「まもって守護月天」《絶守冥天推参編+知教空天推参編》

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*注・・・・・・この話ではキリュウが完全完璧に壊れています。(以下省略)

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【第参話 不思議な力と膝枕?】

 

いつも通りの朝食が七梨家で始まった。

しかしいつもと違って、食卓には全部で7人いる。

ルーシェが加われば8人になるのだろうが、例の事情によりいまは飲み食いが一切できない。

『いっただっきまーす』

「いただきます」(キリュウ)

きちんと感謝の意が込められた挨拶が交わされ、食事が始まる。

相変わらずがつがつと食べるルーアン。

無言のままゆっくりと食べ続ける太助、シャオ、キリュウ、ヨウメイ、那奈、翔子。

ルーシェはというと――リビングのソファーに横たわって寝ていた。

「それにしてもかわいい寝顔だなあ・・・・・・こいつ本当に男か?」

那奈がルーシェの寝顔を見た素直な感想を言う。

「確かに」

翔子は那奈と同意見らしい。

キリュウはルーシェの寝顔を先ほどと同じように真っ赤になって見つめている。

那奈はキリュウのそんな様子に気づき、少しおちょくってみた。

「キリュウ、そんなにルーシェの寝顔が好きか?」

那奈がそう言った瞬間、キリュウはいままさににのどを通らんとするものを、むせてもどしそうになった。

「・・・・・・図星みたいですね」

ヨウメイが冷淡に言う。

が、その言葉の雰囲気とは正反対に、その顔はニヤついているが、誰もそれには気づいてはいないらしい。

先ほどのヨウメイの言葉が聞こえたのか、キリュウは顔を真っ赤にしたまま俯いてしまった。

「反論しないってことは認めるってことだな、キリュウ」

那奈はいたずら笑いを浮かべながら意地悪く言う。

とその時、ルーシェの双眸にかかっている瞼がゆっくりと開いた。

そして上半身を起こすと、太助たちの方を向く。

「ふにゃ? ・・・・・・んー・・・・・・誰、君たち・・・・・・?」

ルーシェはどうやらまだ寝惚けているようだった。

「んー・・・・・・なんか知ってる気がするんだけどなぁ・・・・・・思い出せないな」

とその言葉の終わりと同時に、ヨウメイの持っている箸――もちろんヨウメイの物だ――が、“なんらかの衝撃”を受け、粉

々に砕け散った。

なんとか原型をとどめているのは、ヨウメイが持っていた部分だけになっている。

しかしよく見ると、その部分にまで細かいひびが入っていた。

どうやら一瞬にしてヨウメイの箸は、箸とは呼べない代物になってしまったらしい。

そのおかげで、ヨウメイの雰囲気が変わったことに、太助たちはいち早く気づいていた。

しかしルーシェは、そんなことを知ってか知らずか、少々冷淡な口調で話す。

「あ、すいません。寝惚けてるとなんの魔術が発動するかわからないんです。ちなみにいまのは衝撃波を起こす魔術だった

 ようですね」

そう、口調は冷淡だが、半眼で話している。

つまり、まだ――ルーシェ自身も話したが――完全に覚醒していないのだ。

そんなルーシェの態度に業を煮やしたのか、ヨウメイは半分から先が砕け散った箸を、ばちん! とテーブルの上に叩きつ

け(とどめの一発。箸、完全粉砕)、統天書を取り出しページを開いた。

「来れ、雷鳴!!」

統天書より放たれた雷は、鋭く小刻みに蛇行しながらルーシェへと向かっていった。

しかし、

「我は紡ぐ光輪の鎧」

ルーシェがそう冷淡に言うと、その声の発生源を中心に周りを囲むように筒状の光の壁が現れ、ヨウメイの雷を防いだ。

それを目の当たりにしたヨウメイは、絶句している。

「あー、もしかして君たちって・・・・・・敵?」

