朝…花織とゆかりん、熱美の3人が通学路を歩いている。
学校…
(もう…山野辺先輩ったら…あ!七梨先輩だ!シャオ先輩も…キリュウさんも)
「きゃあっ!太助様!大丈夫ですか?」
(シャオ先輩のあの表情…それに…七梨先輩のあの笑顔…)
「シャオリン先輩のこと…好きなんですか?」
「……まあ好き…かな」
(わかってたはずなのに…なんで!なんで涙が出てくるの!?)
初めて出会ったあの日
しかしその想い出の中に一つだけ違う人がいたことに彼女は気づいただろうか。
「へぇ!あたしも見たかったなぁ。そのときの七梨の顔」
(全く!シャオリンにたー様ったら!!)
タタタタッ!
「くそっ!花織ちゃんは…どこ行った!?」
「あれ?たー様は??」
「ええ!?愛原が泣きながら走っていったって?」
「と!とにかくだ!愛原を探さないと!」
「ちっ…雨が強くなってきやがったぜ…」
あの日も…こんな雨だったっけ…自分は濡れながらも傘を貸してくれたあの人…
…野村先輩…?なんでここに…?もしかして…あたしを追って…?
バタン!
「ひどい熱だ…」
「傍に…いて…」
今のは…俺にいったのか…?
「花織ちゃん!今…太助を呼んできてやるよ!!」
心が痛んだような気がした…
彼女の傍にいたいと…
「待って…あなたにいてほしいの…野村先輩…」
あたしはもうろうとする意識のなかで何かとても大事な気持ちにきづいたような…そんな気がした…
初めは…単なるあの人の友人だった…
…友人??
その言葉を聞いたとき、俺は一瞬耳を疑った…
ひたすら一途に自分の親友のことを思っていた…
「花織ちゃん…?あれ…?寝てる?」
「あ!虹が出てる…」
「ああ!しまった…とにかく家に連れてかないと!」
「すいませーん!遅れました!!」
そうしてその一日は特に大きな出来事もなく過ぎていった…
そして翌日…
「もう大丈夫なの?花織」
「昨日のは…夢だったのかな…?」
(昨日はどうしたんだっけ…なんで家にいたんだろ…なんかとっても大事なことがあったような…)
(終わり)
「コホン!」
「大丈夫?花織」
「ええ…大丈夫よ。ゆかりん」
「本当に?お母さんにあそこまで行って出てくるなんて…
まぁ花織らしいといえば花織らしいけどね」
「当たり前よ、熱美ちゃん。一日でも七梨先輩に会えないなんて…」
「毎日会ってるじゃないの…」
「まったく…強情だねー」
「七梨先輩…おはようございます…ゴホッ」
「おはよう、愛原…風邪?大丈夫か?」
「ええ…やっぱり七梨先輩、優しいですね」
「そ…そう」
「太助様。ちょっと…」
「ん?どうかした?シャオ。じゃ、愛原また後でな」
「あ、七梨先輩…ちょっと…もう!
