テーブルを囲んで、キリュウ、不良ねーちゃん、遠藤乎一郎が座る。
『第4日目(朝)』に続く。
おいらと離珠はテーブルの上。他に、不良ねーちゃんが入れてきた、お茶とお菓子が並んでいた。
それらを口にしながら話をする。まずはさっき部屋が散らかっていた事について。
話し終わると、遠藤乎一郎がキリュウに言った。
「もう、キリュウさん。だからってあれはやり過ぎだよ。
でも本当は綺麗好きだったんだね。さすがあ。」
やはり顔を赤くするキリュウ。こんなんじゃ、照れ屋を治すのは無理そうだな。
「まあそんな事は置いといて、報酬の件なんだけど。遠藤にはなにをやるんだ?」
不良ねーちゃんの問いにキリュウが顔を上げる。
「うーむ、遠藤殿。なにか望みの品はあるか?」
なんだ、もう照れは直ったのか。切り替えが早くなったな。
「望みのもの?キリュウさんが僕になんかくれるの?うーん・・・。」
しばらく考え込む遠藤乎一郎。
それを見た離珠が、お絵描きをして袖を引っ張って手渡した。
「ん?なにこれ・・・。えーと、『離珠と虎賁しゃんはキリュウしゃんに大きくしてもらうでし。
翔子しゃんも何か大きくしてもらうみたいでし。』だね。あっそうか、報酬ってそういう事か!」
ほう、おいら以外に離珠の絵を瞬時に解読できるやつがいたとは。
しかもしっかり離珠のことばじゃねーか。なかなかやるな・・・て、
「なにやってんだよ離珠!かってにばらすなって!」
「うかつだった。そういえばなんで遠藤と一緒にこんな話をしたんだろう。」
頭を抱える不良ねーちゃん。それを見てキリュウが言った。
「なんだ2人とも、隠したまま話をするつもりだったのか?それは浅はかというものだ。
こういう状況になった以上、遠藤殿にばれるのは必然的。諦められよ。」
浅はかって・・・。部屋を散らかしたキリュウは浅はかじゃないのか?
いやそれより、さらりときついこと言うじょーちゃんに影響されたんじゃねーのか?うわー、いやだなあ。
「はいはい、あたし達が悪うございました。というわけで遠藤、
お前も何か大きくしてもらえよ。小さくするのもOKだぜ。」
「そうか、そんなら背を大きくしてよ。ルーアン先生より少し高いくらいにさ。」
背を高くか。なるほどねえ。
「うむ、心得た。大きくするのは明日だが、よいな。」
「うん、ありがとう。でもいいのかなあ、僕ほとんどなにもしてないのに。」
なんか遠慮してるな。らしいけど。
「遠慮するなって。少なくとも、野村よりは役に立ってたぜ。」
「その通り。最初からあんたが来てくれてりゃ、おいらももっと頑張れたのに。」
おいらと不良ね―ちゃんの言葉に快くうなずく。そうそう、素直に人の好意は受けとくもんだぜ。
「さて、落ち着いたところで話題を変えよう。翔子殿、欠点とはなんだ?」
キリュウが不思議そうな顔で尋ねる。そういや、このねーちゃんそんな事言ってたっけな。
「僕も気になる。結局太助君に何をわからせようとしたの?」
「おいらにも教えてくれよ。全然わかんなくてさ。」
(離珠も知りたいでし。)
まじまじと不良ねーちゃんを見つめる。しかし、
「ダメダメ、そんなの自分で考えろ。キリュウ、その話は2人になったときにするって言っただろ。」
「そうだったな。ではこの件はおいておくことにしよう。」
あっさりと話を終わらせるキリュウ。当然おいら達はそれに反発する。
「ちょ、ちょっと、そんなのずるいって。」
「そうだよ、せめてヒントだけでも。」
(教えてくだしゃいでし。)
「ダメったらダメ!!3人ともこの件に関しては忘れること!わかった!?」
力いっぱい拒否されてしまった。そんな事言われると、ますます気になるじゃねーか。
でも考えても分かるもんじゃねーし、諦めるか。離珠と顔を見合わせてがっかりしていると、
「忘れられないよ!気になるから教えてってば!」
遠藤乎一郎は、諦めずに不良ねーちゃんに迫る。するとキリュウが口を開いた。
「遠藤殿、背を大きくして欲しくはないのか?」
「え!?」
報酬をたてにしてきた。うまいよな、やっぱ策士だ。
「そ、そんな・・・。わかったよ、あきらめる。」
と、がっくりと肩を落とす。
「そうそう、素直が一番。別に七梨とシャオが分かったら、あの2人から聞きゃいことだよ。」
それもそうか。でもそれっていつの話なんだ?