ルーシェは虚ろな目をしたまま、やはり冷淡に言った。

「だったら・・・・・・死んでもらおうかな?」

ルーシェの言葉に太助たちは凍りついた。

凍りつくしかなかった。

ただし、キリュウだけは凍りつかなかったが・・・・・・

とその時、キリュウはようやく我に帰り、かすかな記憶と場の雰囲気を頼りにあたりの現状を把握した。(すごいぞキリュ

ウ!)そしてキリュウは大きく息を吸い込むと、

「起きろ!!!」

と、この家の屋根がその声で吹っ飛んでしまうのではないか?

と思わせるほどの勢いで叫んだ。(キリュウらしくない行動)

一方ルーシェはというと、キリュウのその言葉――いや、叫び声か――で起きたのか、しばらく上を見上げながら、うーん、

とうなり、そして太助たちの方を向き、

「おはようございますみなさん。ぼく寝惚けてた時なんかしましたか?」

太助たちにとってその笑顔は、その時は悪魔の微笑みに見えた。

 

 

やがて朝食も終わり、学校へ行く時間になった。

自分の制服は持っていなかったが、女御に着替えさせてもらったため制服を着ている。

ふと、太助はひとつ重要なこと――なのかどうかは知らんが――を思い出した。

とりあえずそれをルーシェに聞いてみる。

「ところで、ルーシェは学校へ行くのか?」

ルーシェは太助とは反対方向を向いていたため、体と首を少しひねり、こちらを向いて答える。

「いえ、とりあえず今日は遠慮しておきます。ここは平和なところですし、シャオさんもいることですしね」

「そうか」(そうかってあんた、ルーシェがなんで学校を知っているのかが気にならんのかい)

太助は胸中で安堵の息を漏らし、そしてその直後に、胸中で漏らしきれなかった息を口から吐いた。

なぜ安堵の息を漏らしたのか?

答えは簡単。

ただたんにルーシェのことをみんなにどう説明すればいいのかが、まだ頭の中でまとまっていないかったからである

「主殿」

とその時、いままで黙っていたキリュウが口を開いた。

「ん? なんだキリュウ」

太助はいつもの調子で聞き返した。

「私も今日は遠慮しておく」

そう言うキリュウの顔は先ほどとまではいかないが、うっすらと赤くなっていた。

「・・・・・・こりゃ重傷だな」

那奈が少し呆れ気味につぶやいた。

と、那奈の言葉を聞いたルーシェが、きょとんとした様子で聞き返す。

「? なんの話ですか?」

ルーシェの言葉を聞いた太助たち――シャオは除くが――は、こう思わずはいられなかった。

シャオ並に鈍いのか、と。

「? どーかしましたか?」

ルーシェはまたきょとんとした様子で聞いてきた。

「い、いやなんでもない。それより留守番よろしくな」

「はい、まかせてください。ね、キリュウさん」

「ん!? あ、ああ・・・・・・」

突然ルーシェに話しかけられたキリュウは、真っ赤になって俯いてしまった。

「? えーと、どーかしましたか?」

やはりルーシェは鈍かった。

「じゃ、じゃあ俺たち行ってくるから・・・・・・」

「いってらっしゃい」

「・・・・・・・・・・・・」

やはりキリュウは無言のまま太助たちを見送った――と思われる――。

総勢6人が七梨家を出発する。

太助は新たな疲労感に襲われていた・・・・・・

 

 

 

そして学校の太助たち――ルーアンと那奈とヨウメイは除く――は自分たちの教室へと到着した。

「ん? どうした太助。やけに疲れてるな。さてはヨウメイちゃんとキリュウちゃんの共同試練でへばってんのか?」

「いや、そうじゃなくてだな・・・・・・」

太助は一応このことを予想していた。

いや、ルーシェが現れた時点で必然となってしまったこと、だろう。

そう、いつかは必ず誰かに、ルーシェのことを話さなければならないということを・・・・・・

 

