ねえ、祐一……どうして私を見てれくれないの……?


 私はこんなに祐一の事が好きなのに……


 私じゃ駄目なの……?


 私より好きな人がいるの……?


 そんなの嫌だよ………


 私だけを見て。


 私だけをずっと見ていてよ。


 私以外の人を見るのなら………


 私以外の人を見続けるのなら………


 私を見てくれないのなら………


 私を見てくれるように………


 その人を…………







ブラッディ名雪







 商店街。
 部活が終わった後、私はとある人物を求めてここに来ていた。
 そして、その人物はすぐに私の前に姿を現わした。
「あゆちゃんっ」
「あ、名雪さん!」
 あゆちゃんはいつもの様に、笑顔で背中の羽根を揺らしながら駆けてくる。

 …………こういうところが、祐一は好きなのかな……?

「名雪さん、今から帰るの?」
「うん。部活だったからね」

 それに、祐一が一緒にいたら困るからね……

「ね、あゆちゃん。次の日曜日、うちに遊びに来ない? お母さんも会いたがってるよ」

 嘘だけどね。
 お母さん、私に協力してくれるって言ったんだ。
 その日は祐一と買い物に出かける事になってるんだよ。

「え!? いいの!?」
「もちろんだよ〜」

 いいから言ってるんじゃない。わからないの?

「じゃあ行くね! 楽しみだな〜♪」
「うん、待ってるからね」

 ふふ……私も楽しみだよ、あゆちゃん……

「あ、そうだ。お昼一緒に食べたいから、そのくらいに来てくれないかな?」

 そうすれば、お母さんが祐一と一緒に出る時間も決めやすくなるし。
 何よりまた朝から来られたら、祐一と会っちゃうしね……

「うんっ。わかったよ」
「それじゃあ日曜日にね」

 …………ふふふふ…………







「それじゃあ、行ってくる」
「留守番よろしくね、名雪」
「うんっ。いってらっしゃい♪」

 うん。わかってるよ、お母さん。失敗はしないよ。

 私とお母さんは半瞬だけ視線を合わせ、笑みを交わし合う。
 祐一は気付いていない。
「なあ、名雪……」
「ん? どうかしたの?」
「ああ……。真琴の事なんだが………」

 …………そう……あの子の事がそんなに気になるの……

「真琴がどうかしたの?」
 内心の殺意は一片たりとも表情には出さず、いつも通りを装って尋ねる。
「………頼むっ。あいつが俺の部屋にいたずら仕掛けたり部屋でいたずらしないように見張っててくれ!」

 …………………えっと………

「百花屋のイチゴサンデー奢るから!」
「うん、わかったよ♪」

 あ………つい答えちゃったけど…………ま、いっか。

「助かる、名雪」
「へへ、任せといて♪」

 そう……任せておいて。もう、そんな心配をしないでいいようにするから。

「いってらっしゃ〜い」
 私は笑顔で二人を見送ると、お風呂場に行って清掃道具の準備をする。

 後で祐一に気付かれたらいけないしね………
 物はお母さんが用意しておいてくれたから、確認と使い方を見るだけでいいのって楽でいいよね。


「ん"ん"〜〜〜!!!」

 あ、どうやら目を覚ましたみたいだね。
 けど……猿ぐつわしてるのに、どうしてあんな大声が出せるんだろ?

 あゆちゃんが来る時間も迫ってきているので、私は真琴の部屋に向かった。
 部屋に入ると、布団に簀巻きにされて猿ぐつわをされている真琴の姿が目に入った。

 …………お母さん……縄じゃなくて鎖で巻いてるよ………

 私は一瞬驚きながらも、すぐに気を取り直して真琴の横に立ち、笑顔で見下ろした。
「おはよう、真琴。良く寝れた?」
「む"ーーー!!」
「そう。良かったね」
「ん"む"…………ん"!?」
 まだ何か叫ぼうとしてたけど、私の目が笑ってない事にようやく気付いたのか、身動き出来ない状態にも関わらず、私から距離をとろうとする。

 この脅えた顔を見てるだけでも楽しいけど……あんまり時間がないからね。

「ねえ、真琴。いつまでここに居るつもりなの?」
「………むぐ?」
「記憶喪失なんて、祐一の傍にいたいだけの嘘なんでしょ?」
「む"ぅ! む"〜!」
 私はしゃがんで、真琴の頬に愛しむように手を当てて顔を私に向かせた。
 事実、この顔が恐怖でどうなるか想像すると、たまらないほど愛しくなる。
「ねえ真琴……祐一にだいぶ可愛がってもらってるみたいだね?」
 そう言って私は笑顔を浮かべた。






