まもって守護月天!二次創作☆お正月☆

著:レオン 仕上げ:ふぉうりん



「ふぁ〜。今日も良い天気だな〜」

 目を覚ました太助は、あくびをしながら一歩一歩階段を下る。


やっぱりまだ眠いなぁ〜。昨日の大晦日パーティーのせいだろうな。結局一晩中たか

しの一人カラオケに付き合わされたからな



 と太助は、心の中で一人ぼやいた。それと同時に、あの後たかしは無事に家に帰りつけ

たのだろうかと少し不安になった。たかしの性格を考えると
「よし!これから初日の出を

見に行くぞ!」
とか言い出しかねないが、自分達にお呼びが掛からないところみると、ど

うやら年明け早々の大暴走はなかったとみえる。年明けからたかしのことばかり考えるの

もどうかと思うので、太助は頭の中を切り替えることにした。

「今日から新しい一年がはじまる。今年こそ…今年こそシャオに告白するんだ!」

 と一人意気込みながら、太助は階段を下りきってリビングに入って行った。

「みんな、おはよ〜」

「あっ、太助様、あけましておめでとうございます♪」

「た〜様。あけましておめでと♪」

「主殿か…。あけましておめでとぅ…」


ああ、ルーアンが俺よりも早起きして、しかも振袖なんか着てる。って感心す

るところはそこじゃないな。シャオは今年も振袖かぁ、相変わらず可愛いなぁ。



 と頬が思わず緩んでしまうところを太助はなんとかこらえた。でれでれと緩みきった顔

をルーアンやキリュウにみられてしまうと何を言われるかわかったものではない。それに

しても、キリュウは昨日も夜更かしをしたのか、とても眠たそうな顔をしていた。もしか

して徹夜だろうか?余談だがシャオとルーアンは振袖であったことに対して、キリュウだ

けは普段着だった。

「キリュウ。眠たかったら寝てもいいんだぞ?」

「いや…今日は元旦だからな…起きてる」

 太助はキリュウがちゃんと日本の元旦を意識しているとは思わなかった。しかし、元旦

だから起きてるというのもどうかと思う。寝てても起きてても、元旦には違いない。

「頑張るのもいいけど、あんまり無理するなよ」

「ああ、そうする。主殿。年明け早々心配をかけて、すまんな」

「別にいいよ。心配って言うほど大したことしてないし、それよりもキリュウが眠気で急

にぶっ倒れたりした方が大変だ」

「確かにそれは主殿の言う通りだな。ふふっ」

どちらともなくふたりで笑いあう。太助がソファに腰をかけようとすると、何の前触れ

もなく、横からいきなりルーアンが飛びついてきた。太助は新年そうそうからコレかよ。

と驚くのを通り越して何処かあきれてしまった。

「た〜様。私からのお年玉欲しい〜?た〜様が望むなら、私の全てをア・ゲ・ル(ハート)」


やっぱりそうきたかうーむ、二の腕にあたるこのふくよかな感触・・・ってこれは胸を押

し付けてるのか!?



