その日、ルーアンが宿直で学校にいるため、七梨家では太助とシャオの二人きりであった。 「私もいるんだが…」 「お前の出番はナシだ」 とりあえずキリュウを黙らせる。 「太助様…」 「ん?」 「私の部屋に来てくれませんか?」 「あ、あぁ…」 そう、言われて太助はちょっとドキドキしながらシャオの部屋の入り口である襖を開けた。 ぽふっ その瞬間、間に挟まっていた黒板消しが落ちて太助の頭を直撃した。 「わーい、ひっかかった、ひっかかった」 「小学生かぁぁぁぁ!!」 その時だった。 31~34話.さよなら守護月天編“生きるために闘うんじゃない、闘うために生きるんだ” カッ! 「そこまでですじゃ!!」 支天輪が光り輝き、その中から一体の星神が現れた。 「南極寿星…」 その老いた星神をシャオはそう呼んだ。 「シャオリン様…支天輪に帰って頂きますぞ」 「ちょ、ちょっと待って!私はまだ…!」 「問答無用ですじゃ!」 南極寿星は天井から下がっている紐をくいっと引っ張ると、 シャオの足元の床がぱかっと開いてシャオは穴の中へと落ちていった。 「うっ…うわぁぁぁぁぁぁ!!」 バシャーン!と、しばらくして水の中に落ちた音が聞こえてきた。 「ワニーッ!ワニーッ!」 いるのか、中に。 「さらばじゃ小僧…シャオリン様の事は忘れてくれ…」 「あっ、おい…」 太助の止めるのも聞かず南極寿星は消え去り、あとには支天輪だけが残った。 「おらぁ、ここかぁ!!」 ばんっ! その時入り口の襖を蹴り倒してルーアンが登場した。 「やーん、ルーアンったら出番遅れちゃった。たー様どこ?」 太助は倒れた襖の下敷きになっていた。 「早く…どけ…」 「あ」 「さっ、たー様、もうシャオリンの事は忘れてあたしと一緒に…?」 様子がおかしいと思いルーアンが太助の顔を覗き込むと太助は目から一筋の涙を流していた。 「ちょっ、たー様!?確かに原作では泣くシーンだけどこんなSSでなんで泣いてるのよ!?」 「俺は…シャオがいてくれればよかったんだ。この俺とマジに闘ってくれるのはあいつだけだったんだ!」 「た、闘うだけならあたしにだって…」 「シャオじゃなきゃ駄目なんだ!あいつにもっと撲ってほしいんだ! 殴って、蹴って、また俺を笑いながら痛めつけてほしいんだ!」 「変態かあんたは」 「なのになんでだ!なんで俺は大事な人と一緒にいられないんだ!?」 「坊やだからさ」 「いや、そんな答え方されても」 ボンッ! 「何やっとんじゃお前ら」 「じじい!」 そこへ支天輪から南極寿星が再び現れた。 「そんな事より小僧。あれからシャオリン様は支天輪の中で泣いてばかりおられる。 『祐一、私もう笑えないよ』とうわごとのようにつぶやいておられる」 「誰だ祐一って」 「そこでじゃ、貴様に古代中国に来てもらい、そこでシャオリン様の姿を見て、その未練を断ち切ってもらうぞ!」 「有無を言わさずかよ、おいっ!」 そこは見渡す限りの荒野だった。 太助の前をモヒカン頭の悪党どもが通り過ぎていく。 「199X年、世界は核の炎に包まれた。地は裂け、海は枯れ、全ての生物が死に絶えたかに見えた。 だが、人類は絶滅してはいなかったのじゃ!」 「…待て、じーさん。ここ、どう見ても古代中国じゃねえだろ!」 「何を言う、この戦乱の世を見てみろ。まさに古代中国の…」 「さっき199X年って言ったじゃねーか。それに古代中国にモヒカンの悪党はいねぇだろ!」 とにかくこの時代のシャオの元へと向かう太助達。 「この山奥にいるのか?」 「うむ…もうすぐじゃ」 ガラガラガラ… その時後ろから何かが近付いてきた。 「誰か来たぞ!」 「隠れるんじゃ!」 慌てて草むらに隠れる二人。 しばらくすると向こうから台車に乗ったルーアンが通り過ぎていった。 「ルーアン!あいつこんな所で何を!」 「そうか!慶幸日天め、シャオリン様を狙って…」 キキーッ! しばらくして台車の急ブレーキの音が聞こえてきた。 「なんだっ!?」 見つからないように気を付けて後を追う二人。 やがてルーアンとそれを迎え撃つかのように立っているシャオを発見した。 「見つけたわよシャオリン!」 「またあなたですか…」 シャオは呆れた表情でルーアンを見つめていた。 「今日こそはあんたを血の海に沈めてやるわ!