「まもって守護月天」《絶守冥天推参編+知教空天推参編》

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【第伍話 変わらぬ時を―確認の朝〜自問自答の昼前―】

 

七梨家はいつもと変わらぬ朝を迎えた。

小鳥のさえずりが聞こえ、木々の葉が擦れ合う音がする。

確かに太助はいつもと変わらぬ朝を迎えた。

まだぼんやりとする頭に命令し、ベッドから重たい足を下ろしてドアを開け――そして閉め――、階段を下り、顔を洗い、

うがいをする。

そしてまた重たい足を自室へと向け、階段を上り、ドアを開け――そして閉めて――、クローゼットを開け、制服を取り出

す。

この時、着替えてから洗面所へと行けばいいと思うのだが、もう癖になってしまっているので、努力してもなかなか直らな

い。(注:作者の勝手な設定です)

まあ、覚醒しきっていない頭で、そこまで考えることは困難なので仕方ないとは思うのだが・・・・・・

やはりいつもと変わらぬ朝。

春の匂いがする――いまは春だ――中、太助はそれを再確認した。

が、ひとりだけいつもと変わった朝を迎えた者がいた。

 

 

 

「おっキリュウ、おはよう」

太助は、台所のドアノブに手をかけ、いままさにそこに入ろうとしているキリュウに声をかけた。

「・・・・・・ああ主殿、おはよう」

キリュウはそう言うと、ドアを開け、台所へと入っていった。

「キリュウは相変わらずだな」

太助はそうつぶやくと、いまキリュウが入っていったドアをもういちど開け、自分も台所へと入っていった。

 

 

太助が台所に入ると、そこにはすでに朝食をテーブルの上に並べているシャオと、テーブルに左ほおをくっつけて眠ってい

るヨウメイ、椅子に座っている那奈に、ついさっき台所へ入っていったキリュウが――椅子に座って――いた。

「みんなおはよう」

太助はいつもと変わらぬ朝の挨拶をした。

「太助様、おはようございます」

「あ、おはよー太助」

「んー・・・・・・おはようございます、主様・・・・・・むにゃむにゃ・・・・・・」

太助には、ヨウメイが寝ているのか起きているのかがわかりかねたが、とりあえずそれを頭のすみに押しやり、いつもの椅

子に座り、次の言葉を放った。

「ルーアンとルーシェは?」

「ルーアンはあたしが起きた後にすぐ起きたからもうそろそろ来るんじゃないか? まー、あいつは起きるまでに時間がか

 かるからな」(注:作者の勝手な設定です)

一方、ヨウメイは那奈とは正反対に、寝惚けた口調で言ってきた。

「むにゃ・・・・・・ルーシェさんは、たぶん・・・・・・起きてるんじゃないでしょうか? ・・・・・・起きた時に、足音が・・・・・・しまし

 たから・・・・・・」(耳いいな、ヨウメイ 注:作者の勝手な設定及び想像であり判断(?)です)

