七夕物語(月天風味)



※イラストは無いけど想像してください(笑)

今日は七月七日、七夕だ。
「七夕ってなぁに?」
「フェイ? 七夕知らないのか?」
「うん。」
「そっか、フェイは中国から来たわけじゃないもんなぁ」
「え? なにそれ? シャオ達は知ってるの?」
「ええまぁ」
「国と時代で色々違ってるけど概ね同じよね」
「短冊に願い事を書くのはこの国独自の風習のようだがな」
「そっかフェイは七夕知らないのかじゃあ。那奈姉さんが良い子に適度に分かりやすく七夕とは何か説明してやろう」
 フェイの頭をなでなでする。見た目は少女だが実年齢不明のフェイは、那奈から、まるで幼女のように扱われていることに少々戸惑った。

 昔昔、天の川の西の方に、織姫というそれは働き者で気立てが良くて、ちょっとぽけぽけした娘が居てな。織姫の織る機(はた)は、それはそれは見事なもだった。
「私は織姫。天に上る月のように…じゃなくって、機を織るのが私の役目。今日も機織頑張りましょう♪」



 織姫が毎日一生懸命機(はた)を織っているのを見てた父親は ある日織姫に言ったんだ。
「織姫や、たまには手を休めて、化粧をしたり、どこか外で遊んだりもした方が良いのではないか? 儂は働いてばかり織姫のことが心配なんじゃ」
 爺さんじゃなくって、父親の心配するんだけど織姫はにっこり笑ってこう言ったんだ。
「いいえ、お父さま。私はこうして、毎日機を織っているだけで楽しいのです」
 父親は、織姫が本当に幸せなのだろうか?と少し心配になったんだ。
「本当は探したくないのじゃが…そこは話の都合仕方が無い。織姫に婿を探してやろう。そうすれば、もっと幸せになるに違いない。…って、何で儂がこんな台詞言わねばならんのじゃ!」



 本当はあんまり気が進まなかったんだけど、父親はどこかによい若者がいないかと探した訳さ。で、天の川の東で牛の世話をしている『彦星』っていう真面目な若者を見つけてな。
「放浪癖の家族のせいで俺は、毎日牛の世話。『真面目に働いてればいい事ある』だなんて、手紙でよこされても説得力ないよな」



 織姫の父親は、まじめに牛の世話をしている彦星の姿を、とても気に入ったんだ。そしてふたりを結婚させることにした。
「織姫。彦星。儂はふたりの結婚をゆるす…なんでこんな小僧に織姫やらねばならんのだ…ブツブツ」
「シャオ…じゃなくって織姫。僕と妻になって欲しい」
「はい。よろこんで、太、じゃなくって彦星様」

 ふたりはめでたく結婚し、とても仲のよい夫婦となった。父親は、織姫が幸せになれて良かったと誰よりも喜んだのだけど。
 それからのふたりは、毎日毎日遊んでばかりで、天の川の河原で70年代さながらのベタベタな鬼ごっこやってみたり。
「はははは。つかまえてごらん」
「えーい。つかまえた♪」
「織姫にはかなわないなぁ」
 天の川で星の数をふたりで気が済むまで数えたりして、ふたりはとても幸せそうだった。
 でもな織姫と彦星は、仕事のことなんかすっかり忘れてるんだ。それを見た父親は言ったんだ。
「織姫。彦星。お前たち、そろそろ仕事をしたらどうじゃ?」
 するとふたりは「はい。わかりました」と返事はするものの、父親の目を盗んで、また遊びはじめるのだ。天の川の牛は、彦星が世話の手を抜いたから
だんだん痩せ細っていく。織姫があんまり機を織らなくなったんで、だんだん着るものが無くなったりして、みんな困り始めた。
「オイラ達の代わりの服がなくなっちまった。ほら、ここみてくれよ」
「こんなにぼろぼろでし。新しい服が欲しいでし」
 父親はその有様をしめたもだと思い…じゃなくって、この有様に心を痛めて、とうとうふたりを呼びつけたんだ。
「織姫!彦星!仕事もしないで遊んでばかりいるとは何事じゃ。まぁ、最初から分かってことじゃが。これ以上ふたりで一緒に暮らす訳にはいかんようじゃな。織姫には支天輪に…じゃなくって、ふたりを天の川の東と西に別れてくらしてもらろう。小僧。くやしいか? くっくっくっくっく」
 父親の底意地の悪さ炸裂。じゃなくって、遊んでばかり居たふたりに父親が罰を与えたんだ。
「そんな! 彦星様と別れるだなんて! それだけは、お願い。ゆるして!」
「僕も織姫無しでは生きていけない! これからは真面目に働きますから、それだけは許してください」
 ふたりは泣きながら、頼んだんだけど父親は、まったく聞いてくれなくて、そのまんまふたりは引き離される。
「なんで俺は、大事な人一緒に居られないんだ。俺はただ、織姫を一緒に居たいだけなんだよ!」
「彦星様…ごめんなさい。あなたを泣かせている。孤独にしている。寂しい想いをさせてしまっている。私、織姫じゃなければ良かった。役目なんてなければ…ただの娘だったら、あなたにこんな想いをさせなくて、ずっとそばにいることが出来たのに…」
 こうして天の川の東と西に離別(わかれ)て暮らすことになった。

