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「公園へ行くんなら、ここに行ってみなさい。
そんなに遠くないし、並木道がとってもきれいよ。」
と真結美さんがおすすめの場所を教えてくれたの。
実はその前の晩、交さんと一緒に懸命に計画を立ててたの。
だから今更そんな事言わなくても、と思ったんだけど・・・。
でもせっかくだからそこに行ってみることにしたの。
そして悠太君は、
「なんといっても二人が楽しめるのが一番だよ。好きな様に歩いてみたりすれば？
例えば足の向くまま、気の向くまま歩くとか。」
と、言ってくれたわ。
足の向くままなんて、なにか新鮮な感じ。ありがとう、悠太君。
「「それじゃ、行ってきまーす。」」
と、二人で元気良く言って、家を出たの。
笑顔で手を振りながら。もちろん真結美さんと悠太君も手を振って見送ってくれて・・・。
というわけで、今は真結美さんが言ってた、その公園を目指して歩いてるのよ。
「エミリー、あの公園じゃないかな。」
「うん、間違いないわね。」
早速その公園の並木道を探してみる。数分でそれは見つかったわ。
「うわー、きれーい。」
「真結美さんの言った通りだね。こんな綺麗なものが近くにあったなんて、気付かなかったなあ。」
二人して感動の声をあげる。誰が作ったのかは知らないけれど、木の一本一本の枝の形を考えて作られていたわ。
ついそこを歩きたくなるような、そんな感じ。しかも、途中で振り返って見て、また戻ってみたくなったり。
そしてまた引き返したくなったり。本当に不思議な並木道・・・。
「すごいね、エミリー。こんなの、一体誰が考え出したんだろ・・・。」
「ほんと。まるでこの並木道が意志を持っているみたい。
“もっと歩いて”って言ってるような。そんな気がするわ。」
二人一緒に木々に見とれて、何度も往復する。
本当に綺麗だったんだけど、少しおかしなことに気が付いたの。
「どうして皆、一回通っただけで他のところへ行っちゃうのかしら・・・。」
そう、何度も往復しているのは、私と交さんだけ。
他の人たちは、片道だけを通ってどこかへ行ってしまう。
中には、急ぎ足で通りすぎてしまう人もいた。
「この並木道の良さがわからないんだろう。少し可哀相な気がするな。」
交さんが顔を少し曇らせて言ったわ。それにあわせて私も言う。
「本当にそうね。こんなに綺麗なのに・・・。」
そして十回は往復したかしら。まだまだここにいたかったんだけど・・・。
「いつまでもここにいてもしょうがないし、他にも行ってみないか？」
「そうね、また帰りに来る事にしましょう。」
交さんは笑ってそれに賛成してくれたわ。そして並木道を離れる。
次に私達がたどり着いたのは、大きな池。
水はそんなに綺麗ってほどじゃなかったけど、水中を泳ぐお魚さんが見えたの。
その中にとっても大きなのがいて、思わず交さんに訊いてみたわ。
「交さん、あれ、なんていう魚なの？」
「え？うーん、私にはちょっとわからないなあ・・・。」
交さんは少し困ったような顔になったけど、つい次々訊いちゃった。
「じゃあ、あのちっちゃいのは？」
「あれは、うーん・・・。」
「それじゃ、あの細長いのは？」
「えーと・・・。」
そのうちに頭をかきむしり出しちゃったから、あわててとめたの。
せっかく素敵な髪型だったんだからくしゃくしゃになっちゃあねぇ。
「エミリー、そんなにいじめないでくれよ。私には分からないんだから。」
「ごめんなさーい。つい調子に乗っちゃって。」
二人で顔を合わせて笑っていると、バシャッと魚がはねたの。
驚いて交さんにしがみつく。
「びっくりしたあ。」
「はは、あんまり次々訊くから、魚が怒ったんだよ。それじゃ、行こうか。」
「え、ええ。」
ちょっと顔を赤らめながら、池のほとりを歩いてゆく。
池が終わると同時に、公園から出ちゃったわ。
