「……なんなんだ、この化け物は?」

 

「……いや、私が聞きたいぐらいだ。どうやれば、あのスクラップがこうなるんだ?」

 

「……流石は自称世界一の機械技師、か。」


“まもって守護月天”外伝 新説・紅零の章

番外編その1~コウレイのバイクについて~

 

※この話は、コウレイのバイクについて興味を持たない方。また、バイクの説明などに興味が無い方は途中まで飛ばすことをお勧めします。

 

ある日の午後。昼食も終り、各々がのんびりと過ごしている頃。

リビングでは、コウレイと太助が何する事もなく、テレビを見ていた。

ちょうど番組がCMに入った。そこで、ちょうどオートバイの宣伝が流れた。

それを見て、ふと思い出したかのように太助がコウレイに尋ねた。

「なぁ、コウレイ。前から気になってたんだけど……。」

「ん? どうした主。」

本当に好きなのだろう、相変わらず烏龍茶を口にしながら聞き返すコウレイ。

「いや、あのバイクって、どんなバイクなのかなーって。」

「ん。あぁ、あれか。少し待て。」

そういうと、湯飲みに残っていた烏龍茶を一気に飲み干した。

「あれはだな、私が中国に行っていた時に“足”として手に入れたバイクだ。それは前に言ったな?」

「確か、元々はスクラップ同然だったって?」

「あぁ。……といっても、スクラップ同然だった頃のパーツなんて、ネジぐらいしか残っていないだろうがな。」

「……まぁ、あれはどう見てもスクラップだなんて思えないしな。」

それを聞き、苦笑するコウレイ。

「そうだ。分かりにくいかもしれないが、大体どんな化け物なのか説明しよう。ま、まずは基本的なバイクの簡単な説明をしようか。」

そういうと、コウレイはペンと紙を取り出し、流麗な筆跡でなにやら絵を書き込んでいく。

「現在の日本では基本的に排気量で車種を分けているわけだが……。まず、原動機付自転車。排気量50cc以下。主に近所を走ってるスクーターがこれだ。」

そういいながら、紙に小さなバイクのような絵を書き込む。

「そして、50cc~125cc以下のものだ。まぁ、ここまでを簡単に言うと、小型自動二輪という。」

紙に更に、先程より少しだけ大きなバイクのような絵を先程の絵の隣に書き込み、丸で囲む。そして、小型自動二輪と書き込む。

「そして、125cc~250cc以下の物と、250cc~400cc以下の物。これらが普通自動二輪だ。これ以上なら、高速道路も走れる。」

高速道路と聞いた太助が、冷や汗をかきつつ尋ねる。

「……なぁ、コウレイ。」

「なんだ、主?」

紙に、絵と文字を書き込みつつ応える紅零。

「俺、前自転車で高速道路走ったことあるんだけど……。」

それを聞いて、凍りつくコウレイ。

「……突っ込みたい事はいくらでもあるが、三つだけ言わせてもらおう。」

頭を抱えながら、搾り出すように言うコウレイ。

「……よく生きていたな。そしてよく捕まらなかったな。……そして、二度とするな馬鹿者。」

「……俺も、二度とやりたくない。」

コウレイは大きくため息を付き、続きを書き始めた。

「まぁ、いい。で、こっからが問題の車種なのだが。」

そう言って、かなり大きなバイクらしき絵を描く。

「排気量400ccを越えるもの。これを大型自動二輪という。ちなみに、国内で生産されているものは、基本的に1000ccを超える程度だ。」

バイクらしき絵を丸で囲み、その上に大型自動二輪と書き込む。

「で、問題の私のバイクだが、確かにこの大型自動二輪に分類される。」

「とすると、1000ccぐらいなのか?」

「いや。約6000ccだ。」

「……ろ、6000ccって、どんなのだ?」

いきなり突拍子のない数字を耳にし、思わず聞き返す太助。

「そうだな……簡単に言えば、大型'自動車'クラスだな。ちなみに、メガクルザーといわれるタイプの、'超’大型自動二輪に分類される。」

「……それって、やばくないか?」

「あぁ。多分、並の自動車程度では綱引きをやると圧勝するだろうな。ちなみに、最高時速は約450kmって所だ。多分、もっと出るがな。」

怖い台詞を軽々吐くコウレイ。そして、それを聞いて、色々と怖くなってきた太助。

「……なぁ、それってまともに運転できるのか?」

「ま、普通は無理だな。」

あっさりとぶっちゃけるコウレイ。それを聞いて、肩をこかす太助。

「でも、普通ならってことは……。」

「あぁ、私なら扱える。……といっても、流石に最高速度を出したら私でも危険だ。……だが、蒼天剣を使って“足”とした場合は、問題はない。」

「……なんでだ?」

「簡単だ。虚空を走れるのだから、地面を走る必要は無い。その時点で、スリップする可能性もないし、どんなに速く走っても曲がる事も容易だ。」

虚空を走る時、簡単に言えばレールを作る訳なのだから、自在に走る事ができる。

「なんていうか……本当にコウレイが乗ることだけを考えて作ってあるんだな。」

「……あぁ。作った当人が、乗り手の事は一切考えてないってぶっちゃけていたからな。」

「どんな人なんだ、その人……?」

太助の問いももっともである。

「……しいていうのなら、マッドサイエンティスト、か?」

