ユメジュウヤ
〜第四夜〜
そう、あれはもうできれば思い出したくないような夢でし。
それはシャオしゃまと太助しゃまが二人で一緒に帰ってきたときでした。
このとき離珠は一人でお留守番していたんでしよ。
(おかえりでし〜)
離珠は飛び跳ねながら二人に言ったでし。
「ただいま離珠。」
「ただいま。」
「ニャン」
(にゃん?)
みるとシャオしゃまが手に猫を抱えていたでし。
薄い茶色の毛に輝くような茶色がかかっている、小さくて可愛い猫でし。
小さな、といってもそれはシャオしゃま達を基準に考えていたものであって、離珠にとってはとっても大きかったでしよ。
(シャオしゃま?その猫はなんでしか?)
「あ、この猫?これは翔子さんから預かってきた猫なの。」
「山野辺の家族がしばらく旅行に行くって言うから、俺たちが預かることにしたんだ。」
(そうでしか。)
「“アロ”という名前なの。離珠も一緒に可愛がってね。」
(はいでし)
そういうことで、離珠はしばらくの間“あろ”しゃんという猫と一緒に過ごすことになったでし。
離珠は主にシャオしゃまか太助しゃまと一緒に“あろ”しゃんの面倒をみていたでし。
この“あろ”しゃんはすごく行儀よくて、ご飯の時間はとっても行儀よく食べてたでし。
たまに虎賁しゃんと軒轅しゃんと一緒に食べるんでしが、その時虎賁しゃんがからかって言うんでし。
「あの“アロ”って猫、結構行儀いいじゃないか。いっつも食い散らかす誰かさんにも見習わせてやりてえくらいだな。」
その時は流石に離珠も怒って虎賁しゃんと喧嘩になることがよくあったでし。
ちなみに軒轅しゃんは、よく喧嘩の仲裁役になってたでし。
そのくらいなら、別にいいでし。
でも離珠が一番思い出したくないのは、翔子しゃんが帰ってくるちょっと前の日のことでした。
その日、太助しゃまとシャオしゃまは二人で一緒にお買い物に行くことになったんでし。
「じゃあ離珠、お留守番お願いね。」
(はいでし。)
「ちょっと帰るのが遅くなるかもしれないけど、大丈夫か?」
(大丈夫でし。離珠にまかせるでしよ〜。)
そう言って離珠は胸を力強く叩いて見せた。
「じゃあ行ってきます。」
(言ってらっしゃいでし〜)
ちなみに那奈お姉しゃんは登山にいったでし。
そしてルーアンしゃんは、遅れて太助しゃまとシャオしゃまを追って行ったみたいでし。
相変わらず邪魔するのが好きでしね〜。
やれやれでし。ふー。
あと、キリュウしゃんは何故か家にいなかったでし。
きっと散歩にでも行ったでしね。
ということで、離珠が一人でお留守番を任されることになったでし。
他にいるとしたら、それは“あろ”しゃんくらいでし。
さて、お留守といっても、お城の警護みたいなことをするわけではないでしから、家の中では自由でし。
ということで、早速絵を描くことにしたでし。
このときの離珠には“あーちすとだましい”と“そうさくいよく”というのが心の中で満ちていたでし。
だから、早く絵を描きたかったでしよ。
それで、居間のテーブルに置いてある紙で、いっぱい絵を描こうとしたでし。
以前はテーブルとかに描いていたんでしけど、流石に描きすぎて怒られたことがあったでしから、
シャオしゃまが用意してくれたお絵かき用の紙に描くことにしたんでし。
さて、離珠専用の筆を取り出し、描こうと筆先を紙につけたでし。
「ニャン」
“あろ”しゃんでし。どうやら離珠のいるテーブルの下にいるようでし。
(そうでし。“あろ”しゃんを描くでし。)
そう思って離珠は紙と筆を持ってテーブルの下に降りたでし。
“あろ”しゃんはやっぱりそこにいたでし。
首を丸めて前足で顔を洗っているでし。
(う〜ん、明日は雨でしか?)
