ガキィィィン
激しく精霊器同士がぶつかり合う。
紅零の振り回すような攻撃を、シャオリンが支天輪で受け止めているのだ。
「こ、紅零さん!!」
ガキィィィン
シャオリンは如何にか立ち上がり後ろに跳び退る。
紅零は離れた分だけ間合いを詰め、再度剣を振るう。
ガキィィィン
ピシィ
――やめろ・・・・・・やめろ!!
紅零がどれだけ必死に抵抗しようとも、精神と身体が繋がっていないのか、身体を止めることができない。
何度も、何度も、何度も、何度も・・・・・・・・・
紅零の攻撃をシャオリンが支天輪で受ける事が続いた。
そして、ついにシャオリンの身体に限界が来、その場に倒れ込んだ。
紅零の凄まじい力のこもった一撃一撃は、確実にシャオリンの身体に疲れを蓄積させ、今それが弾けたのだ。
「くっ・・・・・・!!」
シャオリンができるのは支天輪を盾の様に前に突き出すだけだった。
そして、紅零は戦天剣を地面に水平に構えた。
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「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
空の放った一撃が結界を揺るがす。
何度も何度も攻撃を受けた場所に、遂にヒビが入った。
「くっ!!」
だが、空の拳は攻撃の反動でズタズタに引き裂かれ、原型を留めていない。
そして太助が両腕で銃を構えた。
拳銃には一発の弾が込められていた。
この世には存在しないはずの“ミスリル銀”の銃弾が。
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「戦天剣技奥技・・・・・・・・・」
――やめろ・・・・・・
紅零は全身全霊を持って身体を止めようとする。
だが、止まらない。
“私”の・・・・・・・・・勝ちだ!!
「『終の章』!!」
――やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
刹那、漆黒の闇を纏った戦天剣が支天輪に噛み合い、食い込み、そして・・・・・・支天輪は、真っ二つに砕け散った。
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「これで・・・・・・どうだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
紅零が突きを放つ寸前に太助は引き金を引いた。
純白の閃光が視界を埋める。
だが、銃弾が届く前に支天輪が砕け散り、それと同時に戦天剣の刀身と結界に大小様々なヒビが入った。
そして、“レクイエム”は結界を砕き、次の獲物としてシャオリンに狙いを定めていた戦天剣を、打ち砕いた・・・・・・
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結界が破れ、雨が二人を打つ。
割れた支天輪を見詰め放心状態のシャオリンと、死んだように倒れ雨空を眺める紅零を・・・・・・
「そん・・・な・・・・・・離珠・・・・虎賁・・・・瓠瓜・・・・女御・・・・軍南門・・・・八穀・・・・南極寿星・・・・・・・みんな、みんな・・・・・・・」
シャオリンは涙を拭こうともせず、意味のない作業を繰り返した。
支天輪を元に戻そうとしては地面に落ちる。そしてそれをまた元に戻そうとする。
何度も何度も何度も何度も・・・・・・それだけを繰り返していた。
紅零は何も語らない、語れない。
今だ紅零の身体の自由は戻って来ていない。
『鬼姫』の意思は眠っているというのに・・・・・・
ただ二人は、そのままだった。
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「シャオ・・・・・・」
太助はシャオに近付くも、その状態を見て唇を噛む。
太助が近くに来たのに気付いたのか、シャオリンが顔を上げる。
「太助様・・・・・・」
その目は虚ろで、何も映していなかった。
だがそれでも、太助だけは見えていた。
ただ、自分の大切な人だけは・・・・・・・・・
「みんな・・・・みん・・・な・・・・いな、いなく・・・・いままで・・・・かんがえ・・・たこ・・・と・・・・・も・・・・・な・・・・・く・・・・・て・・・・・・
・・・・・・ああ・・あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そのままシャオリンは太助に泣き付いた。
太助は、何か声をかけてやる事も出来ず、ただシャオリンを抱き締めた。
二つに割れた支天輪が、雨に濡れていた。
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「・・・・・・紅零どの」
