「カノン・ザ・ゴーストクライシス」

「祐一ぃ、こっちこっちぃ」
「おぃおぃ、そんなはしゃぐなって」
長い冬が過ぎ、街が春めいてきた頃。
祐一と名雪は町外れの公園へとやってきていた。
まぁ早い話がデートである。
「うわぁ、あんなにたくさんあった雪が全部溶けてるよぉ」
「最近暖かくなったからな」
仲睦まじく語り合う二人。
やがて二人は噴水の縁に座って見つめ合う。
「祐一ぃ…」
「名雪…」
二人の唇が近付いていく、その時。

ざっぱぁぁぁぁぁぁん!!

「何やってるんですか祐一さぁぁぁぁん!!」
噴水の中から女の子が飛び出してきた!
「し、栞!?」
現れたのは祐一もよく知る人物、
美坂栞その人であった。
「こんな昼間っから青姦なんて許しませんよっ!」
「青姦とちゃうわぁっ!き、キスしようとしただけだろうが!」
「…ちぇっ、せっかく可愛い下着履いてきたのに…(ぽそっ)」
名雪が小さな声で何かつぶやいたがそれは無視。
「いや、そんなことより何故栞がここに!?
これは名雪エンドだからお前は死んでるはずだぞ!!」
「ふっふっふ、甘いです。激甘です。
この私が死んだくらいで引き下がるとでも?
地獄の底から美坂栞リターンズ、ですっ!」
「なにぃっ!?」
「要するに私をほったらかして幸せそーにイチャイチャしてるのが
むかつくから幽霊になって邪魔してやろーって魂胆ですっ!」
「そうはいかないよ」
そこへ祐一を守るかのように名雪がたちはだかった。
「祐一は私のなんだよ、今更亡霊に出てこられても邪魔なんだよ」
「言いましたね?私を甘く見ると後悔しますよ?」
「うるさいぉっ!」
名雪のキックが狙い違わず栞を襲った!
さすが陸上部だけあって足が綺麗だ。今は関係ないが。
ところが。

すかっ。

「えぇっ!?」
「ふっふっふー。残念でしたー」
名雪のキックは栞の体を素通りしてしまったのだ!
「言ったでしょ?今の私は幽霊なんです!そんな攻撃私には効きませんよっ!」
「くっ…さすがにやるおー」
その時、物陰から突進してきた影が祐一に接近した!
「祐一危ないっ!」
それを察知した名雪が祐一を抱えて倒れ込む。
偶然にも祐一は名雪の胸に顔をうずめてしまったがここでは関係ない。
「うぐぅ…気付かれちゃったよ」
突進してきた影は次第に姿をはっきり現した。
赤いカチューシャと羽リュック。
月宮あゆそのものだった。
「あゆ!?何故お前まで!?」
「うぐぅ、ボクもあれから本体が死んじゃったから幽霊になっちゃったんだよー」
「それが何故突進してくる」
「うぐぅ!えーと…」
「どさくさまぎれに祐一をさらおうったってそうはいかないおー」
「うぐぅ、ばれてるよぉ…」
名雪の殺気のこもった目があゆを射抜いている。
「真琴もいるんだからねっ!」
今度は物陰から現れた真琴が襲いかかってきた!
「無駄だおっ!」
その攻撃も、名雪は全てかわしてみせる。
「真琴!?お前もかっ!?」
「あうーっ!祐一がかまってくれないからあのまま消滅しちゃったじゃないのっ!
悔しいから化けて出てやったんだからねっ!」
祐一をびしっと指さし、真琴は堂々と開き直っている。
「どいつもこいつも…祐一は私のものだって言ってるおー」
名雪は怒りのオーラを放ちながら3人の幽霊を見つめている。
「無理ですよ。名雪さんじゃ幽霊の私達に勝てませんよっ」
対する栞達幽霊ズも自信満々の態度だ。
「ならこれを使うおー!」
名雪は大きな掃除機を取りだした。
どこにあったかなんて質問は却下。
「これで吸い込んでやるおー!」
「ルイ○ジマンションかよっ!?」
思わず祐一のツッコミが入る。
「くらうおっ!」
名雪が掃除機をフルパワーで起動し、あゆと真琴に向ける。
「うぐぅ!?」
「あうーっ!」
あゆと真琴はあっけなく掃除機に吸い込まれてしまった。
「マジ!?」
「さぁ、あとは栞ちゃんだけだおー」
「むぅ、やりますね。でもあなたは一人忘れています!」

ズバッ!

