「来ましたね、この日が。」
「……あぁ」
「覚悟はいいですか?」
「当たり前だ。あの子達を残して、こんな所で倒れるわけにはいかないからな。」
“まもって守護月天”外伝
新説・紅零の章 第四話~宮内出雲の決断~
唐突に来訪した五人によって、のんびりとしていた(?)七梨家は、いきなり祭りのような状態に陥った。
「……驚きだな。」
思わずコウレイが漏らした言葉は、唯一巻き込まれていないキリュウの耳にのみ届いた。
「あぁ。私も初めは驚いたのだが……今はもうなれてしまった。」
呆れたように呟くものの、どこかその声は楽しそうだった。
「……そうか。」
とかなんとか言っていると、何時ものやり取りを終えた面子の視線が、一斉にコウレイに注がれた。
「で、彼女がコウレイさん! 戦軍氷天っていう氷の精霊で、何でも止める事ができるんだぜ!」
と、まるで自分の事のように説明するたかし。
「なるほど……氷の精霊さんでいらっしゃるんですね。」
最初に話しかけてきたのは、何時ものごとく髪の毛をかき上げながら馬鹿丁寧に礼をする男だった。
「申し送れました、私は宮内出雲と申します。この町の宮内神社で神主をさせて頂いております。よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしく頼む。」
そう言って、求めてきた握手に軽く応えた。
次に来たのは、ちょっと一本髪の毛が跳ねている活動的な少女だった。
「ども。あたしは山野辺翔子。よろしくな!」
「あぁ、よろしく。」
「しっかし、七梨に何でこんなに精霊が沢山くるんだ? 普通じゃないよな……な、コウレイもそう思わないか?」
何気ない翔子の言葉に、コウレイの顔が引きつる。
「ま、まぁ、そうだな。前代未聞だしな。」
「っだよなぁ。なんか、偶然にしちゃ出来すぎだし……。」
その言葉にコウレイは、引きつらせた顔はそのままに、心の中で冷静に認識した。
(この少女、勘がいいな……。気をつけねば)
と、そこに可愛らしい少女が割り込んできた。何処か子供っぽい雰囲気を受けるが、それ以上に何か凄まじいエネルギーを感じる。
「こんにちは、愛原花織です! よろしくお願いしますねっ!」
「あ、あぁ。こちらこそよろしく……。」
何処かキラキラとした目で見てくる花織に、流石のコウレイもたじたじだった。
ちなみに、花織のキラキラした目には理由がある。
(この人を上手く味方につければ、今度こそ七梨先輩と……きゃぁ~っ!)
とかいう打算あってのもののようである。
何やら花織から立ち上るオーラに、終始押され気味のコウレイであった。
「で、今朝にあった二人、野村と遠藤が、主な面子という訳か。」
一転して喧騒に包まれたリビングの隅で、コウレイは騒いでいる者たちを遠巻きから眺めていた。
そして、烏龍茶をすすりながら、如何にか死守したお茶菓子をゆっくりと食していた。
そこに。
「やれやれ、お子さんの相手は疲れますよ。」
そういって、シャオから渡された湯飲みを持った出雲が、逃れるようにこちら側にやって来た。
「たしか……宮内といったな。」
コウレイから話しかけられるとは思っていなかったのか、少しだけ驚いた顔をした。
「えぇ、コウレイさん。なんでしょうか?」
「……いや、この家は何時もこうなのか、と。気になってな。」
それを聞いて、軽く考えるポーズを取る出雲。
「そうですね……。私の知る限り、土日など、休日は大体このようなどんちゃん騒ぎですね。」
どこか疲れたように、大きなため息を吐き出した。
「そうか。……しかし、学友であり、同年代である彼らがここに来るのは想像できるが……宮内、お前は何故ここに?」
そう尋ねられた出雲は、ふと考えこんだ。