――空・・・・・・
紅零は自分を見下ろし、声をかけて来る空に答えた。だが、声にはならなかった。
――私は・・・・・・あいつに、もう一人の“私”に負けたのか・・・・・・その結果がこれか・・・・・・
――結局私は、またシャオリンを傷付けてしまったな・・・・・・
紅零は、唯一動かせる左目で空を見上げた。
――今度は、謝って許される事ではない・・・・・・私は、如何償えばいいんだ・・・・・・私は・・・・・・・・・
雨粒が目に入り、反射的に紅零は目を閉じた。
そしてそのまま、眠る様に気を失った。
気を失った紅零を、空は割れ物を扱う様に大切に抱き上げた。
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那奈は紅零を抱き抱えて戻ってくる空に声をかけた。
「これって・・・・・・誰が悪いんだ? 紅零が一番それっぽいけど・・・・・・」
「いいえ那奈どの。紅零どのは被害者です。おそらく、一番の・・・・・・・・・」
包帯を巻いただけのズタズタの手で、空は紅零を抱え直した。
その包帯は血に塗れ、深紅に染まっていた。
空はそう言い残すと、ゆっくりと校庭の外に向って歩いて行った。
「ちょ、おい空!! 何所に・・・・・・」
那奈が呼びかけると空が振り向く。
「先に家に帰っています。聞きたい事が在るのならその時に御願いします。それでは。」
そう言い残すと空は飛ぶ様に駆けて行った。
「可哀相・・・・・・・・・」
唐突に聞こえた声に那奈は思わず振り返る。
其処には、金色の瞳に何所か不思議な雰囲気を持ったルミがいた。
だが次の瞬間、気の所為だったかのようにルミは何時もの雰囲気に戻っていた。
それを疑問に思うも、那奈はシャオリンの元へ駆け寄って行くのだった。
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『七梨家 リビング』
あの後、短天扇に乗って全員は七梨家に戻ってきた。
それぞれが濡れた身体を拭き、それぞれソファに沈んだ顔をして座っている。
気を失ったままの紅零と楊明は二人とも紀柳の部屋に寝かしてある。
放心状態のシャオリンは自分の部屋で太助が付きっきりで看病をしている。
リビングに残っているのは那奈、紀柳、汝昂、空、瑞穂、ルミ、パンの6人と一匹である。
太助の部屋では戦闘時に支天輪から出ていた星神達が長沙の看病を受けている。
そして家の修理を命じられていた羽林軍は今も汝昂の部屋の修理に当たっている。
リビングには、重苦しい空気が流れていた。
十分過ぎる静寂を破ったのは那奈だった。
「一体全体何がどうなってるんだ? 急に霊だのなんだのが現れて、今度は紅零がおかしくなって・・・・・・
止めにシャオの支天輪と紅零の戦封剣が砕けて・・・・・・誰か説明してくれ!!」
バンッと机を叩く。
その手の長沙に巻かれた包帯が痛々しい。
だが、誰も答える事は出来ない・・・・・・
そこに・・・・・・
「私が、答えます・・・・・・」
壁に手を付きながらやって来たのは統天書を持った楊明だった。
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「・・・・・・・・・・・・・・・」
シャオリンは下半身を布団に包み込み、上半身を起こして自分の掌に在る割れた支天輪を見詰めていた。
その布団の隣りでは太助が話しかける言葉をずっと探していた。
「・・・・・・太助様。」
「・・・・・・え?」
突然声をかけられ、太助は間の抜けた声を出してしまった。
だがそんな事は関係なくシャオリンは支天輪を見詰めたまま言葉を紡いでいった。
「私、紅零さんの目を見た時に、紅零さんの気持ちが流れ込んで来て、それで助けなきゃって思って・・・・・・
だから助けようと頑張りました・・・・・・紅零さんの心、悲しかったから・・・・・・紅零さんの気持ち、儚かったから・・・・・・」
「シャオ・・・・・・」
シャオリンは支天輪を見詰めたまま言葉を続けて行く。
その途中、不意に涙が流れた。
「でも・・・・・・でもね・・・・・・結局私は・・・・・・何も・・・・・・出来ませんでした・・・・・・・・・
あの時・・・太助様が・・・・・・助けて・・・くれなかったら・・・・・・今ごろ死んでたと・・・思います・・・・・・・・・」
ポロポロと涙が流れ落ち、支天輪を濡らす。
太助は、指でシャオリンの涙を拭う。
「あ・・・・・・」
シャオリンはようやく支天輪から目を離し、太助の目を見た。
「でも、シャオが頑張ったから紅零は・・・・・・紅零の心は助かったんだと思う。
紅零はさ、感情次第で目の色が変わるって知ってるよな?