 

「太助くん・・・・・・ついに男まで連れ込みましたか」

「うわぁ! って出雲! いつからそこにいた!?」

「いや、私だけじゃないんですけどね」

「へ?」

「えへへ、七梨先輩、あたしですぅ」

「愛原か・・・・・・」

考えたらこんなことになるのも必然だよな、と思う自分が少し情けなかったが、とりあえずそれは頭のすみに押しやった。

「で、太助くん。そのルーシェくんとやらはここに来ていないのですか?」

「ああ、来てないよ。ついでに言うならキリュウもだけど・・・・・・」

「キリュウちゃんが? いつもなら試練しに来るのにな」

「いや、それがだな・・・・・・」

太助はそっちの予想されていたことも話すこととなった。

 

 

「ぬぅあにぃぃぃぃ!! あのキリュウちゃんが恋だとぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

たかしは学校全体に響き渡るような大声で叫んだ。

「本当に意外ですね〜。あ、そーいえば楊ちゃんがやけに楽しそうだったような・・・・・・」(ちなみにヨウメイはいまここにい

ない)

「キリュウさんにも恋愛感情というものはあったとは・・・・・・」

「おい出雲、それはキリュウに対してものすごく失礼だと思うんだが・・・・・・」

「まあそれはいいとして(よくない)太助くん。いまキリュウさんはルーシェくんとふたりきりなのですか?」

「ん? ああ、那奈姉も俺たちといっしょに家を出てどっか行っちゃったし、それがどうかしたのか?」

「どうかしたかって・・・・・・太助くん。いまあなたの家には男女がふたりきりでいるんですよ? なにかあったらどうするん

 ですか?」(安心しろ出雲。男女がふたりきりでいてなにかを起こすのはおまえだけだ)

「ああ、それなら心配ない」

「? どうしてですか?」(だからなにかを起こすのは――)

「だってルーシェは――」

「シャオ並に鈍いから――だろ?」

太助の言葉を、割り込むかたちで翔子が続けた。

 

 

 

一方その頃、キリュウたちはリビングにいた。

相変わらずキリュウは顔を真っ赤にしている。

ルーシェはというと――寝ていた。

しかも堂々とソファーに横になって。

と、キリュウは立ち上がり、ルーシェに近づいた。

今朝と同じように目線をルーシェに合わせた。

そして、ぼぉー、とそれを見つめている。

しばらく見つめていたその時、ルーシェの瞼がゆっくりと開かれた。

「ん? あー、キリュウさん、おはようございます」

それは今日キリュウにとっては、3度目の“おはようございます”だった。

「あ、ああ、おはようルーシェ殿」

キリュウはなんとか言葉を交わせるくらいの、いつもの状態へともどりつつあった。

「主人殿たちは――学校へ行ったんでしたよね。さて、これからどーしようかな――とりあえず自分の部屋にもどる、か。

 そーいうわけでキリュウさん、じゃ」

と言ってルーシェは立ち上がり、自分の部屋へ行こうとする。

が、それをキリュウが引きとめた。

「ま、待ってくれルーシェ殿」

「? なんですかキリュウさん」

ルーシェは少し眠たそうな目をしたまま応える。

「あ、その――私もルーシェ殿の部屋へ行ってもいいだろうか? 昨日あまりよく見れなかったのでだな・・・・・・」

ルーシェはきょとんとした表情を見せた後、にっこりと笑い、

「もちろん、いいですよ」

と答えた。

そしてふたりはルーシェの部屋へと向かっていった。

 

 

