小説「まもって守護月天!」
(虎賁の大きくなろう大作戦「その後」)


『乎一郎編』

今僕は、リビングに山野辺さんとキリュウさんといる。
ルーアン先生を、寝かした山野辺さんに探してもらい、
それをキリュウさんにもとの大きさに戻してもらうためだ。
「ルーアン先生はこれだ。それじゃキリュウ、頼むよ。」
「うむ、万象大乱!」
みるみるうちにルーアン先生が大きくなる。
小さい時に、黒い所は山野辺さんがふき取ってしまったので、すっかり元通りだ。
「こうやって、とりあえずソファーに寝かしといたらいいよな。」
「うん、2人ともありがとう。」
「なに、一応報酬だからな。それでは遠藤殿、頑張られよ。」
そして2人はリビングから出ていこうとした。
「あれ?2人ともどこへ行くの?」
僕が声をかけると、山野辺さんがこっちを振りかえって言った。
「あたしの報酬をもらいにキリュウの部屋へ。瓠瓜も待たせてるしな。」
「そういう事だ。いろいろとするので、主殿達に絶対入ってこないよう、強く言っておいてくれ。」
そんなに急ぐ事なの?でも・・・。
「2人とも、離珠ちゃんや虎賁くんの洋服姿は見ないの?」
「後でいいって言っといてくれよ。それじゃあな。」
そして2人は2階へ上がっていっちゃった。よっぽどすごい事するんだろうなあ。
でも僕は僕でしっかりしなくっちゃ。
ルーアン先生を見ると、なんとも気持ちよさそうに眠っている。
先生って寝顔も素敵だな・・・。しばらくポーっと見つめていた。
そして様々な考えが頭の中をめぐる。
僕のこの姿を見たら、先生なんて言うのかな。かっこいいって言ってくれるかな。
ひょっとしたら太助くんみたいに・・・。
自分の想像で少し顔を赤らめていると、
「お待たせ、乎一郎。」
と呼ばれた。びっくりして飛びあがる。
「なんだなんだ。なにをそんなに驚いてるんだ?」
「た、太助くん。それに虎賁くん。」
リビングのドアの所に2人が立っていた。きょとんとした顔でこちらを見つめる。
うわあ、変に思われちゃったかな。
「乎一郎、なにやってたんだ?」
「べ、べつになにも。」
「ふうん、べつにねえ・・・。」
虎賁くんは疑惑のまなざしで僕を見る。こ、これはまずいかも・・・。
「あれ?乎一郎、山野辺とキリュウは?」
「ふ、二人ならキリュウさんの部屋でいろいろするんだって。絶対に入ってくるなって言ってたよ。」
「そうか。不良ね―ちゃんとキリュウだから、さぞかしすごい事をするんだろうなあ・・・。」
話がそれたみたいだ。ふう、太助君が話題を変えてくれたおかげでたすかったよ。
そのときシャオちゃんの声が。
みなさーん、着替えが終わりました。」
ますます助かった。
「さあ、見に行こうよ。離珠ちゃんどんな姿なのかなあ。」
と僕は立ち上がった。太助君と虎賁くんも後に続く。
シャオちゃんの部屋の前に、シャオちゃんと離珠ちゃんが立っていた。
へえ、洋服かあ。スカートはいた離珠ちゃんもかわいいなあ。
3人でさっそく感想を言う。
「似合ってるよ、離珠ちゃん。」
「いつもとぜんぜん違うな。馬子にも衣装ってか。」
「あれ?それってシャオと初めて買い物に行った時の・・・。なかなかしゃれたことするな。」
虎賁くん、馬子にも衣装って・・・。少しは褒めりゃいいのに。
僕達を見て、シャオちゃんが不思議そうな顔で尋ねた。
「あら?翔子さんとキリュウさんはどうしたんですか?」
「部屋に閉じこもってなんかしてるよ。誰も入って来るなってさ。」
僕が答える前に太助くんが答えた。
なんか離珠ちゃん、熱くなっているようにも見えるんだけど、気のせいかなあ。
「それじゃ、太助様、お買い物に行ってきますね。本当に昼食はいらないんですか?」
「ああ、虎賁と外で食べるよ。」
「そうですか。じゃあ離珠出かけましょ。」
手を振る離珠ちゃんにこちらも手を振って返す。
「行ってらっしゃい、シャオ、離珠。」
2人を見送った後、太助くんと虎賁くんが言った。
「さあてと、それじゃおいら達も出かけるから。」
「乎一郎、頑張れよ。」
もう出かけるのか。だったら一緒に出かけてもよかったのに。
