『月に願いを・・・』


コンコン
ドアがノックされ、シャオが部屋に入ってきた。
「太助様、具合は大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だよ」
ここは鶴ヶ丘総合病院。
太助は盲腸でここに入院しているのだ。
「太助様が倒れた時は本当にどうしようかと思いました・・・」
「ごめんな、心配かけて・・・・」
二人の間にいい雰囲気が流れたその時!
「たー様ぁぁぁぁぁぁん」
「七梨せんぱぁぁぁぁぁい」
「どわぁぁぁぁぁ!!」
ルーアンと花織が病室に入ってきた。
「たー様!今日はあたしが添い寝してあ・げ・る」
「ずるいですぅ!それはあたしが!」
「お前ら・・・・病室で騒がないでくれ・・・・」
うんざりする太助。そこに医者が検診にやってきた。
「入るよ太助君・・・・おや、見舞いが来てるんだね」
そう言った医者がふとシャオを見て驚いた表情を見せた。
「・・・・・!!」
「どうかしましたか?」
「いや、別に・・・・じゃあ検診と行こうか」

ある夜、一人で退屈なので屋上に行ってみる太助。
「ん・・・あれは・・・」
そこで一人の少女を見つける。
なんと彼女はシャオにそっくりであった。
「あなたは・・・・」
「お・・・俺は七梨太助。君は・・・・」
「私は・・・月守沙織(つきもり さおり)・・・・」
「ここで何してるの?」
「月を見ていたの・・・・」
「きれいな月だね・・・・」

それからというもの、太助は毎晩屋上にやってきては沙織に会っていた。
シャオにそっくりな彼女にはどうも親しみがあるのだ。
当然シャオ達には秘密であったが・・・・

そんなある夜。ルーアンがこっそり太助に会いに病院にやってきた。
この日も太助は屋上で沙織と会っていた。そこへ
「たー様みっけ!!」
「ルーアン!?いや、違うんだぁ!!この子は・・・」
「たー様こんな所で一人で何やってんの?」
「へ?一人?」
辺りを見まわしてみるが、沙織の姿が見あたらない。

翌日、いつものように医者が検診に来た時、
思い切って沙織のことを聞いてみた。
すると、
「・・・・なんで君が彼女のことを知っているんだ?」
「だって俺何回か彼女に会ってますよ、昨日の夜だって・・・・」
「そんなはずはない!彼女は・・・半年前に亡くなってるんだ・・・・」
「!!・・・・嘘でしょお?」
「嘘じゃない。記録にも残ってるし、何より僕は彼女の主治医だったから・・・・」

半年前
「ねぇ、今日は体の調子もいいし、屋上に行ってもいいですか?」
「そうだね。たまにはそういうのもいいだろう」

「綺麗な月・・・・あたし月って大好きなんです。
なんだか心が落ち着いて・・・・」
「そうかい・・・・」
「本当に・・・・月って・・・・綺麗・・・・・・」
「沙織ちゃん?」

「沙織ちゃーーーーーーん!!」


「シャオちゃんが見舞いに来た時は驚いたよ。
彼女が生き返ったのかと思ったよ」
「そんな・・・・」

今日も太助は屋上にやってきた。
やはりそこにはいつものように沙織がいた。
「来てくれたんだ・・・・」

その頃、家にいるシャオ。
「!・・・・呼んでる・・・」

「今日は新月なんだね・・・」
「うん・・・」
今日はどうにも会話が進まない。
なにか遠慮があるようにも見える。
太助は迷った。
(ど、どうしよう・・・)
「太助君」
「な、何?」
いきなり話しかけられ動揺する太助。
「今日で・・・お別れなの・・・」
「え・・・」

「ここは・・・太助様のいる病院・・・?」

シャオはその足で病院へとやってきていた。

「どういうことなの・・・」
「新月の日・・・それが私がここにいられる時間のタイムリミットなの・・・」
「なんで・・・」
「わかってるんでしょ?私はもういない人間だって・・・」
「・・・・・・・」
太助は答えることができなかった・・・
「でも・・・私嬉しかった・・・
こうして・・・太助君に逢えて・・・すごく楽しかった・・・」
「沙織さん・・・」
その時
「太助様!」
「えっ!?」
屋上にシャオが現れた。
「私が呼んだの・・・」
「え!?」
「ごめんね・・・私も本当はわかってた。
あなたにはこの子がいるんだってこと・・・」
「沙織さん・・・」
「でも良かった・・・だって私の想いを受け継いでくれる人がいるんですもの・・・」
そう言うと沙織はシャオの前に歩み寄った。
こうして並ぶと本当にそっくりだ。
「あなたは・・・」
「私は沙織。初めましてだけど・・・もう行かなくちゃいけないの・・・」
「えっ・・・」
「太助君のこと・・・お願いね・・・」
「え!?」
シャオはよくわからないという表情だ。
そして沙織は再び太助に近づく。
「太助君・・・さよならだけど・・・私は空からいつでも見守ってるから・・・」
そう言って沙織は太助の頬に自分の唇を軽く押しつけた。
「さ、さささ沙織さん!?」
「じゃあね・・・」
沙織の体が一瞬光ったかと思うと、次の瞬間いなくなっていた。
「さ・・・沙織さん・・・」



「キリュウ。たー様どこ行ったか知らない?」
「知らぬぞ。私は」
「シャオリンもいないのよ。どこ行ったのかしら。
せっかくたー様が退院したってのに・・・」

太助とシャオはとある墓地に来ていた。
「月守沙織・・・・ここだ・・・」
それは沙織の墓だった。
「沙織さん・・・」
太助とシャオは墓の前で手を合わせた。
(沙織さん・・・俺約束するよ。必ずシャオを幸せにしてみせる・・・)
「・・・行こうか、シャオ」
「はい」
そうして太助は沙織の墓を後にした。

忘れないよ・・・・

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