ここはルーシェの部屋。

ルーシェは座りながら壁に寄りかかり、窓――屋根の上に出るための出入り口――から外を眺めている。

ちなみに屋根の上へ出るための出入り口はガラス張りになっていた。

ただし太助たちの部屋の物とは違い、なんの飾りもない、ただ窓枠があるだけのガラス張りになっている。

と、キリュウはそんなルーシェの様子を、じー、と見つめている。

ルーシェはキリュウの視線に気づいたのか、キリュウの方を向いた。

「どーかしましたか? キリュウさん」

キリュウはルーシェに突然声をかけられたことに少し驚き、しばらくした後、口を開いた。

「あの、ルーシェ殿・・・・・・」

「なんですか? キリュウさん」

「その、“キリュウさん”と呼ぶのはやめてもらいたいのだが・・・・・・」

ルーシェはきょとんとした顔をすると、キリュウに聞き返した。

「じゃあなんて呼べばいいんですか?」

「――キリュウで・・・・・・いや、キリュウ“が”いい」

キリュウの言葉には、まだ続きがあるようだった。

「それと・・・・・・私に対して敬語を使うのもやめてもらいたい」

キリュウは小声で言った。

ルーシェの表情は、少し驚いた表情から笑顔へと変わると、

「わかり、いや、わかった、“キリュウ”」

その言葉を聞いたキリュウは、顔を真っ赤にした。

と突然ルーシェはあくびをし、

「ごめん、キリュウ。ぼく眠くなったから寝るわ。じゃ、おやすみ」

と言って、その場で倒れるように横になり、眠ってしまった。

ルーシェが倒れた先――それはキリュウの目の前だった。

キリュウはそっとルーシェの頭を抱え上げると、その頭を自分の膝の上に乗せた。

ようは世間で言う“膝枕”である。

キリュウは、フッ、と笑うと、ルーシェの前髪を撫で始めた。

 

 

 

太助たちはルーアンのコンパクトの中をのぞいている。

もちろんのぞいているのはその鏡に映し出されているもの。

そう、キリュウとルーシェの様子である。

その様子を見た太助たちは、キリュウらしくないキリュウの行動に絶句していた。

「キリュウったら――信じらんないくらい大胆になったこと」

ルーアンのその一言だけで十分だった。(なにが?)

 

 

 

放課後、通学路をヨウメイが1人で歩いて(?)いる。

いつもなら花織たちと帰るのだが、ホームルームが終わった瞬間に、教室からヨウメイが消えるように出て行ってしまった

ため、花織たちも声をかけようにもかけられなかったのである。

そんなヨウメイの表情は非常に明るかった。

しかも体力が一般人(人間)と比べて、極めて少ないあのヨウメイが、通学路を全力疾走(?)しているのである。

そうこうしているうちに、ヨウメイは七梨家へと到着し、ばたん! という音と共に、勢いよく玄関のドアを開けた。

そしてヨウメイは家中をスキップしながらまわっている。

「朝からキリュウさんはあの様子でしたからね。なにが起こっているのか非常に楽しみです♪」

と言い終わった瞬間、ヨウメイは自室の部屋のドアをものすごい勢いで開けた。

「ここにもいない。ということは、残るはルーシェさんの部屋と屋根の上ということになりますね♪」(つーことは太助たち

の部屋に勝手に入ったのか?)

と言ってヨウメイは転移の魔方陣に向かって歩き出した。

そしてあっという間に魔方陣のところまで来ると、ヨウメイは一度立ちどまり、

「どうかこの先でなにか起こっていますように」

そう言ってヨウメイは魔方陣の上に乗った。

ヨウメイの願い(?)はすでに叶っているということを知らずに・・・・・・

 

 

ヨウメイは目の前で起こっていることを目の当たりにして、思わずニヤついた。(うう、ヨウメイじゃない)

