Travel Memories


第3話 『たった1度だけ』

那奈達は未だに路上で激しい戦いをしていた。
「陽天心招来。」
とルーアンがそこら辺の者に陽天心をかけて那奈達を攻撃させる。3人はその攻撃をかわすと、
「そろそろ決着をつけた方がいいな。」
「そうだな。」
と翔子と那奈。2人の両手にはたくさんの石などが握られている。
どうでもいいがどこでそんなにたくさんの石を拾ったんだ。
それはともかく、2人が投げた石のいくつかがルーアンと出雲を直撃し、2人は地上へ落下していった。
「やっと終わったな。」
「それにしても相当時間がかかったな。急いで2人を追うぞ。」
と那奈と翔子。そんな2人に、
「だが2人が何処にいるのか分かるのか。」
とキリュウが言う。
「多分、あの2人のことだからこの先の公園にでも行っているだろう。
じゃあ、行方が分かったことだし、行くぞ。」
と那奈の一言に、3人は公園に向かって歩き始めた。

 一方、たかし達3人の太助とシャオを探す旅はまだ続いていた。
「ねえ、野村先輩。」
と花織がたかしに聞く。
「何だい。」
「あそこの公園怪しくありません。」
「よし、じゃあ行ってみるか。」
とたかし。そして3人は公園に向かって駆け出していった。
 そして、運の悪い(?)事に太助とシャオはその公園の中を歩いていた。
「いい所ですね、太助様。」
と言うシャオに、
「あ、ああ。」
と太助は答えるが、
上の空でシャオの話を聞いていたのか返事はシャオの言葉に相づちをうっただけといった感じである。
「太助様、本当にどうかしたんですか。さっきから何か変ですけど。」
とシャオが聞くが太助の耳には入っていないのか彼は返事をしない。
(一体どうしてしまったのかしら、太助様。)
と心の中でつぶやくシャオ。そして太助もまた、
(どうして何回も似たようなことを感じるんだろう。)
と心の中でつぶやいていた。更に彼は、
(もしかしたら俺は・・・)
とある事を思うようになった。
 そしてそんな2人を見つめている3つの影があった。たかしと花識、そして乎一郎である。
「ほら、野村先輩、2人ともいましたよ。あたしの言うとおりだったでしょう。」
と花識が自慢げに言う。
「よし、後は離ればなれになるのを待って『恋の2人っきり作戦』を実行するだけだな。」
と言うたかしに、
「だからそのネーミングセンスのかけらもないような名前を付けるのはやめて下さいよ。」
サラッと言い返す花識。
 さらに太助とシャオを見ている別の3つの影があった。那奈達である。
「ほら、あたしの言うとおりだろ。」
と那奈が2人を見ながら言う。
「それにしても2人ともなんか様子が変だな。」
と翔子が言う。
「確かに。いったいどうしたのだろうか。」
とキリュウ。そんな2人の会話を聞きながら那奈は、
「もしかしたら・・・いや、まさかな。」
と小声でつぶやいた。
 太助とシャオはほとんど会話もなく公園を歩いていた。
シャオは先程から何回か太助に話しかけてはいるのだが、太助は全く返事をしない。
もしかしたらシャオの言葉自体が彼の耳には入っていないのかもしれない。
そんな状況で歩くこと数分、不意に太助が口を開いた。
「あのさ、シャオ。」
と言う太助に、
「何ですか、太助様。」
と嬉しそうに答えるシャオ。太助に話しかけられたのがよっぽど嬉しかったのだろう。
「俺、ちょっとトイレに行って来るからさ、そこで待っててくれよ。」
とシャオに言うと太助は走っていった。
 太助がシャオの視界から消えてまもなく、彼女の背後に現れた1つの影があった。
その影はシャオに近づくと彼女の肩を叩く。シャオは驚いて振り返るが、その影の正体を知ると、
「翔子さん。」
と言って嬉しそうな顔を見せる。
「そういえば七梨の奴は。」
と翔子が聞く。
「太助様ならトイレに行くとおっしゃってどっかへ行きましたけど。」
というシャオに、
「ふーん。」
とだけ答える翔子。そして、
「元気ないみたいだけど何かあったのか。」
とシャオに聞く。その問に対してシャオはしばらく黙っていたがやがて、
「実は・・・」
と翔子にさっきまでにあったことを語り始めた。
 太助はしばらく走っていたがやがて立ち止まると2、3回荒い呼吸をする。そして、
「やっぱり気のせいじゃなかった。俺は昔ここに来たことがあるんだ。だけど、いつ・・・」
と独り言のように言う太助。その時、
「あれ、太助じゃないか。こんなところで何やってんだ。」
と言いながら那奈が姿を現した。もちろんこれは偶然ではなく、那奈は太助の後を追ってきたのである。
「姉貴こそどうして・・・まあいいや。それより聞きたいことがあるんだけど。」
と太助。
「聞きたいこと。何だ。」
と那奈。
「単刀直入に聞くけどさ、俺って前にもここに来た事があるんじゃないのか。」
と太助。彼の一言に那奈はしばらく何も言わなかったが、やがて、
「ああ。お前の言うとおりだよ。」
と静かに語り始めた。
「13年前、つまりお前が1歳になる直前の春だった。あたしたちは家族旅行でここに来たんだ。」
と言う那奈。彼女の告発に太助はしばらく黙っていたが、やがて、
「そうか。たった1度だけの家族旅行って訳か。」
と口を開いた。
「ありがとう、姉貴。じゃあシャオが待っているから。じゃあな。」
と言って駆け出そうとする太助を那奈は、
「ちょっと待て、太助。」
と言って呼び止めた。
 そして数分後、
「それにしてもあのことに何となくとはいえ気づいていたとはな。さすが我が弟だな。
さてと、翔子達が待っていることだしあたしも行くか。」
とつぶやくとゆっくりと歩き出した。
 太助がシャオと別れた位置に戻るとシャオが彼のことを待っていた。
「待たせてごめん、シャオ。」
と太助はシャオに謝る。
「いえ、いいですよ、太助様。」
とシャオ。
「じゃあ行こうか。」
「はい。」
と会話を交わして2人はまた歩き始めた。
 たかしは木の蔭からずっと様子をうかがっていたが、太助が戻ってくるのを見ると、
「何やってんだよ、花識ちゃん。連れ去るって作戦を提案したのは君だろう。」
とつぶやく。ちなみに乎一郎はルーアンを探すために既に戦線離脱している。
「それにしてもどこ行ったんだ、花識ちゃん。」
とさらにつぶやく。そうしている内に彼の目の前で太助とシャオが歩き出し始めた。
それを見たたかしは、
「とりあえず追いかけるか。そのうちに花識ちゃんも戻ってくるだろう。」
とつぶやいて2人の後を追い始めた。が、いくら2人の後を付けていても花識は現れない。
そしてたかしが再び後を付け始めてから1時間近く経っても花識は現れない。
彼も不安になってきたのか、
「どこに行ったんだろう。・・・探しに行こう。」
と言ってたかしは2人の後を離れていった。

     Travel Memories 第3話 たった1度だけ 完
     Travel Memories 最終話へ続く


<後書き>
 太助達の家族達が家を出ていく前に1度は家族旅行という経験があってもよいのでは
という思いで書きました。
 その時は1歳にもなっていないのに、太助が何となくであれ予想がついたのは
おそらく雰囲気で感じたのでしょう。さゆりさんの時のように。
 ということで感想、批判などがありましたらZXH07164@nifty.ne.jpまで。
では最終話で再びお会いしましょう。
それじゃあ、また。



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