はちっちゃくなーれ、だよ。」
と、ここで全員の箸の動きがぴたっと止まった。
そして一瞬ながらも翔子の顔を見る。しかしすぐに食べに戻った。
「・・・山野辺、お前なあ。」
「じょーだんだよ。だいたい小さくしたのはキリュウなんだ。あたしはそれを運んだだけ。」
「そういやあそうだよな。“大丈夫だ”なんて言いながら万象大乱唱えてたっけ。」
思い出したような虎賁のフォローが入る。
それを聞いたキリュウは気まずそうに俯いて縮こまって食事を続けた。
皆の視線が突き刺さるのが彼女には痛いほど分かった。
「でもまあ、そうキリュウを責めるな。これも試練だ、耐えられよ。」
「確かに試練に成ったな・・・。まあいいさ、もう気にしないことにするよ。」
最後までくいいるかと思われたたかしだったが、あっさりと引き下がった。
出雲も花織もそんなに責めいる風じゃなかったので遠慮したのだろう。
やがてそれぞれが食べるのに熱中し始めた。もちろん会話無しである。
ぱくぱくぱくぱく
がつがつがつがつ
ぱくぱくぱくぱく
がつがつがつがつ
ぱくぱくぱくぱく
がつがつがつがつ
ひたすらおでんを食べる音だけが部屋中に響いている。
もっとも、全員が全員ずうっと食べつづけているわけではなく、
皆が懸命に食べている姿を驚きの顔で、そしてにこにこしながらシャオは見ていた。
「皆さんよく食べますねえ・・・。やっぱり沢山つくって良かった。」
(シャオしゃまが作ったおでんはとっても美味しいでしから。)
「ありがとう、離珠。」
シャオの周りだけペースがのんびりしている。シャオにつられてという事だろうか。
「ところでシャオ、なんでおでんに?」
「それは、離珠とお買い物に行った時にそれだと沢山食べられていいかなって思ったんです。」
「たしかに・・・。」
(納得でしね、太助しゃま。)
にこりとする買い出し二人組にうんうんと頷く太助と虎賁。
そして虎賁は、食事中にしようと思っていた話を思い出した。
「ところで離珠、ぼうずから聞いたんだけど軒轅と出かけて色々遊んだんだってな。」
(そうでし!小学生の男の事女の子と公園でたっぷり遊んだんでし。
とぉ〜っても楽しかったでしよ〜。)
「まあ、そうなの離珠?」
これまでシャオはそういう事を聞いていなかったので少し驚いている。
詳しい事情を聞いていた太助は、うんうんと頷いていた。
(今度はシャオしゃまや太助しゃま、虎賁しゃん。それに皆しゃんも一緒に遊ぶでし。
絶対楽しいはずでしよっ!)
離珠がシャオに伝えて、それをシャオが喋る。
彼女のおもわぬ熱弁に多少戸惑ったものの、太助も虎賁も、皆もうんうんと頷いた。
離珠と軒轅の行動もあれだが、なんといってもその二人と違和感無く遊んだ子供。
そんな子供と、一度は会ってみようという気持ちが多少なりとも現れたのだろう。
それぞれが笑みを浮かべながら、食べるだけの時間に戻る。
と、しばらくして再び虎賁が話を思い出したのか、
おでんにつける辛子を手に取りながら口を開いた。
「・・・ところでさあ。」
「私は辛子はいらない!」
突然キリュウが叫んだ。もちろんそれに驚いたのは虎賁である。
「まだなんにも言ってねーだろ。」
「そ、そうか。すまない、虎賁殿。」
謝った後、気まずそうにパクパクと食べるキリュウ。
先ほどでいざこざは収まったものの、どうにも不安なのだろう。
なんといっても、ここ最近の食事には妙な試練がつきまとったのだから。
「・・・えっと、月天様。」
「なあに、虎賁。」
「後で相談が。試練の件に関して・・・。」
「え?試練だったらキリュウさんと話をした方がいいんじゃないかしら?」
当然のように首を傾げるシャオ。ところが虎賁は首を横に振った。
「そういう事じゃなくて・・・まあいいです。やっぱりおいら一人で考えます。」
「そう。」
頭を下げて虎賁は食事に戻った。
辛子をしぼりだして、それを蒟蒻につける。
「なあ虎賁、まだ試練やるのか?」
「あん?」
食べようとしたところで太助が小声で囁いてきた。
