ユメジュウヤ
〜第九夜〜


あたしはこんな夢を見たわ。

それはとても考えさせられる夢だった。

あたしらしくないくらい悩みたくなる、不思議な夢だった。

 

 

 

夢の始まりは、確か昼の暖かい日差しを浴びながらソファーに寝転んでテレビを見たところだったかしら…

テーブルの上に置いたダージリンティーの湯気がちらつきながらも、

あたしは何気ないテレビ番組と分かっていながらそれを見ていたわ。

タイトルは…よく覚えてないわ。

ま、所詮テレビなんてタイトルほど大げさなものなんかやらないしね。

けど内容は確か…『生命の誕生』…だったわね。

どこかのサバンナの鳥の巣にある卵をクローズアップして、

卵の揺れる瞬間をじっと流していたわ。

いつものあたしだったらそんな単調なシーンは嫌いだから、視線をそらしておやつに手を伸ばしてただろうけど、

そのシーンはなぜかあたしの興味をそそったのよね。

あたしは口にクッキーをくわえながら、今にもひびが割れそうな卵を眺めていたわ。

だんだん水気を帯びてくる口元のクッキーに堪えられなくなって、

あたしは軽く歯に力をいれてクッキーを折った瞬間、テレビの卵にひびが割れたの。

奇妙ね…まるであたしがこのドキュメントの全てをつかさどっているディレクターみたい…

そこから二、三回、雛の小さなくちばしが覗けたわ。

生まれたばかりなのに鋭利なくちばし。

それが身を取り巻いている卵の内壁をつつき、徐々に徐々に穴を広げていき、

殻を卵の外へ中へと散らかしてやっと出てきたのは、産毛のボサボサになった小さな雛だった。

かわいらしい鳴き声を上げて何かを訴えている表情は、まさに歓喜の叫びなんでしょうね。

あたしはふと表情を緩めてリモコンを手にとってテレビを消した。

なぜか分からないけど…突然静かに休みたくなったのよね。

リモコンをテーブルの上においてソファーの上で仰向けになり、

あたしは無表情な天井とにらめっこするように上を眺めたその時、

カタンと軽い何かが落ちる音がした。

半身を起こしてみてみると、それはあたしの黒天筒だった。

あたしはそれを手にとって、再び天井を向いて寝転がる。

黒檀独特の光沢が昼の日差しに冴えて見えた。

まるでそれは第二の太陽と形容できるくらいの輝きを放っていた。

ま、言ってみればそうなんだけどね。

太陽の精霊であるあたしの道具なんだから。

『陽天心招来!』

と、一度叫べば筒から光が放たれ、受けた物は命を宿す、あたしと主様しか持つ事が許されない筒。

命を宿した物は、あたしの忠実なる下僕になる―――これまで一体何回命を吹き込んだことかしら…

…あれ?

あたしは黒天筒を手にとって見上げた。

それは全く何も語らない―――そんなことわかってる―――けど、それでもあたしに話して欲しかった。

―――命を吹き込まれた物は物たりえるの?

―――命を吹き込まれた物は最初からあたしの下僕に過ぎないの?

―――あたしが命を吹き込んだものを元に戻したら、その命はどうなるの?

そういえばあたしったら…命を吹き込んでそれを下僕にしている精霊なのに、

そんな大事なこと、今まで全く考えてなかったわね。

思い返してみると吹き込まれた命の表情は、

さっきのテレビに映された雛のように生命感溢れるそれとは少し違っていた気がした。

そりゃ確かに…動けることに嬉しさを持っていたことは表情から分かったけど…それでも…

輝きって言うのかしら…そういうものが根本的に欠けている気がしたわ、あたしが吹き込んだ物の命は。

どうしてこんな違いが出るのかしら…

そもそも“命”って何なのかしら…

確か、たー様が使っている理科の教科書には…

―――全ての物は原子とかいう小さな粒で出来ている―――って書いてあったわね。

生き物も、今あたしが食べているクッキーも…そしてあたしたちもそうなのよね。

けど、小さな粒で出来ているのに、どうして命の有無が生まれるのかしらね。

そしてもう一つ―――物っていうのはその形をしているだけで物たりうるのかしら…

命の定義は、どういうものなのかしら。

生き物って…何かに関与されず自発的に動けるものなのかしら?

