幸せをあなたに・・・・


第1話『彼女はまた旅立つ』

太助はふと目が覚めた。枕元にある時計を手に取ると、寝ている那奈を起こさないようにしながら、部屋の外に出て時計を見る。
「何だ、まだ5時半か。だとしたら何で目が覚めたんだろう。」そう言いながら考えてみるが、特にこれといった理由は出てこない。
「まあ起きてしまったのは仕方がない。とりあえず下に行くか。」と言いながら太助は下への階段を下りる。
 階段を下りている途中、太助は誰かが玄関を出ようとしていることに気付いた。
それが自分の姉の那奈だということに気付くまでそう時間はかからなかった。太助は急いで階段を下りると、
「姉貴。」と太助が言う。
「太助。」と那奈は驚いたような声を出したが、
「ひょっとしてお前のこと起こしちゃったか。」と聞く。太助はその質問には答えず、
「また旅行に行くのか。」と逆に聞く。
「ああ。」
「そうか、気をつけてな。」
「じゃあ行って来る。」とだけ言うと那奈は玄関を出ていった。
太助はしばらく那奈が出ていった玄関を見ていたが、
「また4人になっちゃったな。」と言うとリビングの方に行った。
 リビングに入ると太助はソファーに腰をおろした。そして特に何かするわけでもなく、天井を見上げていた。

どのくらい時間が経ったのだろうか。太助は、
「あら太助様、おはようございます。もう起きていらっしゃったんですか。」と挨拶をするシャオの声で我にかえった。
「あ、シャ、シャオ。おはよう。」と太助も挨拶する。
ふと時計を見ると、いつの間にか6時40分になっていた。どうやら彼はうたた寝をしてしまったようである。
「あ、シャオ。俺庭の花壇に水をあげてくるから。」と言うと彼は庭へ出ていった。

太助が庭の花に水をあげていると、
「太助様。」とシャオの声がした。
「どうした、シャオ。」と太助が彼女に聞く。
「那奈さんが・・・」と言いかけるシャオに、
「また旅に出たんだろう。」と太助が言う。
「太助様、知っていたんですか。」とシャオが聞く。
おそらく台所のテーブルの上に那奈が書いた手紙があったのだろう。
「ああ。」とだけ答える太助。そんな彼に、
「太助様、あの・・・」とシャオが少し言いにくそうに言う。
「どうしたの、シャオ。」
「あの・・・那奈さんがまた旅に出てしまって淋しくないですか。」と聞く。
「うーん。淋しくないと言えば嘘になるけど、でもシャオ達がいるから平気だよ。」と答えた。

 そして、那奈が旅に出てから約1週間後・・・
「1週間ぶりの我が家だな。」と旅から帰ってきた那奈が言う。
そして彼女は玄関のチャイムを鳴らす。が、何度ならしても誰も出てこないし、扉が開く気配もない。
「おーい太助、シャオ、ルーアン、キリュウ、どうしたー。」と言いながら扉を叩く那奈。
が何の反応もない。
「太助、開けろー、何で無視するんだ。」と扉をさっきよりも強く叩く那奈。
だけどやっぱり何の反応もない。
「まったくどうしたんだ。そういや、裏口があったな。」と言いながら台所の方へ行く。
途中、窓からリビングを覗いて、始めて那奈はこの家にだれもいないことに気付いた。
そして、裏口の扉を開けようとしたが、こっちも鍵がかかっている。
「なんだ、あいつらどっか行っていたんだ。」と玄関で待ちながら言う。
そして、1時間ほど待っていたら、
「あれ那奈さん。帰っていたんですか。」
「那奈殿、帰っていたのか。」
「那奈姉、帰ってきたのか。」とシャオ・キリュウ・太助が那奈に気付いて声をかける。
「ああ。それより太助、お前達家族そろってどこ行っていたんだ。」と那奈が太助に聞く。
「乎一郎さんの所です。」
「乎一郎の。どうして。」
「今日あいつの誕生日だから、あいつの家でパーティーをやったんだ。」
「そうか。」と那奈。ちなみに、ルーアンは食べ過ぎておなかを壊して太助に背負われている。
「太助。」
「何、姉貴。」
「いや、何でもない。それより早く家に入ろうぜ。」と那奈は言った。

