ひゅうううっと気持ちいい風が吹いているでし。
軒轅しゃんの背中に大きくなった離珠が乗って・・・最高でし〜。
最初軒轅しゃんは戸惑っていたみたいでしが、もう慣れたみたいでしね。
びっくりした時の軒轅しゃんの顔は最高だったでし。
ちょいちょい
なんでしか?“いつまでもその事を気にしないで欲しい”でしか?
もう、いいじゃないでしか。それだけ楽しい顔をしてたって事でしよ。
“面白い顔の間違いじゃないか?”でしか。細かい事は気にしてはダメでし!
・・・それにしても、普段から軒轅しゃんに乗って空を飛ぶなんて事は、
しょっちゅうやってるでしからつまんないでし。
軒轅しゃん、どこかお勧めの場所は無いでしか?
尋ねると軒轅しゃんは悩み出したでし。一緒になって離珠も・・・。
♪ああ〜、空はこんなにも青いのに〜。空はこんなにも気持ちいいのに〜
なんて歌ってる場合じゃないでし!
うかつだったでしねえ。出掛ける前に行き先くらい決めておくべきだったでし。
と、軒轅しゃんが急降下。疲れたんでしか?
離珠の問いに軒轅しゃんは“うんうん”と頷くと、地面に降り立ったでし。
そこは穏やかな流れの川沿いの原っぱ。
雪が降った後だったでしからそんなに気持ちいいもんじゃなかったでしが、
ばっちり晴れていた所為か、結構ぽかぽかして気持ち良かったでし。
こうなったらここでお昼寝でも・・・と思ったんでしが、地面が冷たくって無理でし。
困ったでしねえ、軒轅しゃんどうし・・・と見た瞬間から軒轅しゃんてばお昼寝を決め込んでるでし!
『軒轅しゃーん、いきなり寝られると困るでしよ〜。』
揺すってみたものの軒轅しゃんが起きる気配は無かったでし。
やれやれと思って、仕方なく離珠は地面に腰を下ろす。
まったく、どうしてこんなに早くお昼寝タイムになるんでしか・・・。
あれからぼーっと考え事。軒轅しゃんは眠ってるし、どうしようもないでしねえ・・・。
そうやって座っている離珠の後ろを、沢山の人が通り過ぎて行ったでし。
中に野球をやってたって人達が居たみたいでし。
「いやあ、凄かったよなああの人。ちょちょいっと教えてもらった通りにすればほんと打てる打てる。」
「まさしくプロのコーチだよな。何処の球団に所属してるんだろ。
名前くらい聞いとけば良かったよなあ。」
「ほんとだぜ。あの人のおかげで、俺達もやっとまともに野球が出来るようになる!」
わいのわいのと楽しそうでしねえ。それにしてもプロのコーチでしか・・・。
ん?ひょっとして虎賁しゃんの事でしか?
“ちょちょいっと教えてもらった通りにすれば・・・”
やっぱり、間違いなくそうでし!!
慌てて立ち上がって聞こうと思ったものの、離珠は喋れなかったんでし。
こうなったら虎賁しゃん捜索でもしてみるでし!こんな所で座ってるよりはいいでし!
というわけで軒轅しゃんを思いっきり揺すると、大きなあくびをして軒轅しゃんは目覚めたでし。
ほんとに呑気でしねえ、軒轅しゃんは。
軒轅しゃん、早く出発するでしよっ!
目で呼びかけたものの、あんまりやる気なさそうでし。
出発するんでしってば〜!!!!
ぐいぐい引っ張る事でようやくやる気に成った軒轅しゃん。
すぐさま軒轅しゃんをその気にさせた離珠は凄いでし、えっへん!
と、じと〜っという軒轅しゃんの視線が痛いでし。
もう、冗談に決まってるじゃないでしか。それでは出発でし!
それでも怪訝な顔でじーっと見ているでし・・・もう、いいじゃないでしか!
ほらほら、いつまでもこんなとこに居ても仕方ないじゃないでしか。
そこでやっとの事で軒轅しゃんが出発の意志を見せたでし。
ふう、苦労するでしねえ〜。って、今度からはあんまりふざけない様にするべきでし。
そして出発。虎賁しゃんを探すんでし!