…そういえば国語の先生が言ってたわね。

昔ある有名な人が『人間は考える葦である』と言った事があるって。

じゃあ考える事ができるから生き物は生き物となるのかしら?

………そうかもしれないわね。

…動物でさえ知恵をつけてくるほどだし。

だったら、どうして考える事が命を持つ“生きモノ”達にできるのかしら?

そしてあたしが陽天心で命を吹き込んだものは、考える事ができるのかしら?

少なくともあたしはこういう考えをしているから、『命を持つ物』なんでしょうね。

けど、あたしが吹き込む物は…本当に命なのかしら。

再び改めてあたしは黒天筒を見上げた。

『命を吹き込むことのできる筒』

その吹き込まれた命は意味を成すのだろうか?

そしてそれを吹き込むあたしはどういう理由で命を吹き込むのかしら?

その根源的理由って何なのかしら…?

ふと、あたしは命を与える陽天心の光を発する筒の中を覗く。

そこにはあたしが封印されていた―――主様しか覗く事の出来ない小さな太陽があるだけだった。

ところが、急にその太陽があたしにかつてない輝きの光を発した。

あたしはその光で気を失い、ユメの中へと落ちていった。

 

 

 

ユメの中では、あたしがたー様から呼び出されてもう七年の月日が経っていたわ。

ユメのたー様は、あのときの可愛らしい、まだ女の子っぽい要素を残した幼さはすっかりなくなっちゃって、

いつの間にかあたしより背が大きくなっていた。

大柄じゃないけれど、それでも細く引き締まったがっしりとしている身体は惚れ惚れするほど逞しいわ。

ま、もっとも生まれつきって訳じゃなく、あの万難地天である不良娘に鍛えられてたからだけどね。

もはや、かつてあたしが仕えていた歴代の主様と明らかに違う魅力を兼ね備えているたー様。

そう思うのは多分、たー様のあたしたちに対する接し方によるからじゃないかしら。

かつての主様だったら、たー様の年齢であってもあたしの力を使うことを求めたわ。

ま、それが主様を幸運にするあたしの役目だったからね。

けど、たー様はそんな事全然望まなかった。

それはシャオリンにも、キリュウに対してもそうだったわ。

変わらないあの、生まれついた優しい性質ゆえだったかもしれない。

まぁ。もしたー様があたしたちが中国で仕えていた時代に生まれたとしても、

たー様ならきっとそんな事望まなかったでしょうね。

あたしはふとこのユメの過去を想起した。

 

 

 

波乱だらけの中学校生活も終わり、たー様が中学を卒業すると同時に、

あたしは強硬手段を使って高校教師になったわ。

もちろん、常にたー様を見続けるため。

中学と違っていて時間に厳しかったけど、あたしは暇を盗み見てはたー様を見続けていたわ。

勿論、それだけの価値があったからだけど。

そしてきっかけさえあれば陽天心でたー様とシャオリンとの仲を邪魔する…つもりだったんだけど、

それもしばらくしたら、いつの間にかやる気が失せていたわね。

さっきも言ったように、たー様はあの頃から普段の男子には出来そうにない試練を潜り抜けていたから

ま、専門分野こそなかったけれどスポーツ万能だったわ。

そんなだから、目をやらない女子生徒なんてこれといっていなかったわけで、敵が多くなったのよね。

それはあたしにも言えることだったけど、同時にシャオリンの敵でもあったのよ。

女である以上、あたしと同じ考えをする人はやっぱりいるものね。

だから流石にあたしも、これ以上シャオリンを邪魔するのは気が引けたわ。

邪魔する以前に他の女子たちが邪魔してるんだもの。

そしてそれがシャオリンをぐらつかせ、あの娘はいつも不安に駆られていた。

他の女子生徒にたー様を取られることの不安と

興味の対象が自分と違う方向へ行ってしまうことの不安に。

 