キリュウがルーシェを膝枕しているのである。

しかもいままで見せたいことのないくらいの穏やかな表情をして・・・・・・

とその時、キリュウがヨウメイの存在に気づき、目を丸くし、顔を真っ赤にしてヨウメイを見つめる。

「なにやってるんですか? キリュウさん♪」

ちなみに、ヨウメイはこの時のためにあえてこのことを統天書で調べてはいなかった。

「い、いやこれはだな・・・・・・その、だから・・・・・・」

キリュウはあからさまに動揺している。

とその時、ルーシェが目を覚ました。

「なに? どーしたのキリュウ?」

ルーシェはこちらに首だけを向けて半眼で言った。

「ルーシェさん、見損ないましたよ。キリュウさんにこんなことさせるなんて。しかもいつのまにか呼び捨てになっている

 し・・・・・」(演技)

「はい? こんなこと?」

いまだ寝惚けているルーシェには、現状を把握する能力はまだ回復していなかった。

ちなみにルーシェはまだ体を起こしていない。

「ち、違うのだヨウメイ殿。これは私がルーシェ殿が寝ている隙に勝手にしたことであって決して強要されたことではなく

 てだな・・・・・・」

キリュウは必死に弁解している。

「大丈夫ですよキリュウさん。私はあなたの味方ですよ♪」(大嘘)

そしてルーシェはようやくいまの状況が把握できたのか、身体を起こしキリュウに尋ねる。

「あー、キリュウ。どーしてぼくは膝枕されていたのかな?」

ルーシェがまだ少し眠たそうな目をしたまま、少し笑みを浮かべて聞いてくる。

「い、いや、これはその――ルーシェ殿が寝ている隙にだな・・・・・・」

キリュウの顔は真っ赤になっている。

「・・・・・・キリュウさん。もしかして本当にあなたがやったことなんですか?」(演技中)

「だからさっきも言っただろう? 私が勝手にやったことだと・・・・・・」

キリュウの言葉を聞いたヨウメイは、口もとをほころばせた。

「その言葉が聞きたかったんですよ、キリュウさん」

「え?」

「つまりですね、キリュウさん。あなたは私の罠にはまったんですよ」

「? どういうことだ」

キリュウはまだ頭が困惑しているらしい。

そしてヨウメイが、待っていましたとばかりに説明を続ける。

「いいですか? キリュウさん。私は“あなたがやったことなんですか?”と聞きましたよね?」

「ああ」

「その問いにキリュウさんはなんて答えましたか?」

「だから・・・・・・ !?」

キリュウはようやくヨウメイの意図がわかったらしい。

そしてその赤い顔を、これ以上ないほどに真っ赤にした。

「はあ、ようやく気づきましたか。そうです、あなたは自白したんです。“私が勝手にやったことだ”、と」

「???」

ルーシェはまだ状況がつかめていないらしい。

「た、頼む! ヨウメイ殿。このことは主殿たちには秘密に――」

「主様たちはたぶん、もうこのことは知っていると思いますよ。ルーアンさんのコンパクトがありますから。なんなら統天

 書で調べてみましょうか?」

「・・・・・・いや、いい」

キリュウは呆然としていた。

「??????」

ルーシェはそんなキリュウの様子を見て、ただただ頭の上に疑問符を浮かべるばかりであった。

 

 

 

いまみんなはリビングにいる。

みんなというのは、七梨家面々と翔子、太助の話を聞いてやって来た、出雲、たかし、乎一郎、花織、熱美、ゆかりんであ

る。

と、たかしがルーシェにいつもの調子で声をかける。

「へぇ、あんたがルーシェか。俺は野村たかし。まあ好きなように呼んでくれ、よろしくな」

「こちらこそよろしく。じゃあたかしくんでいいかな?」

「ああ、もちろん」

こんな具合に自己紹介が進められ、そのまま質問タイムへと流れ込んだ。

「ルーシェさんはなんの精霊なんですか?」

とこれはゆかりんの質問。

「命を司る冥王星の精霊です」

ルーシェはいつもの調子で答える。

「使命はなんですか?」

とこれは熱美の質問。

「主に主の邪魔者を消すことです」

『邪魔者を・・・・・・消す?』

「はい。まあ主の命があるか主によほどのことがない限りそんなことはしませんが・・・・・・」

「ん? ちょっと待ってください。それって主を守るということじゃないですか?」(出雲よ、どう解釈したらそうなる。そ

れより自分の心配をしろ。このままだと真っ先に消されるのはおまえだぞ)

