『キネマの天地へようこそ!』外伝II 1話『太田&有田、再び』
Presented
by 阿畑啓八郎
ここは鶴ヶ丘公園。
今日は彼女とある知り合いの家におじゃまするということで待ち合わせをしているところである。
それを愛原花織は見逃さなかった。
しかし彼女は気付かなかった。彼と“彼”との違いに…。
「あ、七梨先輩見つけた。」
彼女は悪戯な笑みを浮かべながら呟いた。
彼はちょうど前のベンチに座ったので、くさむらから音を立てずに出て、彼の後ろに立った。
「だぁーれだっ!」
「ん?後ろから来るということは、美穂さんか?」
彼が行った女性の名前は聞き覚えのない名前だった。そして彼は振り返る。
「そ、そんなぁ、あたしというものがありながら…(涙)」
「七希君、待った?」
「あ、美穂さん。」
「ところで、その子誰?」
美穂はチョイチョイと目の幅涙を流している少女を指さしていった。
「どうやら俺を『あいつ』と勘違いしたらしい。」
「ふぅん、それならいいけど…。じゃあ行こう。」
二人は仲良さそうに並んで歩いていった。一方花織は未だに目の幅涙を流していた。
無視されたのがよほど悔しかったのだろう。
ピーンポーン
「はぁーい、いま出ますぅ。」
パタパタと走ってくる音が聞こえる。その音は次第に大きくなり…
「あら、こんにちは。さあ、あがって下さい。」
「「おじゃまします。」」
二人を迎え入れると出てきた少女はパタパタと2階へ上がっていってしまった。
玄関であっけらかんとしていた二人の前に彼そっくりの“彼”が現れた。
「よう、久しぶりだなあ、七希。美穂さんとうまくやってるんだろうな。」
「ええ、私は七希君を離したりしないよ。」
美穂は七希の腕に自分の腕を絡めて言ったのだ。七希は少し頬を紅潮させていた。
「ま、こんなところで話すのもなんだし…」
「そうだな、じゃ、おじゃまするよ。」
三人はソファーに腰掛け、いろいろな事を話していた。近況、一昔前の思い出とか…。
話しているうちにシャオが“お茶”を持ってきてくれた。
また台所へ戻ろうとするシャオを太助が制し、話をしようということになった。
「なあ、どうなんだよシャオちゃんとは?」
「ルーアンが邪魔してとても…。キリュウの試練もあるしな。」
「あれ?また居候が増えたの?」
美穂の問にこくこくと頷く。
そう、あれはひとつの荷物から始まったのだ。
「七梨さん、宅配便です。印鑑お願いします。」
「ハーイ。」
そうして俺は印鑑を持って玄関に走った。
(で、でかい…)
俺はそんな荷物を後目にはんこを手渡した。
とりあえずリビングに運んで封を解いたわけだ。
『ニーハオ、太助!(以下、あまりにもくだらないので省略いたします。)』
(まだ中国に居座ってるのか、あいつ…。あーー手紙読む気にもならん…。)
内心で親父のことをとことん毒づいてやった。そして更に声に出して毒づいた。
「ったくこんなわけわかんねーもん送ってきやがってどうしろっつーんだよふざけんな!!」
とりあえず俺はその変な置物の周りをチェックした。
「正面、異常なーーし。…側面、異常なーーし。なーんだ、『○天シリーズ』ってわけじゃないみたいだな。」
○天シリーズって何…?そ、そんなことはどうでもいい。
しかし、その置物の足下にすっごく小さい『おまけ(笑)』ってのがついている扇子みたいなのがあった。
っていうか本当におまけみたいだった。
「うっへー、ちっせえなー。なんだろう、扇?」
それを開いたときにシャオが買い物へ行こうと誘ってきたんだ。
んで、買い物の途中で…
「というわけだな。」
「お前、とことんいじめられてねえか?特に親父に…とか。」
太助はそうかもなとつぶやきながら頷いた。
「でも、成長できるチャンスなんだから損じゃないか。だから必死になって試練受けてるってわけ。」
「んじゃあ、今度の舞台挨拶、太助に頼んじゃおっかな。」
その隣で美穂がムスッとしたのを見ると、笑いながら冗談だと言ったのだった。
シャオはクスッと笑いながらいいなぁと呟いた。もちろん誰にも聞こえないほど小さな声で…。
「え…?」
3人は同時にシャオの方を向いて、きれいなハ長調を奏でた。
シャオは視線が集まって戸惑っていたが
「な、何もないですぅ!」
と言って顔を少し紅く染めながら台所に身を退くのだった。
とぅ びぃ こんてぃにゅうど……
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阿畑啓八郎