「まもって守護月天」《絶守冥天推参編+知教空天推参編》
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*注・・・・・・前回の話が現実になりました。えーつまり・・・・・・この第弐話では“キリュウ”が“キリュウ”ではありません。
壊れています。ですので、『原作のままのキリュウが一番だ!』という方は、絶対に読まないでください!!!
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【第弐話 キリュウ真っ赤になる】
七梨家の新たな朝が始まった。
シャオが朝食の支度をし、太助がみんなを起こしてまわる。
太助はみんなを起こしてまわっていると、ちょうど自室――もと、だが――から出てきた那奈に出会った。
「あ、おはよう那奈姉。ルーアンは?」
「もう少ししたら来るんじゃないか? キリュウやヨウメイほど寝起きは悪くないし」
(そーいや那奈姉ってルーアンの部屋で寝てたっけか)
太助はそのことを思い出し、とりあえずそれを頭の中にしまい込む。
そんなを太助が考えている(?)うちに、那奈は階段を降りていった。
「そーいやルーシェは寝起きはいいのかなあ。キリュウみたいのは困るけど。ははは・・・・・・」
とりあえず太助はルーシェを起こす前に、いま距離的に一番近いキリュウとヨウメイを起こすことにした。
そしてキリュウとヨウメイの部屋の前へと到着し、その部屋のドアをノックする。
すると、がちゃ、という音と共に中から少し寝惚け気味のヨウメイが現れた。
「おはようヨウメイ。キリュウは?」
「ああ、キリュウさんなら――」
と、ヨウメイの背後から、
「――おはよう、主殿」
キリュウの声が割り込んできた。
「やはり私は朝は苦手だ・・・・・・起きたのは私が最後か?」
キリュウは、ぼけー、とした様子で言った。
「いや、あとはルーシェだけかな」
「そうか。ではわたしがルーシェ殿を起こしに行く」
「え? どうしてだ?」
「いつも人に起こされてばかりだから、たまには人を起こしてみるのも悪くないと思ってな。それに良い眠気覚ましにもな
る」
「そっか。じゃ俺は下に行くから、よろしくな」
「ああ、まかせておけ」
太助は立ったまま寝ているヨウメイを引っ張って階段を下りていった。
それと同時に、キリュウは転移の魔方陣に向かって歩き出す。
そして魔方陣の所まで来ると足を乗せ、そしてその場から姿を消した。
キリュウは一瞬にしてルーシェの部屋のドアの前へと到着した。
多少驚いたが、ルーシェの昨日の話を思い出し、危険がないことを確認する。
とりあえずキリュウは、それなりに礼儀正しい者であれば、他人の部屋に入る前に必ずする行為をした。
とんとん、と、2回ドアをノックする。
しかし、しばらくしても返事がない。
キリュウは確認のため、もう一度ノックをした。
が、先程と同じく、返事らしい返事がまったくない。
ここでドアを開けてルーシェに部屋に入ろうと思い、ドアノブに手を右手をかけ、足を1歩ドアへと近づけたが、部屋に入
る次の1歩は踏みとどまった。
まだしていない行為がある。
これをクリアしなければまだ他人の部屋に入ってはいけない。
と胸中で自分に言い聞かせ、とりあえずその行為をすることにした。
「ルーシェ殿。朝だぞ。起きられよ」
そう言ってしばらく待ってみる。
が、やはりルーシェがキリュウの目の前にあるドアを開けることはなかった。
どうやらルーシェはまだ寝ているらしい。
キリュウは一度嘆息し、ルーシェの部屋へと続くドアを開けた。
どうやらルーシェは完全に熟睡しているらしい。
その証拠に、人が入れる程度に膨らんだかけ布団が、規則正しく上下に動いていた。
キリュウはそれを確認するとベッドへと近づき、ルーシェに声をかける。
「ルーシェ殿、朝だぞ。起きられ――」
キリュウは最後までその言葉を言えなかった。
そしてある一点に視線を集中させて動かなくなる。
そのある一点とは――
「すぅ・・・・・・すぅ・・・・・・すぅ・・・・・・」
――ルーシェの寝顔である。
ルーシェの寝顔ははっきり言って男のものとは思えないほどのかわいさ(?)だった。
まあもともとルーシェは中性的な顔立ちであるのでそう見えなくはないのだが・・・・・・
「・・・・・・んー・・・・・・むにゃむにゃ・・・・・・」
キリュウの顔はあからさまに紅潮している。
そしていつしかキリュウはその場へと座り込み、目線の高さをルーシェの顔へと合わせた。
「・・・・・・かわいい」
少なくともキリュウにはそう見えた。
そう見えたのだ、キリュウには。
いや、キリュウでなくともそう言う者はいるだろう。
そしてキリュウはルーシェを、ぼぉー、と見つめたまま、それっきり黙り込んでしまった。
キリュウが最後の言葉を発してから5分ほど経った頃、ようやくルーシェの重い瞼が開いた。
「・・・・・・ふにゃ・・・・・・?」