とはいえ、何処をどう探して良いのやらわからないでしねえ・・・。
ちょいちょい
ん?なんでしか、軒轅しゃん。
さっきの人達に聞けば良かったんじゃないかって?
駄目に決まってるじゃないでしか。大体離珠は喋れないんでし。
絵で伝えようにも、今はその道具を持って無いでし・・・。
理由を告げると軒轅しゃんも納得したようでし。
うーん、大きくなって更に喋る事が出来たら色んな事ができ・・・ん?
ふと離珠の目にとまったものは公園でし。下方に公園があるでし!
軒轅しゃん、ちょっと公園に寄って欲しいでし。
興味深そうな離珠の顔を見て、軒轅しゃんは快くOKを出し、下降し始めたでし。
そして到着した公園。人はほとんど居なかったでし。
ちゅわ♪離珠、一度公園で思いっきり遊んでみたかったんでし。
元気良く駈けて行ってまず目をつけたのは滑り台でし!
とたたたと階段を駆け登って、すい〜っと滑り降りる・・・。なんだか爽快でし〜。
あっけに取られてみていた軒轅しゃんも呼んで、一緒に滑る滑る。
最初は軒轅しゃんもぎこちなさそうにしていたんでしが、慣れてきたみたいでし。
つい〜っ
すい〜っ
ひゅ〜っ
ちゅわ〜ん、楽しいでし〜♪
離珠も軒轅しゃんもにこにこにこにこ。
なるほど、こういう遊びもいいもんでしねえ。普段はこんな事できないでしから・・・。
さて軒轅しゃん、次はシーソーでし!!
物足りなさそうだった軒轅しゃんを引っ張ってシーソーへ。
だって、シーソーは一人じゃ遊べないんでしから。
二人座ってゆーらゆーら・・・なんだか変でしねえ・・・。
見ると、軒轅しゃんは宙に浮かんだ状態だったでし。
軒轅しゃん!そんなんじゃあシーソー遊びができないじゃないでしか!
え?もっと別のもので遊びたい?むう、贅沢でしねえ・・・。
まあ軒轅しゃんがそういうのならしょうがないでし。じゃあ次は・・・
「おねーちゃん。」
ん?
見ると、二人の子供(小学生でしかねえ?)がそこに居たでし。
一人は髪を後ろでくくってリボンをつけた女の子。
もう一人は帽子を反対向きに被っている男の子でし。さっき呼んだのはこっちの子でしね。
「ねえおねーちゃん、一緒に遊ぼうよ。そっちの動くぬいぐるみさんも一緒に。」
「遊ぼう、遊ぼう。」
動くぬいぐるみしゃん・・・って、軒轅しゃんの事でしかねえ?
軒轅しゃんを見て特に驚かないなんて、なかなか立派な子供しゃんでし。
それにしても離珠がおねーちゃんでしか。大きいからそう見えるんでしかね?
「おねーちゃん、どうしたの?僕達と遊ばないの?」
「さっきから黙ったまんま・・・。」
悲しそうな顔になる二人。えうー、困ったでしねえ、離珠は喋れないんでしが・・・。
軒轅しゃん、解説してくれないでしか?・・・なんてのはダメでしねえ。
困り困って顔を見合わせていると、男の子がぽんと手を叩いたでし。
「そっか!おねーちゃん、喋ることが出来ないんだね?じゃあいいよ、無理しなくても。
ごめんね、気づかなくって・・・。」
な?もしかしてこの男の子は心が読めるんでしか?
なんて訳は無いでしねえ。とりあえず頷いておくでし。
軒轅しゃんと一緒にぶんぶんと首を縦に振ると、更に女の子が言ったでし。
「実はね、あたしたちの友達にも喋れ無い子が居て、最初随分戸惑ったの。
それでね、あんまり仲良くなれないうちにその子死んじゃって・・・。
ごめんね、おねーちゃん。ほんとにごめんね。」
喋っている間に女の子は泣き出してしまったでし。慌ててその子を慰める男の子。
「お、おい、泣くなって。」
「ぐすっ・・・う、うん・・・。」
女の子は泣き止んだものの、なんだかしんみりしてしまったでし。
こうなったら奥の手!軒轅しゃん、失礼するでし。
むに〜
軒轅しゃんの顔をびろ〜んと引っ張って七変化でし!これはルーアンしゃんから学んだ荒業でし!
