小説「まもって守護月天!」
(虎賁の大きくなろう大作戦「その後」)


『シャオ編』

離珠も出かけちゃったし、翔子さんとキリュウさんはお部屋だし。
何かお菓子でもつくろっかな。でもキリュウさんのお部屋には入っちゃいけないことになってるし。
うーん・・・やっぱりお昼寝にしようかな・・・。
食器も全て洗い終わり、自分でお茶を入れてリビングのソファーに座っていた私でしたが、
結局何も思いつかなかったので立ち上がってお茶の片づけを始めました。
「うん、やっぱりお昼寝しようっと。屋根にでも上がってみようかな?」
普段私は一階の部屋で主にいますから、二階以上に上がる事はほとんどありません。
たまにお月見したりする時に屋根に上がったりしますけど。
と、リビングを立ち去ろうとした時、何処からか声が聞こえたような気がしました。
「?今の声は・・・?」
気になって立ち止まり耳をすましましたが、今度は何も聞こえません。
「空耳だったのかな・・・。」
首を傾げて部屋を後にします。
階段を上って行くと、キリュウさんの部屋から翔子さんの声が聞こえて来ました。
「ほらぁ、もう一回!!これも試練だよ!!」
「し、しかし・・・。」
「頑張れ、耐えるんだキリュウ!」
「そんな勝手な・・・。」
どうやら、翔子さんがキリュウさんに試練を与えているみたいです。
昼食の時も試練やってたしなあ。部屋の中で一体どんな事やってるんだろ。
なんだか気になる・・・。
一瞬立ち聞きしそうに成ってしまいましたが、いけないと思って慌ててそこを離れました。
「そういえば・・・どうやって屋根に上がろうかしら。」
軒轅は離珠と出かけてしまったので呼び出すのは無理です。
うーん、自分で頑張って上がるしか無いかな。
とは思ったものの、どの部屋から上がれば・・・。
「太助様のお部屋で、いいかな・・・。」
ふと思い立って、昨日の晩もずっと居た太助様のお部屋へ。
思わずコンコンとドアをノックしてしまいました。
「太助様は出かけて部屋に居ないってのに・・・。失礼しますぅ。」
がちゃりとドアを開けると、誰もいない太助様のお部屋が・・・。
なんだか変な気持ち。昨日あれだけ居たのに。
・・・きっと太助様が居ないせいよね。
ちょっぴり複雑な気分に成りながらも、ベランダへ出ます。
からからと扉を開けた時に吹きこんできた風がとても優しく感じられました。
思わずそこでうっとりとしてしまいます。
「よしっ、頑張って登らなきゃ。」
ふらふらしながらも手すりの上にのっかり、屋根の方に手を伸ばします。
「うんしょ、うんしょ。」
力を入れるも、なかなか屋根まで上がれません。
時折いたずらな風に吹かれて体がよろめきそうになります。
「お願いだから今は吹かないで!」
思わず風さんにこんな事を言いつつも、なんとか登る事が出来ました。
“ふう、ふう”と息をしながら屋根の上にコロンと大の字に。
「たまにはこうやって来るのもいいかもね・・・。」
見上げた空はとても澄んだ青色をしていて、すいこまれそうなほどでした。
目を閉じると、心地よい風の音色が聞こえてきます。
「気持ちいい・・・。」
お昼寝ってなんだかいいな。
屋根の上にこうやって寝っ転がるのもたまにはいいな・・・。
ここまで来た疲れなんてものはすっかり吹き飛んでしまいました。
まさかこんなに気分がいいなんて・・・。
そこの空気に浸っていると、だんだん意識が遠のいていきました。
太助様やみんなの顔が次々と浮かんで・・・私は眠りに入りました。

