小説「まもって守護月天!」
(虎賁の大きくなろう大作戦「その後」)


『夜』

今日一日の主な出来事が全て終わり、皆はそれぞれ家に帰って行った。
疲れたような、それでも充実した様な笑みをたたえて。
そしてリビング。早々に寝に入ったシャオ、ルーアン、離珠を除く面々でくつろいでいた。
ちなみに、虎賁も離珠も元の大きさに戻っている。
しばらく無言のままですすられていたお茶。それをかたっと置くとキリュウが喋り出した。
「さて虎賁殿。相談を聞くとしよう。」
「相談?」
「夕食の時間にシャオ殿にしようとしていただろう。それだ。」
言われて少し虎賁が考え込む。しばらく後に、“あーあー”と手を打った。
「報酬の件か。」
「そうだ。」
「それなら俺も聞いたよ。たかしと愛原と出雲の三人にあげるんだってな。」
太助にとっても、試練を手伝ってくれたいわゆるお世話になった人である。
それを考えて虎賁は報酬を手渡そうと思ったのだろう。
「さてと、誰に何をあげるかだよなー。」
「虎賁殿。」
腕組みして考え出した所でキリュウが呼びかけた。
なにか思いつめているその様子に、虎賁も太助も真剣な顔になる。
「私が報酬を渡すのでは駄目か?」
「キリュウが?」
「どういう事だ?」
そこでキリュウは一度息をついて、再び口を開いた。
「元々今回行った試練は私が虎賁殿に試練探しを以来したのが始まりだ。」
「違うぜ。おいらが大きくしてくれって頼みに行ったのが始まりだ。
そしたらその交換条件として試練探しを申し出たんじゃねーか。」
「そういえばそうだったな・・・。ともかく、私の試練がおおもとだ。
だからこそ、その試練を手伝ってくれた者にはそれ相応の報酬を渡さねば。」
確かにキリュウの言う事は筋が通っている様にも見えた。
あの三人は虎賁の為という目的で試練の手伝いをしたのでは無いだろうから。
「だからこそ、これは虎賁殿ではなく私が行うべきだと思うんだ。
虎賁殿はいわゆる試練の中心人物であったというだけだからな。」
「けどよー・・・。」
「そう難しい顔をされるな。私がそうしたいのだから。
それとも虎賁殿、私がこういう事を申し出ると迷惑かな?」
「い、いや、そうじゃねーよ。けどだからってキリュウに任せるのは・・・。」
虎賁としては願っても無い申し出だったのだが、さすがに気がひけた。
なんといっても、やはりのおおもとは自分自身なのだから。
とここで、二人のやりとりを聞いていた太助が口を開いた。
「なにも一人で無理に頑張らなくってもさ、二人で報酬を考えればいいじゃん。」
「「二人で?」」
「そ。キリュウにしか出来ない事、虎賁にしか出来ない事。
それぞれを上手く組み合わせて報酬にすればいいと思うよ。」
「なるほど・・・。」
「けど、どうやって?」
「それこそ自分達で考えればいいんじゃないか?
まあゆっくり相談しなよ。あいつらだってそれを待ってるわけじゃ無いだろうし。」
言い終った後にゆっくりとお茶をすする太助に、二人とも感心したような顔である。
「やるな、ぼうず。さすがは月天様が見こんだ男だ。」
「ますます試練の遣り甲斐が出てくるというものだ。」
「いや、あんまり感心されても困るけど・・・。」
二人にとってはかなり響いた意見だったのだが、太助は苦笑気味である。
自分成りの普通の意見を言ったという事からであろう。
「ところで虎賁殿。話は変わるが、実際大きくなってどうだった?」
「へ?あ、ああ。すんごく楽しかったぜ。
なんといっても自分が体験出来る事が全然違う。
ただ・・・。」
目を輝かせてキリュウの質問に答え始めた虎賁だったが、途中でちょっと複雑な表情を見せた。