なんて思いながら離珠は筆を縦に立てて“あろ”しゃんをみたでし。
いつだったか、太助しゃまと美術の授業を受けた時教わった、体のつくりの比率を測る方法でし。
そして離珠は一通り測った後、改めて筆を紙につけたでし。
まず顔を描くことにしたでし。
厳密には眼でしが・・・・
これは生き物を描く時の鉄則でし。
さて、じっとよく観察しながら描こうとしたでしが、やっぱり太助しゃまと一緒に受けたときとは違うでし。
前は太助しゃまの“くらすめいと”を描いたでしが、あのときのその“くらすめいと”は、じっとしていたでし。
でも“あろ”しゃんはなかなかじっとしてくれないでし。
(“あろ”しゃん、できればじっとしてくだしゃいでし。)
離珠は近くに寄って訴えたでし。すると“あろ”しゃんは離珠に気付いてこっちを向いたでし。
(?じっとしてくれるでしか?)
そう言った後、“あろ”しゃんは離珠を舐めてくれたでし。
(ははは、くしゅぐったいでしよ)
離珠も笑いながらなすがままになっていたでし。すると今度はじっとしてくれたでし。
(わかってくれたでしか。)
今度こそ、と思って紙の所に戻って“あろ”しゃんを描き始めたでし。
でも、それも数分くらいのことで、また動き始めたでし。
今度は“あろ”しゃん、辺りをキョロキョロ見回しているでし。
(?どうしたんでしか?)
離珠も気になって“あろ”しゃんの見る方向をみたでし。
でも特にこれといって何も無かったでしが、視線の先に時計があったでし。
もうおやつの時間でし。
(あ〜、きっとお腹が空いたんでしね。)
そういえば離珠もお腹が空いてきたでし。
(たしかシャオしゃまが戸棚のうえにおやつを用意してくれたでし。)
そして離珠は戸棚のほうへ向かったでし。
おやつを見つけてそれをとろうとしたとき、クシャという音がしたでし。
(?)
振り返ってみると、“あろ”しゃんが離珠の描いた絵を踏んでるでし。
(だめでしよ〜ふんだりしちゃ〜)
離珠は“あろ”しゃんのところへ駆け寄って言ったでし。
すると、すごすごと“あろ”しゃんはどいてくれたでし。やっぱり行儀がいいでしね。
さて改めておやつを取りにいこうとしたその時、“あろ”しゃんの前足が離珠の頭の上に乗っかったでし。
(“あろ”しゃん?)
気付いたときには、離珠は転がっていたでし。
つまり、“あろ”しゃんは前足で離珠を転がしたんでし。
(ころがさないでくだしゃいよ〜)
離珠の頭より二まわり小さいお団子状に丸めた髪の毛に、“あろ”しゃんの手の毛がたくさんついてしまったでし。
離珠はそれを一つ一つ取っていると、今度は“あろ”しゃん、またキョロキョロし始めたでし。
(“あろ”しゃん?どうかしたでしか?)
すると“あろ”しゃん、今度は廊下の方へ駆けて行ったでし。
(“あろ”しゃ〜ん、どこ行くでしか〜?)
離珠は全速力で追いかけるものの、“あろ”しゃんは足が速すぎてなかなか追いつけないでし。
やっと廊下に出た時には、“あろ”しゃんの姿はなかったでし。
(?)
離珠は辺りを見回すと、なんと“あろ”しゃん階段を上っているでし。
(上に行くでしか?)
離珠も急いで階段を上ったでし。
でも離珠は体が小さいから階段の一段一段をじゃんぷで昇るのが精一杯でし。
だからどんどん離されるでし。
(待ってでし〜)
必死に上っているでしけど、無情にも引き離されていったでし。
登りきった時には、流石の離珠も疲れて倒れてしまったでし。
思えばこんなに急いで階段を上ったことはなかったでし。
すると、“あろ”しゃんが戻ってきたでし。
そして“あろ”しゃんは首を上手く動かして、離珠を背中に乗っけてくれたでし。
やっぱり優しいでしね。
そして離珠を背中に乗っけて、今度はドアが開いてある近くの部屋に入っていったでし。
(ん〜何かあるでしか?)