「・・・ん。」
何時間眠っていたのでしょうか。私は目を覚ましました。
目をこすって大きなあくび。よく眠れたみたいです。
「ふう。それにしても・・・。」
夢・・・・・。
夢を見ました。
どんな内容だったか詳しくは忘れちゃったけど・・・。
でも、太助様や皆が出てきた事は覚えています。
とっても大きな建物の中で・・・天井が凄く高いんです。
そういえば、私はとっても豪華なドレスを身に付けていました。
真白な、そしてすっごく華やかな・・・。
太助様の服は忘れましたが、きちんとした正装だったのは間違いありません。
そんな太助様と手を取り合って、御互い顔を赤らめながら歩いて。
周りでは沢山の人たちが拍手をしてくれているのです。
その中には、太助様のお父様やお母様の姿も・・・。
「うーん、後は忘れちゃったなあ。」
ついさっき見た夢だったのに、後はもう覚えていません。短い夢だったのでしょうか。
でも、すごく幸せな夢だったのは分かります。
いつかあんな風に成れたらいいな、なんて心のどこかで思えるような。
「ところで今何時かな・・・。」
夢の事は置くことにして、きょろきょろと辺りを見回しました。
まだ日はそんなに低くなくて、空も赤くありませんでした。
しかし、後少しもすれば夕刻となるでしょう。そろそろ夕飯の準備をしないといけません。
服の汚れをパンパンと払って立ちあがり、降りる事にしました。
「さあて、頑張って降りなくっちゃ。」
ここへ来た時と同じ経路を辿って二階へと向かいます。しかし・・・
「あ、あれ?」
何故だか足が付きません。下を恐る恐る見てみると、どうやらとどいていない様です。
おかしいなあ、登る時はしっかり届いたはずなのに・・・。
「えいっ、えいっ。」
必死になって足を伸ばすも、やはりベランダの手すりに足は付きません。
困りました。このまま降りられなくなったら大変です。
「軒轅が帰ってくるのを待って・・・るわけにもいかないわねえ。」
軍南門を呼んで降ろしてもらおうかしら。でも、騒ぎになっても困るし・・・。
よしっ。ここは頑張って一人で降りてみなくっちゃ!
毎回毎回皆に頼ってばかりいてはだめ。自分の力でやらなくちゃ。
というわけで、改めて足を伸ばします。
かすっ
「あっ。」
今一瞬だけ足がかすったような感触がありました。もう少し頑張れば大丈夫そうです。
よくよく考えれば上る時も一人で上れたんだから降りられないなんて事はおかしいですよね。
「もう、ちょっと・・・。」
えいえいと足を懸命に延ばし、なんとか手すりにかけようとします。
そうやって必死になる事約数分。
ぺたっ
「あっ、とどいた!」
やっとの事で片方の足が手すりの上につきました。
よし、この調子でもう片方も・・・
ずるっ
「えっ?」
足がついたという事からついつい油断してしまったのでしょうか。
屋根につかまっていた手がすべり、離してしまいそうになります。
慌てて掴み直そうとしたものの、それは既に手遅れでした。
「あ、ああっ!」
ずるるっ・・・ドシーン!!
「ふえええ、いたたあ・・・。」
結局はベランダに身体ごと落ちてしまいました。
幸いにも尻餅をつく程度の事で済んだのですが、とっても痛いです。
「やっぱり無理するんじゃなかったかなあ。」
今更後悔しても遅いのですが、今度から屋根に上る時は気をつけようと思いました。
行きだけでなく、ちゃんと帰りも考えておかないといけませんね。
しばらくは立ちあがれずに、その場にぺたんと座りこんでいました。
ひょっとしたらこの音を聞いて翔子さんとキリュウさんが来るかな・・・
などと考えていましたが、別に太助様の部屋に誰かがやって来るというような事はありませんでした。
どうやら、二人ともこれに気付かないほど実験に熱中している様です。
「随分と熱心なんですね、お二人とも。今度訊いてみようかな。」
ぼーっと考え事をしている間に痛みも少しずつ引いてきました。
もう立ちあがっても大丈夫に思えて、よいしょと腰を上げます。
と、ベランダから太助様の部屋に入ろうという時、妙な物を発見しました。
最初は小さなごみかとも思ったのですがそうではなく、人形の様です。
小さな人形が三つ、太助様の部屋の真ん中で寝っ転がっています。
「さっきの衝撃で太助様の机から落ちたのかな・・・。」
