*『基本時に』真琴ENDの後の話パート1です。
ネタバレあり






日本古来より、七夕とは織姫と、彦星が
会うことができる日、とされています。
そう、この日は、彼らにとって好きな人と再会できる
至高の時でしょう。
しかし……
















七夕の日に願うこと





「なぁ、天野。」
学校から帰る途中、私は相沢さんに声をかけられました。
「何でしょうか、相沢さん。」
「実はさ…、今日、家で七夕パーティーやるんだ。
こないか?」
七夕パーティーですか?珍しいですね。
私の家では一度もそのようなことはやった覚えはありません。
「実は真琴がさ、幼稚園で七夕パーティーというのをやったから家でもやりたい、
っていいだしたんだ。それでさ。」
ああなるほど。
真琴が発端ですか…。
「でさ、天野がきたら真琴も喜ぶと思うんだ。
だから…、きてくれないか。」
「ええ、いいですよ。」
いつもの調子で私は答えました。
「そうか…、よかった。」
相沢さんはとりあえず、安心したようです。
「じゃあ、七時に来てくれよな。」
「はい、分かりました。」




夜七時、私は相沢さんのところに行きました。
「あぅ、美汐〜!」
真琴が一番に迎えてくれました。
因みに真琴は浴衣を着ていました。
…私も浴衣姿で、ここにきたんですけどね。
「真琴、その浴衣、よく似合ってますね。」
「うん!真琴もこの浴衣お気に入りなの。」
本当にうれしそうです。
「ところで、真琴は短冊になんて願い事を書いたんですか?」
玄関先にささの葉があったのを思い出し聞いてみます。
「教えてほしい?」
「ええ…。」
まぁ、聞かなくても大体分かりますけどね。
「あててみて。」
「肉まんをたくさん食べたい。ですか?」
「わ、美汐、どうして分かったの?」
真琴が驚いた顔を見せます。
「いつもの真琴を見ていれば分かりますよ。」
「あぅ…。でもね、願い事ってそれだけじゃないんだよ」
「真琴、願い事を二つ以上するのはルール違反ですよ。」
「あぅ…、いいの。さ、あててみて。」
得意満々の顔で聞いてきます。
そうですね…。
「ピロとずっと一緒にいられますように、ですか?」
「わ、美汐、エスパー?」
真琴はほんとに驚いています。


「ね、真琴、天野さん、一緒に花火しない?」
そんなことを話していると、水瀬先輩からそういわれました。
「あぅ、やるやる。」
そういって、真琴はねずみ花火に火をつけます。
私は巻き添えを避けるため少し真琴から離れます。


シュルルルルル…


ねずみ花火に火がつき、そこらへんを動き回ります。
真琴は本当に楽しそうにそれをみています。
「水瀬先輩、私に線香花火をいただけませんか?」
「え…、いいけど、線香花火じゃなくても他にも色々な花火があるよ。」
「いえ、私はこれが一番すきなんです。」
「ふーん。じゃあ、はい。」
私は水瀬先輩から花火を受け取りました。
私は線香花火に火をつけます。




「天野、今日きてくれてありがとな。」
私が線香花火をやっているところに相沢さんがきました。
「真琴は…、大丈夫ですか?」
一呼吸おいて、私は気になっていたことを聞いてみました。
「ああ…、帰ってきてから、もう二ヶ月になるけど、何も変わったことはないよ。」
「そうですか…。よかったです。」

真琴が帰ってから、もう二ヶ月がたっていました。
私たちがものみの丘にいったとき、寝ていたのを発見したんです。
あのときの相沢さんのうれしそうな表情は今も忘れることが出来ません。
始めのうちはまた消えやしないだろうか、
と不安になりましたが、大丈夫なようで一安心、です。

「辛く…、ないのか?」
「何がです?」
一呼吸おいて相沢さんは言葉をつなげました。
「あいつは帰ってきたけど、天野の大切な人は…」
「相沢さん…。」
「おれさ、ずっと心配してたんだ。
天野が真琴と一緒に遊んでくれないんじゃないかって…。」
「もし、天野の大切な人が帰ってきて…、俺にその子の事を紹介されても、
多分、俺はそのこと一緒にいられないと思うんだ。
どうしても真琴のことを思い出してしまいそうだから…」
「相沢さん…。」
「天野は強いよな、俺とは違って…。」
そういって相沢さんは私のほうを見ます。



