小説「まもって守護月天!」
(虎賁の大きくなろう大作戦「その後」)


『乎一郎編』

ルーアン先生からOKが出たのでルンルン気分で出かけた僕。
けれども、全然話ができなくって・・・。
「・・・ねえ遠藤君。」
「は、はいっ!」
「これから何処へ行くつもりなの?」
「えっと、とりあえず公園とか・・・。」
「なんで?」
「じゃ、じゃあ遊園地とか・・・。」
「なんで?」
「それじゃあ映画館は・・・。」
「もうちっと他に何か無いの?」
こんな感じで、先生ったらまったく乗り気じゃない。
そりゃあ、行き先も決めずに飛び出した僕も悪いんだけど・・・。
うーん、背が高くなった程度で張り切っちゃったのはまずかったかなあ。
と、そんな僕の心を読まれたのか、ルーアン先生がぴたっと立ち止まった。
「遠藤君、変わったのは見かけだけなの?」
「え?」
「折角キリュウに背を大きくしてもらったんでしょ。
だったら、自分の中身も変わろうとか思わない?」
「・・・ルーアン先生。」
「別に容姿に合わせて中身を変えろって言ってんじゃないのよ。
ただね、自分が望む姿に成れたって言うんならそれなりに内から見せないと。」
内から見せる?それって一体どういう事だろう・・・。
「ま、とにかく何処かへ行きましょうよ。こんな所で突っ立っててもしょうがないでしょ。」
その言葉に改めて辺りを見まわすと、人だかり・・・は別にできていなかった。
注目されるほどじゃないってのは分かってるけどね。
けどほんと何とかしないとなあ。このままじゃあなんの為に出てきたんだか。
「たくもう・・・。とりあえず喫茶店にでも行きましょ!」
「は、はいっ。」
結局はルーアン先生にずるずると引きずられる形となってしまった。
情けないなあ、こんなんじゃあなんにもなりゃしない。
自己嫌悪にひたすら陥った僕なのでした・・・。

喫茶店。マシンガンのごとく食べ・・・ないでいた先生。
食欲が無いんだろうか?もしかしてだらしない僕に呆れて?
勇気をふるって僕は尋ねてみる事にした。
「ルーアン先生。」
「なに?」
「何か食べないんですか?注文してないでお水ばっかり飲んで・・・。」
言った後でしまったと思ってももう遅い。口から出た言葉は取り返しがつかない。
ふうとため息をついたルーアン先生を見て、僕はかなり後悔の念にかられていた。
そろりそろりと口を開いたその様子に、“うわー、怒られる”と覚悟していたら・・・
「遠藤君、お金持ってる?」
「へ?」
「だからあ、お金よお金。あたし一円も持って無いのよ。
無線飲食で捕まっちゃうのはやだから・・・。」
「・・・・・・。」
なんだあ、お金かあ。良かったその程度で・・・
「って、お金が無いんですか!?」
「しぃーっ!!!」
思わずがたっと立ちあがって叫んでしまい、口をルーアン先生の手によって塞がれる。
店の人が疑わしげにこちらを見ていたようだけど、特に気にとめられずに済んだみたいだ。
「何大声だしてんのよっ!・・・もしかして、遠藤君も無一文なわけ?」
「え、え〜と、ちょっと待ってください。」
ごそごそと服のぽけっとをまさぐると、出てくるのはほこりばっかり。
しまった、ルーアン先生を誘うのに気がいっちゃってたから、財布を忘れてきちゃったんだ。
「・・・無一文なのね?」
「は、はい。多分太助君の家に財布を忘れて来たんじゃないかと。」
「なんでそんな事に成るのよ。着替えでもしたの?」
「それは・・・。」
言われてはたと考えてみた。着替えはして無いはずだからポケットに入っているはず。
太助君の家で財布を取り出した覚えも無いし・・・。
「ちょっと、どうしてくれんのよ。遠藤君、あんたが出かけようって言ったんだからね!」
「わ、分かってますって、ちょっと待ってください。」
機嫌が悪くなってきたルーアン先生を見て、再び慌てながらポケットを探る。
と、最初探していた時に探し忘れていたポケットに何やら大きいものを発見。
急いでそれを取り出してみると、それは紛れも無い僕の財布!