「もうこの公園終わりなの？あんまり広くなかったのね。」
「そうだな。それじゃそろそろ、昨日決めた場所へ向かおう。」
そしてそこへ向かって歩き出す。実はそこは公園じゃなくて海。
かなり遠いんだけど、せっかく一日あるんだし、という事でそこにしたの。だけど・・・。
「なかなかつかないわね。ちょっと遠く過ぎたかな。」
「地図で見たのとはやっぱり違うな。疲れたんじゃないか、エミリー。」
「いいえ、大丈夫よ。頑張って歩きましょ。」
「そうか？つらくなったらいつでも言ってくれよ。私が背負うから。」
「ありがとう。」
やっぱり交さんはやさしいな。でも海を提案したのはあたしなんだから、弱音を吐くわけにはいかないわよね。
そして公園を出てから二時間は歩いたかしら。やっと目の前に砂浜が、そして青い海が広がったわ。
「やっと着いたわね。」
「ああ、お疲れ様。ちょっとそこらへんに座って休もう。」
「そうね、もうくったくた。」
それを聞いた交さんはあたしをひょいっと持ち上げてくれて・・・。
「それじゃあ休憩所まで運ぶよ。エミリーはもう休んでいてくれ。」
「ええっ、そんな。でも甘えちゃおっかな。」
結局交さんは私を背負ってくれて、休憩所に向かう。
そしてそこに二人並んで腰を下ろしたわ。
ザザ―ン・・・と、波の音が何度も聞こえてくる。海の方を見ると、水平線がくっきりと見えたわ。
「海ってすごいね。そう思わないかい？」
「ええ、とても広くて。・・・うまく言えないけど、
なんか大事な事を教えてくれる。そんな気がする・・・。」
しばらくの間、二人そろって、波の音に聞き惚れて、そして海の姿に見とれていたわ。
十分休憩になったところで、あたしは立ち上がったの。
「そろそろ帰りましょ。あんまり遅くなるといけないし。」
「そうか、来るのに三時間もかかったもんな。それにあの並木道も歩きたいし。よし、帰ろう。」
はるばると歩いてきたわりには、三十分とそこにいなかった気がする。でもいいの。
交さんと一緒に座って、海を見たと言うことだけでも、ここに来たかいがあったというものよ。
帰り道、海についていろんな話を交さんとしたわ。これはそのうちの一つ。
「海って、どうしてあんなに広いのかしらね。」
「きっとたくさんの事を海は知っているからじゃないのかな。エミリーはどう思う。」
「前に真結美さんから、すべての生命は海から誕生した、っていうような話を聞かせてもらったの。
多分それだからと思うの。でも交さんの意見も、すごくいいな。」
「ありがとう。でもすべての生命か・・・。ううん、考えさせられるなあ・・・。」
「そうね。あたしには想像もできないな・・・。」
そこでなぜか二人とも考え込んじゃった。だって私達は海から生まれたわけじゃなかったし・・・。
それでも、真結美さんの言っていたのは、すごく説得力がある話だという気がしたわ。
あんなに広くて雄大な海を見たら・・・。
そして三時間後、最初の公園に戻ってきていた。
「ふう、疲れた。並木道を歩くのは、少し休んでからにしましょ。」
「ああ。それじゃあ、あの噴水の前のベンチに座ろう。」
初めに来た時は気付かなかったけど、中央に噴水がある広場が目に入ったわ。
交さんの提案どおり、ベンチに腰を下ろす。
正面に見える噴水が、一定の時間ごとに水の出方が変わるのが、とっても面白かったわ。
「ねえ、どうしてあんなに変わるのかしらね。」
「見ている人をあきさせないためなんだろうけど、あれはちょっとやり過ぎかもなあ・・・。」
一分もしないうちに変わるもんだから、それを見て落ち着けるなんて事はまるでなかったわ。
「海とは大違いね。」
「ははは、いい例えだな。海もそりゃ波は変わるだろうけど、あんなに大きく変わったりはしなかったもんな。」
しばらくそこに座っていると、知らない間にたくさんのはとが、足元に集まってきていたわ。
なにがそんなに気に入ったのかしら。
