これは某猫型ロボットの出てくる国民的アニメとはまったく関係のないお話。
ましてや、一人もんもんと寂しい思春期を送る中学生の元に可愛い女の子の精霊がやってきて、色々面倒を見てくれたり見てあげたりするお話ともちょっと違います。
最初の注意として、それを念頭の上にお聞きくださいませ。
お話は、とある一軒家に一人暮しをする中学生の少年を中心に始まります。
彼のパパさんは放浪癖のある冒険家。
一方のママさんはさわやかに育児放棄をして、両親ともに家には滅多に帰ってきません。
そんな彼を育てたのは3つ年上のお姉さん。
そのお姉さんも義務教育が終わるなり、本当の愛を求めて世界に旅立ってしまいました。
残された少年は一人、寂しく中学生活を送る事となります。
幸運にも両親ともに実家が資産家だったため、お金には余裕のある生活は出来ているようですが。
ともあれ、多感な中学生活を一人送る羽目となった彼―――七梨太助くんは、まだ梅雨の明けないある日、差出人欄が空白な小包を受け取るのでした。


「誰からだろう?」
彼はB5サイズの小さな箱型の包みを開いていきます。
中からは同型の木箱。
それを開けると、腕輪のようなわっかが入っていました。
「なんだ、これ?」
右手で摘み、中空の中を見ます。
丁度、窓の外に浮かんだお月様がわっかの向こうで輝いておりました。
と。
「え?」
輝くお月様の真中に、小さな黒い影が見えます。
それはだんだん、だんだん大きくなり。
「えええええぇぇぇ?!!?」
やがてわっか一杯に広がったかと思うと、中から飛び出してきたのです!
ごす!
「うっ!」
どこかを踏まれたらしい太助くんは、思わずうずくまってしまいました。
額に青筋が立ち、うっすらと冷や汗が流れ出します。
一体どこを踏まれたのでしょう?
そんな彼を尻目に、わっかから飛び出してきた人影一つ。
彼の前に立ち上がり、ゆっくりを周囲を見渡します。


また右
また左
でけでっでん、でけでっでん♪
どこぞで聞いたことのある、ターミネーターなBGMが流れています。
しゅーしゅー
よくよく見れば人影からはうっすらと煙が上がっていたりもしているようです。
「一体、何が……」
何故か股間を押さえながら、引きつった顔で太助くんは視線を人影にぶつけます。
「え……」
なんと、そこには。
「初めまして、私は守護月天?」
「疑問系?」
「…シャオリュンと申します」
言ってペコリを頭を下げるのは、可愛らしい少女でした。
歳の頃は太助くんと同じくらいだろうか?着物のようなそうでないような、前合わせの変わった服を纏っています。
見なれない服装のせいもあるのか、はたまた背にした月の光を纏っているせいか、どことなく人間離れしている様にも感じられました。
そんな美しい少女を、太助くんは呆然と見つめてこう呟きます。
「シャオ…リン?」
ぺし!
乾いた音が響きます。
少女に平手打ちを頬へ受けた事を彼が知るのはしばらくしてからの事です。
「……え?」
にこにこ微笑む彼女に、再度彼は問います。
「え、えと、シャオリン?」
べき!
「げふっ!」
今度はグーで頬を殴られました。それも先程とは反対側の頬です。
そこでようやく彼は気づきます。
彼女は決して笑ってはいない事を。
微笑みを浮かべたその表情はしかし、目がさっぱり全然全く笑ってはいない事を。
「シャオ……」
「シャオ?」
彼の言葉に続けて問う、微笑む少女。
太助くんはガクガク震えながらこう続けました。
「りゅ、りゅん」
「はい、シャオリュンです♪」
限りない営業スマイルで彼女は可愛らしくそう切り出しました。
「私をその支天輪から呼び出せるのは心の清い方だけ。私は呼び出した貴方の力となりましょう」
「え、ちょっと。それってどういうこと?」
慌てる太助くんに、シャオリュンは笑みを消してこう答えました。
「朴訥で生真面目な一人暮らしをしている男の子の元に、なんか万能っぽい女の子がうやむやのうちに住み込むっていう、そんなシチュエーションだろうが。黙って従えや、ぁ?」
「分かりました」
分かってくれたようです。
こうしてロンリーボーイ七梨太助くんと、見た目は可愛いクールビューティシャオリュンの甘い甘い生活が始まったのでした。


守護月天?シャオリュン
第一話 カチコミ 了


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