「今日は一段と眠そうだな、ヨウメイ」

「あ、いえ・・・・・・別にそうでも、ないですよ・・・・・・」

ヨウメイは少し、なにかをのどの奥に詰まらせたようなような口調で言った。

それを聞いた太助は、ふと、あることを思い出し、しばし考え――

「・・・・・・ヨウメイ、深夜の騒音はおまえのしわざだな・・・・・・?」

「う、な、なんの、ことです・・・・・・か?」

ヨウメイの様子が明らかに変わった。

太助は確信し、ののしるように言う

「深夜2時頃の騒音だよ! あれは確かおまえら――もちろんキリュウとヨウメイ――の部屋の方から聞こえてきたぞ!!」

「さ、さあ、なんのことで・・・・・・しょう、か・・・・・・」

明らかにヨウメイは嘘をついている。

太助はそう胸中で、もう一度確信した。

ヨウメイはあくまでしらをきるつもりだったのだろうが、眠気のせいか――いつもの冷静さがまるでない。

それだけでなく、――おそらくこれも極度(?)の眠気のせいだろうが――話す言葉が途切れ途切れになっている。

「まあいいや、ところでみんなは気づかなかったのか? 深夜の騒音」

「私は・・・・・・おぼえてません、ぐっすり眠っちゃってたみたいです」

シャオはほんの少しだけすまなそうな感じを交えて言った。

「あたしも知らないな。ま、もうさすがに馴れたって感じかな。日常が非日常みたいなもんだから」

那奈の言葉を聞いて、太助は苦笑すると、深夜の件で一番被害が出ていそうな人物に聞いてみた。

「で、キリュウは? 同じ部屋で寝てたんだから気づいたんじゃないのか?」

キリュウはしばらく考えるような素振りを見せ、口を開いた。

「いや、私は気づかなかったな・・・・・・ん? そういえば昨日の寝るまでの数時間の記憶がうまく思い出せないような・・・・・・」

それを聞いたヨウメイは少しだけあせりのような表情を浮かべた。

「・・・・・・もうなんとなくわかったからいいや」

もし自分の考えがあっているのだとすればこうだ。

ときたま起こるキリュウとヨウメイの争いが深夜に勃発した。

原因はまたつまらないこと――本人たちはそうは思ってないだろうが――だろう。

で、それをとめるためにヨウメイが“なにか”をした。

これが太助の考えうる合点のいく“深夜の騒音”のいきさつと言うか、実態と言うか――まあそんなところであろう。

いつもと変わらぬ朝。

太助はそう胸中でつぶやき、それをまた実感した。

そして、まあいつもではないんだが、と苦笑しながら付け足す。

と、そこへ2階から、ばたん! というドアが閉まる音に、階段からどたばたと物々しい足音を立てながら誰かが近づいて

きた。

いや、誰かではない。

もう答えはわかっている。

この状況でこんな物音を立てるのはこのうちにひとりしかいない。

物々しい音をたてて勢いよく台所のドアが開いた。

そこに立っている者は、多少荒い息でこちらを見ている。

正確にはテーブルの上に並べられたの物を、だが

――そう、ルーアンである。

「はあ、はあ・・・・・・どーやら間に合ったようね」

ルーアンはそう言うと、空いている自分の席に座った。

「なあルーアン、ルーシェ知らないか?」

「ルーシェ? 知らないわよそんなこと。それより早く食べましょうよぉ」

ルーアンはすでに食闘態勢(?)に入っていた。

太助が呆れながら苦笑した。

やはりいつもと変わらぬ朝。

これもまたときたま起こるできごと。

太助はまたそれを実感してしまった。

そんなことを考えていると、シャオがいつもの椅子に座り、困ったような顔をする。

「どうしましょう? ルーシェさんまだ来てませんけど・・・・・・」

「別にいいんじゃない? どーせ今日も食べないんだろうし」

「そうだな。そろそろ食べ始めないとさすがに遅刻しそうだし・・・・・・」

「そーよ、たー様の言う通りだわ! あーん、たー様と意見が合うなんて、ルーアン、し・あ・わ・せ(はぁと)」

「だぁかぁらぁ! ひっつくなっていつも言ってるだろ!!」

悲しいことにこれもいつも起こること。

初めて会った頃からは回数は減ったが、それでもやはりゼロにはならなかった。

と、そこへまたもや足音が近づいてくる。

最後の1人の足音が・・・・・・

 

 

近づいてくる足音。

おそらく――というかほぼ完璧に――それはルーシェのものだろう。

しかし、これはいつもの朝と違った。

その足音は――“しっかりとした”足取りで近づいてくるのだ。

いつものルーシェ――まだ数日しかこの家にいないが――ならもっと引きずるような足取りで歩いているはずである――朝

は――。

それが今日は違った。

明らかに昨日までの足取りとは違う。

違和感のある足音。

それがいま、ここ――台所――に近づいてくる。

そして――

「みなさん、おはようございます」

というルーシェの声が台所の入り口から――ルーアンが開けっ放しにしていたのだ――入ってきた。

それにわずかに遅れてルーシェが現れる。(おかしなことだが)

その時、その場にいるみな(シャオ以外)が思っただろう。

そう、いつものルーシェじゃない、と。

数秒ほど沈黙してから、シャオがにっこりと笑い、口を開いた。

「おはようございます、ルーシェさん」

シャオに続くように、太助たちもルーシェに挨拶を返す。

「あ、ああ、おはよう」(太助&那奈)

「お、おはよう」(ルーアン&キリュウ)

「おはよう、ございます」(ヨウメイ)