 

 

高校に入った当初は高校内で有名なカップルだったんだけど、やっぱり環境の違いとかのせいかしら。

二ヶ月もしないうちにたー様とシャオリンの一緒になる時間が思いっきり少なくなっていたのよね。

美形で、それにスポーツ万能だなんて、こんな条件を満たしているのにもかかわらず

この歳の女子たちで興味を向けない人なんて、まぁいないわね。

だからたー様への女子生徒からのアプローチはかなりのものだったわ。

まるであの愛原とかいう小娘みたいな女子生徒が群を成して、その中にたー様が入っているみたい。

ま、その中に加わってしまえば別に問題はなかったんだけど、

もともと引っ込み思案のシャオリンに限ってその輪に加われなかったからね。

そんなだから、同じクラスにいるにもかかわらず、話す時間は徐々に少なくなってたわ。

加えて高校って中学の時より開放感があるせいか、家での時間も少なくなってたり…

けどあの娘の場合、もう一つ不安の種があったわ。

自分が月の精霊―――守護月天であることの負い目。

あたしもそうだから分かるけどまず、精霊って歳を取らないのよね。

シャオリンもこのことはよく知っていたはずだけど、

改めてそれを再認識したのは、高校を卒業する少し前だったわね。

それはシャオリンが高校生活のアルバムの作成に関わっていたことが事の発端。

三年の月日で変わっていったクラスメートの写真の中で、

一貫して何も変わらなかった唯一の―――シャオリンの写真を誰かが見つけたのが悲劇の始まり。

些細ではあるけど、これが原因でシャオリンに不信感を持つ生徒が何人か出始めたわ。

たー様は庇ったり説得したりしたけど、それでもあまり効果はなかったわね。

まぁそうなるのも当然といえば当然よね。

17、8歳の間であんな童顔娘だもの…しかも全く変わらないし。

それに中学の時とあまりに環境が違うから、『精霊』だなんて口にしても誰も信じないし。

『かわいいかわいい』ってちやほやされてたのは、所詮14、5歳の間での話。

たー様もそうだけど、成長する人間はどんどん意識が変わってくるんだから

興味の対象年齢はどんどん上がっていくのは当然ね。

まぁそんなんだから、あたしに対する人気は中学の先生をやっていた時より比べ物にならなかったけど。

たー様がいない時だったけど…そういう不信感がでてきてからは、

シャオリンは毎日家に早々と帰っては自分の身を呪ってたわね。

『不老不死である精霊ゆえの苦しみ』―――たまにあたしに泣きついてきたこともあったけど。

まぁ泣かなくてもあたしにはシャオリンの苦しみはわかったわ。

今まで仕えてきた主様と違う感情が働いているから、まるで免疫が無いんだし。

だからあの娘は尚更苦しんでたわ―――どうしようもない覆せない壁にぶつかって。

―――成程ね。だからあの頑固じじぃは、シャオリンに『恋』だの『愛』だのを教えなかったわけ…か。

そう思ったけど、あたしはあの頑固じじぃが、この表裏一体の苦しみを教えなかったのは『失敗』だと思ったわ。

あたしは同じ精霊として―――友達としてそう思ったわ。

 

 

 

