小説「AIR」(みせるものとみせないもの)


『何をやろうか』

それは心地よい風が吹く、よく晴れた日。
駅のベンチで一緒に座っていたみちるの、ある一言から始まった。
「ねえ国崎往人」
「なんだよ」
「あんたの人形芸、凄いけどもうからないから別なもの考えた方がいいと思うよ」
「なんだと!?」
…いや、事実か。
などと決して口に出してはいけないところだが。
ごんっ
「んにょっ」
「なんてこと言いやがるんだお前は」
「くうう、時間差で殴るなんてひきょうもの〜」
「俺は今までこの人形劇を生業としてきたんだ。
今更そうやすやすと変えられるもんか」
「素直に負けを認めろ〜。人形芸は儲からないんだ〜って」
たしかにそれは事実だ。口に出したくはないが事実だ。しかし……
「もう一度俺の人形劇を見てもそんな事が言えるかな?」
「言えるよ」
「………」
あっさりと断言されてしまった。
「だからあ、つまらないんじゃなくて儲からないってみちるは言ってるの」
それは十分わかってる。
初めてこいつと遠野に人形劇を見せた時、二人は凄く驚いてくれたし喜んでくれた。
しかし改めてそういうことを言われても腹が立つというものだ。
「お金儲けするなら別のものを考えろって言ってんの。
そこらへんが分からないあたり、国崎往人は頭が悪いんだよ」
「………」
ごんっ
「にゅっ」
「一言多い」
「いちいち殴るなっ!」
げしっ
「ぐはぁ!」
みちるの蹴りがみぞおちに返ってきた。
「お前もいちいち蹴るな!」
「しょっくを与えたらいいものが出てくるかもしれないじゃない」
「んな事あるかっ!」
後は殴って蹴って殴って蹴って……いつも通りの争いへと展開する。
それから何分経っただろうか……。
お互いへばってきてぜいぜい言ってると、新たに人が現れた。
「……すっかり仲良しさん」
遠野美凪である。穏やかな笑みをたたえながら、かばんを手に持って。
「これのどこが仲良しに見えるんだ……」
地面にへたり込んで汗だくの俺。
みちるにいたっては地面に仰向けになっている。
「………」
ちらちらと二人の様子を見やる遠野。
「……仲良くかけっこしてたんですね」
どうやら全力疾走していた後の風景に見えるようだ。
「運動はいいことです」
目をきらきらさせて俺達を見つめる。
きっと今彼女の頭の中では、
“あはは〜、みちる待て〜”“へへ〜んだ、みちるを捕まえてみろ〜”
などという、たわいもない鬼ごっこ風景が展開されているに違いない。
……んな場面があってたまるか。
「みなぎぃ〜……」
甘え気味の声を上げながらみちるが体を起こす。
「国崎往人の人形芸って儲かると思う?」
「………?」
首を傾げている遠野。みちるの中ではあの話はまだ続いていたみたいだった。
「でね、みちると美凪でもっと儲かる案を考えてあげようと思うんだよ」
「………」
いきなりはしょるな。
「…了解。一緒に考えましょう」
「よーし、けってーい!」
いきなり結論を出されてしまった。
「待て待て遠野、俺はいいとは言ってないんだが」
「……国崎さん」
止めようとすると、遠野が静かに顔をこちらへ向けた。
「……ウッハウハ」
いきなりなんだ。
「……だから大丈夫です」
「そうそう!大丈夫!」
笑顔だ。二人とも自信ありだ。根拠は無いと思うが…。
ウッハウハ……本当にそんなもの考えつくんだろうか?
それならそれで悪い気はしないが…任せてみるか。
とか思っていると…
「………あ」
遠野が顔をこちらに向けた。早くも何かを考えついたようだ。
「笑いで勝負」
「は?」
「………だめ?」
ちゃんとわかるように説明してくれ。
「なるほどっ!美凪あったまい〜い」
みちるには伝わったようだった。
「………ぽ」
いちいち照れるな。
「ではそれでいきましょう。」
「よーし、みちるがんばるぞ〜!」
何故かしら決定してしまう。
当然俺には今だなんのことやらわからなかった。
「では……ぱんぱかぱーん」
美凪ファンファーレが突如鳴り響く。
「ちるちるあんどゆっきーのとうじょうですー」
たたたっとみちるがこちらへやってきた。
「拍手でお迎えください、ぱちぱちぱち」
遠野の拍手と共に、みちるが俺を立たせる。
そして片手を勢いよく振り上げた。
「ひゃっほーう!よろしくー!!」
「………」
げしっ!