「さてと、明日の予定だが、何かする事はあるか?」
明日ねえ、別になにも・・・
「ちょっとキリュウさん、大きくしてもらえるんじゃないの?」
そ、そうだった。それが一番大事だってのに。
「もちろん大きくするとも。学校はあるのか、と訊いているのだ。」
「なんだそういう事か。学校なら明日も休みだよ。なんと3連休だった、というわけ。」
「そうか、なら問題無いな。では明日の朝、望み通りそなた達を大きくするぞ。」
明日の朝か。へへっ、おいらの立派な姿を見て、みんな驚けよ。
(大きくなっていろんなことをするでし。)
離珠と同じようにボーっとしていると、不良ねーちゃんが言った。
「そんじゃそういうわけだからもう寝ようか。キリュウ、もうちょっとあたしの話に付き合ってくれ。
後の3人はシャオの部屋で寝てくれ。シャオがあたし用にってひいてくれてある布団があるから。」
「えっ、シャオちゃんの部屋で寝るの?」
遠藤乎一郎が赤くなった。まあ普通はこういう反応するよな。
「さてと、それでは3人ともおやすみ。今日はいろいろとご苦労だったな。それではまた明日。」
キリュウに言われて、3人で部屋を後にする。話ってあの事か、やっぱり気になるなあ。まあいっか。
「2人ともおやすみ。」
「お疲れ様、おやすみ。」
(おやすみでし。)
あいさつをして階段を下りて行く。途中でキリュウに呼びとめられた。
「盗み聞きになど来ぬようにな。念のために、シャオ殿なみの罠をしかけておくつもりだ。」
くぎを刺されてしまった。あれだけ言っといてさらにそんな事するか?
3人で顔を見合わせて苦笑いしながら、月天様の部屋へ向かった。
部屋の前まで来たとたん、電話が鳴り出した。
それと同時に2階の方から、ズガガッ、という音も聞こえ出した。キリュウだな。
「どうしよう虎賁くん、電話だよ。」
「ああ、分かってる。でもぼうずと月天様は呼べないし、ルーアンは寝てるし、
キリュウはなんかやってるし。というわけでおいらが出よう。受話器外すの頼むぜ。」
「う、うん。」
電話のそばまで来て、遠藤乎一郎に受話器を取ってもらう。
「はい、七梨ですけど。」
「あれ?誰あんた。」
女性の声が聞こえてきた。誰あんたって・・・。
最初にそっちから名乗るのがすじってもんだろうが。
「それを訊きたいのはこっち。そっちこそ誰だよ。」
「無愛想だな。太助はどうしたんだよ、替わってくれ。」
質問に答えようともしない。偉そうにしてんじゃないって。
「ぼうずなら今寝てるよ。そんな事より、あんた誰なんだよ。」
「寝てるぅー?ったく、せっかく電話してやったのに。起こしてきてくれ。」
やはり質問に答える気はなさそうだ。
話を聞いた離珠が月天様を呼ぼうとするが、おいらはあわててそれを止めた。
ここはおいらに任せとけって。
「ダメダメ、試練で疲れてんだから。そんな事より、さっさとあんたが誰か教えてくれよ。
それが礼儀ってもんだろー。」
「試練で疲れてる?なんだそりゃ。」
相変わらず人の話聞いちゃいねーな。こりゃもう、一方的に切るしか・・・
「あ、ちなみにあたしは太助の姉で那奈っていうんだけど、あんた誰?」
やっと名乗りやがった。なんて女だ。
「おいらは虎賁っていうんだ。月天様の星神・・・姉ぇー!?」
「なんだなんだ、テンポがずれてるところはシャオに似てるな。とりあえずよろしくな。」
人の事いえんのか。さっさと名乗れっての。
「そういや、お姉さん、アラスカに行ってるって、前に太助君から聞いたよ。
へえー、国際電話かあ。」
「なんだ、他にも誰かいるのか。だったらそっちに替わってくれよ。どうもあんたとは話しづらい。」
「はいはい、ほらよ。」
遠藤乎一郎に電話を替わる。姉ねえ・・・。ぼうずと全然似てねーな。
「もしもし、替わりました。太助君のお姉さんですね、はじめまして。