 と、思ってもやっぱりいつものことなので、いつものようにあしらうことにした。本来

中学二年生ならもっとドキドキしそうなところなのに、ルーアンのせいで太助のその辺り

の感覚が明らかに麻痺していた。

「い、いや、いいよ。遠慮しとくよ…」

「もぅ〜。た〜様ったら本当は欲しいくせに」

 と、体をくねらせながらウィンクするルーアン。

「だぁ〜!もう、いいかげん離れろ。ルーアン!」

「もぅ。た〜様ったら、いけずぅ〜」

「はいはい。いけずでいいから離れてね」

 正直そういうことは、喜びそうなやつだけにやってくれればいいのにと太助は思ったが、

口するのはよろしくないような気がしたので、黙っておく事にした。

 太助があらためてソファに座り直そうとすると、今度はキッチンからシャオの声が聞こ

えた。

「すいませ〜ん。誰か手伝ってもらえませんか〜?」

 渡りに船とはこのことだった。ルーアンを振り切って更にシャオの手伝いが出来る。そ

の上これは、今年初のシャオと太助のふたりの共同作業だ。
『ふたりの共同作業』なん

てすばらしい言葉の響きだろうか。太助はこの言葉を頭の中で反芻するだけで、心から嬉

しさが泉のように湧き出てくる。しばらく頭の中で繰り返しいたが、太助は自分の頭の中だ

けが時間が止まっている訳じゃなかったと我に返えり、キッチンに向かった。

「シャオ。手伝いにきたよ」

「太助様」

 ぱっと花が咲いたかのような笑顔をシャオが見せてくれた。やっぱりシャオは可愛い。

「俺は何をしたらいいの?」

「そこのお料理をテーブルに並べてください」

 シャオが指し示した先にあったものは、料理の詰まった重箱だった。

「あれ?ウチに重箱なんてあったっけ?」

「去年の大掃除で倉庫を掃除していたら見つけたんですよ。折角だから使ってみたんです

けど。もしかしていけませんでしたか?」

 顔を曇らせながら、太助に尋ねるシャオ。太助はそんな顔のシャオが見たい訳ではない。

「いや、大丈夫だよ」

 自信は無かったが、太助は言い切ることにした。

「じゃあ、テーブルに並べるよ」

「助かります。太助様」

「いいよ。俺もシャオの手伝いが出来てうれしいから」

「ありがとうございます」

「お安い御用さ。おせち料理か、すごくおいしそうだな」

「見よう見まねで作ったのですが…そういってもらえると嬉しいです♪」

 俺は言われたとおりおせち料理をテーブルに運んだ。重箱をテーブルに並べた瞬間、

夢見る少女のように目を輝かせて嬉しそうな顔をしたルーアンは、いろんな意味で凄かった。

「ルーアン。つまみ食いしちゃダメだぞ」

「わかってるわよ」

 即答するルーアン。もちろん口先だけだ。


こんなおいしそうな、おせち料理を前にして「おあずけ」をおとなしく聞い

てられるもんですが。そんなこと無駄無駄よ。それにしても、このダシ巻き

卵おいしそうね〜。いっただきま〜す



「あ〜おいしぃ〜。シャオリン、あんたってやっぱり料理の天才だわ。このダシ巻き卵は

最高よ♪」

「あっ!ルーアン。さっき言ったばかりなのに…」

 やっぱり我慢できなかったかと、諦め半分で苦笑するしか太助には出来なかった。

「ルーアン殿。つまみ食いは、行儀が悪いぞ」

 キリュウも非難めいた口調でルーアンを咎める。

「ありがとうございます!ルーアンさん」

 そしてシャオだけは、ルーアンの誉め言葉に素直に喜んでいた。もはやルーアンのつま

み食いとか食いしん坊っぷりは、七梨家ではあたりまえになっていたので「いつものこと

だから仕方が無い」で、片付けることにした。もし、ここで更にルーアンを責めるような

文句を言ったらルーアンはきっと
「つまみ食いを誘うほどおいしそうな料理を作るシャオ

リンが悪いのよ」
とむちゃくちゃな論理展開で言い訳どころか逆ギレをしていたに違いな

い。


 
 シャオが残りのおせち料理の入った重箱をテーブルに並べ終わり、朝食となった。

「「いただきま〜す」」

 色とりどりのおせち料理が彼等を魅了する。シャオ手作りのおせち料理は見た目をさる

ことながら、味も絶品だった。

「おいし〜。ホント、シャオリンの料理は最高よ!」

 とルーアンは暴食よろしくの食べっぷりを見せつけてシャオの料理を絶賛する。

「うむ。シャオ殿の作ったおせち料理は、甘すぎず、辛すぎず、とてもおいしいな」

 とても彼女らしく、いつも通りの落ち着いた口調で、シャオの作ったおせち料理を評価

した。

「太助様。お味はいかがですか?」

「うん!とってもおいしいよ!シャオ」

 太助の言葉を聞いたシャオは嬉しそうに頬を赤らめて、少し恥ずかしそうに目を伏せて

瞳を少しそらしながら。

「ありがとうございます。太助様。…その、そんなに喜んでもらえるなんて、私…」

 それはそれは、嬉しさでいっぱいの顔をしたシャオは、一度言葉を切ってから、そらし

ていた瞳を太助に向けなおし、彼の顔を正面から見つめて、胸の前で両手の指を組んでこ

う言った。

「私、とっても嬉しいです!」

