Milky Way Love Story

〜天の川の恋物語〜

 

「なぁ……最近雨が多いよな。」

たかしが傘を取り出して言った。

「何当たり前なこと言ってんだよ、たかし。今は梅雨だぞ?」

太助が突っ込む。

「…でもさ、雨の降り方が変だよね。」

乎一郎が言った。太助もそういえば…という顔をする。

「珍しく晴れてるなぁと思ったら急に降り出すし」

「まだ小降りだから大丈夫だなんて思ってるとすぐに激しくなっちゃうし」

「夜は必ず雷が鳴るんだよな」

今のは上からたかし・乎一郎・太助の順だ。

ゴロゴロ………

「げっ雷が鳴り始めたぜ」

太助が歩くスピードを上げた。

「雷が激しくなる前にさっさと帰ろう」

「おう」

乎一郎とたかしもペースをあげた。

何故、シャオ・ルーアン・紀柳は太助達と帰らなかったのか?

それはシャオ達が一足先に学校を出ていたからである。

「ねぇ、ルーアンさん、紀柳さん。」

シャオが話しかける。

「何?」

「何だ?」

「この雨…誰かの泣き声に聞こえませんか?」

シャオの言葉に、ルーアンと紀柳は驚いた顔をする。

「あんたも聞こえたの?」

「ルーアン殿もなのか?」

「え、じゃあ2人共聞こえるんですか?」

…………………

少しの間沈黙が続いた。

「で。誰が泣いてるんだと思う?」

沈黙を破ったのはルーアンだった。

「空から聞こえるぐらいだから空の住人だろうな」

「お星様でしょうか」

「星が泣くと思う?」

相変わらずのシャオにルーアンが突っ込みを入れる。

「え、お星様だって泣きたいときがあるかもしれないですよ?」

「生き物じゃないんだから…」

「あ、そうですね。」

ポケポケな緊張感のない会話に紀柳が冷静な一言を放った。

「行ってみればわかるのではないか?」

ルーアンはガビーンとギャグ顔になった。

シャオは素直に感心している。

「と……と、とにかく!上に行くわよっ!!!」

気を取り直してルーアンが叫ぶ。

「はい!来々、軒轅!」

シャオが軒轅を呼びだし、

「陽天心召来!」

ルーアンが丁度良いところにあった物干し竿に陽天心をかけ、

紀柳が短天扇を大きくして飛び乗った。

《非道い……非道い……》

シャオ達が上に登って行けば行くほど泣き声がはっきりと聞こえてくる。

「どの位まで上に行くんですか?」

もう、雨を降らせている雲の上まで来ていた。

「ちょっとぉー!!こんな空の上で泣いてんのは誰よ―!!!?」

ルーアンが声を張り上げた。

「あなた達、誰?私の声が聞こえるの?」

すぐ近くで、鈴の鳴るような可愛らしい声が聞こえた。

「貴女が、泣いていたんですか?」

シャオが訊くと、また同じ声が聞こえた。

「あなた達私の声が聞こえるのね?!丁度良かった!こっちへ来て!」

「こっちってどっちよ… ―――――!!!」

辺りを見回したルーアンが息をのむ。

すすーっと雲が動いて、美しい着物に身を包んだ女の人が現れた。

「いらっしゃい!私は織り姫。話を聞いてもらえるかしら?」

にっこりと微笑む織り姫。

「織り姫さんですね。私はシャオリンと申します。シャオと呼んでくださいね。」

シャオがにこやかに応える。

「あたしはルーアン」

「わ…私は、紀柳だ」

2人も自己紹介をする。

「シャオと、ルーアンと、紀柳ね。よろしく。」

もう一度織り姫はにこりと笑う。が、すぐにその可愛らしい笑顔は悲しみと怒りに満ちた顔になった。

聞いてよ!!織り姫といえば彦星でしょ?その彦星がね、地上に降りたっきり戻ってこないの!!

今日は、一年に一度2人が会うことを許された七夕だって言うのに!このままじゃ今年は会えないことになっちゃう!!」

「ふーん、それで泣いてたのね。」

ルーアンが言った。

「そうなのよぅ…非道いのよ!!彦星ったら、ちょっと様子を見たときにね、女の子をナンパしてたの!」

「ルーアンさん、ナンパって何ですか?」

シャオがポケポケと尋ねた。

「…いずぴーがよくやってることよ」

ルーアンはてきとうに答える。シャオはやっぱりわからないらしく、紀柳にも訊いた。

そこで紀柳が真面目に説明し始めたため、実際に織り姫の話を聞いているのはルーアンだけになった。

しかし織り姫はそんなこと気にしていない。

「私は一時も彦星のことを忘れたこともなかったし、一度も彦星以外の男の人に声をかけたことなんて無かったのに!