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 幸せをあなたに・・・・ 第2話 へ続く。 4/1



第2話『太助を幸せにしよう計画』

 那奈が旅から戻ってきてから数日後・・・
那奈は家に一人でいた。と言うのも、ルーアンは学校に、シャオは買い物に、
太助はキリュウの試練を受けに行ってしまったからだ。
「ふう、暇だなあ。」と言いながら、水の入ったグラスに口を付けて飲もうとする那奈。
その時、玄関のチャイムが鳴る。
「誰か帰ってきたのか、それとも客か。」と言いながら玄関に行き、
「誰だー。」と言いながらドアを開ける那奈。そこには、
「あれ、太助くんのお姉さん。」
「おー、那奈姉。」とたかし・花織・乎一郎・翔子の4人がいた。
「あれ、翔子達じゃん。そろってどうしたんだ。」と那奈。
「那奈さん、シャオちゃんいる。」とたかしが聞く。
「シャオ。シャオならどっか行ったみたいだけど。」と答える那奈。
それを聞いてたかしの顔色が変わる。そして、
「シャオちゃん、君はどうしてどっかへいってしまうんだー。」と叫ぶ。そんなたかしに、
「野村先輩、今日ここに来た目的が違うでしょ。」と花織がたかしにつっこむ。さらに、
「今日ここに来た目的わかってるんですか。」と聞く。
「そのくらいはわかっているさ。」
「本当に。」
「大丈夫。ちゃんとわかってるって。発案者は一応俺なんだから。」と言い合うたかしと花織を横目で見ながら翔子が那奈に、
「じゃあ七梨はいるか。」と聞く。
「太助はキリュウの試練を受けに行ったみたいだけど。」
「そうか。」と翔子は答えると那奈に、
「ちょっと那奈姉に相談したいことがあるんだけどいいか。」聞く。
「ああいいよ。今だれもいないからとりあえずリビングへ上がってくれ。」と那奈。
「じゃあ、おじゃまします。」などと言いながら七梨家に入る4人。

「で、あたしに相談したい事って何だ、翔子。」とソファーに座りながら那奈が聞く。
「それは・・・野村、お前が説明しろ。」と翔子。
「何でだよ、山野辺。」とたかしが聞く。
「発案者は一応たかし君でしょ。」と乎一郎。
「わかったよ。実はさ・・・」とたかしが那奈にある計画を説明する。
那奈はたかしの話す計画に時々相づちをうちながら聞いている。
「そういう事か。よし、あたし達も協力するよ。」と那奈。
「本当か、那奈姉。」と翔子。
「ああ。実はあたしも同じ事を考えていたんでお前達に相談しようと思っていたんだ。
こうなったら盛大にやってやろうじゃないか。」と那奈。
「それはいいんだけどさ、だけどどうやってルーアン先生たちに知らせるの。」と乎一郎。
「普通に知らせればいいんじゃないんですか。」と花織。
「でもさ太助くんには知られたくないじゃない、花織ちゃん。」と乎一郎。
「確かに遠藤の言うとおりだよな。」と翔子が同意する。
「でもシャオちゃんたちがいるところには必ずと言っていいほど太助がいるしな。」とたかし。
その時、
「ただいま、那奈殿。」
「ただいま、姉貴。」
「ただいま帰りました。」とキリュウと太助とシャオが帰ってきた。
「やばい、七梨達が帰ってきた。どうするかは後で考えよう。」と翔子が言う。
他の4人も彼女の意見に同意した。

 そしてその日の夜・・・
「俺ちょっと部屋で宿題をやっているから。」と言って自分の部屋へ行く太助。
太助が扉を閉める音を聞いてから那奈が、
「シャオ、ルーアン・キリュウちょっと来てくれないか。」と那奈が3人を呼ぶ。
「なあに、おねーさま。」
「何だ、那奈殿。」
「何でしょうか、那奈さん。」と3人が来る。
「実はさ・・・」と那奈が3人にたかしが立てた計画を話す。
那奈が一通り話終えるとシャオが、
「あのそれを太助様のためにやると太助様はどうなるんですか。」と聞く。
「七梨が喜ぶ。」と翔子。
「じゃあ試練にはなるのか。」と今度はキリュウが聞く。
「試練にはならないと思うよ、キリュウちゃん。」と乎一郎が答える。
「たー様が幸せになるならやるわ。慶幸日天の本領を発揮させるわ。」
「じゃあ私も太助様のためなら協力させてもらいます。」
「試練にならないのは残念だけど、主殿のためなら協力するか。」と賛成する3人。
「あ、それと太助には絶対に言うなよ。あいつが幸せになれなくなる。」と3人に言う翔子。
そして、「太助を幸せにしよう計画」(ちなみにこの計画の命名者は那奈)は始まった。