「・・・ぷっ、あははは。」
「ぬいぐるみさん、変な顔〜。」
二人とも大笑いしてるでし。大成功でし!
ぺちっ
あうっ。け、軒轅しゃん、そう怒らないでくだしゃいでし。
って、目が完璧に怒ってるでし〜!!
凄い形相で追い掛けてくる軒轅しゃんから必至に逃げ惑う離珠。
当然この時軒轅しゃんは空を飛んで追いかけてきたわけなんでしが、
それを見ても二人はずっと笑っていたでし。
やっとの事で落ち着き、男の子が笑い過ぎで出た涙を拭きながら言ったでし。
「ふう、ふう。すごいんだね、そのぬいぐるみさんて。お空を飛べるんだ〜。」
続いて女の子も。
「いいなあ〜。ね、後で乗せてくれないかなあ?」
ますます感心でし!普通は驚いてそんなどころじゃ無いと思うんでしが・・・。
やっぱり昔と今は違うって事なんでしかね?
もちろん離珠も軒轅しゃんもこくこくと頷いて返したでしよ。
そしたら、二人ともぱあっと顔を輝かせて跳ねて喜んでくれたでし。
なんだかいい事をしたみたいで気持ちがいいでし〜。
「それじゃあ遊ぼうよ。何して遊ぶ?」
「砂場で遊ぼうよ、ね?」
女の子の提案でそちらを見ると・・・なるほど、すでに色んな道具が並んでいて準備万端でし。
昨日雪が降ったにも関わらず、特に使えない状態でもなかったでし。
四人でそこにテクテクと向かい、すぐさま到着。
そこにあったのは、スコップ、くまで、バケツ、等々・・・。
それにしても砂場で何をしようというんでしか?
「まずはおっきなお山を作ろうよ!はい、おにーちゃん。」
と、女の子がスコップを男の子に手渡すと・・・
「はい、おねーちゃん。」
と、男の子からもう一つのスコップが離珠の方にまわってきたでし。
けれども、軒轅しゃんの分のスコップが無いでし。これは困ったでしねえ。
手でやるってのはダメでしか?顔を向けるとぶんぶんと首を横に振ったでし。
やっぱりそうでしよねえ・・・
「ぬいぐるみさんの分が無いの?だったらこれを使ってよ。」
そう言って女の子が差し出したのは自分のスコップでし。
ちょ、ちょっと、それじゃああんたしゃんの分が無くなっちゃうじゃないでしか。
申し訳なさそうにそれを返そうとしたら、女の子はにこりとして別なものを取り出したでし。
「あたしは平気だから、これがあるもん。」
それは真っ黒に汚れた手袋・・・軍手でしかね?
あっけにとられて、笑いながらそれを手にはめる少女を見ていると、男の子が言ったでし。
「妹は砂遊びする時はたいていあれを使ってるんだ。
おかあさんは汚れが酷くなるからちゃんとスコップを使いなさい、って言ってるけど・・・。」
「でもスコップが足りないじゃない。だから仕方ないんだよ♪」
しょうがないといった顔をしながらも声は楽しそうでし。
ひょっとして、直の土いじりが大好きなんでしかねえ?
それはともかくとして、せっせとせっせとお山を作るでし。地面をほりほり、砂をつみつみ、山にぺたぺた。
そうして、あっという間におっきなお山が出来あがったでし!その大きさは軒轅しゃん並でし!
「ふええ、よくこんなに大きくなったよなあ。」
「これもおねーちゃんとぬいぐるみさんのおかげだよね♪」
両手を真っ黒に、あちこちに砂がついてる顔でにっこり微笑む女の子。
いやあ、それほどでもないでしよ。むう、それにしても壮観でし。ね、軒轅しゃん。
軒轅しゃんはなにやらスコップ片手にうんうんと頷いていたでしが・・・。
ところで、これから何をしようというんでしか?
と、そんな離珠の心を感じ取ったのか、女の子が答えてくれたでし。
「まずはトンネル掘り!おねーちゃんはそっちから掘ってね。
つながったらあたしと握手するの。」
「そんでもってぬいぐるみさんはそっちから。繋がったら僕と握手だよ。
あっ、でも汚れちゃうかな・・・。」
二人して軒轅しゃんを見てちょっと不安そうでし。大丈夫でしよ、洗えば元通りでし!
