その日、夕飯の材料を買いにシャオが一人で学校から帰ろうとしていると、
「なあ、今の聞いたか」
コンコン
「おお、なかなかいい雰囲気じゃないかあの二人。でもよくこんなところ知ってたよな翔子は」
後ろから翔子が話しかけてきた。
「おーい、シャオ」
「どうしたんですか翔子さん」
「いいこと聞いたからシャオに教えてやろうと思ってさ」
「いいことってなんですか?」
翔子の言葉にシャオは不思議そうな顔をする。
「実はさ、………というわけなんだ」
「そんなところがあるんですか」
「そう、だからさ七梨と二人で行ってみたらいいと思うんだ。七梨のやつも絶対喜ぶと思うからさ」
翔子がそういうとシャオは少し頬を赤らめて、
「太助様と二人で…じゃあそうします。翔子さん、ありがとうございます」
「お礼なんていいって。あ、それとこのことは誰にも言っちゃだめだからな。
七梨にも言わないでおいて後でびっくりさせてやれよ」
「はーい」
うれしそうに帰っていくシャオを見送りながら、翔子は次の行動を考えていた。
「さてと、後はまわりの連中をどうするかだよなぁ。
あいつらの場合言ってもいないのに出てくるからたちわるいし。
那奈ねえとキリュウにも手伝ってもらおうかな」
そして翔子は(多分)キリュウのいる教室へと足を運んだ。
「よく聞こえなかったけど、山野辺さんシャオちゃんになんて言ってたんだろうね」
「なんにしろ七梨先輩とシャオ先輩を二人っきりにするわけにはいきませんよ」
たまたま靴箱のところで出会ったたかし、乎一郎と花織の三人は、
翔子がシャオと話しているところのちょうど裏側にいたのだった。
話の途中からだったため内容はよくわからなかったが、
「太助様と二人で」というフレーズにたかしと花織の二人が反応したのだった。
「よし、明日は学校休みだし家に帰ってからみんなで太助のうちに行こうぜ!」
「そうしましょう、野村先輩!」
「僕もルーアン先生に会いにいこーっと」
翔子の心配する“まわりの連中”1〜3号は、こうして翔子の予想どおりの行動をとることになったのだった。
ところかわって七梨家(pm5:17)。
シャオが夕飯の材料をテーブルに並べたところ、太助が学校から帰ってきた。
「ただいまー」
「太助様おかえりなさい。あのね、さっき翔子さんに聞いたんですけど…」
そこまで言ったところで、さきほど翔子が言っていたことを思いだして、
「えーっと、やっぱりひみつです。うん、夕飯の用意をしなくっちゃ」
そう言って台所のほうに行ってしまった。それを見て少し呆然とする太助。
「う〜んひみつってなんだろう。山野辺のやつがまたなにかシャオにふきこんだんだろうな」
とそこへ、
ピンポーン
「はーい。いまでまーす」
チャイムが鳴ったので太助が玄関のドアを開けると、そこにはたかしたち3人と出雲の計4人が立っていた。
「よお、太助。あそびにきたぜ」
「今日はいっぱい遊びましょうね、先輩」
シャオと太助を二人っきりにさせないために七梨家にのりこんできた2人は、さっそく家の中に入っていった。
「あらみなさん、いらっしゃい。どうしたんですかみんなで」
台所からシャオが出てきたので、出雲も前に出て、
「実は、シャオさんに母が作ったくりようかんを持っていってあげようと思いまして」
「まあ、ありがとうございます出雲さん」
そこに、太助がシャオと出雲の間に割ってはいり、くりようかんが入った袋を受け取る。
「それはどうもありがとうな、出雲」
「私はシャオさんにわたしたんですよ」
そのまま二人はしばしの間にらみ合っていた。
「どうやら少し遅かったようだな」
「ああ、でもなんでばれたんだろうなぁ」
「翔子殿がしっかりしてなかったからではないのか」
「まあ、とりあえずはしょうがないんじゃないかな。さて、あたしたちもいこうか」
太助の家の前の道から玄関先の光景を見ていた翔子とキリュウの2人は、
そう言って自分達も玄関へ歩いていった。
七梨家では、あの後帰ってきたルーアンを加えての総勢10人でのにぎやかな食事がおわり、
台所でシャオが後片付けをしているところだった。そこに翔子が入ってきて食器を手にとる。
「あたしも後片付け手伝うよ。シャオばっかりにやらせちゃ悪いからな」
「ありがとうございます、翔子さん」
「そういえばあそこにはいつ行くんだ?今日にでもさっそくいったらいいと思うけど」
翔子は靴箱で話したことをシャオにたずねるが、シャオは、
「今日はみんなが来てるからまた今度にしようと思うんですけど…」
「そんなこと言ってたら行く機会がなくなるって。
あいつらの相手はあたし達でするからシャオは七梨といってきな」