言い寄る男は掃いて捨てるほどいたけどね。」

織り姫が涙を拭うと雨足は弱まる。だが、織り姫がまた泣き出すと雨足はまた元に戻る。

つまり最近降っていたおかしな雨は織り姫の涙だったのだ。

「……織り姫さん、私達に何か手伝えることはありませんか?」

「そうね。ここまで話を聞いたら放ってはおけないわ。」

「うむ。私達が力になるぞ」

3人は織り姫に笑顔を向けた。

「……いいの?」

織り姫は不安げな顔で3人を見上げる。

「まっかせなさい!!」

どーんと胸をたたくルーアン。流石はルーアンといったところか。

「……有り難う……」

織り姫が笑った。涙で歪んだままの顔で。そしてぐいっと力強く涙を拭った。

「早速お願いしても良いかしら?」

どことなく元気になった織り姫。瞳に輝きが戻ったようである。

「何なりとどうぞ」

シャオが優しく答えると、織り姫は3人の前に一通の手紙を突きだした。

「これを彦星に渡して欲しいの!!!」

「……これを?」

目を点にしたルーアンが聞き返した。

「そう、これを!!この手紙、彦星に早く帰ってきて欲しくて書いたんだけど、どうやって渡して良いかわかんなくって。」

ぺろっと舌を出す織り姫。只泣いていただけではなかったのだ。

「しかし…その彦星殿は何処にいるのかわかるのか?」

またしても紀柳のシビアな突っ込みがはいった。織り姫は急に暗い顔をして言った。

「……わかんない。だって、彦星ふらふらしてて一定の場所に留まらないんだもん。決まった時間にしか下界見れないし…」

「探すの大変ね。」

ルーアンがもはや疲れた声を挙げた。これも彼女らしいといったところなのだが。

「ねえ、今何時?」

織り姫が尋ねた。シャオがたまたま持っていた時計を見る。

「五時ですわ」

「もしかしたら見られるかも……」

そう呟くと織り姫は懐から鏡のようなものを取り出した。

「「「鏡?」」」

「うん。これで彦星の様子が見られるの。丁度良い時間だったみたい♪見えるわ」

「何処に居るの?」

「えぇーっと………鶴ヶ丘の商店街で………あーん!!!!!またナンパしてるわーっ!!!

織り姫の叫び声で、ルーアンの顔に怒りが現れる。

「シャオリン!紀柳!さっさと行って彦星をここに連れてくるわよ!!!」

「ルーアンさん、連れてくるのはなく手紙を渡すだけですよ!」

「いいじゃない!!手紙を渡してから連れてくれば!!!」

怒りをあらわにしてずんずんと進むルーアン。それを心配そうに追いかけるシャオと、何かを考えながら追う紀柳。

織り姫も彦星に悲しみより怒りを強く感じたらしい。

「こーなったら私の代わりに一発殴ってきても良いわよ!!ルーアン!!!!」

と叫んでいる。

「わかったわ!!この慶幸日天ルーアンに任せなさい!!」

3人は雲を突き抜け、下界へと降りていった。

どんどんと下へ降りていく3人。しかし、紀柳は何かを考え込んでいる。

「……………………なぁ、シャオ殿

「なんでしょう?」

暫く考え込んでいた紀柳だが、側にいたシャオに耳打ちした。

彦星殿の顔を知らないのに、どうやって見つけるのだ?

「───!! る、ルーアンさん!!大変です私達彦星さんの顔を知りませんわっ!!!!!」

シャオが慌ててルーアンに向かって叫ぶ。そう。3人とも彦星の顔なんて知らない。どんな姿をしているのかすら知らないのだ。

「え?シャオも紀柳も見たこと無いの?」

先の方を飛んでいるルーアンが振り返った。

「見たことあるはずがないのではないか?」

「私も知りませんわ」

シャオも紀柳も首を横に振る。

「な、ななななな何言ってんのよ──────!!!!!