こうなったらジェスチャーでと、どんと胸を張ってOKのサインでし。
アッサリとそれは伝わり、穴掘り開始でし!!
えっほえっほえっほえっほえっほえっほえっほえっほ・・・
・・・むう、なかなか繋がらないでし。
「うーん、ちょっとお山がおっき過ぎたかなあ。」
疲れ気味な男の子の声に、軒轅しゃんもうんうんと頷いてしまっているでし。
「そんな弱気に成らないでがんばってよ〜。
よーし、こうなったら先にあたしとおねーちゃんが握手するもん!」
そうでし!そのとおりでし!
「くっ、負けないぞ!ぬいぐるみさんも頑張って!」
軒轅しゃんが今度は大きく頷き、どどどどっと穴を掘り進め始めたでし。
やる気になったんでしか?けれど負けないでしよっ!
それからしばらくは御互い無言(元から無言でしが)で懸命に穴掘り作業。
何物をも寄せつけないほどに夢中に成って、最初に手を繋いだのは・・・
「やったー!!おねーちゃんとあたしが一番のりー!!」
その通りでし。離珠の手の先には、軍手をはめたしっかりとした女の子の手が。
すぐ後にも、男の子と軒轅しゃんが手を繋いだみたいだったでし。
「ちぇ〜、負けちゃったあ。残念だなあ、ぬいぐるみさん。」
こくこくと頷く軒轅しゃん・・・って、見るとほとんど砂に埋もれる感じになってたでし。
軒轅しゃん、それじゃあなんだか穴掘りというよりは別の感じがするでし。
無事四方向にトンネルが開通したという事で手を砂山から抜くと、女の子が軍手を外したでし。
「ああ面白かった。おねーちゃん、握手握手♪」
真白・・・じゃない手でし。この手でどれだけの砂をいじってきたんでしかね?
勝ち誇った様に二人して握手握手。
それを見て悔しそうに、男の子と軒轅しゃんも握手してたみたいでしが、
離珠たちの勝ちは変わらないでしよっ!
「さてと、次はどうしようかな。」
「水を流しちゃうと汚れすぎちゃうから山崩し!」
「やっぱりか・・・。まあいつも通りだし。」
ええっ!?折角作ったこの山を崩してしまうんでしか!?勿体無いでし・・・。
軒轅しゃんと一緒に信じられ無いといった顔をしていたんでしが、
それにも構わずに女の子はどこかから拾ってきた棒を山の頂上に差したでし。
「ほらほら、おねーちゃんもぬいぐるみさんもそんな顔してないで。
確かに勿体無い気もするけど、後で遊ぶ子の邪魔に成っちゃいけないでしょ?
だから作ったものはちゃんと壊して元通りにしておかなくっちゃ。」
「そういうこと。だからほら。」
・・・またもや心を詠まれてしまったんでしか?
というよりは、そんな顔をしてしまっていたんでしね。
そんなことよりも、そういう理由があって崩すのならしょうがないでし。
さあ軒轅しゃん、山崩しでしよっ!
決心をつけて一緒に山の前に座りこむでし。
ルールは簡単。順番に山の砂を取って行き、てっぺんに突き刺さっている棒を倒した人が負けでし。
「それじゃああたしから行くね!」
女の子がずずいっと砂を取るでし。
「次は僕!」
男の子がずずいいっと砂を取るでし。
「次はおねーちゃんだよ。」
離珠がずずずいっと砂を取るでし。
「次はぬいぐるみさんだね。」
軒轅しゃんがすすっと砂を・・・随分と謙虚でしねえ。
「ぬいぐるみさんってすっごく慎重。ようし、あたしも・・・。」
そしてちまちました砂取り合戦が始まったでし。
おかげでちっとも進展が無くって、棒はぴくりとも動いて無いでし。
えうー、こんなことやってたら日が暮れちゃうでしよ〜。
何故か焦った離珠は構わずに大きく砂を取っていってたんでし。そしたら・・・
ぐらっ
「あっ。」
ぱたん。
「倒れちゃった。おねーちゃんの負けだね。」
はうー!!な、なんてことでしかー!!
頭を抱えていると、軒轅しゃんが密かににやりと笑ったのを離珠は見逃さなかったでし。
ひょっとして離珠は軒轅しゃんにはめられたんでしか!?ますますなんてことでしかー!!