「まあそれもぼくの使命です。ただしぼくが守るのは主の命だけですので、そのへんが守護月天との違いかと・・・・・・」

「なるほど」

出雲はどうやらルーシェの説明で納得したらしい。

「はーい。次はあたしですぅ。ルーシェさんてなん歳なんですかぁ?」

と、このとんでもない質問は花織のものである。

「うーん・・・・・・だいたい地球の年齢+10数年、てとこかなあ・・・・・・」」

「ちょっと待ってください。ということはあなたはこの星より先に生まれたということになりますよね?」

ヨウメイが話に割り込む。

「まあ、そーいうことになりますね」

「おかしいですね。たとえそうだとしても統天書に載るはずなんですが・・・・・・」(なぜでしょう(笑))

「あー、それはおそらく星女神がプロテクトをかけているからでしょうね。知る必要のないこと、あるいは知ってはならな

 いことは統天書には載らないようになっているはずだから」

「どうしてそんなことを知っているんですか?」

「さあて、ね。それに統天書にはぼくに関することは載ってないんでしょう? ならそれは知る必要のないこと、あるいは

 知ってはならないことです」

「むぅ・・・・・・」

ヨウメイは黙り込んでしまった。

重苦しい雰囲気が流れる中、ゆかりんが意を決し、ルーシェに質問をする。

「あの・・・・・・ルーシェさんの能力ってなんなんですか?」

「じゃあまず草天剣の能力から――」

ルーシェによる精霊具の説明が始まった。

太助たちは一度聞いたのでほかの話をしている。

ヨウメイは相変わらずむすっとしていた。

ちなみにキリュウはというと、ちゃっかりルーシェの隣に座っている。

そんなキリュウのほおは、やはり赤く染まっていた。

 

 