「そうですね……。最初は、シャオさんを落とそう、という考えだったのですが……。」
「それは、災難だったな。私の知る限り、シャオ以上に鈍感で、また、主に一途な者はいないぞ。」
「まぁ、確かにそのようですが、ね。」
コウレイの言葉に、苦笑いを浮かべる出雲。だが、直ぐに真面目な顔にもどった。
「……そう、それはもう分かっているんです。ただ、それでも何故でしょう。気が向くと、ここへ来てしまうんですよ。」
その真面目な顔(あまり太助たちが見る機会がない表情だが)に、少し柔らかい表情をうかべるコウレイ。
「ふむ。それと、話を聞く所、星神とも仲がいいんだろう?」
「えぇ、離珠さんや軒轅さんは、よく家に母手製の薄皮饅頭などを食べにいらっしゃいますが……。」
軒轅、という単語に軽く耳がぴくっ、としたコウレイだったが、出雲の言葉を聞いて納得したように頷いた。
「ならば、シャオリンと、離珠や軒轅に会いに来たいから、来る。それでいいのではないか?」
「……そうですね。例え実らぬ恋であったとしても、私の想いが消えてしまう訳ではありませんし。……それに。」
ふと、顔を上げる出雲。その目線の先には、いつの間にか呼び出されたのか、離珠が何時ものようにテーブルでお絵かきをしていた。
そして、離珠が描いていたのは、薄皮饅頭を食べている自分と軒轅。そして、出雲の顔。
「……それに、離珠さん達と遊ぶのも、楽しくないといえば嘘になりますからね。」
出雲がこっちを見ているのに気が付いて、ぶんぶんと楽しそうに手を振る離珠。
それを見て、出雲も優しい顔を浮かべた。
「……ふぅ、何やら会って間もないというのに、相談に乗ってもらったような形になってしまって。ありがとうございます。」
「なに、もしも間違ってお前が来なくなったりしたら、一番悲しむのはシャオリンや離珠だろうからな。他人事ではない。まぁ、それに。」
「……それに?」
「お前が信用に足る人物かどうか、簡単に見極めさせてもらっただけだ。打算が無かったわけでもなし。」
それを聞いて、苦い嫌な顔をする出雲。
「なに、十分信用に足る人物だという結論に至ったよ。心配するな。」
「……そ、そうですか。それは、何よりです。」
その言葉に、安堵のため息を漏らす出雲。
「まぁ、そんな訳でだ。一番“頼れそうな”人間に、頼みたい事があるのだ。」
「な、なんでしょうか。」
急に、とても嫌な言葉使いをされ、顔が引きつる出雲。
「ま、ここでは話し辛い。場所を変えよう。」
そう言うと、丁度最後の一つとなったお茶菓子を口に放り込むと、数度噛んで烏龍茶で流し込んだ。
「まぁ、簡単に言っておこう。」
コウレイはそう言うと、出雲にしか聞こえないような、小さな声で呟いた。
「今のこの、日常を守る為だ。」
一階の廊下の奥、洗面所の入り口で。
コウレイは、至極真面目な口調で、説明を終えた。
「……そんな話、信じられませんね。」
話を聞き終わった出雲は、開口一番そう言い放った。
「確かに、信じられないのも無理は無いかもしれない。普通の人間ならば。」
その言葉に、今まで見てきた超常現象を思い出し、言葉が詰まる。
「シャオリンやルーアン、キリュウの力を散々見てきたのだろう。ならば、これぐらい起こっても不思議ではあるまい。」
「……まぁ、確かにその通りですね。しかし、それだったら尚更、貴女やシャオさん、キリュウさんやルーアンさんが居れば、なんとかなるのでは?」
「うむ。私も、最初はそう思っていたのだが……そう簡単には行かない様でな。どうしても、協力者が欲しくなるのだ。」
一旦言葉を切ったコウレイは、上から下まで軽く出雲を見る。
「人並み以上の体力、運動神経、知識、知恵、判断力、必要最低限の権力、財力を持ち、精霊に対して大きな理解力、また、精霊からの信用、信頼を得ている人間が。」