「ぐあっ!」
何も言わずに突っ立っているとみちるの蹴りが入った。
「きちんと挨拶しろゆっきー!」
「……く、こ、こんにちは」
げしっ!
「ぐあぁっっ!」
「ちがーう!!“ひゃっほーう!”だ!!」
「ひゃ、ひゃっほーう……」
げしっ!
「ぐあぁぁっっ!」
「声がちいさーい!!」
「ひゃ、ひゃっほーう!!」
さんざん削られた体力を振り絞って、なんとか挨拶を終えた。
次へ進むという目をしてみちるが更なる言葉を発する。
「いやあ、今日も暑いねえゆっきー」
「夏だからな」
げしっ!
「うぐぁ!」
「当たり前の事言うなー!!もっと気の利いたことは言えないのかー!!」
「…じ、実は今は冬だったんだ」
すると場の空気がさっと凍った。
苦し紛れにとんでもない事を言ってしまったとその場で後悔した。
「………冬?」
遠野が驚愕の表情を浮かべて呟く。
「でも、最近見てる星座は夏のもの……」
天文部である遠野は、速攻嘘を切り崩した。
もっとも、切り崩されて無理のない嘘ではあるが。
「みなぎにバレバレな嘘をつくなー!」
げしっ
「ぐはっ……」
結局みちるの蹴りが入る。
何度目かわからなくなったそれに、とうとう俺はその場にうずくまってしまった。
「ども、失礼しましたー!」
同時にみちるが元気良く挨拶。
「面白かった……ぱちぱちぱち」
遠野は早速拍手をしていた。
何が面白いってんだ……ん?
「……もしかしてどつき漫才か?」
今やっと気づいた。
とっぱちの挨拶、ことごとく入ってくるみちるの蹴り。
なるほど、笑いで勝負って事はそういう事だったのか。
「体力無いねえ、国崎往人。そんなんじゃあ一日できないよ」
一日もこんなもんやってられるか。
というかなんで俺が蹴られなければならないんだ。
「もっと長く見ていたい……」
遠野は期待の目で俺達を見ている。だが俺はため息を吐き出した。
「漫才は結構だがこんな程度じゃあ儲からないと思うぞ。
というか、ことあるごとに蹴りを入れてくんな。俺の身がもたん」
「にゃはは、最初のはつかみだよつかみ。今度は手加減するから」
そんなつかみ冗談じゃない。
「とりあえず、やる気になったで賞」
遠野が笑顔でお米券を二枚取り出してきた。俺とみちるにそれぞれ手渡す。
“やったぁ”とみちるは喜んでいたが、俺は少し冷や汗を流していた。
やる気になったで賞?そうだ、いつのまにか俺は漫才をやる気で居る。
あれだけわけもわからないまま進められたにもかかわらず、だ。
「ぱんぱかぱーん。ちるちるあんどゆっきー再登場です」
前振りもなく美凪ファンファーレがまた鳴り響いた。出番が再びやってきたようだ。
「拍手でお迎えください、ぱちぱちぱち」
またもや拍手される。仕方なく俺は体を立たせた。
「ちるちるでーす!よろしくぅー!!」
「ゆっきーでーす!よろしくぅー!!」
……速攻むなしさがわいてきた。俺は一体何をやってるんだ。
「今日もあついねえ、ゆっきー」
「まあ夏は暑いと決まってるからな。おかげで汗びっしょりだ」
「こんな日には冷たいものでも飲んですきっとしたいねえ」
「俺はアイスが食いてえ」
「アイスじゃないけど、こんなこともあろうかとジュースを用意してきたよ。
さすがちるちるだねっ!」
イマイチかみ合ってない気もするが、会話は滞り無く進んでいる。
ごそごそとポケットをあさってみちるが取り出したものは……
「どろり濃厚ピーチ味〜!」
「………」
「さっ、ゆっきー。ぐいっといこうぐいっと」
パックのそれにぷすりとストローをさすとしきりにそれを勧めてくる。
すっごく虚をつかれてしまった。
まさかここでそんなものが出てこようとは夢にも思わなかった。
「みちる…」
げしっ!