ルーシェはどうやら寝惚けているらしい。
その者の覚醒と同時にキリュウはようやく我にかえり、自分がすべきこと、すなわちルーシェを完全覚醒させるための言葉
をルーシェにそっとぶつけた。
「ル、ルーシェ殿、もう朝だ。お、起きられよ」
キリュウの言葉はぎこちなかった。
そう、キリュウは時たまこうなる。
いや、意図的にそうさせることもできなくはないだろうが、あえてそうさせる者は、ごくわずかだった。
もっともこの時代に、キリュウには知り合いがそう多くはいないのだが。
とその時、ルーシェがむっくりと起き上がり、そのまだ覚醒しきっていない銀色の双眸をキリュウへと向けた。
そして、微笑のような笑みを表情としてキリュウに見せる。
いや、この時その笑みを見ることができたのはひとりだけ、つまりキリュウしかいなかったので、別に誰かに見せるための
特別な笑みではないのであろうが。
と、ルーシェはなにかを思いついたのか、――器用なことだが――その笑みを保ったまま銀色の双眸にかかっている重たい
瞼を少しだけ開いた。
「おはようございます、キリュウさん」
どうやらこれを思いついた、いや、思い出したのだろう。
と、ルーシェの視線の先にいるキリュウは、なぜか顔を真っ赤にして俯いていた。
そしてキリュウの口からもごもごとした声が漏れている。
よく耳を澄ますと――
「お、お、おはよう・・・・・・ル、ルーシェ殿・・・・・・」
と言っている。
ルーシェはそれが朝の挨拶であると確認した。
と、ルーシェはとりあえずそれに返す言葉を捜す。
朝の挨拶はもうしたので、別の言葉をキリュウに言った。
「?どーしたんでんすかキリュウさん。早く行きましょう・・・・・・それとも、ぼくといっしょに行くの、嫌ですか?」
ルーシェは少しだけ悲しげな表情をして見せた。
「・・・・・・そんなことは・・・・・・ない・・・・・・」
キリュウは真っ赤な顔をさらに赤くして言った。
「じゃあ行きましょう。早くしないと朝食が冷めますよ」
ルーシェはやはり笑みを見せている。
「・・・・・・ああ、いま行く・・・・・・」
と言ってキリュウは、魔方陣の方へ向かって直進する。
が、魔方陣の方へ“向かって”直進しただけであって、魔方陣のすぐ横を通り過ぎ、壁に顔をぶつけてしまった。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜(痛)」
キリュウは両手で顔を――正確には鼻のてっぺんだが――押さえてその場へしゃがみ込んでしまった。
「大丈夫ですか?」
ルーシェがキリュウに声をかける。
するとキリュウはそれに反応し、顔を上げルーシェを見た。
キリュウは顔を――鼻のあたりを――真っ赤にして、その目に涙をためている
それを見たルーシェは、ふぅ、と息をつくとキリュウにこう言った。
「ぼくが治しますからそのままでいてください」
キリュウは言われた通りその状態を保った。
そしてルーシェは、キリュウがそのままの状態でいることを確認すると、キリュウの目の前に自分の右手のひらを出し、
「我は癒す斜陽の傷痕」
そうルーシェが言った瞬間、キリュウの目の前にあるルーシェの右手のひらから、淡く優しい光が放たれる。
そしてその光に照らされているキリュウは、自分の顔、そして最大の痛みの発生源である鼻から、その痛みが退いていくの
を感じ取っていた。
「もう痛くないですか?」
ルーシェがやや心配そうにキリュウに尋ねる。
「あ、ああ、もう平気だ。あ、その・・・・・・ありがとう・・・・・・」
肝心な部分は小声になってしまったが、キリュウは一応素直に感謝できたので、胸中から少しだけルーシェに対する照れが、
すっと抜けていくのに満足した。
「いえ、どーいたしまして」
ルーシェは、そのキリュウの精一杯の感謝の言葉を聞き取れたのか、こちらも素直にそれに応える。
が、そのおかげでキリュウの顔はさらに紅潮してしまい、結局ルーシェの部屋からふたりが出れたのは、それからさらに5
分後になるのであった。
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≪第弐話終わり≫
<あとがき>
えー早速ですが、この話は“知教空天楊明シリーズ”本編の第二話の頭をパクったものです。おそらく、と言うより、“知教
空天楊明”の本編を一通り読んだことがある方なら気づいたことでしょう。んで次回ですが、ついにキリュウが完全に壊れ
ます。(つーかこの話書いてる時点ですでに壊れてます)キリュウがキリュウでなくなります。ついでに言うと、ヨウメイも
ちょい――どころではなく――壊れます。まあ、しばらくの間は壊れているでしょう。そのうちもとにもどると思いますが
・・・・・・では、次回の第参話をご期待ください。ちなみに、これは加筆修正版です。(またもや言うの遅っ!)
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