「はとさん、どうしてこんなに集まったの？」
もちろんはとから答えが返ってくるわけじゃなかったけど、ついなんとなく訊いてみたの。
それにつられて交さんも、
「私達のそばが気に入ったのかい。でも申し訳ないな。いつまでもここにいるわけじゃないんだ。」
なんて言ったの。そうか、並木道を歩くんだったわね。
「そろそろ行きましょう。もう十分休んだわ。」
「そうかい？それじゃ行こうか。」
二人そろって立ち上がると、はとさんが道をあけてくれたわ。少し感動しちゃって、
「ありがとう、はとさん。またね。」
「次はお話ができるといいね。」
交さんといっしょに手を振ってさよならする。そして並木道へ。
この時にはもう、夕焼けで空が真っ赤になっていたわ。
「もうこんな時間なのね。これじゃあんまり歩けないなあ。」
「仕方ないさ、海まで行ったんだから。それじゃ歩こう。」
交さんと手をつないで並木道を歩く。
なぜかしら、あんなに見たはずなのに、あんなに歩いたはずなのに・・・。
「なにか感じが違う。そう思わない？」
「ああ。本当に今朝、ここを歩いたのかなあ・・・。」
確かに飽きる事はなかったわ。もちろんずっと見とれていた。
でも、なにかが違う。そんな気がしたの。
「ひょっとして夕焼けのせいかな。あんなに赤々としてるもんなあ。」
「そうか、そうよね。夕焼けかあ・・・。」
交さんの言う事ももっともという気がしたわ。木々が真っ赤に染まっていたから。
・・・でも、それだけじゃないような。なにかしら、この違和感は・・・。
「朝とは違う感動を与えてくれる、そんな気がするよ。本当にここはいいところだね。」
「でも・・・。まさか、海に行った後だから？」
少し思いついたようにつぶやいてみる。すると交さんもそれに賛同したように、
「そうか、海か。きっとそれだよ。海を見た事で、感じ方が少し変わったんだ。」
と言ったわ。その言葉に、なんとなく納得したようにあたしも言った。
「そうね、多分そうよ。あんなにすごいものを見たんですものね。」
二人で顔を見合わせてうなずく。そして笑いがこみ上げてきたわ。
「うふふ、一日でこんなにすごい体験ができるなんて思わなかったな。」
「はは、ほんとうだね。良い経験になったよ。」
その後、並木道を抜けて帰ろうとしたけど、
「エミリー、もう一往復していかないかい。今日の事をさらに深く覚えるためにも。」
「ええそうね。今日の感動は、この並木道から始まったんだもんね。」
再び並木道に入り、たくさんの木々を見上げながら、その姿の一つ一つを、心に刻み込みながら歩く。
木々たちが、“またいつでもおいで”と言っているようだったわ。
必ずまた交さんとここに来る。そのときは真結美さん達とも一緒に来よう。
一往復歩き終えて、交さんとその並木道に向かって言う。
「「またね。」」
そして事務所へ帰り始めたの。
と、その途中で綺麗なお店が。辺りは結構暗くなってたから店の明かりがとっても目立ってたみたい。
看板に掲げられていたのは“輝光の雫”って文字。なんだかすごいタイトル・・・。
それよりも店頭に飾られている物に興味がいっちゃって、ちょっと寄ってみたくなったの。
「ねえ交さん、この店に入ってみましょ。」
「ええ？でも私達の声は相手には伝わらないけど・・・。」
「言葉で言わなくても笑顔で挨拶すれば大丈夫よ。ほらほら。」
「やれやれ。」
ちょっぴり疲れ気味の交さんを引っ張って店の中へ。
カランカランという素敵な音と共に足を踏み入れる。と、店の主人らしき人が笑顔で出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。」
年は真結美さんと同じくらいに見える男性。私達も笑顔でお辞儀して返す。
するとその人は同じように笑顔でお辞儀してくれて、カウンターで自分の作業に戻った。
ここでちょっと安心。だって、なんやかんや聞かれたらどうしようかと思ったもの。
