「それしか、ありません。彼を、主を救うのならば。」

 

「……そうか。永い、旅になりそうだな。」

 

「えぇ。ですが、まだ時間はあります。なに、必ず探し出せますよ。」


“まもって守護月天”外伝

新説・紅零の章 第六話~唐突開始!? 強化合宿!!(中編)~

 

「……しかし、久しぶりの帰郷がこんな形になるとは、驚きだな。」

「というか、あたしは久しぶりにあんたの顔みたんだけどさ……。」

謎の男が運転する車の中で、よくわからない連中が話していた。

数は二人。謎の男が一人と、謎の女が一人。

まぁ、謎というのも当然で、何せよくわからない格好をしているからだ。

二人とも、ヘルメットを着けてる所為で、顔も何もわかったもんじゃない。

だが、何故だろう。この連中、とっても和気藹々と、楽しそうな雰囲気だった。

 

場所は戻り、山奥。

 

甲高い鳥の鳴き声が、シャオの耳を打った。

「これは、天高っ!?。ルーアンさん、来ました!!」

「……さっすがコウレイ、律儀じゃないのっ!!」

天高がいち早くコウレイ接近の報告し、そしてそれに何より最初に反応したのは、天陰だった。

森から飛び出したコウレイの眼前には、一瞬で天陰が現れていた。

「……流石に、速いな……っ。」

コウレイはそういうなり、腰から蒼天剣を抜き放ち、そして一振りした。

すると、人一人分ほどの長さの鞘帯がぴんっと張り、一本の剣となった。

そして蒼天剣の刀身が柄頭になるよう逆手に持ち替え、構える。

すかさず、天陰がその巨躯を使って高速で体当たりを仕掛けてくる。

それを紙一重で見切ったコウレイは、すれ違いざまに鞘帯の刃の腹の部分を天陰の角に叩き付けた。

すると、一瞬で布の柔らかさに戻り、角に纏わりついた。

そしてその反動を利用し、天陰の背に飛び乗った。

「ふっ、中々いい乗り心地だぞ、天陰っ!」

そういいながらコウレイは、ロデオの要領で、暴れ馬を扱うように暴れる天陰を操っていた。

「これは……ついでだっ!」

そういうと、コウレイは背中のリュックサックから一枚の長い布を取り出し、それで天陰を目隠しした。

「ほら、こっちだっ!!」

コウレイが無理やり天陰の方向を変え、無理やり走らせる。

その先には、塁壁陣に守られた砦が。

……そして、天陰は全速力で砦の壁にぶつかった。

コウレイはといえば、ぶつかる直前に跳躍し、砦を守るようにとぐろを巻く塁壁陣に飛び乗った。

そのまま一気に塁壁陣を駆け上っていく。

「いい加減、あんたの思い通りにはさせないわよ、コウレイ!!」

「コウレイさんを止めて、軍南門!!」

塁壁陣を駆け上るコウレイに対し、陽天心・尖った枝が何本も襲い掛かり、軍南門がその大きな手を使ってコウレイに掴みかかろうとする。

が、コウレイは塁壁陣に鞘帯を巻きつけ後ろに回りこみ、塁壁陣を盾にした。

それによって枝は塁壁陣に阻まれ、軍南門も一瞬躊躇してしまう。

「……もらったっ!!」

その躊躇した一瞬に、コウレイは蒼天剣を投擲した。鞘帯の一端を塁壁陣に巻きつけたまま。

そして蒼天剣は、なんと軍南門の首に見事に巻きついた。

そのままコウレイは、全力で鞘帯を引っ張った。

「ぐ、ぐぉっ!?」

思わず軍南門が唸る。

コウレイに掴みかかろうと前かがみになっていた所に、首という急所に大きな力が加わった事で、流石の軍南門もバランスを崩し……。

そのまま、砦へと倒れこんでいった。

 

凄まじい振動が、中に居た太助たちを襲った。

「な、なんだっ!?」

「……どうやら、軍南門殿がこの砦に倒れこんだらしい。コウレイ殿、やってくれるな……。」

驚きの声を上げる太助に対し、キリュウは冷静に分析をしていた。

「あ、あの軍南門さんをですか!?」

思わず乎一郎がそんな声を上げる。

「……ですが、流石といいましょうか。それでもこの砦は崩れてはいませんね。」

「うむ。流石は羽林軍殿たちが心血を注いで作ったものだ。……むっ。」

キリュウが急に短天扇を構えたのを見て、出雲が思わず聞き返した。

「ど、どうなさいました、キリュウさん?」

「……来るぞ!」

言うが早いか、そこには既にコウレイが立っていた。

 

(シャオしゃま、大変でし!! コウレイしゃんが、もう目の前にいるでしよ!?)