僕、太助くんの友達で、遠藤乎一郎と申します。よろしくお願いします。」
「へえー、礼儀正しいねえ。あたしは那奈っていうんだ、よろしく。さっきのやつとは大違いだな。」
大きな声が聞こえてきた。その後、声がこちらに聞こえなくなる。
悪かったな、礼儀正しくなくて。しかもさっきのやつだとー。ちゃんと名前で言えよ。
腹を立てていると、隣にいた離珠が服を引っ張って絵を見せてきた。
「なになに、『離珠には全然聞こえないから、受話器を置いてはなしをして欲しいでし。』だと。
しょーがねえな。おーい、おいら達が一緒に話できるように受話器を置いてくれよ。」
それに気付いた遠藤乎一郎が受話器を置く。別においらはどうでも良かったんだけどな。
「なんだ?あたしに何か話でもあるのか?」
「おいらは別にないけど、離珠が話を聞きたいんだって。あ、離珠っていうのは・・・」
「ああ、いいよ。とにかく離珠ってのがいるんだな。それより、なんかさっきからうるさくないか?」
その声が聞こえてきたとたん、音がやんだ。
「静かになったな・・・。まったく、うちはどうなってんだ?」
「なんでもないよ、気にしないでくれ。」
「さっきから虎賁の返事しかしないぞ。遠藤乎一郎はどうしたんだ。」
別にいいじゃねーか。そんなにおいらの声がいやか?
「あ、えーと、僕は別にはなす事は無いし・・・。」
「情けないやつだな。男ならもうちょっとずうずうしく、そうそう、虎賁みたいに。」
さりげなくけなすなって。
「ま、太助の友達なら、また会うこともあるな。そんときまでにはしっかり・・・、
そうそう、さっき試練とか言ってたけど、なんだ?試練て。」
「雪合戦だよ。」
「雪合戦?まあいいや、シャオは?」
「月天様はぼうずを守ってる。」
「太助を守ってる?まあいいや、よろしくいっといてくれ。じゃあな。」
「あ、おいちょっと。」
一方的に切りそうな電話をあわてて止める。
しっかしアバウトな性格だな。まあいいやで全部済ましてるぞ。
「なんだよ、なんか用があんのか?」
たく、このねーちゃんは・・・。
「そっちが用が合って電話してきたんじゃねーのか?」
「そうだったか?でも太助が寝てるんじゃなあ。」
そうだったか?は、ないだろ。もう少し考えて物言えっての。
「あ、おねーさん、僕が太助君の代わりに聞いときますよ。」
「んー、いや別にいいよ。また電話するから、そんときに言うよ。電話もう切るから、じゃあね。」
電話が切れた。なんだったんだ一体。
「すごいおねーさんだったね。」
「ああ、全然ぼうずと違うかったよな。」
(シャオしゃまによろしく伝えるでし。)
受話器を戻した後しばらく突っ立っていると、
「そうだ、誰かに似てるなーって思ったら、山野辺さんに似てるんだ。」
「なるほど、いえてるな。そっくりだ。」
遠藤乎一郎の意見に賛同する。離珠もこくこくとうなずく。
「さて、納得もしたし、そろそろ寝ようぜ。」
「そうか、虎賁くんは一日中頑張ってたんだよね。早く寝ようか。」
再び月天様の部屋へ向かう。やれやれ、ようやく眠れるぜ。
と思ったら、部屋の前で遠藤乎一郎が立ち止まった。
「何してんだよ、早く入れって。」
「うん、でも・・・。」
「あのなあ、気にしないで早く。おいらも疲れてるんだから。」
「そうだよね、ごめん。シャオちゃん、失礼します。」
月天様はいないっての。ようやく部屋に入った。扉を閉める。
床にはすでに布団がひかれてあった。なるほど、不良ねーちゃん用ね。
隣に小さい布団もあった。大きさからして、これは離珠用か。当たり前だけど、おいら用のはない。
大きなあくびをして入た離珠が目に移った。そして離珠は肩からぴょんと飛び降り、布団へともぐりこむ。
「おやすみ離珠。」
「おやすみ。」
おいら達に手を振ってあいさつする。そして離珠は寝に入った。