『それじゃ交さん、早速見てまわりましょ。』
『ああ。それにしてもいい雰囲気の店だね・・・。』
店の中は落ちついた明りのみで照らされていて、デパートみたいにけばけばしてなかったし。
それに置いてある品物がとっても綺麗だったわ・・・。
ショーウィンドウに飾られていた物（実は綺麗な綺麗なお人形さん）に負けないくらい、
いろんな品々が・・・。ここはアンティークショップって所なのかな？
『可愛い・・・。』
アクセサリやら小物やらを見てうっとり。事務所の近くにこんなお店があったなんて。
真結美さんに頼んでまた連れてきてもらおっかな・・・。
『エミリー、これを付けてみて。』
『えっ？』
振りかえると交さんが一つの髪飾りを差し出してくれた。
とっても綺麗な羽飾りがついていて・・・。
『付けてみてって？』
『そ。ほらほら。』
言われるがままにそれを頭に付ける。それと同時に、交さんが鏡をすっと持ってきた。
『自分の姿、どう？』
『・・・なんか照れちゃうな。』
飾りが一つついただけでガラッと雰囲気が変わるものなんだ。
あんまり自分の姿なんて意識してなかったけど、こうして改めて見ると・・・。
何度も頭に手をやって髪飾りを動かしたりした。
『それ気に入った？』
『ええ。』
『それじゃあエミリーにプレゼントするよ。今すぐに買ってくるから。』
『え、ええっ！？』
私は驚いた顔になった。まさかこんな事を言ってくれるなんて思ってもみなかったもの。
『一応エミリーが一通り見て廻った辺りで、密かに選んであったこれを見せたんだ。
これだったらエミリーに似合うんじゃないかなって。
もちろん他の物がいいって言うんなら、それにするけど。』
交さんの言葉に（ちょっと照れながら言ってるところがなんかかわいーな）
店の中をきょろきょろと見まわす。でも、折角交さんが選んでくれた物だし。
それに気に入ったしね。よーし・・・。
『ありがとう、交さん。私これがいいわ。』
『そう？良かった。それじゃあ早速買ってくるね。』
言い残して、交さんはカウンターへと向かって行った。
もちろん喋る事は出来ないから無言のまま、私が言った通り顔で会話してるみたい。
無事に買えた交さんは、その髪飾りを持って帰ってきた。
『ほら、もう一度付けてみてよ。』
『ええ。』
髪飾りを頭に・・・。そして再びお姫様の様な私が・・・なんてね。
『ありがとう、交さん。』
『いやいや。それじゃあ帰ろうか。』
そして店を出る。出際にもちろん笑顔だけで主人に挨拶。
「ありがとうございましたー。」
と、その人も笑顔で返してくれた。
カランカランという心地よい音に送られて店を後にする。
辺りは真っ暗。さすがに遅く成っちゃったなと思いながらも、帰り道をゆっくりと歩く。
「ねえ交さん、どうしてこれ買ってくれたの？」
「たまたま持ち合わせがあったからだよ。なんにもプレゼント無しに帰るのも、と思ってさ。」
「最初は入るのを渋ってたのに？」
「いや、別の物を買うつもりだったんだ。」
「だったらたまたま持ち合わせがあったって訳じゃないじゃない。」
「あっ・・・。いや、その・・・。」
ここで交さんの顔が赤く。ひょっとして私の知らない間に真結美か悠太君から何か言われてたのかな。
でも、なんにしてもプレゼントはとっても嬉しかったわ。ありがとう。
感謝すると同時に、そっと交さんと腕を組む。
「もう一度言っておくわ。交さん、ありがとう。」
「どういたしまして。」
二人で微笑み合って、それから後は星空を見ながら歩く。
しばらくの後に事務所へ到着。そして今日という日が終わる・・・。
ほんとう、今日はとっても楽しかったわ。
真結美さん、いい場所を教えてくれてありがとう。
悠太君も、真結美さんと一緒にいろいろ後ろ立ててくれてありがとう。
そして壮大な海さん、とっても心に響いてくれた・・・。
交さん、またデートしようね。