「……また、外れか。」

 

「流石に、そうそう簡単に見つかったりはしませんよ。」

 

「そうだな。何せ、この中国という国は、あまりにも広すぎるからな。」


“まもって守護月天”外伝

新説・紅零の章 第七話~唐突開始!? 強化合宿!!(後編)~

 

戦いは、苛烈を極めていた。

「来来・梗河!!」

熊に乗った武人が、剣を手に降り立った。

その目には、熱いものが燃えていた。

「……ふ、久しぶりに貴様が相手か……よかろう!!」

そういうコウレイの瞳も、何か熱いものが燃えていた。

互いに同時に駆け抜け、数回斬り合うと同時に、すれ違う。

それぞれが互いの攻撃を互いに弾いたために、手傷はない。

「万象大乱!」

すれ違い、梗河と距離が開いたコウレイの足元の岩が瞬間的に巨大化する。

「車騎!」

遠方からの精密射撃で、巨大化した岩が粉々に砕け散る。

「ぐっ!?」

まるで散弾のように飛び散った岩は、流石のコウレイも防ぎきれず、数発腕などに当たってしまう。

そこに、すかさず猛スピードで梗河が突っ込んできた。

「……ふっ、こしゃくな!!」

言うなりコウレイは蒼天剣を一振りし、鞘帯を筒状に一気に引き伸ばす。

そして蒼天剣本体が穂先になるよう、持ち直す。

「はぁっ!!」

“槍”となった蒼天剣による高速の刺突。

まるで散弾のようなその連撃に、梗河の足が止まる。

そこに。

「封渦冰銷!!」

穂先である蒼天剣から風が巻き起こり、流石の梗河も避けきれず凍りつく。

「万象大乱!!」

「車騎!!」

先程と同じように巨大化した岩が四散する。

だが、コウレイは槍となった蒼天剣を回転させ、全て弾き落とす。

「私に同じものが通用するとでも……っ!」

「陽天心召来!!」

コウレイがそういい終わる前に、機会を窺っていたルーアンが叫んだ。

黒天筒から出た光は、凍り付いている梗河の剣に降り注いだ。

……そして、意思を持ち、空を駆けてコウレイに襲い掛かった。

自分の死角からの奇襲を紙一重で見切り、何とか陽天心・剣の一撃を防ぎきる。

「来来・天鶏!!」

「万象大乱!!」

「陽天心召来!!」

唐突に足元の雑草が巨大化し、更にその巨大雑草が意思を持ち、まるで虫かごの様にコウレイを閉じ込めた。

そして、逃げ場のないそのかごの中に、天鶏が猛スピードで飛来していく。

「くっ、ならば!!」

コウレイは陽天心・剣を強く弾くと、鞘帯を鞭のようにしならせ、陽天心・剣を巻き取った。

そして、巧みに鞭のような鞘帯を操ると、剣を天鶏に向けて投げ飛ばした。

「車騎!!」

刹那、車騎が精密射撃でその陽天心・剣を打ち落とす。

「……っ、封渦冰銷!!」

鞭のように鞘帯をしならせ、今度は蒼天剣を穂先にして飛ばす。

そして、そのまま天鶏に触れると同時に風が巻き起こり、天鶏の動きが凍りつく。

「来来・雷電!!」

だが、間を開ける事無く支天輪から光速で雷の龍が現れ、コウレイに襲い掛かる。

「封渦……。」

「させないわよ!! 行きなさい、我が子供達よ!!」

ルーアンがそう叫ぶと同時に、コウレイの足元の地面“全て”が波の様にうねり、高波となって両側からコウレイに襲い掛かった。

「なぁっ!?」

「万象大乱!!」

すかさず、キリュウがその大地を巨大化させ、一瞬でコウレイを挟み込む。

そこに、雷電が突撃してきた。

そして、大きな爆音と共に、土煙が立ち上った。

 

 

 

「うおぉっ!!」

太助が仮面の男に殴りかかる。

「そんな、腰も入っていないパンチなどではあたらんっ!」

そういい、太助の拳を打ち払い、カウンターの突きをかます。

「うぉっ!?」

だが、それを紙一重で避けると、転がって距離をとる太助。

「……だが、この反射神経は見事と言ってやろう。」

何処と無く嬉しそうに呟く男。

そこに、手ごろな木の棒を構えた出雲が挑みかかってきた。

「はぁっ!!」

出雲は素早く面、胴と打ち抜き、そのままの勢いで距離をとる。

「……中々やるが、その程度ではな。」

「貴方、一体何者ですか……。」

二発とも完全にガードされ、背筋が寒くなるのを禁じえない出雲だった。

「……これでも、高校の時は全国大会まで行ったんですがね。」

そういいながら、油断無く構える出雲。

「て、てりゃぁっ!!」

少し離れた高台から、近くにある石を投げつける乎一郎。

だが、男は乎一郎を見る事無く、無造作に石を弾いた。

「そんなおもちゃでは俺を倒すことは出来んぞ!」

余裕の表情を浮かべながら、男はそう言い切った。

(ヘルメットだから、実際はそんな気がするだけだが)