風邪ひいてるのに少しくらい付き添ってくれててもいいじゃないですか…」
「愛原…好きな人に風邪をうつさないようにと考えるのが本当の思いやりじゃないのか?」
「山野辺先輩!人はこういうときこそ好きな人に傍にいてほしいものなんです!」
風邪をひいているのも忘れて大声を出す花織。
「もっとも恋なんてしたことなさそうな山野辺先輩にはわからないかもしれないですけどね!」
そういうと走っていく花織。
「ハハ…確かにサラッときついな…」
出ていく花織の背中を見つめながら翔子がボソッと呟いた。
壁の影から三人を見守る花織。
「うわぁ!いきなり何するんだよ!キリュウ」
「試練に決まってるだろう」
「だからといってこんな朝早くから…」
「早くきたからしているのだろう。私は見ていたぞ。
ルーアン殿も起きないうちに二人っきりで先に学校に来たのを」
「ええ!?それは…その…」
顔を赤くする太助。心なしか隣にいたシャオの顔も赤い。
そしてそれを影から見ていた花織の心もズキッと痛んだような気がした。
「ならば十分休んだであろう。いくぞ、万象大乱」
「うわっ!しまった!」
咄嗟でよけられず膝に傷を負ってしまった太助。一筋の血が流れた…
「主殿!しまった…大丈夫か!?」
二人が駆け寄る。
「ああ…ちょっと痛いけどたいしたことないよ…」
「太助様…」
そういうとシャオは太助の傷口に口を近づけると…
「うわっ!な、何を!!」
驚いて途端に真っ赤になる太助。
「え?傷を治すには傷口を舐めるのが一番だって翔子さんが…」
「え、あ、そ…そう」
(ふむ…私は邪魔なようだな…)
そうして短天扇に乗りどこかへ行ってしまうキリュウ。
しかしそれには太助もシャオも気づいていなかった。
そして…硬直している花織も…
「でも…今回はいつもみたいに長沙を呼ばないんだな」
「え?えーと…それは…太助様は…私が…その…」
「…私が?」
太助もシャオもまたもや顔が真っ赤である。
「私が…えーと…秘密です!」
自分の指を太助の口につけるシャオ。
「秘密?教えてくれよ」
「ダメです!」
自分の傷のことも忘れてシャオと笑いあう太助。
その二人の様子はまるで恋人同士…それにしか見えなかったという。
そして…彼女の目にも…
それを見た瞬間。彼女…愛原花織はそれ以上彼らを見ていることができずに
いてもたってもいられなくなり走り出した。
自分には決して見せてくれなかったあれほどの太助の笑顔。
そして彼女の目には…シャオはまさしく自分と同じ恋する乙女に見えた…
(シャオ先輩はやっぱり七梨先輩のことを…そして…)
花織の頭によぎるあのときのあの言葉…
そう思ったときには…すでに花織の目には涙が溢れ出していた。
花織の頭に今までの太助との様々な思い出が蘇ってくる。
太助の想いを聞いた帰り道
夏の民宿での想い出
波乱のバレンタイン
クリスマス…
お花見…
「…なあ 花織ちゃん とりあえず今日のところはさ
俺を 太助の代わりだと思うとか… ……じゃ ダメかな」
「…翔子殿…ん?今走っていったのは花織殿ではなかったか?」
「だよな…でも…泣いてなかったか?愛原」
「私にもそう見えたが…何かあったのだろうか?」
ルーアンは当然だが怒っていた。
(あたしを置いて二人っきりで行ったですって!会ったら問い詰めてやんないと!)
「それで…ルーアン先生!聞いてるんですか?」
「え?あ、なんだっけ?野村君」
「だから…今度の学級会での議事で…」
「あ!たかし君、ルーアン先生と何話してるんだよぉ?」
「な、なんだよ乎一郎。俺は次の学級会について学級委員としてだな…」
「ふぅん…そうだったの。あ、ルーアン先生!今日は何するんですか?」
「そうねぇ…久しぶりに理科の授業でも乗っ取って実験でもやろうかしら」
「ちょっと!真面目に聞いてくださいよ!ルーアン先生!」
「わ、わかったわよ、野村君。ちゃんと聞くわよ。それで…なんだっけ?」
「だからぁ!…ん?今のは…」
「小娘…よねぇ…なんか様子がおかしかったような…」
「そうですよねぇ…」
首をかしげる乎一郎とルーアン。
そのとき!
いきなり花織を追うように駆け出したのは…たかしである。
「ちょ、ちょっとぉ!野村君!どこいくのよぉ!」
「さぁ…?」
「自分で聞けっていっといて…まぁいいわ。行くわよ、遠藤君」
「あ、はい♪ルーアン先生」
(あの娘…確かに泣いてたわよね…
まぁ大勢で行ってもしょうがないし野村君に任せておきましょうか)
「ルーアン先生?何真剣な顔してるんですか?」
(あの娘が泣くなんて…きっとたー様が何か関係してるに違いないわね…)
「ルーアン先生!聞いてますかー?」
「え?ええ…」
タッタッタッタッ…
花織を追って階段を駆け下りるたかし。
(花織ちゃん…泣いてたよな…何があったんだ…?)