「うん、じゃあね。」
そして2人を見送る。玄関には僕だけが取り残された。
よーし、頑張らなきゃ。でもルーアン先生が起きないとなあ。
リビングに戻ると、案の定ルーアン先生はまだ寝ていた。
さっきみんなと話をしている間に寝返りを打ったのか、ソファーのほうに顔を向けている。
息苦しくないのかなあ、と思いつつ、僕もソファーに座った。
そして待つ。ただひたすら待つ。
すぐにでもルーアン先生にこの姿を見てもらいたかったけど、
なんといっても先生を起こしてはいけないんだ。
ルーアン先生は食欲がすごい。でもそれ以上にまして寝るのが好きらしい。
だって休みの日は、朝食という行事をけってまで寝に入るんだから。
というわけで僕にはルーアン先生を起こす勇気なんて無い。
じっとルーアン先生が起きるのを待つだけ。
しばらくしてルーアン先生が仰向けになって声を上げた。
「うーん・・・。」
やった!起きた!
「たー様ぁ・・・すきやきぃ・・・。」
起きたんじゃなかったのか。
それよりずるいや太助くん、なんで夢の中にまで出て来るんだよ。今度抗議しなきゃ。
僕はルーアン先生の夢には出てこないのかなあ・・・。
そんな事を思っていると、ルーアン先生が二つ目の寝言を言った。
「う〜ん、えんどう・・・。」
「え!?」
思わず声が出る。
僕の名前だ。ちゃんと僕も夢に出てたんだ・・・。
「えんどう豆おいしいわね、野村君・・・。」
うそ・・・。えんどう豆なんて、そんなのないよ。
しかもなんでたかし君なのさ、ひどいよ先生・・・。
くそう、後でたかし君におもいっきり抗議してやる。
しばらくして、3つ目の寝言が聞こえた。
「うーん、えん・・・。」
えん?今度は僕だ。ルーアン先生、僕は先生を信じてましたよ。
「遠慮するわけないでしょいずぴー・・・おまんじゅう、もっと・・・。」
遠慮・・・。それはおいといて、今度は出雲さん!?
饅頭でルーアン先生をたぶらかそうとは、なんてひどいんだ。今度会ったら文句言わなきゃ。
昨日の試練で得た友情も吹き飛ばし、怒りの炎が燃え上がった。
そうしているうちに、今度は四つ目の寝言が。
「こい・・・。」
こい?そうか、わかったぞ!先生、夢の中では僕の事“乎一郎君“て呼んでるんだ。
なあんだ。でも照れるなあ、そんな、乎一郎君なんて・・・。
「こいっておいしいわね。キリュウも食べなさいよ・・・。」
・・・こいって魚の鯉?ちょっと待ってよ先生・・・。
いや、まだあきらめるのは早い。五つ目の寝言を待つ!
「うーん・・・こい・・ち・・・。」
来た!今度は“こいち”だって。まちがいない。
今度こそ、今度こそ僕の名前を・・・。
「うーん・・・味が濃いチャーシューメンねえ。
・・・あの不良じょーちゃんたらもう・・・。」
今度は山野辺さんだったのか・・・。
そんな事より、味が濃いチャーシューメン!?なんなんですか、それ。
ルーアン先生、ひどすぎます!
・・・うわーん、みんな・・・きらいだあ!
おもいっきり叫びたくなった。そのとき、ルーアン先生が六つ目の寝言を言った。
「えんどうくん・・・」
え!?遠藤君て言った、間違いない。
ああ、なんだ先生。やっぱり僕の事を・・・。
「遠藤君、その蟹全部あたしに頂戴ね。あんたには殻を上げるから・・・。」
・・・なんかあんまりうれしくないような。
でも、僕もちゃんと夢に出てたんだから良しとしなくちゃ。
それどころか先生から蟹の殻のプレゼントがもらえるんじゃないか。
うわあ、夢だって事がすごく残念だなあ。蟹の殻が欲しかった・・・。
それにしてもルーアン先生って食べ物の夢しか見ないのかなあ。
さっきからそんな夢ばっかり・・・。
結局ルーアン先生が起きないまま、
「ただいまー。」
というシャオちゃんの声が聞こえた。そろそろお昼か。
仕方ないな。昼食後のにルーアン先生と話することにしよう。
そして僕は、帰ってきた2人を出迎えに行った。

『昼食編』に続く。


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