“あははは”と笑う二人の前でしばらくはそうしていたでし。
やがてぱたんぱたんと後片付け。砂場を綺麗に元通りにしたでし。
「それじゃあ次はブランコに乗ろう!」
ブランコ!いいでしねー、離珠も一度乗ってみたかったんでし。
「う、うん。でもおにーちゃん、あんまり大きく漕ぎすぎないでよ。」
「平気平気。この前のは油断しただけなんだから!」
言って元気良く駈けて行く男の子。離珠もそれに続こうとしたんでしが、
すっと女の子に服をつかまれたでし。
「実はね、この前ブランコを漕ぎすぎちゃって、おにーちゃん大怪我したの。
だからあたし心配で・・・。それから、あたしはブランコは遠慮しとく・・・。」
なるほど、そんな過去があったんでしね。でも、なんでブランコを遠慮するんでしか?
不思議に思いながらも離珠はブランコに飛び乗ったでし。
すでに男の子はかなり高い位置まで漕ぎ始めていたでし。
「おにーちゃん、そんなに勢いつけちゃあ危ないってばー。」
「大丈夫だよー!」
はたから見てても確かにちょっと危ない気がしたんでしが、離珠も漕ぎ始めたでし。
ちなみに軒轅しゃんと女の子はそばでじっと見てるだけでし。
ぐいーん、と何度も何度もこいで、気づいた時には相当な高さまでになってたでし。
家の二階なんて高さは当然無いんでしが、すいっと見えてくる景色はなかなか壮観でし。
しかしこれは、うっかり手を離そうものなら放り投げられてしまうでしねえ。
隣の男の子もそれぐらいの高さでし。でも、それを分かっているのか手はしっかりとしてるでし。
「気持ちいいね、おねーちゃん。」
実際本当に気持ち良かったので笑顔でそれに返すと、更に大きく漕ぎ出したでし。
えうー、ちょっと不安に成ってきたでし。下でも女の子はおろおろしてるし・・・。
離珠も心配に成ってちらりと横を見たその時!
「は、はっくしょん!」
男の子がおっきなくしゃみをしたんでし。その拍子にその手がするりっと・・・すっぽぬけたでし!
「お、おにーちゃん!!」
「うわあ!!!!」
宙に放り投げ出された男の子。慌ててかけよろうにも離珠はブランコ中。
おっかなびっくりしながらも止まろうとするでしが、当然まにあいっこ無いでし。
駄目でしー、このままじゃあ・・・!!!と、その時でし!
ふわっ
「え?」
ぽふっと、男の子を軒轅しゃんが受けとめたでし!
そのまま空中旋廻してこちらへ・・・ナイスでし軒轅しゃん!!
なんとかブランコから降りることが出来た離珠は、
ビックリして泣きそうに成ってる女の子と一緒に、二人の元へ向かったんでし。
軒轅しゃんが地面に男の子を下ろすと、女の子はその子に泣きついたでし。
「おにーちゃんのばかー!だから危ないって言ったのに・・・ひっく・・・。」
「御免・・・。今度からほんと気をつける・・・。」
気をつけるとは言っても、やっぱり調子に乗ってしまう時があるでしからねえ。
けれども、妹しゃんのことを考えればそういうことも少なくなるでしかね。
「えっと、ぬいぐるみさん、ほんとにありがとう。」
軒轅しゃんってば“当然のことをしたまでだ”なんて顔してるでし。
もう、少しは照れるとかすればいいのに、カッコつけ過ぎでし。
「ぐすっ、おにーちゃんを助けてくれてありがとう。」
涙が残っているけど、精一杯の笑顔でお礼を言ってくれたでし。
すると、軒轅しゃんの顔が少し紅くなったみたいでし。今更照れてるんでしか?