 シャオの後ろで一斉に白百合の花が咲いたような幻を太助は見た。咲いた花はもちろん

満開だった。

 そんな様子をルーアンが面白いと思うはずもなく
「正月そうそうからいちゃつくなー!」

と、テーブルをひっくり返す勢いで怒鳴り散らし、ひとりもくもくとおせち料理を食べて

いたキリュウは、その手を休めて
「これも試練だな」とつぶやくのであった。





 ピンポーン

 七梨家のチャイムが鳴る。太助が正月早々だれだろう?と玄関先まで出ていくと、ドア

の向こうには、正月らしく振袖を纏った山野辺翔子の姿があった。

「おう七梨!あけましておっめでとさん♪」

「ああ、おめでとう」

「今年こそシャオと行き着くところまでいっちまえよ〜」

 と翔子は何を想像してるのか、ニヤニヤしながら、今年最初の冷やかしの言葉を太助に

浴びせた。

「い、行き着くところって、どこだよ!?」

 太助は、言葉につまりながら顔を赤くして、翔子の言葉に反応した。

「おやぁ?七梨君。あたしは何も具体的なことは言ってないんだけどなぁ?そんなに顔を

赤くして、やっぱりエッチなことを想像したのかな?」

 してやったりな顔で笑う翔子に、太助はまたしてもしてやられたと悔しい思いをするの

であった。

「で、あがるんだろ?」

「ほう。黙秘か。何考えてたか顔色から大体分かるから別にいいや」

 太助は作り笑いを浮かべながら無理やり話題をそらしたつもりだが、翔子は遠慮なくト

ドメを刺して、太助がへこむのを確認してから履物を脱いだ。

「あはは。悪いな、七梨。新年早々から遊ばせてもらっちゃって」

 リビングに向かう翔子の数歩前を歩く太助は、分かっているなら多少手加減をして欲し

いと心底思うのだった。



「翔子さん。あけましておめでとうございます♪」

「翔子殿、おけましておめでとう」

「不良お嬢ちゃん。今年もよろしくね」

「三人とも、あけましておめでとう。ってルーアン先生。どうしてあたしの返事の挨拶聞

かずに、食事にもどるかな」

「翔子さん。おせち料理を作ったのですけど、ご一緒にどうですか?」

「ああ、いただくよ。七梨もからかえたし、シャオのおせち料理にもありつけて、今年は

幸先いいな」

「翔子さん?太助様をどうされたのですか?」

「いや、こっちのこと。シャオは気にしなくていいことだよ。な?七梨」

 話を振られた太助としては、先ほどのやり取りをシャオに言うわけにはいかなかったの

で、翔子の言葉に相槌を打つだけだった。

 翔子がシャオのおせち料理を美味い美味いと褒めちぎっていると、ピンポーン。と、ま

たもや七梨家のチャイムが鳴った。翔子が尋ねてきたのである。次にくるのはだれなのか、

太助には大体の予想がついた。

「よぉ、太助。おけましておめでとう。シャオちゃんいるよな?」

「あけましておめでとう、太助君。もちろんルーアン先生もいるよね?」

 太助は内心「やっぱりこいつらか」と思いながら苦笑した。

「あけましておめでとう。たかし、乎一郎。シャオもルーアンもちゃんと居るよ。それに

キリュウも山野辺もな…」

 と正直に答えることにした。

「ふーん。山野辺も居るのか、あいつも暇人だな」

 自分のことを棚に上げてなんとやらである。

「たかし君。それを言ったら僕達だって十分暇人だよ」

 相変わらずたかしの発言に対する乎一郎のつっこみは見事なものだった。

「乎一郎。男は細かいことばっかり気にしてると大物になれないぞ」

「別に細かくないと思うけど…」

 乎一郎はつぶやくが、当然のようにたかしの耳には届かなかった。

「よかったよかった、シャオちゃんはいるのか。それじゃあ、おじゃまするぜ」

「僕もおじゃましま〜す。」

「はいはい。どうぞ。あがりなよ」



「シャオちゃん。あけましておめでとう!今年も俺のハートは真夏の太陽の如く真っ赤に

燃えてるぜ!」


「ルーアン先生。あけましておめでとうございます!!」

「あけましておめでとうございます。たかしさん。乎一郎さん。でもたかしさん。今は冬

ですよ?」


 たかしの言葉を中途半端に聞いてたのか、シャオらしいぽけぽけな返答だった。

「はいはい。あけましておめでとう。野村君。遠藤君」

 ルーアンは、食べる手を休めて、首だけたかし達に向けて挨拶を返し、再びおせち料理

を食べ始めた。

「野村殿に遠藤殿。あけましておめでとう」

「やっぱりお前らも来たか、暇人だな。まぁいいや。あけましておめでとさん。」

 先ほどのたかしと同じようなことを言った翔子の言葉を聞いた太助は、一生懸命笑いを

こらえていた。





「さぁ。みんな!この俺。正月がもっとも似合う男。野村たかしがやってきたんだ。

何をやるかわかってるよな?」


 と、おもむろに人様の家のリビングでその場を仕切り始めた。太助は内心「もっとも正

月の似合う男ってなんだよ?」と突っ込んだが、正月といえば、たかしなんかよりも神主

の仕事をしている宮内出雲の方が良く似合うような気がした。

「お正月恒例。俺こと野村たかし主催、大ゲームたいか〜い!!