「だって私は…」
「?」
「だって、私は…、真琴の、友達ですから。」
一瞬、きょとんとした顔を相沢さんが見せたかと思うと、
こういいました。
「やっぱり、天野は強いな。」


「あぅ、美汐も短冊に願い事を書く?」
相沢さんと話をしていたところに真琴がきました。
手には短冊とマジックをもっています。
「そうですね…、かきましょうか。」
そういって私はマジックをあけて願い事を書きます。




相沢さん…、私は決して強くはないんですよ。
真琴が帰ってきた日、どれだけ私がベッドの上でないたか
あなたは知らないだけです。
真琴が帰ってきて、うれしくて流した涙もあるでしょうが
多分その殆どが嫉妬から来る涙でした。
昔、何度私が短冊に『あの子が帰ってきますように』を書いたか
分かりません。
でもあの子は帰ってきていません。
真琴は帰ってきたというのに。






「あぅ、美汐、どうしたの?」
マジックを開けて何もかかない私を不審に思ったのか、
聞いてきました。
「いえ…、なんでもないです。」



いまでも、私はたまに相沢さんに嫉妬の感情を抱くことがあります。
でも、そんな感情を抱いてもむなしいだけです。
そんなことで、あの子が帰ってくるわけではないんですから。




そう思うと、短冊に昔書いた願い事もむなしいだけにすぎません。
そんなことで願いがかなうわけではないんですから。
だけど…、




だけどやっぱり私は…、
短冊にこの願い事を書いてしまいます。


『あの子が帰ってきますように…』と。


「あぅ、あの子って誰?美汐?」
「むかし、遠くに行ってしまった人の事ですよ。」
「ふぅーん。…美汐、帰ってきてくれるといいね」
「ええ…。」
私は笹に願いをつるしました。




笹に願いをつるした後、
私は空を見上げました。
満天の星空です。
今宵は彦星と織姫が天の川を隔てて、再会をはたしているのでしょう。


私には再会は許されてませんが…。


「美汐〜、こっちに来て、線香花火とは違う花火をしようよ。」
そういって真琴が私を呼ぶ声が聞こえてきました。
…やりましょうか、線香花火とは違う花火も。

たくさんの花火をやり終えたときはもう10時半でした。
真琴と、水瀬先輩が眠そうにしています。
「じゃあそろそろ終わりましょうか。」
秋子さんがそういい、終わることにしました。
「じゃあお休み〜。」
「あぅ、お休み。」
よっぽど眠かったのでしょう、
そういって、真琴と水瀬先輩は家の中に入っていきました。
相沢さんと秋子さんが散らかった花火をかたずけはじめます。
…私も手伝いましょうか。




3人でかたずけたので、すぐ終わりました。
「秋子さん、このささの葉どうします?」
そういって相沢さんがささの葉に手をかけます。
「ささの葉は明日の朝、かたずけましょう、じゃあ、おやすみなさい
美汐ちゃん。」
「じゃあ、天野、またな。」
そういって、相沢さんと秋子さんは家の中に入っていきました。



私も、帰りましょうか。
そういって、夜空を見上げます




織姫と彦星は今ごろ、今宵の別れを悲しんでいるのでしょうか。








…真琴、あなたはずっとここにいられますよね?
織姫と、彦星のように少しの間だけしか一緒にいられない、
ということはないですよね。




そこまで考えたとき、私は気づきました。
私も相沢さんに負けないくらい真琴の事が大好きなんだ、
という事実に。
あの子のかわりではない、
’沢渡真琴’という少女が本当に好きなんだ、
ということに。








ふと縁側を見ると、まだ使っていない、
短冊がおいてありました。
あれは…、私に真琴が持ってきたものですね
かたずけるのを忘れていたのでしょう。












私はマジックを手にとり、もう一つ、願い事を書きました。
…真琴にルール違反だという資格はありませんね。

『真琴と…、ずっと一緒にいられますように』

そう書いて、短冊に願いをつるします。







…あの子が還ってこなかったとしてもせめて…、
この願い事だけはかなえさせてください。
私は小さな声でそうつぶやきました。


FIN

真琴ENDのさいごのCGは解釈が二つあります。
一つは本当に真琴が物見の丘で寝て祐一の事を待っている
という解釈。
もう一つが祐一の願望。
私は前者でした。
(因みに清水さんの小説では後者です)
これは私の前者の解釈をした小説です。
因みになぜパート1なのかは、気にしないで下さい。

では


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