たかしが1階まで降りてきて辺りを見まわした。
しかしそこには既に花織の姿はなかった。
「見失ったか…」
「おや、野村君じゃないですか。何をしているんです?」
「宮内出雲!そうだ!花織ちゃん見なかったか?」
「ああ、花織さんなら外に出ていかれたようでしたが?」
「わかった!ありがとな!」
そういいまた全力疾走である。
「はて…どうかしたのでしょうか。花織さん、泣いてましたよねぇ」
首を傾げる出雲。
「まぁ私には関係ないことですが。後でそれとなくシャオさんにでも聞いてみますか」
そういいゆっくりと2年1組の教室に向かう出雲であった。
教室に入りルーアンが口を開いた。
「シャオリンもいないようだけど…キリュウ、不良嬢ちゃん、あんたたちなんか知らない?」
「え?あたしは知らないよ。な、キリュウ」
「ん?あ…ああ」
「ホントかしら…」
「ふぅ…うげっ!ルーアン」
「あら、たー様。どしたの?その傷」
「いや…そのたいしたことないんだよ」
「ふぅん…」
そういいつつ太助と後ろにいるシャオの姿を交互に疑わしげに見るルーアン。
「まぁいいわ。ところでたー様…?」
「う!な、なんだ??ルーアン」
てっきり朝二人っきりで出たことを何かいわれると思っていた太助は次の言葉を聞いて驚いた。
「そうなのよ。と、その様子をみるとたー様は何も知らないみたいね」
「やっぱりあたしたちの見間違いじゃなかったか…」
「待てよ…花織殿はこの教室の前を右に向かって走っていった。
つまりあちらの方向から来たということか?」
「「あっ!」」
同時に声を上げる翔子と太助。
「つまり…キリュウは愛原があれを見たっていいたいんだな」
「そういうことだ、翔子殿」
「あれって…キリュウ…山野辺に何話したんだよ…」
「え…?それはその…事実を伝えたまでだ」
「あれ?事実?一体なんのことよ」
「それは…まぁこっちの話だ」
「教えなさいよ!!」
ルーアンに迫られる太助。シャオは下をみてうつむいている。
「でもそれって花織ちゃんが泣くようなことなの?」
今まで黙っていた乎一郎が初めて口を開いた。
「うーん…そんなことで泣くような愛原じゃないと思うけど…」
「そうだよな…いつもの愛原なら『あー!シャオ先輩、七梨先輩になんてことを!』って…」
「なるほど。つまり小娘がそう思うようなことを二人はやってたわけね」
「え…?あ…」
「山野辺!」
「ごめん…七梨」
冷や汗をかきながら頬をかく翔子。
「あ、たー様、その点なら大丈夫よ」
「なんでだよ?」
「んん…そうね。教えてあげなーい」
「なんだよそれ…」
「おや。皆さん集まって何やってるんですか?」
「あ、出雲さん」
「おっとシャオさん、おはようございます」
「出雲…お前何しにきたんだよ」
「もちろんシャオさんに会いにきたに決まってるでしょう」
そういうと出雲が思い出したように再度口を開いた。
「そういえばさっき花織さんが泣きながら外に出ていったように見えましたが何かあったのですか?」
「外に…?」
「ええ。まぁ野村君が追っていたようなので大丈夫とは思いますがね」
「え!?たかしが…?」
「もう…いずぴー、バラさないでよ」
「ルーアンさん…そのいずぴーってのはどうにも…」
「あ…雨だ…」
窓の外を眺めていた乎一郎が一言、ボソッと呟いた…。
たかしは雨に打たれながらも花織を追ってとにかく走った。
「いた!」
学校の近く…ついにたかしは雨に濡れながら泣いている花織を発見した。
そのとき花織の頭には太助と初めて出会った雨の日のあの情景が鮮烈に浮かび上がっていた。
今思えば…本当は運命の出会いでもなんでもなかったのかな…?あたしの勝手な思い込みで…
彼の隣にはいつもあの人がいた…自分はムキになっていただけだったんだ…
七夕の日、野村先輩のいったとおりだったのよね……バカみたい…あたし…
あの二人の間にはもう誰も入りこめない…あたしは…叶わない夢を見ていただけだったの…?