雪球の投げ方がまだあるという事を聞いていたので、その事だと思ったのだ。
すると、虎賁は皆に聞こえない様に声を小さくした。
「そういう事じゃねーよ。手伝ってもらった連中にお礼の品を、って事だよ。」
「お礼の品?」
「そ。試練に参加しておきながらキリュウからの報酬を貰って無い三人。
それぞれにおいらから報酬の品を渡そうって訳。」
「へええ・・・。」
しっかりとした意見に、太助は大きく頷く。
まさか虎賁がそんな事を考えていようとは思ってもいなかったからだ。
「俺も何か手伝おうか?」
「いや、いいよ。これはおいらの気まぐれだから。」
「けど・・・。」
「いいからいいから。ぼうずはおとなしく・・・」
つるっ
太助の申し出を断っている最中に、虎賁が箸で掴んでいた蒟蒻がつるっと滑った。
そしてそれはぴょ〜んと飛んで行って、別の誰かの皿にぽとっと落ちる。
「!!こ、虎賁殿・・・。」
「あ、わりいわりい。滑っちまった。」
「これは・・・私への試練か?」
「は?」
「こんなにたっぷりの辛子がついた蒟蒻を食べろという事なのか?」
「いや、そうじゃなくて・・・。」
虎賁が説明するも、真剣な目つきのキリュウにその声は届いていない様だ。
ぶつぶつと小さく呟きながらじいっと問題の蒟蒻を見ている。
「キリュウ食べないのか?だったらあたしがもらおうっと。」
横から見ていた翔子がさっと辛子つきの蒟蒻を奪った。
「!!それは私のだ!!」
と、翔子のそれに反応して、キリュウは素早く蒟蒻を奪い返した。
そして慌てて口に運ぶ。
ぱくっ
「!!!か、辛いー!!!!」
気付いた時にはキリュウは慌てて水を飲みつづけていた。
それこそ何杯も何杯も流しこんでいる。
「山野辺、わざとだろ・・・。」
「え?なんでそうなる?あたしはキリュウが遠慮していたからもらおうとしたんだぜ。」
「キリュウが絶対取り返しに来ると分かってたから取ったんだろ?」
「なんでさ。」
「それは・・・。まあいっか。」
翔子の行動に不信感を抱いた太助だったが、確たる証拠もなかったので追及を断念した。
昨日の食事風景に加えて本日昼間の食事を体験していた者なら、
キリュウが何故ああいう反応をしたかという事が良く分かるだろう。
ただ、その代表者であるルーアンはいまだもってがつがつと食事に熱中しているが。
「それにしても・・・あれはおいらの蒟蒻なんだけど。」
(虎賁しゃん、今更しょうがないでし。)
「虎賁、別の蒟蒻を食べなさいね。」
「ええ、分かってます。」
どうも腑に落ちない顔で、虎賁は食事に戻った。
しばらくの間しきりに騒いでいたキリュウは、数刻の後にようやく落ち着いた様である。
「ふう、ふう・・・。また翔子殿にはめられた。」
「人聞きの悪いこと言うな。あたしは親切で取ってやったんだぞ。」
「・・・どうも目がそう言ってないのだが?」
「何言ってるんだ。一緒に実験をした仲じゃないか。」
「だから信用できないと言っているんだ。」
あくまでもキリュウはじと目。どうやら、翔子が狙っていたという事はバレバレのようである。
「ふっ、試練だよ。」
「・・・苦し紛れにそういう事は言わないでもらいたい。」
「じゃあ特訓。人に騙されない為の特訓。」
「・・・分かった、もういい。」
一歩も譲らない態度の翔子に、ついにキリュウは引き下がった。
もっとも、本日の実験中の翔子を見ていて、引き下がるのが賢明だと思ったのもあるだろう。
そんな光景を見てか、ある程度食べて一息ついていた花織がこそっと出雲に尋ねた。
「一体どんな実験したんでしょうね、出雲さん」
「そうですね・・・。物じゃなくてもっと凄いものを大きくしようとしたのでは。」
「例えば?」
「重さとか、質とか・・・。とにかく色々でしょうね。」
「なるほどお。後は時間とか?」
ぴたりぴたりと当たっている二人の会話に、翔子がびくっとなっている。
考えを詠まれたような気分になり、少し不機嫌そうであった。
「山野辺、お前無茶苦茶するなあ。」
「な、なんだよ七梨。別にいいだろ。」