あんたこそ小便は済ませた?神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いする準備はOK?」 ルーアンは自信満々の様子でシャオを挑発した。 「シャオリン!覚悟っ!」 ルーアンの放った矢の大群がシャオを襲った! 「ふんっ…」 シャオはそれらを全てかわしたかのように見えた。 だが一本がわずかに頬をかすめ、血がにじんでいた。 「これは…」 シャオは自らの血を見た瞬間、震えだした。 「血…俺の血…いてぇよー!!」 狂ったように叫んだシャオは猛烈な勢いで突進してきた! 「え!?ちょ、ちょっと!」 ルーアンの攻撃をものともせずシャオは接近し、 バコォォォォォン!! 「ぐはぁぁぁ!!」 顔面に叩き込んだパンチでルーアンを簡単に倒してしまった。 「ふー、またやってしまいました。あれほど血は嫌いだってのに…」 落ち着いたシャオリンは血みどろのルーアンを放置して去っていった。 「私はあなたなんかに手こずっている暇はないんですよ」 山奥の中を歩いていくシャオ。その後をつけている太助達。 やがてシャオの前に一人の老婆の姿が現れた。 「誰だ?」 「おぉ、メイホア様じゃ。この時代のシャオリン様の主じゃ」 後ろの太助達には気付かず、シャオはメイホアに話しかけた。 「メイホア様…今日で終わりにしましょう」 「そうじゃな…我らの長き戦い…決着をつけようぞ…」 二人はお互いに構えると、次の瞬間。 シュンッ! 「消えたっ!?」 突然二人の姿が消え、驚く太助。 「違う、消えたのではない」 「なにぃ!?」 ドゥンッ! バスンッ! バコンッ! 何かがぶつかり合う音だけが聞こえてくる。 「嘘だろ…早すぎて見えねぇ…」 あまりの戦いぶりに絶句する太助。 そのうち、二人は地面に降り立ち、向かい合った。 お互いにその体には無数の傷が刻まれている。 「シャオリン…さすがのお主もきつそうじゃな?」 「メイホア様…年老いてなお、その拳には一片の衰えも見えない…恐ろしいお方です」 どうやら若干ではあるがメイホア優勢のもよう。 「ですが…これで終わりです!」 シャオは独特の構えを見せた瞬間、あたりの空気が変わった! 「これは…なんじゃ?何も感じられぬ…これは…無?」 明らかに動揺し、うろたえるメイホア。 そこへシャオの究極の技がメイホアに向け放たれた! 「無想転生!」 ドォォォォォォォォォォォン!!! 「ぬわあああああああああ!!!!」 それを受けたメイホアは絶叫し、全身からおびただしい程の血を流した。 それでいてなお立ち続けているのは凄いとしか言えない。 「か…はは…わらわも…もはやこれまでのようじゃな…」 メイホアは息も絶え絶えに言葉を紡いだ。 「見せてくれ…このメイホアを…倒した女の顔を…」 「メイホア様…」 「見事じゃ…シャオリン…」 そうつぶやくメイホアの顔は非常に満足していた。 「さらばじゃシャオリン…わらわもまた天へ…父上と母上の元へ参ろう…このメイホア、天へ帰るに人の手は借りぬ」 その瞬間、メイホアの体が白く輝きだした。 「我が生涯に一片の悔いなし!!」 ドゴォォォォォォン!! メイホアの全エネルギーが天高く放たれた。 収まったその頃には、メイホアは立ったまま絶命していた。 「巨星落つ、か…」 それを見ていた太助はただ一言そうつぶやいた。 元の時代に帰る際に南極寿星が語り始めた。 「何度も繰り返される強敵(とも)との別れ。シャオリン様はその悲しみを乗り越える度に強くなる…」 「それだけシャオは多くの悲しみを乗り越えてきたというのか…」 「そう…多くの主をその手にかけて築いた実に皮肉な強さじゃ…」 南極寿星は太助を指して告げた。 「貴様に…シャオリン様の心を癒せるか!?ただの人間に過ぎぬお前が!!」 「くっ…」 「もう一度…考えてみるんじゃな…」 現代に帰り、太助に南極寿星が語りかけた。 「さぁ…小僧。シャオリン様に別れを告げてもらう」 南極寿星によって支天輪から再びシャオが姿を現した。 「太助様…」 シャオリンはいつになく、不安な表情で太助を見つめている。 それを見た太助はぽそっと小さくつぶやいた。 「…そんなしけたツラしてんじゃねぇっ!!」 どごすっ! 