そんなわけないわよね…きっと…幻よ…
…何か…頭がクラクラしてきた…
「花織ちゃん!花織ちゃん!しっかりしろ!!」
まだ…何か聞こえる…野村先輩の声……何か…暖かい…
花織の額に手を当ててたかしが呟いた。
「誰か…呼んでこないと!!」
走り去ろうとするたかしを1つの声が引きとめた…
そんなはずあるわけない…でも…俺は…
??何かを期待している…?
なぜなんだ…?今…花織ちゃんが一番傍にいてほしいのは…あいつだってことくらい俺でもわかる…
だからいったはずなのに…足は動かなかった。
俺が…願ってるのか…??
何をいったのか自分でもよくわからない…でも…とても心地よかった…
そして…自分のライバルを思う一人の先輩…
それ以上の存在ではなかった…
でも…彼と行動するようになって…何か違ってきたような気がしていた…
うるさくて…がむしゃらで…ネーミングセンスもない…
でも…とても…大切な…友人…
「ホントにそう思っている?」
心の奥のもう一人の自分に語りかけられているような気がしていた…
いつも燃えていて…行動力があって…それでいて…正々堂々としていた…
そして…友人を大切に思っていて…あたしなんかより誇らしく思えた…
自分はなんてバカだったんだろう…
蘇る七夕のときの記憶…
自分を気遣ってくれて…励ましてくれて…傍にいてくれた…
あたしは…心のどこかで…彼のことが…
「待って…あなたにいてほしいの…野村先輩…」
彼女は…俺を必要としている…?
そのとき、自分の中に込み上がってくる熱いものを俺は感じていた。
今まで気づかなかった感情…いや、気づかないふりをしていただけかもしれない…
そんな少女。自分も彼女に教えられた…願いは叶う…
その言葉を信じあの人を見ていた…
しかし…願いはいつまでたっても届きはしなかった…
あの人への気持ちは…単なる憧れであったのかもしれない…
そして…俺が本当に好きなのは…
スゥースゥー…
いつのまにか雨は上がっていた…
「あ!虹が出てる…」
雲間から七色の虹が覗いていた…
「綺麗だな…な、花織ちゃん…って寝てるのか…」
その言葉によりあたしは微かに目を開いた…
そこには…雨上がりの空に広がる綺麗な虹と…
大切な誰かがいたような気がした…
たかしは花織を後ろに背負うと花織の家へ急いだ。
「だ、大丈夫!?花織!すいません!」
そういい花織の母がたかしから花織を受け取った。
「そういえばあなた…学校は?」
「ああっ!しまったぁ!それじゃ!!」
再度猛ダッシュで学校へ戻るたかし。
「そういえばあの子…なんだったのかしら…」
「何やってたのよ、野村君。まぁいいわ。今回は許してあげる」
何もかも知ってるくせに回りくどくそういうルーアン。
「ふぅ…」
「愛原はどうだった?たかし…」
「なんだ…もう聞いたのかよ。ま、今は自宅で休んでるよ」
「そっか…」
「はい、そこ!私語しない!」
休み時間にルーアンたちから質問責めを受けていたこともまた事実だが。
「そうよ。あんたが倒れて早退したって聞いてびっくりしたんだから」
「もう全然大丈夫よ!一晩寝たら治っちゃった」
「ま、それならいいけど…」
「おはようございます!七梨先輩!!」
「愛原…風邪はもういいのか?」
「ええ!もう全然!!」
「クシュン!」
「あら野村先輩、風邪ですかぁ?」
「え?いや…そうだけど…」
「ふぅん…お大事に。ところで七梨先輩!聞いてくださいよ…」
そう小さく呟き、またくしゃみを繰り返すたかしであった。
というわけで結局何も変わらなかった二人ですが…
心のどこかで何か変わったのかな?ってな気もする秋の午後でした。
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