二人の会話を聞いて太助が突っ込んだところで、翔子は慌てて答えてしまった。
「あっ、当たってたんだあ!!あたし達って凄いですね。」
「それはともかく、まさか本当にやろうとするとは・・・。
他にも、温度とか生物の成長度とかを大きくしたりしたんですか?」
「うっ。」
すれすれながらも、かなりの図星である。
瓠瓜を抱きかかえたまま、翔子はうつむいてしまった。
「キリュウ、よくそんなの大きく出来たなあ。」
「いや、翔子殿が言ったほとんどのものは無理だった。
成功したのは重さ、くらいだな・・・。しかし何故あんなに大きな音がしたのやら。」
すっかり平静さを取り戻したキリュウがちょっと首を傾げる。
彼女が言っているのは、シャオがベランダに落ちた時にした音の事だろう。
「夢中になっていたから私が落ちた音に気付かなかったんですね・・・。」
「ん?あれはシャオ殿が落ちた音だったのか?」
「え、ええ・・・。ちょっと、屋根から下りる時に・・・。」
「なるほどな。」
納得して頷いたキリュウ。だが、シャオのそれが初耳な者は驚いた様な顔になる。
「シャオ、屋根から落ちたって?」
「え、ええそうなんです太助様。ベランダから屋根に上がったまでは良かったんですが。
屋根から下りる時にちょっと失敗しちゃって・・・。あ、屋根に行ったのはお昼寝の為です。」
「そうなんだ・・・。大丈夫だった?」
「え、ええ。」
「月天様、あんまり一人で無茶はしないでくださいよ。」
「うん、ありがとう虎賁。」
そこでシャオは顔を少し赤らめながら俯いてしまった。
一人で屋根へ上がった後に落ちた事を気にしているのかと太助と虎賁は思ったのだが、
シャオ自身は、太助の部屋へそっと入って行ったという事を思い出しているのである。
そんな中、実験中に大きな音を聞いた翔子は今それどころではなかった。
確かに疑問だった事は解明できたが、
キリュウと行っていた実験内容があっさりとばれたのだから。
「どうしたんですか?翔子さん」
そんな苦しんでいる様子を見てかけたシャオの声も、翔子にはほとんど届かなかった。
しかし、何度か呼ばれてやっと顔を上げる。
「ん?、な、何、シャオ。」
「顔色悪くありませんか?」
「き、気のせいだよ。はは・・・。」
「そうですか・・・。」
引きつった笑いを浮かべる翔子にどうも心配気味である。
しばらくは二人のそんなやりとりが続いたものの、結局は翔子が説得して落ち着いた。
疲れたようでもあったが、瓠瓜を見てか、多少は立ち直ったようである。
「ところで乎一郎。」
「なに、たかし君。」
「ルーアン先生とのデートはどうだったんだ?」
「・・・それは聞かないで。思い出したくないんだ。」
ようやくたかしも食べるより話をするようになったと思ったら、
その話を振られた乎一郎はそれを断った。深刻そうな声にたかしはアッサリ引き下がったが。
「もう、遠藤君ったら・・・。ラーメン屋の出来事くらい言えばいいじゃない。」
「い、いえ、それは・・・。」
ルーアンとしては、ラーメンが無料になった話を言っているのだが、乎一郎にとっては
“チャーシュー麺”を思い出してしまった忌まわしき場所でもある。
それでもぞもぞと、話をするのを断ったというわけだ。
と、そのラーメン屋と聞いて少し気になったのか、太助が顔を上げた。
「ルーアン、ラーメン屋って?」
「うるっさい連中が居たんでそれを追い払ってやったら、
ラーメンを店の人がおごってくれたの。」
ルンルン気分で話しながらも、ルーアンは相変わらずがつがつと食べつづけている。
しかもしっかりと喋る状態になってから喋っているのだ。
「・・・それって、男二人組?」
「ええそうよ。」
「かたっぽはスーツ姿のおっさん?」
「そうよ。随分よく知ってるわねえ。」
太助に混ざって、虎賁も話に加わってきた。
二人にとっては、どうにも気になる内容だったのである。
「・・・もしかして、盗作だとか盗作で無いとか言ってなかったか?」
「あら!その通りよ。ねえ遠藤君。」
「え、ええ。一体何が盗作なんだか分からなかったけど・・・。」