「あ、あった、ありましたよルーアン先生!」
「ありましたよじゃないでしょ!たくもう・・・。
で、ちゃんと中身は入ってんでしょうねえ?」
「い、今確かめます。」
確かに、財布だけで中身が空っぽなんて事じゃあシャレにならない。
一応昨日出かける時にお札を何枚か入れておいたはずだし、硬貨だって・・・。
ごそごそと探ってみると、案の定いくらかのお金が出てきた。
良かったあ、これで大丈夫・・・あれ?
「どしたの、遠藤君。お金このとおりあったじゃない。」
「いえ、なんか違和感が。」
心なしか変な感じがした。普通のお札と違うような・・・?
「気の所為よ、気の所為。で、いくらあるの?」
「あんまり沢山は無いですけど、それなりに。」
「じゃあここで使い切っちゃいましょう。食べるから。」
「え?それはちょっと・・・。」
「なあに?何か意見でもあるわけ?」
睨まれて僕はぐっと縮こまる。
それもそうだよなあ、もともと僕がルーアン先生を誘ったんだし。
食べ物くらいは思う存分食べてもらわないと申し訳無い。
というわけでメニューを改めて見たんだけど・・・。
「なんか高いわねえ。」
「そうですね。これじゃああんまり食べられないかも。」
コーヒー一杯が500円は軽くするというとんでもなさ。
今の僕の持ちがねじゃあほとんど食べる事は出来なかった。
「しょうがない、別のとこ行きましょ。」
ルーアン先生はお冷を一気に飲み干すと立ちあがった。
それにつられて慌てて僕もそれを飲み干す。
結局なんの注文もせずに、僕達二人は店を後にしたのだった。
「さあて、沢山食べられる所は何処かしら!?」
「ルーアン先生、無理に今沢山食べなくても・・・。」
「何!?なんか文句でもあるの!?」
「いえ、ありません・・・。」
とにかく何か食べたいというルーアン先生の熱意に押され、僕達は今度はラーメン屋を目指した。
この近くに安くて美味いラーメン屋があったのを思い出したからだ。
とりあえずは財布の確認が出来たからよしとしようか。

そして成り行き上やって来てしまったラーメン屋。
今更ながら思ったんだけど、昼ご飯食べた後に出かけて、なんで食べ物屋を目指してんだろ?
「どうしたの遠藤君?そんなに深く考え込んじゃって。
まさかラーメンは嫌いだなんて言い出さないでよ。」
「あ、いえ、そうじゃないです・・・。」
いつも先生ってマイペースだなあ。だからすぐになんでも食べられるのかなあ。
などとボーっと考えながらも扉を開ける。すると・・・
「お前が盗作だ!!」
「いいや、お前の方こそ盗作だ!!」
と、大声での言い争いが聞こえてきた。思わず耳を塞ぐルーアン先生と僕。
どうやら、客の二人の男性が何かについてしきりに言い争っている様だ。
しかしここで思ったのは、なんで外に居てこれが聞こえてこなかったんだろうって事。
ひょっとしてこの店の扉は超防音璧なのかな?なんて。
とりあえずは突っ立っているわけにも行かなくて、少し離れた空いてる場所に腰を下ろす。
それでも口喧嘩が聞こえてくるのは変わり無い。でも、他の客も店員も知らんぷりだ。
もしかしたらこれは日常茶飯事なイベントなのかもしれない。
「なによこれ、うるさいわね・・・。」
「一体何を言い合っているんでしょうね?」
「盗作だのそうでないだの・・・。大体相手が盗作ってなによ?」
「さあ・・・。」
「あの二人って盗作品なのかしら。」
「いくらなんでもそれは違うと思いますが・・・。」
言い争っている言葉からは、確かにルーアン先生の考えが浮かばないでも無い。
まあいいや、どうせ僕達には関係の無い事柄だと思うし・・・。
「とりあえずチャーシュー麺大を三つほどね。」
「わ、わかりました・・・。」
この時の僕の顔が引きつっていたのは、三つという数ではなかった。(注文はしたけど)
チャーシュー麺といえば・・・午前中にルーアン先生が寝言で呟いた品。
そう、夢の中では僕の事を名前で呼んでいるのではと錯覚させた忌まわしき品だ。
こんな呪われている物を僕自身も食べたくなかったけど、ルーアン先生御所望の品ならば仕方ない。