「……大変です、ルーアンさん!! すでに、コウレイさんが中に!?」

「……ドサクサにまぎれて、って訳ね……やられたわ。……まぁ、キリュウがいるから何とかなるでしょう。」

「……そうですね。今のうちに、こちらも準備を整えておかないといけませんね。」

そういうと、二人はそれぞれの道具を構えた。

 

「万象大乱!!」

その言葉と同時に、天井の一部分だけが巨大化し、まるでプレス機のようにコウレイに襲い掛かる。

それをすかさず前転で避け、肉薄しようと近づくコウレイ。

だが、それに対して、更にキリュウは短天扇を振るった。

「万象大乱っ!!」

今度は、壁の一部だけが巨大化し、まるで破城槌のような一撃がコウレイを襲った。

「なにっ!?」

通路と同じ大きさの大槌で殴られるようなもの。

流石のコウレイといえど、避けられるものではなかった。

そのまま先程の落ちてきた天井と挟み込まれる形になり、コウレイの姿が見えなくなった。

「……よし、これで時間は稼いだ。逃げるぞ、主殿!!」

「え、でも……?」

「コウレイ殿をあの程度で倒せる訳が無い。最後に勢いが殺された……恐らく、封渦冰銷で止められたのだろう。」

「な、なるほど……。」

そういいながら、キリュウは床板の一枚を外した。

そこには小さな、人一人が通れるような通路があった。

「ここから先は迷路になっている。みな、私からはぐれぬように。」

キリュウの言葉に三人は頷き、その通路に潜っていった。

 

「……まったく、流石はキリュウと言った所か。」

壁を切り裂いて脱出しようとも思ったのだが、この通路。どの壁も相当な分厚さになっていて、ただ切るだけでは脱出できそうにもない。

その上、挟み込まれるような形になっている所為で、まともに蒼天剣を振るう広さもないと来ている。

「してやられたな……。」

かつての自分だったなら、これを抜け出すのは相当辛かっただろう。

「さて、楽しくなってきたな……これは。」

そういうとコウレイは一度壁を切り、そして鞄から何か粘土のようなものを取り出した。

 