部屋の中に入り、それらに近付きました。
よく見るとどこかで見たような格好をしています。誰かにそっくり・・・。
「たかしさんに、花織さんに、出雲さん?」
そうです、この三つのお人形は三人にそっくりなのです。
目をつぶっていて、まるで生きているみたい・・・!?
「もしかして・・・。たかしさん、花織さん、出雲さん!!」
なにとは無しに、私は慌てて三人に呼びかけてみました。
すると、三人とも目を開けてゆっくりと起き上がりました。
「う、うーん・・・シャオちゃん?」
「シャオ先輩・・・。やったあ、これで元に戻れる!!」
「シャオさん、お願いします。早く我々をキリュウさんの元へ連れて行って下さい!」
やっぱり、これはたかしさん達なんだ!でも一体どうして?
「あの、なんで皆さんそんなに小さくなってるんですか?」
「それが良くわからないんだ。気付いたらこんな小さくなってリビングで寝かされてた。」
「多分キリュウさんが何かの目的でそんなにしたんですよ。ほんと酷い目に遭った。」
「お昼御飯も何も食べて無いもんですからとにかくお腹が空いて・・・。
シャオさんが二階へ昇って行ったのを見て、それを懸命に追いかけてきたって訳です。」
一度に色々話されて良く分からなかったけど、とにかくキリュウさんが原因なんだ。
それにしても何故キリュウさんはこんな事したんだろう?
そうだ、出雲さんの言葉で大事な事を思い出した。
「ごめんなさい。お昼御飯の時に皆さんの分を忘れてしまってて・・・。」
「うっ。やっぱり忘れられてたんだ。」
「あたしたちなんかにお構いなしに美味しそうに食べてましたもんねえ。」
ほんとうになんて事したんだろ。うっかりとはいえ忘れてたなんて・・・。
しゅんとして落ちこんでいると、出雲さんが横からこう言ってくれました。
「まあまあ、過ぎたことはいいじゃないですか。こうしてシャオさんが見つけてくれたのですから。」
「ですが・・・。」
「最悪、シャオさんが見つけてくれなかったらいつまでも元に戻れ無い所でしたし。
そこのところを感謝しないといけませんしね。」
「出雲さん・・・。」
にこりとして言うその姿に、とても救われた気がしました。
とはいえ、やはり忘れていた事は非常に申し訳無く思います。
改めて三人にお詫びを言ったのでした。ところで・・・
「それにしてもよく二階まで登って来れましたよね。
私なんか、屋根に上がるのすらとても苦労したんですよ。」
「シャオ先輩、屋根になんて上がってたんですか?なんでまた・・・。」
「ちょっとお昼寝を・・・。」
「なるほどお。こちらはとにかく苦労しましたよ。
野村先輩の妙な熱き魂の所為で。」
花織さんがたかしさんをじろりと睨みます。
するとたかしさんは胸を張って答えました。
「苦労なんてして無い!大体この俺のおかげで登って来れたんじゃないか!」
「それは嘘でしょうが。野村君は明らかに足を引っ張ってました。」
「足を引っ張ったんですか?だったら足が伸びてしまったのでは・・・。」
「いやシャオちゃん、それは違う・・・。」
「ふえ?」
ちょっと尋ねたら首を横に振られてしまいました。一体何が違うんでしょうか・・・。
屋根から下りる時に足が届かなくって苦労した私には少し羨ましくも思ったのですが。
「ともかく苦労したって事だよ。それにしても腹減ったあ・・・。」
「すみません、私が忘れていたばっかりに。」
「シャオ先輩、もうそれはいいですって。その分夕飯はたっぷり戴きますからね。」
「は、はいっ。夕飯はおでんですから。」
「そうですか。せめてルーアンさんの暴食は無いようにしてください。」
「大丈夫ですよ。たあくさん材料を買ってありますから。」
そういえばもうそろそろ準備を始めないと間に合わないな。
早くキリュウさんの部屋へ行ってたかしさん達を大きくしてもらって、
そして急いで御飯の準備しなくっちゃ。
三人を手のひらに乗せ、心なしか急ぎ足で私はキリュウさんの部屋へ向かったのでした。
翔子さんとキリュウさんの二人に託して、慌てて階段を駆け下ります。
さあて、張り切ってお料理を作らなくっちゃ。

『夕食編』に続く。


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