どんどん!ひゅーひゅー!ぱふぱふ!」


 と自分の口で効果音をつけてしまうくらい、たかしは一人で盛り上がっていた。

「ゲームですか〜楽しみです♪」

「え〜?ゲーム〜?大食い大会にしない?」

 正月くらいはのんびりしたいと思っていた太助だが、残念ながらここに居る者たちは、

たかしのゲーム大会にノリ気だった。


ルーアンらしいけどあれだけ食っただろ乎一郎も大変だな〜


「ルーアン先生…まだ食べる気なんですか…」

「ルーアン殿…どれだけ食べたら気が済むのだ。お腹をこわすぞ」

「あたしのお腹なら大丈夫よ。陽天心菌がお腹の中で生きているから」

 食べ過ぎるとすぐにお腹を壊して、トイレにこもったあと、何事もなかったかのように

すっきりした顔をしてまた暴食をはじめることができるのは、陽天心菌のおかげらしい。

すぐにお腹を壊してしまうあたり、偉大なんだか偉大でないんだか、正直な話、陽天心菌

のありがたみは微妙なところだった。

「よし!じゃあ、やるぜ!やってやるぜ!」

「ところで何をやるつもりなんだ?たかし」

 太助が至極当たり前の質問をたかしに投げると、その言葉を聞いた途端、たかしの動き

が硬直した。

「おい野村。まさか何も考えてないなんて事はないよな?」

 翔子の鋭い指摘に、たかしはますますぎこちない動きになった。

 暫くの間、棒立ちのたかしとそれを眺める皆。そろそろ誰かがたかしを助けてやらない

とかわいそうだ。

「そうだな。正月らしく羽根突きなどはどうだ?野村殿」

 キリュウが珍しくたかしを助けるような意見を口にした。その言葉を聞いた太助は、心

のどこかで試練とは関係ないことになって欲しいと願うのだった。

「おお!それだ羽根突きだ!ありがとうキリュウちゃん!」

 たかしはキリュウに
「おお!我が心の友よ!ありがとう!」といわんばかりに、キリュ

ウの手を両手でがしっと握った。突然手を握られたキリュウはちょっとびっくりしていた。

「そういえば俺の部屋に羽子板と羽があったような…」

「よし!早速とって来い!太助」

 先ほどの消沈振りが嘘のように急にたかしは元気になった。そのうえ家主に命令口調。

まさにやりたい放題だった。

…はいはい」

「太助様。私も何かお手伝いしましょうか?」

「いや、いいよ、シャオ」

「でも…私。太助様のお役に立ちたいんです」

 新年そうそう意地らしい姿を見せるシャオに、太助は胸を打たれた。

「よし、それじゃあ、一緒に探そうか?」

「はい。太助様♪」

 そう言ってふたりは太助の部屋へ羽子板と羽を探しにリビングから出て行った。その後

ろ姿を見送るルーアンとたかしが少し悔しそうにしていたのは言うまでも無い。



 20分後

「あったぞ〜」

「遅かったじゃないか、太助」

「案外、羽根突きの道具探すのに時間が掛かった訳じゃなかったりしてな」

 翔子が面白半分で人の悪い笑顔を浮かべながら、いいかげんな事を口にする。太助は

言われてから
「その手があったか」と、ちょっと残念そうな顔をした。それを見逃さ

なかった翔子は
「せっかくのチャンスを勿体無い」と肩を竦めて首を左右に振った。

「よーし、太助。早速シャオちゃんとのデートを賭けて勝負だ!」

「シャオとデートだと!何勝手なこと言ってるんだ」

「別に構わないではないか。これも主殿には、良い試練になる」

「なんだよそれ?」

「シャオ殿との“でぇと”が掛かっては、主殿も負けるわけにはいかないだろ?」

 確かに言われてみればそうだった。

「いいのか七梨?やらなきゃ野村がシャオとデートするんだぞ?ってシャオはいいの

か?」

 翔子にとっては完全に他人事だ。もはやこの一戦は彼女にとっては面白イベントになっ

ているに違いない。

“でぇと”ですか?いいですよ〜♪」

 シャオの快諾により決定した。場所は庭へと移り、いまここに
『シャオとのデート権』

をかけた太助とたかしの勝負のひぶたが切って落とされようとしていた。

「やっぱりさ。羽を落とした方は、顔に墨だよな?」

 翔子の自称グッドアイデアに、太助とたかしは二人で同時に
「山野辺の奴め、余計なこ

とを言いやがって」