「さあて、おいら達も寝ようぜ。」
「ねえ虎賁くん。僕がシャオちゃんの部屋で寝たってこと、みんなには内緒にしといてね。
出雲さんやたかし君になに言われるかわかんないし、それにルーアン先生に嫌われちゃうよ。」
横になりながらこんなことを言ってきた。
「心配するなって。もしばれても、キリュウや不良ねーちゃんと一緒に弁護してやるよ。そんじゃおやすみ。」
「ありがとう、おやすみ。」
ようやく眠る時間が来た。明日が楽しみだぜ。
大きくなったら何しようかな・・・。
その日の朝、おいらは隣のがさがさという音に目覚めた。
『虎賁の大きくなろう大作戦(その後)』に続く。
遠藤乎一郎がもう起きて布団をたたんでいた。離珠も一緒だ。
おいらの視線に気が付いた遠藤乎一郎が話し掛けてくる。
「あっ、起こしちゃってごめんね。シャオちゃんに起こされたもんだから、僕も目が覚めたんだ。
最初はシャオちゃんも驚いていたけど、理由を話したら納得してくれたよ。」
月天様が来たって?それじゃ起きなきゃ。
「おいらももう起きるぜ。というわけでおはようさん、2人とも。」
「そう?それじゃおはよう。」
(おはようでし。)
片づけを終え、遠藤乎一郎の手のひらに乗るおいらと離珠。
ろうかに出ると、朝食の匂いが漂ってきた。まずは洗面所に行って顔を洗い、そしてキッチンへと向かう。
「おはようございます、3人とも。昨日はお疲れ様でしたね。」
キッチンにいたのは月天様にキリュウと不良ねーちゃん。ぼうずはまだ寝てるのか。
それぞれお互いにおはようのあいさつを交わし、全員で朝食を食べ始める。
しかしおいらは異変に気が付いた。といってもおいらだけかもな。
不良ねーちゃんの様子が変なんだ。だいたい予想はつくけど。
丁度隣で食べていたので、小声で訊いてみる。
「なあ、今日はどんな方法でキリュウは起きたんだ?」
すると驚いた様子でこちらを見た。当たりだな。
「すごかったぜ。巨大なカッターナイフが12本も次々と天井から降ってきたんだ。
たく、もうちっと普通に起きられねーのかなあ。」
「キリュウに訊いたら、あれぐらいしないと起きられないんだってさ。」
「でもなあ、あれじゃそのうち死んじまうぜ。」
「それも試練だってさ。すごいよなあ、まったく。」
2人で笑いながらキリュウを見る。黙々とご飯を食べていたが、やがてこちらに気付き、
「どうしたのだ2人とも、私の顔になにかついているのか?」
「いや、別に。」
「そうそう、せっかくルーアン先生がいないんだから、ゆっくり食べなよ。」
そして2人で顔を見合わせてまた笑う。他の4人は首をかしげていたが、再び食事に戻った。
「ところでシャオ殿。今日の予定はどうなっているのだ?」
「今日は買い物に行くつもりです。冷蔵庫が空っぽになっちゃったから、たくさん買わないと。」
「ふむそうか、なら結構だ。」
なんか頼むつもりだったのか?まあいいや。
しばらくしてキッチンのドアが開き、ぼうずが入ってきた。
「あ、みんなおはよう。」
「おはようございます、太助様。昨夜はよくおやすみでしたね。よかったですわ。」
「はは、昨日は相当疲れたもんなあ・・・あれ?なんでよく寝てたって知ってるんだ?」
「1晩中おそばにいてお守りしてたんです。といっても、私も眠ってしまったんですけど・・・。」
それを聞いたぼうずの顔がとたんに赤くなる。
「しゃ、シャオ、もしかして俺の部屋で寝てたのか?」
「もちろんです。」
「良かったな七梨、シャオに守ってもらえてさ。」
不良ねーちゃんの言葉に、ぼうずは赤い顔のままそっちのほうを向く。
「山野辺、またお前か。シャオになにかふきこんだな。」
「いいだろ、別に。そんな事よりさっさと朝食食べろ。冷めちまうぞ。」
しかしぼうずの分は用意されていない。すると月天様が、