名前を呼ぶと蹴りが返ってきた。
「みちるじゃないっ!ちるちる!!」
「ち、ちるちる、それはどこで手に入れた?」
「闇ブローカーのかみやんから手に入れた」
涼しい顔で答えてきた。
あながち闇と名が付いてもおかしくない代物ではある。
……こんなもん入手するくらいならもっと他のものを入手してこい。
「ほらほらゆっきー、いっきいっき」
「飲めるかっ」
げしっ!
拒否してると再び蹴りが入った。
「折角ちるちるが用意したものが飲めないって言うのかー!!」
酔ったおやじのごとく絡んでくる。
仕方なくストローに口をつけてやった。
すかっ
「???」
どろりっと来るかと思っていたが、来たのは空気だけだった。
吸うとみるみるうちにパックがへこんでゆく……。
「やーいひっかかった〜。既にちるちるが飲んで終わってたんだよ〜だ」
「そういうことかよ……」
パック自体みちるが持ってたので重さとかは分からなかったが。
しかしなんか悔しい。飲まずに居られたのは幸運だと思うのに…。
「ども、失礼しましたー!」
唐突にみちるが終わりを宣言する。慌てて一緒になって頭を下げた。
遠野を見ると、やはりというか目を輝かせていた。
「……可愛い」
なにがだ。
「すっかり慣れたで賞、進呈」
ごそごそとお米券が取り出される。
それを受け取ったみちるは相変わらず喜んでいたが……。
「これで本当に儲かるのか?」
「ばっちり」
遠野が親指と人差し指でお金まーくを作り出す。
彼女だけにしか受けない気が俺はするんだが…。
「これでもう、ウッハウハ!」
「頑張りましたねみちる」
「うんっ!みなぎぃ〜、腹ごしらえして早速商店街へくりだそう〜!」
「ではお弁当を食べましょう」
言いながら、遠野が鞄から弁当の包みを取り出す。
ベンチの上にそれを広げ、二人はいただきますを告げた。
「って俺は無視かいー!!」
「ゆっきーはボケの勉強をしろー!」
ごはんつぶをほっぺたにつけたみちるが、箸でびしっと俺を指す。
「なんで俺がボケなんだー!ツッコミをやらせろー!」
「うー…どうするみなぎ?」
遠野に許可を求めているようだった。なんでそんな必要があるんだ。
「では明日それを試してみることにしましょう。
今日はみちるがツッコミ」
「おーしっ!というわけだ国崎往人ー!!」
俺の要求は後回しって事か。というか明日もやるのか?
それはともかく、腹ごしらえというのは俺もやっておかなければ。
取り分が無くなる前に急いで弁当を食し始める。
太陽は既に真上を過ぎていた。

「さて、いざしゅつじーん!」
張り切って手を振り上げるみちるに続く。
しかし俺はまだまだ不安だった。
あんな漫才が一般受けするかどうかは果たして疑わしい。
更には専門的な目で見られて批判の荒らしを浴びたらどうしよう。
更には変なコンビだという認識をされてしまったらどうしよう。
更にはマダム達の間で変な噂がたってしまったらどうしよう……。
「国崎さん」
ため息をついていると遠野から呼びかけられた。
「やる前から諦めていてはだめで賞」
慰めの言葉かと思いきや、お米券を進呈された。
「もう賞はいいって。それにますます落ち込むだろ」
「落ち込む…のですか?」
「ああ」
「相当自信がおありのようで」
一転して目を輝かせ始めた。どこをどうとればそうなるんだ。
「期待してます。ぱちぱちぱち」
やる前から拍手をされても困るんだが…。
「それにしてもなんで漫才をやろうって思ったんだ?」
「………」
一つ間をおいて、遠野は答える。
「みちるの可愛い姿をみんなに見てもらおうと」
