今日、太助くん達の学校では年に一度の課外授業です。
それは別名、遠足と呼ばれるもので豊かな緑に囲まれた山々の中でフィールドワークを行うのです。

守護月天? シャオリュン
第4話

空は一面の青空。絶好の遠足日和。
太助くんのクラスはやがて小高い丘に辿りつきます。
「はーい、ここで休憩よ。自由時間は一時間。お昼すませちゃってね」
担任のルーアン先生の号令の下、それぞれ思い思いの場所に散って行きます。
さて我らが太助くん。早速見晴らしの良い小さな岩の上でリュックを下ろしてお弁当を………
「あ、あれ?」
ごそごそ中をあさっています。
「ない……?」
顔を上げ、思い直した顔をして再度中を改めます。
「な、ないっ! 忘れた?!」
彼は朝を思い出します。
確かにシャオが今日の為にと、美味しそうなお弁当を作って渡してくれたはず。
太助くんの頭の中で、朝の光景がプレイバックされて行きます。
そう、そうです。お弁当をもらって、玄関先でのことでした。
『太助様、靴の紐が』
『あ、ホントだ』
『お弁当、持っておきますね』
にっこり微笑むシャオに、太助くんは結び直す間持ってもらっていて……
「そのまま返してもらってないっ!」
頭を抱えてしまう太助くんでした。
と、そんな中。
「どうしたんですか?」
顔を覗き込むようにして、彼女がそう問いました。
「ん、シャオか。オレお弁当忘れてさ」
「まぁ、そうなんですよね」
「って、シャオ?!」
なんとまぁ、太助くんの目の前には家にいるはずのシャオリュンがいるではありませんか。
「ど、どうしたの、こんなところに!?」
「お弁当をお忘れだったので」
微笑む彼女は弁当箱を太助くんに手渡します。
「シャオ……ありがとう」
「どういたしまして♪」
早速弁当箱を開ける太助くん。
けれど中を見た途端、凍りつきました。
「あ、あの、シャオ?」
「はぃ?」
「中身が……ないんですけど」
震える声で戸惑う太助くんの言葉通り、弁当箱の中身はカラでした。
いえ、正確に言うとちょっと違います。
カラになったところのようです。ご飯つぶが数個、箱の壁についていたりしていました。
「ここに来るまでにお腹が減りまして、ちょうどお昼ご飯時でしたから美味しくいただきました」
にっこり屈託なく笑うシャオは「ごちそうさまでした」と満足げに付け加える事も忘れません。
「じゃ、じゃあシャオは何しにここまで来たの?!」
「……あら、それもそうですね」
今気づいた、そんな顔のシャオリュンです。
「でも一旦希望を持ったけれど、再び絶望に打ちひしがれた太助様の顔を見られただけでも意味はあったかも知れません」
「Sだよ、Sすぎるよっ?!」
「あら、今気づきました?」
コロコロ笑うシャオは「まぁ、でも」と付け加えて懐から支天輪を取り出します。
「天高く(以下略)来來、八穀!」
ぽん♪
召還に応じて、麦わらを1本背負った小人が出現しました。
「な、なに?」
「この子は星神『八穀』。食料を調達する事が出来るんです」
太助くんの問いにシャオは自信をもって答えます。
「丁度ここは山の中ですし、食料の調達には事欠きません。美味しいお弁当をこの子に作らせますね」
「え、ホント!」
「はい。よろしくお願いしますね、八穀」
シャオの言葉に八穀は糸のように細い目をさらに細くして答えると、風の様に消えて行きました。
そして3分後―――
「わっ!」
太助くんの目の前にはご飯やハンバーグ、フライなどが詰まった大きめなお弁当箱が広げられたのです。
「すごい、すごいよ八穀!」
興奮する太助くんに、八穀は細い目のまま親指をグッと立てました。
『それ食って大きくなれよ、ボウズ』
そう言っているようです。
「では太助様のお弁当も出来た事ですし、私達はここで失礼しますね」
「ありがとう、シャオ! ありがとう、八穀!!」
去って行くシャオリュンに大きく手を振ると、早速太助くんはお弁当に取りかかります。
と、その時です。
「なぁ、太助。オレの弁当知らないか?」
肩で息を切らしながらやってきたのはたかしくんです。
「弁当?」
「あぁ。食べようと思ったら、唐突に目の前から消えて……って、あ!!!」
叫ぶたかしくんが指差すのは太助くんのお弁当。
「それ、オレの弁当じゃないか!!」
「へ?」
駆け寄るたかしくんは弁当箱を取り上げます。そこには『野村 たかし』と名前が書いてありました。
「太助……これは一体どういうことだ?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
暗いオーラを立ち昇らせて、たかしくんは太助くんに迫って行きます。
「いや、これはシャオが、八穀が用意したモノで…シャオ、シャオ?!?!」
とっくに彼女は帰路に就いていました。
そんな太助くんにたかしくんは怒り心頭。
「シャオちゃんのせいにするんじゃねぇ!!!!」
マウントポジションで太助くんを殴打です。
こうして太助くんはしばらくの間、モノが食べられないほど殴られたとかそうでないとか。


第4話 一杯のかけそば


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