あの時シャオが紅零に殴りかかった後、紅零の左目、元の緑色に戻っていたんだ。
だから、多分シャオは紅零を救ったんだと思う。
それに支天輪が・・・・・・砕けた後、紅零があのまま剣を突き出してたらシャオは・・・・・・死んでたと思う。」
太助は真剣な目で、優しさを秘めた瞳でシャオリンを見詰めた。
(この目・・・・・・あの時、紅零さんに謝った方がいいって言ってくれた時と同じ目・・・・・・)
「紅零はさ、如何にかシャオを殺すのだけは止めようとしたんだと思う。
それは、シャオが紅零の目を覚まさせたからだと思う。」
シャオリンは水をすくう様に持った支天輪を太助に見せた。
「でも・・・・・・でも・・・・・・支天・・・輪・・・・・・が・・・・・・われ、て・・・・・・わた・・・わた・・し・・・・・・如何・・・・すれ・・・ば・・・・・・・・・」
ポロポロと涙を流すシャオリンを太助はゆっくりと、優しく抱き締めた。
「大丈夫。見付かるから・・・・・・支天輪を直す方法、絶対に見付かるから・・・・・・いや、絶対に、絶対に“見付けるから”!!
だからシャオ、安心してくれ。絶対に直してやるから・・・・・・絶対に直してやるからな、シャオ・・・・・・・・・」
太助は半分自分に言い聞かせる様に言葉を繰り返した。
「太助様・・・・・・あ、ああ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
シャオリンは太助に抱き付き、声を上げて泣いた。
太助はただシャオリンの背を撫で、抱き締めるのだった。
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「大丈夫なのか楊明殿!?」
現れた楊明に紀柳が慌てて駆け寄る。
「ええ、大丈夫です・・・・・・と、言いたい所なんですが、正直立っているのも辛いんですよね・・・・・・
紀柳さん、すいませんが肩を貸してくれませんか・・・・・・?」
「あ、ああ。そのぐらい構わないが・・・・・・」
そう言いながら紀柳は楊明に肩を貸し、楊明を空いていたソファに座らせる。
「・・・・・・ふぅ、すみませんが水を一杯くれませんか?」
楊明はぐったりとソファに持たれかかり、誰にとも無く催促をした。
その顔はやつれ、青白くなっていた。
ルミは慌てて立ち上がり、キッチンに走った行った。
「本当に大丈夫か楊明・・・・・・」
那奈が心配そうに楊明の顔を覗き込む。
楊明は、笑みを浮かべた。だが、その笑みにすら苦痛が見て取れる。
「大丈夫ですよ・・・・・・自分の身体の事は、自分が一番よく分かりますから・・・・・・」
そう言うと楊明は統天書をおもむろに開いた。
「あう・・・・・・お水・・・・・・」
そこにルミがコップに水を入れて持って来た。
「ありがとう御座います・・・・・・」
楊明はルミからコップを受け取ると、一気に飲み干した。
「ふぅ・・・・・・おかげで少し楽になりました・・・・・・ありがとう御座いますね。」
楊明はそう言うとコップをテーブルに置き、統天書に顔を向けた。
ウェイトレスとしての癖なのか、ルミは持って来たペットボトルに入った水をコップに注ぐ。
「さて、と・・・・・・聞きたい人から聞いて下さい・・・・・・もっとも私自身、全部を知っている訳ではないんですけどね・・・・・・」
楊明はルミが注いでくれた水に口を付ける。
ルミは楊明を心配そうに見ながら、また水を注いだ。
「・・・・・・・・・・・・」
だが、誰も口を開こうとしない。
あまりに起きた事が大きく、深い事だったので何から聞けばいいのか分からないのだ。
その事に、気付かない楊明ではない。
「・・・・・・ふぅ、それじゃあ最初に起きた事から順々に説明して行きますね。」
そう言うと楊明は統天書を数ページ捲る。
「まず、最初に霊が現れた原因は確かにパンさんが摘み食いをした所為です。
ですがそれはただの原因の一つでしか無く、何時かこの事件は起こった事に変わりはありません。」
その言葉を聞き、パンが手を上げる。
「はい、パンさん。なんですか?」
「それじゃあみょしかして、この事件は“偶然”起きたんじゃにゃくて“必然”的に起こった事件にゃの?」
「ええ、そう言う事になります。この事件には何者かの“意思”が感じられます。それに、“悪意”も・・・・・・」