太助たちが言い終わった後、ルーシェが少し驚いたような表情をして尋ねてきた。

「あれ? みなさんまだ食べてないんですか? まあ、別にそれならそれでいいんですけど・・・・・・」

そう言うと、ドアを閉めて、テーブルに寄ってきた。

それを見た太助は、なにかを思い出し、とりあえずルーシェに聞いてみることにした。

「ところで、さ、ルーシェ、今日はやけに明るくないか? あ、いや別に変だとかそういうのじゃなくて・・・・・・ほら、ルー

 シェっていつも――まだ数日しかいっしょに暮らしてないけど――朝眠たそうにしてるだろ? だけど今日はちゃんと起

 きてるから・・・・・・なんか、さ」

ルーシェはきょとんとした顔をすると、こちらもまたなにかを思い出したらしく、太助へと向き直った。

「えーと、そーいえばまだ言ってませんでしたっけ? んーと、そーですねぇ・・・・・・」

ルーシェは腕を組みながらしばしうなり、

「ようは断食期間が終わったんです」

「は?」

「だから、昨日をもって断食期間が終わったんです。つまり事故によって損傷した内臓――たぶんあるんだろう――の機能

 がほぼ完全に回復したってこと・・・・・・かな」

「はあ・・・・・・」

太助は苦笑しながら返事をした。

「あの、ルーシェさん」

「はい? なんでしょうシャオさん」

「今日の朝食とお弁当・・・・・・ルーシェさんの分ないんですけど・・・・・・」

シャオが申し訳なさそうに俯いて言った。

「あー、別にいいですよ。1日くらい食べなくても平気だし、どーしても食べたくなったら自分で作りますし」

それを聞いた太助はひとつの疑問に気づいた。

「あれ? ルーシェって料理できるのか?」

「あ、はい、一応。かなり昔に“やらされて”ましたから・・・・・・」

「はあ、さいですか・・・・・・」

太助はもうなにがあっても驚かないだろうと胸中でつぶやいた。

「ねえ、たー様ぁ、そろそろ食べましょうよぅ。ルーアンおなかへってもう死にそう」

「そうだな、そろそろ食べないとまた遅刻しそうになるし――で、ルーシェはどーするんだ?」

「そーですねぇ・・・・・・とりあえずみなさんが食事してる間はこの家の中にいますんで、なにかあったら呼んでください」

「ああ、わかった」

ルーシェは話が終わると、台所から出ていった。

ドアが閉まるのを見届けると、シャオが胸の前で手を合わせて嬉々とした声で言った。

「それではみなさん、ごいっしょに――」

『いっただっきまーす』

「いただきます」

これはもはや条件反射になってしまったのだろうか?

と胸中でつぶやいたが、太助はさして気には留めなかった。

やはりこれもいつもと変わらぬ朝のひとつ。

ルーシェが物を食べられるようになったのは、これからのいつもと変わらぬ朝になるだろう。

結局のところ、やはりいつもと変わらぬ朝。

少なくとも始まりと終わりだけは。

と言っても、まだ朝は終わったわけではないが、太助には特に変わったことは起こらないという謎めいた自信があった。

まあそんなこともあるだろうとまた胸中でつぶやき、それを胸の奥にしまい込む。

しかし、太助はこの時はまだ知るよしもなかったであろう。

これから学校で、いつもと変わらぬことが起きようとは・・・・・・

 

 

 

ここは学校。

学校という種類の中で分類するならば中学校。

さらに中学校の中で分類するならば公立中学校。

そして正式(?)名称は鶴ヶ丘中学校。

太助たちがいつも登校し、授業を受け、昼食を食べ、友達と他愛もない話をし、時たま先生に怒られ、そしていつもここか

ら下校する。

いたって普通の中学校である。

もちろん、シャオたちがいることを除けば、の話だが。

そんなことを胸中で思い浮かべながら、太助は――右手で右ほおをほお杖をしながら――授業を受けていた。

ひとつ机をはさんだ右にある――と思われる――窓際のシャオの席には、あたりまえだが、シャオが座っている。

ルーアンはおそらく職員室にいるであろう。

あの性格からして、ほかの教室で授業をしているとは思えない。

そんな噂すら――少なくとも自分は――聞いたことがない。(注:作者の勝手な設定です)