あたしはシャオリンか紀柳がわかると思ってたのよっ?!何でわかんないの?!」

「……それは、無責任すぎると思うぞ。」

またまた紀柳のシビアな突っ込み(?)が入る。

「う……」

流石のルーアンも堪えたようだ。シャオが呟く。

「私達が知っている彦星さんの情報は…ナンパ師さんだということだけですわ」

それを聞いた瞬間、ルーアンの表情ががらりと変わった。

ふ…そうよ!その手があったわ!!

いきなり不敵な笑みを浮かべ、ガッツポーズを決めるルーアン。

「ど、どうしたんですか、ルーアンさん?!」

「いきなりどうしたのだ?」

驚いた表情でルーアンを見やる2人。

「やっぱりあたしって天才ね!!綿密で完璧な彦星おびき寄せ作戦を思いついたわ!!」

そんな2人の表情も気にせずにルーアンは胸を張って2人に作戦の内容を語った。

作戦の内容はこうだ。

まず、シャオ・紀柳・ルーアンの3人が商店街を何気なく歩く。

そうすると、精霊3人の可愛らしさ(?)に彦星が声をかける。

(シャオ達をナンパした人に片っ端から「彦星さんですか?」と聞くらしい。<おい)

彦星が見つかったら、手紙を渡し、一発殴り、連れてくる。

(手紙を渡す意味があるのかは訊いてはいけないらしい<おい)

雲の上の織り姫のところへ連れていき、無事に2人は七夕に会うことが出来る。めでたしめでたし。

「名付けて、『彦星にナンパさせて織り姫の所に連れて来るわよ大作戦』!!!」

ルーアンが人差し指をビシッと立て、決めポーズをとる。

シャオは「素晴らしい作戦ですわ」とにこにこ顔だ。紀柳は複雑な表情をしている(ナンパというものが恥ずかしいらしい)。

そして、3人は颯爽と(?)路地裏から商店街の表通りにでたのだった。

(ナンパのシーンは本当にいろんな人に声をかけられたため、早送りでお送りします)

「なかなか見つからないわね…」

「シャオ殿、今ので何人目だ?」

「えーと、16人目ですね」

「なーに、今の!!ムカつくっ!!!」

「ルーアンさん、きっともう少しですから我慢してください」

「…いまので38人目か…」

「………もう、やめにしない?」

「だめですわルーアンさん!織り姫さんと約束したじゃないですか!!」

「今ので………50人目だな」(マジかい)

本当に沢山の人に声をかけられた。今日は商店街全体がセール中らしく、沢山の人が歩いている。

その中でも3人は特に輝いて見えた。(少なくとも年頃の青少年からは)