楊明のその言葉に精霊たちがはっとする。
「確かにすっごい“悪意”を感じたわね・・・・・今までに感じた事のある物の中でもトップクラスのね・・・・・・」
「ああ、何時か戦ったデルアスほどでは無いが、あれに近い“悪意”だった・・・・・・」
その言葉を聞き、那奈の表情が驚愕の色に取って代わられる。
「ちょ、ちょっとまて!! またデルアスみたいな奴が出てくるってのか!?」
「早合点しないで下さい。そうと決まった訳ではありませんし、説明は最後まで聞いて下さい。」
慌てふためいた那奈は楊明の言葉で取りあえず口篭もる。
「話しを元に戻しますが、パンさんが呼んだ数人の霊を“核”に紅零さんに恨みのある霊達が集まってきたんです。
そして紅零さんはその霊達と戦い、その中で心の傷を広げられ、霊に乗っ取られたんです。
いいえ、霊に乗っ取られた訳じゃ在りません。紅零さんは彼女の“もう一人の人格”に乗っ取られたんです。」
その言葉に全員の顔が驚愕に取って代わられる。
「そ、それじゃあ紅零さんは二重人格ってことなんですかぁ!?」
瑞穂が乗り出す様に楊明に詰め寄る。
「それは半分間違っています。その人格が出ているときも紅零さんの意識はあります。それもそのはずですよ。
何故ならそのもう一つの人格は元々は紅零さんと同じ人格なんですから・・・・・・
そのもう一つの人格は紅零さんが嫌な事をやる際に無意識下で交代します・・・・・・それは主に、人を殺す時・・・・・・
その人格の名前は・・・・・・汝昂さんには聞き覚えがあるでしょう、『鬼姫』の名は・・・・・・」
「!? ちょ、ちょっと楊明、それって如何言う事よ!!」
汝昂は思わず立ち上がる。
「『鬼姫』って言ったらあの伝説の猛者にして最強の修羅と恐れられたあの『鬼姫』だって言うの!?」
「ええそうです。『鬼姫』は紛れも無く紅零さんの事です。
恐らく、時はその人格が出てきたが為に人を殺しても平気だったのでしょう。」
楊明は再度コップに口を付ける。
「話しを戻します。『鬼姫』に乗っ取られていた紅零さんは、『鬼姫』の感情のままシャオリンさんを手にかけようとしました。
その感情とは――偽り、恨み、嫉妬、復讐、後悔、そして絶望。
いえ、その感情は全部が全部『鬼姫』の感情とは言えません・・・・・・それは紅零さんの感情でもあったのですから。
彼女達はシャオリンさんを恨んでいたんです。
ただ、紅零さんはシャオリンさんの事をその恨みと同じぐらい大切に思っていました。憧れていたんです、誰かを護る戦いに。
ですが、『鬼姫』にはそんな正の感情なんて持ち合わせていませんでした・・・・・・その結果があの漆黒の瞳です。
全てを恨み、妬み、全てに絶望した混沌とした感情・・・・・・『鬼姫』には“復讐”の二文字しかないのでしょうね。」
楊明は残った水をいっきに飲み干し、テーブルの水滴の輪に正確に戻す。
「そして、その二人の感情を感じ取ったシャオリンさんは紅零さんを助けようと戦い、勝利したんです。」
「ちょっとまて!! 支天輪が割れたのに、シャオの勝ちなのか!?」
那奈が食って掛かる。だが楊明は微動だにしない。
「ええ、シャオリンさんは勝ちましたよ。紅零さんの心を取り戻したんですから。
そして後は皆さんの知っている通り、支天輪と戦天剣が砕け散ったんです。
これでこれがどんな話しなのかはわかってくれたと思いますが?」
皆が押し黙る中で、紀柳が手を上げた。
「一つ質問がある。楊明殿はあの時何をしていたのだ? それに何より、統天書は人の心は読めないのではなかったのか?」
「ああ、それはですね、紅零さんの心に呼びかけていたんです。
それと同時に結界の解除、『鬼姫』の沈静化、シャオリンさんの救出を行っていました。
もっとも結局出来たのは結界を弱める事と、シャオリンさんを不の感情の渦から救っただけなんですけどね・・・・・・
そして、紅零さんの心が読めた理由は、過去に紅零さんは今回と同じ状況に落ち行った事があったんです。
今回ほど酷くなかったですけどね。その時偶々出くわした私が如何にか鎮める事に成功したんです。
そしてまた同じことが在った時の為に、紅零さんは統天書と自分の心を繋ぐバイパスを作ってくれる様頼んで来たんです。
もっとも使う際はかなりの時間と体力と気力を必要としますから、こんな状態になっちゃう訳なんです・・・・・・」