「ただ、なんだ?」
「慣れちまったりするんだよな。缶ジュースとか飲むのだって、
普段じゃ出来ない事だっていうのに気付くのに、考えて気付いたから。
どうもそういうのが良くないかなあって。」
「そうか・・・。」
確かに大きくなった最初は虎賁も感激でいっぱいだったのだろう。
しかし、しばらくその状態でいることにより、それに慣れてしまった。
感動がそう長くは続かなかったみたいだ、と虎賁は言っているのだ。
「もちろん大きい事で色んな事も出来たから悪いとは言わないぜ。
けどな、そうそう別の大きさに憧れまくるのも考え物かなって。」
「なるほどな。虎賁殿がそう感じたのならそれはそれで仕方ないだろう。」
「というよりはさ、ぼうずがもっとあちこち連れてってくれれば良かったんだけどさ。」
これまたじっと二人の会話を聞いていた太助だったが、ここでびくっとなった。
飲みかけていたお茶にむせ返って咳をする。
「し、仕方ないだろ。ほとんど休みだったんだから。」
「それもそうだけどさ、どこへ連れて行くかくらいは事前に決めといてくれよ。」
「いや、虎賁と一緒に出掛けるのって突然決まった事だし。」
「・・・ま、それもそうだけどよ。」
結局は仕方ないという事に納得した虎賁だった。
と、キリュウは少し笑いながら告げる
「心配しなくてもまた今度大きくなればいい事だ。」
「え?それって・・・。」
「いつでも頼みに来れば条件次第で大きくしても良いぞ、という事だ。」
一瞬喜んだ顔になった虎賁だったが、後に続いた言葉に少しがっかりする。
「また試練を探すのか?」
「いや、そういう事ではない。条件次第だ。
虎賁殿に、そしてその他色々事情があるならば大きくしてもいいという事だ。」
「なんだよその事情って。」
「それはその時私が判断する。上手く説得されよ。」
「はは・・・。ま、しゃーねーよな。」
「そういう事だ。」
どうやら二人でうまくまとまった様である。
後はたわいも無い雑談会。
翔子とキリュウが行った実験について、太助と虎賁の行動。
それから、今度行う試練について少々・・・。
何気なく話しているうちに、時間はあっという間に過ぎて行った。
「あれ、もうこんな時間か。明日学校があるし、そろそろ寝ないとな。」
「そっか。それじゃあおやすみだな。」
「それでは二人とも、おやすみ。」
「ああ、おやすみ。」
「今日までお疲れさん。ゆっくり休みなよ。」
虎賁の最後の言葉は、万象大乱を使いまくってご苦労さん、という事だ。
この二、三日での万象大乱の使用頻度はかなりのものだっただろう。
やがてキリュウは自分の部屋に。太助と虎賁は太助の部屋へと入って行った。
もちろん太助の部屋には、虎賁専用に小さな布団が敷かれてある。
「明日からいつも通りかな。」
「そうとはかぎらねーぜ、ぼうず。今度はぼうず達が小さくなってるかもよ。」
「そんな事になってたら困るぞ・・・。」
「試練だ、耐えられよ、ってね。」
「もしやるとしても、そういうのは日曜とか別の日にやってもらわないと。」
今まさに布団に入って寝ようというところで、虎賁はぎょっとなった。
「やる気なんだ。冗談じゃ無い!って言うかと思ったのに。」
「い、いや、別にやりたいわけじゃ・・・。」
「それでこそぼうずだ!よし、キリュウと相談しなくちゃな。」
「お、おやすみ・・・。」
「ああ、おやすみ。」
こうして、虎賁の大きくなりたいという願望のもと始まった騒動は幕を閉じた。
しかし、これからも更に様々な騒動が起きるだろう。
もちろん、それが万象大乱を用いたものであることはいうまでもなく・・・。

おしまい


メニューに戻る