『とある別れ』

              

               ---after five years---



「壊れないで・・・、お願い・・・。」
彼女は声を上げて祈った。
しかし、むなしくも、
それは、明らかに壊れていった。
彼女の出てきた、"器"が・・・。


ピキ・・・、ピキ・・・。



助けて・・・、
苦しい・・・、
苦しい・・・。
助けて・・・。
彼女は器が壊れると共に、激しく苦しみだした。
彼女は気づいた。
自分がもう限界である事に。
来るべき時がきてしまったのだ。

ピキ・・・。

いつかこうなる事はわかっていた。
しかし、こんなに早くこの時がくるとは思っていなかった。

ピキ・・・。


今までの事が走馬灯のように思い出されていく。
今までの数百年の思いでが・・・。
そして、ここ数年の事が思い出されていった時、
彼女は思った。

ピキ・・・。

最期に、彼の声を聞きたい。
彼に会いたい。
私が、最後に出会う事の出来た、
やさしい、ご主人様に。


彼女は声にならぬ叫びをあげて祈った。
壊れないで・・・、お願い。もうすこしだけ・・・。

その願いもむなしくそれは壊れていった。
そして・・・、

ピキン・・・。


『御主人・・・・さ・・・、ま・・・。』

それは完全に壊れ、彼女はいなくなった。






「ただいまーー。」
彼はそんな事があったとは知らず、いつもどおり家に帰ってきた。
 

彼が帰ってきた時、
部屋の中には誰もいなかった。
そこにあったのは、ただの真っ暗な空間と恐ろしいほどの静寂…。












部屋の電気がついていなかったので、
ひょっとしてどっかでかけたのか?
と彼は最初そう思い部屋にあがった。






上がった時、部屋にある、
粉々になった"物"
があるのに気が付いた。










何だ・・・?
何だあれは?
そう思い、"それ"がある方に一歩づつ近づいた。






近づいた時、それがなんであるのか
すぐに分かった。
しかし、認めたくはなかった。
決して。









それは、
彼女が出てきた、『器』だった。








 



「嘘だろ・・・。」
彼は声を上げていた。








彼女といつか話していた事が頭を過ぎる。
『これが壊れた時、私はいなくなってしまうのです。』
『いなくなるって?』
『これは私と一心同体の物、だから、これが壊れた時、
私は消滅してしまうのです。だから、大事に扱ってくださいね。』









大切に扱っていたのに・・・、
彼女は、"死"んだんだ・・・・・。
彼はしばらくたってから、ようやくその事実を認めた。 
器が壊れてしまい、彼女もいなくなった。
当然のように。
なんて、あっけない"死"だろう・・・。








目の前には死体もないし、
彼女がいた事を示せるものは何もない。
彼女は消滅した。

あるのは、ただ思い出だけ・・・。






『はじめまして・・・、ご主人様』








彼女との出会いが思い起こされる。
彼女がきてから、俺の生活は変わった。
彼女は俺の沈んだ気分から、開放してくれた。








彼女がきてから、俺の暮らしはかわった。
・・・、彼女のポケポケした雰囲気が、俺に安らぎを与えてくれた。
彼女のそのポケポケさのために、
戸惑った事もあったけど、
そんな事も楽しかった。




彼女との思い出がよみがえる。
電車に乗って映画を見に行った事。
遊園地に行った事。
祭りに行った事・・・。









いろいろな事を思い出すが
思い出す事自体が、辛い。
彼女はもういないんだから。
 

その事実を再確認した後、
また気分が沈む。


ちょうど、彼女とであったときのように。


こうなって初めて気づいた。













―――俺は彼女の事が好きだったんだ――――










彼女の幸せそうな顔が、頭の中をよぎる。
彼女の泣いた顔が頭をよぎる。
彼女の微笑んだ顔が頭を過ぎる。



俺は彼女といて幸せだった。



そして、彼女の事が好きだった。






・・・、気づくのが遅すぎた。
あまりにも遅すぎた。
失って初めて気づく事になるなんて。
気づくチャンスはいくらでもあったのに。
彼は声を上げて泣いた。








 













ふと気づくと、台所にいっぱいのお茶があった。
彼女が最後に入れたお茶であろう。
何も考えずに、そのお茶を一口飲む。


美味しい・・・。


彼は心の底からそう思った。
でも・・・、
彼女はもういない。

一番彼女が聞きたかったこの言葉を彼女に伝えられない。
それが、たまらなく悔しい。
好きであった事を伝えられなかった、それ以上に。

「美味しいよ、このお茶」

もう一口飲んで、口に出していった。
涙があふれてくる。




『ありが・・・とう』

一瞬、彼女の声が聞こえたような気がした。
自分の幻聴かもしれない
しかしその声にたいし、彼は一言こういった。






「こっちもこの五年間、ありがとな、茶都美・・・。」
と・・・。


後書き
どうも、はじめまして?グEです。
読んでいただきありがとうございます。
ちなみに、私がここのホームページに作品を送ったのは初めてではありません。
御用とお急ぎでなければ、ぜひ探してみてください。
((空理さんにお願いして違うところに載せてもらった。(内容により…。))
(ちなみに、ラウンジボードに書いたのはこの作品ではありません、
近いうちにまた送りますので、よろしかったら読んでください。)
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