本当にやつれた様に、楊明は淡く微笑んだ。
「これで分かってくれましたか?」
「ああ。」
その答えを聞くと楊明は微笑み、その身体がぐらりと揺れた。
「それじゃ・・・・・・おやすみなさ・・・い・・・・・・・・・」
そして楊明はソファに倒れ、深い眠りに付いた。
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みんな疲れた様に力無く座り、沈黙の時が流れていた。
そこに・・・・・・
ピンポ〜ン
「・・・・・・・・・・・・」
全員扉を開けに行く気力も無く、殆どが眉一つ動かさなかった。
ピンポンピンポ〜ン
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ピンポンピンポンピンポ〜ン
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポ〜ン
「だぁぁぁぁぁぁしつこぉぉぉぉぉい!!」
耐えきれなくなった那奈がわざと足音を立てて玄関に向う。
ガチャッ
「何の様だ!!」
其処にいたのは、何時ものメンバーだった。
「七梨せんぱ〜い、楊ちゃ〜ん、遊びに来たよぉ〜♪」
「楊ちゃん、ルミちゃん遊びにきたよぉ。」
「あ、那奈さんお邪魔します。」
「シャオちゃ〜ん!!」
「汝昂せんせ〜い!!」
「よ、那奈姉。」
「こんにちは、那奈さん。」
何時もの面々の何時ものペースのリビングとの凄まじい雰囲気のギャップに那奈は凄まじい疲労感を感じた。
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何時もの面々は那奈の制止も振り切りリビングに雪崩込む。
そして、その異様なまでに沈んだ雰囲気にたじろいだ。
「ど、如何したんですか!?」
花織が驚いた様に思わず口に手を当てる。
「あう・・・・・・お姉ちゃん・・・・・・」
熱美を見付けたルミがパタパタと熱美に近付き、抱き付いた。
「ルミちゃん、如何したの・・・・・・?」
熱美はルミを抱き締めながら、ルミの肩が震えている事に気が付いた。
「そう言えばルミは泣かないで、ずっと我慢してたからな・・・・・・そんなに幼いのに・・・・・・」
那奈がそう呟くと同時に、ルミは声を上げて泣き出した。
「・・・・・・那奈さん、何があったんですか? 如何やら深刻な事態のようですが・・・・・・」
出雲が目を細め、何か大変な事が起こった事を察知した。
「・・・・・・それはあたしの口から説明するのはちょっと・・・な・・・・・・」
那奈が口篭もる。すると、何かに気付いた翔子が真剣な目でリビングを見渡す。
「なあ那奈姉、それってここにいないシャオと紅零に関係があるんじゃないのか?」
翔子の言葉に、元々リビングにいた面々に衝撃が走る。
「・・・・・・そう、なんだな。」
翔子の言葉にみなは沈黙を持って答えた。
「それで、シャオと紅零は?」
「・・・・・・シャオなら部屋で寝てるよ。」
翔子達は後ろから聞こえた言葉に思わず振り返った。
そこには、何かを握り締めた太助の姿があった。
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「如何言う事だ太助!! シャオちゃんに何が在ったんだ!?」
たかしが思わず太助に食って掛かる。
「七梨、説明してくれないか?」
「私も同意権ですよ、太助くん。説明してくれませんか?」
太助は押し黙り、ゆっくりと手を皆に見える様に持ち上げ、その掌を開いた。
そこには、真っ二つに砕けた支天輪が大切に布に包まれていた。
「「「っ!?」」」
それを見た全員は目を見開き、目の前の現実に呆然とした・・・・・・
「太助・・・くん・・・・・・それって、シャオちゃんの・・・・・支天輪じゃ・・・・・・」
逸早く立ち直った乎一郎が震える指先で砕けた支天輪を指差す。
「ああ・・・・・・」
太助は唇を噛み締めながら、如何にかその言葉だけは紡ぎ出せた。
「なんで、なんでそんな事になってんだよ七梨!!」
思わず翔子は太助の胸倉を掴む。
唇を噛み締めながら翔子は太助を睨みつけた。
「・・・・・・・・・・・・」
太助は答えられない。
答える代わりに唇を更に噛み締め、その唇からは血が滴り落ちる。
だが、翔子の目には入らなかった。