ヨウメイは花織たちがいる1年3組の教室にいる――と思われる。

キリュウとルーシェは――ベランダにいた。

なにがおもしろいのか、ふたりして雲ひとつない空を、ぼぉー、と見上げている。

キリュウはベランダの手すりに座って、(危ないので止めましょう)ルーシェは手すりに両肘をつき、ほお杖をして。

しばらくそのまま窓の向こう――キリュウとルーシェだが――を見ていると、唐突に誰かに呼ばれたような気がした。

気のせいだろうと思い、そのままの姿勢を保っていると、やはりまた呼ばれる。

と、焦点をこちらへと引き寄せると、シャオと視線がぶつかった。

シャオは小声で太助を呼びながら、少し曇ったような表情でこちらを見ている。

ふと、今度は別の方向から誰かに呼ばれた。

シャオのように小声でなく、はっきりとした声量で。

太助は、声のした方に振り向く――いや、振り向きながら見上げると、そこには――片方の眉毛を器用につり上げ、口を結

び、腕を組み、怒ったような――無論、明らかに怒っているのだが――双眸と視線がぶつかった。

その顔を太助は知っていた。

いや、かなりよく知っていた。

あるできごとのおかげで、忘れられない顔になっていたその人物は――先生。

なんの?

数学の。

数学の誰?

数学の――離珠たちに忘れた宿題を取ってきてくれるよう頼んだ時の先生。

結局、離珠たちがいつまで経っても現れず、そのまま宿題忘れになってしまった時の――その宿題の教科の先生。

そして、そのおかげで叱られた。

目の前に、いま視線がぶつかっている人物――先生は――は自分を叱った、めちゃくちゃ怖いことで有名な――田畑先生で

ある。

しばらくの間、胸中で自問自答やらをしていると、その時ようやく太助は思い出した。

いま自分が受けている授業は、数学。

そしてその教科担当の先生は――田畑先生。

(そう、田畑先生。あの時に俺を叱った田畑先生)

太助は呪いのようなその言葉を胸中でくり返し、そして――次の瞬間には罵声が振りかかってきた。

なんで叱られてるんだ?

おそらく自分をこの先生が呼んでいたのに、いつまで経っても返事をしなかったからだろう。

なんで呼んでたんだ?

そういえばいまは確か黒板の問題を解くようなことをしていたから、たぶんそれに自分があてられたのだろう。

それでシャオが自分を呼んでいたのだ。

太助は、また胸中で自問自答をしていた。

そしてその結論。

もうどーにでもしてくれ。

その一言だった。

その一言で胸中はいっぱいだった。

太助は自然と苦笑した。

もちろん表情には出さず、胸中での苦笑。

できれば顔を背けたかった。

シャオの方を、たかしの方を、乎一郎の方を、キリュウとルーシェの方を見たかった。

とにかくいま自分を叱っている先生以外の顔を見たかった。

そんなことを胸中で思いながら、太助は罵声を浴びていた。

ふと、その罵声をよくよく聞いてみると、もう――罵声の内容が――終盤だったようだ。

「――ろう。わかったな。真面目に授業を受けるように」

「・・・・・・はい」

とりあえず話を合わせておく。

それで満足したのか、たったいま自分を叱った数学の教師は、黒板の前へともどり、別の生徒を指名し、黒板の問題を解く

ように言った。

初めて会った時からなんら変わらぬ先生。

なんら変わらぬ授業の進め方。

そして――いつもと変わらぬ学校。

そんなことを胸中で並べながら、ちらりと窓の向こうを見やる。

あれだけの声量に気づきもしなかったのか、キリュウとルーシェは、最後に見た時と同じ姿勢で――青い、青い、雲ひとつ

ない快晴の空を見上げていた。

 

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≪第伍話―朝〜昼前―終わり≫

 

<なかがき(?)>

なんか、達成感がない。とりあえず書き終えたという達成感が。――って、あたりまえか。ほんとはまだ書き終えてないだ

し・・・・・・いきなり話は変わりますが、ぼくとしては、なんか書き方が変わったな、くらいの感想(?)を持っていただけた

らそれで十分です。そのほかの感想などは、このHPの感想掲示板か、ぼくんとこにメールかでお願いします。できれば感

想掲示板の方がいいですね、ぼくは。(感想なんぞ書く人などいないだろうが)次の昼――だろう、たぶん――はどたばたが

起こると思います。つーか起こります。このあとがき読んだらすぐ――じゃなくてもいいか、とりあえず続き読んでみてく

ださい。まあ、このなかがき(?)読んでるような方はそうはいないと思いますが・・・・・・まあいいか。それでは、しばし続

きをお待ちください。

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