 ぴんぽ〜ん。
「名雪さ〜ん、きたよ〜!」

 ふふ………今日のメインゲストが来たね………

「ごめん、あゆちゃんっ。今手が離せないんだっ。開いてるから入って来てーっ」
「うんっ、わかった〜!」

 そう……最後の仕上げをしなくちゃならないんだよ……

「名雪さん、どこにいるのー?」
「上だよー。ちょっと来てくれないかなー?」
「うんっ」

 …………ふふふふ。

「真琴。まだ聞こえてる?」
「……………あ………う…………」
「良かった。まだ意識はあったみたいだね」
 あゆちゃんが階段を上がってくる音が聞こえてくる。
 私は真琴の顔を右手で掴み、持ち上げた。
「とっても楽しめたよ。ありがとうね」
「名雪さん、どこ?」
 階段を登りきったようだね。
 それじゃあ、最後の仕上げだよ。
「さよなら、真琴」
 右手に力を込める。

 グシャッ。

 ゴトンッ。

「い、今の音は何!?」
 ゆっくりと……恐る恐る近付いてくる気配がする。
「あ、なゆきさ………ひっ!?」
 私はゆっくりと振り返り、ドアの所に立っているあゆちゃんを見た。

 ああ……なんて素敵な表情をしてるんだろう………

 恐怖で染められた顔をしているあゆちゃんを見て、私は心が悦ぶのを感じた。
「な、名雪さん、その足下のって…………」
「あゆちゃんもこうなりたい?」
 そう言って笑みを浮かべる。  するとあゆちゃんの顔が、どんどん青白くなっていった。
「………どうして………? どうしてなの!? 名雪さん!」

 どうして?

「そんなの、簡単だよ」
 ゆっくりとあゆちゃんに近付く。
「祐一の気を引いてるからだよ」
「え………?」
「祐一に近付く人はね………みんな殺してあげるんだよ」
 あゆちゃんの頬を撫でる。血で染まった右手で。
「私は祐一の事、昔から好きだったんだよ。今でもその気持ちに変わりはないの。……ううん、強くなってるんだよ」
 あゆちゃんの両頬を包み込む。
「わかるでしょ? そんな祐一に近付く人は、誰一人として許せないんだよ」
「………そ、それならボクだって」
「『ボクだって』、何?」
 あゆちゃんの頬を包む手に力を入れる。
「あゆちゃんに残された選択肢は二つしかないの。ここで私に殺されるか、二度と祐一の前に姿を現わさないか……!!」
 手を離し、一歩後ろに下がる。
「さあ………選んでね、あゆちゃん♪」

血の名雪







「う〜。急がないと祐一が帰ってきちゃうのに、痕が消えないよ〜」






了。






 え〜、作者のGP-03Dでございます。
 この作品、友人との会話で出たネタが元で描いたイラスト・・・本文を飾ったイラストですが、それが全ての始まりとなってます。
 こういった黒いネタ、実は大好きなんですよ(笑)
 でも、私が一番好きな名雪は、本来の名雪です。
 だけど、祐一への愛ゆえに壊れた名雪ってのも、また好きなんです。

 名雪はいい子ですよね。
 一度想いを拒絶されても想い続け、なのに祐一が他の女性を好きになったらそれを応援する。
 そんな名雪が私は好きなのです。
 好きなだからこそ幸せになってほしい。
 そして名雪にとって一番の幸せは、祐一と一緒になる事ではないでしょうか。
  私はそう思ってます。
 それが、この小説を書いている時に重要項目として頭に置いていた事でもあります。

 この小説を書いたきっかけは、先に書いた通りこのイラストです。
 最初はカラー落描き以外の何物でもなかったこのイラスト、そのまま落描きにしておくのは勿体無いと思ったのですよ。
 そんな時、最後のあゆへの問いかけのシーンが頭に浮かんだのです。
 「こんな名雪もいいよね?」
 それで書き始め、私なりの名雪への愛情を、屈折してるけど表したつもりです。

 真琴との部分はいくらか書いたのですけど、書かない方がいいかなと思って敢えて削除しました。
 もし書いてとの声があって時間がとれれば、もしかしたら書くかもしれませんが・・・・
 あゆとの部分は・・・これが限界です。
 もっと上手く表現したかったのですが、どうもいい表現が思い浮かべられず、ああなってしまいました。
 本当はもっと問答を続けさせたかったんですけどね・・・・
 あまり長く時間をかけられない現在の事情もあり、完全に納得のいったものではありません。
 そこの部分は、寛大な心で御容赦を。叱責も歓迎いたしますが。

 最後の名雪の台詞は入れようかどうか最後まで迷いましたが、書かなかったあゆの返答を予想する手助けになればいいと思い、入れました。
 私の中であゆの返答は決まっています。けど、書きません。
 これは読んでくれた人達がそれぞれ思った事でいいと思いますから。

 なんかヤケに長い後書きですけど、ちゃんと全部読んでくれた方。ありがとうございます。
 読まなかった方。ちょっとは読んでくださいな(^^;)



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