食べてやるさ、そして悪しき宿命から解放してやる・・・。
「ねえ遠藤君。」
「・・・は、はい?」
「どうしたのよ、そんなに恐い顔して・・・。」
「え?僕そんなに恐い顔してましたか?」
「うん、してたわ。なんか凄く憎んでるって感じの・・・。」
うわあウッカリ顔に出しちゃったんだ、いけないいけない。
「ひょっとしてチャーシュー麺が嫌いなの?」
「そ、そんな事無いですよ、はは・・・。」
危うく妄想内の怒りが爆発しそうに成ったけど、それはなんとか抑える。
それでも、ちょっとばかりの恐怖心をルーアン先生に与えてしまってかなり失敗だ。
気まずくなって、しばらく黙り込む。聞こえてくるのは言い争い・・・。
そうだ、そうだよ。なんで店の中であんな言い争いしてるんだよ。
だいたい人の迷惑じゃ無いのか?他の人もなんで放っておくんだよ。
ついには他人への中傷が心の中で飛び始めた頃、注文の品が姿を現した。
チャーシュー麺大、全部で三つだ。
「あれ?遠藤君は頼まなかったの?」
「え?先生二つじゃなかったんですか?」
「あのねえ、あたしは三つだって言ったでしょう?」
「そうですか・・・。だったら注文の時に・・・。」
「そんなの、あの言い争いのおかげで聞こえなかったわよ。
まあいいわ、夜に沢山食べる事にするから。遠藤君一つ食べなさいね。」
「は、はい。すみません・・・。」
ルーアン先生がすっと差し出してくれたチャーシュー麺。
香りからしていい感じだ。まあ、元々美味しいという事を知ってたから来たんだけど。
「「いただきまーす。」」
すっかり挨拶の習慣がついたみたい。早速食す。
ずるずるずるずる
「それにしても・・・。」
「どうしたんですか先生?」
「味が濃いチャーシュー麺ねえ。」
ぴきっ!
な、なんという事を、先生・・・。それだけは言ってはいけない、いけないんだ!
わなわなと手が震えだし、危うく箸を折りそうになった。
込めすぎた力を抜き、なんとか冷静さを取り戻す。
それにしてもなんでラーメン屋に来たんだろう?僕は馬鹿なのかもしれない・・・。
「どしたの?」
「いえ、なんでも・・・。」
ずるずると先生を見習ってラーメンを食べる。
美味しい・・・。うーん、なんだかんだ言っても美味しいよね、このラーメン。
「美味しいですね、先生。」
「まあね。」
そっけない返事だったものの、先生は既に二杯目に取りかかっていた。
やっぱり早い。それに、先生なりに満足して食べている様だ。
良かった、これでそんなに美味しく無いとか言われたら困っちゃうところだった。
ところが、二杯目を食べるその手前で先生の手がぴたっと止まった。
「先生、どうしたんですか?」
「五月蝿いなあ、と思って・・・。」
なるほど、まだあの二人は喧喧諤諤の言い争いを続けている。
いいかげん止めればいいのに、なんでそんなにやりつづける理由があるんだろ。
「うっとうしいわよね、あれ。」
「ええ。」
僕はきっぱりと告げた。当然だ。
ルーアン先生の食事をも止めるほど迷惑になってるんだ!
すると先生はにこりと笑って懐からある物を取り出した。それは・・・黒天筒!
「うっとうしいから追い出さないといけないわよね?」
「あ、あの、先生、ちょっと・・・」
「陽天心召来!!」
くるくるっとそれを素早く回し、ぴかーっと光ったものは服。二人が着ている服だ。
「もう一丁陽天心召来!」
今度光ったのは入り口の扉。防音効果ばっちりの・・・じゃ無いかも知れないけどその扉だ。
「「う、うわあ!?」」
ふわりと浮きあがった二人の身体。そしてガラッと開く入り口の扉。
「ほらっ、追い出しなさーい!!」
ルーアン先生の合図で、二人がぴゅ〜っと外へ。ぽいっと放り投げられる。
その直後にぴしゃりと扉が閉まる。そして陽天心を解くルーアン先生。
「さあて、邪魔者は居なくなったわね。食べましょうっと。」
「・・・・・・。」
御機嫌で続きを食べ始めたルーアン先生だったけど、僕はそうはいかなかった。
だって、こんな店の中で陽天心を使って・・・。
案の定他の客達や店員達は驚きの表情でぽかんと。
ああー、やっぱりここに来るんじゃなかったー!