「ねぇねぇ、キミたち可愛いね。一緒にお茶、どぉ?」

3人にとって聞きたくもないありふれた台詞が投げかけられた。

3人が振り向くと、そこには黒髪の、古風な感じのする青年がいた。

「……あんた、彦星?」

ルーアンが単刀直入に訊いた。彦星は、驚いた顔をしたまま硬直した。

「図星だったようね」

ルーアンが安堵の溜め息をついた。まだ硬直している青年─おそらく彦星にシャオが手紙を差し出した。

「彦星さん、織り姫さんからお手紙です」

「…………………織り姫が……」

ぽつりと呟いて手紙を受け取る彦星。そして、手紙の封を切る。

「………………」

手紙を読みながらだんだんと俯き始める彦星。暫くして、彼は便箋を封筒にしまった。

──と、その時だった。

バキィ

ルーアンの右ストレートが彦星の顔面にクリーンヒットした。

「ぐふぅ……」

「悪いわね。織り姫との約束なのよ」

「あぁ…彦星さんかわいそう」

「ちょっとやりすぎではないか?」

2人が言うが、ルーアンは耳を貸さない。さっさと捨てられていた絨毯に陽天心をかけ、気絶した彦星を乗せた。

「早速織り姫のところにレッツゴー!!!」

織り姫との約束を果たせたルーアンが上機嫌で空へと上っていく。

「あっ待ってくださいルーアンさん!!」「ルーアン殿やはりやりすぎなのでは……!!」

シャオと紀柳も慌てて後を追う。…紀柳は少しずれたことを言っていたが。

「織り姫─────っ!!彦星に手紙を渡して一発殴って連れてきたわよ────!!!!」

雲の上でルーアンが叫ぶと、織り姫が現れた。

「本当?!有り難う!!!!」

織り姫が駆け寄ってきた。

「……さっき会ったとき、そんなに豪華な着物来てたっけ?」

ルーアンの言う通り、織り姫はとても豪華で重そうな十二単を着ていた。

「だって…折角彦星に会えるんだし…」

顔を赤らめて言う織り姫。彼女だって恋する乙女なのだ。

「織り姫さーん!」

ようやくシャオと紀柳が到着した。

「ありがとね、紀柳にシャオ」

織り姫が微笑む。シャオと紀柳も微笑み返す。

うぅ…ん?」

ルーアンに殴られて気絶していた彦星が、目を覚ました。

「……っ!彦星…………っ!!」

織り姫が彦星に駆け寄る。

「会いたかったぁ………っ!!!」

そして彦星の首筋に抱きついた。だが、対する彦星は…

「キミ、誰?」

バコォ

織り姫のアッパーカットがまたまたクリーンヒットした。

「がはぁっ」

再び彦星は気絶した。

「あぁっ!!!」

「な…なんてことしてんのよ、織り姫!!!」

「織り姫殿?!」

皆驚きの表情で織り姫を見た。織り姫はぺろっと舌を出して笑った。

「なんか、記憶喪失になったみたいだからまた衝撃を与えたら治るかなーなんて……」

「うーん、それも一理あるわね」

「でもそうだとしたら記憶喪失を起こさせたのはルーアンさんが殴ったからってことですか?」

「う……」

ルーアンがたじろぐ。

しかし織り姫は笑ったまま言った。

「いーの、いーの。そうだとしても気にしないで!ルーアンは約束を果たしてくれたわけだし」

紀柳は心の中で呟いた。

(ただ、織り姫殿も彦星殿を殴りたかっただけなのでは………)

流石に、本人の前では言えなかった。

うぅ…そう何度も何度も殴るなよ…」

少し打たれ強くなったのか、彦星が目を覚ました。

「彦星っ♪私のこと、覚えてるわよね?」

織り姫が笑って尋ねる。しかし、瞳の奥にはとても深い怒りが見える。

「……だ……誰、だっけ?」

彦星は惚けたように答える。誤魔化そうとしているのがバレバレである。

「殴るよ?」

「ご…ごめんなさいぃぃぃぃ!!!頼むから殴らないでぇぇぇぇ!!!!!(;;)」

静かな脅しだった。その時の織り姫の瞳は、怪しく光っていたという…

「忘れたなんて言わないわよね?」

再び織り姫が尋ねた。

「うん……手紙読むまで忘れてたけど

彦星は嘘の付けないタイプなのだろうか。

「何か、一言多くなかったかしら?」

「いいえっ何も言ってませんっ」

彦星は慌てて首を横に振った。

「良かった。やっと戻ってきてくれた……ずっと心配してたんだから……」

少し離れたところで、精霊3人は織り姫・彦星のやり取りを見ていた。

「2人とも会えてよかったですわ」

「…何か、彦星はあのまま下界にいた方が幸せだったのかもしれないわね…」

ルーアンが疲れた顔で言った。

「彦星殿は、精神的な鍛錬が必要なようだな」

「もしかしてあたし達、彦星に悪いことしちゃった?」

「そんなことありませんわ」

シャオが落ち着いた声で言った。

「彦星さんだって、とっても幸せそうですわ」

そういってシャオは一年ぶりの再開を楽しんでいる2人を優しく見つめた。

ルーアンと紀柳も、シャオに習って2人を見つめる。

─そこには心から幸せそうな二つの笑顔があった―

 

☆エピローグ?☆

太助「シャオたちまだ帰ってないな。そろそろ空理空論の誕生日パーティーの準備しなくちゃいけないのに」

那奈「おい、シャオの手料理はどーすんだよ。空理、めちゃめちゃ楽しみにしてたぞ?」

たかし「うぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!シャオちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!

花織「うるさいですよ、野村先輩!料理のことなら私が作りますから心配しないでください!ね、七梨先輩」

太助(聞いてない)「ギリギリまで待ってみるか」

乎一郎「僕たちで出来るだけの準備をしておこう」

花織「聞いてくださいよぉ……七梨先ぱぁい…(って出番これだけ…?)」

たかし「シャオちゃぁぁぁぁん!!!帰ってきてくれぇぇぇぇぇ!!!!!」

出雲「五月蝿いですってば……はぁ、何故大人の私がこんなしょぼい役を………」

離珠(シャオしゃまー…早く帰ってきてくだしゃーい)

 

 

〜Fin〜

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