「ただいまー、シャオ」
玄関で告げる太助くん。けれど返事はありません。
「買い物かな?」
そう呟きながら彼はいつも彼女のいるリビングルームへ。
そこには当然の事ながら彼女の姿はなく、代わりに。
「……アルバム?」
テーブルの上に忘れ去られたように一冊のアルバムが置かれていたのでした。
守護月天? シャオリュン
第七話 さよならシャオリュン(上)
アルバムの題目は「太助さまの一生(はぁと)」と書かれています。
一生、という部分に太助くんは苦笑いを浮かべながらも、ついついそれを手にとってしまいました。
「へぇ、こんな写真があったんだ。どこで見つけてきたんだろう?」
まず一ページ目。
そこにはまだ赤ん坊の太助くんと、そして顔も忘れてしまいそうな両親、そして姉の幼い姿が写っています。
一家全員集合の写真でした。そして、これが最初で最後の集合写真でもありました。
太助くんは懐かしい顔をしながらページをめくっていきます。
「あぁ、こんなこともあったなぁ」
写真は小学低学年の太助くん。ベットに寝かされて青い顔です。
それは姉の那奈が修学旅行で数日いなかったとき、まだ小学低学年の太助が腐ったご飯を食べてしまい瀕死のところを帰宅した彼女に発見されて一命を取りとめた事件でした。
これを受けて、彼らの父は電子レンジを家に配備したそうです。お見舞いに帰っても来ませんでしたが。
やがて太助くんのページをめくる手が止まります。
「あれ?」
知らない写真があるからです。
日付は……
「一年後?」
そこには『ダンプにはねられた太助さま。九死に一生?』と題された一枚の写真。
背景を大型ダンプカーとして、太助くんがきれいに弓なりに反って飛んでいるところのベストショットです。
写真の日付は今からおよそ一年後。
「どういうことだ?」
さらにページをめくります。
めくるたびにショッキングな写真が掲載されているではありませんか。
『太助さま、中学浪人決定』
『太助さま、外資系会社の就職決定祝い』
『仕事で北に渡る太助さま』
『新天地で新しい名前をもらう太助さま』
『特殊任務に精を出す太助さまと仲間達』
『将軍さまに栄誉勲章をいただく太助さま』
『脱北』
『帰国したら戸籍が他人にのっとられていて、びっくりな太助さま』
『失望の中、オカルトに染まって墜ちていく太助さま(はぁと)』
『詐欺容疑でタイーホ記念日』
『獄中で電子工学に目覚め、イオンド大学(通信制)にて博士号を取得した太助さま』
おやおや、太助くん。
アルバムを持つ手が震えていますね。
写真の中の太助くんは、歳を経るにつれてそれ相応に老けていっています。
あまりにも自然な写りで、写真を加工したモノではなさそうですよ。
ここで太助くん。アルバムの残りページを確認します。
あきらかに、そう、あきらかに今までの掲載内容のペースを考えると『先が短い』です。
彼は「いやいや」と首を横に振りつつ、息を呑んで続きをめくりました。
『大雨洪水警報の中、刑期を終えて出獄する太助さま』
『これまでの知識を総動員して精霊を作り上げた太助さま』
ここで彼の手が止まります。
ここにきて大きく写っていたのは、なんとなく病的な感じのする太助くんではなく、一人の少女でした。
『人工精霊は守護月天と冠され、名前をシャオリュンと名づけました』
と書かれている。
「シャオ?! なに、どういうことだ? オレが作った…いや、作る事になるのか??」
残り少なくなったアルバムをめくる手が早まります。
『星神システムを構築する太助さま』
『太助さま、生命倫理法にひっかかり司法局に追われる記念』
『太助さま、逆ギレして国立研究所を襲撃記念日』
『国立研究所にて開発中だったタイムマシンに私を乗せる太助さま』
ぶほっ!
思わず吹いてしまう太助くんです。
「んなっ?! タイムマシン? そんなバカな…」
そして最後のページ。
『銃殺』
と、題されて検閲のため掲載不可と書かれた一枚でアルバムは幕を閉じていました。
「見て、しまわれたのですか」
「うわっ!」
唐突に背後から声をかけられて飛び上がる太助くん。
そこには中身の詰まった買い物カゴを提げたシャオリュンが覗き込むようにして立っています。
「あ、えと」
しどろもどろの太助くんです。
「見たというか、見てないというか……何、これ?」
あはははは、と乾いた笑いを浮かべる彼に、シャオリュンは一切の笑みのない表情で伝えます。
「太助さまの未来を記したアルバムです」
「……へ?」
柚木姐に迫られた時に話題を変える力也のような疑問詞をさっくりと無視し、シャオは続けます。
「そこに書かれていた通り、私は未来の太助さまに作られました。そしてこの時代に送り出される時に言われたんです」
「言われた?」
「はい。『過去のオレを正しく導いてくれ。今のオレのようにならないように』と」
「……そう…だったのか」
「そして」
「そして?」
決意の顔をしたシャオの言葉を太助くんは促します。
「そして、私がこの時代に存在できるのは、15回の15夜を過ぎるまで―――
第七話 さよならシャオリュン
つづく