突如空中から降り立った影が掃除機を切り裂き、
中からあゆと真琴が飛び出してきた。
「うぐぅ、助かったよ」
「あうーっ、びっくりした…」
祐一は影の方を見て驚愕した。
「ま…舞!?」
「はちみつくまさん」
「お前まで死んだのか!?」
「最後の魔物倒したら…ぽっくり」
舞と魔物の関係知らないとわかんねーネタだった。
「さぁ、私達4人が相手です!降参するなら今のうちですよっ!」
いつの間にかリーダーっぽくなった栞がびしっと指をさす。
対する名雪は怒りのオーラをさらに強く放っている。
「…こうなったら徹底的に叩きつぶすおー」
どうやら完全に頭にきているらしい名雪。
指をポキポキと鳴らす様はケンシロウのようだ。
「貴様らは長く生きすぎたおー」
いや、死んでるってば。
「名雪さん、覚悟ですっ!」
「うぐぅ!」
「あうーっ!」
栞はあゆと真琴をけしかけ、名雪を攻撃させた。
「だおーーーーっ!!」

ドゴーーンッ!!

「うぐぅぅぅぅぅ!!」
「あうーーーーっ!!」
次の瞬間、名雪のパンチが幽霊のあゆと真琴を
空中高くにぶっ飛ばしていた。
それを見た栞が驚愕する。
「そんなバカな!?幽霊の私達を殴れるはずなんてないです!」
「私部長さんだから本気を出せば幽霊ぶっ飛ばすくらいわけないんだよ」
いや、部長関係ないし。
「くっ、川澄先輩!」
「はちみつくまさん」
今度は舞をけしかけて襲ってくる栞。
「名雪!気を付けろ!舞は強いぞ!!」
「大丈夫、祐一の愛があれば負けないよ」
この状況でのろけるあたりさすが名雪だ。
しかしそこへ舞の剣が容赦なく振り下ろされる!
「名雪ーーーーっ!」

パキーーンッ!!

「ぽ…ぽんぽこたぬきさん…」
なんと名雪は舞の剣をパンチで叩き折ってそのまま
舞を殴り飛ばしてしまった。
「…嘘だろ?」
名雪のあまりに豪快な戦いぶりに絶句する祐一。
その戦いぶりはまさにグラップラーなゆ。
「さぁ、あとはお前だけなんだおー」
3人の幽霊を瞬く間に倒し、残るは親玉のみ。
「くっ…これほどとは…でも私は他の3人とは違いますよ!」
栞はポケットから薬のビンを取り出すとそれを投げつけてきた。
「ドラッグボンバァー!」
「こんなの子供だましだおっ!」
名雪は動じることなくそのビンを叩き割る。
しかし次の瞬間。
「えいっ!」
ビンを割った直後の一瞬の隙をつき、
栞はストールを名雪の頭にかぶせた!
「うにゅっ!?」
ストールで視界を隠された名雪が困惑の声をあげる。
「この勝負頂きました!」
そこへ栞の追い討ち攻撃が襲いかかる!
「アイスクラーシュッ!」

ドゴーーーン!!

栞はポケットから取りだした大量のアイスを
全弾名雪に叩き込んだ。
あまりのアイスの量に名雪は完全に埋まってしまった。
…いくつアイス持ってたんだよ。
「私の勝ちですね…さぁ祐一さん、今からでも私とドラマチックなロマンスを…」
「だおーーーっ!!」

バァンッ!!

「うそぉっ!?」
アイスの壁を内側からぶち破り、名雪はあっという間に復活した。
「そんな!あれで生きてるなんて!」
「もう許さないおっ!地獄で後悔するおー!!」

バキィッ!!