「「へええ・・・。」」
ここで太助と虎賁はお互い顔を見合わせて話を区切った。
そしてもくもくと食べに戻る。
「ちょっと、たー様に虎賁どうしたってのよ。」
「何か知ってるの?」
「いや、ちょっとだけな。」
「ふかひれとラーメンの違いについて。」
一言ずつ答えただけで、二人は改めて食べに戻る。
「ちょっと、ふかひれとラーメンなんて違うに決まってるじゃないの。」
「そうだよ。一体どういう事なの?」
明らかに何かを知っている様な二人に対し、ルーアンも乎一郎もつめよる。
しかし、太助も虎賁も特に何かを答える事はしなかった。
少々げんなりした顔を見せ、それ以降はまるっきり口を閉ざしてしまったのである。
「もう・・・。いいわ、あたしは食べるのに専念しようっと。」
「ぼ、僕も。」
妙な成り行き上、がつがつと食べ出すルーアンと乎一郎であった。
(何か嫌な事があったみたいでしね。)
「そうね、離珠。深くは聞いちゃ駄目ですよ。」
(そうでし。)
シャオと離珠の会話。それを聞いて太助と虎賁は更に心の中でがっくりきた。
まさかシャオの料理が原因で妙に追いかけられてしまったなどと言えるわけも無い。
(もっとも、その原因を出したのは太助と虎賁だが)
と、そんな二人の様子を見てか、たかしは箸を咥えながら言い放った。
「はんっ。何があったか知らないけど俺達に比べりゃあ・・・。」
「野村先輩、威張れる事じゃ無いですよ。」
「そうですよ。第一、あれだけ苦労したのに・・・。」
昼間の事を思い出して、三人ともげんなりとなる。
妙な連鎖が続いてか、食事の雰囲気はえらく沈んだものになってしまった。
とそこで、キリュウはかちゃっとお茶碗を置いた。
「試練だ、耐えられよ。」
続いてシャオも。
「皆さん、試練です、耐えましょう。」
更に離珠も。
(みなしゃん、試練でし、耐えるでし。)
と、告げた。離珠はジェスチャーで示した。
一瞬箸を止めた面々だったが、代表として太助が一言。
「キリュウ、辛子食べる?」
「・・・なんでそうなる。」
「キリュウだけ今試練を受けて無いじゃないか。」
「しゃ、シャオ殿と離珠殿はどうなんだ。」
「二人はこの夕飯を作るのに一番働いてただろ。」
「わ、私だって大きくしたぞ。」
「そうだな・・・。じゃあおっけい・・・」
「じゃない!!」
太助のゆったりとした言葉を遮って、ルーアンは立ち上がった。
「そういえばやってなかったわ、キリュウのおかずを奪おう試練!!」
「な、なんですかそれ・・・。」
恐る恐る出雲が尋ねるも、ルーアンはそれを無視して箸でキリュウを差した。
「キリュウ、覚悟しなさいよ。今日はもう食べまくったから置いとくとして、
明日からみっちりやってあげるからね!!」
「ま、待てルーアン殿。どうしてそういう発想に・・・。」
「あんたの所為で、外に出かけた時にあたしはジュースを飲めなかったのよ!!
飲み物の恨みは恐ろしいのよ!!というわけよ!!!」
皆が唖然とする中、ルーアンは言いおわった後に座って再びがつがつと食べだした。
「どういう事ですか、遠藤先輩。」
「そ、それはね、僕が背を大きくしてもらった時に、服の中身も大きくなってて。
それで、硬貨が通常の倍以上になってて全然使えなくて・・・。」
自販機騒動を語る乎一郎。その周囲の者はそれに聞き入っていた。
が、キリュウはそんな物など耳に入らず、ルーアンの言った事を呟いていた。
「何故私が・・・。」
「心配するなってキリュウ。俺がしっかり言っておくから。」
「太助様の言う通りですわ。いつも通り楽しくお食事しましょう。」
「そうそう。それに、どうせ明日になりゃあ忘れてるさ。」
(大丈夫でしよ、キリュウしゃん)
太助、シャオ、虎賁、離珠の慰めにより、キリュウは笑顔を取り戻す。
そして、ぱくぱくと皆が食べ、夕食は無事に終了を迎えたのだった。

『夜』に続く。


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