ほら、軒轅しゃん、ちゃんと笑顔で返すでしよ。
ちょちょいっと突ついて、にこっと御辞儀。ともかく良かった良かった、でし。
その後はずっと四人で公園にある物を使って遊んだでし。
最初にちゃんとできなかったシーソーもしっかり楽しんだでしよ♪
そんなこんなでちょっと休憩する頃には空が赤く・・・無かったでし。
あれだけ遊んだのに、まだ夕方までは時間がある様でしね。
「いっぱい遊んだね。でも・・・。」
「まだ少し遊べそうだね。」
確かにそうで、今は公園のベンチに四人並んで座っている状態でし。
ちなみに、ジュースを飲んでるんでしよ〜。シャオしゃまから御小遣い貰っておいて良かったでし。
それにしても全然寒く無いでしねえ。沢山はしゃぎすぎた所為でしかね。
しばらくは二人の話し声に耳を傾けながら、それにこくこくと頷きながら。
いよいよジュースも飲み終わって、さてどうしようかという時、男の子がこう言ったでし。
「そうだ!ねえ、お空の散歩に連れて行ってよ。」
「あ、それいい!ぬいぐるみさん、お願い〜。」
そういえば最初軒轅しゃんを見たときにそんな事を言っていた気がするでし。
肝心の軒轅しゃんを見ると、任せろと言わんばかりにやる気いっぱいでし。
ふと思ったんでしが、一番最初離珠と出掛けた時と比べて随分違わないでしか?
で、それぞれ持ち物を持って、軒轅しゃんの背中にまたがったでし。
ちなみに、女の子を先頭に、男の子、離珠、という順番でし。
よーし、それじゃあ公園を出発するでし!
「「しゅぱーつ!」」
二人の声を合図に空へと繰り出す軒轅しゃん。
見る見る小さくなって行く公園。またここには来たいものでし♪
「うわあ〜、気持ちいい〜・・・。」
「ほらほら、建物があんなにちっちゃいよ!」
軒轅しゃんの背中で大はしゃぎの二人。よっぽど嬉しいみたいでしね。
それはいいんでしが、はしゃぎすぎて落ちないようにして欲しいでし。
時々危なっかしそうになるもんだから、後ろに座っている離珠は内心はらはらでし。
もちろん軒轅しゃんもそれが分かっているのか、目で少しずつたしなめているみたいでしが。
「ほんとすごいねー、お空の散歩をしてるんだね、僕達。」
「嬉しいな。こんな体験、普通できないよね。」
たしかにそうでし。こんなことは普通出来るもんじゃないでし。
けれども、そんな事を何の違和感も無く受けとめた二人だからこそ体験してるんでしよ。
軒轅しゃんを見て逃げまわってたりしてたら今頃こんなところに居ないでし。
それになんといっても、離珠と軒轅しゃんととっても楽しく遊んだし。
すいーっすいーっ、と空の散歩を楽しんで・・・ん?
下の景色を見ていた離珠は、知ってるような人を見つけたたでし。
「ん、どうしたの?おねーちゃん。」
離珠の様子に気づいたのか、二人も下を探し始めたでし。
それにあわせてか、軒轅しゃんもちょっと高度を下げ始めたでし。
人影がだんだん近くになってきて、あれは・・・太助しゃまと虎賁しゃんでし!!
二人は一生懸命に走って誰かを追いかけているみたいでし。
その誰かとは二人の前方をこれまた懸命に走っていて、手には何かを抱えているでし。
「おねーちゃん、あの二人を見てるの?」
どうやら離珠が誰を見つけたかというのが分かった見たいでしね。
軒轅しゃん、太助しゃまと虎賁しゃんを追ってくだしゃい!
伝えられるまでも無かったようで、軒轅しゃんはぐいーっと二人の後を追い始めたでし。
「あっ!おにーちゃんが一人こけた!」
こけたのは太助しゃまの方でし。もう、キリュウしゃんの試練を超えたばっかりだってのに情けないでし。
一方虎賁しゃんは、そんな太助しゃまに構うことも無く走り出したでし。
さすがは球技のスーパーコーチでし。こんなことくらいでは止まらないって訳でしね。
でも・・・太助しゃまが心配でし。軒轅しゃん!
離珠が合図すると、軒轅しゃんは太助しゃまのもとヘ降り立ったでし。
丁度起き上がったところだった太助しゃま。離珠達を見て当然驚いたでし。
「離珠?それに軒轅!?一体どうして・・・その子供達は?」
太助しゃま、そんな事より虎賁しゃんを追いかけるでしよ!