そしてユメの中の今は…なんだか以前の妬ける位甘ったるい雰囲気は、すっかり変わってしまったわね。

お互いがお互い、遠慮している感じだったわ。

近くで向き合っている割には心にかなりの距離をお互いで置いているようだった。

まるで数年前の暖かさとあたしが起こした騒ぎは幻だったみたいに無くなっていた。

家にはもう、静寂しか残されてなかったわ。

すべての活力が消えた無気力状態―――退屈な日常が続いていた。

その原因はシャオリンが世間体を気にし始めたことで始まった。

精霊であることの負い目―――それによるたー様への不信は、自分の守護月天としての責務―――

―――『主様を不幸から守る』ということに反するという責任感を強く突いていた。

以前のあの娘ならそれに従っただろうけど、今はそれと同時に、譲ることの出来ないたー様への想いがあったしね。

この二つが交錯し、葛藤が生まれ、あの娘は卒業してもいつも悩んでいた。

そしてあの娘が長い混乱の末、下した最初の結論は、自分の想いを優先することだったわ。

あの娘は真面目だから、まして守護月天の責務に背を向けるなんて、結構な覚悟がいったでしょうね。

たー様も薄々そのことは知ってたみたいだけど、かえって知らないほうがよかったわね、それは。

けどその決断は、あの娘には悪いけど甘い決断だと思った。

そしてシャオリンも、そのことを実感するのにはそれほど時間を必要としなかった。

二人とも大学に行くようになったしね。

あたしは流石に大学には講師という形では入れなかったけど、

よく考えたらあたしみたいな大人が行き交うところなんだから、何もコソコソする必要なかったのよね。

けどシャオリンは違ってたわ。甘い決断を引きずっていた時は特にそう。

そりゃそうよね―――あの娘は姿形が中学生のままなんだもの。

あたしから見て、どんな立派な大人モノの服とか着たり化粧とかしても、

あの娘には悪いけど『馬子にも衣装』にさえならなかったわ。

かえって背伸びしてるませた中学生―――そんな風に見えた。

きっと他の人もそう思ったでしょう。

だから人の成長による意識の変化のギャップに追いつこうとしたけどかえって逆効果になってた。

あたしたちが中国で仕えていた時代もそうだったけど、

あまりに歳の離れている相手と付き合うなんて考えられなかったし。

その思想の影響を受けてるこの日本も例外じゃなかったんだから。

そういえば、あの娘とたー様の仲を一緒に邪魔しようとした購買部のおにーさんもそうだったわね。

確かそう言うのを今では『ロリコン』って言うんだったかしら。

世間では白い目で見られるのに、それでも本気だったのよね、あのおにーさんは。

シャオリンも、そしてたー様もそのくらいの意志があれば、もしかしたら大丈夫だったかもしれない。

けどやっぱり―――姿形もそうだけど、あの娘はそう言う意味で弱かった。

だからあの娘は―――今ごろになって、とも思ったけど―――たー様から距離を置いた。

たー様を傷つけないため、そして自分が傷つけるのを避けるため。

当のたー様も何も言わずに理解して距離を置いていたわ。

それなんで、一緒にいられる聖域と化した家ももう、何も意味を成さなくなっていた。

静かな家には、かつての波乱による音の代わりに、シャオリンの葛藤が木霊したわ。

―――私は守護月天。主様を不幸からお守りする月の精霊。

―――けれど、これは…わたしが主様を―――太助様を不幸にしている。

―――どうすれば…どうすれば…

やりきれない緊張は、どこへ行っても解決することは無かったわ。

そんな退屈な日々が淡々と、たー様が亡くなる時を焦らすように過ぎていった。

 

 

 