「太助様!!」

「たー様!!」

「シャオっ!!」

きちんと脱出できた太助たちを待っていたのは、当然ながらシャオとルーアンだった。

ちなみに、ルーアンは少しすねているが。

「……まぁ、にしても。よくこうも簡単にコウレイを出し抜いたわね、キリュウ。」

「なに。コウレイ殿とは何度と無く戦ってきたのでな。コウレイ殿から逃げるのなら、慣れっこだ。」

……すると、砦のほうから何か大きな爆発音が聞こえてきた。

「……な、なんでしょうか。今の音は……。」

出雲の言葉に、三精霊が眉をひそめる。

「爆弾、でしょうか……それにしても、こんなに大きな爆発となると……。」

「聞いたこと無いわね。……少なくとも、あたし達の知ってる限りじゃね。」

「……あっても、相当の火薬が必要なはずだが……。」

そういいながら唸っている三人。すると、そこで乎一郎がぽそりと呟いた。

「……もしかして、プラスチック爆弾、かな。」

「知ってるの、えんどーくん!?」

ルーアンの言葉に、躊躇しながらも、頷く乎一郎。

「僕も、ゲームとかでしか知らないんだけど……粘土みたいな爆弾で、すごい爆発力を持ってるって言う……。たしか、これぐらいの爆発力はあったと思う。」

その台詞に、太助と出雲の顔が引きつる。

「な、なぁそれってさ……。」

「軍用品、ですよね。……確か。」

「まぁ、コウレイ殿の事だ。この十二年間でそういったものを手に入れていてもおかしくはあるまい。」

「……そーね。最新の武器とか兵器には興味津々な子だからね、あの子。」

そういう二人の顔には、冷や汗がびっしりと浮かんでいた。

「……厄介ね。」

「あぁ。コウレイ殿だけでも十分恐ろしい相手なのに、この時代の新兵器とやらを使われては、予測ができん……。」

二人の言葉に、ほほを引きつらせる太助。

「な、何と言うか……反則臭いよな、それって……。」

「……まぁ、あれですよ。魔法的な神秘の力と、最先端科学の力を同時に使うわけですから。」

そういう出雲のほほも、引きつっていた。

「……な、何にせよ、今のうちに逃げたほうがいいですね。」

「そ、そーね。おにーさんの言うとおりだわ。」

だが。

「そうは、いかんっ!!」

変声機でやたら低い声に変換された、変な男の声が聞こえた。

 

真っ黒なフルフェイスヘルメット。

真っ黒なライダースーツには白いライン。

そして、無駄にでかいライダーベルト。

そして何より、変なポーズ。

「とうっ!!」

何でか、掛け声と共にそいつは降り立ってきていた。

「ここから先は、この私が通さん!!」

びしっと指を突きつけてくる。

「うわぁ、変態さんだ……。」

思わず呟く乎一郎。

「断じて変態などではない!」

説得力の欠片もありはしない。

「まぁ、いいわ……。陽天心・召来!! その変態をどっかにふっ飛ばしちゃいなさい!!」

適当に命を与えられた陽天心・木が、男に襲い掛かる。

……だが。

「はぁっ!!」

その回し蹴り一閃で、その陽天心・木の枝は吹き飛んだ。

「「「なっ!?」」」

「はっはっは!! その程度でこの私を倒そうとは百年早い!!」

「……主殿、シャオ殿、ルーアン殿。こやつ、只者ではないぞっ!?」

思わずそう叫ぶキリュウ。

……そして、そこに。

「……どうやら、間に合ったようだな。」

後ろから、少々煤けたコウレイがやってきた。

前門の変態、後門のコウレイである。

「……ふっ、久しぶりだな、コウレイ。」

「あぁ。協力、感謝する。」

どうやら二人は知り合いのようだった。

「……これは、やるしかないようですね。」

そういいながら、支天輪を構えるシャオ。

「そーみたいね。……ま、いくらコウレイでも、真正面からあたし達三人相手じゃ分悪いしね。」

黒天筒を構えるルーアン。

「……問題は、この男がどれ程のものか、という所か。」

そして、短天扇を構えるキリュウ。

「そーね。……それじゃ、たー様、おにーさん。えんどーくん。その変態任せたわね。」

「ちょ、ルーアン!?」

「な、何で私がこの変態と……!?」

「ぼ、僕無理だよっ!!」

「かんたんよ。時間さえ稼いでくれればいーから。」

そう言って、コウレイと対峙する三人。

「……流石の私も、三人同時は初だな……。さて、どうしたものか。」

そういうコウレイの顔は、とても楽しそうだった。

「いきます、コウレイさん!!」

「いくわよ、コウレイ!!」

「覚悟なされよ、コウレイ殿!!」

三人がそれぞれ支天輪、黒天筒、短天扇を構え。

「……いいだろう。来いっ!!」

コウレイは、蒼天剣を構え。

 

決戦は始まった。

 

 

「……なんか、この変態見たことあるような気がするんだよな、俺。」

「そうなの、太助君?」

「……いや、今はそんなことを言ってる場合じゃありませんよ二人とも。」

緊張の面持ちで対峙する三人と、とても自然体の男。

「……さぁ、さっさと来るんだな。」

不敵な面持ちで、男はそう呟いた。


なかがき ぱーととぅー

 

どうも、荒川です。

そんなこんなで中編をお送りいたしました。

なお、劇中でコウレイが脱出した方法は、切れ込みをいれた壁にプラスチック爆弾を仕掛け、爆風は封渦冰銷で相殺するという荒業です。

よいこは真似しないでねっ(できへんできへん)

 

かくして、謎の男の正体は!?

三精霊対紅零の結末は!?

全ては次回、『唐突開始!? 強化合宿!!(後編)』にて!!

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