「はぶっ!?」 いきなり太助はシャオを思いっきりけっ飛ばした! 「こらーっ!小僧何しとるんじゃーっ!!」 「うるさいジジイ!シャオ!かかってこい!!」 「くっ…貴様ぁ…」 起きあがってきたシャオの目は殺意に燃えていた。 「ぶっ殺す!!」 シャオの蹴りが太助を襲う! 「おっと!」 それを紙一重でかわして足払いをかける! 「ふんっ!」 しかしシャオは足払いをかわして太助の頭に回し蹴りを入れる! 「ぐあっ!」 シャオのキックで吹き飛ばされる太助。 そこにシャオが追い討ちをかける! 「ちぃっ!」 だが太助はそれをかわしてカウンターにシャオにガゼルパンチをぶち込む。 「おのれっ…!」 しかしシャオは再び突撃して太助にデンプシーロールを叩き込む。 「ぐああああああっ!!」 まともにくらった太助は壁に叩きつけられた! 「とどめだぁっ!!」 シャオが最後の一撃をくらわせようとしたその時。 「引き分けだっ!」 突然、太助のその一言が戦いを終わらせた。 「へ?」 あっけにとられるシャオ。 「俺は強いだろうが!」 構わず太助は言葉を続ける。 「俺達の戦いはまだ決着がついてないから、俺達はまた戦わなきゃいけないんだ。 お前の主達は死んじまったけど、今日から俺がお前のライバルだ!」 「太助…様?」 「俺はもっと強くなって、またお前と戦うから…その時は決着をつけよう!!」 「バカ…弱い…くせに…」 憎まれ口を叩くシャオの目からは涙が溢れていた。 翌日。 「あれ…?」 学校に行くとたかしや出雲の姿がない。 「ルーアン、あいつらは?」 「あぁ、たー様が行った後に押し掛けてきてうるさいから食べたわ」 「そっか、食べたのか」 「え!?」 ――――――――――――――――――――――――――――――――――― ネタ解説 >「小学生かぁぁぁぁ!!」 うちの学校でもやってました。 >「ワニーッ!ワニーッ!」 エクセルサーガより。どのくらいの深さなんでしょうね。 >太助は倒れた襖の下敷きになっていた。 原作なら南極寿星がつぶされるシーンです。 >あいつにもっと撲ってほしいんだ!殴って、蹴って、 >また俺を笑いながら痛めつけてほしいんだ!」 >「変態かあんたは」 正確に言うとマゾヒストかな(いわんでいいって) >「坊やだからさ」 知りもしないのにガンダムネタ。 使いたかっただけです。 >『祐一、私もう笑えないよ』 これはけっこう前から考えてたネタです。 >「199X年、世界は核の炎に包まれた。 北斗の拳ネタ。もう21世紀なんだよなぁ。 >それに古代中国にモヒカンの悪党はいねぇだろ!」 北斗の拳のザコは何故かモヒカンが多い。 >あんたこそ小便は済ませた?神様にお祈りは? >部屋の隅でガタガタ震えて命乞いする準備はOK?」 面白いセリフなんで使ってみたかったんです。 調べた所「ヘルシング」が元ネタらしいですね。 読んだ事ないけど(じゃ使うなよ) >「血…俺の血…いてぇよー!!」 また北斗の拳よりハート様ネタ。 初期の敵キャラながらかなり濃いキャラですよね。 >「嘘だろ…早すぎて見えねぇ…」 ドラゴンボールもサイヤ人編あたりからは絶対人の目じゃおいつかねぇよな。 >「メイホア様…年老いてなお、その拳には >一片の衰えも見えない…恐ろしいお方です」 なにげに北斗の拳よりラオウのセリフをアレンジ。 >「無想転生!」 北斗の拳、ケンシロウの最終奥義。 今回北斗ネタ多いぞ俺。 >「我が生涯に一片の悔いなし!!」 北斗の拳よりラオウの名台詞。 男なら死ぬ間際にはこう言ってみたいもんです。 >「何度も繰り返される強敵(とも)との別れ。 ここらへん、原作の月天の設定をまもパロ風にアレンジ。 珍しく真面目に語ってみましたが…どう? >太助にデンプシーロールを叩き込む。 えーと…「はじめの一歩」でしたっけ?元ネタ。 これもほとんど読んだ事ないのよー。(だから使うなって) >「俺は強いだろうが!」 ワンピースよりラブーン編のパロディ。 >「バカ…弱い…くせに…」 同じくワンピースよりくいなのセリフ。 後書き この頃に打ち切りが決まったまもパロのラストシリーズ3部作。 まずは「さよなら守護月天編」でした。 ほんのちょっとだけシリアスが入って…いかがでしょう?