小説「まもって守護月天!」
(乎一郎のある日の休み時間)


『席とは・・・』

「ねーたー様、今の授業よかったでしょう。ほめてほめてー。」
「あのなあ、『たー様国独立戦争』なんてあるわけないだろ。たまには真面目に授業しろよ。」
「そうそう。ほんとルーアン先生って太助中心の授業ばっかりだよな。」
太助君を囲んでの、休み時間の平凡な会話。でも僕はその話に立ったまま加わる。
僕の席は太助君の前のはずなのに・・・。
今はルーアン先生が僕の席に座っているんだ。
「何よー、あたしはたー様のためを思って授業してるんだからねー!」
「でもルーアンさん、どうして私が太助様の敵国側なんですか?
私は太助様をお守りするのが役目なのに・・・。」
「ほんとうだよまったく。作り話で授業なんてするなよ。」
「いーじゃないの。たー様の幸せのためよ。」
「先生、今度は俺も入れてよ。シャオちゃんの親衛隊長とかさ。」
「あ、ずるい。僕もルーアン先生のしもべとか。」
「あのなあ、2人とも。歴史の授業でそんな注文つけてどうすんだよ。」
「別にいいわよ。今度たー様のやられ役としてでも出してあげるわね。
あーん、ルーアンたらなんてやさしいのかしら。」
僕の席でルーアン先生が甲高い声をあげる。
そうだ、そこは僕の席なのに・・・。
授業が終わってすぐ、トイレに行こうと席を立った。
戻ってくるとルーアン先生が座っていた。
席を離れるんじゃなかった。いつもこうなんだ。
僕は席を取られるのが運命なんだ・・・。
いつも通り指をくわえてみていると、
山野辺さんが僕のほうに向かって『こっちに来い』と手を振っている。
なんだろう?山野辺さんが僕に用事なんて珍しいな。
みんなに、山野辺さんに呼ばれていることを告げ、山野辺さんのところへ行く。
すみっこだけど席を取られることがないから少しうらやましいな。そんな事を思っていると、
「おい遠藤。ルーアン先生が座っている席ってお前の席なんだろ。
ゆびくわえて見てないでちゃんと言わなきゃだめじゃねーか。」
「でも、いつものことだし。それにルーアン先生に嫌われたくないし・・・。」
「そんなんだから、いつまでたってもルーアン先生に振り向いてもらえないんだよ。
たまにはがつんと言ってみろ。そうすりゃ、ルーアン先生も遠藤のこと見直すに決まってるぜ。」
「そうかなあ・・・。」
ルーアン先生の性格からして、とてもそうは思えないんだけど。
「絶対見直すって。
『遠藤君て実はすごく強い子だったのね。ルーアン見直しちゃった。』とか言ってさあ・・・。」
「そ、そうか。よし、がんばるぞ!」
「よし、その意気だ!」
山野辺さんに説得されて、みんなのもとへと戻る。よし、頑張って言うぞ。
「乎一郎、山野辺はなんの用事だったんだ?」
「いや、ちょっとね。それより・・・、ルーアン先生!!」
「な、なあに、遠藤君。」
「ルーアン先生が座っているその席は僕の席です!」
「だから?」
「えっ、だから、その・・・。すみません、なんでもないです。」
ちらりと山野辺さんを見ると、再び僕のほうに向かって『こっちに来い』と手を振っている。
うわー、なんか怒ってるよ・・・。
みんなにもう一度告げ、山野辺さんの席へ向かう。すると、
「遠藤、負けてどうすんだよ。たく、弱いやつだな。」
「いいよ、もう。」
「あのなあ、そんなんだからダメなんだよ。そうだ、紀柳もなんか言ってやれよ。」
ふと横を見ると、紀柳ちゃんが窓に腰掛けていた。
そんなとこに座って危ないと思わないのかなあ。
「遠藤殿。試練だ、耐えられよ。」
「・・・・・。」
耐えられよって言われても・・・。あれじゃ耐えてるようには見えないのかなあ。
「紀柳、もうちょっと気のきいたことは言えねーのか?」
「頑張れ、遠藤殿。」
「う、うん。頑張ってみるよ。でも・・・。」
少しぐずっていると、
「紀柳、もう一声。」
「負けるな、遠藤殿。」
「うん。よし、負けないでもう一度言ってみるよ。ありがとう。」
紀柳ちゃんも励ましてくれたし、よし、今度こそちゃんと言うぞ!
そして、再度みんなのところへ戻る。
「乎一郎、紀柳まで加わって何話してたんだ?」
「なんでもないよ。それより・・・、ルーアン先生!!」
「今度は何よ。」
「そこは僕の席です!」
「分かってるわよ。だから?」
「だから、僕に席を替わってください!!」
「やーよ。」
「え、ええっ。どうしてですか?」
「だって、たー様の目の前の席だもん。」