名雪のパンチは栞のボディーにモロに入った。
「くはっ…なんて重いパンチなの…です」
「私の拳には…祐一への愛がこもってる分だけ重いんだよ」
「うぅ、そんな事言う人嫌いです…」

がくっ

こうして最後に残った栞も名雪の前に撃沈した。
「…戦いは終わったよ…」
「そ、そうか…」
途中からないがしろだった気がする祐一。
その光景にただひたすら呆然としていた。
「さぁ、帰ろうか」
「うん」
「そうはいきませんよっ!」
と、そこでたった今倒したばかりの栞が再び立ちはだかった!
「うぐぅ!」
「あうっ!」
「はちみつくまさん…」
その他の幽霊3人も同じくして復活する。
「まだわかってないようですね!私達は不死身ですっ!
だってもう死んでますからねっ!」
「くっ…しつこい奴らだおー」
再びオーラを放つ名雪。
この戦いに終止符はないのか!?

「あらあら大変ですね」
「秋子さん!?」
と、そこへいきなり秋子さんが現れた。
「帰ってくるのが遅いから気になって来てみれば…」
「す、すいません、何か取り込んでて…」
「お任せください。私が終わらせます」
「え?」
「実は私、お仕事は除霊師なんです。
こう見えてけっこう稼いでるんですよ」注:Key非公認
「え!?そうなんですか!?」
「ええ、家は代々伝わる除霊師の家系で。
だから名雪が幽霊を殴ったり出来るんですよ」
「あ、あれそうだったんですか!?」
「うふふ。そういうわけであとは私に任せてください。
名雪、下がりなさい」
秋子さんは名雪を下がらせ、栞達の前に立ちはだかった。
「秋子さん…私はあなた個人には何の恨みもありません。
このまま引き下がってくだされば危害は加えませんよ」
「うふふ、駄目ですよ。私の娘と祐一さんのためですから。
栞ちゃん達こそ今なら見逃してあげますよ」
「やむをえません…強行突破です!」
栞達4人の幽霊が襲いかかってきた!
「あらあら…困りましたね」
とか言いながら全然困った様子を見せない秋子さんは
おもむろに空っぽのビンを取りだして地面に置いた。
「あれは!お母さんの必殺技だおっ!」
名雪は緊張のあまり興奮している。
「はぁっ!」
秋子さんの手から放たれた波動が栞達を包み込んだ!
「きゃっ!?う、動けないですっ!」
波動に巻き込まれた栞達は身動きを封じられた。
「えいっ!」
そのまま秋子さんは波動を動かしてビンの中へと注ぎ込んだ!
「きゃーっ!」
「うぐぅーっ!」
「あうーーーっ!」
「ぽ、ぽんぽこ…たぬ…」
舞がセリフを最後まで言う事なく、
4人の幽霊はビンの中へと封印された。
「お仕事完了、ですっ♪」
「すげぇ…」
「さすがだお…お母さん、一族最強の除霊師と言われるだけあるよ…」
唖然とする祐一と感動すらしている名雪。
いや、なんていうか…これ、まんま魔封波じゃん。
秋子さんはどこぞのナメック星人でも封印したのか。
「さぁ、帰りましょうか」
「は、はい…すいません、なんか手間取らせちゃって」
「いいんですよ、おかげで材料も手に入りましたし」
材料!?何の!?
ジャムか、ジャムなのか!?
「お母さん、今日のごはんは何なの?」
「今日は親子丼にしようと思うの」
「え、じゃあ私とお母さんで祐一を…」
「あら、それもいいかしら?」
「お母さん!」
「うふふ、冗談よ」
のんきに会話する親子の背中を見ながら
祐一は深く考えるのはよそうと思った。



後書き
名雪以外のメンバーが幽霊になって邪魔しに来る。
ただそれだけのネタがこんなになるとは…
秋子さんの魔封波は好きなネタなんですけどね(笑)
相変わらずバカな話です。あんまり深く考えちゃ駄目ですよ。

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