「こ、こうなったら……。」

乎一郎は、ルーアンに上げようと途中で買っておいた炭酸飲料の最後の一本を取り出した。当然、他のは全部ルーアンが飲んだ。

思いっきり缶を振ると、プルタブに手をかけると同時に叫んだ。

「太助くん、出雲さん、一度逃げましょう!!」

そう言って、乎一郎は缶の蓋を開けた。

すると、素晴らしい勢いで缶の中身が噴出し、仮面の男に降り注いだ。

「なにっ!?」

綺麗にヘルメットのバイザーが曇り、流石に動揺する男。

「ナイス、乎一郎!!」

「よくやりました、遠藤くん!!」

その隙を逃さず、太助と出雲は全力で乎一郎のほうに走った。

乎一郎自身も走り出していった。

 

「はぁ、はぁ……。とりあえず、これだけ逃げれば、そうそう追ってこないだろう。」

「……まぁ、ただの時間稼ぎにしか、なりません、けど、ね……。」

荒い息をつきながら、太助と出雲がそう口にする。

乎一郎はといえば、荒い息のまま、口も聞けないようだった。

「でも、よくやったよな、乎一郎。」

「えぇ。咄嗟に思いついた割には上出来です。」

二人の賞賛を受けると、少し照れたように呟いた。

「ま、まぁ、その……ルーアン先生に、太助君を頼むって言われちゃったから、さ。」

先程、それぞれが分かれる際に、ルーアンが乎一郎に、「たー様を頼むわよ、遠藤くん。」と、そういい残していたのだ。

……そして、乎一郎はもっていた。逆転の一手となりえるアイテムを。

「あ、あのさ……。」

「どうした、乎一郎?」

「僕、考えたんだけど……こういうの、どうかな?」

「こういうの、といいますと?」

「えっと、実は……。」

太助と出雲が耳を近づけ、ごにょごにょとその考えを述べた。

それを聞いた二人は、少し難しそうな顔をした。

「だ、だめなかぁ……?」

「いや……、いいんじゃないかな?」

「えぇ。どうせ、他に何か方法があるわけではありませんから。それでいきましょう。」

二人の言葉に、少し嬉しそうな乎一郎だった。

「それでは、ちんたらしている時間はありませんね。」

「あぁ。それじゃあ、作戦開始だ!!」

 

 

 

もうもうと立ち込めていた土煙が晴れ、雷電が直撃した後が垣間見えた。

万象大乱&陽天心・大地は完全に吹き飛び、原型を留めていなかった。

そして……。

「……くぅっ、やって、くれたな……っ。」

鞘帯を板状に配置した即席の“盾”を構えたコウレイが、そこにいた。

流石に、驚愕の表情を禁じえない三人。

「このスーツが耐電性を持っていなかったら、危ない所だった。……が、残念だったな。」

そういうコウレイだったが、そのライダースーツの各所は破れ、所々焼け焦げていた。

また、背中にあったリュックサックは吹き飛んでしまったのか、コウレイの背中にはなかった。

蒼天剣による盾も、咄嗟な物だった為に雷電の攻撃を防ぎきれたわけではなかったのだ。

「第二ラウンドと行こうか!!」

鞘帯を両腕と身体に巻きつけ、蒼天剣を腰のベルトに差し込むと、コウレイは楽しそうに笑った。

 