けれども、しばらくして起こったのはなんと拍手だった。
ぱちぱちぱちぱちぱち、と、それは店の奥のほうから聞こえてきた。
「いやー、あんた凄いね。あの二人を追い出すなんてさ。
毎回困ってたんだよ、あんなはた迷惑な言い争いをする事にさ。
お礼にといっちゃあなんだが、そのチャーシュー麺はただでいいよ。俺のおごりだ!」
笑いながら言うその人に、僕はただ口をぽかんと開けたままでいるしか出来なかった。
と、ルーアン先生は食べている手をフッと止めて、
「ありがとねん♪」
と返す。そして食べに戻ったのだった。
やがて他の客からも口々にお礼のメッセージが。
その度ににこっと笑顔で返すルーアン先生。やっぱり凄い・・・。
けれども、全て食べおわるまで僕はほとんど動く事が出来ず。
更には、知らない間にルーアン先生に僕の分も食べられてしまっていた。
放心状態からやっと解け、歓声に送られながらルーアン先生と共に店を後にする。
一体なんだったんだろう・・・と思わざるを得ない出来事だった・・・。

「ふうー、美味しかった。」
「そうですね・・・。」
僕自身はまだ店でのショックが後遺症として残ってるみたいだ。
あんまりまともに返事ができない・・・。
「どうしたのよ遠藤君、美味しくなかったの?」
「いえ、美味しかったです・・・。」
「だったらもう少しご機嫌そうな顔しなさいよ。しらけちゃうでしょ。」
「は、はい・・・。」
美味しいもの食べたからってご機嫌になれるわけじゃあ・・・。
「第一、あんたからあたしを誘ったんじゃないの。何が不満なの?」
「!!い、いえ、不満なんて何も無いです!」
そうだった。僕がルーアン先生を外へ連れ出したんじゃないか!
なんてことだ、こんな事に気づかないで居たなんて。
それで一緒にいることを当たり前に思っていたなんて。はあ・・・。
って、ここでまた落ちこんでいちゃあ怒られちゃうな。しっかりしなきゃ。
さっきの後遺症もなんのその、元気を取り戻して歩いているとルーアン先生がぴたっと立ち止まった。
「どうしたんですか、ルーアン先生?」
「のど乾いたな〜と思って。」
なるほど、先生が止まったのは自動販売機の目の前だ。
ジュースか何か欲しくなったんだろう。僕は素早く財布を取り出した。
「先生、何が欲しいですか?」
「えっとねえ、この紅茶でも。」
「はい。」
ささっと財布から小銭を取り出して投入・・・あれ?
「どうしたのよ、遠藤君。」
「い、いえ、なんでも。・・・あれ?」
何故か小銭が入らない。ぐいぐい押しても一向に・・・。
「ちょっと、なにやってんのよ。」
「それが、小銭が入らないんです。百円玉が・・・。」
「ええー?嘘でしょ〜?」
疑ったルーアン先生だけど、僕の手元を見て確信したようだ。
確かに小銭が入らない事を、何故か入らない事を・・・。
「自販機がおかしいんじゃないの?」
「そんなはずは無いと思うんですけどねえ。」
「違う場所に行きましょ。どうせちょこっとでも歩けば見えてくるわよ。」
「それもそうですね。」
とりあえずそこは諦めて別の場所へ。
ルーアン先生の言う通り、少し歩くだけでアッサリと別の自販機が見付かった。
早速再度財布を取り出して小銭を入れにかかるも・・・
「やっぱり入らないです。」
「はあ?もう、とっとと別の場所行きましょ!」
「そうですねえ。」
そして僕達はまたもや別の自販機を求めて歩き出した。
探しては試し、探しては試す。それを何十回と繰り返し・・・。
「まったく・・・この町の自販機はどうなってんのよ!」
「いくらなんでもおかしいですよねえ。」
いいかげん疲れて、丁度自販機の傍にあったベンチに二人腰を下ろす。
結局のところ一回たりとも自販機は使えないままだった。
と、だれているそこへ別の人が自販機の前へ立った。
財布からいくらかの小銭を取り出して投入。ちゃりんちゃりんと小気味良い音がしてボタンが押される。
ガコン!と音がした後には、その人は出てきたジュースを手に持って悠々と去って行った。
「ちょっと、なんであいつは使えたのよ・・・。」
「さあ・・・。」
「さあじゃないでしょ!?遠藤君が持ってる小銭がおかしいんじゃないの!?」
「も、もう一度試してみます。」
慌てて立ちあがって硬貨投入を試みる。
けれども、やっぱり自販機には入ってくれない。ぐいぐい押しても入ってくれない。