そこは太助しゃまの部屋でした。
相変わらず整理された小奇麗な部屋でし。
だから特にこれといったものはなかったでしが、一体“あろ”しゃん、何でここに入ったでしか?
すると“あろ”しゃん、今度は机に上ったでし。
見るとそこには、少しだけ窓が空いていたでし。
そしてそこに吸い寄せられていくかのように、“あろ”しゃんはその隙間から外に出ようとしたでし。
(あ!だめでしよ外に出ちゃ!)
離珠は止めようとしたでしが、まだ疲れがそんなに取れていなかったので体を満足に動かすことができないでし。
だから止めようとしても止められなかったでし。
“あろ”しゃんは離珠のひきとめも空しく、外に出てしまったでし。
“あろ”しゃんは屋根を上手に歩いて、今度は近くの塀の上を渡ろうとしたでし。
そして“あろ”しゃんは少し身をかがめた後、全身のバネを使って勢い良く跳んだでし。
離珠は振り落とされないようしがみつこうとしたでしが、
まだ疲れが残っていたからでしか、
それともあまりに一瞬の出来事だったからでしか、
弾かれて振り落とされてしまったでし。
離珠はぐるんと空を回転したでし。
お空と地面が交互に入れ替わっていたでし。
そしてどんどん地面に吸い寄せられていくのが分かったでし。
下には以前シャオしゃまと一緒に作ったお花畑が・・・
(落ちるでし―――――!!!)
気がつくと、そこは太助しゃまの部屋にいたでし。
どうやら悪夢を見てうなされて、その時にベッドから落っこちしてしまったようでし。
だからでしね。頭が妙にズキズキするのは。
全ては夢でした。
ということが分かった時は、流石の離珠もほっとしたでし。
ひりひりした額を撫でながら、離珠は安堵の溜め息をついたでし。
ふうと胸をなでおろすと、下でドアが開く音がしたでし。
きっとシャオしゃまと太助しゃまが帰ってきたんでし。
離珠がお迎えに行くでしよ〜
しかし、今思えばあれは悪夢の“予知夢”だったんでしね。
(おかえりでし〜)
離珠は飛び跳ねながら二人に言ったでし。
「ただいま離珠。」
「ただいま。」
「ニャン」
(にゃん?)
みるとシャオしゃまが手に小さな猫を抱えていたでし。
薄い茶色の毛に輝くような茶色がかかっている、小さくて可愛い猫でし。
それは夢で見た“あろ”しゃんでした。
離珠は驚いて声も出なかったでし。
(・・・・・・シャオしゃま?その猫はなんでしか?)
離珠は恐る恐る訊いたでし。
できれば答えは聞きたくなかったでしが・・・
「あ、この猫?これは翔子さんから預かってきた猫なの。」
「山野辺の家族がしばらく旅行に行くって言うから、俺たちが預かることにしたんだ。」
「“アロ”という名前なの。離珠も一緒に可愛がってね。」
このとき、離珠の頭には、少し前に太助しゃまとシャオしゃまと一緒に国語の授業を受けた時の言葉を思い出したでし。
「現実は夢、夢こそ真の現実。」
END
第四夜です。分かると思いますが離珠の夢です。
今回は離珠の夢ということで、離珠らしく(?)とっても可愛い話を作ってみました。
たまには良いのでは。と思ってくれた方は、ありがとうございますです。
でも、いつも語尾に“でし”をつけたりするのは大変でした。
こういう心境小説で、特に離珠みたいな語調に癖をつけるキャラの小説って、意外に難しいですね。
(自分の話し方で、離珠みたいな癖があったとしても、いざ文章にしてみてもなかなか書けないもんですからね。)
ちなみに最後の言葉は、よく覚えてませんけど芥川竜之介さんが言った言葉だと思います。
(すみません、よく調べてませんでした。)
さて、次の第五夜は、ファンの方はお待たせいたしました。
第五夜はキリュウさんの夢です。
乞うご期待!