それで儲けにつながるなら大したものだ。
というか間違ってもウッハウハにはならないと思う。
「重要なポイントとして国崎さんの人形劇以外のものですし」
「そりゃそうだけどな」
当初の目的はそれだ。人形劇以外で儲けを考える。
「だから漫才に人形はご法度です」
「………」
言うが早いか、遠野は人形を手に持っていた。
鞄の中にそれをしまいこむ。
「これで誰にも見つかりません」
「なんで取り上げる必要がある」
「使おうと思っても手は届きません。へっちゃらへーです」
「………」
よくわからないが、要は漫才に人形は使うなということだ。
まあべつにそういうのは構わないが…。
「なんでそこまでして人形を隠す必要がある?」
「………」
再び間をおく。
「漫才に傷害はつきものです」
どんな漫才だそれは。
……とかやってるうちに商店街へ到着した。
で、漫才をやる場は……
「ここにしよっ」
みちるが示したのは霧島診療所の駐輪場であった。
俺も大抵ここで人形劇を披露している。まあ無難であろう。
「いざとなったら中で涼める」
「んに?何か言った?」
「いいや、なんでもない」
中に行くのはいわば最終手段だ。
あまりにも体力を消耗しすぎたときに…。
「ぱんぱかぱーん」
突如美凪ファンファーレが鳴り響いた。
「みなさま、たいへん長らくお待たせいたしました。
これより、ちるちる&なぎーのショーをとりおこないます」
……へ?俺は?
「なお、メインゲストのゆっきーは後にもったいぶって登場します。
おたのしみに、おたのしみに」
「………」
そういうことかよ。って、んなもん誰が楽しみにするってんだ。
しかし観客は集まってきた。この商店街はやはり見せ物をするにはもってこいである。
とりあえずは何もせずに居られるな、と思いつつ、
俺は少し離れた場所で二人を見物することにした。
「やっほーい!ちるちるだよー!」
「やっほーい。なぎーだよー……」
「なぎーってばなんか元気ないねえ、どうしたの?」
「最近胃の調子が……あいたたた」
「あっ!偶然にもここってば診療所の前だよ!」
「びっくり。更にここはなぎーの知り合いのお医者さんが経営してるのです。」
「ええっ!?なぎーってばお医者さんの知り合いなの!?」
そういえば遠野と知り合いだとか聖が言ってたな。
「凄いでしょう、えっへん」
「うん、すごいすごい!!凄すぎてちるちる参っちゃう!!」
「なぎーの勝ち。再びえっへん」
「それじゃあなぎー。早速、いきだおれる前に診てもらおう!」
……なんつー会話だ。
ひょっとしたら早々に駆け込むのかと思いきや、遠野が腹を押さえていた手を離した。
「………治った」
「早っ!なぎーってば超人?」
「ひゅーん、ずごごごごご」
「わっ、飛んでる飛んでる!」
もちろん効果音だけである。
「残念。今のは掃除機」
「あっちゃー、見事だまされちゃった」
フェイントってやつか。しっかし掃除機と超人と何の関係があるんだ?
「はい、だまされちゃったで賞」
お米券がちるちるに手渡される。
「わーいやったー!人間一度は騙されてみるもんだねー!」
そんなわけあるか。
「あいたたたた」
「なぎー、今度はどうしたの?」
「腰痛が痛くなりました」
文法が変だぞ。
「大変だー!」
「ついでに頭痛も痛くなりました」
「にょわっ、更に大変だー!」
「はい、心配してくれたで賞」
再びお米券が手渡される。
「うわー!!こんな状況でももらえるなんて……。
やっぱり人の心配はしなくちゃねー!!」
なんのこっちゃ。単に物につられてるだけじゃないのか?