「――というわけです」

ルーシェによる精霊具の話は終わった。

「へぇ〜、ところでなんでルーシェさんは精霊具を3つも持ってるんですか?」

花織がオウム返しのように聞いてくる。

「あー、それはですね。精霊はその精霊の能力に合わせて星から精霊具を与えられているんです(確か)。その精霊具を完全

 に扱いこなせる程度にね(おそらく)。つまりぼくの能力は精霊具3つ分かそれ以上、しかも“完全な”精霊具のね、(多

 分)」

「あんまり聞きたくないんですけど、完全な精霊具ってどういうことですか?」

ヨウメイが不機嫌そうに聞いてくる。

それはあたりまえだろう。

ヨウメイは“知教空天”なのだから・・・・・・

「んー、どーいうことって聞かれても“そーいうこと”としか言いようがないんですが・・・・・・」

「? そういうこと?」

キリュウがようやく話に興味を持つことができたのか、ルーシェに尋ねてくる。

「私の統天書やキリュウさんの短天扇はまだ不完全ってことですよ」

ルーシェの代わりにヨウメイが答えた。

と、その言葉をルーシェが否定する。

「いえ、ヨウメイさん。あなたの統天書は“ある意味”不完全ですが、“ある意味”完全でもあります」

「・・・・・・どういうことですか?」

「“そーいうこと”です」

「――いつのまに調べたのやら・・・・・・いえ、“知っていた”のかもしれませんが・・・・・・」

ヨウメイは少し疲れたような態度で言った。

「あの、なんの話をしているのですか?」

出雲が引きつった顔をして聞いてくる。

「別にあなたには関係のないことです」

「はあ、さいですか・・・・・・」

しばらく沈黙が続いた後、翔子がなにかを思いついたような様子で言う。

「なあルーシェ。おまえの力――えーとなんて言ったか忘れたけどさ、あれ見せてくんないかな?」

「“魔術”ですか? まあここで使うなら音声魔術ですが・・・・・・」

「七梨先輩が話してたルーシェさん自身の“不思議な力”ですね」

花織が楽しそうに言う。

「俺にも見せてくれ」

「ぼくも」

「では私も拝見させていただきましょうか」

気づくと太助たちもルーシェの方を見ている。

ルーシェは、はあ、とため息をつくと、翔子の頼みを聞くことにした。

「わかりました。あ、ちなみにいまこれからぼくが使う魔術は危険なものじゃないんで安心してください」

と言うと、ルーシェは昨日とは異なり、魔術を使う前に息を吸わずに呪文を唱えた。

「我は生む小さき精霊」

と言い終わった瞬間、ルーシェの手のひらの上に直径15センチほどの人魂のような白く輝く光球が現れた。

「ルーシェ殿・・・・・・これは?」

キリュウがルーシェに尋ねる。

「光球を生み出し、主に明り取りに使用する魔術です。ちなみに生み出した光球は自在に移動させることもできますけど。

 まあ、その気にならずとも光力を上げれば、人間程度なら失明させることくらい可能ですが――」

「ちょっと待てい!」

「ん? なんですか主人殿」

「なんか言ってることが思いっきり矛盾してないか?」

「はい?」

「いや、だからさっき危険なものじゃないって言ってただろ?」

「はい、確かに」

「で、失明させることができるってどういうことだ?」

「そのまんまの意味ですねぇ」

「だからぁ――」

「ぼくはあくまで“可能性”の話をしたまでです。ちなみにぼくがいままで魔術に失敗したことは長い人生(?)の中で一

 度たりともありません(確か)。もちろんこれからも失敗するつもりはありません(一応)」

「たいした自身ですね」

ヨウメイが皮肉げに言――わなかった。

ものすごく明るい表情で言ってきたのである。

気持ち悪いくらいに・・・・・・

さらにヨウメイのまわりにはわけを話せと言わんばかりのオーラが漂っている。

「わけ、ですか」

ルーシェはそんなヨウメイのオーラ(?)を感じ取ったのか、ルーシェはそれを話した。

「そうだな・・・・・・ぼくが生まれる前から知っていたものだから、かな」

「生まれる前から知っていた・・・・・・?」

「ストップ。それ以上は秘密です」

ルーシェはまだこれからというヨウメイの勢いを止めた。

「まあとにかく今日はこれくらいで。そろそろ日も暮れることですし・・・・・・」

ルーシェが言うように、いつのまにかあたりは少し暗くなっていた。

「おや、いつのまに。ではシャオさん、私はこのへんで失礼します」

「じゃあなシャオちゃん」

「ルーアン先生さようなら」

「七梨先輩、楊ちゃん、またね」

「さようなら」

「おじゃましました〜」

「シャオ、またな」

とそれぞれの言葉を残し、おのおのの家へと帰っていった。

 

 

シャオはいま夕飯の支度をしている。

一方太助たちはというと、みなリビングでくつろいでいた。

台所から夕食のあたたかい匂いが迷い込んできている。

太助はそれを自分の鼻で感知した。

(もうすぐ、だな)

そう太助は胸中でつぶやき、独りごちた。

 

 

太助たちは夕食を食べている――ちなみに今日はリビングで――のだが、ルーシェは前に述べた通りまだ食べることができ

ないので、ひとりで――床に座って――テレビを見ている。しかもなぜか肩に日本刀を抱えながら。

「ルーシェ殿。なぜ刀などを抱えているのだ?」

「キリュウさん、食事中に喋らないでください」

ヨウメイがキリュウを結構な剣幕で叱る。

「しかし――」

「しかしじゃありません!」

ヨウメイの剣幕に押され、キリュウは素直に黙った。

とその時――

「理由はない、ね。ただ抱えていたいからそうしてるだけだよ」

ルーシェはテレビを見ながら言った。

そんなルーシェの言葉を聞いた那奈は、

(やばい。こいつはとにかく危ない)