「それが、私だと?」
「そうだ。ここにその、好条件の全てに当てはまっている人間がいる。」
「……確かに、それだけの条件を全て持っているのは、私しかいないでしょう。それに、そこまで言われたのなら、仕方ありませんね。」
出雲は自信満々にそう言い切り、前髪をかき上げる。
(……このナルシストっぽくて、自信過剰な点は減点なんだがな)
と、心の中で呟くコウレイ。
「本当に協力が必要だからな。力を貸してくれ。」
「……わかりました。私の出切る事なら、好きなだけ力を貸しましょう。」
「交渉、成立だな。じゃ、軍資金の一部を預ける。」
「……はぁ、軍資金ですか?」
コウレイは懐から、一枚のある紙とペンを取り出し、その紙に流麗な筆跡で数字を書き込んだ。
そして、それをそのまま出雲に渡した。そして、それを見て凍りつく出雲。
「……貴女がどれだけ本気なのか、よく分かりました。これは、大切に使わせていただきます。」
「うむ、間違っても無駄遣いなどするなよ。あと、間違えても主たちに悟られるな。それのもう残りは主たちも“見ている”が、それは知らないからな。」
「……分かっていますよ。私も、約束を破るような男にはなりたくありませんのでね。」
そういって出雲は、“4が一つ、0が七つ書かれた紙”を大事に懐にしまい込んだ。
「うむ、頼りにさせてもらう。……何せ、今のままだと。」
そういって、コウレイはリビングの方を険しい目で見つめ。
「……確実に、最悪の結末になる。」
至極真面目な声で、そう呟いた。
「ところで、先程軒轅さんの名前が出たとき、少々反応なされたようですが……何故ですか?」
「……気付いていたのか。」
「えぇ、女性の挙動には細心の注意を払わせて頂いておりますので。」
「……そうか。流石と言うかなんというか、だな……。誰にもいうなよ。」
そう言い軽く顔を紅くするコウレイ。
「えぇ、神に誓って。」
「実はだな……好きなのだ。」
「……軒轅さんが、ですか?」
「あぁ!」
そう言って何故かガッツポーズを取るコウレイ。
「……何せ、あれだけ愛くるしくありながら、乗れるのだぞ、空を飛ぶのだぞ!!」
乗り物好きというのは前回述べられた通りだが、コウレイは意外と可愛いものが大好きである。
そして、その二つを完璧に備えている上、空を飛べるという実用面まで兼ね備えている軒轅。
正に、コウレイの好みを完璧に体現している存在であると言えよう。
「だから、昔から軒轅に乗るシャオリンを見るたび、羨ましく思っていたりしたのだが……。今回は同主。上手くいけば、乗れたり触れたりする機会が……。」
「それでしたら、離珠さんや軒轅さんと一緒に、我が家へ母手製のお饅頭などを食べにいらしたらどうでしょうか?」
「……おぉ、なるほど! そんな手があったか……。うむ、今度是非行かせて貰おう。」
今までの会話とは全く違う一面に、苦笑する出雲であった。
あとがき
第四話、あとがきに参りましょう!
えぇ、今回は何故か。なーぜか宮内出雲が主役っぽい回です。
正直、予想だにしていませんでした。私が(まて
ま、いいキャラですけどね。
また、この小説は『まもって守護月天!』第十一巻終了後の時間軸となっております。
なので、出雲がシャオ争奪恋愛レース(既に勝敗は太助に上がっているが、他は諦めてない)から外れた状態です。
そんなこんなで、コウレイの企み(?)に加担する事となった出雲。
そして、コウレイの目的とは一体!?
つーか、軍資金四千万って、ようするに合計一億ですか。
むしろそれぐらいになると、宝くじで一発当てたんじゃないのかと邪推してしまいますな(ぇ
などとまぁ、色々と謎(?)を残しつつ、次回へ続かせていただきます。