明らかに大きさが違うようだった・・・。
「先生、やっぱりだめです。」
「たくう・・・。ん?」
同じく立ちあがろうとした先生がふとポケットから何かを取り出した。
それは十円玉。たった一枚だから当然それでジュースは買える訳が無い。
「はあ、ちょっとは期待したのに・・・。」
「・・・先生、ちょっとそれ貸してくれませんか?」
「何よ。あたしのなけなしのお金を使おうって言うの?」
「いえそうじゃなくて、ちょっと確かめたいことがあるんです。」
しぶしぶながらも先生は十円玉を手渡してくれた。
慌ててそれを手に取り、自分の持つ硬貨と比べてみる。すると・・・。
「・・・大きい。」
「は?」
「大きいんですよ。ほら、見てください!」
急いでルーアン先生を傍に呼び、自分の手の平のものを見せる。
すると、僕の持つ百円玉はルーアン先生の十円玉の一回り以上は軽くあった。
「・・・たしかに大きいわね。」
「道理で入らなかったはずです。」
「馬鹿にしてんじゃないわよ!!こんなにおっきいのになんで気づかないのよ!!」
「す、すいません・・・。」
どうやらボーっとしすぎてたみたいだ。
気合を入れ直した筈なのに。やっぱりだめだなあ・・・。
「まあ過ぎた事はもういいわ。今度はそんな愚かな行動はとらないでよ。」
「は、はい。」
愚かな行動。そうだよなあ、今回の僕の行動は愚か以外なにものでもない。
硬貨の大きさになんの違和感も抱かなかったなんて・・・。
「で、問題があるのよ。」
「問題、ですか?」
「そうよ。なんで遠藤君の持ってる硬貨がそんなに大きいの?」
「それは・・・何らかの力で大きくなったとしか。」
けれども、一体なんの力で大きくなったんだか。
「・・・キリュウね。」
「え?」
「キリュウよ!!あんたキリュウの万象大乱で背を大きくしてもらったんでしょ!?」
「は、はい、そうです。」
「だったら、その時に一緒に大きくなったとしか考えられないわ!!」
なるほど、あの時にキリュウちゃんが大きくしちゃったんだ。
「でも変じゃないですか?僕は背を大きくしてもらっただけなのに。」
「そんなもん誰が完璧に信用できるもんですか。
ただ単に背を大きくするだけで済ませられなかったのよ。要は失敗したのよ!」
「そ、そうですか・・・。」
言われてみれば、離珠ちゃんを大きくするときも最初失敗してたなあ。
「たく、遠藤君が妙な注文をキリュウにつけるから!
おかげであたしがジュースを飲めなかったじゃないの!!!」
「そうですよね・・・すいません・・・。」
今にして思えば、喫茶店でお札に違和感を感じたのもこれが原因だったんだ。
そんな事も忘れて僕は・・・。
「ごめんなさい、ルーアン先生。全部僕の所為です。」
「・・・ま、もういいわ。もともとキリュウがちゃんとやらなかったのが悪いんだし。
キリュウがしっかり遠藤君の背だけを大きくしていればこんな事にはならなかった。そうでしょ?」
「けど・・・。」
「どっちにしても、家に帰ったらとっとと元に戻してもらいなさいよ。
大体背を高くしてもらったからって何が変わるっていうのよ・・・。」
「・・・はい。」
以前にも聞いた事をもう一度言われてしまった。
完全に怒ってるなあ。やっぱりルーアン先生を誘おうなんて張り切るべきじゃなかったんだ。
がっくりうなだれつつ、僕とルーアン先生は帰路についた。
どうせこのまま外で居ても持ってるお金が使えないんじゃ何も出来ないし。
「でもまあ、それなりに楽しかったから良しとするわ。」
「ルーアン先生?」
「いいのよ。なんでもプラス思考に考えないと人生損よ?
今回の事で、どういう事が大事なのかってのが遠藤君も分かったんじゃない?」
「ええ、それなりに。」
「だったら、そういう事が分かったって事で嬉しいと思いなさいって。
“ああー、だめだった〜”なんてものだけで終わっちゃうなら、それこそ最悪よ。」
ぱちっとウインクしながら慰めてくれた。
ルーアン先生ってやっぱりやさしい・・・。
そんな先生をもっと楽しませられるよう、僕も頑張らなくっちゃ!
横で何やら夕食の作戦を練っている先生にも気付かず、僕は新たに決意を固めたのでした。

『夕食編』に続く。


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