「……以上です」
ぺこりと頭をさげるなぎーとちるちる。
どうやらこれで終わりらしい。
当然ながら観客全員の頭に疑問符が浮かんでいた。
次は俺の出番か、と思いきや…
「ぱんぱかぱーん。それではなぎー&ちるちるのすぺくたくるしょー、第二幕を始めます。
みなさまメモのご用意を」
第二幕とやらが始まってしまった。
それよか何をメモするんだ。
「なぎーでーす」
「ちるちるでーす」
「「二人あわせてなぎちるでーす」」
「今日の献立ははんばぁぐ。みなさんはんばぁぐは好きですか?」
「ちるちるはだーいすき!」
「とっておきのはんばぁぐの作り方をお教えしましょう。
まずはお肉ですが……」
ショーは料理ショーに変わってしまった。
しかも不思議なことに、観客が必死にメモをとっている。
遠野が作り方の説明。みちるが随所で反応、大袈裟なパフォーマンスをとる。
やけにそれらは輝いて見えた。
「なるほど、あらかじめ妙なものを見せてインパクトをつけ、本命を見せるということか」
感心して思わず呟いてしまう。
しかしいつの間にこんな段取りを立てていたのだろう。
昼飯の時だろうか?いや、二人がそんな話をしていた記憶はない。
ここへ来る途中?いや、遠野は俺とずっと話をしていたしな。
となると……漫才が決定する前であろうか?二人に図られていたのかもしれないな。
苦笑混じりに見つめていると、なぎちるの料理ショーは無事に終わりを迎えた。
二人が恭しく頭を下げると、観客からぱちぱちと拍手が起こる。
そしてなんと、上出来な感想と共にお金まで戴いてしまっていた。
相当良かったのだろう。この段階でもらえるとは予想外だった。
「ありがとうございます」
「みんなありがとー!」
すっかり人気者のなぎー&ちるちる。
握手を交わして笑顔いっぱい拍手喝采。
しばらくして、観客達はすべてその場から立ち去っていった。
「ぱんぱかぱーん」
誰も居なくなったところで鳴り響く美凪ファンファーレ。
「それでは本日のメインイベント、ゆっきーの登場ですー」
なぎーに手招きされて場に立つ。
しかし……観客は二人だけだった。
言うまでもない、遠野とみちるだ。
「ってなんで俺がこんな時にー!」
「ほらほらゆっきー、がんばれー」
「だいたいお前も一緒にやるんじゃないのかー!」
「みちるはもういっぱいやったもん。あとはゆっきー一人でがんばりなっ」
酷い言葉を投げかけられた。完全に裏切られた気分だ。
呆然としていると、遠野がふと顔をこちらに向けた。
「…国崎さん、明日にしましょうか」
「それがいいと思う」
疲れに疲れた息を俺は吐き出した。
俺ってなんのためにきたんだか…。
結局中で涼むこともなかった診療所を後にして、駅へ向かって歩き出した。
そういえば……あれだけ人が集まっていたのに何故か霧島聖は姿を見せなかった。
いや、珍しく客が何人か入って行ってたような。
…なるほど、宣伝も兼ねていたのかあれは。
「……なんかすっげえ完敗」
ずーんと落ち込んで、俺は歩を進めていた。

そして駅。がたっとベンチに座ると、みちるが顔を近づけてきた。
相も変わらず元気そうな奴である。
「……なんだよ」
「国崎往人、人形劇やって」
「は?」
「あんたの代わりにみちると美凪頑張ったんだから。
今度は国崎往人が頑張る番だよ」
笑顔で言ってくるみちる。その目は期待に満ちているのが見て取れた。
さらに遠野をみやると、鞄の中から人形をとりだしてくる。
そして静かにこう呟いてきた。
「国崎さんの人形劇は……お金儲けの為よりも何よりも……
私とみちるだけで見たいんです」
「遠野……」
「二人占め、です。国崎さんを合わせて三人占め、です」
期待の瞳と一緒に、穏やかな笑顔を見せてくる。
みちるのそれと同じく……漫才の時とは違った笑顔だった。
あまりの変わり様に、俺はただ苦笑するしかなかった。
「しょうがないな、やってやるよ。……なんか腑に落ちないけど」
小さな笑みで二人に応えながら、遠野から人形を受け取る。
地面にそれを置くと、みちると遠野が傍にしゃがみ込んできた。
たった二人の観客に見守られながら、俺は人形の上に手をかざす。
「さあ、楽しい人形劇の始まりだ……」

<おしまい>


あとがき:とりとめもねえ……。それはともかく、漫才に挑戦です。
相変わらず下手なのはさておき……
美凪とみちる、初めて書きました。難しいです。
とりあえずは雰囲気が伝われば良いかなって気分です。
(佳乃りんと同じく、私にはこれが精一杯)
話の展開がかなりいただけませんが(爆)

2001・6・12