七梨太助くんは、運動神経は悪すぎると言うほどではないけれど、球技関係はちょっと苦手だったりする中学一年生です。
彼の通う学校ではこの時期、全校一斉の球技大会が行われます。
そして彼の参加する種目は――――

守護月天?シャオリュン
第2話

「わーん、シャオー!」
泣きべそをかきながら、自宅に飛び込んだ太助くんは真っ先に彼女の元へと向かいます。
「あら、おかえりなさい」
穏やかな微笑みで迎えたのは居候となったシャオリュン。
煎れたばかりの烏龍茶の香りを手にした湯呑みから昇らせて、ゴマ団子を美味しそうに食べています。
「俺、球技大会で補欠にされちゃったよー!」
「へぇ」
「補欠じゃ、翔子ちゃんに良いところを見せる事も出来ないんだ」
ちょっと小首を傾げ、シャオは問います。
「種目は何ですか?」
「ドッチボール」
「良かったじゃないですか。力の強い乱暴な子に狙い撃ちされる事もないし、口のとんがった意地悪な子に盾にされる事もないし。何よりみんなのアイドル翔子ちゃんにダメなところも見られないし」
「そ、その2人は同じクラスだから同じチームだよ。それに俺、逃げるのは結構得意だしっ」
「……他のクラス相手でも同じでは?」
「わーん、シャオも苛めたー!」
とうとう泣き出してしまった太助くん。
その有様を凍えるような冷たい視線で見下していたシャオリュンはため息一つ。
「仕方ありません。こうなったら練習して巧くなって見下してあげれば良いじゃないですか」
「え?」
期待に満ちた視線を浮かべる太助くんに、シャオリュンは懐からわっかを取り出します。
それは彼女が現れた、支天輪でした。それを両手で頭上に高く掲げると、
「天高く(以下略)! 来来、虎賁」
ぽん
そんな可愛らしい音を立てて現れたのは、手のひらに乗るほどの大きさの男の子。
虎縞のネコミミをつけて、さらに魅力値UPです。
「シャオ様、コイツを鍛えれば良いんですね」
「はい、遠慮は要りません。球技大会は明日……時間がありませんから」
「了解!」
小さな会話の後、虎賁は太助の肩の上に。
「じゃ、ボウズ。練習だぜ!」
「あ、うん」
「いってらっしゃい」
ボールを片手に近所の公園へと出かける2人を見送って、シャオはすっかり冷めてしまったお茶を一口すするのでした。


「いいか、ボウズ。ドッチボールは殺すか殺されるかの競技だ」
「え、えぇ?!」
近所の公園。
人気の少ないここには太助くんと虎賁しかいません。
早速講義を始めた虎賁に太助くんは疑問の声を投げかけます。
「そんな……ただのボールの投げあいじゃ…」
「シャラーップ!」
ビクッ!
大音量の声が太助くんの耳を打ちます。
「貴様っ、ドッチボールを甘く見ているな、いや、スポーツを甘く見るな。全てのスポーツは生きるか死ぬかの戦いなのだっ!」
虎賁先生の声に熱気が帯び始めました。
「まずはボールを『取る』ことからの練習だ、ボウズ。しっかり受け止めろ!」
「え、ええ?!」
きゅいぃぃぃん!
耳に僅かに不快な高音が響いたかと思うと、虎賁の体の何倍もある(彼が小さいだけですが)ボールがその手に生まれます。
「いくぞっ!」
ぶん!
無雑作に投げます。
「う、うわぁぁ!!」
時速何キロあるのか分からない、けれどきっと当たったら涙が出るほど痛いそのボールを思わず避ける太助くん。
しかし
くぃ
避けた先でボールの進路はくるっと曲がり、反転。
ごす!
「ぐはっ!」
太助くんの後ろ頭にナイスヒットです。
「避けるな、ボウズ! 貴様には避けると言う選択肢はない!」
次のボールを生み出して、虎賁は怒鳴ります。
「受けろ受けろ受けろ受けろっ! このオレが貴様をじっくりしごいてやる!」
「ひ、ひぃぃぃぃ!」
次々とボールが生まれ、逃げ腰の太助くんをしばいて行きます。
「どうしたどうしたどうした、このウジ虫がっ、根性なしの雌豚が!」
「いた、いたたたた!」
「貴様は臆病マラか? 汚れスキンか?」
「ちょ、止めて、ボール止めてっ!」
「貴様は人間ではない、両生動物のクソをかき集めた値打ちしかない!」
「ごふ、げふっ!」
「じっくりかわいがってやる! 泣いたり笑ったり出来なくしてやる! さっさと立て!」
「う、うぅぅ」
「逃げるやつはベトコンだ! 逃げないやつは、訓練されたベトコンだ!」
「は、早過ぎて、取れませんっ」
「なんだと、早過ぎるだと? なら遅くしてやる、これでいいか、どうだ、どうだ??」
「早くなってる?!」
「オレに説教のつもりか、ウジ虫っ! オレに口答えするな、分かったか豚がっ! 分かったら返事をしろ!」
「Sir, Yes Sir!」
「ふざけるな! 大声だせ!」
「Sir, Yes Sir!!」
まるでハートマン軍曹な虎賁先生の指導で太助くんは結局全身打撲。
球技大会はお休みしたそうです。
なお、これ以降太助くんのドッチボールでの逃げ技はネ申級に進歩したとかしないとか。

第2話
おまえによし オレによし うん よし


戻る