 それから毎日、家に閉じこもって織姫は彦星のことを思い出しては、泣いてばかりいた。そんな織姫の姿を見るに見かねて父親はこう言ったんだ。
「織姫。分かって欲しい。辛いのは今だけじゃ。織姫がこれ以上あの小僧の元にいて、織姫が今よりも、もっと辛い想いをするのを、儂は黙ってみている訳にはいかないんじゃ」(話の趣旨が七夕じゃなくなってきたような…)
「でも…」
「わかった。お前はそんなに彦星に会いたいのならば、物語の都合上仕方が無い。お前達が元のように、しっかりと役目を果たすなら、一年に一度、七月七日の夜にだけ、会うことをゆるそう」
 それからというもの、ふたりは七月七日に再び逢うことを楽しみに、織姫は機を織り、彦星も真面目に牛の世話をするようになった。
 織姫の織る機は、また評判になり、彦星もよく働く若者と言われるようになった。ふたりの働く姿は前にも増して一生懸命で、父親も安心した。
 そして、待ちに待った七月七日になると、ふたりは天の川を渡って、一年に一度の逢瀬を楽しむだった。ところが雨がふると天の川の水かさが増して川をわたることができなくなるんだ。
「ほーっほっほっほっほ! シャオリン…じゃなくって、織姫の邪魔をするのがあたしの役目! もとい生き甲斐! たーくさん雨を降らせて、たー様。じゃなくって彦星との逢引を邪魔してやるわ!」
 天邪鬼が意地悪して雨を降らせてるなんて話もあるだけどな。



 そんなときは、織姫の友達のかささぎっていう鳥がとんできて、ふたりを運んでくれるのんだ。
「よっ、織姫。随分めかしこんでるな。あっ、そうか今日は七月七日か。彦星に逢えるのが楽しみか?」
「はい」
「そっかそっか。正直で結構結構♪」
「でも、天邪鬼さんの仕業で雨が…」
「天邪鬼も酷い事するもんだよな。よし!ここはこのあたしに任せな!」


「というのが七夕物語だ。登場人物が知り合いをモデルにしてるから、若干違う部分もあるけどな」
「わかった。おしえてくれてありがとう。お話おもしろかった」
「よしよし」
 那奈は笑顔でフェイを撫でた。
「ひとつ聞いて良い?」
「なんだ?」
「紀柳が出て来なかったみたいだけど…」
「上手くあてる役が見つからなかったんだよ。あっ、こら、紀柳。いじけるな」
「わ、私は別にいじけてなんか居ないぞ」
 ちょっと嘘っぽい。紀柳は少し拗ねてるようにも見えた。
「じゃあ、牛の役でも良かった?」
「牛?」
「うん。最初は彦星と一緒に仕事して幸せだったんだけど、彦星が織姫と結婚してから、放っておかれて病気になりそうになるまでやせ細った可哀相な牛」
「………」
 紀柳は眉間に皺に寄せた複雑な表情のなった。
「天邪鬼の役よりは良いと思うわよ」
 紀柳の肩にポンと手を置いて微妙な慰めの言葉をかけるルーアンだった。
「!」
 そのときフェイは何かを感じとった。
「ん? どうした? フェイ」
「今、画面の向こうから『お誕生日おめでとう』って聞こえた」
「画面って何処のことだよ? フェイ。いったい誰の心を読んだんだ? それに誕生日って誰のことだよ?」
「ひ・み・つ」

 あー おもしろかった




あとがきのようなもの
なんか夏の原稿の息抜きのつもりだったのに結構書いてしまってヤバイなぁと思う、ふぉうりんです。
 七夕ネタならお約束で、空理さんへプレゼントとなるのですが(笑)これは運命つーか、宿命です(笑)
 七夕物語は他所にあった文章を改ざんして、月天風味に直しました。何故か月天の台詞のパロディが入れられる個所が何箇所もあったので、結構楽しかったです(^^)

 結局没にしたのですが、実はフェイが那奈に短冊の由来を聞くシーンがありまして、
「でな、短冊っていうのは、大昔は、空の織姫に見てもらうと織物が上手くなるって言われてて、自分の織った織物の端を切って自分の成果を見てくれって笹に下げるんだけど、いつのまにか布から紙に変わって、裁縫の技術が上がるなら字も上達するだろうという発想の転換から、紙に字を書いて飾るようになったんだってさ。昔のひとって凄い発想だよな。で、今、あたし達が知ってる短冊に願い事を書いて吊すという風習になったんだって」
これを書いてて今気がついたんです。自分は3年前に、シャオが短冊に願いを書くネタを書きました。
星神を使役する。月の精霊が、星に願いを掛けてます(笑)
ところで『こと座・ベガ星』って中国星座だと何になるんだろう…
というか3年前の私の脳内のシャオはどの星神に願掛けしたのだろうか…
どなたか『こと座・ベガ星』が中国星座で何になるかご存知でしたら、教えてください。私がちょっと調べた限りだと『織女』(じょくじょ)でした。

ではでは、でたらめなSSですがこれにてて失礼します。
空理さん、お誕生日おめでとう!

二十代も折り返すと、流石におめでとうじゃないだろうけど…(汗)

2004年7月6日 ふぉうりん

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