翔子のその言葉にシャオはすこし考えてから、
「じゃあ、後片付けが全部終わったらそうします。よしっはやく片付けなくっちゃ」
翔子はそのまま廊下に出た。廊下には那奈とキリュウが待っていた。那奈は手に何か持っている。
「こっちのほうはOKだよ、翔子」
「よし、じゃあこっちも行動開始しようか。キリュウもたのんだぞ」
「まあ、こういうのもたまにはいいだろう」
そして3人は居間に入っていった。
居間ではただいまゲームの真っ最中であった。
「よっしゃー!仕返しマスに止まったぜ。花織ちゃん15マス戻ってくれー!」
「あー先輩ひどーい。どうせ戻すんならルーアン先生を戻してくださいよー」
「なんてこと言うのよ。だいいちあんたのほうが前にいるんだからあんたを戻すのが当たり前じゃないの」
というふうに盛り上がっていたところに、那奈が一冊のアルバムを持って入ってきた。
「さっき部屋からこんなものが出てきたんだけどさー」
「あ、それは私達の中学の卒業アルバムじゃないですか。久しぶりに見ましたよ」
出雲がそれを見てなつかしげに言った。そのまま、なしくずしにそのアルバムをみんなで見ることになった。
「これが中学校時代の出雲かー。なんか今とあんま変わってないよなぁ」
「七梨先輩のお姉さんもかわいいですねえ」
みんなで盛り上がっていると、翔子が太助に近づいて、
「おい七梨、シャオがよんでたぜ」
「えっ、シャオが?」
「ああ、部屋でまってるみたいだぜ。はやくいってやれよ」
翔子の言葉にうながされて太助は居間を出ていったが、
みんなアルバムのほうに夢中になっていてそれに気づいたものはいなかった。
「シャオー、いるかー」
太助が廊下に出てシャオの部屋の扉をたたくと、中からシャオの声が聞こえてきた。
「太助様ですか、ちょっとまってください」
それから1,2秒でシャオが出てきた。
「山野辺がシャオがよんでるっていってたけど…」
「えっとですね、来々、軒轅」
そういって軒轅を呼び出して乗る。
「太助様、乗ってください」
「えっ、どこにいくんだ」
「ひみつです」
秘密といわれると気になるが太助は軒轅に乗った。そこへ、
「あー たー様!シャオリンとどこに行くのよ!」
たまたまトイレに行こうとしていたルーアンに見つかってしまい、その声を聞いて居間からみんなドヤドヤとでてきた。
そのとき、玄関のドアが開いてキリュウがあらわれた。
「シャオ殿、さあはやく」
「は、はい!」
キリュウにうながされてシャオは外に出ていく。
「ちょっとまちなさいよ!」
「万象大乱」
シャオを追おうとしたルーアンに、キリュウが巨大化したくりようかんを落とす。
そのため、身動きがとれなくなるルーアン。
「なあ、これは食べ物がもったいないんじゃないか?」
「いや、あとでルーアン殿が食べてくれるだろう」
翔子はすこしあきれてルーアンをみる。
「まあーこれであとは何とかなるだろうな」
「そうだな」
「ちょっとー!これはやくどけなさいよー!」
その他の人たちも何がおこったかわからずに呆然と玄関前に立ち尽くしていた。
「なあシャオ、どこまでいくんだ?」
「もうすぐですよ、太助様」
シャオと太助の二人は軒轅にのっていた。かれこれもう10分ぐらい飛んでいる。
すると、シャオがある一点をゆびさした。そこは森の中だった。
「太助様、ここです」
「ここ?こんなところに何が…」
そして、軒轅がその森の中の川岸に着地する。そしてそこに広がる光景に太助は目を見張った。
「ほ、蛍…」
そこには数え切れないほどの蛍がとびかっていた。空に瞬く星のような様子でなんだか幻想的な感じがした。
「きれいだなー…」
「太助様、気に入ってくれましたか」
思わず見とれているとシャオが声をかけてきた。
「シャオはこれを俺に見せたかったんだな」
「はい。翔子さんからこの話を聞いて太助様と二人で見てみたいと思ったんです。
太助様が喜んでくれたらいいなって思って」
「ありがとう、シャオ。俺、こんなにたくさんの蛍を見たのははじめてだよ」
「私もこんなに多く見たことなかったです」
二人はそのまま、じっと座って夜空に飛び交う蛍たちを見つづけていた。
空の上には満月とそして星々たちがその光の祭典をみつめていた。
「ここはかなりの穴場だって、ここの事教えてくれた親戚のおばさん言ってたもんな」
「うん、きれいだな…」
物陰から様子をうかがっていた翔子達3人もその光景をゆっくりと見ていた。
一方そのころ七梨家では、
「くっそー!シャオちゃーん!」
「キリュウったら、帰ったら覚えてなさいよ!」
「七梨せんぱーい!」
キリュウの万象大乱で動けなくされた人達がむなしく叫んでいた。