       幸せをあなたに・・・・ 第2話『太助を幸せにしよう計画』完
幸せをあなたに・・・・ 第3話 へ続く。 4/5



第3話『パーティー準備は大忙し』

 今日は4月10日。七梨太助の誕生日である。そして、那奈達の作戦の実行日でもある。
彼女たちは太助のために誕生パーティーをやろうとしているのである。

その日の夕方、太助はいつものように試練を受けにキリュウと共に家を出た。
2人が出たのを確認した那奈はすぐに電話をかける。
そして数分後、たかし・乎一郎・翔子・花織の4人が七梨家にやって来た。
「さて、全員そろったようだし準備を始めるか。」と那奈の一言でパーティーの準備が始まった。
 シャオ・たかし・翔子の3人が料理を作り、他の4人がリビングの飾り付けをやっている。
ちなみにルーアンと花織は料理の方をやりたがっていたが、幸か不幸かたかしのくじ引きにより、
料理の担当はシャオ(彼女は最初から決まっていた)・たかし・翔子の3人になっているのである。
 準備を始めてから15分ほど経ったとき、玄関のチャイムが鳴る。
「あー、あたしが出るよ。」と言って那奈は玄関に向かう。
「もうあいつらが来たのかな。」と言いながらドアを開ける。
と、そこには出雲が立っていた。
「おや、那奈さんではありませんか。」
「何だ宮内か。で、何の用だ。」
「何だとはちょっとひどくありませんか。」
「だから何の用なんだよ。」
「あ、母特製のよもぎ餅と薄皮まんじゅうをシャオさんに持ってきたんですよ。」
「そうか。じゃああたしからシャオに渡しておくよ。さて、用が済んだのならさっさと帰ってくれ。」
「ちょっ、ちょっとどういう事ですか、那奈さん。」
「今あたし達は忙しいんだ。だからさっさと帰ってくれ。」と言って出雲を外に出すとドアを閉めて鍵をかける那奈。
とそこへルーアンが来て、
「誰か来たの、おねーさま。」と聞く。
「宮内が来てさ、これ渡すと帰って行っちゃったよ。」
「何かしらこれ。」と目を輝かすルーアン。
「あいつはよもぎ餅と薄皮まんじゅうだって言っていたけど。」
「もういずピーったら気が利くんだから。」と言って早速食べ始めようとするが那奈は、
「食べるのは後にしようぜ。」と言ってさっさと台所へ行き、冷蔵庫にしまう。
 そしてパーティーの準備が終了し、彼女がその日に呼んだゲストも全員やってきた。
「さてと後はあの2人が帰ってくるのを待つだけだな。」と那奈が言う。

一方太助とキリュウは、
「万象大乱。」
「うわっ。」といつものように公園で試練をしていた。彼女には既にルーアンから準備終了の知らせはきている。
「主殿、今日の試練はここまでにしよう。そろそろ夕食もできているであろう。」
「え、いつの間にかこんなに暗くなっている。」と太助。
「悪いが私は先に帰らせてもらう。」とだけ言うとキリュウは短天扇に乗り、家の方へ飛んでいった。
「ふう、一人で帰るのも試練の内ってか。」と言って太助も家へ向かう。

「ただいま帰った。」とキリュウが家に入る。 
「おお、キリュウお帰り。」と翔子が言う。
「そろそろ太助が帰って来るぞ。みんな準備はいいか。」と那奈。全員がオッケーサインを出す。
 そして家に着いた太助は玄関のドアを開ける。
「太助か、お帰り。」と那奈が出迎える。
「姉貴か。あれシャオたちは。」
「もう食事の支度してお前のこと待ってるぜ。」
「じゃあ服着替えたらすぐ行くよ。」と言って自室へ行く太助。

 服を着替えた太助はリビングの扉を開けて中に入る。が、なぜか電気が消えている。
「何で電気が消えているんだろう。」そう言った瞬間いきなり電気がつく。
そして、
「サプライズパーティー。」と全員が言った。