と翔子をにらむ。このとき二人の心は一つになっていた。

「羽子突きって何年ぶりだろう…」

 太助が羽子板の握りの部分を握りなおしながらつぶやく。シャオとのデート権という大

きな賞品に少しプレッシャ−を感じているのか、手の平が少し汗ばんでいた。

「太助。この羽根突きがもっとも似合う男。野村たかしに果たして勝てるかな?」

 不敵に笑うたかし。今彼の脳内では、彼がもっとも輝いているに違いない。ついでに
「カ

ッコイイ…俺」
なんてモノローグが流れて自分自身に酔いしれていることだろう。

 ったくお前はいくつもっと似合う男なんだよ。心の中で至極当然のつっこみを太助は入れた。

「お二人とも、がんばってくださいね」

「七梨。シャオのためにも負けんなよ!」

「野村君。シャオリンとのデートが掛かってるんだから、しっかりがんばりなさいよ!」

「ルーアン先生が、応援してるから、たかし君がんばれー」

「乎一郎。お前が俺を応援する理由はそれでいいのか?」

「ほっといてやれよ。乎一郎が満足なら、それで良いじゃないか」

「よし、ルーアン先生と乎一郎の応援を俺の力に変えて、太助。お前を倒す!」

 たかしは、ぴしっと人差し指で太助を差して、高らかに宣言した。

「熱血ってガラじゃないけど、これは負けてられないな」

 たかしとは対照的に、太助は静かに呟いた。

「お互い全力を尽くすといい。それでは、はじめ!」

 キリュウの合図で、試合が始まった。

「いくぞ。たかし」

「よし!こい!太助」

 太助がバドミントンの要領で下から羽を打ち上げた。

「ところで翔子さん。どうして私のためなんですか?」

「シャオだって七梨とデートしたいだろ?」

「はい」

 少し頬を赤らめて、翔子の言葉にうなずいた。彼女たちのやり取りは太助にもたかしに

も聞こえた。太助はその言葉に鼓舞し、たかしはいきなり奈落に突き落とされたような気

持ちになった。この時点で既に勝敗は決したと言ってもよかった。

「あっ!しまった!」

 先ほど会話を聞いてしまって動揺したのか、早速たかしは羽を取り落とした。

「たかし悪いな。これもルールだし」

ぺちゃ

 と音を立てて太助はたかしの顔に筆で墨を塗った。ちなみにこの筆と墨は離珠愛用の品

だ。手近にあったものがそれしかなかったので、拝借することになった。

 ほとんどラリーの続かない羽根突き。どんどん真っ黒になっていくたかしの顔。

「たかしくん。もうすこしがんばらないと」

ぺた

「どーすんのよ。野村君。このままじゃヤバイわよ」

ぺたぺた

「あはははは!野村。すこしは見れる顔になったぞ」

ぺたぺたぺた

「野村殿。これも試練だ。耐えられよ」

ぺちっ

「たかしさんごめんなさい。これも決まりですから」

ぬりぬり

 各々一言ずつ言葉を口にしながら、たかしの顔に墨を塗っていった。



 こうして始まった試合だが、ものの数分で太助の圧勝という形での終局を迎えようとし

ていた。

「もぅ、野村君ったら!このままだったら、たー様とシャオリンがデートしちゃうじゃな

いの!こうなったら奥の手よ!」



『陽天心召来!!』


 ルーアンは手にした黒点筒をバトンのようにクルクルと回して陽天心召来を放つ。

「野村君を手伝いなさい!陽天心羽!」

「ハネハネ〜!」

 かわいらしい泣き声(?)とは裏腹に、打ち上げられた陽天心羽は信じられない速度で

上昇したかと思うと、今度は太助めがけてこれまたすさまじい速度で落下してきた。めち

ゃくちゃ嫌な予感が、電気のように太助の体を突きぬけた。

「ちょっと!陽天心羽!たー様にあたる…たー様!!」

 ルーアンが悲鳴をあげ、みんなが驚くような顔をする。

 太助の視界が激しくゆれて、目の前にいくつもの星が見えたような気がした。少し遅れ

パキンと乾いた音が太助の耳に聞こえた。みんなの声が遠くに聞こえる。そして太助の

意識は暗転していった。

「太助様!!」

「主殿!!」

「七梨!!」

「太助!!」

「太助君!!」

 太助の安否を気遣う悲鳴とも叫びともつかない声が口々にあがった。





 次に太助が目を覚ますと、心配そうにこちらを覗き込むシャオの姿が真っ先に目に入っ

た。