「木々よ、我に力を!!」

「陽天心召来!!」

唐突に若芽が巨木へと成長し、同時にそれが動き出した。

「はぁっ!!」

コウレイは虚空を駆け抜けると、渾身の力をこめた拳を、陽天心・樹木へと叩き付けた。

鞘帯を巻きつけた事によって、尋常ならざる一撃となったその拳は、大地に確りと根を張る巨木すら傾かせた。

体勢を崩した陽天心・樹木を無視し、空を駆け抜けるコウレイ。

「車騎!!」

空中に居るコウレイに向かって、遠方からの精密射撃。だが、コウレイは空中で軽くステップを踏むと、それを軽く避けた。

更に、何発も何発も撃ち出して来る車騎の砲撃をことごとく回避していくコウレイ。

……だが、それが数十発めとなると、避けきれなくなり砲撃を叩き落すようになる。

何故ならば、その砲撃は三百六十度、あらゆる方向から、それも死角に向かって撃たれているのだから。

それも、本来の車騎にはありえない連射速度で。

「……馬鹿な、いくら車騎とはいえ、この数は……!?」

振り返り、車騎を探すコウレイ。

そして、見た。

空を縦横無尽に駆け抜ける車騎の姿を。ついでに、後ろに沢山付いてくる砲弾の群れも。

「な、なぁっ!?」

流石に驚きの声を上げるコウレイ。

「驚いたようね、コウレイ!!」

自信満々に、高笑いすらしそうな勢いで喋るルーアン。

「い、一体何をしたルーアン!?」

「簡単なことよ。車騎の戦車と砲弾に陽天心をかけたのよ!」

確かに、陽天心には空を飛ぶ力が与えられる。

更に、砲弾自体が動けば、給弾速度も発射速度も上がるというものだ。

だが、当然この程度で終わる訳が無かった。

「万象大乱!!」

唐突に、打ち出された砲台が巨大化した。

「くっ!? 封渦冰銷!!」

流石に、いくらコウレイであろうとも超高速で飛来する、重量数百キロの砲弾相手では叩き落す事も、避けきる事もできない。

相手が射撃の名手である、車騎であるならなおさらの事だ。

……そして。

「来来・北斗七星!!」

最強の攻撃用星神である北斗七星が、支天輪より現れ出でた。

「っ!!」

声にならない叫びをあげて、拳を握り締めるコウレイ。

だが、降り注ぐ巨大な砲弾と、最強の星神、北斗七星の前に、流石のコウレイも動く事はできなかった。

「……っ!? くっ、うぅ……。」

完全に北斗七星に囲まれ、尚且つ周囲には陽天心・砲弾と、陽天心・車騎が隙無くコウレイを狙っていた。

「……私の、負けだ。」

搾り出すようにそう呟くと、コウレイはがっくりと頷いた。

 

 

 

「逃げても無駄だ、隠れてないで出て来い!!」

太助たちを追ってやってきた仮面の男が、草木を踏み分けてやってきた。

息を殺し、跳びかかる機会を窺う二人。

そして。

「でりゃぁっ!!」

「はぁあっ!!」

太助と出雲が左右から挟みこむような形で跳びかかった

「ぬっ!?」

だが、不意を撃たれたにも関わらず、男は冷静に二人を避けた。

二人ともバランスを崩して倒れる。……だが。

“二人の腰に結んであったロープが”男に引っかかり、そのまま男も一緒に引き摺り倒した。

「な、なんだとっ!?」

予想だにしない衝撃に、なすすべなく転倒する男。

「よし、今だ、乎一郎!!」

「うんっ!!」

そう言って、木の上に居た乎一郎は、男に向かって飛び降りた。

「ぐおっ!?」

いくら小柄とは言え、この高さ。その衝撃たるや、相当なものである。

「だ、だがこの程度では……。」

「なら、これでも“食らえ”!!」

乎一郎は懐から、“陽天心のかかったチョコ”を取り出し、バイザーを無理やり開けると放り込み、またバイザーを素早く閉じた。

そして、一瞬の硬直。

思わず、太助たちは息を呑む。

「……う、ぐぁ。」

一瞬痙攣する男。

そして。

「ぬぅぉおおおおおおおお!!??」

この世のものとは思えない絶叫を上げると、ピクリとも動かなくなった。

「か、勝った……。」

「……よくやりました、遠藤くん!」

「う、うん。流石はルーアン先生のチョコだね。……お守り代わりに持っといてよかった。」

一体何時の話からだ、それは。そんなもの持ってるなよ。

「…………。」

「……どうしたの、太助くん?」

「いや、なんかさ、こいつ……。」

太助は、無理やりヘルメットを脱がす。

……すると、そこにいたのは。

 

 

 