「答えろ七梨!!」
しかし、それでも太助は答えられなかった。
思わず翔子は拳を握り締め、太助に向かって振りかぶる。
だが、その拳は花織が抱き付く様にして止めた。
「駄目です山野辺先輩!! 七梨先輩だって辛いんですから!!」
花織の必死な様子に、翔子はゆっくりと手を下ろした。
「山野辺さん、まずは話しを聞こうよ・・・・・・第一太助くんが悪いと決まった訳じゃないし・・・・・・」
乎一郎の言葉に翔子は押し黙る。
「起きた事に付いては私達が話すわ。楊明から説明されたから、楊明に説明された事だけなら教えてあげられるから。」
汝昂が深刻な顔でみなを一瞥する。
それに、異を唱える者はいなかった。
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楊明の説明を聞いた面々がそれぞれに代わる代わる答えて行った。
それを来た面々は黙って聞いていた。
「そう言う訳だ。」
紀柳がそう言葉を切ると、全員から大きな溜息が漏れた。
「そんな事が起きてたんですか・・・・・・」
出雲が深刻そうな顔で呟く。
「まったく、あたしがいない所でそんな事が起こるなんて・・・・・・」
翔子も拳を握り締め、深刻な顔で呟いた。
乎一郎や香織達に至っては、真っ青になり声すら出せなかった。
「私、紅零さんを見てきますね・・・・・・」
瑞穂が雰囲気に耐えられなくなったのだろう、逃げ出す様にリビングを後にした。
そしてかなりの時が流れ、太助が口を開いた。
「・・・・・・俺は、支天輪と戦天剣を如何にかして直そうと思ってるんだ。いや、絶対に直す!!」
太助がそう自分に言い聞かせる様に叫ぶ。
それを聞いた面々が顔を上げ、太助の方を見る。
そして、次々に希望の色を取り戻した。
「たー様、勿論あたしも付き合うからね。あんなシャオリン見てられないもの。」
「シャオを元気付ける為だ、あたしも手伝うよ七梨!!」
「弟がやろうって言うのにそれを黙っていられる姉なんていないって・・・・・・手伝うよ、太助。」
「私も手助けさせてもらおう。シャオ殿も紅零殿も私には大切な人だ。」
「太助くん、僕なんかでよかったら力を貸すよ!!」
「私も無論手伝いましょう。どうやって直すにしろ力を貸せるはずです。」
「シャオちゃんの為なら例え火の中水の中・・・・・・」
「野村先輩は黙ってて!! 私も勿論手伝います!! シャオ先輩も紅零さんも心配ですし・・・・・・」
「七梨先輩、役に立たないかもしれないけど私も行きます!!」
「花織、ゆかりん・・・・・・私も、私も一緒に行きます!!」
「あう・・・・・・一緒に行く・・・・・」
「ふみぃ〜・・・・・・必然にしろにゃんにしろ、みゃあが原因にゃんだから手伝うにゃ・・・・・・乗りかかった船というにゃしにぇ。」
その場にいるほぼ全員が、賛同の声を上げた。
ただ、空だけが目を閉じ、押し黙ったままだった。
空はゆっくりと目を開けると、詩を歌う様に言葉を紡いだ。
「紅零どのは私にとって大切な人です。彼女は優しい人だから、その心を助けられるのなら喜んで力を貸しましょう。」
その言葉を聞き、那奈が太助を見る。
「全員一致で太助に手を貸すってさ。如何する太助?」
呆然と聞いていた太助は驚いたような顔をしながら全員を見た。
「那奈姉、みんな・・・・・・」
そして、太助は意を決する様に決意の表情で口を開いた。
「如何言う方法か分からないけど・・・・・・楊明の時みたいに辛い思いをするかもしれないけど・・・・・・力を、貸してくれ!!」
その言葉に、全員は大きな歓声によって答えた。
そこに、ドタドタと凄い足音を立てて、誰かが階段を駆け下りてきた。
バタンッ!
そんな音と共に扉が開き、瑞穂が雪崩込んできた。
だがバランスを崩して思いっきり転倒し、顔面で床掃除をしてしまう。
「いたたたた・・・・・・」
瑞穂は擦り剥いた鼻をかなり痛そうに押さえた。
「だ、大丈夫ですか・・・・・・?」
熱美が手を貸すと、その手を借りて勢いよく立ち上がった。
「うん、ありがと♪ ・・・・・・って、そうじゃなくて大変なの!!」
手を意味も無くバタバタとさせて慌てていると言う意思表現をする。
「如何したにゃ?」
みんなが一様に瑞穂を見る。
「こ、紅零さんが目を覚ましたんです!!」
一瞬間を置き、その場が騒然となった。