と胸中でつぶやいた。

そしてルーシェの刀を見る那奈。

と、ルーシェの刀を視線で撫でるように観察していた那奈は気づいた。

刀と鍔―つば―と鞘の間から紅い光が漏れているのを・・・・・・

「な、なあルーシェ。なんでその刀光ってるんだ?」

那奈の言葉を聞いたルーシェが肩に抱えている刀を見やる。

「あー、そーいえば今日は三日月だったね」

「まあそれはいいんだけど、だからなんで?」

「んー、それはですね。この刀、“朱羅花月―しゅらかげつ―”は三日月の夜になぜか光る習性を持っているから、としか言

 いようがないですね。それ以上のことはぼくにもわかりませんから」

やはりルーシェはテレビを見ながら言った。

「ふーん」

那奈はそう言って食事を再開する。

太助たちが食事をしルーシェがテレビを見ている間も、朱羅花月はただただ紅く、淡く輝き続けた。

 

 

「ごちそうさま」

珍しくキリュウは一番早く食べ終わった。

食器を台所へ片づけると、キリュウはルーシェのもとへと近寄る。

「ル、ルーシェ殿。屋根の上へ月を眺めに行かないか? さっきルーシェ殿が言った通り今夜は三日月で、それに外は晴れ

 ているし・・・・・・」

キリュウはもじもじとしながら言った。

ルーシェはそんなキリュウを見上げ、

「いいよ。ぼくもそのつもりだったし」

と、その言葉を聞いたキリュウの表情はぱっと明るくなり、(どんな表情になったんだ?)ルーシェの腕をつかんだ。(キリ

ュウらしくない行動)

「へ?」

ルーシェは思わず間抜けな声を口から漏らした。

「行くぞ、ルーシェ殿」

と、キリュウはお構いなしにそのままルーシェの腕を引っ張って走り去ってしまった。

「なあ、ヨウメイ。あれって本当にキリュウか?」

那奈がヨウメイに聞く。

「目に映ったものが現実です」

ヨウメイはなぜかちょっとご機嫌斜めだった。

 

 

 

ここは屋根の上。

ルーシェとキリュウが並んで座って月を眺めている。

「なあ、ルーシェ殿。その刀――朱羅花月と言ったか?」

「そーだけど――それが?」

「いや、それの光が強くなっている気がするのだが・・・・・・」

キリュウに言われ、ルーシェは朱羅花月を見やる。

確かに先ほどとは違い、その光は輝きを増していた。

「あー、たぶんそれは月が直接見えるからだと、思う」

ルーシェはそう言うと鞘から刃を抜いた。

朱羅花月の刀身はまるで血のような紅一色―あかいっしょく―に染まっている。

いや、刃自体がそういう色をしているのであろう。

そしてもうひとつ。

それは――透き通っていた。

紅く。

紅く、透き通っていた。

紅い、刀。

「紅い・・・・・・刀」

キリュウは思わず胸中でつぶやいたその言葉を、口から漏らした。

「この刀、朱羅花月はね――」

ルーシェはそこでいったん話をやめ、そして口を開いた。

「いや、これは話すことじゃないな」

そう言ってルーシェは朱羅花月を鞘へ収めた。

「――そうか」

キリュウは笑顔で言った。

そして――沈黙。

そんなふたりを、月はただただ優しい光で照らし続けた。

 

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≪第参話終わり≫

 

<あとがき>

さあみなさん。ついにキリュウが完璧に壊れました!(ヨウメイも少し)さあこれからどーなるか! いつまでキリュウは

この調子なのか!! ――は、まだ決まってません。それでは、次回の第肆話を期待しないでください!(作者、自信まっ

たくなし)ちなみにこれは加筆修正版です。(遅っ)

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