あたしはそこでユメから覚めたわ。

相変わらずの表情を浮かべる天井。

その天井に向かっていたはずのダージリンティーの湯気は、もう無くなっていた。

ふと、取っ手を持たずにそのカップを手に取る。

あたしは手から身も凍るような冷たさを感じたわ。

ユメの中のシャオリンは、きっとこの凍てついた世界の中で、

やりきれない、解決しない永遠の負のサイクルに苛まれていたんでしょうね。

まぁ、あたしがさっきまでユメで見ていたようなシャオのように苦しむ必然性は全く無いからいいけどね。

何せ、たー様が20歳とかになったら、その時こそ年齢上、たー様とはお似合いになるし。

けれど…あたしがユメのシャオリンみたいな状況に陥ったら…

あたしは…どうなるのかしらね。

…でも…これは一つの未来よね。

今見た夢みたいに…そうなるかもしれないし…もしかしたらたー様は、

シャオリンの守護月天の苦しみを取り除く事ができるのかもしれないし。

そう…たー様は今まであたしが仕えていた―――

いえ、シャオリンやキリュウが仕えていた主様とは一線を画すんだしね。

あたしはそう思いながら、シャオの悲しみに彩られたような、跡形もない味の残るダージリンティーを見つめた。

すると、窓から日が差してきた。

ダージリンティーの水面に、太陽が丸く映されて輝いているのが目に入った。

あたしは少しまぶしくて少し目を細めたけど、

同時にダージリンティーの入ったカップには、温かみが戻った気がした。

あたしはふと、自分が何者であるかを反芻する。

慶幸日天は主様に幸運を授ける太陽の精霊―――それがあたしの責務。

―――そうなの。

あたしは悟った。

あたしの力―――命を与えるということは、幸福を与えることだということに。

―――命を授かるということは、幸せになることなのね、きっと。

だからあたしは―――万物に等しく光を与える太陽の精霊として、そういう力を持っているのね。

…結局、命を与えられた物たちは、あたし達精霊や人間と変わらないのよ。

いえ、それを感じられるのはあたしが物に命を与えて、その時に教えてくれる表情で実感できるだけで

結局あたしがにらめっこしていたこの天井も、あたしが寝転がっていたこのソファーも、

そしてこの温かみが戻っていくダージリンティーも、みんな命を持っているのよ。

…そうか…そんな太陽の精霊として重大な意義を忘れていたから、

命を吹き込んでも何か欠けているような感じがしたのね。

欠けていたのは物の命の輝きではなく、むしろあたしの輝きの方だった。

あたしはそれに改めて気付き、バカらしくなって声をあげて笑った。

―――『笑う門には福来る』ってよく出来た言葉ね。

あたしは尚更可笑しくなって、再び笑った。

 

 

 

いつの間にか、あたしはユメの中に入っていた。

現実と変わらない状態で―――唯一違うのは、ダージリンティーがすっかり温かくなっていているだけだった。

そこであたしが大きな笑い声を上げていたら、気になったシャオリンが入ってきた。

「ルーアンさん、どうしたんですか?」

あたしは笑いを止めてシャオリンの顔を見た。

目は赤くなってしぼんでいて、葛藤に苛まれたためか顔色は悪く、やつれていた。

とてもじゃないけど、いたいたしいくらいの顔だったわ。

「いや、何でも…」

あたしは微笑むと、シャオリンは向かいのソファーに腰を無気力に下ろした。

そして彼方を見つめるように窓の外の曇り空を見上げる。

「今日も…お天気悪いですね…」

悲愴的な死んだような声だったわ。

あたしはこんなシャオリンの声はユメの中でも初めて聞いた。

あたしとシャオリンは―――お互い精霊として敵対しあったけど、

全然私怨なんてなかったから、あたしたちは心の中では友達なの。

だからその友達としての責務を、あたしはしなければいけない気がしたわ。

そんなつもりで、あたしは冷めたダージリンティーに太陽を投じた。

「でもシャオリン…曇り空であっても太陽は昇るわよ。」

その時雲が薄くなったところに太陽の形が覗けた。

シャオリンはそれを目にすると、瞳から涙が零れ出した。

シャオリンの瞳に光が、温かみが戻っていくのが分かった。

シャオリンはどうして涙がでるのかわからず、震える手で涙を拭った。

―――驚いたシャオリン。

―――太陽の奇跡は命―――幸福さえももたらす事ができるのよ。

―――だから昔から太陽の信仰があったんだから。

―――ま、このくらい当然よね。これがあたしの力なんだから。

温かみの戻ったダージリンティーを一気に飲み干すと、苦味は無くなっていた。

代わりにあたしの口の中に幸福の味が残った。

 

 

END


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