「やはり春はいいな。暑くもないし、寒くもないし。」
ルーアンは黙々と弁当を食べている。
ルーアンの行動に驚きを隠せなかったのはキリュウも同じであった。
「起立、気をつけ、礼。」
「そんなことが・・・」
特別な1日 完
そう言いながらキリュウは2年1組の教室へ入る。
教室に入った彼女に、
「よう、キリュウ。」
と翔子が話しかけてきた。
「翔子殿か。ところで主殿は。」
と教室の中を見回しながらキリュウが聞く。
彼女の視界には仲良く(?)弁当を食べているルーアンと乎一郎の姿があった。
「七梨ならシャオと一緒にどっか行ったんじゃないのか。」
と翔子が答える。
「そうか。」
と答えつつも、何故か何の行動を起こそうとせずにただ昼食を食べ続けている
ルーアンのことが気になっていた。
(ルーアン殿はもしかして・・・)
太助のことを諦めたのか、キリュウの脳裏にそのような考えが浮かんだが
すぐに彼女はその考えを否定した。
自分に正直な性格のルーアンがあっさりと諦めるなどありえないと思ったからである。
(だとしら、なぜ・・・)
とキリュウは考え込んだ。
そしてその横では乎一郎が幸せそうな表情でやはり弁当を食べている。
ちょうどその時、たかしが教室に入ってきた。
彼は教室に太助達の姿がないことに気がつくと、乎一郎達の所に近づく。
「おい、乎一郎。太助とシャオちゃんは。」
とたかしが乎一郎に話しかける。
「太助君とシャオちゃんなら2人で何処かに行っちゃったみたいだよ。」
と答える乎一郎。彼のその一言に、
「今なんて言ったんだー、乎一郎。」
たかしは乎一郎の胸ぐらを掴んで前後に揺すりながら聞く。
「だ、だから、太助君とシャオちゃんは2人して何処かへ行ったって・・」
乎一郎がそこまで言うと、たかしは彼を掴んでいた手を離す。
そして今度はルーアンに向かって、
「ルーアン先生、のんびり弁当を食っている場合じゃないでしょう。」
と言うが、ルーアンは食べるのに夢中になっているのか反応しようとしない。
そしていつの間にか来ていたのか花識と出雲の姿もあった。
「野村先輩、どーせルーアン先生は食い気第一なんですから
ほっておいてあたし達だけで行きましょう。」
とだけ言うと花識は教室の出入り口に向かって駆け出す。
そして、たかしと出雲もその後に続いた。
ルーアンは弁当を食べる手を止めると何も言わずに立ち上がった。そして、
「陽天心召来。」
と近くにあった適当なものに陽天心をかけた。
そしてそれらは教室を出ていこうとしたたかし達3人に直撃し、彼らを気絶させる。
彼女は立ち上がり、3人の方へ近づき、今度は3人の服に陽天心をかける。そして、
「ちょっとこの3人保健室に運んでおいてちょうだい。着いたら大人しくしていなさい。
後でちゃんと解いてあげるから。」
と命令する。そして陽天心服たちは命令通りに保健室へと向かっていった。
そしてルーアンは陽天心をかけた物を元に戻すと、椅子に座り、
何事も無かったかのように再び弁当を食べ始めた。
(いったいどうしたんだろう、今日の先生。)
と乎一郎はルーアンのとった行動に驚きを隠すことができず、驚きの目でルーアンを見る。
と、彼女もその視線に気がついたのか、
「どうかしたの、遠藤君。」
と聞く。
「いえ、別に。」
とだけ答える乎一郎。ルーアンも、
「あ、そう。」
とだけ言うと再び弁当を食べ始めた。それを見て、
(ま、いいか。)
と心の中でつぶやくと、再び弁当を食べ始めた。
結局の所、彼はルーアンと一緒にいられればそれでいいのだから。
(いったいどうしたのだ、今日のルーアン殿は。)
とさらに疑問の渦を深めるキリュウ。そんな彼女に、
「そう言えばキリュウ、今日のルーアン先生のこと知っているか。」
と翔子が言う。
「何かあったのか。」
とキリュウ。
「実はな・・・」
と翔子は今日の社会の授業にあったことを話し始めた。
たかしの挨拶の言葉と共に、ルーアンの授業は始まる。
「じゃあ、野村君、ここの5行目から読んでね。」
と言いながらルーアンはたかしにプリントを渡す。
「あの、これって普通のですよね。」
とプリントを受け取ったたかしが言う。
「あたしが普通の歴史の授業をやっちゃいけないとでも言うの。」
とほほえみながら言うルーアン。だが、その目は笑っていなかったのは言うまでもない。
「いや、そう言う訳では・・・」
と言ってたかしはプリントを読み始めた。
「ああ。みんな驚いていたぜ。
いつもの『たー様伝説』じゃなかったってみんなびっくりしていたぜ。」
と翔子。
それを聞いたキリュウはルーアンに今日の不思議な行動の意味を尋ねようとしたが、
ルーアンは弁当を食べるのに夢中なのか、何の反応もしようとしない。
そして、そうこうしている内に昼休みが終わってしまったので
結局彼女はルーアンに何も聞くことができなかった。
夕方、キリュウは1人で家に向かって歩いていた。そんな彼女に、
「あら、キリュウじゃない。今から帰るところ。」
と声をかける者がいた。ルーアンである。キリュウは、
「ルーアン殿か。まあ、そんなところだ。」
とだけ答える。そのまま2人は並んで歩いていたが、ふと昼のことを思い出してキリュウが、
「そういえばルーアン殿、1つ聞きたいことがあるのだが。」
「聞きたいこと、何。」
「今日はいつもと違うことばかりをやっていたらしいが・・・」
と質問をしようとするキリュウだが、ルーアンは質問の内容を最後まで言わせず、
「ああ、そのことね。たまにはたー様に迷惑をかけないで1日を過ごしてみようかなと思っただけよ。」
とだけ答えた。
「何故・・・」
さらに聞くキリュウにルーアンは、
「何故そうしてみようかと思ったかって。そんなのあたしの気まぐれに決まっているでしょ。
ただそうしたいと思ったからよ。」
とのルーアンの返事に、
「そうか。」
と一応は納得したキリュウ。その時彼女はある事実に気がついた。
(もしかしたらルーアン殿の今日の行動の本当の理由は・・・)
と1つの推論を導き出すキリュウ。彼女はそのことをルーアンに聞こうと思ったが、聞かないことにした。
たとえそれが事実だとしても、ルーアンは絶対にそのことを認めようとしない、
そうキリュウは思ったから。
2人で歩きながらルーアンは、
(今日だけは特別よ、2人とも。今日だけは・・・ね。)
と心の中でつぶやく。そして、
(だけど、明日からはそうはいかなくてよ、シャオリン。)
と再び心の中でつぶやいた。新たな決意を胸に刻んで。
<後書き>
空理さんのとある小説の影響を受けて、ルーアンの話で行こうかと思ったんですけど、
彼女1人だとまとまりそうもないので、キリュウとルーアンの話になりました。
そのため、自分では納得のいく形にまとまったと思います。
後、この話でキリュウが気づいた『本当の理由』は明かす気はないので、
いろいろと想像してみてください。(笑)
もっとも正しい答えを出したからって何かいいことがあるわけでもありませんけどね。(笑)
最後になりましたが、空理空論さん、誕生日おめでとうございます。