「ん…ここは?」

「太助様!!大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だよ」

「ほんとに大丈夫ですか?」

 シャオは今にも泣き出しそうな顔で、もう一度太助にたずねる。太助は出来るだけ

優しい笑顔で答えた。

「心配かけたね。もう大丈夫だよ、シャオ」

「うう〜。ホントによかったです。あれ…嬉しいのに涙が…ひっく」

 シャオはしゃくりあげて、泣き出してしまった。太助はよしよしとシャオの頭を抱いて、

軽く撫でた。しばらくそうしているとシャオは泣き声はだんだん小さくなっていった。

「あの…太助様。もう大丈夫です」

「わかった。けどもう少しこのままで居たいんだけど…。いいかな?」

「太助様もですか、よかったぁ」

 結局太助もシャオももう少しこのままで居たかったので、お互い黙ったままそうしてい

た。

「ところでシャオ。俺は一体どうなったんだ?」

「ルーアンさんが羽に陽天心をかけて…」

「直撃か…」

「はい…」

 まるでシャオが何か悪さをしてしまったかのように、しょんぼりと、そして申し訳なさ

そうに返事をした。

「ルーアンさんも悪気があってやったんじゃありませんし…」

「わかってるって、誰にでも失敗はあるもんな」

「本当にすいません。太助様」

「どうしてシャオが謝るんだよ」

「だって私、守護月天なのに、太助様をお守りすることができませんでした」

 またそれかと太助は内心へこまされたが、へこたれている場合じゃない。ここは一つ話

題を変えて「守護月天なのに」と気に病んでいるシャオの考えを吹き飛ばす必要があった。

「シャオ!あのさ、今度デートしないか?」 

 あまりにも唐突な言葉だった。シャオの沈みかけた気持ちをひっくり返すだけの威力は

十分にあった。

「え?でぇとですか?」

「俺とのデートは嫌?」

「そ、そんなことありません!嫌だなんてとんでもない!」

「じゃ、OKだよね?」

「はい!喜んで!」

 満月のように輝く満面の笑顔でシャオが応えた。

 こうして無事シャオとのデート権を賭けた勝負は終わったのである。


 一方ふすまの向こうで聞き耳を立てていた面々は。

「七梨のヤツ。自分からデートに誘うなんて、なかなかやるじゃん」

「まさか、こんなことになろうは。ルーアン一生の不覚」

「ルーアン先生が余計な事するからだろ!もう少しで俺の華麗な逆転劇で、七梨を打ち負

かす事が出来たのに」


「あの状況からよく言うね。ルーアン先生。気を落とさずに、僕がついてます」

「勝負は最後まで分からないだろ!世の中には絶対なんて言葉は存在しないのだ!」

「野村殿。あの状態から試合をひっくり返すのは、多分無理だったと思うぞ。しかし、主

殿もなかなか言うようになったではないか。…これも試練の賜物か?


 とかなんとか口々に勝手なことを言い出し、しまいには口論となってみんなでふすまを

部屋の内側に倒してしまい、太助に怒鳴られるのは、お約束であった。


 後日、神主の仕事が大忙しで抜け出してこれなかった出雲お兄さんと、家族で田舎に帰

っていた花織ちゃん。それに海外旅行中の那奈は、それぞれ今回の話を聞いて喜んだり、

悔しがったりしてましたとさ


おしまい



レオンあとがき
今回はじめての、小説を執筆という事で私の、ダメダメ小説を
ふぉうりん殿に手伝ってもらい、無事完成した作品です。
日常的な七梨家のお正月を想像してやらせてもらいました。
この小説を、読んでくださった皆様、そしてふぉうりん殿
本当にありがとうございました!!
私は、これからも、少しつづ頑張るので暖かく見守ってやってください(笑

2005年1月17日


ふぉうりんあとがき
なんだかんだですき放題肉付けをしていったら、案の定は倍の量になってしまいました
m(_ _;m
結構色々やってしまいましたが、レオンさんの作品の原型はしっかり残っていると思います
…多分(おい)
それにしても本当にすき放題にビルドアップしてしまったものです(苦笑)

2005年1月16日

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