「凄いいやなたとえだな、それ。」

かなり危ない例えに、太助の頬が引きつる。

「というか、それ以外のたとえが見つからないんだ。」

「……どんな人だよ、その人。」

「……あってみるのが一番だと思うぞ。百聞は一見にしかず、だからな。」

「いや、遠慮しとく。なんか怖いし。」

まったくである。

「そうか。……それがいいと思うぞ。」

そして、そのまま会話が止まる。

間が持たないのか、コウレイは適当にテレビのチャンネルを切り替えていく。

一通り切り替えても、大した番組はやっていなかった。

そのまま、コウレイはテレビを消し、おもむろに立ち上がった。

「このまま部屋に引きこもっていてもなんだな。……よし主、少し待っていろ。」

「……へ? あ、あぁ。」

言い終るや否や、コウレイは自分の部屋へと戻っていった。

「……なんなんだ?」

太助は、疑問に思いつつも、とりあえずお茶をすするのだった。

 

「待たせたな、主よ。」

五分と経たず戻ってきたコウレイは、動きやすいように髪を結い、纏め上げていた。

そして、上下一体の漆黒のスーツ、俗に言うライダースーツに身を包んでいた。

身体にぴったりとフィットしたその漆黒のライダースーツには、蒼のラインがさり気無く引かれ際立っていた。

その手には流線型のフルフェイスヘルメットが。色は、どちらも漆黒で、ライダースーツと同じように蒼のラインがさり気無く引かれていた。

そのまま、太助に片方のヘルメットを放り投げる。

それを難なく受け止める太助。

「えっと、つまり……?」

「部屋に閉じこもっていてもあれだからな。軽く出かけるとしよう。それに、あの化け物についても百聞は一見にしかず、だからな。」

どこか楽しそうなコウレイの表情を見て、そして、こんな天気のいい日に閉じこもっていても。そんな思いで、太助は頷いた。

「……そうだな。わかった、付き合うよ。」

「そうこなくては。」

それを聞いたコウレイは、本当に嬉しそうに微笑んだ。

 

「うわぁあっ!?」

太助の叫び声と蒼い軌跡を残し、海よりも蒼く染め抜かれた車体が駆け抜ける。

周りの車が、まるで止まっているかの一瞬で遠ざかっていく。

「どうだ主!!」

コウレイは大声で、後ろに座っている太助に声をかけた。

「す、凄すぎだって、これは!!」

太助は、半ば悲鳴にも近い叫び声を上げた。

「この程度で驚かれても困るぞ、主!! こいつは、まだこんなもんじゃないからな!!」

そう嬉しそうに叫びながら、コウレイは更にアクセルを回した。

……最初は、適正速度で走っていた。だが、沿岸部に出て信号のない直線コースに入ったと同時に、この有様である。

当然というかなんというか、気が付けば見たこともない場所に来ていた。

太助には、今ここが何処なのかさっぱりわからなかった。

ただ、今の太助に分かるのは、一瞬で前から後ろに流れていく自動車らしき影と、とても楽しそうにはしゃぐコウレイの声だけだった。

「よし、主!! 今から“飛ぶ”ぞ!!」

「へ!?」

コウレイの言葉を理解する間も無く、コウレイはガードレールの無い崖を見つけるや否や、躊躇無くそこに飛び込んでいった。

遥か下には、見渡す限りの大海原。遮るものも、受け止めるものも何も無く、風を切り、そのまま落下していくバイク。

「いゃっほぅううっ!!」

「うわぁああああっ!?」

周りの人からは、事故のようにしか見えないだろう。

だが、ある程度自由落下を楽しんだコウレイは、思いっきりアクセルを回しこんだ。

すると、小さな衝撃と共に着水したバイクは、海の水を踏み締め、先程以上の速度で加速していった。

途中、波をジャンプ台にして、大きく跳び上がる。

「やはり、こうでなくては乗っている気がしないな!!」

「いや、それはちょっとおかしいだろぉおおおおおっ!?」

何処までも楽しそうなコウレイの歓声と、恐怖に引きつった太助の悲鳴が、誰も居ない大海原に木霊していった。

 

 

 

気が付けば日も暮れて、いつの間にか二人は、明らかに日本ではない港町にいた。

「なぁ、コウレイ。……ここ、どこだ?」

かなり不安そうに尋ねる太助。

「……うむ。多分、韓国だな。見覚えがある。」

冷静に、かつ楽しそうに答えるコウレイ。

「……どうするんだ、これから?」

「何、もう一度海を渡ればいいだけの話だ。夜に走る海も格別だぞ!」

とても楽しそうに言うコウレイに、太助は悲鳴を上げた。

「シャオォオ!! 助けてくれぇ!!」

その悲鳴が、シャオに届く事はなかったという。


あとがき……というか、補足説明?

 

今回は、番外編。

といっても、時間軸的には外伝とほぼ同じ時間軸で行われております。

今回は、前回おざなりな説明だった、コウレイのバイクの説明を兼ねた話です。

なお、劇中登場しませんでしたが、バイクの愛称は“風龍(ふぁんろん)”です。

また、最後の所で海の上を走っておりますが、コウレイは最初から蒼天剣を差しこみ、“足”としていました。

とりあえず、こんな所で締めとしておきます。

ありがとうございました。

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