「えーと、おにーちゃん。もう一人の人を追いかけなくていいの?」
「ぬいぐるみさん・・・軒轅さんって言うんだ?乗ればあっというまだよ、早く!」
「あ、ああ・・・。」
なんと、二人も離珠と同じ気持ちだったみたいでし。
細かい事は後にして、四人を乗せて軒轅しゃんは空へと素早く繰り出したでし。
虎賁しゃんを追う間に離珠たちの代弁者の太助しゃまが自己紹介。
そして、何故人を追っているのかを話してくれたでし。
「実は今虎賁と追っていたのはひったくり犯なんだ。
空からだとちょっと判りにくかったかもしれないけど、手にバッグ抱えてただろ?
あれを取り戻す為に、俺と虎賁が追いかけていたって訳。
でも思いのほか逃げ足が速くてさ。情けない事に俺は転んじまったって訳なんだ。」
なるほど、そういう訳だったんでしね。
そして追うこと約数分。既に虎賁しゃんは相手の人を捕まえていたみたいでし。
犯人を取り押さえた現場の周りには沢山の人だかりが・・・。
「このまま行ったんじゃ目立つな・・・。済まないけどちょっと離れた場所で下ろしてくれ。」
「ねえおにーちゃん。僕達もう帰るよ。」
「うん。そろそろ夕方だし・・・。」
確かに、いつのまにか西の空が赤く染まっていたでし。
「そっかあ。まあ、あの人ごみに無理に行ってもしょうがないしな・・・。
じゃあ軒轅と離珠、二人を送っていってやってくれよ。」
もちろんそのつもりでしよ、太助しゃま!
でも、もうさよならなんてちょっと寂しいでし・・・。
目立たない路地裏に降り立った軒轅しゃん。
そして太助しゃまだけが背中からすたっと飛び降りたでし。
「それじゃあさよなら。離珠、軒轅、また家でな。」
分かったでし。
「ばいばい、おにーちゃん。」
「また今度会ったら遊ぼうね。足の速いおにーちゃんも一緒に。」
「はは、そうだな。じゃっ!」
片手をすっと挙げたかと思うと太助しゃまは走り去って行ってしまったでし。
それを見送ると、軒轅しゃんは再び空へ。
しかし、なんで虎賁しゃんに会わずに・・・。
「ねえおねーちゃん、誤解しないでね。
別に僕達は足の速いおにーちゃんに会いたくなかったわけじゃ無いよ?」
「今度会って遊ぶ時に、初めて会うって形で自己紹介して一緒に遊びたいもん。」
にこにことした顔でそんな事を言われては仕方ないでし。
確かに、今度会う楽しみが増えていいでしね!
二人の気持ちが分かってこっちもにこにこしていると、男の子が指差したでし。
「あ、あの辺りで下ろして。」
そこは人気の無い町角。目立たないように軒轅しゃんはそこに降り立ったでし。
そして二人はうんしょ、うんしょと軒轅しゃんから降りる。
「それじゃあおねーちゃん、またね。」
「今日はとっても楽しかった。だからまた今度絶対に遊ぼうね。」
そして女の子がすっと差し出してきたのは小指。
なるほど、指切りをしようってわけでしね。わかったでし。
「ゆ〜びき〜りげ〜んまん、う〜そつ〜いた〜ら・・・。」
隣では、男の子と軒轅しゃんも指切りをしていたでし。
「・・・ゆ〜びきった!それじゃあね!!」
「ばいばーい!!」
元気良く手を振りながら、二人は笑顔で駈けていったでし。
何度も何度もこっちを降りかえりながら・・・。
行ってしまったでしね、軒轅しゃん。
“今度はいつ会えるかな”でしか?それは離珠にもわからないでし。
その時は、またキリュウしゃんに大きくしてもらわないといけないでしねえ・・・。
当然、虎賁しゃんや太助しゃまも一緒に会う事も忘れてはならないでし。
そうだ、シャオしゃま達とも一緒に行くでし!!うんうん、それがいいでしね。
ちょいちょい
ん?なんでしか?“そろそろ帰ろう”でしか?
そうでしね。早く帰って美味しいご飯を食べるでし。
今日は沢山遊んでおなかもすっごく空いたし。夕飯が楽しみでし〜。
そして離珠と軒轅しゃんは七梨家に飛んで帰ったんでし。
次にあの二人に会う日を心待ちにしながら・・・。
『夕食編』に続く。