       幸せをあなたに・・・・ 第3話『パーティー準備は大忙し』完
幸せをあなたに・・・・ 最終話 へ続く。 4/13



最終話『全ての者に幸せあれ』

「サプライズパーティーって誰の。」と太助が言う。
どうやら彼は今日が自分の誕生日だということを気付いていないようだ。
「太助まさか今日が何の日か事気付いてないのか。」と那奈が言う。
「えーっと今日は・・・そうだ今日は俺の誕生日。」と太助。
「やっと気付いたか、太助。」と聞き覚えのある声。思わず太助は声のした方を向く。
そこには父太郎助そして母さゆりがいた。
「お、親父。それに母さんも。だけどどうして。親父はいつもプレゼントを贈ってくるだけだし、
母さんは一度も送ってきたことなんて無かったのに。」と言って太助はしばらく考えていたが、那奈に視線を移すと、
「姉貴。この前旅行に出たのってまさかこのためか。」と聞く。
「そうだよ。」
「姉貴、ありがとう、俺のために。」
「ありがとよ。でもお前が礼を言うのはあたしだけじゃないぜ。」と言って那奈は太助にある方向を向くよう促す。
太助がその方向に向くと、たかし・乎一郎・花織・翔子・シャオ・ルーアン・キリュウがいた。
「みんな。」と言ってしばらく驚いていたが。
「みんな、本当にありがとう。」と言う。
「何言っているんだ、友達じゃないか。」
「そうだよ、太助君。」
「そうですよ、七梨先輩。」
「こういうのをやるのも面白いしな。」
「あたしは慶幸日天よ。たー様の幸せのためだもの。」
「やっぱり太助様のためですから。」
「・・・・・・・・・・・・」とみんなが言う。
だけどキリュウは照れているのかうつむいたまま黙ってしまっている。
「お前も幸せだな、太助。」との声に振り返ると、太田七希と有田実穂がいた。
「七希。それに実穂さんも。だけどどうして。」
「この前たまたまシャオちゃんとお前のお姉さんに会ってさ、このことを知ったんだよ。」
「招待してくれてありがとう、太助君。」と2人が言う。
「そうか。だけど来てくれてありがとな2人とも。」と太助が言う。
その時彼は七希達の横にさらに一人いるのに気付いた。
「出雲。あんたまで来てくれたなんて。」と驚いた様子で太助が言う。
「一応今日暇だったから来たんですよ。」と髪をかきあげながら出雲が言う。
だが照れているのだろうか、かきあげる動作が少しぎこちない。
「そうか。でもありがとな。」
「それにこれを太助君達にも見せておこうと思いましてね。」と言いながら太助に1通の封筒を渡す。
彼は受け取った封筒を見る。
「あれ、聖子さんからだ。」と言って彼は手紙を出す。それには、
『皆さんお元気ですか。
鬼霧山の冬と春の景色を久保先生が撮ってくれたのでお送りします。
他の皆さんにも見せてあげて下さい。
  詩園聖子
追伸:太助さんとシャオさんはあれからどうしていますか』
と書いてあった。
「でそのアルバムは。」
「ほらよ。七梨。」と翔子が太助にアルバムを渡す。太助はそのアルバムを見る。
彼が見終えるとすかさず、
「彼女が元気そうで良かったな。」と言う。
「どういう意味だよ、山野辺。」
「別に。ああ、それとお前にもう1つ手紙が来ているぞ。ほらよ。」
「ああサンキュー。あ、アヤメちゃんからだ。」と言って彼は手紙を見る。それには、
『タスケ殿、シャオ殿、ルーアン殿、皆様、お元気でいらっしゃいますか。
わたくしも元気に過ごしています。
 ところで先日ダンが国にやってきて父上と母上と話をしていたらそなた達のことで盛り上がったのじゃ。
だから手紙を書いた。またいつか日本に来ることがあるかもしれぬ。その時はよろしくたのもう。
                        アヤメ・バイオレット・ランサー』
と書いてあった。
「アヤメさん達元気そうですね、太助様。」
「そうだね、シャオ。」と太助が答える。
「ねー、あたしお腹が空いちゃった。早く食べましょうよ。」とルーアンが言う。
「ルーアンさんの言う通りよ、那奈ちゃん。早く始めましょうよ。」とさゆりも言う。
「そうだな。そろそろパーティーを始めるか。みんな、席に着いてくれ。」と那奈が言う。
ちなみに出雲は那奈に追い出された後窓からリビングを覗いてこのことを知り、
家に帰って聖子からの手紙が来ていたのでパーティーに参加したことをつけ加えておこう。

 そしてパーティーが始まった。ごちそうを食べた後は全員が盛り上がっている。
 離珠と軒轅・ルーアンは珍しく仲良く出雲の母特製の和菓子を食べている。
 花織・那奈・さゆり・たかしはゲームをやっていて
 それを太郎助・翔子・出雲・乎一郎・キリュウが観戦している。
 ちなみに翔子は瓠瓜を抱いている。
 虎賁・羽林軍・車騎なども楽しそうに時を過ごしている。
 そして太助・シャオ・七希・実穂は楽しそうに話をしている。
 その日パーティーは夜遅くまで続いた。

 翌日彼の元に彼の昔の友人から彼の誕生日を祝うカードが送られてきた。

 全ての者に幸せあれ

     幸せをあなたに・・・・ 最終話 『全ての者に幸せあれ』完


     幸せをあなたに・・・・ 完 4/19



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