気が付けば、そこは本来の姿であるキャンプ場の様相を取り戻しており。

なんでか、バーベキュー大会に発展していた。

「はい、みんなお疲れさん。ほれ、太助。飲むか?」

何故かここにいる那奈は、ライダースーツ姿でクーラーBOXからジュースを取り出すと、みんな配っていた。

「……なんで、那奈姉がここにいるんだ?」

「別に、あたしが何時帰ってきたっていいだろ?」

「いや、そういう問題じゃなくてな……。」

半眼で呟く太助。

「はっはっは! なに、中国でたまたまあったもんでな。折角だから、ついてきてもらったんだ。」

「……むしろ、何で親父がここにいるんだ!!」

既に、太助の声は絶叫に近かった。

「うぅむ。何でと言ってもなぁ。」

と、太郎助が唸っていると。

そこに、シャオ、ルーアン、キリュウがやってきた。ちなみに当然キリュウは真っ赤。なお、後ろには、ちょっとうな垂れているコウレイもいる。

「おぉ、君たちがシャオちゃんにルーアンさんにキリュウちゃんか。俺の息子が世話になっているようで。」

「いえ、私こそ太助様には本当にお世話になってしまって……。」

「あ、はじめましてお父様。わたくし、慶幸日天ルーアンと申します。たー様には本当にお世話をしてまして……。」

「…………き、キリュウだ。……その、父上殿。……よ、よろしく、頼む。」

それぞれの反応をみて、楽しそうに笑っている太郎助であった。

が、急に真面目な顔になって、コウレイのほうを見た。

「……しかし、まさかお前が負けるとはなぁ。中々やるようじゃないか、三人は。」

「……ふん。むしろ、三人同時にやれと仕向けたのはお前だろう、太郎助。」

「はっはっは、それぐらいじゃないと話しにならんと思ったからな。……だが、よかったよかった。」

互いに、十年来の友人と言わんばかりに、親しげに話す二人に、他の一同はぽかーんと口を開けていた。那奈を覗いて。

「な、なぁ親父。」

「なんだ太助。しっかし、お前もよく成長したみたいで、父さんは嬉しいぞ!」

「いや、それはいいからさ……。何で、コウレイと知り合いなんだ。」

その言葉に、一瞬間を置いてから大笑いする太郎助。

「な、なんで笑うんだよ親父!!」

「な、なんでってお前、十二年前は俺は家にいたじゃないか。」

その言葉に、凍りつく太助。

「……考えなかったのか、一切?」

「まぁ、太助らしいっていえば、太助らしいんじゃないか?」

けらけら笑いながら、那奈がそう口を開いた。

「じゃ、じゃあもしかして那奈姉ぇも……?」

「あぁ。そんときゃあたし八歳だったし。知らないわきゃないだろ。」

その言葉に、がっくりとうな垂れる太助。

「……まぁ、精霊だって気付いたのは、シャオが精霊だって話を聞いてからだけどな。コウレイ、すぐどっかにいっちまったし。」

「じゃ、じゃあ親父はもしかしてコウレイが精霊だってこと……?」

「……あぁ。知っていた。何たって、お前がコウレイを呼び出した時隣にいたんだからな。」

真面目な顔をして、そう答える太郎助。

それを聞いて、三精霊が不思議そうな顔をした。

「あ、あの、お父様。それじゃあ、もしかして、最初から私たちの事を知りながら、中国に……?」

「だとすると、もしかして……。」

「……一体、どういう事か説明してもらおうか。」

そう言って、キリュウは後ろに立っているコウレイを短天扇で指し示し。

「コウレイ殿!!」

その反応を見て、太郎助はあれ?といった顔をした。

「……なんだコウレイ。まだ話してなかったのか。」

「……気を見て話すつもりだったんだ。太郎助、お前が乱入してこなかったら、この合宿の終りにでもと、な。」

少々不機嫌な顔つきでコウレイはそう言い放った。

そして、大きくため息をつくと、ゆっくりと話し始めた。

「それでは、説明しよう。……私が何故十二年前に主の前から姿を消し、何故太郎助さえも居なくなったか。私と太郎助が、何故今になって戻ってきたか。……そして。」

一旦言葉を切り、息を吸ってからその続きを口に出した。

「何故、月天日天地天氷天同主という、このような事態に陥ったのかを。」

その言葉に、一同はごくりと息をのんだ。

 

 

 

「ま、その前に腹ごしらえと行くか。」

コウレイのその言葉に、一同がこけたのは、言うまでもなかった。


あとがき

 

みなさん、今日は。荒川です。

遂に、決着です。

なんとか、この前中後の三編を終える事ができました。びっくりだね。

まぁ、途中から文章が微妙になってたり(最後とかね)しますが、そこはご勘弁を。

 

なお、補足説明になりますが、『陽天心・大地』と、『陽天心・車騎』『陽天心・砲弾』は、中編で、コウレイが砦に突入した段階で準備しておいたものです。

 

さて、次回、遂にこの物語の最大の謎が明らかになります。

では、次回を待て!!

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