「瓠瓜、もういいわよ。」
なんと瓠瓜がいた。口の中から、お盆に乗ったぼうずの分の朝食を取り出す。
「太助様、この通り朝食もお守りいたしましたわ。」
「・・・ありがとう、シャオ。」
なんかすげーな。
「うっわあー、瓠瓜、いつからいたんだ?やっぱりお前ってかわいいよなあー。」
月天様の目の前の瓠瓜を自分の腕に抱き寄せ、ほおずりする不良ねーちゃん。瓠瓜もなんかうれしそうだ。
仲がいいのは分かったから、とりあえず飯食えって。
「シャオ、一日瓠瓜といさせてくんないかなあ。」
「ええ、いいですよ。瓠瓜、翔子さんの迷惑にならないようにするんですよ。」
「ぐえ。」
「迷惑なもんか。あたしは瓠瓜がいるだけでうれしいよー。瓠瓜もそうだろー?」
「ぐえっ。」
お互いに微笑み合う瓠瓜と不良ねーちゃん。あーあ、やってらんねーな、もう。
そんなこんなで朝食も終了。
「さて、4人とも私の部屋へ来るがよい。報酬を授けるぞ。」
「報酬?なんだそりゃ。」
ぼうずがきょとんとした顔で尋ねる。すると月天様が、
「キリュウさんにいろいろ大きくしてもらうんです。試練を手伝ったごほうびですって。」
「へえ、良かったなあ。あ、シャオ。買い物に行くんなら、俺も一緒に行くから、呼んでくれよ。」
「はいっ。」
あっさりとぼうずにばれてしまったが、問題は別に無いみたいだ。
そして、ぼうずは自分の部屋へと戻っていった。
「では行こうか。」
5人(いや、瓠瓜を含めて6人)で一緒にキリュウの部屋へ向かう。
昨日のような厳重な封印は外されていた。当然だけど。
キリュウの部屋は綺麗にされていた。カッターナイフが刺さった後などは、すっかり消されているようだった。
「それでは、報酬を与えるぞ。」
やっと大きくなれるときが来た。くうー、ここまで長かったぜ。
「まずはこの試練の発端となった者、虎賁殿からいくとしようか。
虎賁殿、どれくらいの大きさがいいかな?」
「うーん、キリュウより少し大きいくらい。あ、いや、ぼうずより少し大きいぐらいがいいな。」
「心得た。・・・主殿はどのくらいの大きさなのだ?」
あのな・・・。ま、しゃーねー、ぼうずを呼ぶか。
「乎一郎、七梨を呼んで来てくれ。」
「分かった、じゃあ行ってくる。」
ほどなくしてぼうずがやって来た。なぜか月天様も一緒だ。
「なんだよ虎賁、大きくしてもらうために試練手伝ってたのか?
まあいいけど。じゃキリュウ、俺を見ながら大きくしてくれ。」
結局おいらの真の目的はばれてしまった。今となっちゃ、それもどうでもいい事だよな。
「ではゆくぞ、万象大乱!」
みんなが見守る中、おいらの体がどんどん大きくなる。あっというまにぼうずぐらいの大きさになった。
みんなと比べて、背格好も違和感無しだ。
「おおー!サンキューキリュウ。おいら感激だよ。」
感動の声をあげるおいらに、みんなも感想を述べる。
「かっこいいよ、虎賁くん。小さい時より、そっちのほうがいいんじゃない?」
「なんか威圧感あるなあ。普段は俺の肩に乗ってたりするのにな。」
「よかったわね、虎賁。」
「うーん、なんかの運動部のコーチって感じだなあ。
ま、せっかく大きくなったんだから、色々やってみろよ。」
離珠もおいらの絵を振りながらにっこりする。
まずまずの好印象。ああ、大きいっていいなあ。
「さてと、次は遠藤殿だ。ルーアン殿よりも少し背を高く、だったな。」
「あの、キリュウさん。虎賁くんみたいに体全部を大きくしないでね。」
「もちろんだ。では・・・ルーアン殿はどのくらいの高さだ?」
またか。下調べぐらいしとけってんだ。でもルーアンはまだ寝てるだろうしなあ。
「ちょっと待ってろ。確か写真があったはずなんだ。」
そう言ってぼうずは部屋を出ていった。
写真か。最初からそうすりゃ良かったんじゃねーのか?