そ、そんな・・・。結局ダメなのか?僕は席を取られたままなのか?
「そんなにがっかりしないでよ。あたしみたいな美人の先生に座ってもらえてるんだから。
遠藤君、素直に喜んどきなさい。」
「そ、そうか。ルーアン先生が僕の席に座ってくださってるんですよね。こりゃ喜ばなきゃ。」
僕が喜んでいると、たかし君と太助君がなんか話をしていた。
「・・・なんか卑屈だな、乎一郎。このままでいいのか、あいつ。なあ、太助・・・。」
「そうだよな。でもまあ、本人が喜んでるんだし・・・。」
しばらくそのまま突っ立っていると、シャオちゃんが口を開いた。
「あの、ルーアンさん。」
「何よ。」
「ルーアンさんが乎一郎さんの席に座ると、どうして乎一郎さんが喜ぶんですか?」
「そりゃああんた、遠藤君の憧れの人があたしだからよ。」
「へえー、そうなんですかあ。」
「そうそう、だからシャオも七梨の席に座ってやると、七梨も喜ぶぞ。」
いつのまにか山野辺さんがいた。多分見てられなくて来たんだろうな。僕はもういいのに。
「おい山野辺、お前さっきから乎一郎に何言ってたんだよ。」
「別にいーじゃねーか。それよりシャオも早く七梨の席に座ってやれよ。」
「でも翔子さん、私は太助様の憧れの人じゃなくて、守護月天なんですけど・・・。」
それを聞いた山野辺さんは、しばらく考えて、
「実はな、シャオ。ちょっとこっちに・・・。」
「はい?」
そう言って、シャオちゃんを自分の席へと連れていった。
あれ?僕に用事じゃなかったのかなあ。
まあいいや、ルーアン先生が僕の席に座ってくださってるんだ。それだけで僕は・・・
「あ、遠藤君。あたしこの席に座って次の授業するから。
遠藤君は教壇にでも立って授業受けてね。」
「えっ、冗談ですよね、先生・・・。」
「本気よ。たまにはこういうのもいいでしょ、気分転換てことで。
ねえ、たー様・・・ってシャオリン!あんたいつの間に!?たー様はどこよー!」
いつのまにかシャオちゃんが太助君の席に座っていた。
あれ?太助君はどこに行ったんだろ。
「太助様は私の席に座っています。翔子さんに言われて席替えをしたんです。」
ほんとだ、シャオちゃんの席に太助君が座ってる。
それにしてもなんで席替えなんか・・・。
「あれ?山野辺の席に座っているのって、紀柳ちゃんじゃないか。」
たかし君の声に山野辺さんの席のほうを見ると、紀柳ちゃんが座っていた。
太助君も紀柳ちゃんも少し赤くなってうつむいてるみたいだけど・・・?
「山野辺さんになんて言われたんだろう・・・。ねえ?たかし君。」
「さあな。待てよ、紀柳ちゃんがあの席に居るってことは、山野辺のやつは・・・」
「さぼり!?ちょっとー、あたしの華麗なる授業をあの子は聞かないつもりなのー!?」
別に紀柳さんは普段サボっているわけじゃないと思うんだけど・・・。でも、
「ほんと許せませんよね。先生、僕は授業をばっちりうけますからね!」
「そう、ありがと。それにたー様が目の前で聞いてくれ・・・ってちょっと、
目の前の席にいるのはシャオリンじゃないのー!!」
「はいっ、ルーアンさん。私が太助様の分までしっかり授業聞きますからね。」
「あのねー、あんたなんかにしっかり聞かれたってしょうがないでしょー。
早くたー様と席替わりなさいよ。」
「ダメです。私は太助様の席をしっかりお守りします。守護月天の名にかけて!」
一体山野辺さんに何言われたんだろう。
でもその山野辺さんはとっくにいなくなってるし・・・。
「シャオちゃん、今度はぜひ俺の席に座ってくれよ。それじゃ。」
そういうと、たかし君は自分の席に戻っていった。
そっか、そろそろ休み時間が終わる。僕も座らなきゃ・・・。
あ、僕の席は教壇だったんだ。立ったままなんてつらいな。
でも、ルーアン先生はいつも立ったまま授業してるんだ。
僕も頑張らなきゃ。そうか、紀柳ちゃんの言う試練てのはこの事だったんじゃ・・・。
「たくしょーがないわね。それじゃ授業はじめるわよ!」
ルーアン先生が座ったまま大きな声で叫ぶ。
少し様子が違う事に戸惑いつつも、みんなは席に着いた。
「えーと、それじゃ遠藤君。その教科書の100ページを読んで頂戴。」
「はいっ。」
教卓の上においてあった教科書を開く。
なんだかみんなから注目されてるみたいで照れちゃうな。
よし、気合を入れて読むぞ!!

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