「ところでシャオ殿は何か大きくして欲しいものは無いのか?」
「私は別に。それに、昨日いろいろ大きくしてくださったじゃありませんか。それだけで十分ですよ。
あ、でも、また食べ物がなくなりそうになったときにはお願いしますね。」
「うむ、分かった。」
そしてぼうずが写真を持って帰ってきた。
なるほど、みんなが写ってる。これなら分かりやすいな。
「主殿、一応遠藤殿のそばに立っていてくれ。」
「ああ、分かった。しっかし乎一郎らしいよな。ルーアンより少し高くなんて。」
「いいじゃない。これでルーアン先生がどんな反応を示すか・・・。」
ルーアン目当てってのは分かるけどなあ、そんなんであのルーアンがぼうずからこいつにかわるかどうか。
まあ、おいらが心配してもしょうがないか。
「ゆくぞ、万象大乱!」
遠藤乎一郎の格好はそのままに、足、胴などが少しずつ長くなり、背が高くなった状態になった。
「うわー、ありがとう。みんな、どうかな。変じゃないかな。」
やはり感動する、遠藤乎一郎。
「へえー、なかなかかっこいーじゃねーか。」
「遠藤って背が高いと結構しぶいな。」
「うん、ばっちりだよ。これならルーアンも少し見なおすかも。」
「乎一郎さん、素敵ですわ。」
またもや離珠が、遠藤乎一郎の旗を振りながらにっこりする。
こっちも好印象だな。
「さてと、次は離珠殿。どのくらいの大きさがよいのだ?」
すると離珠は、希望の大きさを月天様に伝えたようだ。月天様が代わりに応える。
「私と同じ位の大きさですって。キリュウさん、お願いします。」
「心得た。ではゆくぞ、万象大乱!」
あっさり大きくなった離珠。しかし・・・、
「ぷ、あはははは。なんだよ、それー。」
「頭が大きすぎてすごく変だよ。」
「あはは、離珠ったらおかしいー。」
「なるほど、虎賁にはこんな感じに見えるのか。それにしても・・・、はははは。」
離珠の姿を見て、みんなで大笑いする。無理もない、あのまんま巨大化したんだから。
離珠は半べそをかきながら、キリュウの方を、キッ、とにらむ。
「す、すまぬ離珠殿。少し疲れてな。もう一度やり直す。」
そう言って離珠を元の大きさに戻すキリュウ。
「あのなあ、キリュウ。もうちょっと考えて大きくしろよ。離珠が可哀相だろ。」
「そうそう、バランスよくな。」
離珠をあれだけ笑っときながら、キリュウを責められるわけも無いが、やはりみんなで注意する。
「今度はうまくやる。万象大乱!」
今度は月天様と同じような姿に離珠は大きくなった。うん、成功だな。
離珠は最初呆然としていたが、月天様と目線が同じなのに気付くと、
あわてて月天様の手をとって喜ぶ。
「良かったわね、離珠。大きくなれて。」
「小さい時と全然雰囲気が違うね。」
「ああ、でも離珠なんだよな。」
「うん離珠、結構美人だぜ。シャオみたいに、別の服も来てみろよ。なあ、瓠瓜。」
「ぐえ。」
なんと瓠瓜まで誉めるとは。
しっかしこれが離珠とは、さすがのおいらも驚きだ。
「さて、これで報酬の授与はおしまい。みんな思い思いに過ごされるがよろしかろう。」
「あれ、山野辺は大きくしてもらわないのか?」
「ああ、あたしはあと。キリュウと瓠瓜と、つまり3人だけの時にな。」
へえ、なにを大きくしてもらうんだろう。
少し気になるけど、どうせ教えてくれるわけねーよな。
「そうだ、主殿は何か無いのか?こうなったらついでだ。」
「俺は別にいいよ。しっかり試練を与えてくれりゃね。あ、でも、一つお願いをきいてくれよ。」
「うむ、なんだ?」
「いつも試練のことばっかり考えてないで、たまには遊ぶとかして息ぬきをする事。
きいてくれるかな。」
「主殿・・・。ありがとう、心得た。」
おおー、いい事言うじゃねーか。これでキリュウも少しは柔らかい性格になるかな。
「あ、太助様。お買い物は、離珠と行ってきます。離珠がどうしても、私と2人で行きたいんですって。」
「うんいいよ。それじゃ虎賁、俺と一緒に出かけようか。」
「え、おいらと?ああいいぜ。いろいろ連れてってくれよな。」
さてと、遠藤乎一郎はどうするつもりなのかな。
「キリュウさん、とりあえずルーアン先生だけを大きくしてくれないかな。
僕、ルーアン先生と2人だけで話をしてみる。」
「うむ、分かった。」
これで全員の予定が決まった。さてと、どんな一日になることやら。
身も心も新たに、張り切ってゆこう!